労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案
参議院 社会労働委員会
昭和30年法律第131号
審議経過
右の数字は会議の発言数提案理由
高瀬傳 政府委員(労働政務次官) 昭和30年5月31日ただいま議題となりました労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案につきまして、その提案理由を御説明申し上げます。
このたびの改正は、漁業を新たにこの保険の強制適用事業に加えること及び土木、建築等の事業にいわゆるメリット制度を適用することをその主要点といたしております。
最初に、強制適用事業の範囲を拡大し、総トン数五トン以上の漁船による水産動植物の採捕の事業を加えた点について申し述べます。御承知のように、労働者災害補償保険は、労働者の業務上の災害についての事業主の災害補償責任の裏づけとして設けられた制度でありまして、そのねらいとするところは、業務上の災害をこうむった労働者に対して、迅速かつ公正な補償を行い、あわせて労働基準法に定められた事業主の災害補償責任に基く負担を分散軽減させようとするところにあるのであります。
この目的に沿いますために、この保険制度におきましては、比較的災害が発生するおそれの多い事業を強制適用事業として保険に加入させることにより、災害の危険にさらされる労働者の保護の万全を期するとともに、他方、保険に加入している事業主からは、その事業の属する産業の災害率に応じた保険料を徴収する等の方法によって、負担の公平をはかるよう考慮されているのであります。しかしながら、従来労働基準法の適用を受けております三十トン未満の漁船による水産動植物の採捕の事業につきましては、災害発生の危険が相当に高く、また災害が発生いたしましたときは、往々にして相当大規模な災害となるのでおりますが、その事業の特殊性及びその特殊性に基く保険技術上の制約もありまして、現在まで任意適用事業として取り扱われて参ったのであります。それにもかかわらず、漁場等の関係よりこれらの小型漁船の活動範囲は著しく拡大され、これに従いまして災害発生の危険性もますます増大する傾向にありますので、政府といたしましては、かねてこの点につき何らかの措置を講ずる必要を認め、その実情の把握に努めますとともに、当保険におきましても、特に災害発生のおそれのある遠距離水面における漁掛に従事する漁船につきましては、保険に任意加入をするよう強く要望いたして参ったのであります。
たまたま昨年初頭以来北海道近海を初めとして所々に相次いで起りました台風等による大規模な災害の発生を契機といたしまして、関係者の間に漁業を強制適用事業にするようにとの強い要望が高まってきたのであります。このような事情より、このたび特に災害発生のおそれある水面において漁撈に従事する総トン数五トン以上三十トン未満の漁船による水産動植物の採捕の事業について、これを強制適用事業に加えることとし、漁業労働者の保護をはかるとともに、事業主の負担の分散軽減をはかることといたしたわけでございます。
次に、いわゆるメリット制度を、土木、建築等の事業に適用する点でございますが、過去の災害の実績に基きましてその事業についての保険料の額を増加しまたは軽減する制度でありますところのメリット制度は、適用事業の事業主の保険料負担の公平をはかる上に効果があったのみでなく、過去の災害率が保険料に反映されることに刺激され、事業主の災害防止の関心を高めさせ、この方面におきましてもきわめて大きい成果をあげて参ったのであります。しかしながら、現在行われておりますメリット制度は、過去三年ないし五年の災害の実績に基き、個々の事業の翌年度の保険料率を変更するというものでありまして、土木、建築等の事業のごとく、期間の定めのあるいわゆる有期事業につきましては、これを適用することができなかったのであります。しかるに、一昨年以来電源開発工事等の進捗に伴い、土木、建築等の事業における災害は顕著に増加いたし、昭和二十九年度におきましては、当該産業における収支の均衡は著しく破れ、本年度において大幅に保険料率を引き上げざるを得ない結果となったのであります。かかる事態に即応して、政府といたしましては、従来のメリット制度実施の成果にかんがみ、保険料負担の軽減と公平をはかり、あわせて災害防止の実をあげるため、一般の事業に適用された従来のメリット制度の方式とは異なり、土木、建築等の事業の実態に応ずるよう、保険給付の額と保険料の割合により、確定保険料の額を更正いたし、その差額を追徴または還付する方法によって、新たに土木、建築等の事業にメリット制度を実施することといたしたのであります。
以上二点のほか、保険事業の運営の合理化するために、このたびあわせて改正することといたしました点につきまして、次に簡単に御説明申し上げます。
第一に、数次の請負によって行われます事業につきましては、従来その元請負人のみをこの保険の適用事業主として参りましたが、保険料負担の資力のある下請負人がある場合には、この下請負人を事業主として取り扱う方がより合理的と認められる場合もありますので、かかる下請負人が元請負人と書面による契約で保険料を負担することを引き受けましたときには、政府の承認に基きまして、その請け負う事業について別個の保険関係を成立させるよう取り扱うことといたしたのであります。
第二に、従来強制適用事業が任意適用事業になった場合に、その保険関係を申請によりまして消滅させるのには、保険関係成立後一年を経過することを要するものと取り扱われていたのでありますが、この制度をはずすこととし、保険加入者の便宜をはかることといたしました。
第三に、漁業を強制適用にすることに関連して沈没、滅失、行方不明となった船舶、航空機に乗り組む労働者の生死が三カ月以上わからない場合等に、民法の失踪宣告を待たずに死亡の推定を行うことといたしまして、本法の遺族補償費等の規定をすみやかに適用することができるようにいたしました。
第四に、保険料の報告及び納付の手続を合理化いたしますために、その期限を調整いたしました。
第五に、追徴金及び延滞金の徴収免除に関する規定を整備するほか、その他法規定を整備いたしたのであります。
以上がこの改正案を提案いたしました理由及びその内容の概略でございます。なお、この改正案につきましては、労働者災害補償保険審議会及び社会保障制度審議会に法案要綱により諮問いたしましたところ、満場一致で異議なく賛成の答申を得ました次第でございます。
何とぞ御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。
第22回国会衆議院社会労働委員会議録第16号4頁(昭和30年5月31日)〔高瀬傳政府委員発言・発言番号5〕 会議録 国会会議録検索システム
出典:国立国会図書館「日本法令索引」(https://hourei.ndl.go.jp/#/detail?billId=102201111)を加工して作成(加工:TaiLexi AI) 発言の出典:「国会会議録検索システム」(国立国会図書館)を加工して作成。引用部分は会議録の原文です(見出しは質問の一文、強調は一致した語)。国会答弁・附帯決議は法的拘束力を持つものではありません。