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地裁判決

名古屋地判 平成19年10月15日

平成18年(わ)第2883号 談合,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件

裁判所
名古屋地方裁判所刑事第3部
裁判年月日
平成19年10月15日 (2007-10-15)
事件番号
平成18年(わ)第2883号
事件名
談合,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件
裁判の種類・結果
判決
判例集等
—
分野
刑事

判示事項

地下鉄建設に関して大手建設会社が独占禁止法3条違反(不当な取引制限)の罪に問われ,高額の罰金刑が言い渡された事例

判決

主文

被告会社株式会社甲を罰金2億円に,被告会社丙株式会社及び被告会社戊株式会社をそれぞれ罰金1億5000万円に,被告会社庚株式会社及び被告会社株式会社壬をそれぞれ罰金1億円に処する。

被告人乙を懲役3年に,被告人丁,被告人己,被告人辛及び被告人癸をそれぞれ懲役1年6月に処する。

この裁判確定の日から,被告人乙に対し5年間,被告人丁,被告人己,被告人辛及び被告人癸に対し3年間,それぞれその刑の執行を猶予する。理

由

(犯罪事実)

第1

被告人乙は,株式会社甲名古屋支店副支店長であったものであるが同支店営業部長A,株式会社B名古屋支店営業1部長C,同支店副支店長D,株式会社E名古屋支店営業部長F,同支店営業部副部長G及び別表1記載のH株式会社名古屋支店営業部長Iらと共謀の上,名古屋市上下水道局発注の土木工事に関する入札後資格確認型一般競争入札において,特定の土木建設業者が有利な価格で落札することができるよう入札参加業者間で談合することを企て,名古屋市上下水道局が平成17年3月9日に開札した「服部南部準幹線下水道築造工事」の入札後資格確認型一般競争入札に,上記株式会社B名古屋支店等19社が参加するに際し,公正な価格を害する目的で,同年2月上旬ころ,名古屋市

区

c丁目d番e号前記株式会社甲名古屋支店等において,同工事を

a

b

上記株式会社B名古屋支店に落札させるため,上記工事の落札を希望していた上記株式会社E名古屋支店においては,発注者である名古屋市上下水道局には秘匿した形態で上記株式会社B名古屋支店と共同企業体を結成し,反面,上記入札には参加しないことを取り決めるとともに,同年2月中旬ころから同年3月上旬ころまでの間,名古屋市a区fg丁目h番i号上記株式会社B名古屋支店等において,同支店以外の入札参加業者が上記Cの指定する価格で入札することを取り決めるなどの方法により,上記株式会社B名古屋支店以外の入札参加業者である18社が,上記株式会社B名古屋支店より高額で入札して同社に上記工事を落札させることを協定し,もって公正な価格を害する目的で談合した

上記A,株式会社J名古屋支店副支店長K,同支店土木営業部部長L及び別表2記載のM株式会社名古屋支店副支店長Nらと共謀の上,名古屋市上下水道局発注の土木工事に関する入札後資格確認型一般競争入札において,特定の土木建設業者が有利な価格で落札することができるよう入札参加業者間で談合することを企て,名古屋市上下水道局が平成17年3月9日に開札した「第2次当知雨水幹線下水道築造工事」の入札後資格確認型一般競争入札に,上記株式会社J名古屋支店を代表構成員とするJ・M・

特別共同企業体等9特別共同

O

企業体が参加するに際し,公正な価格を害する目的で,同年2月上旬ころ,上記株式会社甲名古屋支店等において,同工事を上記J・M・

特別共同企業体

O

が落札することを取り決めるとともに,同年2月中旬ころから同年3月上旬ころまでの間,上記株式会社甲名古屋支店等において,上記J・M・特別共同

O

企業体以外に入札に参加する業者として8特別共同企業体を指定するとともに,その8特別共同企業体においては上記Lの指定する価格で入札することを取り決めるなどの方法により,上記J・M・

特別共同企業体以外の入札参加業者

O

である8特別共同企業体が,上記J・M・

特別共同企業体より高額で入札し

O

て同特別共同企業体に上記工事を落札させることを協定し,もって公正な価格を害する目的で談合した

第2

被告会社株式会社甲,同丙株式会社,同戊株式会社,同庚株式会社,同株式会社壬の5社は,いずれも名古屋市交通局が発注する高速度鉄道に係る土木工事の請負業等を営む事業者であり,被告人乙は,上記株式会社甲名古屋支店顧問であったもの,同丁は,上記丙株式会社名古屋支店次長であったもの,同己は,上記戊株式会社名古屋支店営業部長であったもの,同辛は,上記庚株式会社中部支店副支店長であったもの,同癸は,上記株式会社壬名古屋支店次長であったものであり,それぞれその所属する被告会社の従業員として,同工事の受注等に関する業務に従事していたものであるが,被告人乙,同丁,同己,同辛,同癸は,同工事の請負業等を営む他の事業者の従業員らと共謀の上,それぞれその所属する被告会社の業務に関し,平成17年12月上旬ころから中旬ころまでの間,上記株式会社甲名古屋支店等において,面談等の方法により,名古屋市交通局が一般競争入札の方法で特別共同企業体に発注する高速度鉄道第6号線野並・徳重間延伸事業に係る土木工事に関し,各事業者の事業規模や実績等を勘案して,被告人乙の指示により,同工事の入札に参加する特別共同企業体の構成会社及び入札参加工区並びに各工区における受注予定の特別共同企業体を決定した上,当該受注予定の特別共同企業体が受注できるような価格で入札を行うなどする旨を合意するとともに,同合意に従って,上記事業に係る土木工事である高速度鉄道第6号線徳重第1工区土木工事等について,それぞれ上記丙株式会社名古屋支店を代表構成員とする特別共同企業体等を受注予定特別共同企業体と決定するなどし,もって被告会社等が共同して,名古屋市交通局発注に係る高速度鉄道第6号線野並・徳重間延伸事業に係る土木工事の受注に関し,相互にその事業活動を拘束し,遂行することにより,公共の利益に反して,同工事の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限したものである。

(証拠の標目)

(法令の適用)

被告会社株式会社甲,被告会社丙株式会社,被告会社戊株式会社,被告会社庚株式会社及び被告会社株式会社壬につき

罰条

第2

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

(以下「独占禁止法」という。)89条1項1号,

3条,95条1項1号

被告人乙につき

罰条

第1の1,2

いずれも刑法60条,96条の3第2項

第2

刑法60条,独占禁止法89条1項1号,3条,

95条1項1号

刑種の選択

第1の1,2,第2

いずれも懲役刑

併合罪の処理

刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い

第2の罪の刑に法定の加重をする。)

刑の執行猶予

刑法25条1項

被告人丁,被告人己,被告人辛及び被告人癸につき

罰条

第2

刑法60条,独占禁止法89条1項1号,3条,

95条1項1号

刑種の選択

第2

懲役刑

刑の執行猶予

刑法25条1項

(量刑の理由)

事案の概要

本件は,( )株式会社甲名古屋支店副支店長(犯行当時)であった被告人乙(以下単に「乙」という。)が,部下や多数の建設会社の従業員らと共謀の上,名古屋市上下水道局発注の下水道築造工事に関する入札後資格確認型一般競争入札において行った不正談合2件の事案(第1の1,2)及び,( )被告会社5社それぞれの従業員であった乙ら被告人5名が,他の多数の建設会社の従業員らと共謀の上,それぞれその所属する被告会社の業務に関し,名古屋市交通局が一般競争入札の方法で特別共同企業体(いわゆるJV)に発注する地下鉄桜通線野並・徳重間延伸事業に係る土木工事に関し,受注調整を行うなどして,同工事の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限したという独占禁止法違反(不当な取引制限)1件の事案(第2)である。

本件各犯行に至る経緯・各犯行状況・落札までの経過等

( ) 本件各犯行に至る経緯について

ア

東海地方(愛知県・岐阜県・三重県)には,古くから,各被告会社を含む全国的規模の建設会社の支店や県内大手建設会社が参加する,地方公共団体等発注に係る一般公共土木工事に関する受注調整を行う談合組織(「親和会」等と称した。)が存在し,各会社は,支店内や社内にいわゆる談合業務(受注調整業務)を担当する従業員を配置し,特に,各被告会社など大手の企業では,中心的役割を果たす「チーフ」等と呼ばれる者と,その下位にあってチーフを補助する「サブ」と呼ばれる者等,複数の担当者を配置するなどし,上記組織において受注調整を行っていた。

イ

乙は,昭和45年から,被告会社株式会社甲(以下単に「甲」という。)本店において,当時「談合のドン」と呼ばれていた者の下でサブとして談合業務に従事し始め,昭和51年8月ころ,チーフとして,同社名古屋支店に異動し,共犯者Aをサブとして,東海地方の談合業務を担当するようになった。被告人癸(以下単に「葵」という。)は,平成2年ころから被告会社株式会社壬(以下単に「壬」という。)名古屋支店のサブとして,被告人辛(以下単に「辛」という。)は,平成3年ころから被告会社庚株式会社(以下単に「庚」という。)中部支店のサブとして,それぞれ談合業務を担当するようになり,癸は平成4年ころ,辛は平成16年ころ,それぞれチーフとなった。

ウ

平成5年前後に埼玉土曜会事件,仙台ゼネコン汚職事件など談合に関する摘発が相次ぎ,親和会は解散することになったが,各会社の業務担当者の配置換えはほとんどなされず,実質的に談合組織は維持された。その後,平成6年ころまでには,乙が,その経歴,年齢,所属する甲の社格のほか,豊富な情報を背景に各会社に不満を抱かれないような受注調整をしたことで,各会社間の受注調整を仕切る(受注希望が競合した場合に調整する)ようになっていた。

エ

平成6年初めころ,被告会社戊株式会社(以下単に「戊」という。)名古屋支店及び被告会社丙株式会社(以下単に「丙」という。)名古屋支店が,相次いで談合組織から脱退したが,一定規模以上の公共工事ではJVの組成が入札条件とされていたところ,談合組織からの圧力によりJVを組むことができなくなり,入札に参加できない状態に陥った。そこで,当時戊名古屋支店土木営業部長であった被告人己(以下単に「己」という。)は,同年度中に同支店を談合組織へ復帰させ,チーフとして談合業務に携わるようになった。また,丙名古屋支店も同じ年に談合組織に復帰し,被告人丁(以下単に「丁」という。)は,平成7年ころから,同支店のサブとして談合業務に従事するようになり,平成10年ころチーフとなった。

オ

受注の調整にあたっては,対象となる工事の現場付近における従前の施工実績を意味する「立地」,発注者から当該工事の設計業務を受託したコンサルタント業者の設計図面作成に対する支援など,受注に向けた営業活動の熱心さを意味する「汗かき」,会社の規模を意味する「社格」などを基準として受注予定(受注本命)業者が決定された。乙は,前述のとおり,社格の優位性のみならず,豊富な情報力と調整の実績を背景として,長年にわたり,受注調整を仕切ってきており,本件各犯行当時,談合組織の中で最も強い発言力を持ち,甲より社格が下位の企業に対してはもとより,他のいわゆるスーパーゼネコンの担当者に対しても,強い影響力を行使できる立場にあった。

( ) 乙に係る第1の各犯行について

第1の1の談合の対象となった工事は,予定価格約3億5500万円の下水道築造工事である。乙の部下であったAは,乙の了承の下,工事現場付近の従前の工事実績,営業活動状況等を基準に,当該工事の受注を希望する建設会社の中から受注本命業者を株式会社B(以下単に「B」という。)と決め,落札を希望していた会社のうち株式会社J(以下単に「J」という。)等の担当者には落札断念を促して諦めさせ,株式会社Eについては,発注者に秘匿した形態でBとの共同企業体(裏JV)を結成させることで入札不参加を納得させるなどして,当て馬となって入札する企業を含め20社の受注調整を行い,その結果,Bが,約97パーセントの落札率(落札価格を予定価格で除した割合)で受注した。

第1の2の談合の対象となった工事は,予定価格約13億円の下水道築造工事である。Aは,当該工事の受注本命業者と考えていた株式会社Tが指名停止処分を受けたため,上記のとおり落札断念を促した経緯があったJをJVに入れることを企図し,乙の了承の下,当該工事の本命業者をJ,M株式会社及び株式会社

のJVとし,当て馬となる8JV(合計24社)の編成も決める

O

などの受注調整を行い,その結果,JらのJVが約97パーセントの落札率で受注した。

いずれにおいても,乙は,受注を希望する企業の担当者から話を聞き,Aから逐次報告を受け,その方針を承認し,最終的な裁定をするなどした。( ) 被告会社5社の従業員である被告人5名に係る第2の犯行についてア

不当な取引制限の対象となった工事は,通称名古屋市営地下鉄桜通線野並・徳重間延伸事業計画に係る土木工事で,具体的には,同線を約4.2キロメートル延長し,既存の野並駅の先に,「鳴子北」,「相生山」,「神沢」及び「徳重」の各駅並びに徳重車庫を築造する工事で,総工費は約400億円を上回ると見込まれ,国庫からも多額の補助金が投入されつつあった。名古屋市交通局は,上記延伸工事を,シールド工事(地下トンネル掘削)工区である「大塚工区」(野並駅・鳴子北駅間),「相川工区」(鳴子北駅・相生山駅間),「ほら貝工区」(相生山駅・神沢駅間),「緑黒石工区」(神沢駅・徳重駅間)並びに各駅及び徳重車庫の築造工事である「鳴子北駅工区」,「相生山駅工区」,「神沢駅工区」,「徳重第1工区」,「徳重第2工区」の合計9工区に分割して発注し,受注業者を一つの工区につき3社からなるJVによる一般競争入札により行うこととした。そして,平成17年12月7日に,「鳴子北駅工区」,「相生山駅工区」,「徳重第1工区」,「徳重第2工区」の4工区の入札公告を行った。

イ

乙は,他の被告人らを含め各企業のチーフ等から受注希望の工区を聞いた上,上記各工区における中核の企業(スポンサー)を,「鳴子北駅工区」については株式会社P(以下単に「P」という。),「相生山駅工区」については庚,「神沢駅工区」については壬,「徳重第1工区」については丙,「徳重第2工区」については戊と決め,平成17年12月上旬ころ,Pのチーフ,辛,癸,丁,己に対し,それぞれ各工区の受注本命JVのスポンサーになるよう指示し,辛らはこれを了承した。次いで,同月中旬ころには,上記受注本命JVの後順位構成員(ただし,神沢駅工区の3番手の企業を除く)となる会社を決めて,その会社の各チーフに伝えた。また,いわゆる談合情報が出た場合に,本命と当て馬を入れ替えることを可能にするために,戊JVが「徳重第1工区」の,丙JVが「徳重第2工区」のそれぞれ当て馬JVとなるようにも指示し,丁及び己はこれを了承した。また,乙は,同月中旬ころまでに,近い将来発注されるシールド工区に関して,「大塚工区」についてはQ株式会社,「相川工区」についてはR株式会社(以下単に「R」という。),「ほら貝工区」については甲,「緑黒石工区」については株式会社Sをそれぞれ受注本命JVのスポンサーとすることを決め,さらに,多くの企業をして駅工区工事の当て馬JVを組ませて協力させ,受注調整を行った。このようにして,同工事の受注に係る取引分野における競争を実質的に制限する行為が行われた。

( ) 落札までの経過等について

ア

平成17年11月に国土交通省幹部が,丙会長ら建設業界団体の責任者に対して,いわゆる談合体質是正を直接要望したことに端を発し,スーパーゼネコン各社の会長及び社長らが会合を持ち,「脱談合」で概ね合意し,副社長間で細目の検討が行われていたが,同年12月21日ころ,丙,甲,戊,Rの会長,社長,副社長らが集まり,検討結果が報告され,受注調整を止める時期を平成18年1月以降にするか,同年4月以降にするかについて話し合われた。しかし,受注調整済みの工事については白紙に戻すという趣旨の発言はなかった。その後,上記4社の副社長の間で,「平成17年度中に決まった談合については,これを粛々と行う。」旨の合意がなされた。このような中,平成17年12月29日,上記4社によるいわゆる「談合決別宣言」が新聞報道された。

イ

甲においては,平成17年12月26日ころ,乙が本社に呼ばれ,副社長及び常務から,「平成18年からは談合は止めるが,平成17年中に決まったものについては,粛々と談合による枠組みを実現して構わず,その点はスーパーゼネコン4社間で申し合わせ済みである。」旨説明された。翌27日ころには,Aを含む各支店の「サブ」レベルの業務担当らが本社に呼ばれ,前同様に専務取締役及び常務から,これまで決まっているものについては粛々と進める旨の説明を受けた。

丙においては,平成17年12月下旬ころ,本社の意向として,同月中までに調整行為で枠組みが決まるものについては,丙が先頭をきって壊さないようにする旨の指示が丁にも伝えられた。

戊においては,平成17年12月26日,己が副社長に決まっている物件はどうするか尋ねたところ,副社長から「今後は価格調整行為を一切してはいけない。」とのみ説明され,己は「入札価格の連絡をしなければ決まったとおりにしてもよい。」という意味と理解した。

その後の平成17年12月下旬ころ,甲名古屋支店において,乙,A,己,丁及びRのチーフが話し合い,決まったことはそのまま遂行することを確認した。

庚においては,平成18年1月上旬ころ,各支店のチーフを本社に集め,副社長が「枠組みが決まっている工事については,当社もその枠組みを崩さずに粛々とこれを守る。」旨説明した。

壬においては,平成18年1月の社長挨拶で談合を行わないようにとの発言がなされたほか,同月以降の新規の談合は厳禁である旨指示がなされたものの,調整済みの工事について明確な指示は示されなかった。

ウ

平成18年1月26日ころ,地下鉄桜通線延伸工事に関する談合情報が新聞で報道され,発注者である名古屋市から各被告会社等に対する事情聴取がなされたが,各被告会社の担当者はいずれも談合はしていない旨嘘の申述をした。その後,丁は,談合情報と異なる入札結果にすることで犯行を隠蔽しようと考え,「徳重第1工区」及び「徳重第2工区」の受注本命JVの入れ替えを己に提案し,己から,「徳重第2工区」の入札価格のおおまかな予定落札率を教えてもらうなどし,「徳重第2工区」を本命とすることにした。乙は,名古屋市が「乙・A」という仕切役の存在を把握している様子であったことから,副社長に対応を相談したが,名古屋のことは名古屋に任せるので,慎重にやってほしいとの返答しかなかったため,自己の保身や甲のために,「徳重第2工区」の工事について秘かに低価格で入札して受注する,いわゆる「潜り」に行き,談合情報と異なる入札結果を生じさせることで犯行を隠し通そうと決意し,その旨支店長に伝え,了承を得た。

エ

平成18年2月7日,「鳴子北駅工区」,「相生山駅工区」,「徳重第1工区」及び「徳重第2工区」の入札がなされ,翌日の開札の結果,それぞれ順に,PJVが予定価格約20億7000万円に対し約94.07パーセント,庚JVが予定価格約27億円に対し約94.33パーセント,戊JVが予定価格約66億9000万円に対し約92.78パーセント,丙JVが予定価格約64億6000万円に対し約92.25パーセントの各落札率で受注し,甲は,「潜り」に行ったが,失敗した。「神沢駅工区」は,同年4月19日に入札公告がなされ,同年6月5日に開札した結果,壬JVが予定価格約27億5000万円に対し,約92.65パーセントの落札率で落札した。

量刑上考慮した事情

( ) 独占禁止法違反事件についての全般的情状

ア

不当な取引制限の対象となった工事は,名古屋市営地下鉄の延伸工事という名古屋市の交通政策等の要となる公共事業であり,土木工事だけで400億円以上もの巨額の工費が見込まれ,名古屋市民の税金や国庫の補助金が投入される大事業であった。そのような公的かつ大規模な事業に対し,各被告会社をはじめ東海地方に支店を置く大企業や県内の主要な建設会社の従業員が参加する談合組織によって受注調整が行われ,受注本命業者等が決定されていたものであり,公正で自由な競争を阻害する程度は著しく,その社会的影響は極めて大きい。

癸の弁護人は,談合は,過当競争を防ぎ,手抜き工事による重大事故発生の危険を減らすとともに,日本の公共調達システムに存した契約条件や価格の硬直性に伴う建設業者の経営リスクを回避する機能をも有し,建設業者の経営・雇用の安定,更には国民経済の安定に寄与してきた面があると主張するが,本件談合組織による受注調整の目的は,専ら,納税者の負担の下,談合組織の構成会社の利益(共存共栄)を図ろうとするもので,到底容認できるものではなく,派生的に弁護人主張のような側面があるとしても,本来,それらの問題は,落札者が適正な利潤を得られるような入札制度の整備,工事に対する監理体制,中小企業の保護政策,雇用制度等によって対処されるべきものであって,量刑上しん酌すべき事情とはいえない。

イ

本件談合組織は,本件以前からその構成員を変動させつつも30年以上の永きにわたって存続し,組織に参加する建設会社の「共存共栄」を目的に,談合による高値安定受注と各社間の受注の調整を行うなどしてきたもので,平成6年ころには,スーパーゼネコンを最上位とし,スーパーゼネコンに準じる企業,中堅ゼネコン,地元業者等によって階層的に構成され,乙を仕切役とする談合組織となって,本件犯行に至っている。その間,談合から離脱しようとする企業に対しては,一致団結してJVを組むことを拒否することで当該企業が実質的に入札に参加できないようにするなど,その結束力・市場支配力は極めて強固であり,自由な競争を担保する手段としての入札制度の実効性を全くといってよいほどに失わせている。そして,そのことは,本件犯行についても,何ら異ならず,本件は,組織的,常習的な犯行である。また,受注調整にあたっては,書面に残すことを控え,談合業務担当者同士の口頭による確認で済ませるなどし,受注本命業者は,予定価格の一定の割合以下で,それ以外の各社はその割合以上で入札することにして,受注本命業者の落札に協力していたほか,談合情報が発注者の下に寄せられた場合に備えて,予め受注本命業者間で受注工区を入れ替えられるように仕組んでおき,状況に応じて入替えを行うことで談合情報の信用性を貶め,受注調整が発覚することを防ごうとしており,犯行の手口は,計画的かつ巧妙である。ウ

各被告会社は,名古屋市内の基幹支店に,専ら談合業務を担当する者を複数配置し,その「チーフ」である被告人らを,それぞれ顧問,副支店長,支店次長,営業部長といった重要な役職に付け,長年にわたって常習的な受注調整行為に関与させ続けていたものであり,各被告会社は,利益追求のため,その従業員である被告人らを使って,会社ぐるみで犯行に及んだものに他ならない。

また,談合体質が改まらないことから,独占禁止法の罰則が強化されるなどしてきたことは,周知の事実であり,各被告会社ともそのことを十分認識し,現に,甲,丙及び戊の各被告会社にRを加えたスーパーゼネコン4社にあっては,本件取引制限が行われた後の平成17年12月下旬に,各代表者が共同して,「談合決別宣言」を行っている。それにもかかわらず,甲,丙及び戊においては,既に受注調整済みの工事については,その存在を認識しながら,白紙に戻すことによる混乱や発覚による非難等を恐れ,対処方針を明らかにせず,その副社長等においては,被告人らに対し,調整済みの工事についてそのとおり実行する旨述べるなどしている。庚及び壬においても,上記のような談合決別の動きを認識しながら,やはり,受注調整済みの工事はそのまま実行することを容認している。一部の被告会社及び被告人の弁護人は,本件は談合体質からの脱却の過渡期において生じた事件であり,それぞれの被告会社は,既に談合体質から脱却するため種々の施策を推進していたと主張するが,談合体質からの脱却の過渡期にあったということを考慮しても,各被告会社の談合決別への取り組みは,「談合決別宣言」とは裏腹に不十分なものであったといわざるを得ない。また,社会に対する背信性の程度も甚だしい。

加えて,談合情報が報道された後も,各被告会社は,名古屋市の事情聴取に対し,それぞれ会社内部で口裏を合わせて受注調整は行っていない旨虚偽の説明をした上,虚偽の誓約書まで提出して,受注調整がなされたことを隠蔽しようとしている。談合決別宣言の際に,各被告会社において,受注調整済みの工事についても白紙に戻すとの断固とした判断を行っていれば,あるいは談合情報が流れた際の事情聴取において真実を告げておれば,その後の入札,受注はなかったものと考えられる。最後まで談合体質を改めることのできなかった各被告会社の責任は重い。

エ

本件発覚前に入札の行われた駅工区の各工事について,本件受注調整によって本命とされた各被告会社及びPをそれぞれスポンサーとするJVが落札しており,受注調整が現実のものとなり,自由な競争がなされないまま,合計206億円余りの工事予定価格に対して落札額合計192億円余り,落札率にして約92パーセント強から約94パーセント強で落札され,巨額の契約が成立したことも情状として軽視できない。

なお,検察官は,本件の発覚後に行われたシールド工区の競争入札における落札率は53.7ないし62.8パーセントであることを根拠に,本件が多数の名古屋市民及び国民に多大な損害を与えたと主張するが,シールド工区については,談合の発覚により各被告会社等に対する社会的な非難が集中するなどした厳しい状況下で,企業が,様々な思惑から採算を度外視した受注に走った可能性も否定できないというべきであり,シールド工区の落札率を根拠に本件駅工区の損害の多寡を判断することはできない。もっとも,本件における落札価格は,受注本命JVは予定価格の95パーセントを下回る価格,当て馬JVは95パーセントを上回る価格でそれぞれ入札するという「95パーセントルール」と称する取り決め(後に一部の工区で,93パーセントに変更されたと認められる。)に従っているところ,予定価格に対して高い落札率を維持しているのであるから,それを適正な自由競争の下で決定されるはずであった価格と差がないとみるのも正当ではなく,相当差があった可能性も考えられるのであって,そのような可能性を奪い,名古屋市に,自由競争の結果ではなく,受注調整によって決まった高い落札率による価格を基準として巨額の支出を余儀なくさせたこと自体が,強い非難に値するというべきである。

( ) 各被告会社及び各被告人の情状

ア甲

甲は,スーパーゼネコンと呼ばれる国内有数の大企業で,建設業界でのリーダー的存在であり,率先して独占禁止法を遵守し,他の企業に範を示す立場にあったといえる。しかるに,甲は,乙を談合業務担当者として名古屋支店に配置し,約30年間にわたって業務を担当させ,その間,談合組織の中核的存在になった乙を副支店長などの要職に就け,専用の執務室及び建設業者と面談するための応接室を与えるなど厚遇し,平成17年4月に,乙が定年になった後も顧問として再雇用して,その発言力や受注調整の恩恵に浴し,また,乙の下で発言力を強めていたAにも専用の応接室を与えるなどして,組織として積極的に談合に関わり,受注調整により受注した公共工事を請け負うことで収益を上げてきたもので,本件独占禁止法違反はその一環であり,結局のところ,甲が東海地方における談合をリードしてきたものと評価されてもやむを得ないというべきである。

甲の弁護人は,「談合組織の調整役の地位にあった乙を雇用していたとの一事をもって,他社と比して特に悪質と考えることは,現実と相当乖離する」などと主張するが,既に述べたとおり,甲が単に乙を雇用し,その監督責任を怠っていただけなどとは到底いえず,甲が,乙の果たした役割に応じて,他社と比べ重い責任を負うことは当然である。

加えて,平成17年12月に談合決別宣言を出した後も,受注調整済みの工事については,決まったとおり実行することを指示し,乙やAのポストもそのままにし,本件犯行の談合情報に関して名古屋市から事情聴取された際も口裏合わせ等の隠蔽工作を行っている。さらに,甲は,これまで繰り返し独占禁止法に基づく警告や課徴金納付命令を受けてきており,甲における根深い談合体質が明らかである。

しかしながら,他方で,本件発覚により,多数の自治体等から指名停止措置等の経済的制裁を受けたこと,国土交通省から営業停止処分を受ける見込みであること,現社長が,今後は法令を遵守し,特に談合及び独占禁止法違反は,公正取引委員会の行政処分の対象となるものも含め,二度と起こさない旨誓っていること,本件犯行当時の社長も反省と謝罪の弁を述べたこと,役員の報酬の一部返上,役員の辞任等,関係者の社内処分を行ったこと,再発防止策を策定するなど,法令遵守徹底の姿勢を示していること等,甲にとって酌むべき事情も認められる。

そこで,これらの情状を総合考慮し,甲を罰金2億円に処することにした。イ

乙

乙は,長年にわたって談合業務を担当し,平成6年ころからは,本件談合組織の中核的存在となり,受注調整の仕切役を務めてきたもので,その権限と発言力は絶大であり,本件独占禁止法違反の犯行においても,その役目を遺憾なく発揮し,他の企業の談合担当者から受注の希望を聞いた上,部下のAを補助者として使い,受注本命業者の決定自体のみならず,裏JV結成,当て馬JV編成も含めて調整するなどしており,その果たした役割は,他の被告人と比べ,格段に大きい。そして,同犯行に関する談合情報が流れて発覚しそうになるや,「潜り」まで行って,談合情報の信用性を低下させて,犯行の隠蔽を図ろうとしている。さらに,乙は,2件の下水道築造工事の談合でも起訴されているが,このうち第1の1の犯行は予定価格約3億5500万円,談合に関与した企業は20社,第1の2の犯行は予定価格約13億円,談合に関与した企業は27社と,いずれも大規模である。乙は,Aが行った受注調整を承認,裁定し,その結果,自由な競争が妨げられ,それぞれ予定価格に対する約97パーセントもの高い落札率で受注本命の企業やJVが落札しており,これらの犯行に対する刑責も軽視できない。

加えて,乙が,受注調整に関する絶大な権限を背景に,一部の企業から,数十万から百万円単位での現金・商品券の贈与を含む様々の便宜供与を長年にわたって受けてきており,かかる私利を得られることも,乙が仕切役を続けた動機であって,甲の職務行為としての領分を超えて,私腹を肥やしていた点は強い非難に値する。

乙の刑事責任は,それ自体重いといわざるを得ない。

しかしながら,他方で,乙といえども,既に存在した談合組織に,企業の一員として後から参加したものであり,その後絶大な権限と発言力を持つようになっても,談合組織に参加している企業の「共存共栄」を図るという枠内でのものであり,また,その所属する甲の意向を離れてのものではなかったこと,その甲が組織ぐるみで受注調整に加担し,談合決別の動きの中でも,乙やAに対し,既に受注調整済みの案件についてはそのとおり実行する旨指示したことが,本件における受注調整を生み,それがそのまま継続して入札へと至ったといえること,乙は,平成18年1月以降は,受注調整を控えていた様子がうかがわれ,「徳重第1工区」と「徳重第2工区」との入れ替えや,「神沢駅工区」におけるJVの3番手企業の選任は,他の被告人らにおいてなされていること,乙は,捜査,公判を通じて各犯行を認めるなど反省の態度を示し,業者からの付け届け等の名目で受け取った現金・商品券等について修正申告を行い,所得税等として合計1403万5000円を納税した上,自宅マンションを売却するなどして,合計5500万円を日本弁護士連合会,あしなが育英会等に贖罪寄付して,業者から受けた利益を社会に還元したこと,前科・前歴がないこと,現在71歳と高齢で,複数の持病があり,健康状態が優れない様子であること,妻が乙の更生に助力する旨述べていること等,乙にとって酌むべき事情も認められる。

そこで,これらの諸情状を総合考慮し,乙を懲役3年に処した上,5年間の執行猶予を付すことにした。

ウ

丙,戊,庚,壬

丙及び戊は,甲と同様,スーパーゼネコンと呼ばれる国内有数の大企業であり,率先して独占禁止法を遵守し,他の企業に範を示す立場にあったといえる。しかるに,両被告会社は,少なくとも約30年前から談合業務担当者を名古屋支店に配置し,談合組織に参加し,同じころ,一時同組織から離脱しようとしたことはあったものの,長年にわたって談合を繰り返してきたもので,両被告会社が他のスーパーゼネコンとともに談合組織を最上位において支え,下位の企業を同組織に参加させる役割を果たしてきたものといえる。また,庚は,スーパーゼネコンに次ぐ大企業であり,壬も中堅クラスの全国企業で,率先して独占禁止法を遵守すべき立場にあったといえる。しかるに,両被告会社においても,古くから談合業務担当者を名古屋市内の支店に配置し,談合組織に参加し,幹事会社として,長年にわたって談合を繰り返してきたもので,果たしてきた役割は小さくない。

そして,本件当時,丙は丁を,戊は己を,庚は辛を,壬は癸を,それぞれ東海地方の談合業務に従事させ,要職に就けるなどして厚遇し,組織として積極的に談合に関わり,談合により受注した公共工事を請け負うことで収益を上げてきたもので,本件独占禁止法違反はその一環であり,結局のところ,上記被告会社4社が,組織として受注調整を行ってきたものと評価されてもやむを得ないものというべきである。そして,本件受注調整の後,談合情報が流れて一部受注予定の工区が入れ替わるということがあったものの,予定価格64億円余という「徳重第2工区」を丙を中核とするJVが,予定価格66億円余という「徳重第1工区」を戊を中核とするJVが,予定価格27億円余という「相生山駅工区」を庚を中核とするJVが,予定価格27億円余という「神沢駅工区」を壬を中核とするJVが,それぞれ92パーセント強ないし94パーセント強の高い落札率で落札するに至っている。加えて,上記被告会社4社は,談合決別宣言が出た後も,受注調整済みの工事については,決まったとおり実行することを指示し,あるいは明確な指示を出さなかったこと,談合情報に関する名古屋市の事情聴取に対して,いずれも口裏合わせ等の隠蔽工作を行っていたことは前述したとおりである。さらに,上記被告会社4社とも,これまで独占禁止法に基づく警告や課徴金納付命令を受けてきており,根深い談合体質及び法令遵守の意識の乏しさは明らかである。

しかしながら,他方で,上記被告会社4社とも,本件発覚により,多数の自治体等から指名停止措置等の経済的制裁を受けたこと,国土交通省から営業停止処分を受ける見込みであること,公正取引委員会の課徴金納付命令に応じて課徴金を支払わなければならないとともに,名古屋市に対して約定の請負代金額の10パーセントないし15パーセント相当額の損害賠償金をJVを組んだ他の企業とともに支払わなければならなくなること,丙は,社長が,今後は再発防止策を徹底させ,二度とこのような事態は起こさない旨公判廷において述べたこと,戊も副社長が公判廷で,本件のようなことはこれを最後にする決意の下,全役職員が心を一つにして取り組んでいる旨陳述したこと,庚も社長らが出廷し,社長が,JVを組成する必要がなく単独で入札できるような分野などで,技術力と価格競争力で勝負し,談合からの決別に向けて努力する旨述べていること,壬は,副社長等が出廷し,反省と謝罪を表明するとともに,副社長が,今後このようなことがあれば市場からの撤退を迫られるとの危機感を持ち,全社一丸となって再発防止に取り組む旨述べていること,それぞれ,役員の報酬の一部返上,関係者の社内処分を行うとともに,再発防止に向けた体制整備を行っていること等,上記被告会社4社にとって酌むべき事情も認められる。

そこで,これらの情状を総合考慮し,丙及び戊をそれぞれ罰金1億5000万円に,庚及び壬をそれぞれ罰金1億円に処することにした。

エ

丁,己,辛,癸

上記被告人4名は,それぞれ期間の長短や役職の違いはあるものの,長年にわたって,それぞれが所属する被告会社の名古屋(中部)支店の談合業務を担当し,本件においても,所属する被告会社の代表として,乙らに受注希望の工区を伝えるなどし,乙の裁定したところに従って受注本命業者が受注できるよう協力するなどして,受注調整に関与したもので,その果たした役割は軽視できない。上記被告人4名については,乙のような仕切りは行っていないが,受注の希望はきちんと乙に伝えており,その後は,談合組織のルールに則って企業間で不満の出にくい受注調整を行うことのできる乙の手腕に任せ,その調整に従い,利益を享受していたもので,上記被告人4名が乙の指示に従っていたことをもって,同人に対し全く一方的に服従する関係にあったとみることはできない。

加えて,丁は,談合情報が流れた際は,談合情報と異なる入札結果にすることにより犯行を隠蔽しようとして,自己の判断で,「徳重第1工区」及び「徳重第2工区」の各受注本命JVの入れ替えを己に申し入れ,己も戊のおおまかな予定落札率を伝えるなどし,入れ替えが実現する結果となっている。また,己は,平成6年ころに戊が談合組織から離脱したものの,他の企業にJVを組んでもらえず,入札ができない状態になった時,同組織への復帰を決めている。

癸は,中堅クラス以下のゼネコンの業務担当者から希望を聞き,乙やAに伝えるなど積極的に受注調整に協力している。また,癸は,JVを組む3番手の企業を独自に見つけてJVを完成させるなどしている。

上記被告人4名の刑事責任は,それぞれ決して軽くない。

しかしながら,上記被告人4名のうち,己以外の者は,自らの積極的意思というより,既に各自の会社が受注調整に加わっていた中で,会社業務の一環として先任者の談合業務を引き継がざるを得なかった側面があること,本件談合組織及び受注調整の枠組み自体は,上記被告人4名の関与以前から存在し,本件もその枠組みに従ったに過ぎない側面があることが認められる。また,いずれも私利を図った様子はうかがえない。

さらに,丁が捜査,公判を通じ,反省の態度を示していること,昭和54年の業務上過失致傷罪による罰金前科以外に前科がないこと,諭旨退職処分とされたこと,妻が寛大な処分を望む旨の上申書を提出したこと等,同被告人にとって酌むべき事情も認められる。

また,己については,捜査,公判を通じて反省の態度を示していること,前科が見あたらないこと,妻が寛大な処分を望む旨の上申書を提出していること等,同被告人にとって酌むべき事情も認められる。

辛についても,捜査,公判を通じて反省の態度を示していること,前科がないこと,庚から諭旨解雇されたこと,妻が出廷し,家族力を合わせて辛を支えていく旨述べていること等,同被告人にとって酌むべき事情も認められる。

癸についても,捜査,公判を通じて反省の態度を示していること,前科がないこと,壬から懲戒解雇されたこと,今後はボランティアをして余生を過ごす旨述べて更生の意欲を示していること,妻が出廷し,癸の更生に協力する旨述べていること等,同被告人にとって酌むべき事情も認められる。そこで,これらの諸情状を総合考慮し,丁,己,辛,癸の各被告人を各懲役1年6月に処した上,それぞれ3年間の執行猶予を付すことにした。(求刑

被告会社株式会社甲につき罰金2億円,同丙株式会社及び同戊株式会社につきそれぞれ罰金1億5000万円,同庚株式会社及び同株式会社壬につきそれぞれ罰金1億円,被告人乙につき懲役3年,同丁,同己,同辛及び同癸につきそれぞれ懲役1年6月)

平成19年10月23日

名古屋地方裁判所刑事第3部

裁判長裁判官

村田健二

裁判官

森島聡

裁判官

谷地伸之

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/36764/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。