古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法案
参議院 建設委員会
昭和41年法律第1号
審議経過
右の数字は会議の発言数衆議院建設委員会
- S40.12.24趣旨説明・質疑・採決建設委員会 175
- S40.12.25委員長報告・採決本会議 523
参議院建設委員会
- S40.12.28趣旨説明・質疑・採決建設委員会 2156
- S40.12.29委員長報告・採決本会議 543
提案理由
田中伊三次 議員(発議者) 昭和40年12月24日ただいま議題となりました古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法案につきまして、自由民主党、日本社会党、民主社会党を代表して、私よりその提案の理由及びその内容のあらましを御説明申し上げます。
およそ一国の文化と伝統は、その国独自の歴史的背景のもとにつちかわれた民族の源流であるとともに、国民共有の世襲的な資産であります。
肇国以来幾変遷、古い歴史と伝統を持つわが国においては、由緒ある古跡文化財等が全国に散在をしておるのでありますが、なかんずく、往時、政治文化の中心都市として、史上けんらんたる一時期を画しました京都、奈良、鎌倉などの史跡は、その明媚な風光と相まちまして、わが国固有の代表的文化を象徴するものとして、あまねく人口にのぼり、広く全国民に親しまれておりますのみならず、諸外国の人々からもまた貴重な文化観光資源として高く評価せられ、多大の興味と関心が寄せられておること御承知のとおりでございます。
このような代表的な古都の文化伝統を愛護し、これを保全し、これらを後世永劫に伝承していくことは、私たち当代国民の共通の義務であり、責任であるとさえいわねばなりません。しかもこれは、内外文化の向上発展に寄与するばかりでなく、国民の国土愛の増進、民族意識の高揚に資するゆえんでもあると思うのであります。
しかるに、近時、いわゆる宅地開発ブームの醸成に伴い、これらの古都においても、俗悪な娯楽、観光施設、工場等の、その環境におよそふさわしからざる宅地の造成、建造物の建設計画がみだりに進められ、それがために、古都のユニークな風趣景観が著しくそこなわれようとしておりますことはまことに遺憾であります。
古都の美は、自然と人工の調和にあること言うまでもありませんが、この長い歴史と伝統にはぐくまれたてんめんたるふぜいが、心なき業者の利欲によってむしばまれることはまことに忍びないところでございます。
はたせるかな、関係都市住民の間に世界的な財宝ともいうべき民族の遺産を守ろうとするほうはいたる機運がとみに高まり、それぞれ風致保存の団体を組織して熾烈な運動が展開されてまいっております。いまにしてすみやかに強力なる保全対策を講ずるにあらざれば、悔いを千載に残すこと必定であります。このことは、ひとり関係地域住民のみならず、全国民的関心事でありまして、本立法の動きがちまたに伝えらるるや、主要新聞、テレビ、ラジオはいち早くこれを取り上げ、いずれも筆をそろえて早期実現を強調する等、一般の世論はきゅう然としてこれを支持し、多大の期待と共感を博しております。
もともと、この種古跡、旧跡、文化財、風致景観の保全につきましては、現に、文化財保護法、都市計画法、自然公園法等の諸種の法律があり、また、地域的には、近畿圏整備法、また、京都、奈良両市につきましては、単独の国際文化観光都市建設法がそれぞれ規定されておるのでございますが、惜しむらくは、関係行政機関が多岐に分かれて総合的施策に乏しく、かつまた、法規自体にも不備があり、特に財源的裏づけがないために、現実の効果がこれに伴わず、いずれも古都の当面する緊急の事態を解決する究極のきめ手とはなりにくいのであります。
これがため、現行関連法規の整備調整につきましてすみやかに新たなる検討を必要とすると考えるのでありますが、竿頭さらに一歩を進めて、この際、別途に、これらの古都を対象とする単独の特別立法を行ない、国においても行財政上特段の施策を強化、確立することがきわめて喫緊の急務であると思量いたしまして、ここに関係議員の総意をもって本法案を提出せんとするものでありますが、本問題の重要性にかんがみ、本法公布施行後の実施状況を深く注視をいたしまして、さらに立法の趣旨の全きを期する気持ちでありますことをここに付言を申し上げます。
次に、この法律案の内容の概要を一口御説明申し上げます。
まず第一は、わが国往時の政治、文化の中心として歴史上重要な地位を占めております京都、奈良、鎌倉及び政令で定めるその他の市町村を「古都」と定義をいたしまして、内閣総理大臣は、その古都における歴史的風土を保存するため必要ありと認める土地の区域を「歴史的風土保存区域」として指定することができることといたしました。その指定をいたしましたときは、当該歴史的風土保存区域につきまして、行為の規制、関連施設の整備、土地の買い入れなどの事項を内容とする歴史的風土保存計画を決定しなければならないことといたしております。
また第二には、内閣総理大臣指定の歴史的風土保存区域内においては、歴史的風土保存上、当該歴史的風土保存区域の枢要な部分を構成する地域につきましては、建設大臣は、都市計画法の定める手続によりまして、都市計画の施設として、「歴史的風土特別保存地区」を指定することができるようにいたしております。
第三は、行為の規制についてでございます。
内閣総理大臣指定の歴史的風土保存区域内におきましては、建築物その他の工作物の新築、改築、増築、土地の形質の変更その他歴史的風土の保存に影響を及ぼすおそれのある一定の行為をしようとする者は、政令の定めるところにより、あらかじめ府県知事にこの旨を届け出なければならないこととし、建設大臣指定の歴史的風土特別保存地区内におきましては、同様の行為は、府県知事の許可を受けなければ、してはならないということにいたしました。府県知事は、政令で定める一定の基準に適合しない行為につきましては許可を与えてはならないことといたしました。
第四は、歴史的風土特別保存地区内における行為について許可を得ることができないために万一損失を生じた者がありました場合には、その損失の補償をいたします規定を設けましたことでございます。また、土地の買い入れをする規定を設けまして、府県は、歴史的風土特別保存地区内の土地で歴史的風土の保存上必要であると認めますものについては、当該土地の所有者から許可を得ることができないためその土地の利用に著しい支障を来たすこととなることにより当該土地を府県において買い入れてもらいたい旨の申し出があった場合においては、これを買い入れることといたしました。
第五は、国の費用の負担及び補助についてであります。
損失の補償及び土地の買い入れに要する費用につきましては、政令の定めるところにより、国が、その一部を負担することといたしましたほか、地方公共団体が歴史的風土保存計画に基づいて行なう歴史的風土の維持保存及び施設の整備に要する一切の費用につきましては、国は、政令の定めるところによって、当該地方公共団体に対し、その一部を補助することができることといたしました。
第六は、地方税に不均一な課税をいたします場合に、これに伴う措置といたしまして、古都である市町村が歴史的風土特別保存地区内における家屋または土地に対する固定資産税にかかる不均一の課税をいたしました場合における地方交付税法の規定による基準財政収入額の算定につきましては、特別の措置を講ずる規定を設けることといたしました。
最後に、歴史的風土審議会についてであります。
総理府に、歴史的風土審議会を設置することといたし、その権限、組織等に関し、所要の規定を設けております。
以上の措置に伴いまして、罰則その他所要の規定を設けることにいたしました。
これが古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法案の提案の理由及びその内容のあらましでございますが、ここに一言お願いを申し上げたいと存じます。
この法律が成立をいたしますときは、単に成立したというだけでも私たち三党全委員の案じておりますような被害の大部分は直ちに未然に防止されるとさえ思えるほどの内容を持っておるのでありますので、何とぞ一刻も早く、慎重御審議の上、すみやかに御可決をいただきますよう伏してお願いを申し上げる次第でございます。
第51回国会衆議院建設委員会議録第1号4頁(昭和40年12月24日)〔田中伊三次議員発言・発言番号5〕 会議録 国会会議録検索システム
出典:国立国会図書館「日本法令索引」(https://hourei.ndl.go.jp/#/detail?billId=105102002)を加工して作成(加工:TaiLexi AI) 発言の出典:「国会会議録検索システム」(国立国会図書館)を加工して作成。引用部分は会議録の原文です(見出しは質問の一文、強調は一致した語)。国会答弁・附帯決議は法的拘束力を持つものではありません。