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地裁判決

大阪地判 昭和54年8月31日

昭和43年(行ウ)第742号 更正処分取消等請求事件

裁判所
大阪地方裁判所
裁判年月日
昭和54年8月31日 (1979-08-31)
事件番号
昭和43年(行ウ)第742号
事件名
更正処分取消等請求事件
裁判の種類・結果
判決
判例集等
—
分野
行政

判示事項

婦人衣料小売業者の所得を推計するに当たって,これと対比すベき同業者が1名しかなく,しかも,両者の営業の差益率が同等とは認められない場合に,右同業者の差益率をある程度割り引いた率を用いてその所得を推計すベきものとした事例

○主文

一被告住吉税務署長が原告に対し昭和四一年七月一九日付でした、原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を五八万六四八〇円(被告住吉税務署長の異議決定及び被告大阪国税局長の裁決により各一部取消されたのちの金額)とする更正処分のうち、三三万七五〇〇円を超える部分を取消す。

二原告の被告大阪国税局長に対する請求及び被告国に対する請求をいずれも棄却する。

三訴訟費用中、原告と被告住吉税務署長との間に生じたものは被告住吉税務署長の負担とし、原告と被告大阪国税局長、原告と被告国との間に生じたものは原告の負担とする。

○事実

第一 当事者の求めた裁判

一請求の趣旨

1 主文第一項と同旨

2 被告大阪国税局長(以下被告局長という。)が原告に対し昭和四三年四月二七日にした、昭和四〇年分所得税の更正処分に対する審査請求についての裁決を取消す。

3 被告国は原告に対し金五万円及びこれに対する昭和四三年一〇月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は被告らの負担とする。

5 第3項につき仮執行宣言

二請求の趣旨に対する被告らの答弁

1 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 原告の被告国に対する請求につき、担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二 当事者の主張

一請求原因

1 原告は婦人衣料小売業を営むものであるが、昭和四〇年分所得税につき、昭和四一年三月一五日被告住吉税務署長(以下被告署長という。)に対し、白色申告により総所得金額を三三万七五〇〇円とする確定申告をしたところ、被告署長は同年七月一九日付で総所得金額を七九万一二八〇円とする更正処分をし、同月二〇日その旨原告に通知した。そこで、原告は同月二九日右処分につき被告署長に対し異議申立てをしたところ、被告署長は同年一〇月一九日付で右処分の一部を取消すとの決定をし、同月二〇日原告に通知したので、原告は同年一一月一六日被告局長に対し審査請求をしたが、被告局長は昭和四三年四月二七日ころ、右処分のうち総所得金額五八万六四八〇円を超える部分を取消すとの裁決をし、同日その裁決書謄本を原告に送達した。

2 被告署長のした本件更正処分には次の違法がある。

(一)本件更正処分は、原告の確定申告額を超える部分について、所得を過大に認定している。

(二)本件更正処分の通知書には理由の記載が全くない。

(三)本件更正処分は、原告の生活と営業を不当に妨害するような方法による不当な調査に基づくものであり、原告が住吉民主商工会会員である故をもつて他の納税者と差別し、かつ民主商工会の弱体化を企図してなされたものである。

3 被告国の損害賠償責任

被告局長は、原告の前記審査請求に対し速やかに裁決すべきであり、またそれができたのに、一年五か月間も放置して故意にこれを遅延せしめ、原告の簡易迅速に行政救済を受ける権利を違法に侵害した。原告はこの間被告署長から原告の電話加入権を差押えられ、長期間にわたり右財産の利用を妨害された。これらにより原告の被つた無形の損害を金銭的に評価すれば、五万円を下らない。

右損害は、被告国の公権力の行使にあたる公務員である被告局長の不当な裁決遅延に起因するものであるから、被告国は国家賠償法一条一項により、右損害を賠償すべき義務がある。

4 よつて、原告は、被告署長に対し本件更正処分のうち三三万七五〇〇円を超える部分の取消しを、被告局長に対し本件裁決の取消しを、被告国に対し損害金五万円とこれに対する不法行為の日以後である昭和四三年一〇月二五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。二請求原因に対する被告ら認否

1 請求原因1は認める。

2 同2(一)は争う。同2(二)は認める。同2(三)のうち原告が住吉民主商工会会員であることは不知、その余は争う。

3 同3は争う。

三被告署長の主張

1 推計の必要性

住吉税務署の調査担当者は、原告の昭和四〇年分所得税の調査のために、昭和四一年二月原告店舗に臨場し、所得計算に関する書類の提示を求めたが、原告は店舗内のレジペーパー及び陳列ケース上のノート二冊の提示を拒否し、更に銀行取引及び借入金はないと回答した。そのため、被告署長は、原告の所得金額を実額で把握できなかつたので、調査により判明した原告の三徳信用組合住吉支店の当座預金取引の入金状況より原告の所得金額を推計したところ、原告の申告額と異なつたので、本件更正処分をしたものである。

なお、国税通則法は、調査の時期について何ら制限規定を設けず、課税庁の合目的裁量にまかせており、確定申告期限前に行われた本件調査も違法はない。

2 原告の総所得金額

原告の昭和四〇年分総所得金額及びその内訳は、別表一A欄記載のとおりであるから、この範囲内でなされた本件更正処分(被告署長の異議決定及び被告局長の裁決により各一部取消されたのちのもの)に違法はない。

(一)収入金額四八二万三五四三円

(二)の仕入原価に原告と同種の事業を営む青色申告者訴外Aの昭和四〇年分の差益率二一・九五%を適用して算出した。

三七六万四七七六円÷(一-〇・二一九五)=四八万三五四三円

(二)仕入原価三七六万四七七六円

原告の昭和四〇年中の訴外株式会社モツク他七社からの仕入金額の合計は三七六万四七七六円であるが、原告の昭和四〇年期首の棚卸額と同年期末の棚卸額は同一と認められるから、昭和四〇年の仕入原価は右仕入金額と同一である。

(三)一般経費二三万八七六五円

(一)の収入金額に前記訴外Aの一般経費率四・九五%を適用して算出した。四八二万三五四三円×〇・〇四九五=二三万八七六五円

3 推計の合理性

(一)原告を管轄する住吉税務署(昭和四〇年当時)及び隣接の東住吉、阿倍野及び西成の各税務署管内で、原告と同種の婦人衣料小売業を営む青色申告の届出のある個人のすべてである六件を抽出し、右六件の個々の同業者について外形的規模及び営業内容を精査し、原告に比して営業規模の大きいもの及び婦人衣料以外の巾広い商品を扱うもの等原告の類似業者として扱うことが不適当な五件を除外した。(二)原告と残余の一件である訴外Aとの事業規模、内容の比較要素及び類似程度は別表二記載のとおりであつて、両者は類似性をそなえており、訴外Aの差益率及び一般経費率を原告に適用することは合理性がある。

四被告署長の主張に対する認否及び反論

1 被告署長の主張1のうち、住吉税務署の調査担当者が、昭和四一年二月、原告店舗に臨場し、所得計算に関する書類の提示を求め、銀行取引等について質問したこと、その後、原告の三徳信用組合住吉支店の口座を調査したことは認める。右調査は、何らの法的根拠のない事前調査であるから、原告はこれを拒否したものである。

なお、原告は、仕入れや売上げに関する帳簿の作成や原始書類の保存をほとんど行つていなかつた。

2 同2に対する原告の認否及び主張は別表一B欄記載のとおりである。原告店舗の昭和四〇年分の建物減価償却費は二万六〇八二円であるところ、原告は右店舗を居住用に併用していないから、右全額を必要経費に算入すべきである。

3 同3は争う。

(一)わずか一件の事例の差益率及び一般経費率によつて原告の所得を推計すること自体において、合理性に疑問がある。

(二)(1)被告主張の別表二の事実のうち、原告の取扱商品、仕入原価及び仕入先、立地条件のうち原告が加賀屋商店街、Aが粉浜商店街にそれぞれ位置していること、従業員数、店舗面積並びに原告の開業年次が昭和三九年一〇月であることは認める。

(2) 加賀屋商店街は昭和三三年ころに形成され、付近は九州からの炭鉱離職者等の労働者が中心の住宅地であり、高級品は余り売れない。

一方、粉浜商店街は五〇年以上の歴史を有し、付近に高級住宅地帝塚山を控え、比較的高級品が売れる。

(3) 訴外Aの店舗面積が原告の倍以上ということは、それだけ多数の商品を陳列して顧客をひきつけることができることを意味する。

(4) 原告の全取扱商品の七割はセーターであり、訴外Aの営業の中心はブラウスである。

(5) 原告は昭和三九年一〇月に開業しており、本件課税年度は営業開始後一年も経過しておらず、思わぬ失敗を重ね、そのために原価を割つた投売りもひんぱんに行い、生命保険も解約する状態であつた。

一方、訴外Aは、その娘が昭和三六年ころから同じ店舗で婦人衣料小売業を始めており、本件課税年度においてはすでに四年を経過していた。

第三 証拠(省略)

○理由

一請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二推計の必要性について

原告が昭和四〇年分の仕入れや売上げに関する帳簿の作成や原始書類の保存をほとんど行つていなかつたことは原告の自認するところであり、仮に、本件において、原告が税務調査に十分協力したとしても、結局は実額課税ができなかつた場合であると言わざるをえず、被告署長が推計により原告の所得を認定したことも違法とはいえない。

三推計の合理性について

1 訴外A選定の経過について

証人Bの証言(第二回)によると、同証人は昭和四五年春ころ、原告居住地を管轄する住吉税務署及び隣接の東住吉、阿倍野及び西成各税務署管轄区域内において、婦人衣料小売業を営み、昭和四〇年当時から青色申告を行つていた者のすべてである六件を抽出し、右六件の店舗を実地に踏査、観察し、かばん、袋物も販売しているもの、婦人服の仕立ても行うもの、かなり多量の雑貨類を扱つているもの、店舗の面積や外観が原告とかなり異なるもの等を除外したところ、原告の類似業者として扱うべき者として訴外Aのみが残つたことが認められる。

2 原告と訴外Aの類似性について

成立に争いのない乙第九号証の二、乙第一〇号証及び乙第一二号証、証人Cの証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一一号証、証大A、同D及び同Eの各証言並びに原告本人尋問の結果によると、

(一)業種

原告及び訴外Aは、ともに婦人衣料小売業を営んでいること(原告の営業内容については当事者間に争いがない。)

(二)取扱商品

ともにセーター、ブラウス、スカート等を扱つているが(原告の取扱商品については当事者間に争いがない。)、その比率は、原告はその七割がセーター、訴外Aはその七割がブラウスであること

(三)仕入原価

原告は三七六万四七七六円であり(以上の事実は当事者間に争いがない。)、訴外Aは四〇六万六一〇〇円であること

(四)仕入先

原告は、株式会社モツク、同シヤルマン、同レナウン、同バウ外四社であり(以上の事実は当事者間に争いがない。)、訴外Aは主として右四社であろうと(五)立地条件

原告店舗は加賀屋商店街の中心部に位置し、公設市場も比較的近いが(原告店舗が加賀屋商店街に位置することは当事者間に争いがない。)、加賀屋商店街は昭和三三年ころに形成された歴史の比較的浅い商店街であり、付近は炭鉱離職者等労働者が多いため、大衆品が中心であること

一方、訴外Aの店舗は粉浜商店街の人通りの少ない北端部に位置し(訴外Aの店舗が粉浜商店街に位置することは当事者間に争いがない。)、粉浜商店街は大正末期に形成され、比較的古い歴史を有しており、付近に帝塚山も存するが、訴外Aの取扱商品はやはり大衆品であること

(六)従業員数

原告は妻と二人で、訴外Aはその娘、従業員一名の計三人で営業しているが(以上の事実は当事者間に争いがない。)、訴外Aは留守がちであること

(七)店舗面積

原告は二坪半、訴外Aは六坪半であること(以上の事実は当事者間に争いがない。)

(八)販売方法、店頭表示価格

ともに店頭現金販売であり、

ほぼ店頭表示価格の七割が仕入金額であること

(九)値引き、特売

原告は正札又は一割引程度で全商品の五ないし六割を販売し、常に安売りのコーナーを用意し、昭和四〇年の一二月には二百連続の全商品半額セールも行つたこと一方、訴外Aは、年二回の安売り(半額になる品物もある)を行い、客との交渉で多少の値引きを行うこともあること

(10) 開業年次

原告は昭和三九年一〇月から本件店舗で婦人衣料小売業を始めたこと(このことは当事者間に争いがない。)

一方、訴外Aは、その娘が昭和三五、六年ころから同じ店舗で婦人衣料小売業を始め、訴外Aが昭和三八年ころから右営業に関与するようになつてからも、仕入れや販売は従来どおり主として同人の娘が当たつていたことが認められ、右認定に反する証人Dの証言の一部は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3 原告に適用すべき差益率について

原告とAの各営業につき前項認定の各項目殊に(七)の店舗面積、(九)の値引き、特売、(10)の開業年次(特に原告は開業後極めて日が浅かつたことに留意)を対比検討すると、両者の間に類似性を肯認しがたく、その差益率において原告の方が劣位にあるものと認められるから、Aの差益率二一・九五%(この率は前掲乙第九号証の二によつて認められる。)をそのまま採つて原告の収入金額を推計することはできない。もつとも、1項で認定したところから見て、原告居住地を管轄する住吉税務署及び隣接の東住吉、阿倍野及び西成各税務署の管轄区域内ではAの業態が原告のそれに一番近く、A以外には対比すべき業者がいないことが窺われ、したがつて原告に対しそのまま適用できる差益率を発見することができないのであるから、このような本件においては、Aより劣位にある原告に適用すべき差益率としては、Aの差益率を或程度割引いたものをもつてこれに当てるほかないものと考える。そして、このような方法もまた推計方法の一つとして許されるものと解される。

そこで、この見地に立つて前認定の各項目を対比検討するときは、原告に適用すべき差益率はAの差益率(二一・九五%)の約七割見当である一五%とするのが相当であると認められる。なお、前記乙第一二号証によると、原告が、審査請求の調査の段階で、担当協議官に対し、売買差益は二五%位と思う旨申述していることが認められるけれども、前記認定の店頭表示価格の七割が仕入金額であること(すなわち、全商品を定価で販売しても差益率は三〇%にすぎない。)、右申述中で、同時に、安売りが多かつたことを考慮されたい旨主張していることに照らすと、原告の思違いに基づく申述ではないかと思われ、にわかに採用できないというべきである。したがつて、原告に適用すべき差益率は一五%と認めるべきである。四原告の昭和四〇年分総所得金額の算定根拠

1 収入金額四四二万九一四八円

2 で認定の仕入原価に差益率一五%を適用して算出した。

三七六万四七七六円÷(一-〇・一五)=四四二万九一四八円

(一円未満切捨て)

2 仕入原価三七六万四七七六円

当事者間に争いがない。

3 一般経費一七万七一六五円

1 で認定の収入金額に原告主張の一般経費率四%(被告署長主張の四・九五%より低率)を適用して算出した。

四四二万九一四八円x〇・〇四=一七万七一六五円

(一円未満切捨て)

4 建物減価償却費二万六〇八二円

原告店舗全体の建物減価償却費が二万六〇八二円であることは被告署長において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。原告本人尋問の結果によれば、原告は本件店舗とは別の文化住宅に居住し、本件店舗を居住用に併用せず、もつぱら営業の用に供していたことが認められるから、建物減価償却費は全額の二万六〇八二円と認めるべきである。

5 支払利子一万四三〇一円

当事者間に争いがない。

6 事業専従者控除一一万二五〇〇円

当事者間に争いがない。

7 総所得金額三三万四三二四円

右の1-(2+3+4+5+6)

以上の次第で、原告にその申告にかかる総所得金額を超える所得があつたことを認めるに足りる証拠はないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本件更正処分の取消請求は理由がある。

五裁決取消し請求につて

被告局長の裁決については、裁決固有の違法事由について何ら主張がないから、裁決取消し請求は理由がない。

六国家賠償請求について

原告が昭和四一年一一月一六日に被告局長に対し審査請求をし、被告局長が昭和四三年四月二七日ころ、本件更正処分を一部取消す旨の裁決をしたことは当事者間に争いがなく、この事実によれば、審査請求から裁決までの期間は一年五か月であるが、被告局長が同種事案を大量に処理しなければならない実情にあつたこと(このことは弁論の全趣旨によつて認められる。)を考慮すると、この程度の期間を要したことから直ちに原告の簡易迅速に行政救済を受ける権利を侵害したものとは認めがたく、他に被告局長が速やかに裁決ができたのに故意にこれを遅延せしめたことを認めるに足る証拠はない。よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の国家賠償請求は理由がない。

七結論

よつて、原告の更正処分取消請求は理由があるからすべてこれを認容し、裁決取消し請求及び国家賠償請求はいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官荻田健治郎井深泰夫市川正巳)

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/17532/detail5/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。