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高裁判決原判決一部取消

大阪高判 平成18年1月20日

平成16年(行コ)第70号 高石市立東羽衣保育所廃止処分取消等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成13年(行ウ)第79号)

裁判所
大阪高等裁判所
裁判年月日
平成18年1月20日 (2006-01-20)
事件番号
平成16年(行コ)第70号
事件名
高石市立東羽衣保育所廃止処分取消等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成13年(行ウ)第79号)
裁判の種類・結果
判決 原判決一部取消
判例集等
—
分野
行政

判示事項

1高石市立保育所設置条例の一部を改正する条例(平成13年高石市条例第10号)の制定によって廃止された市立保育所に在所していた児童の保護者が,市に対して提起したその廃止の取消しを求める訴えが,同条例の制定による前記保育所の廃止は前記保護者の具体的な権利を侵害する行政処分に当たるとして,適法とされた事例 2 高石市立保育所設置条例の一部を改正する条例(平成13年高石市条例第10号)の制定によって廃止された市立保育所に在所していた児童の保護者が市に対して提起した同廃止処分の取消請求が,棄却された事例

裁判要旨

1高石市立保育所設置条例の一部を改正する条例(平成13年高石市条例第10号)の制定によって廃止された市立保育所に在所していた児童の保護者が,市に対して提起したその廃止の取消しを求める訴えにつき,地方公共団体の行う条例の制定は,通常は,一般的,抽象的な規範を定立する立法作用の性質を持つものであり,抗告訴訟の対象となる処分には当たらないが,他に行政庁の具体的処分を経ることなく,当該条例自体によって,その適用を受ける特定の個人の具体的な権利義務に直接影響を及ぼすような例外的な場合には,当該条例の制定行為自体をもって行政処分とみる余地が存するとした上,現に保育に欠ける児童が特定の保育所で保育を受けている保護者は,原則として,当該児童の就学までの期間,当該保育所において,保育を受ける権利ないし法的利益を有すると解されるから,前記条例の制定による保育所の廃止は,前記保護者の具体的な権利を侵害する行政処分に当たるとして,前記訴えを適法とした事例 2 高石市立保育所設置条例の一部を改正する条例(平成13年高石市条例第10号)の制定によって廃止された市立保育所に在所していた児童の保護者が市に対して提起した同廃止処分の取消請求につき,同処分は,財政状況が悪化している市が,財政効果の観点及び保育所民営化による待機児童の解消や延長保育の実施といった保育サービスの拡充の観点から,前記保育所を廃止,民営化することを目的として行ったものであって,その目的には合理性が認められ,これによって現に前記保育所に入所していた児童が就学時まで前記保育所において保育を受けることができなくなるなどの不利益を受けることは認められるものの,希望すれば,前記保育所と同じ場所で,同じ施設を用いて新たに設置運営される児童福祉法その他の法令等によって要求される水準を満たした保育園において,概ね,前記保育所と同水準の保育を受けることが可能であるというのであるから,これによって,特定の児童ないし保護者に著しく過重な負担を課し,保育所において保育を受けることを事実上不可能にするなどの事情は認められず,市に裁量権の逸脱ないし濫用があるということはできないとして,前記請求を棄却した事例

主文

1 原判決中,控訴人P1に関する部分を取り消す。

2 控訴人P1の主位的請求及び予備的請求に係る訴えをいずれも却下する。

3 控訴人P2の本件控訴を棄却する。

4 控訴人らの当審における追加的請求に係る訴えをいずれも却下する。

5 控訴人P1と被控訴人との間の訴訟費用は,第1・2審とも控訴人P1の負担とし,控訴人P2と被控訴人との間の当審における訴訟費用は,控訴人P2の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 主位的請求

被控訴人が高石市立保育所設置条例の一部を改正する条例平成13年高「」(石市条例第10号以下本件改正条例というの制定によってした高石。「」。),市立P3保育所以下本件保育所というの廃止処分以下本件廃止処(「」。)(「分」という)を取り消す。。

3 予備的請求

(1) 被控訴人が制定した本件改正条例が無効であることを確認する。

(2) 被控訴人は控訴人らに対し本件改正条例に基づく一切の準備行為及び,,本件保育所における保育の実施の解除処分をしてはならず,平成14年4月1日以降も控訴人らの監護する別紙目録記載の児童(以下「本件各児童」という)につき,本件保育所において保育の実施をしなければならない。。

4 当審追加的請求

被控訴人は,控訴人らに対し,各50万円及びこれに対する平成13年6月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 事案の要旨

(1) 高石市に居住し本件各児童の親権者である控訴人らはその監護する本,,件各児童を本件保育所に入所させていたところ,被控訴人は,本件改正条例により,高石市立保育所設置条例(昭和62年高石市条例第5号。以下「本件条例というの一部を改正して本件保育所を廃止しその後当該保育所」。),の運営を社会福祉法人に委託して民営化した。

本件は,本件改正条例による本件保育所の廃止は,平成9年法律第74号による改正以下平成9年改正という後の児童福祉法24条により保(「」。)障された,本件各児童を本件保育所に入所させ,本件保育所を意に反して転園させられることがないという控訴人らの権利を合理的な理由もなく侵害するものであり,また手続上も,本件保育所の廃止が児童福祉法33条の4に規定する「保育の実施の解除」に該当するのに,その手続をしていないから違法であると主張して,控訴人らが,被控訴人に対し,主位的請求として,本件改正条例の制定による本件保育所の廃止処分(本件廃止処分)の取消しを,予備的請求として,①本件改正条例の無効確認,②無名抗告訴訟としての本件改正条例に基づく準備行為及び本件保育所における保育の実施の解除の禁止(予防的不作為訴訟)と本件保育所における保育の実施(義務付け訴訟)を求めている事案である。

これに対し,被控訴人は,①平成9年改正によっても,入所児童の保護者らに意に反して転園をさせられない権利が付与されたものということはできないから,本件改正条例の制定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらず,既に本件保育所が廃止されていて事前救済の前提が存しないとして,控訴人らの主位的請求及び予備的請求に係る訴えの適法性を争うとともに,②本件改正条例の制定は,市議会に与えられた合理的な裁量に基づくものであり,また,本件のように,公立保育所から民営保育所への運営主体の変更があっても,引き続き保育を実施するという場合は,児童福祉法33条の4の「保育の実施の解除」に当たらず,本件改正条例の制定は適法であると主張して争った。

(2) 原審は①平成9年改正後の児童福祉法24条は同改正前の市町村の措,,置による保育所入所の仕組みから,市町村と保護者との間で,保護者が選択した保育所における保育を実施することを内容とする利用契約(公法上の契約)を締結する仕組みに変更したものであり,同改正の趣旨からすると,保育に欠ける児童の保護者は,上記利用契約の存続期間中,当該保育所が存続しているにもかかわらず,その意に反して他の保育所への転園を強要されることなく,当該保育所において保育を受ける権利を有するものと解するのが相当であるところ,公の施設である本件保育所を廃止するか否かは,被控訴(),人ないし被控訴人の長高石市長の広範な裁量に委ねられた事項であるが本件保育所の廃止が被控訴人の有する裁量権の逸脱ないし濫用に当たる場合には,その児童について本件保育所で保育を受ける控訴人らの権利を侵害するものとなり得るから,本件改正条例の制定は行政処分に当たり,控訴人ら,,,の主位的請求に係る訴えは適法である②しかし本件改正条例の制定には被控訴人の有する裁量権の逸脱ないし濫用は認められないから,その制定は適法である,③予備的請求に係る訴えについては,控訴人らが本件改正条例の制定を行政処分として,その取消しを求める行政訴訟を提起できる以上,いずれも不適法であるなどと判断して,控訴人らの主位的請求をいずれも棄却するとともに,予備的請求に係る訴えをいずれも却下した。

控訴人らは,原判決の取消しと自己の請求認容を求めて控訴し,当審において,違法な本件改正条例の制定により,控訴人らが精神的苦痛を被ったとして,国家賠償法1条1項に基づき,被控訴人に対し,慰謝料各50万円及びこれに対する不法行為の日(本件改正条例の公布日)である平成13年6月21日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求を追加した。

(3) 当裁判所は控訴人P1の主位的請求及び予備的請求に係る訴えはいず,,れも,当審係属中に児童のP4が就学したことから,訴えの利益を欠き,控訴人P2の主位的請求は,原判決と同様に適法ではあるが,理由がなく,予備的請求に係る訴えは不適法であり,控訴人らの当審追加的請求に係る訴えは,被控訴人の同意がないから,不適法であるとそれぞれ判断するものである。

2 前提となる事実等(証拠を付記した以外の事実は争いがない。なお,下線部分以外は,原判決の該当部分とほぼ同一である)。

(1) 児童福祉法及び本件条例の定め等

ア 児童福祉法の定め

(ア) 平成9年改正前の児童福祉法24条は,市町村は,保護者の労働又は疾病その他の政令で定める基準に従い条例で定める事由によりその,監護すべき乳児幼児又は39条2項に規定する児童の保育に欠けると,ころがある場合において保護者から申込みがあったときはそれらの,,児童を保育所に入所させて保育する措置を採らなければならない旨規定していた。

(イ) 児童福祉法は,昭和22年に制定されたものであるところ,近年の少子化の進行夫婦共働き家庭の一般化家庭や地域の子育て機能の低,,下児童虐待の増加など児童や家庭を取り巻く環境が大きく変化してい,るのに対し児童家庭福祉制度は発足以来その基本的枠組みは変わ,,,っておらず保育需要の多様化や児童をめぐる問題の複雑・多様化に,,適切に対応することが困難になっているなど制度と実態の齟齬が顕著,になっていることを踏まえ児童の福祉を増進するため子育てしやす,,い環境の整備を図るとともに次代を担う児童の健全な成長と自立を支,援するため児童家庭福祉制度を再構築するとの趣旨で平成9年改正が,。,,,行われたそしてこの改正の中で児童保育施策等の見直しとして保育所について市町村の措置による入所の仕組みを保育所に関する,,情報の提供に基づき保護者が保育所を選択する仕組みに改めることとされた(乙5の2 。)

(ウ) 平成9年改正後の児童福祉法24条1項は,市町村は,保護者の労,働又は疾病その他の政令で定める基準に従い条例で定める事由によりその監護すべき乳児幼児又は39条2項に規定する児童の保育に欠け,るところがある場合において保護者から申込みがあったときはそれ,,らの児童を保育所において保育しなければならない旨規定し同条2項,は前項に規定する児童について保育所における保育を行うこと以下,(「」。),(。保育の実施というを希望する保護者は厚生省現厚生労働省以下同じ令の定めるところにより入所を希望する保育所その他同省),令の定める事項を記載した申込書を市町村に提出しなければならない旨規定し同条3項は市町村は一の保育所について当該保育所への,,,,入所を希望する旨を記載した前項の申込書に係る児童のすべてが入所する場合には当該保育所における適切な保育の実施が困難となることその他のやむを得ない事由がある場合においては当該保育所に入所する児,童を公正な方法で選考することができる旨規定するさらに同条5項。,は市町村は同条1項に規定する児童の保護者の保育所の選択及び保,,,,育所の適正な運営の確保に資するため同省令の定めるところによりその区域内における保育所の設置者設備及び運営の状況その他の同省,令の定める事項に関し情報の提供を行わなければならない旨規定している。

(エ) また,保育の実施(平成9年改正後)を解除する場合においては,,,,市町村長はあらかじめ当該保育の実施に係る児童の保護者に対し当該保育の実施の解除の理由について説明するとともにその意見を聴,かなければならない旨規定されている平成9年改正後の児童福祉法3(3条の4なお同改正前においても措置の解除について同様の規。,,,定がされていた。。)

(オ) 児童福祉法35条3項は,市町村は,厚生省令の定めるところによりあらかじめ同省令で定める事項を都道府県知事に届け出て児童,,,福祉施設を設置することができる旨規定している。

イ 本件条例(平成6年高石市条例第7号による改正後のもの)の定め本件条例1条は,被控訴人は,児童福祉法35条3項の規定に基づき,高石市内に居住する児童を保護し,その健全な育成を図るため保育所を設置する旨規定する。

そして,本件改正条例による改正前の本件条例2条は,保育所の名称及,(「」。)び位置として以下の6か所の保育所以下市立保育所6園というを掲げていた(甲1。)

高石市立P5保育所(高石市α××××番地)

高石市立P6保育所(高石市β×××番地の4)

高石市立P7保育所(高石市γ×××番地の1)

高石市立P8保育所(高石市δ×××番地の1)

高石市立P9保育所(高石市ε×××番地の1)

高石市立P3保育所(高石市ζ××番地の3(本件保育所))

ウ 本件改正条例の定め

,,()本件改正条例は本件条例2条から高石市立P3保育所本件保育所の項を削るというものであり,その附則において,本件改正条例は平成14年4月1日から施行する旨規定されている。

エ 高石市保育実施条例(昭和62年高石市条例第4号。平成9年12月1。「」。)7日高石市条例第11号による改正後のもの以下実施条例というの定め(甲2)

実施条例は,児童福祉法24条1項の規定に基づき保育の実施に関し必要な事項を定めるものである1条実施条例2条は保育の実施基準に()。,ついて規定しており,3条は,申込手続その他保育の実施に関し必要な事項は,市長が別に定める旨規定している。

オ 高石市保育実施条例施行規則(昭和62年高石市規則第13号。平成1。「」0年3月31日高石市規則第14号による改正後のもの以下実施規則という)の定め(甲3)。

実施条例の施行について必要な事項を定めるものとして,実施規則が制定されている1条実施規則2条1項は保育所に児童の保育を委託し()。,,,ようとするときは福祉事務所長の承諾を受けなければならない旨規定しまた同条2項は,福祉事務所長は,児童が保育上又は管理上適当でないと,。,認めるときは入所の許可をしないことができる旨規定しているそして同3条1項は,入所の承諾を受けようとする者(申込者)は,保育所入所申込書を福祉事務所長に提出しなければならない旨規定し,4条は,福祉事務所長は,入所の承諾又は不承諾を決定したときは,保育所入所承諾書又は保育所入所不承諾書により申込者に通知するものとする旨規定している。

また,同6条は,児童又はその保護者が,(ア)2条の規定に該当しなくなった場合1号 (イ)保護者が福祉事務所長が行う保育上の指示に従わ(),ない場合2号 (ウ)疾病その他の事由により他の児童に悪影響を及ぼす(),恐れがある場合(3号,(エ)2条2項に該当するに至った場合(4号,))(オ)その他福祉事務所長が適当でないと認めた場合(5号)の一に該当する場合には,福祉事務所長は,一時その出席を停止し,又は退所させることができる旨規定している。そして,同7条は,福祉事務所長は,同6条の規定により児童を退所させるときは,保育実施解除通知書により保護者に通知するものとする旨規定している。

(2) 本件各児童の本件保育所への入所

ア 控訴人P1について

,,(。)控訴人P1は高石市に居住する者でありP4平成▲年▲月▲日生の親権者である。

控訴人P1は,被控訴人から委任された高石市福祉事務所長から,平成11年3月25日,P4について,実施期間を同年4月1日から平成17年3月31日までとして,本件保育所への入所承諾の決定を受け,本件保育所において,P4につき保育を受けていた。

イ 控訴人P2について

控訴人P2は,高石市に居住する者であり,P10(平成▲年▲月▲日生)及びP11(平成▲年▲月▲日生)の親権者である。。。

控訴人P2は,被控訴人から委任された高石市福祉事務所長から,P10については,平成12年3月27日,実施期間を同年4月1日から平成,,,17年3月31日までとしてP11については平成13年3月23日実施期間を同年4月1日から平成19年3月31日までとして,それぞれ本件保育所への入所承諾の決定を受け,本件保育所において,P10及びP11につき保育を受けていた。

(3) 本件保育所の廃止(民営化)に至る経緯

(),,,ア被控訴人高石市行財政改革推進本部は平成10年2月財政運営事務事業,組織体制などの行政全般にわたる見直しを行い,市民福祉の一層の向上のため,市民のニーズに柔軟に対応できる行政サービス体制の確保がより重要になっているとし,少子高齢化,国際化,高度情報化の進展など,社会経済情勢の変化と地方分権化のもと,新たな行政課題に対応するため,既存の行政を再点検し,限られた財源と人材を有効に活用し,最小の経費で最大の効果が上げられるよう,簡素で効率的な行財政運営をめざすためとして高石市行財政改革大綱以下改革大綱というを策,(「」。)定した。同大綱においては,事務事業について,民間活力の活用をあげ,多様化,高度化する市民ニーズに応えるため,民間のノウハウが十分に活かせ,効果的,効率的に市民サービスの向上が図れるものについては,既存の第3セクターの活用を図るとともに積極的に各種団体,企業など民間活力の導入を検討するとされている(乙41。)

イ 被控訴人は,地方税法改正等による大幅な税収減の影響により,被控訴人の財政状況は他市町村に比べて急激に悪化し,極めて深刻な状況に直面してきているとして,改革大綱をより実効のあるものとし,市民福祉の一層の向上を図り,市民のニーズに柔軟に対応できる行政サービス体制を確保するため,市民の目線に立って無駄を省き,行政のすべての分野において総点検や見直しを行うためとして,平成12年8月,高石市行財政改革実施計画を策定した。同実施計画は,平成12年度を初年度とする概ね5年間の計画とするとされた。そして,同実施計画中,民間活力の活用の1つとして,保育所のあり方について,育児と就労の両立支援,子育て家庭への支援など,乳幼児の健全育成をめざすため,効率的,効果的な保育所運営を図るとともに,多様化する保育需要に対応した保育施策を進めるた,「」,め民間活力の導入を図るとし平成12年度及び平成13年度を検討平成14年度を実施平成15年度及び平成16年度を継続とする「」,「」計画を策定している(乙14。)

ウ 被控訴人(高石市福祉事務所長)は,平成12年9月3日,高石市市民会館において,保育所に児童を入所させている保護者を対象とする説明会を開催し,同説明会において,被控訴人の公立保育所を民営化するとの発表をした(甲9。)

エ 被控訴人(保険福祉部児童福祉課)は,平成12年10月11日,平成13年5月8日及び同年6月4日に,それぞれ市立保育所6園の各父母の会の役員との間で,話合いを行った。また,平成12年11月11日に,高石市長と父母の会の役員との懇談会が行われた(甲97,103,乙43。)

オ 市立保育所6園の父母の会は,高石市立保育所の民営化に反対する請願書の署名を集め,平成12年12月7日,高石市議会に請願書を提出したが,高石市議会は,同月18日,上記請願を不採択とした(甲10。)

カ 被控訴人は,大阪市立大学助教授のP12(以下「P12委員長」というを委員長としP12委員長を含めて6名の委員からなる高石市立保。),育所移管に係る選考委員会以下本件選考委員会というを設け本(「」。),件選考委員会において,市立保育所6園のうち民営化の対象保育所の選定や,民営化後の保育所の運営主体の選定等の検討を行うこととされ,同委員会は,平成13年2月6日,同年4月13日,同年6月28日,同年9月10日及び同月15日の5回開催された(乙23の3ないし7,43。),,,キP13P14及びP15を請求代表者として平成13年5月13日高石市長に対し,高石市立保育所の民営化の是非を問う住民投票条例の制定請求がされた。高石市長はこれを高石市議会に付し,高石市議会は,同月23日,同条例制定の議案を否決した(甲11。)

ク 本件選考委員会は,平成13年5月25日,民営化する保育所の選定基準として,①多様化する保育ニーズに応えるために必要な事業を踏まえる,,,こと②待機児童解消のため受け入れ可能な一定規模の施設とすること③一定の時期利用可能な耐用年数の施設であること,④既存の民間保育所との立地関係(バランス)に配慮すること,⑤現状の保育所の入所状況を。,勘案することとの5点を付した意見書を高石市長に提出した被控訴人は本件選考委員会の上記選定基準を踏まえた上で,市立保育所6園のうち民営化する保育所として,本件保育所を選定した(甲67の2,乙43。)

ケ 平成13年6月7日の新聞朝刊各紙において,被控訴人は,平成14年度から本件保育所を民営化する方針であり,同月12日に開催される高石市議会に本件条例の改正案を提案すると発表した旨の報道がされた(甲12。)

コ 高石市長は,平成13年6月12日,高石市議会に対し,本件改正条例制定の議案(以下「本件議案」という)を提出した(甲5。。)高石市議会は,本件議案を建設厚生委員会に付託し,同月13日行われた同委員会において,本件議案の審議を行い,本件改正条例の制定を可決した乙42そして同月15日行われた高石市議会本会議6月定例()。,(会〈第2回)において,本件議案が審議され,可決された(乙44。〉)高石市長は,同月21日,本件改正条例を公布した(甲6。)

サ 被控訴人(保険福祉部児童福祉課)は,本件保育所の保護者会役員への説明会を,平成13年6月20日,同年7月4日,同月17日,同月23日及び同月30日にそれぞれ実施した。また,被控訴人は,本件保育所で児童の保育を受けている保護者以下本件保育所保護者というに対(「」。)する説明会を,平成13年6月23日,同月30日,同年10月12日,同年11月28日及び平成14年1月23日にそれぞれ実施した(甲102,104,乙2ないし4,43。)

シ 被控訴人は,平成13年8月15日から同月27日まで,本件保育所を民営化した後の事業者の募集を行い,7法人がこれに応募した(乙23の1・6・7,43。)

,,ス本件選考委員会のP12委員長と本件保育所の保護者会役員との間で平成13年8月18日及び同年9月20日の2回にわたって,懇談会が開催された(乙22の1・2,43。)

セ 本件選考委員会は本件保育所の民営化後の事業者の選定について法,,「人選考の目安」を作成し,同目安に沿って応募のあった7法人の検討を行った。その上で,本件選考委員会は,平成13年9月25日,高石市長に対し社会福祉法人P16以下P16というが本件保育所を移管,(「」。)する社会福祉法人として総合的に最も適切であるとの意見を報告した(甲68,乙23の1・3・6・7,43。)

ソ 被控訴人(高石市長)は,平成13年9月25日,本件保育所の民営化後の事業者として,P16とすることに決定した。そして,同月26日,高石市長の本件保育所保護者宛書面により,本件保育所の民営化後の事業(,,)。者としてP16と決定した旨の通知がされた甲15乙23の2 43

タ P16は,本件保育所保護者に対する説明会を,平成13年10月25日,同年11月6日,同月21日,同年12月11日及び平成14年1月18日の合計5回開催した(甲51,98,99,104,乙43。)

チ 被控訴人(高石市福祉事務所長,高石市児童福祉課長)は,本件保育所保護者に対し平成13年12月保育所入所変更申込書の提出について,,「()」(「」。)。お願いと題する書面以下本件提出依頼書というを配布した本件提出依頼書には,本件保育所が平成14年4月1日付けで廃止され,同日付けでP16に経営主体を移して,新たにP17保育園として開設されることになること,そのため,本件保育所における保育の実施期間は,平成14年3月31日で終了することになること,そこで,本件保育所に入所している0歳児から4歳児の保護者においては,同年4月1日以降,P17保育園への入所を希望するか,他の保育所への転園を希望するかのいずれかを選択する必要があり,同年1月25日までに,保育所変更申込書を提出してほしいこと,同日までに変更申込書の提出がない場合には,同年4月1日以降は待機となることが記載されていた(甲19。)

ツ 高石市長は,平成14年2月26日,大阪府知事に対し,廃止予定日を同年3月31日として,本件保育所を廃止したいので届け出る旨の保育所廃止届出書を提出した。同届出書には,現在入所している児童の廃止後の受入計画について,同年4月1日より定員を120名から140名に拡充し,P16の運営による保育所において受入れを行う,転園希望については,高石市内の他の保育所で保育を継続して受入れを行う旨記載されており,また,廃止をする具体的理由として,本件改正条例によると記載されている(乙28。)

テ 本件保育所は,平成14年4月1日廃止され,同日,P16を経営主体とするP17保育園が開設された。

本件保育所で保育を受けていた平成13年度の0歳児から4歳児まで合計85名については,49名がP17保育園に,35名が他の公立保育所に,1名が他の民間保育園に,それぞれ転園した(乙43。)

(4) 本件各児童の転園

ア 控訴人P1について

控訴人P1は,本件提出依頼書に対し,平成14年1月25日,P4について,本件保育所での就学までの保育を承諾されて入所しているので,本件保育所での保育を希望する,ただし,平成14年度に本件保育所が廃止された場合には,保育を必要とするので,公立のP6保育所での保育を希望するとの保育所変更申込書を提出した(乙25の3 。)

P4は,平成14年4月1日以降,P6保育所に入所し,同保育所において保育を受けていたが,当審係属中の平成17年3月31日に本件保育,(,)。所における保育の実施期間が経過し就学した甲63弁論の全趣旨

イ 控訴人P2について

控訴人P2は,本件提出依頼書に対し,平成14年1月24日,P10及びP11について,平成14年度以降も本件保育所が存続する場合は,本件保育所での保育を第1希望とする,ただし,平成14年度に本件保育所が廃止・民営化された場合には,やむを得ず,公立のP6保育所(希望順位1)ないしP9保育所(希望順位2)での保育を希望するとの保育所変更申込書を提出した(乙25の1・2 。)

P10及びP11は,平成14年4月1日以降,P6保育所に入所し,同保育所において保育を受けていたが,P10については,当審係属中の平成17年3月31日に本件保育所における保育の実施期間が経過し,就学した(甲62,弁論の全趣旨。)

3 争点及び争点についての当事者の主張は,後記のとおり,当審における当事者の補充主張及び当審追加的請求に関する当事者の主張を付加するほかは,原判決の各該当箇所(原判決13頁22行目から42頁13行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決15頁4行目の「保障するいうを保障するという36頁25行目の保育所を保育士と改」「」,「」「」める。なお,略称は,原判決の例による。。)

4 当審における当事者の補充主張

(1) 控訴人らの補充主張

ア 本件保育所廃止についての被控訴人の裁量権について

以下に述べるとおり,本件保育所の廃止は,被控訴人の広範な裁量権に委ねられているものではなく,違法である。

(ア) 市町村は児童福祉法24条により保育に欠ける児童を保育所,,「」で保育しなければならない義務を負っており,その義務に基づいて設置されているのが,地方自治法上の「公の施設」たる公立保育所である。したがって,これを広範な裁量により廃止できるとすることは,児童福祉法により市町村に義務づけられた保育の実施義務に反する。

(イ) 公の施設を設置するかどうかについては,地方公共団体ないしその長の広範な裁量に委ねられているとしても,一旦設置されると,様々な利用関係が生じ,これを廃止すると,それまで利用してきた住民に不利益が生じるのであるから,廃止には,自ずから内在的な限界があり,広範な裁量に委ねられているとはいえない。

(ウ) 公物法の一般理論において,公物の利用が一般使用であっても,管理者である市町村は,それを公の目的に適するように維持保存すべき義務があるものであるから,自由に公用を廃止し得うべきものではなく,公の目的に使用すべき必要の失われた場合にのみこれができるのであるが,本件の場合は,現に本件保育所に入所して,これを利用している控,。訴人らが存在するのであるからこれを自由に廃止することはできない

(エ) 本件保育所の利用関係は,控訴人らと被控訴人との間の一種の行政契約であるが,行政契約においても,当事者双方はその契約に拘束されるのが一般原則であり,その契約を当事者の一方である被控訴人において,その有する広範な裁量により自由に破棄することはできない。

(オ) 本件各児童が就学前までの期間中,本件保育所で保育を受ける権利は,平成9年改正後の児童福祉法24条に根拠を持つ具体的権利として存在しているものであり,仮にそうでなくても,控訴人らは,本件保育所で保育の実施を受けており,保育の安定性や継続性からして,その利益は法的保護に値するものであるから,条例とはいえ,これを制限するのは違法である。

(カ) 地方自治法上の「公の施設」に関する規定は,児童福祉法との関係では一般法に当たり,控訴人らが児童福祉法上どのような権利を有する,「」,かどうかは地方自治法の公の施設に関する規定を適用する以前にまず児童福祉法自体の解釈として判断されなければならず,児童福祉法上認められた控訴人らの権利が地方自治法の規定を根拠に制限されるいわれはない。

(キ) 児童福祉法上,入所者がいる場合でも保育所が廃止される場合があることが予定されている(同法施行規則38条1項2号)としても,それは保育所選択権を侵害せず,入所者の福祉が害されない場合の廃止があり得ることを認めたにすぎず,市町村の広範な裁量によって自由に廃止できることを定めたものではあり得ない。

(ク) 本件保育所の廃止について,被控訴人に一定の裁量権を認めるとしても,差し迫った必要性もないのに,現に入所している児童にまで転園を強いる本件条例の制定は,必要性・合理性を欠き,裁量権を逸脱している。

イ 手続上の違法について

本件改正条例の制定は,次のとおり,手続上からも違法である。

(ア) 平成9年改正後の児童福祉法の趣旨によれば,本件保育所が廃止された場合,控訴人ら保護者の希望がない限りは,市町村の一方的な判断で,他の保育所に転園させることはできず,待機児童として取り扱わざるを得ないのであるから,本件保育所を廃止することが児童福祉法33条の4の「保育の実施の解除」に当たることは明らかであるところ,本件においては,その場合に執られるべき手続が全く執られていない。

(イ) 仮に,本件保育所の廃止が「保育の実施の解除」に当たらないとしても,控訴人らに対する不利益処分に当たるから,行政手続法第3章の適用,児童福祉法33条の4の類推適用若しくは憲法31条の適正手続保障の観点から,控訴人らに対し,保育の実施の解除に準じた手続保障,,。が図られるべきであるが本件においてはその手続が執られていない

(2) 被控訴人の補充主張(本件訴えの適法性について)

以下に述べるとおり,本件改正条例の制定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないから,本件訴えは不適法である。

ア 児童福祉法上の「保育所選択権」は,市町村が保育所を設置しているという前提において,特定の保育所に児童を入所させるに当たって行使することができるものにすぎないと解するべきであるから,特定の保育所において同一の保育環境の下で継続して保育を受けるというような保育環境上の利益は,当該保育所が同一の環境で設置されていることに伴って生じる事実上の利益にすぎず,これをもって法律上保護されるべき利益に当たるということはできない。

イ 本件においては,単に保育所を廃止するものではなく,当該施設を民間に貸与し,同所において引き続き保育を行うことを前提としているから,引き続き保育の実施を受けることができ,保護者に法律上の不利益を与えるものではない。

ウ 保育所選択権の内容について,利用契約の存続期間中,当該保育所が存続しているにもかかわらず,その意に反して他の保育所への転園を強要されることなく,当該保育所において保育を受ける権利であると理解したとしても,本件保育所を廃止することは,当該保育所が存続することを前提に認められる保育所選択権を何ら制約するものではないから,保護者に対し,法律上の不利益を与えるものではない。

5 当審追加的請求に関する当事者の主張

(1) 控訴人らの主張

ア 本件廃止処分は,従前の行政訴訟における控訴人らの主張のとおり,児童福祉法に定める保育所選択権の侵害,同法上の説明義務違反,控訴人らとの合意違反等の違法な処分であり,これは被控訴人の故意又は過失による違法な公権力の行使に当たる。

よって,被控訴人は,国家賠償法1条1項に基づき,本件廃止処分により控訴人らが被った損害を賠償する責任がある。

イ 控訴人らは,本件廃止処分により,転園を余儀なくされ,多大の精神的苦痛を被ったが,これを慰謝するに足りる慰謝料額は少なくとも各50万円を下らない。

ウ 控訴人らは,行政事件訴訟法19条に基づき,上記訴えを追加的に請求する。

(2) 被控訴人の主張

,,ア本件廃止処分が違法な処分であること違法な公権力の行使があること被控訴人に故意又は過失があることはいずれも争い,控訴人らが本件廃止処分によって精神的苦痛を受けたことは否認する。

イ 本件においては,取消訴訟が既に高等裁判所に係属しているのであるから,訴えの追加的変更の要件としては,行政事件訴訟法19条1項,16条2項により,被控訴人の同意が必要であるところ,被控訴人は,上記追加的変更に同意しないから,上記追加的請求に係る訴えは不適法である。

第3 当裁判所の判断

1 控訴人P1の本件各訴えについて

前提となる事実等(4)に記載したとおり控訴人P1の児童P4は既に本件,,保育所における保育の実施期間が経過し,就学しているというのであるから,本件廃止処分が取り消されたとしても,もはや本件保育所において保育を受ける余地はなく,控訴人P1には,主位的請求である本件廃止処分の取消訴訟につき訴えの利益がないことは明らかである。そして,予備的請求についても,同様の理由により,訴えの利益を欠くものである。

したがって,控訴人P1の主位的請求及び予備的請求に係る訴えは,その余の点について判断するまでもなく,いずれも不適法である。なお,この点は職権調査事項であるから,民訴法304条の制約を受けない。

2 控訴人P2の本件各訴えの適法性(本案前の争点(争点(1))について)

(1) 本件廃止処分の取消請求(主位的請求)について

ア 控訴人P2は,本件改正条例の制定をもって,控訴人P2の権利を侵害(),。する行政処分本件廃止処分に当たるとしてその取消しを求めている条例の制定は,通常は,一般的,抽象的な規範を定立する立法作用の性質を有するものであり,原則として,個人の具体的権利義務に直接の効果を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる処分には当たらないものと解される。しかしながら,他に行政庁の具体的処分を経ることなく,当該条例自体によって,その適用を受ける特定の個人の具体的な権利義務に直接影響を及ぼすような例外的な場合には,当該条例の制定行為自体をもって処分とみる余地が存するものと解するのが相当である。

したがって,まず,本件改正条例の制定が上記例外的な場合に当たるか否か,以下検討する。

イ(ア) 本件に関する児童福祉法の規定内容は前提となる事実等(1)ア記載,のとおりである。

(イ) 控訴人P2は,保育に欠ける児童に対する保育について規定する児童福祉法24条は,平成9年改正前の市町村の措置による入所の仕組みから,同改正により,保育所に関する情報の提供に基づき保護者が保育所を選択し,市町村と保護者との間で,保護者が選択した保育所における保育を実施することを内容とする利用契約(公法上の契約)を締結する仕組みに変更された旨主張している。

なるほど,以下のような平成9年改正に関する厚生省の担当者の発言内容や資料等からすれば,そのように解釈する余地も全くないわけではない。

a 平成9年3月17日の全国児童福祉主管課長会議(以下「主管課長会議というにおいて厚生省のP18保育課長は平成9年改正」。),,により,保護者と市町村の関係は,児童福祉法に基づく,公法上の契約になるのではないかと考えている,保護者が希望する保育所での保育を市町村に申し込んだ場合,市町村の側では,保育に欠けているか否かの事実確認をした上で,保育サービスを保育所において提供することを法律上,原則として,応諾する義務が課されている旨の発言をしている(甲56。)

b 平成9年6月23日の主管課長会議において,上記課長は,保護者と市町村との関係は,行政処分の関係から,公法上の利用契約へと変わる,保護者の申請ということが法律上明記されたことから,むしろ利用者の立場が強まったと考えられるが,満員になった場合の選考を含め,これは行政処分ではない旨の発言をしている(甲55。)

c 平成9年9月19日の主管課長会議において,厚生省のP19保育課長補佐は,平成9年改正で市町村と保護者の関係が公法上の契約という形になったが,入所手続上においては,保護者からの申込みに対して,市町村が承諾書を交付するということで,基本的に公法上の契()。約というものが成立すると考えている旨の発言をしている甲57

d 厚生省児童家庭局が監修し,平成9年9月に作成されたパンフレッ(),,ト児童福祉法改正のポイントにおいて保育施策の見直しとしてこれまでの行政処分による入所の仕組みから利用者の申込みによる市町村と保護者との利用契約を締結する仕組みに改められることになった旨の記載がされている(乙5の4 。)

e 児童福祉法規研究会編による「最新児童福祉法・母子及び寡婦福祉法・母子保健法の解説」において,平成9年改正について,利用者の立場に立った良質かつ多様な保育サービスが弾力的に提供される制度的な枠組みを整備するため,措置(行政処分)による入所方式から,保護者が各保育所に関する十分な情報を得た上で,入所を希望する保育所を選択して,申込みに基づき市町村と保護者が利用契約を締結する仕組みに見直したものである旨の記載がされている(甲7。)

(ウ) しかしながら,児童福祉法24条の平成9年改正内容は,上記のとおり,①保護者からの「申込み」を入所の要件とし,②「保育する措置を採らなければならない」という文言を「保育しなければならない」。。に変更しただけにすぎず,①については,行政処分の前提として申請を要件としているものはほかにも多数存在するし②については単に措,,「置」という文言を削除しただけであり,実質的には何の変更もされていない(したがって,平成9年改正後も,市町村長は,申込みがされた児童について,保育所入所要件該当性の判断・審査と児童福祉法24条3項の選考をその権限と責任において行わなければならないのであるから,このような入所決定を当事者の自由意思に基づく合意と見ることは困難である。また,厚生省は,保育所入所不承諾決定及び保育の実施。)の解除決定は,行政不服申立ての対象となる「行政庁の処分」であると()。,の見解を示している平成9年9月25日児童家庭局長通知さらに契約であれば,保育料は契約の対価であるはずであるが,改正後も児童福祉法56条3項は「徴収する」という行政処分的な用語を用いているし,厚生省が平成9年改正の国会審議のために作成した資料や答弁(乙5の2・3)においては「保護者が希望する保育所を選択できる仕組みに,改める旨記載されているだけで市町村と保護者が保育所利用に関す。」,る公法上の契約を締結するとは明記されていない。

以上からすれば,上記の主管課長会議における厚生省担当官の発言や「」,最新児童福祉法・母子及び寡婦福祉法・母子保健法の解説の記載は一種の比喩的表現であるというべきであり,これらのみから,平成9年改正により,保育所の入所方式が行政処分から公法上の契約締結へという重大な変更がされたとまで認めることは困難であって,平成9年改正,,,後の児童福祉法の下においても依然として保護者の申込みを前提に市町村長が行政処分により入所を認める制度であると解さざるを得ないというべきである(ちなみに,控訴人らが書証として提出している意見書の作成者であるP20P21大学教授やP22北海道大学教授も上記と同旨の意見を表明している〈甲20,127。〉。)

(エ) もっとも,保育所への入所方式が行政処分であるからといって,本件改正条例の制定により,保育所入所児童の保護者の権利ないし法的利益が全く侵害されないと即断できないのはいうまでもない。

そして,児童の福祉を増進するため,子育てしやすい環境の整備を図るとともに,次代を担う児童の健全な成長と自立を支援するため,児童,,家庭福祉制度を再構築するという平成9年改正の趣旨保育所について市町村の措置による入所の仕組みを,保育所に関する情報の提供に基づき保護者が保育所を選択する仕組みに改めるという同改正の内容からすれば,これにより,保護者に保育所の選択権が認められたとまではいえないにしても,平成9年改正後の児童福祉法は,保護者が自ら選択した特定の保育所において保育を受ける立場を市町村も極力尊重すべきものとしていることは明らかである上,特定の保育所において現に保育中であり,当該保育所と具体的利用関係が生じている保護者の場合は,それ自体,当該保育所に強い利害関係を有しているのであるから,なおさらその地位が尊重されなければならないのは当然である。

そうすると,現に保育に欠ける児童が特定の保育所で保育を受けている保護者は原則として当該児童の就学までの期間この点証拠甲,,(,〈57〉によれば,平成9年9月19日の主管課長会議における質疑応答の際,厚生省の担当者において,入所期間については,応募者の希望に沿った形で設定する必要があり,市町村の方で一方的に相手の意向を無視して1年なりの入所期間を独断で決めることは,平成9年改正の趣旨からいっても許されないと考えている旨の回答がされている,当該保。)育所において,保育を受ける権利ないし法的利益を有すると解される。

(オ) 被控訴人から委任された高石市福祉事務所長の控訴人P2に対する,P10及びP11の本件保育所への入所承諾の内容は,前提となる事実等(2)記載のとおりであるこれによれば控訴人P2は被控訴人。,,との間で,P11について,平成13年4月1日から平成19年3月31日までの間,本件保育所において保育を受ける権利ないし法的利益を有するものと解するのが相当である(実施条例2条に規定する保育の実施基準を満たさなくなった場合等,実施規則6条の規定に該当するに至った場合はもとより別論である。なお,控訴人P2の児童のうち,P。)10については,平成12年4月1日から平成17年3月31日までの間,本件保育所への入所承諾を受けているが,既に同期間が経過し,就学しているから,P10については,控訴人P2は,上記の権利ないし法的利益を有しない。

ウ 以上からすると,控訴人P2は,P11については,本件改正条例の制定による本件保育所の廃止により,直接,上記の権利ないし法的利益を侵害されることになるから,本件改正条例の制定は控訴人P2との関係では抗告訴訟の対象である処分と解するのが相当である。

エ(ア) この点,被控訴人は,控訴人ら保護者の権利義務ないし法的地位に直接具体的な影響を及ぼす行為は,本件改正条例制定後における大阪府知事への届出(児童福祉法35条6項)及び入所者(保護者)への廃止通知(甲19)というべきであって,本件改正条例そのものの効力を抗告訴訟によって争うことはできない旨主張する。

(イ) まず,大阪府知事への届出について検討するに,児童福祉法35条6項は,市町村は,児童福祉施設を廃止し,又は休止しようとするときは,その廃止又は休止の日の1か月前までに,厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならない旨規定している。

しかしながらこの市町村から都道府県知事に対する児童福祉施設保,(育所も含まれるの廃止の届出は市町村において既に決定した児童福。),祉施設の廃止について,①廃止の理由,②入所させている者の処置,③廃止の期日及び財産の処分について届出を行い,この届出を受けた都道府県知事において,市町村に対して必要な指導を行う趣旨によるものと解される児童福祉法施行規則38条したがってこの廃止の届出を()。,もって,当該児童福祉施設の利用者の権利義務ないし法的地位に直接具体的な影響を及ぼすものと解することはできない。

本件においても前提となる事実等(3)ツ記載の大阪府知事に対する,,本件保育所の廃止の届出をもって,控訴人らが被控訴人との間で締結した利用契約に基づいて有する,本件各児童について本件保育所で保育を受ける権利に具体的な変動を及ぼす行政処分に当たるものと解することはできない。

(ウ) 次に,被控訴人は,入所者(保護者)への廃止通知(甲19)をもって,控訴人ら保護者の権利義務ないし法的地位に直接具体的な影響を及ぼす行為に当たる旨主張する。

しかしながら,被控訴人がいう上記入所者(保護者)への廃止通知の内容は前提となる事実等(3)チ記載のとおりであるところこれは同,,,記載のとおり,被控訴人(高石市福祉事務所長,高石市児童福祉課長)において本件保育所保護者に対し平成13年12月保育所入所変,,,「更申込書の提出についてお願いと題する書面本件提出依頼書を()」()配布したものであり,本件提出依頼書には,本件保育所が平成14年4月1日付けで廃止され,同日付けでP16に経営主体を移して,新たにP17保育園として開設されることになること,そのため,本件保育所における保育の実施期間は,平成14年3月31日で終了することになること,そこで,本件保育所に入所している0歳児から4歳児の保護者においては,同年4月1日以降,P17保育園への入所を希望するか,他の保育所への転園を希望するかのいずれかを選択する必要があり,同年1月25日までに,保育所変更申込書を提出してほしいこと,同日までに変更申込書の提出がない場合には,同年4月1日以降は待機となることが記載されていたものである。

上記のような本件提出依頼書の記載内容にかんがみれば,本件提出依頼書の配布をもって,控訴人ら本件保育所保護者の権利義務ないし法的地位に直接具体的な影響を及ぼす行政処分に当たるものと解することはできないものといわざるを得ない。

(エ) 以上から,被控訴人がいうところの,大阪府知事への届出(児童福祉法35条6項)ないし入所者(保護者)への廃止通知(甲19)をもって,控訴人らの権利義務ないし法的地位に直接具体的な影響を及ぼす行政処分に当たるものと解することはできない。

オ また,被控訴人は,特定の保育所において同一の保育環境の下で継続して保育を受けるというような保育環境上の利益は,当該保育所が同一の環境で設置されていることに伴って生じる事実上の利益にすぎず,これをもって法律上保護されるべき利益に当たるということはできないなどと主張している。

しかしながら,前記で判示したとおり,少なくとも平成9年改正後の児童福祉法は,保護者が自ら選択した特定の保育所において保育を受ける立場を市町村も極力尊重すべきものとしていること,特定の保育所において現に保育中であり,当該保育所と具体的利用関係が生じている保護者の場,,,合はそれ自体当該保育所に強い利害関係を有していることからすればこのような保護者の利益を単に事実上の利益と考えるのは相当ではないものというべきであり,被控訴人の上記主張も採用できない。

(2) 本件改正条例の無効確認請求(予備的請求(1))及び予防的不作為訴訟等(予備的請求(2))について

控訴人P2は,本件改正条例の施行前に本件訴訟を提起し,本件改正条例の施行日前に取消訴訟を提起して本件改正条例の効力を争うことができない場合を念頭において,予備的請求として,本件改正条例の無効確認請求(予)()。備的請求(1) 及び予防的不作為訴訟等予備的請求(2) をも提起しているしかしながら,本件改正条例の制定を行政処分(本件廃止処分)として,その取消しを求める取消訴訟を提起することができるものと解すべきことは(1)記載のとおりであるから控訴人P2においてこれとは別に本件改正,,,条例の無効確認を求める訴えの利益は存しないものといわなければならない。また,同様に,上記取消訴訟を提起できるものと解する以上,これとは別に無名抗告訴訟として控訴人P2の予備的請求(2)に係る予防的不作為,,訴訟等を提起することも許されないものと解するのが相当である(義務付け訴訟については,平成16年法律第84号による改正後の行政事件訴訟法37条の2第1項の要件を欠く。。)

したがって,控訴人P2の予備的請求に係る訴えは,いずれも不適法なものとして,却下を免れない。

3 本件改正条例の制定の適法性(争点(2))について

(1) 本件改正条例の裁量性

ア 本件保育所は,本件条例に基づき,高石市内に居住する児童を保護し,その健全な育成を図るために地方公共団体たる被控訴人が設置するものであり(前提となる事実等(1)イ,地方自治法244条1項にいう,住民の)福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設(公の施設)に当たるものと解される。

この点,地方自治法244条の2第1項は,地方公共団体は,法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか,公の施設の設置及,,びその管理に関する事項は条例でこれを定めなければならない旨規定しまた,第2項は,地方公共団体は,条例で定める重要な公の施設のうち条例で定める特に重要なものについて,これを廃止する場合には,議会において出席議員の3分の2以上の者の同意を得なければならない旨規定している。さらに,同法149条7号は,公の施設を設置し,管理し,及び廃止することを,地方公共団体の長の担任事務の1つとしている。そうすると,地方公共団体ないしその長は,当該地方公共団体が現に行い,あるいはこれから行おうとする様々な施策の内容や,当該地方公共団体の置かれた財政状況,その他当該地方公共団体を取り巻く様々な要因を総合的に勘案し,公の施設を設置し,管理し,あるいは廃止することがで,,,きるものと解すべきであって公の施設の設置管理及び廃止については地方公共団体ないしその長の相当広範な裁量に委ねられていると解するのが相当である。

イ しかしながら,他方,ひとくちに公の施設と言っても,その種類や設置目的は多様であり,すべての公の施設の設置・管理・廃止について一律に裁量権の範囲が決まっているものではなく,本件保育所のような施設の場合は,児童福祉法の規定やその趣旨から地方公共団体ないしその長の裁量権にも一定の制約があることは否定できない。

そして,児童福祉法が,すべて国民は,児童が心身ともに健やかに生まれ且つ育成されるよう努めなければならない1条1項すべて児童,,(),,,(),はひとしくその生活を保障され愛護されなければならない同条2項国及び地方公共団体は,児童の保護者とともに,児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う2条前2条に規定するところは児童の福祉を(),,保障するための原理であり,この原理は,すべて児童に関する法令の施行にあたって,常に尊重されなければならない(3条)と原則を規定し,保育に関しては前記のとおり24条1項において市町村は保護者の,,,「,労働又は疾病その他の政令で定める基準に従い条例で定める事由により,その監護すべき乳児,幼児又は39条2項に規定する児童の保育に欠けるところがある場合において,保護者から申込みがあったときは,それらの児童を保育所において保育しなければならない」と規定している。。以上の児童福祉法の規定や趣旨からすると,保育所の廃止が,特定の児童ないし保護者に著しく過重な負担を課し,保育所において保育を受けることを事実上不可能にするなどの場合は,その廃止処分は,原則として上記の裁量権の範囲を逸脱しているものといわなければならない。,,,,ウこれに対し控訴人P2は平成9年改正により保育所の利用関係は希望する保育所についての公法上の契約となったのであるから,同利用契約の存続期間中,その意に反して他の保育所への転園を強要されることなく,当該保育所において保育を受ける権利を有し,差し迫った必要性もないのに,現に入所している児童にまで転園を強いる本件条例の制定は,必要性・合理性を欠き,裁量権を逸脱している旨主張している。

なるほど,前記のとおり,現に保育に欠ける児童が特定の保育所で保育を受けている保護者は,原則として,当該児童の就学までの期間,当該保育所において,保育を受ける権利ないし法的利益を有するものであるが,前記で判示したとおり,平成9年の児童福祉法改正により,保育所の利用関係が公法上の契約になったとまでは解されないし,同法24条1項も市町村に「保育所」において保育しなければならない旨規定しているにとどまり保護者が選択した特定の保育所における保育の義務まで規定して,「」いないことなどからすると,上記の権利ないし法的利益が,公の施設の廃止に関する地方公共団体ないしその長の裁量権に当然に優先するとまでは認められない。したがって,現に児童が入所している状態で保育所を廃止することが原則として,前記の市町村ないしその長の裁量権を逸脱するとまではいえないと解するのが相当である。児童福祉法35条6項及び同法施行規則38条1項2号は,保育所等の児童福祉施設が入所者がいる時点でも廃止される場合があることを前提とする廃止手続を定めているが,これも上記解釈を裏付けるものである。

(2) 実質的違法性の検討

ア 前記前提となる事実等及び証拠甲19314767の2 73の(,,,,,,,,,,,,,,,1・2 乙813151720の1 283133424347の1ないし3,原審証人P23)によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 本件保育所廃止の目的

a 本件保育所の廃止民営化に至る経緯は前提となる事実等(3)記(),載のとおりであり,被控訴人が設置する市立保育所についてこれを民営化しようとの動きは,平成10年2月に策定された高石市行財政改革大綱により民間活力の導入の提言がされたのを踏まえ,被控訴人の財政状況が急激に悪化し,極めて深刻な状況に直面する中で,同大綱をより実効のあるものとするとして平成12年8月に策定された高石市行財政改革実施計画において,保育所における民間活力の導入が計画され,平成14年度にこれを実施するとされたことによる。

,()bまた被控訴人における平成13年度の職員定員管理計画乙15,,,は定員管理のあり方として組織活動を能率的に遂行すると同時にその活動に要する人員を適正に配置し,被控訴人の大幅な税収入の落ち込みから危機的な状況にある財政に対して,財政的負担の軽減をより一層推し進める必要があるとし,適正化の手法として,自主的,主体的に効率的かつ効果的な定員管理の適正化を推進するため,①退職に伴う自然減,②組織機構の簡素合理化,③再任用制度の活用,④施設の民営化,⑤事務の民間委託,⑥事務事業の見直し,⑦機械化,⑧早期退職の特例措置について方策を講じるものとするとしている。そして,同計画は,このうち,④の一環として,類似団体との比較においては,民生部門の超過が顕著であり,今後保育士の定年退職者の動向を見ながら,保育所の民営化により,適正な定員規模の実現化に努めることとするとしている。

なお,職員定員について,平成13年4月1日現在の定数677名を平成16年4月1日現在で93名(13.2%)削減し,610名を目標とするとされている。

c なお,被控訴人の財政状況の悪化については,P24労働組合及び社団法人P25からなるP26が平成13年4月28日に発行した「さしせまる土建型財政危機をいかに打開するか-高石市財政の現状と再建の課題-」と題する報告書(甲31)においても,被控訴人の財政収支の動きについて,実質単年度収支(当該年度の実質収支〈形式収支から翌年度に繰り越すべき財源を差し引いたもの〉から前年度,,,の実質収支を差し引いた単年度収支に積立金繰上償還金を加算し),,そこから積立金取崩し額を差し引いたものでみた場合その収支は平成5年度以降は毎年赤字であり,しかも傾向的に増大を示しているとされている。

d これらからすると,被控訴人による,市立保育所を廃止・民営化するとの方策は,悪化する財政状況を踏まえ,既存の行政を再点検し,限られた財源と人材を有効に活用し,最小の経費で最大の効果が上げられるよう,簡素で効率的な行財政運営をめざすとの観点から採られた施策の1つということができる。

(イ) 本件保育所廃止による財政効果

a 高石市における公立保育所と民間保育所との児童1人当たりの運営経費(歳出総額を月平均人数で除した額)の比較は下表のとおりでありなお平成7年度ないし平成11年度は千円単位の概算公立保(,),育所における運営経費が民間保育所における運営経費の約2倍となっていることが認められる。

公立保育所民間保育所

平成7年度 2,175,000 909,000

平成8年度 2,232,000 946,000

平成9年度 2,234,000 976,000

平成10年度 2,080,000 1,004,000

平成11年度 2,072,000 1,031,000

平成12年度 2,014,532 1,045,718

(円)

b 上記のように公立保育所における運営経費が民間保育所における運営経費の約2倍となっている理由として,保育士の配置数が児童福祉施設最低基準を上回る基準による配置をしている公立保育所と,上記最低基準に沿った配置をしている民間保育所とで下表(児童数:保育士数)のとおり違いがあることと,保育士の平均年齢が公立保育所の方が民間保育所よりも高いことによる人件費の差に基づくところが大きい。

公立保育所民間保育所

0歳児3:13:1

1歳児4:16:1

2歳児6:16:1

3歳児18:120:1

4・5歳児28:130:1

c 本件改正条例制定時,保育所にかかる超過負担金は,年間で約8億2000万円にのぼっていた。

d なお,本件保育所の廃止・民営化がされる前の被控訴人の平成13年度決算と,同廃止・民営化がされた後の被控訴人の平成14年度決算とを比較すると,以下のとおりとなっている。

(a) 保育所の運営に要する経費

公立保育所民間保育所全体

平成13年度 1,231,950,254 268,227,250 1,500,177,504平成14年度 1,061,856,348 382,554,480 1,444,410,828差 170,093,906 114,327,230 55,766,676▲△▲ (円)

(b) 歳入

公立保育所民間保育所全体

平成13年度 398,333,465 179,987,173 578,320,638平成14年度 348,254,156 256,875,149 605,129,305差 50,079,309 76,887,976 26,808,667▲△△(円)

(c) 差引額((a)-(b)の額)

公立保育所民間保育所全体

平成13年度 833,616,789 88,240,077 921,856,866平成14年度 713,602,192 125,679,331 839,281,523差 120,014,597 37,439,254 82,575,343▲△▲ (円)

(d) 超過負担金の額((c)の差引額の一部を構成)

公立保育所民間保育所全体

平成13年度 764,783,827 51,931,839 816,715,666平成14年度 652,816,227 71,285,911 724,102,138差 111,967,600 19,354,072 92,613,528▲△▲ (円)以上によると,本件保育所が廃止・民営化された後の平成14年度決算においては,同廃止・民営化前の平成13年度決算に比して,8000万円余の財政効果が生じている。

もっとも,この点,控訴人P2が指摘するように,歳入の増加の中には,本件保育所の廃止・民営化とは関係しない増加も存するところである(控訴人P2は,廃止・民営化と無関係な歳入の増加として,413万4000円存する旨指摘している。しかしながら,このよ。)うな点を考慮しても,本件保育所の廃止・民営化により,平成14年度決算において,前年度に比して7000万円を超える財政効果が生じている。

また,控訴人P2は,歳出のうち,一般職給,職員手当等及び共済費の差額合計1億1185万5492円の減少は,正職員10人分の人件費に相当するものであるが,このうち4名は保育所費款外への異動であり,現在も被控訴人の職員であるから,被控訴人の財政全体からみた歳出の削減にはなっていない,また,他の6名は退職者であるが,退職者による歳出の減少は,公務員の退職という事実によって発生するものであり,民営化の効果とはいえない旨主張する。

しかしながら,上記保育所費款外へ異動した4名について,本件保育所の廃止・民営化がなく,上記4名が保育所費款外へ異動しなかった場合には,当該4名の異動先に配置する職員を別に補充しなければならないのであるから,本件保育所の廃止・民営化により,人件費が削減されたものといえる。また,退職者6名についても,本件保育所が廃止・民営化されたことにより退職したとすれば,これは本件保育所の廃止・民営化により人件費が削減されたものといえるし,これと,,は無関係に退職したとしても本件保育所の廃止・民営化がなければ退職者分を補充する職員の配置が必要となるところ,本件保育所の廃止・民営化によりこれが不要となったのであるから,やはり,本件保育所の廃止・民営化により人件費が削減されたものといえる。

(ウ) 保育サービス供給増の必要性

a 待機児童について

(a) 被控訴人における待機児童数の推移は,平成12年度は,4月時点では0であったが,平成13年3月時点では27名となり,また,平成13年度は,4月時点で12名であったが,本件改正条例の制定後の平成14年1月には82名にまで増えている。

(b) 全国的に,保育の需要の急速な増大とその多様化に対し,特に都市部等で供給が追い付かないことが大きな問題となっている。そして,本件改正条例の制定後であるが,平成13年9月6日には,厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長の各都道府県・指定都市・中核市民政主管部(局)長宛「待機児童ゼロ作戦の推進について」と題する書簡(平成13年9月6日雇児保第35号)が作成されており,その中で,国において待機児童ゼロ作戦を進めることとしているところであるが,都道府県及び市町村においても,厚生労働省がこれまで実施してきた各般の規制緩和措置,予算措置及び来年度概算要求等を踏まえて,地域の保育需要に的確に応えた保育サービスの提供が行われるよう計画的かつ積極的に取り組まれたい旨の記載がされている(乙8。)

さらに,平成13年12月11日に総合規制改革会議によって作成された,規制改革の促進に関する第1次答申において,急増する保育需要に対応する方策の1つとして,公立保育所の民間への運営,,,委託等の促進が挙げられておりそこでは公立保育所においては社会福祉法人等が運営する認可保育所に比べ,運営コストがかかるだけでなく,利用者のニーズへの迅速かつ的確な対応ができないとの問題を抱えている,このため限られた財源を有効に活用し,かつ社会のニーズに応じた保育を実施するという観点から,公立保育所の運営については,社会福祉法人やNPO,民間企業等へ委託することも有効な処方箋と考えられる旨記載されている(乙8。)

(c) 本件保育所が廃止・民営化された後の待機児童の状況についてみるに,被控訴人は,公立保育所の民営化に当たり,待機児童の解消を図るため定員枠を20名程度増やすことにし本件保育所定,,(員120名)の受入可能枠が150名であったことから,これを民営化するに際し,定員を140名とした。現にP16が運営するP17保育園においては,定員を140名として運営されており,平成15年4月1日時点では,待機児童は存在しなくなっている(この点について,控訴人P2は,公立保育所のままでも定員増は可能であったと主張するところ,上記受入可能枠からして不可能とはいえないが,先に検討したように,公立と民間との経費の差等からして,財政の逼迫した状況下において,公立のままで定員を増加させることは,本件保育所の廃止の目的に反する結果となり,実現は困難であるというべきである。。)

b 延長保育について

被控訴人は,公立保育所を民営化するに当たり,当時実施されていた午前7時から午後7時までの保育を,更に1時間ないし2時間程度延長し,午後9時くらいまでの延長保育を行うこととし,本件保育所を民営化するに際しても,開所時間は午前7時から午後7時までとするが,更に2時間程度延長保育を実施することとした。そして,現にP16が運営するP17保育園においては,午後9時までの延長保育が実施されている。

もっとも,P17保育園における平成14年4月1日から同年7月26日までの午後7時以降の延長保育の実施状況は合計39日間延,(べ56人)であり,延長保育の利用者がいない日の方がむしろ多い。また,被控訴人が平成11年6月に行った子育てに関するアンケート調査の結果では,延長保育については,回答者の約9割が「現在のままでよい」というものであり,保護者側でその必要性が高かったともいえない。

以上からすれば,延長保育の観点だけをみれば,それ単独で本件保育所を民営化すべきとする十分な理由とまでは言い難いが,現実に利用者もおり,需要自体は存したものといえる。

(エ) 入所児童の処遇

a 被控訴人は,民間移管先のP16との間で,従前の保育水準が低下することがないよう配慮することとしており,その旨事業運営者と覚書を締結した。

b 平成13年11月からは,P16の保育士が本件保育所に来て引継を行い,平成14年1月からは,次年度のクラス担任を予定されている保育士がそのクラスに入り,子供の個性や特徴,また1日の生活の流れを把握するとともに,2月以降は更にその回数を増やし,引継を行った。

なお,今回の民間移管に伴う定員増に伴い,1歳児については,職員配置基準が児童4人に1名から児童5人に1名となったが,民間移管の保育園に通う保護者への配慮の趣旨から,特に平成14年度については,経過措置として,臨時職員の配置により,従前と同様の児童4人に職員1名の基準が維持された。また,P3保育所においては,上記のとおり延長保育が実施されることになった。

c 本件保育所は,平成14年4月1日廃止され,同日,P16を経営主体とするP17保育園が開設された。

本件保育所で保育を受けていた平成13年度の0歳児から4歳児まで合計85名については,49名がP17保育園に,35名が他の公立保育所に,1名が他の民間保育園に,それぞれ転園した。なお,控訴人P2の児童P11は,控訴人P2が,本件保育所が廃止・民営化された場合の第1希望とした公立のP6保育所に平成14年4月1日以降入所し,同保育所において保育を受けている。

イ 以上のとおり,本件保育所の廃止は,財政状況が悪化している被控訴人が,財政効果の観点及び民営化による待機児童の解消や延長保育の実施といった保育サービスの拡充の観点から,本件保育所を廃止・民営化することを目的として行ったものであって,その目的には合理性が認められ,これによって,現に本件保育所に入所していた児童が就学時まで本件保育所において保育を受けることができなくなるなどの不利益を受けることは認められるものの,希望すれば,本件保育所と同じ場所で,同じ施設を用いて新たに設置運営される児童福祉法その他の法令等によって要求される水準を満たしたP17保育園において,概ね,本件保育所と同水準の保育を受けることが可能であるというのであるから,これによって,特定の児童ないし保護者に著しく過重な負担を課し,保育所において保育を受けることを事実上不可能にするなどの事情は認められず,被控訴人に裁量権の逸脱ないし濫用があるということはできない。

(3) 手続上の違法性について

ア 控訴人P2は,被控訴人による本件保育所の廃止は,児童福祉法33条の4にいう「保育の実施の解除」に当たる旨主張する。

そこで検討するに平成9年改正後の児童福祉法24条2項は前項に,,「(「」規定する児童について保育所における保育を行うこと以下保育の実施というと規定しておりまた同法33条の4は都道府県知事市。)」,,,「,町村長……は,次の各号に掲げる措置又は保育の実施等を解除する場合には,あらかじめ,当該各号に定める者に対し,当該措置又は保育の実施等の解除の理由について説明するとともに,その意見を聴かなければならないとしその3号で母子保護の実施及び保育の実施当該母子保護の。」,「実施又は保育の実施に係る児童の保護者」としている。

そうすると,児童福祉法の規定は,平成9年改正後においても,保護者が選択した特定の保育所において保育を実施することをもって保育の実,「施とするものではなく保育所における保育を行うことをもって保」,「」,「育の実施」と定義付けているのであり,同法33条の4にいう保育の実施の解除も,市町村が保育所における保育を行うことを解除する場合をいうものと解するのが相当である。これに対し,特定の保育所において保育を受けていた児童が他の保育所に転園する場合や,あるいは,当該保育所が民営化されたことに伴い,民営化後の保育所において保育を受けることとなったような場合には,同法33条の4にいう「保育の実施の解除」には当たらないものと解すべきである。

これを本件についてみるに前提となる事実等(3)チ記載のとおり被控,,訴人は,本件改正条例制定後,廃止されることとなる本件保育所に入所している0歳児から4歳児の保護者に対し,平成14年4月1日以降,民営化されたP17保育園への入所を希望するか,他の保育所への転園を希望するかのいずれかを選択するよう本件提出依頼書を配布している。すなわち,被控訴人は,本件保育所を廃止することにより,本件保育所で保育を受けていた児童について,保育所における保育を行うことを解除したものではなく,引き続き保育所における保育を行うことを前提に,保護者らに対し,選択する保育所の希望の聴取を行っているものである。

そして,控訴人P2が監護する児童P11についても,前記のとおり,平成14年4月1日以降は,被控訴人が設置するP6保育所において保育を受けているのである。

したがって,本件保育所の廃止をもって,児童福祉法33条の4にいう保育の実施の解除に当たるとする控訴人P2の主張は採用できず,被控訴人には,同規定に基づく本件保育所保護者への事前の説明や保護者からの意見聴取義務が存するものとは認められない。

イ 控訴人P2は,本件保育所の廃止は,同控訴人に対する不利益処分に当たるから,保育の実施の解除に準じた手続保障が図られるべきである旨主張している。

しかしながら,前記認定のとおり,本件保育所の廃止・民営化によっても,希望すれば,本件保育所と同じ場所で,同じ施設を用いて新たに設置運営される児童福祉法その他の法令等によって要求される水準を満たしたP17保育園において,概ね,本件保育所と同水準の保育を受けることが可能であるというのであるから,本件保育所の廃止・民営化は,保育の実施の解除に準じた手続保障が図られなければならないほどの不利益な処分であるとまで認めることはできない。

そして前提となる事実等(3)によれば被控訴人は本件保育所の廃止,,,・民営化について,それなりの民主的手続を踏んでいるものといえ,不十分な点があるにせよ,本件保育所の廃止について,手続上の違法があるとまで認めるのも困難である。

(4) まとめ

以上のとおりであり,本件改正条例に裁量権の逸脱・濫用はなく,手続上の違法も認められないから,結局のところ,本件廃止処分の取消しを求める控訴人P2の主位的請求は理由がない。

4 当審追加的請求について

控訴人らは,当審において,行政事件訴訟法19条に基づき,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求(民事訴訟)を追加的に請求している。行政事件訴訟法19条の関連請求の中には,上記のような民事訴訟も含まれるが,控訴審における関連請求の追加的併合には,関連請求に係る訴えの被告(,),,の同意が必要であるところ同法19条1項16条2項本件においては上記民事訴訟の被告である被控訴人が同意していないのであるから,上記の追加的請求に係る訴えが不適法であることは明らかである。

5結論

以上によれば,控訴人P1の主位的請求及び予備的請求に係る訴えは,いずれも訴えの利益がなくなったことにより不適法となったものであり,控訴人P2の主位的請求は理由がなく,予備的請求に係る訴えは,原判決と同一の理由により不適法であるから,控訴人P2の控訴は理由がない。

また,控訴人らの当審における追加的請求に係る訴えも不適法である。よって,原判決中,控訴人P1に関する部分を取り消して,控訴人P1の主位的請求及び予備的請求に係る訴えをいずれも却下し,控訴人P2の控訴を棄却し,控訴人らの当審における追加的請求に係る訴えを却下することとして,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第14民事部

裁判長裁判官 井垣敏生

裁判官 高山浩平

裁判官 神山隆一

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/33342/detail5/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。