TaiLexi AI日本の判例・法令
← ホーム
高裁判決破棄自判

札幌高判 平成19年5月18日

平成18年(ネ)第230号 補償金

裁判所
札幌高等裁判所第2民事部
裁判年月日
平成19年5月18日 (2007-05-18)
事件番号
平成18年(ネ)第230号
事件名
補償金
裁判の種類・結果
判決 破棄自判
判例集等
—
分野
民事
この事件の審級
  1. 第一審札幌地判平成16・4・19(請求棄却)
  2. 控訴審札幌高判平成19・5・18(破棄自判)

判示事項

社債取引が証券会社によって証券業に係る取引のように仮装されたものであるとしても,取引者が,当該取引の際,そのことを知っていたか,あるいは,知らなかったことにつき重大な過失があるという事情がない限り,当該取引は証券業に係る取引に当たるとされた事件の差戻審である当審において,被控訴人から控訴人らの悪意の主張はなく,本件取引が仮装であること及び控訴人らに重過失がないことがいずれも認められるとして,控訴人らが本件取引で証券会社に預託した金銭相当額を被控訴人基金に補償として請求できるとした事例

主文

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は,別紙請求債権目録の控訴人欄記載の各控訴人に対し,同目録の各控訴人に対応する請求金額欄記載の金員及びこれに対する同目録の遅延損害金起算日欄記載の日付から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は,そのすべてを被控訴人の負担とする。

4 この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

主文同旨

第2 事案の概要

1 控訴人らは,自ら若しくはその被相続人らが,南証券株式会社(以下「南証券」という。)に対して「ミナミ・ハイイールドボンド」と称する南土地建物株式会社,ミナミ・アセット・マネジメント株式会社及び南インベストメント株式会社を発行会社(以下3社を「本件各社債発行会社」という。)とする各社債(以下「本件各社債」という。)の購入を申し込み,南証券にその代金を預託した者ら(以下,その取引を「本件各社債取引」といい,これらの取引者を「本件各社債取引者ら」という。)である。本件各社債取引者らの上記申込み,金銭預託の後,被控訴人により,南証券について証券取引法(以下「法」という。)79条の55第1項の顧客資産返還困難の認定,公告が行われたことから,控訴人らは,上記預託金は,法79条の56第1項により保護されるべき顧客資産であり,同項に基づき,南証券に預託した預託金相当額の補償金が支払われるべきであると主張して,上記認定・公告がされた場合に証券会社の一般顧客に対して一定の補償対象債権に係る支払をすることを業務としている被控訴人に対し,当該補償金の支払及びこれに対する平成12年11月13日(被控訴人の控訴人らに対する補償金支払拒絶通知の発送日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

一審判決は,控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らが控訴したが,控訴審判決は,控訴を棄却した。

これに対し,控訴人らは,上告の提起及び上告受理の申立てをしたところ,最高裁判所は,上告は棄却したものの,上告受理の申立てを受理した上,原判決のうち,控訴人らに関する部分を破棄し,控訴人らが補償対象債権を有するか否か等について更に審理を尽くさせるために当審に差し戻した。本件は,上記の差戻審である。

なお,控訴人らは,差戻審で,請求原因として,南証券の仮装取引による外観法理に基づく請求及び主張のみを行うこととしてその余の主張を撤回するとともに,遅延損害金の起算点を各訴状送達の日の翌日である平成14年1月19日(控訴人H15については平成14年8月29日)からとして,請求を減縮した。

2 前提となる事実(争いのない事実以外は証拠を併記する。)

(1) 当事者

ア 控訴人H24を除く控訴人らにIを加えた本件各社債取引者らは,南証券において販売された本件各社債を購入した者である。

H24は,Iの妻であり,平成12年2月8日 I が死亡し,同人の全財産を相続したことにより,Iの被控訴人に対する債権を相続した。

イ 法第4章の2は,投資者保護基金(以下「基金」という。)の設立,業務等について定めており,被控訴人は,これに基づいて設立された基金たる法人である。基金は,法79条の56の規定による一般顧客に対する支払その他の業務を行うことにより投資者の保護を図り,もって証券取引に対する信頼性を維持することを目的とする(法79条の21)。

ウ 南証券は,昭和35年9月8日設立(創業大正8年)の本件各社債の販売を行った証券会社で,被控訴人に会員として加入し,被控訴人により,法79条の55第1項の認定が行われ,かつ,平成12年3月21日,同項の公告も行われた認定証券会社である。(甲57,122)

(2) 基金により保護される資産

法79条の56第1項により,基金は,会員たる認定証券会社の一般顧客(証券会社の本店その他の国内の営業所の顧客であって当該証券会社と証券業又は証券業に付随する業務に係る取引をする者(適格機関投資家及び国,地方公共団体その他の政令で定める者を除く。)をいう。法79条の20第1項)の請求に基づき,法79条の55第1項により公告した日(以下「認定公告日」という。)において現に当該一般顧客が当該認定証券会社に対して有する債権(当該一般顧客の顧客資産に係るものに限る。)であって基金が政令で定めるところにより当該認定証券会社による円滑な弁済が困難であると認めるもの(補償対象債権)につき,内閣府令・財務省令で定めるところにより算出した金額の支払を行うものとされている。

そして,「顧客資産」とは,以下の①ないし④をいう(法79条の20第3項)。

① 証券先物取引等及び信用取引等について証券会社が一般顧客から預託を受けた金銭及び有価証券(同項1号)

② 証券業に係る取引(有価証券店頭デリバティブ取引等を除く。③において同じ。)に関し,一般顧客の計算に属する金銭又は証券会社が一般顧客から預託を受けた金銭(①に掲げる金銭を除く。)(同項2号)

③ 証券業に係る取引に関し,一般顧客の計算に属する有価証券又は証券会社が一般顧客から預託を受けた有価証券(証券会社が保護預りをするために一般顧客から預託を受けた有価証券を含み,①に掲げる有価証券,契約により証券会社が消費できる有価証券その他政令で定める有価証券を除く。)(同項3号)

④ ①ないし③に掲げるもののほか,政令で定めるもの(同項4号)

(3) 南証券による本件各社債の販売及び本件各社債取引者らによる本件各社債の購入

ア 南証券は,平成11年11月23日より,本件各社債の販売広告を行い,販売を開始した。本件各社債は,本件各社債発行会社を発行会社とする社債であり,その払込期日は平成11年12月31日とされていた。(甲5,乙1,2,乙3の1から3まで,乙5の1から3までの各1及び2)

イ 本件各社債取引者らは,平成11年11月23日から同年12月31日までの間に,南証券に対し,本件各社債の購入を申し込み,Iは2000万円,その余の本件各社債取引者らは別紙請求債権目録記載の各請求金額と同額の金員を預託した。

(4) 南証券についての法79条の55第1項の認定,公告までの経緯

ア 関東財務局長は,平成11年12月14日,南証券に対し,本件各社債は私募債と称して勧誘されているが,公募に該当し,法4条に違反することを理由に勧誘行為の禁止命令を出した。(乙17)

イ 関東財務局は,平成12年2月21日,南証券の検査に着手し,南証券が上記命令に違反して,その後も本件各社債の販売を行っていたことから,同月28日,南証券に対し,同社札幌支店の営業の全部停止3か月及び全店における本件各社債の販売停止3か月の行政命令を出した。

ウ 金融監督庁は,平成12年3月6日,金融機関等の更生手続の特例等に関する法律に基づき,東京地方裁判所に南証券の破産の申立てを行い,関東財務局は,同日,同社に対し,分別管理違反等を理由に同社の全店の業務停止6か月の処分を行った。

エ 関東財務局は,平成12年3月14日,警視庁に対し,南証券を告発する告発状を提出した。

オ 証券取引等監視委員会は,平成12年3月15日,本件各社債の募集について有価証券の募集のための偽計を用いる行為に該当するとして行政処分を求める勧告を出した。

カ 金融監督庁から南証券の破産申立てを行った旨の通知を受けた被控訴人は,平成12年3月16日,南証券について,法79条の54に基づき,顧客資産の返還に係る債務の円滑な履行が困難であるとの認定(法79条の55第1項)を行った。(弁論の全趣旨)

キ 東京地方裁判所は,平成12年3月21日,南証券に対し,破産を宣告した。(弁論の全趣旨)

ク 被控訴人は,平成12年3月21日,南証券につき,法79条の55第1項に基づく公告(以下「本件認定公告」という。)を行った。本件認定公告で定められた請求の方法は,下記のとおりである。しかし,南証券から本件各社債取引者らに対し,支払請求書は送付されなかった。記請求の届出期間平成12年3月27日から同年4月27日まで

請求の届出場所南証券本店又は東京支店

請求の届出方法南証券から送付する支払請求書に必要事項を記載のうえ,必要書類を添えてお届けください。

支払期間平成12年4月17日から同年5月31日まで

支払場所及び南証券本店又は東京支店(主として振込による支払)支払方法

(5) 被控訴人から控訴人らへの通知

被控訴人は,平成12年11月13日,理事会で本件各社債の購入者を保護しないことを決議し,控訴人らに対し,下記①ないし③の理由で控訴人らの債権は補償対象債権にならない旨の通知(以下「本件通知」という。)を発送した。

① 法令上,基金の補償対象債権は,認定公告日(南証券の場合は平成12年3月21日)において,一般顧客が証券会社に対して有する債権(法79条の20第3項に規定する顧客資産に係るものに限る。)とされていること。

② 本件各社債取引者らから南証券に振り込まれた本件各社債の買付け代金は,契約上,払込期日の平成11年12月31日をもって,本件各社債発行会社の計算に属する金銭になっており,顧客に対して,本件各社債又は本件各社債発行会社の発行した預り証が交付されていること。

③ 以上のとおり,南証券では,本件各社債について,顧客からの社債券や金銭の預りはなく,南証券に対する補償対象債権は存在しないこと。

(6) 控訴人 H15を除く控訴人らは,平成13年12月26日付けで札幌地方裁判所平成13年(ワ)第2827号事件の訴えを提起し,同訴状は平成14年1月18日,被控訴人に送達され,控訴人 H15は,平成14年8月16日付けで札幌地方裁判所平成14年(ワ)第1659号事件の訴えを提起し,同訴状は平成14年8月28日,被控訴人に送達された。(裁判所に顕著)

(7) 本件の一審判決は,①控訴人らが法79条の56第1項所定の「請求」をしておらず,また,②控訴人らが,法79条の20第3項の「顧客資産」に係る債権,ひいては法79条の56第1項の「補償金対象債権」を有していると認めることはできないとして,控訴人らの請求を棄却した。(裁判所に顕著)

(8) 控訴人らは,一審判決に対して控訴したが,控訴審判決は,控訴人らが法79条の56第1項所定の「請求」をしたものというべきであるとしたものの,①本件各社債が,控訴人らの主張するような実体のない不成立又は無効な契約により募集されたものであるとすれば,本件各社債取引は,証券業に係る取引に当たるということはできないこと,②本件各社債取引が控訴人らが主張するような実体のないものであれば,それは証券取引の形態を仮装したにすぎないものというべきであるから,証券業に係る取引に当たるということはできないことを理由として,控訴を棄却した。(裁判所に顕著)

(9) 控訴人らは,上告の提起及び上告受理の申立てをしたところ,最高裁判所は,上告は棄却したものの,上告受理の申立てを受理した上,①本件各社債取引は,飽くまで南証券と本件各社債取引者らとの間の取引であり,本件各社債取引者らが関与しない本件各社債発行会社と南証券との間の本件各社債募集取扱契約とは別個の取引であるから,同契約が不成立又は無効であったとしても,そのことから当然に本件各社債取引が証券業に係る取引の該当性を有しないことにはならず,②証券業に係る取引には,証券会社が,証券業に係る取引の実体を有しないのに,同取引のように仮装して行った取引も含まれ,当該証券会社と取引をする者が,取引の際,上記仮装の事実を知っていたか,あるいは,知らなかったことにつき重大な過失があるときには,当該取引は証券業に係る取引の該当性が否定されると判断した。そして,本件各社債取引が南証券によって証券業に係る取引のように仮装されたものであるとしても,本件各社債取引者らが,本件各社債取引の際,そのことを知っていたか,あるいは,知らなかったことにつき重大な過失があるという事情がない限り,本件各社債取引は証券業に係る取引に当たるとして,原判決のうち,控訴人らに関する部分を破棄し,控訴人らが補償対象債権を有するか否か等について更に審理を尽くさせるために当審に差し戻した。(裁判所に顕著)

争点

(1) 本件各社債取引が,南証券によって証券業に係る取引のように仮装によってなされたか否か。

(2) 本件各社債取引者らが,本件各社債取引の際,本件各社債取引が仮装されたものであることを知らなかったことにつき重大な過失があるといえるか否か。

争点に関する当事者の主張

(1) 争点(1)(本件各社債取引が,南証券によって証券業に係る取引のように仮装によってなされたか否か)について

(控訴人ら)

ア 南証券が行った本件各社債取引はいずれも証券業に係る取引の実体を有しないのに,これがあるかのように仮装して行った取引であった。

イ すなわち,本件各社債取引については,以下の点を指摘できる。

(ア) 南証券の破産時の代表取締役であったA1は,「グース・アンド・グリドアイアン株式会社日本支社」の名称で事務所を設立し,グース・アンド・グリドアイアン株式会社及び関連会社(以下「G&Gグループ」という。)がいずれも実体のない会社であるにもかかわらず,優良企業であるかのように装い,高利回りの配当や元本保証などをうたって投資信託の勧誘や社債の発行などをして資金を集め,マスコミで詐欺商法として取り上げられていたところ,本件各社債取引は,後に詐欺罪になったいわゆる「G&G商法」の延長として行われたものであること。

(イ) A1は,本件各社債による資金集めの目的のみをもって南証券を買収していること。

(ウ) 南証券は,「配当利回り4.5%~6.8%」という表示の広告をして本件各社債を募集販売していたが,本件各社債の配当利回りを可能にする資金運用手段は全くなく,A1がG&G商法で販売された投資信託の利回りを引用したにすぎないものであること。

(エ) 本件各社債発行会社は,本件各社債の販売直前に設立登記ないし変更登記がなされた実体のないペーパーカンパニーであること。

(オ) 本件各社債の発行に当たり,本件各社債発行会社において,必要な手続が全く履践されていないこと。

(カ) 南証券は,本件各社債の販売によって得た資金を,本件各社債発行会社に移転させていないばかりか,その運用も行っていなかったこと。以上の点に照らせば,A1は,G&G商法の延長として,本件各社債の販売とそれによる資金集めの目的のみをもって南証券を買収したのであり,本件各社債取引は,周到かつ綿密な計画の下に行われた一連の詐欺行為の一手段であるといえ,南証券が証券業に係る取引の実体を有しないのに,これがあるかのように仮装して行った取引であるといえる。

(被控訴人)

ア 控訴人らの主張は争う。

イ 控訴人らの主張は争う。

(ア) 控訴人らの主張イ(ア)(イ)は不知。

(イ) 控訴人らの主張イ(ウ)のうち,南証券は,「配当利回り4.5%~6.8%」という表示の広告をして本件各社債を募集販売していたことは認めるが,その余は不知。

(ウ) 控訴人らの主張イ(エ)は不知。

(エ) 控訴人らの主張イ(オ)は不知。

ただし,本件各社債の発行に手続的な瑕疵があったとしても,本件各社債は有効に成立したと評価される。

(オ) 控訴人らの主張イ(カ)は不知。

ウ 南証券と本件各社債取引者らとの間に社債申込証や金銭のやり取りはあるが,本件各社債は平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「改正前商法」という。)上の社債であるから,改正前商法の規定に従い,社債発行会社は,社債の募集が完了したときには,応募者に払込期日までに払込金額を払い込ませなければならず,その後に社債を発行することとされている。したがって,社債発行会社から事務取扱の委託を受けている証券会社は,応募者から払込金を受領しているときには,これを払込期日に社債発行会社に引き渡さなければならない。このような社債の法的性質や南証券の受託会社としての立場からすれば,社債契約は,本件各社債発行会社と本件各社債取引者らとの間で有効に成立しており(また,本件各社債発行会社も南証券に発行事務を取り扱わせていた。),本件各社債取引者らは本件社債発行会社に社債契約上の権利を行使できるから,そもそも「証券業に係る取引のように仮装された」事実自体がない。

さらに,一部顧客に対し,本件各社債発行会社から預り証や社債券が発行されているように,本件で本件各社債取引者らから払い込まれた金銭は,払込期日をもって本件各社債発行会社の計算に属する金銭となっており,本件各社債取引者らから払い込まれた金銭が「預り金」として南証券に存在していたとは評価できないから,南証券についての認定公告日である平成12年3月21日現在,控訴人らが,南証券に対して,法79条の56に定める顧客資産の返還に係る債権(補償対象債権)を有していないことは明らかである。

(2) 争点(2)(本件各社債取引者らが,本件各社債取引の際,本件各社債取引が仮装されたものであることを知らなかったことにつき重大な過失があるといえるか否か)について

(被控訴人)

本件各社債取引者らには,以下のとおり,本件各社債取引が「仮装されたものであることを知らなかったことにつき重大な過失」があった。

ア 証券取引はもともと元本保証がない取引であり,自己の判断と責任で投資してもらうことが証券取引法のねらいであって,その土俵を作ること以上のことは証券取引法の目的ではない。

ところが,本件各社債は,本件各社債取引当時の10年物長期国債の金利(1.645パーセント)に比して異常な高金利である年4.5パーセントから6.8パーセントとうたった無担保社債であった。このような異常な社債を購入する顧客にとっては,社債発行会社の財務内容は極めて重要であるのに,本件各社債の新聞折り込みチラシやパンフレットには,本件各社債発行会社の住所はもとより営業活動を示す記載は一切なく,上記チラシには「各社の財務内容は南證券店頭にて常時閲覧可能です。」と,上記パンフレットのリスクの項には「発行会社の経営状況,投資状況は,……南證券店頭にても常時閲覧可能です。」としか記載されていない。

イ 証券取引における自己責任の原則からすれば,自己の大切な金銭を投資する購入者は,自己がいかなる投資を行うのか,投資先の財務内容はどうか,異常な高金利が約束できる根拠があるのかなどを調べるのは当然のことである。

ウ ところが,南証券には本件各社債発行会社の財務内容を示す資料が存在したとの事実はない。したがって,もし本件各社債取引者らにおいて,上記チラシやパンフレットに従って,南証券に閲覧可能な状態で置かれているとされている本件各社債発行会社の財務内容を示す資料の閲覧を求めていれば,このような資料が示されるはずもなく,本件各社債の発行が仮装されたものであることが容易に分ったはずである。

(控訴人ら)

ア 被控訴人の主張は争う。

イ 本件各社債取引者らは,本件各社債を購入するに際し,私募債形式で企業ないし機関投資家が高額の社債を購入する場合であれば格別,本件各社債取引者ら一般投資家(投資家ともいえないような素人であり,本件各社債がかかる素人を購入対象としていたことは,新聞の折り込みチラシやテレビコマーシャルを利用した宣伝方法から明白である。)が社債を購入するに当たって,社債発行会社の財務内容を調査すべき一般的義務ないし慣行があるとは到底解せられず,この点に関する被控訴人の主張は考慮するに値しない。

また,本件各社債の利回りが高金利であるからといって,およそ考えられないような異常な高金利というわけではなく,かかる程度の金融商品を購入するに当たって購入者の注意義務が加重されるということはできない。

むしろ,本件各社債の取引が周到かつ綿密に計画されたものであることや,「南証券」というネームバリューが利用されていること,マスコミを利用した大々的な宣伝がなされていること,一般投資家に渡される資料はその外観・内容に不自然な点がないこと,南証券の従業員らによる詳細かつ説得的な説明がなされていること等の事情に照らせば,控訴人らにおいて,本件各社債取引が仮装のものであると知ることはおろか,その端緒すらつかむことができないというべきものであり,本件各社債を購入するに当たり,本件各社債取引者らに何らの過失はない。

第3 当裁判所の判断

前提となる事実に加え,証拠(甲10,71,80,119,証人B,証人C,証人D。ただし,下記認定に反する部分は採用しない。),後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,南証券に対する本件認定公告までの経緯として,以下の事実が認められる。

(1) A1は,「グース・アンド・グリドアイアン株式会社日本支社」の名称で事務所を設立し,グース・アンド・グリドアイアン株式会社及び関連会社(以下「G&Gグループ」という。)が,いずれも実体のない会社であるにもかかわらず,優良企業であるかのように装い,高利回りの配当や元本保証などをうたって投資信託の勧誘や社債の発行などをして資金を集めていた。そして,マスコミで,その商法が,「G&G商法」と称される詐欺商法であるとか,「証券業の免許を有するのか」などとの批判を受けるようになった。(甲118,乙8)

(2) A1は,G&G商法によって集めた社債等の資金の償還期限の到来や利払いの支払がある上,自己利得の意思も手伝って,更なる資金集めの必要に迫られていたが,G&Gグループを取り巻く厳しい環境下ではこれが難しく,さらには,マスコミからの批判をかわすとともに,G&G商法によって社債や投資信託の販売を継続して資金を集めるためには,正規の証券会社を通す必要があると考え,証券会社の買収を考えるようになっていった。

(3) A1は,以前から付き合いのあった暴力団組員のEに対し,買収に適当な証券会社がないかを相談し,南証券の紹介を受けた。

南証券は,赤字続きの会社で,証券業によって利益を上げることは期待できない状況であったが,A1は南証券を資金集めの手段として利用する意図しか有していなかったため,この点を顧慮することなく,平成11年3月末に,G&G商法で集めた資金の残金で南証券を買収し,同年6月29日に代表取締役に就任した(就任時の姓名はA2)。(甲57,81,118,120)

(4) A1は,E から借入金や世話料等の名目で3億円を支払うよう迫られたものの,この資金が用意できなかったため,平成11年7月ころから,南証券の資産から簿外出金を繰り返す方法により,その要求に応じていた。また,A1は,自己の用途に費消する目的やG&G商法の被害者に対する償還金などでも簿外出金を行っていた。

(5) A1は,平成11年8月ころから,南証券を買収した目的を達するため,G&G商法と同様の手法により,実体のない会社の社債を発行して資金を集めるという計画を実行に移し始め,南証券の取締役であった Fの出身地である札幌に南証券の支店を開設し,そこで社債等の販売を行うことにした。

(6) A1は,平成11年10月中旬ころ,南証券の経営企画室の会議の場で「札幌に支店を出す」「私募債中心にいけるから」などと述べ,同社の札幌支店開設を公にするとともに,同支店では私募債(実体は公募債)の発行により資金を得る目的であることを明らかにしたが,実質は,前記の簿外出金の穴埋めをしなければならず,顧客分別金にも手を着けていたことから,関東財務局の検査等でそれが発覚することを恐れ,早急に資金を調達する必要に迫られていた。

(7) そして,平成11年10月から11月にかけて,本件各社債発行会社が設立されたり,商号変更がなされるなどした。本件各社債発行会社のうち,南インベストメント株式会社は全く実体のない会社であり,南土地建物株式会社は実質的にミナミ・アセット・マネジメント株式会社と同一の会社であって,一応の体裁こそ調えていたものの,営業らしい営業活動はしておらず,代表印の使用・管理や従業員の雇用(出向)なども自ら行っていないなど,その実体がほとんど存しない状況であった。

(8) 南証券では,平成11年11月中旬ころ,南証券札幌支店に「札幌支店開設記念特別利回り」「安心確実な、確定利回りで6.8%」等と表示された本件各社債のチラシが用意されたが,これを見た南証券の経営企画室長のGは,実績もないのに6.8パーセントもの確定利回りでの募集は危険であると感じた。

(9) A1は,平成11年11月23日ころ,南証券を開設するととともに,「確定利回り4.5%~6.8%」等と表示した本件各社債を募集販売する旨の折り込み広告200万部を北海道内に配布した。しかし,この利回りに合理的根拠はなく,G&G商法で投資信託を販売した際に用いた数字をそのまま引用しただけであった。本件各社債の発行に当たっては,本件各社債の発行会社とされている本件各社債発行会社の取締役会決議等,法的に要求されている手続は履践されておらず,南土地建物株式会社及びミナミ・アセット・マネジメント株式会社の代表取締役であったDも,本件各社債の販売チラシを見るまで本件各社債の発行自体を知らず,何らの関与もしていなかった。(甲5,乙1,証人D)

(10) 本件各社債取引者らは,上記のチラシや勧誘により,本件各社債の購入を申し込み,南証券に対して,各代金相当額の預託をした。

(11) 関東財務局長は,平成11年12月14日,南証券に対し,本件各社債は私募債と称して勧誘されているが,公募に該当し,法4条に違反することを理由に勧誘行為の禁止命令を出した。

(12) A1は,上記命令にもかかわらず,これを一般投資家に知らせることも,従業員に知らせて販売を停止させることもしないまま,本件各社債の販売を続けさせた。(弁論の全趣旨)

(13) A1は,南証券による本件各社債の販売により2億1000万円余りを取得したが,その半分をG&Gグループ関連で発行した社債等の償還や南証券のために費消し,本件各社債発行会社に対して,これらの金員を交付したことはなかった。

(14) 関東財務局は,平成12年2月21日,南証券の検査に着手し,南証券が上記命令に違反して,その後も本件各社債の販売を行っていたことから,同月28日,南証券に対し,同社札幌支店の営業の全部停止3か月及び全店における本件各社債の販売停止3か月の行政命令を出した。

これにより,南証券の乱脈経営ぶりが一般の投資家に明らかになった。(争いがない事実)

(15) 金融監督庁は,平成12年3月6日,金融機関等の更生手続の特例等に関する法律に基づき,東京地方裁判所に南証券の破産の申立てを行い,関東財務局は,同日,同社に対し,分別管理違反等を理由に同社の全店の業務停止6か月の処分を行った。

(16) 関東財務局は,平成12年3月14日,警視庁に対し,南証券を告発する告発状を提出した。

(17) 証券取引等監視委員会は,平成12年3月15日,本件各社債の募集について有価証券の募集のための偽計を用いる行為に該当するとして行政処分を求める勧告を出した。

(18) 金融監督庁から南証券の破産申立てを行った旨の通知を受けた被控訴人は,平成12年3月16日,南証券について,法79条の54に基づき,顧客資産の返還に係る債務の円滑な履行が困難であるとの認定(法79条の55第1項)を行った。

(19) 東京地方裁判所は,平成12年3月21日,南証券に対し,破産を宣告した。

(20) 被控訴人は,平成12年3月21日,南証券につき,本件認定公告を行った。しかし,南証券から本件各社債取引者らに対し,支払請求書は送付されなかった。

争点(1)(本件各社債取引が,南証券によって証券業に係る取引のように仮装によってなされたか否か)について

(1)

上記の認定の経緯からすると,1は,自己の資金を調達するため,実体A

のないペーパーカンパニーを利用して,社債の発行や投資信託の販売名下に詐欺行為を行って金銭を得ていたところ,南証券を利用して,更に資金を得ようとして,南証券を買収し,これも実質的に実体のない本件各社債発行会社を設立あるいは商号変更するなどした上,高利回りで確実な本件各社債発行会社の本件各社債を発行すると称して,本件各社債発行会社の実質的関与がないまま詐欺的に,南証券が本件各社債の発行の受託会社であるように仮装して,一般投資家に対して本件各社債の購入を勧誘し,本件各社債取引者らから,本件各社債の代金相当額の預託を受けたものと認められる。

そして,これらの行為は,外見上は,南証券が証券会社として行う業務の範囲に入ると見られる行為であるから,本件各社債取引が,南証券によって証券業に係る取引のように仮装によってなされたものと認められる。(2)ア

被控訴人は,本件各社債取引は,本件各社債発行会社の委託により行われたものであるから,南証券は仲介者にすぎず,その権利関係は,控訴人らと本件各社債発行会社との間でのみ生じると主張する。

しかしながら,本件各社債発行会社は,本件各社債の発行について定められた方式を採っていないことはもとより,本件各社債発行会社のうち,南土地建物株式会社及びミナミ・アセット・マネジメント株式会社の代表取締役である

も,本件各社債の販売チラシを見るまで本件各社

D

,

債を発行することになっていることを知らなかったというのであるから本件各社債発行会社が,実質的には実体のないペーパーカンパニーであることなども併せ考えれば,本件各社債発行会社から南証券への本件各社債の発行のための事務委託もあったともいえない。そして,本件各社債取引は,1が南証券を利用して,本件各社債発行会社が本来は行ってA

いない本件各社債の発行をするように仮装して行った行為であると認められるから,被控訴人の主張は理由がない。

イ

さらに,被控訴人は,社債取引の法的性質から,南証券が当事者になることはないとか,南証券が本件各社債取引者らから預託を受けた「預り金」がないなどと主張するが,そもそも社債発行の事務の委託を受けていたと認められない本件においては,その主張自体が失当というべきである。

争点(2)(本件各社債取引者らが,本件各社債取引の際,本件各社債取引が仮装されたものであることを知らなかったことにつき重大な過失があるといえるか否か)について

(1)

被控訴人は,証券取引における自己責任の原則からすれば,本件各社債の利回りが年4.5パーセントから6.8パーセントという異常な高金利であるをうたった無担保社債であったから,このような社債を購入するに当たっては,社債発行会社の財務内容を示す資料の閲覧等をすべきであったにもかかわらず,これをしなかったから,本件各社債取引者らには,重大な過失がある旨主張する。

なお,被控訴人は,本件各社債取引者らの個別の過失については特段の主張をしていない。

(2) この点,確かに,本件各社債取引者らは,少なくとも新聞の折り込みチラシ(甲5,乙1)を見ているが,同チラシには「各社の財務内容は南證券店頭にて常時閲覧可能です。」と記載され,パンフレット(乙2)でも「発行会社の経営状況,投資状況は,……南證券店頭にても常時閲覧可能です。」であると記載されており,これを見ようとすれば,ペーパーカンパニーである本件各社債発行会社の財務状態が判明し,そもそも,こうした財務資料自体が存在しないことなどが明らかになり,本件各社債が,投資に不適格であることが判明した可能性は否定できない。

しかしながら,南証券自体は,大正8年の創業であり,会社設立も昭和35年と古く,業界においてもそれなりの立場にあった証券会社であるといえるところ,同チラシには,本件各社債発行会社が,南証券のグループ会社であり,「バブル崩壊後の不良債権を一切持っていない南證券グループだからこそ実現できた」と記載されており,同パンフレットでも「平成11年10月現在,一切の負債は存在せず,また今後も運転資金目的での借入等の予定はございません。」などと記載されており,その外観・内容にも不自然な点がないから,その記載に一定の信頼が発生するということができ,表示の金利も,市中金利と比較すれば高利回りではあるものの,外貨預金などと比較すれば,異常な高金利というほどのものではないこと,本件各社債取引者らが,いわゆる投資の専門家といえるような事情は見受けられず,本件各社債取引者らと一般の金融機関との間の取引であることを考慮すれば,本件各社債取引者らが,南証券の店頭で,本件各社債発行会社の財務資料を閲覧しようとしなかったことに過失があるとしても,それが重大であるとはいえない。

よって,被控訴人の主張は理由がない。

まとめ

(1)

控訴人

15を除く控訴人らの訴状は平成14年1月18日に,控訴人

H

H

5の訴状は平成14年8月28日に,それぞれ被控訴人に送達されている。ところで,控訴人らの法79条の56第1項所定の「請求」については,控訴人らには,本件認定公告での請求の届出方法として,南証券から送付する支払請求書に必要事項を記載の上,必要書類を添えて届けることと定められていたにもかかわらず,南証券から本件各社債取引者らに対し支払請求書が送付されなかったのであるから,本件各社債取引者らは本件認定公告で定められた請求の届出をすることはおよそ不可能であったというべきである。そうすると,本件認定公告で定められた届出期間内に請求がなされなかったとして,控訴人らの請求を認めないことは,著しく正義に反するものといわざるを得ない。したがって,本件認定公告で定められた請求の届出期間はその前提が満たされていないものであるから,請求の届出期間の定めとしての効力はなく,届出期間については定められていないというべきであって,控訴人らが訴えの提起によって被控訴人に対して行った補償金の支払請求は,法79条の56第3項に違反するものではないと解するのが相当である。

よって,控訴人らは,本件の各訴状の被控訴人への送達によって法79条の56第1項所定の「請求」をしたものというべきである。

(2)

そして,本件各社債取引者らが,別紙請求債権目録の請求金額欄記載の金銭を南証券に預託したから,控訴人らは,被控訴人に対して,同額の補償金を請求することができ,請求日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金が発生する。

以上によれば,これと異なる原判決は変更する必要があるから,主文のとおり判決する。

札幌高等裁判所第2民事部

裁判長裁判官

末永進

裁判官

千葉和則

裁判官杉浦徳宏は,転任のため署名押印できない。

裁判長裁判官

末永進

別紙

請求債権目録

番号

控訴人

請求金額

遅延損害金起算日

300万円

平成14年1月19日

H

100万円

同上

H

200万円

同上

H

200万円

同上

H

500万円

同上

H

300万円

同上

H

100万円

同上

H

500万円

同上

H

1000万円

同上

H

1000万円

同上

H

1000万円

同上

H

100万円

同上

H

200万円

同上

H

500万円

同上

H

500万円

平成14年8月29日

H

100万円

平成14年1月19日

H

100万円

同上

H

100万円

同上

H

500万円

同上

H

500万円

同上

H

100万円

同上

H

200万円

同上

H

500万円

同上

H

2000万円

同上

H

3000万円

同上

H

2500万円

同上

H

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/34751/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。