平成20年3月12日判決言渡
同日原本領収
裁判所書記官
平成19年(行ウ)第717号
再審査請求事件
口頭弁論終結日
平成20年2月6日
判決
神奈川県大和市〈以下略〉
原告
A
東京都千代田区霞が関一丁目1番1号
被告
国
同代表者
法務大臣
鳩山邦夫
処分行政庁
特許庁長官
肥塚雅博
同指定代理人
西尾健太郎
同
青木明子
同
山内孝夫
同
五十嵐伸司
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1
請求
特許庁長官は,原告が千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約に基づく国際出願(PCT/JP2006/307179)について平成18年8月18日にした国際予備審査の請求につき,請求項1~4,5~8,9~13,14,15,18及び20について,再審査をせよ。
第2
事案の概要
訴訟の概要
本件は,後記PCT条約に基づき,特許庁長官に対し国際出願をし,その後国際予備審査の請求をした原告が,特許庁審査官が作成した特許性に関する国際予備審査報告には間違いがあると主張して,再審査を求めた事案である。
2 PCT国際出願に関する関係法令の定め
(1) PCT条約の目的
千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(以下「PCT条約」という。)は,条約締結国間における出願手続の簡素化等を目的として,同条約に定める締結国共通の手続に基づく国際出願をすれば,その国際出願は,すべてのPCT条約加盟国に対して国内出願をしたと同じ扱いを得ることができることとした(PCT条約前文,3条,11条(3))。
(2) PCT国際出願の手続の概要
ア 「国内段階」での手続
PCT国際出願に係る手続は,「国際段階」での手続と「国内段階」での手続の二つに分けられる。
国内段階では,ある発明について特許権を付与するか否かの判断は,各国特許庁(指定官庁(PCT条約2条(xiii))又は選択官庁(PCT条約2条(xiv))が,それぞれの特許法に基づいて行っている。
すなわち,PCT国際出願は,飽くまで国際的な「出願手続」であり,PCT国際出願の発明がそれぞれの国々で特許として認められるためには,各国特許法所定の手続を行う必要がある。具体的には,優先日から30か月以内に,特許を取得したい国の指定官庁(又は選択官庁)に,PCT国際出願の明細書及び請求の範囲等の翻訳文を提出し,必要な手数料を支払う必要がある(PCT条約22条(1))。翻訳文の提出後,例えば日本の特許を取得するのであれば,日本国特許法が定める手続に基づいて審査が行われ,特許査定(特許法51条)又は拒絶査定(同法49条)がされ,拒絶査定に不服があれば,拒絶審査不服審判等が請求され(同法121条以下),審決に不服があれば,審決取消訴訟が提起されることになる(同法178条)。
イ
「国際段階」での手続
国際段階での手続は,受理官庁である自国の特許庁にPCT国際出願を行ってから上記翻訳文を提出するまでの手続をいう。
PCT国際出願は,国際段階においては,以下のように,PCT条約によって統一化された手続に基づいて処理される。
(ア)
方式審査
PCT国際出願は,国際的に統一された出願願書等の出願書類を,自国の特許庁(受理官庁)に所定の言語で作成し,提出する(PCT条約3条(4)(),特許協力条
ⅰ
約に基づく規則(以下「PCT条約規則」という。)12.1)。
PCT国際出願を受理した特許庁(受理官庁)は,提出された出願書類が,PCT条約所定の国際出願日認定のための要件(PCT条約11条(1))及び様式上の要件(PCT条約14条(1)(a))を満たしているかどうかの方式審査を行う。(イ)
国際調査
a
PCT国際出願は,すべて国際調査という先行技術調査に付される(PCT条約15条)。
b
また,国際調査機関は,国際調査報告と共に,国際調査機関の見解書(PCT条約規則43の2.1)を作成し,それらの写しを出願人及び国際事務局に送付する(PCT条約規則44.1)。国際調査機関の見解書は,PCT国際出願の発明が新規性,進歩性及び産業上の利用可能性を備えているかについての国際調査機関の予備的なかつ拘束力のない見解を示すものであり,後記(オ)の国際予備審査の過程において国際予備審査機関が作成する見解書と同じ基準に基づいて審査され,同じ性質を有するものである(PCT条約規則43の2.1(b)及び(c)参照)。c
特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律(以下「国際出願法」という。)8条1項は,特許庁長官は,国際出願につき,審査官に国際調査報告(PCT条約18条(1))を作成させなければならない旨規定している。
(ウ)
PCT条約19条に基づく補正
国際調査報告の送付の日から2か月,または優先日から16か月のうちいずれか遅く満了する期間までに,出願人は,国際事務局に,請求の範囲について1回に限り,PCT国際出願時における開示の範囲を越えない範囲内で補正をすることができる(PCT条約19条,PCT条約規則46.1)。
当該補正は,以下の国際公開と共に公開される。
(エ)
国際公開
PCT国際出願の内容は,優先日から18か月経過後速やかに,国際事務局によって,国際調査報告と共に,統一的に公開(国際公開)される(PCT条約21条)。また,国際出願は,国際事務局が指定官庁に送付する(同条約20条)。(オ)
国際予備審査
a
国際予備審査は,出願人の請求により(PCT条約31条(1)),国内段階に入る前に,PCT国際出願に係る発明が新規性,進歩性及び産業上の利用可能性を有するかどうかに関して,国際予備審査機関による予備的なかつ拘束力のない見解を示すものである(同条約33条(1))。
その報告は,出願人に送付される(PCT条約規則71.1,特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律施行規則(以下「国際出願法施行規則」という。)57条)。
この制度の目的は,出願人が特許取得の可能性を精査し,厳選した国においてのみ手続を継続させ,コストの効率化及び適正化を図ることを可能にすることにある。b
国際調査機関の見解書は,国際予備審査と同じ基準に基づいて審査され,同じ性質を有するものであるが,出願人が国際予備審査の請求を行うと,上記の国際調査機関の見解書に対して,正式の抗弁の機会が与えられることになる(PCT条約34条(2),PCT条約規則66.2(c),(d),66.3及び66.4)。c
予備的なかつ拘束力のないという国際予備審査の性質からして,審査官の見解を公式に見直すための規定は,発明の単一性の欠如における追加手数料の支払に対する異議申立てを除いて存在しない(PCT条約34条(3),PCT条約規則13,68.3)。
d
国際出願法12条1項は,特許庁長官は,国際出願につき,国際予備審査の請求があったときは,審査官に国際予備審査報告を作成させなければならない旨規定している。
前提事実
(1)
原告は,平成18年3月29日,平成17年4月18日を出願日とする特願2005-119427を基礎とするパリ条約に基づく優先権を主張して,発明の名称を「微弱電流施療具」とする発明(以下「本件発明」という。)につき,特許庁長官に対し,PCT条約に基づく国際出願(PCT/JP2006/307179。以下「本件国際出願」という。)をした。
(2)
特許庁審査官は,本件国際出願について,国際調査報告及び国際調査機関の見解書を作成し,特許庁は,原告に対し,平成18年6月20日,これらの書類を送付した。
(3)
原告は,国際事務局に対し,同年8月15日,PCT条約19条に基づく補正書を提出した。
(4)
原告は,同月18日,PCT条約32条の国際予備審査機関である特許庁長官に対し,国際予備審査の請求を行った。
(5)
同審査官は,本件発明は進歩性を欠くこと等を内容とする国際予備審査機関の見解書(PCT条約34条(2)(c),国際出願法13条)を作成し,特許庁は,原告に対し,同年10月10日,同見解書を送付した。
(6)
原告は,上記(5)の見解書を受け,特許庁に対し,同年11月7日,答弁書(PCT条約34条(2)(d),国際出願法13条)及び補正書(PCT条約34条,国際出願法11条)を提出した。
(7)
原告は,特許庁に対し,平成19年1月30日,答弁書及び補正書(PCT条約34条)を提出した。
(8)
原告は,特許庁に対し,同年4月16日,答弁書及び補正書(PCT条約34条)を提出した。
(9) 特許庁審査官は,同年6月13日,国際予備審査報告(以下,「本件国際予備審査報告」という。)を作成し,特許庁は,原告に対し,同年7月3日,それを送付した。
(以上,争いのない事実,乙1の1,弁論の全趣旨)
4 争点
(1) 義務付けの訴えの可否
ア 根拠法令
イ 処分性
ウ 重大な損害を生ずるおそれ等
(2) 再審査をすべきことが明らかであること
5 争点(1)ア(根拠法令)についての当事者の主張
(1) 原告の主張
本件国際予備審査報告の内容は,明らかに誤ったものであるから,特許庁長官が同報告について,再審査をさせるべきことは,明らかである。
(2) 被告の主張
原告の主張は争う。原告が再審査を求める法的根拠は,不明である。
6 争点(1)イ(処分性)についての当事者の主張
(1) 原告の主張
本件国際予備審査報告の作成は,処分性の要件(行政事件訴訟法(以下「法」という。)3条2項)を満たす。
(2) 被告の主張
ア 原告の主張は争う。
イ PTC国際出願に関する関係法令の定め(2)イ(オ)aのとおり,国際予備審査報告は,国際予備審査機関がPCT国際出願に係る発明が新規性,進歩性及び産業上の利用可能性を有するかどうかについて,「予備的なかつ拘束力のない見解」を示すものにすぎない。
争点(1)ウ(重大な損害を生ずるおそれ等)についての当事者の主張(1)
原告の主張
本件国際予備審査報告の再審査がされないことにより,原告に重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるために他に適当な方法がない(法37条の2第1項)。
(2)
被告の主張
原告の主張は否認する。
争点(2)(再審査をすべきことが明らかであること)についての当事者の主張(1)
原告の主張
ア
特許庁の担当審査官は,慣用的に無意識に,審査対象の発明の構成を起点として論理付けをし,進歩性等について間違った判断を含む本件国際予備審査報告を作成した。
イ
このように,本件国際予備審査報告の内容は明らかに誤ったものであるから,特許庁長官が同報告について再審査をさせる義務があることは,明らかである(法37条の2第5項)。
(2)
被告の主張
原告の主張は否認する。
第3
当裁判所の判断
争点(1)ア(根拠法令)について
(1)
はじめに
前提事実(9)のとおり,本件国際予備審査報告は,原告の請求により,平成19年6月13日に作成され,同年7月3日に原告に送付されており,国際予備審査は完了しているところ,原告は,本訴において,本件国際予備審査報告の取消しを求めるものではなく,その再審査を求めているものと解される。
しかも,原告がその再審査の申請をしたところ,その拒否処分を受けたとの主張はなく,また,処分の取消しの訴えを併合提起していないから(法37条の3第3項2号参照),非申請型(法3条6項1号)の義務付け訴訟を提起しているものと認められる。
(2) 根拠法令
原告は,本訴において,国際予備審査報告の再審査を求めるために根拠となる法令を指摘していないし,その根拠となる法令を見いだすこともできない。
(3) まとめ
したがって,本件国際予備審査報告の再審査を求める本件訴えは,法令上の根拠を欠く不適法なものであるといわざるを得ない。
2 争点(1)ウ(重大な損害を生ずるおそれ等)について
(1) 重大な損害を生ずるおそれ
PCT国際出願に関する関係法令の定め(2)イ(オ)のとおり,国際予備審査報告は,国際予備審査機関がPCT国際出願に係る発明が新規性,進歩性及び産業上の利用可能性を有するかどうかについて,「予備的なかつ拘束力のない見解」を示すものにすぎないものであることからすると,本件国際予備審査報告の再審査がされないことにより,原告に重大な損害を生ずるおそれがあるものと認めることもできない。これに反する原告の主張は,採用することができない。
(2) まとめ
したがって,本件訴えは,義務付け訴訟の要件を欠く点でも,不適法なものであるといわざるを得ない。
3 争点(2)(再審査をすべきことが明らかであること)について
(1) 職権による再審査
仮に,原告が再審査の根拠法令として職権による再審査をする義務があることを主張するものであり,本件訴えが他の点でも適法である場合に備えて,争点(2)について判断したとしても,原告が平成18年8月18日にした国際予備審査の請求につき,特許庁長官が再審査を命じないことが裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認めるに足りる証拠はない。
(2)
まとめ
したがって,本件請求は,理由がない。
結論
よって,本件訴えは不適法であるから,却下することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
市川正巳
裁判官
大竹優子
裁判官
宮崎雅子
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/36088/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。