刑事補償法案
参議院 法務委員会
昭和25年法律第1号
審議経過
右の数字は会議の発言数衆議院法務委員会
- S24.11.10趣旨説明法務委員会 360
- S24.11.15質疑法務委員会 572
- S24.11.18質疑法務委員会 794
- S24.11.19質疑法務委員会 894
- S24.11.21質疑法務委員会 976
- S24.11.29質疑・修正案趣旨説明・討論・採決(修正)法務委員会 1464
- S24.12.1委員長報告・採決(修正)本会議 2295
- S24.12.3参議院回付案・参議院回付案同意本会議 2456
参議院法務委員会
- S24.11.11趣旨説明・逐条説明・質疑法務委員会 162
- S24.11.19質疑法務委員会 231
- S24.11.25質疑法務委員会 393
- S24.11.29質疑法務委員会 526
- S24.12.2修正案趣旨説明・質疑・討論・採決(修正)法務委員会 628
- S24.12.3委員長報告・採決(修正)本会議 25114
提案理由
殖田俊吉 法務総裁 昭和24年11月10日ただいま上程になりました刑事補償法案の提案理由を御説明いたします。
現行刑事補償法は、昭和六年法律第六十号をもつて制定せられ、昭和七年一月一日から施行されたのであります。しかして爾来今日まで寃罪者の救済に不十分ながらその役割を果して参つたのであります。
しかるに新憲法は、その第三十一條から第三十九條までの多くの規定により、刑事司法について、事前に愼重な手続をとることを要求し、過誤を未然に防止するに努めるとともに、第四十條において「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。」と規定し、もし愼重な手続にもかかわらず、刑事司法が誤りに陷つていたときは、国に対する補償請求権を認め、もつて事前、事後の両面相まつて人身の自由の保障を全からしめんとしているのであります。
しかるに、現行刑事補償法の内容とこの新憲法第四十條の規定とを対比いたしますと、その補償原因及び補償不成立條件について改正を要する点があるばかりでなく、民法の改正に伴い、補償を受けるべき者の順位及びその相互の関係について改正を要する点があり、国家賠償法の制定に伴い、同法による補償との調整をはかる必要もあり、さらにまた拘禁による補償の金額が一日五円以内という現行法の規定はいかにも現状に適しないのであります。かくして、すでに昭和二十一年秋の臨時法制調査会においても、現行刑事補償法は改正すべきものとしてその改正要綱の答申があり、政府においても、引続きその全面的改正準備を進めて参り、刑事訴訟法の改正の終るのを待つて昨年暮の第四回国会に刑事補償法を改正する法律案として提案したのであります。ところが不幸にして審議未了となりましたので、当時の国会における論議を参照しつつ、再検討を加えた結果、ここにあらためて本案を提案する運びに至つたのであります。
そこで、本案の内容の御説明に入ります前に刑事補償本質について簡單に申し述べておきたいと思います。この問題は、刑事補償が国家賠償とその本質を異にするかどうかという面から論ぜられていたのでありますが、本案においては、刑事補償はそれが損害の填補である点において国家賠償とその本質を同じくするものといたしました。従つて刑事補償が国家賠償と異るのは、国家機関の故意または過失を補償の要件としないこと及び補償の額が定型化されていることの二点にとどまるのであります。国家機関に故意または過失がある場合には、刑事補償を受け得るばかりでなく、刑事補償によつて填補せられない損害については、国家賠償を受け得ることになるのであります。
次に本案の内容について現行法と相違するおもな点を御説明いたします。
第一点は、補償原因の拡張であります。現行法においては、刑事訴訟法上の未決勾留及び刑の執行についてのみ補償すべきことを定めているのでありますが、本案では新憲法第四十條の趣旨にのつとり、刑事手続上のすべての抑留及び拘禁、刑の執行並びにこれに伴う抑留及び拘禁のすべてについて補償をすることといたしました。少年法及び経済調査庁法の規定による抑留及び拘禁もそれが後に刑事手続に移る場合がありますので、これも補償原因に加えたのであります。
第二点は、補償不成立條件の整理であります。現行法第四條においては補償不成立條件を相当広く規定しており、この規定によつて、運用の実際においても補償をはばまれる事例が少くなかつたのであります。しかるに新憲法は、無罪の裁判を受けた者には、特別の場合を除き必ず補償をすべきことを要求している趣旨と解されますので、現行法第四條に規定する補償不成立條件を整理し、單に「一、本人が、捜査又は審判を誤まらせる目的で、虚偽の自白をし、又は他の有罪の証拠を作為することにより、起訴、未決の抑留若しくは拘禁又は有罪の裁判を受けるに至つたものと認められる場合」「二、一個の裁判によつて併合罪の一部について無罪の裁判を受けても、他の部分について有罪の裁判を受けた場合」のみを補償不成立條件とし、しかもこの場合にも裁判所の健全な裁量によつて補償の一部または全部をしないことができるものとしたのであります。第四回国会提出案では、この点に関する辞句がやや不明確でありましたので、今回はこれを修正して明確を期することといたしました。
第三点は、補償請求権を相続の対象とした点であります。これは、前に申し述べましたように、刑事補償の本質を一種の国家賠償と考える以上、現行法のように補償請求権を相続の対象としないことはその理由に乏しいからであります。相続の対象とする結果、相続の順位、相続分その他相続に関する点はすべて民法の規定に従うことになるのであります。
第四点は、補償金額を引上げた点であります。現行法では、身体を拘束した場合には一日五円以内、死刑の執行による場合には裁判所の相当と認める額を補償することとしているのでありますが、今回は、身体を拘束した場合には、一日二百円以上四百円以内とし、死刑の執行による場合には五十万円以内で裁判所の相当と認める額を補償することといたしました。旧案と異なるのは、死刑の執行による補償について一万円以内とありましたのを、いかにも低きにすぎますので、五十万円以内とした点であります。
第五点は、国家賠償との調整をはかつた点であります。旧案によりますと、完全な国家賠償を受けても、刑事補償の請求があれば、なお百円以内のノミナルな補償をすることになつていたのでありますが、これも刑事補償を国家賠償の一種と考えれば、必要のないことになりますので、本案では、かような場合には、補償をしないことといたしたのであります。
第六点は、補償の決定をしたときは、申立により決定の要旨を官報のみならず新聞紙にも掲載して公示すべきものとした点であります。この点は、現行法制定当時から要望のあつた点でありますが、今回不十分ながらその一部の実現をはかることといたしました。
以上簡單ながら、刑事補償法案の内容を御説明いたしました。なお、本法による補償は新憲法施行の日以後補償原因の生じた場合にもさかのぼつて適用することとし、本法の制定が今日まで遅延いたしたため、寃罪者のこうむる損害を最小限度にとどめる措置を講ずることといたしました。
何とぞ愼重御審議の上、すみやかに御可決あらんことを希望いたします。
次は少年法の一部を改正する法律案の提案の理由を御説明申し上げます。
少年法(昭和二十三年七月十五日法律第百六十八号)は、本年一月一日施行されましたが、同法第二條は少年とは二十歳に満たない者と規定しておるのであります。旧少年法は、十八歳未満の者を少年といたしましたのに、新法はこれを引上げたのであります。この規定通り実施いたしますと、旧法時代に比し少年事件は、約二倍以上増加することが、予想されたのであります。
ところが本法施行当時における家庭裁判所、少年院、少年観護所及び同鑑別所等少年事件取扱機関の人的物的の設備の実情と、犯罪者予防更生法がその後七月に施行される予定であつたことより、この激増する少年事件に対する受入れ態勢がきわめて不十分であつたのでありました。そこで少年法第六十八條により、同法施行後一年間は、少年法は旧法同様十八歳未満の者とするということにいたし、この一年間に二十歳未満に引上げる場合の受入れ態勢の整備に努めることにいたしたのであります。ところがすでに同法施行後十箇月になりますが、この受入れ態勢の整備工作の進展が裁判所側、法務府側とも十分でなく、今日では昭和二十五年一月一日より少年の年齢を新法の常則通り二十歳未満に引上げた場合には、とうてい激増する少年事件を滯りなく処理し得ないものと思われますので、さらに一年間少年法の常則にのつとることを延期し、その受入れ態勢の整備をなし、少年事件の処理に遺憾なからんことを期したいのであります。
以上が改正の要旨であります。愼重御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願いいたします。
第6回国会衆議院法務委員会議録第3号3頁(昭和24年11月10日)〔殖田俊吉法務総裁発言・発言番号2〕 会議録 国会会議録検索システム
出典:国立国会図書館「日本法令索引」(https://hourei.ndl.go.jp/#/detail?billId=100601002)を加工して作成(加工:TaiLexi AI) 発言の出典:「国会会議録検索システム」(国立国会図書館)を加工して作成。引用部分は会議録の原文です(見出しは質問の一文、強調は一致した語)。国会答弁・附帯決議は法的拘束力を持つものではありません。