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地裁判決請求棄却

東京地判 平成20年9月29日

平成19年(ワ)第10469号 職務発明対価請求事件

裁判所
東京地方裁判所
裁判年月日
平成20年9月29日 (2008-09-29)
事件番号
平成19年(ワ)第10469号
事件名
職務発明対価請求事件
裁判の種類・結果
判決 請求棄却
判例集等
—
分野
民事・知的財産・特許権・民事訴訟
この事件の審級
  1. 第一審東京地判平成20・9・29(請求棄却)
  2. 控訴審知財高判平成22・8・19(原判決変更)

平成20年9月29日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

平成19年(ワ)第10469号

職務発明対価請求事件

口頭弁論終結日

平成20年7月11日

判決

東京都江戸川区〈以下略〉

原告甲

同訴訟代理人弁護士

御器谷修同島津守同梅津有紀同栗田祐太郎

東京都港区〈以下略〉

被告ソニ

ー

株式会社

同訴訟代理人弁護士

熊倉禎男同富岡英次同水沼淳同小和田敦子主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1

請求

被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成18年12月22日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要

本件は,被告の元従業員である原告が,被告に対し,被告在職中にした「半導体レーザ装置」に関する発明等,合計6件の職務発明について特許を受ける権利を被告に承継させたとして,特許法(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下「改正前特許法」という。)35条3項に基づき,上記承継の相当の対価である金7億5378万円のうち,一部請求として金1億円及びこれに対する平成18年12月22日(原告が,被告に対し,上記承継の相当の対価の未払額の支払を請求した日の翌日)から支払済みに至るまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

前提となる事実(争いがない事実以外は証拠等を末尾に記載する。)

(1) 当事者等

ア 原告(甲42,乙31,弁論の全趣旨)

原告は,昭和49年,被告に入社し,同社において,主に被告製品に搭載されるデバイス部品の開発に携わっていた。

原告は,昭和60年10月ころ,精密モーター及びその構成部品の開発を担当していた部品事業部精密機器部開発1課から,光学ピックアップ事業を担当していた同部技術3課へ異動し,半導体技術を応用した新しい光学ユニット素子の開発業務を引き継ぎ,以後,同業務に従事した。原告は,平成15年3月1日,財団法人工業所有権協力センター(以下「IPCC」という。)に出向し,平成16年3月31日,被告を退職して,被告関連会社のソニー・ヒューマンキャピタル株式会社に入社し,引き続き,IPCCに出向していたが,平成18年9月1日,IPCCに転籍した。

イ 被告等(乙21,弁論の全趣旨)

(ア) 被告は,電子・電気機械器具の製造,販売等を業とする株式会社である。

(イ) 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下「SCE」という。)は,平成5年11月16日,被告及び株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントとの共同出資で設立され,平成16年4月,被告の完全子会社となった。

(2) 原告の職務発明

ア 原告は,被告在職中の昭和60年12月ころから平成元年12月ころにかけて,被告従業員の乙,丙らと共同で,光ディスク用光学ピックアップ(光ディスク上のデータの再生,記録を行うための部品)に関する6つの職務発明を行い,被告は,原告及び他の被告従業員らから,それらの各発明について特許を受ける権利を承継した。(弁論の全趣旨)

被告は,上記各発明について,我が国ないし米国において,特許出願し,次のとおり,6つの特許権が,それぞれ設定登録された(以下,それらの特許を,「本件特許A」,「本件特許B」などといい,「本件特許A」ないし「本件特許F」を総称して,「本件各特許」という。また,それらの特許に係る特許発明を,「本件発明A」,「本件発明B」などといい,「本件発明A」ないし「本件発明F」を総称して,「本件各発明」という。)。(甲37,弁論の全趣旨)

(ア) 本件特許A〔日本特許〕(甲2)

発明の名称半導体レーザ装置

発明者乙,原告,丙

特許番号第1997641号

出願年月日昭和61年2月24日

公告年月日平成7年3月29日

登録年月日平成7年12月8日

特許請求の範囲(請求項1)

半導体基板に形成されている光検出器と,この光検出器

上に固定されており半透過反射面と少なくとも1つの反

射面とを有しているプリズムと,

前記半導体基板に固定されている半導体レーザとを夫々

具備し,

この半導体レーザから射出されて前記半透過反射面で反

射されるビームを照射ビームとして用いると共に,

前記半透過反射面へ入射してこの半透過反射面を透過し

更に前記反射面で反射されるビームを前記光検出器で検

出する様にした半導体レーザ装置。

(イ)

本件特許B〔日本特許(甲3)

〕

発明の名称

フオーカス検出装置

発明者

乙,丙,原告

特許番号

第2031478号

出願年月日

昭和61年2月24日

公告年月日

平成7年7月19日

登録年月日

平成8年3月19日

特許請求の範囲(請求項1)

半導体基板に固定されている半導体レーザと,

前記半導体基板に固定されているプリズムと,

このプリズムのうちで前記半導体レーザに対向している

第1の面に形成されている第1の半透過反斜面と,

前記プリズムのうちで前記半導体基板に対接している第

2の面であって且つ前記第1の半透反射面を透過した後

のビームが入射する位置に形成されている第2の半透過

反斜面と,

前記プリズムのうちで前記第2の面に対向している第3

の面であって且つ前記第2の半透過反射面で反射された

後の前記ビームが入射する位置に形成されている反射面

と,

前記半導体基板のうちで前記第2の半透過反斜面に対接

している位置に形成されており一定の方向に並んでいる

3個の光検出部を有している第1の光検出器と,

前記半導体基板のうちで前記反射面で反射された後の前

記ビームが入射する位置に形成されており前記一定の方

向に並んでいる3個の光検出部を有している第2の光検

出器とを夫々具備し,

前記半導体レーザから射出されて前記第1の半透過反射

面で反射されたビームによって光学記録媒体を照射し,

前記第1の半透過反斜面を透過した前記光学記録媒体か

らのビームを前記第2の半透過反射面で反射した後であ

って且つ前記第2の光検出器へ入射する前に収束させ,

前記第1の光検出器における両側の前記光検出部及び前

記第2の光検出器における中央の前記光検出部の夫々に

よる検出信号の和と前記第1の光検出器における中央の

前記光検出部及び前記第2の光検出器における両側の前

記光検出部の夫々による検出信号の和とを比較すること

によって前記光学記録媒体のフォーカス誤差信号を得る

様にしたフォーカス検出装置。

(ウ)

本件特許C〔日本特許(甲4)

〕

発明の名称

光学ヘツド

発明者

原告,丙,乙

特許番号

第2006540号

出願年月日

昭和61年12月23日

公告年月日

平成7年4月26日

登録年月日

平成8年1月11日

特許請求の範囲(請求項1)

光源から射出されたビームの光軸に対して傾斜しており

前記ビームを反射させて光学記録媒体へ導くと共にこの

光学記録媒体から戻ってきた前記ビームを透過させる第

1の面を有するビームスプリッタを具備する光学ヘッド

において,

前記第1の面を透過した前記ビームのサジタル光線の焦

線と前記第1の面との間に配されており前記第1の面を

透過した前記ビームの所定部を透過させると共に残部を

反射させる第2の面を前記ビームスプリッタが有してお

り,

前記第2の面とは反対側に配されておりこの第2の面で

反射された前記ビームの全部を反射させる第3の面を前

記ビームスプリッタが有しており,

前記ビームの光軸と前記焦線とに対して垂直な方向へ3

分割されている光検出部を有する第1の光検出器が前記

第2の面を透過した前記ビームの光路中に配されてお

り,

前記ビームの光軸と前記焦線とに対して垂直な方向へ3

分割されている光検出部を有する第2の光検出器が前記

第3の面で反射された前記ビームの光路中で且つ前記焦

線から前記第1の光検出器とは反対の方向へ前記焦線と

前記第1の光検出器との間の光学的距離だけ離間して配

されており,

前記第1及び第2の光検出器の一方の光検出器の両側の

前記光検出部からの検出出力及び他方の光検出器の中央

の前記光検出部からの検出出力の和と前記一方の光検出

器の中央の前記光検出部からの検出出力及び前記他方の

光検出器の両側の前記光検出部からの検出出力の和との

差分を出力する演算器が設けられており,

前記差分をフォーカス誤差信号とする様にした光学ヘッ

ド。

なお,本件特許Cの対象となった本件発明Cについては,米国特許権も設定登録されている。

(エ)

本件特許D〔日本特許(甲5)

〕

発明の名称

光学ヘツド

発明者

原告,丙,乙

特許番号

第2508478号

出願年月日

昭和62年2月6日

登録年月日

平成8年4月16日

特許請求の範囲(請求項1)

光検出部が形成された基板と,

レーザ光源と,

上記基板の上記光検出部上に接着剤により接着固定さ

れ,上記レーザ光源からの出射光を反射するとともに媒

体からの戻り光を透過する半透過反射膜を有する光学部

品とを備え,

上記光学部品の屈折率n を上記接着剤の屈折率n よりも

大きく(n >n )したことを特徴とする光学ヘッド。

なお,本件特許Dの対象となった本件発明Dについては,米国特許権も設定登録されている。

(オ)

本件特許E〔日本特許(甲6)

〕

発明の名称

発光・受光複合素子

発明者

丙,原告,丁,乙,戊,己

特許番号

第2590902号

出願年月日

昭和62年7月30日

登録年月日

平成8年12月19日

特許請求の範囲(請求項1)

半導体基板と,該半導体基板の主面上に配された発光素

子と,上記半導体基板の主面に形成された,上記発光素

子からの光を受ける受光素子と,該受光素子の受光面に

接する如く上記半導体基板の主面上に配された光路分岐

用光学部品とを有する発光・受光複合素子に於いて,

上記光路分岐用光学部品内で反射,散乱して,上記受光

素子に入射する光の伝播を阻止する阻止手段を,上記光

路分岐用光学部品に設けたことを特徴とする発光・受光

複合素子。

なお,本件特許Eの対象となった本件発明Eについては,米国特許権も設定登録されている。

(カ)

本件特許F〔米国特許(甲7の2ないし3)

〕

発明の名称

Tracking error signal generator with DC offset cancellation 光学装置のトラッキング誤差信(

号生成装置)

発明者

原告,戊

特許番号

5,181,195

出願年月日

1991年5月16日

登録年月日1993年1月19日

特許請求の範囲

光ディスク上の記録トラック方向で2つの光検出部に分

割された光検出器により,光学ピックアップから光ディ

スクに照射された光束を検出し,分割された光検出器か

らの出力によって光束を記録トラックに沿うように制御

するトラッキングエラー信号を生成するためのトラッキ

ングエラー信号生成器。

トラッキングエラー信号生成器は,光ディスク上の記録

トラック方向で分割された光検出器の第1及び第2の光

検出部分からの出力信号のピーク値を検出するための第

1及び第2の検出手段と,第1ピーク検出手段の出力と

第1光検出部の出力のそれぞれに1より小さい係数を乗

算して得られた信号と第2ピーク検出手段の出力と第2

光検出部の出力のそれぞれに1より小さい係数を乗算し

て得られた信号との差動信号を形成するための演算手段

とから構成される。

なお,本件特許Fの対象となった本件発明Fについては,日本において,平成2年5月18日に出願され(特願平2-126587),平成4年1月27日に出願公開されている(特開平4-23234)。(甲7の1)

イ 光学ピックアップの光学系の方式として,半導体基板上にレーザー発光部と受光部を一体的に形成したレーザーカプラー方式(集積型)のほか,ディスクリート方式(個別型)及びホログラム方式(集積型)が実用化されているところ,本件各発明は,いずれもレーザーカプラー方式の光学ピックアップに用いられるものである。(甲23,乙21)

また,光学ピックアップにおけるフォーカス誤差検出方法として,焦点の前後の2点においてスポットサイズを比較して誤差を検出する「差動スポットサイズ法」や,焦点ずれが発生すると斜め方向に細長い光束となり,焦点前後でその方向がほぼ90度異なるため,焦点の合った状態(合焦)を中心に両極性の焦点誤差信号を得て,誤差を検出する「非点収差法」などが知られている。(甲2,3)

(3) 被告における従業員の職務発明等に関する定め

ア 被告は,従業員の発明に関し,発明考案規定を定めている。(乙1ないし6,22)

イ 原告が,被告に対し,本件各発明について特許を受ける権利を承継させた当時の発明考案規定(以下「本件発明考案規定」という。)は,次のとおりであった。(乙1)

「1目的

この規定は,会社の役員および従業員(以下単に従業員という)がその職務上行った発明考案または意匠の創作(以下単に発明という)に基ずいて特許権・実用新案権または意匠権(以下工業所有権という)を取得する場合の取扱,ならびに会社がその発明に基ずいて工業所有権を受ける権利または工業所有権を承継した場合に適切な褒賞を行うことを定め,発明の奨励活用を図ることを目的とする。

2 権利の譲渡等

従業員は次の各号を遵守しなければならない。

(1) 職務に関し,発明をした場合には社外に発表する前に直ちに上司に届出ること,および当該発明に関し日本をはじめ世界各国において工業所有権の登録を受ける権利を会社に対し譲渡すること。

・・・

4 表彰

発明につき,前条により工業所有権の登録出願をした場合には,当該発明者を表彰することとし,次の区分により褒賞金を支給する。区分出願表彰褒賞金

特許国内発明奨励●(省略)●円/件(発明の届出があった場合)出願●(省略)●円/件

・・・

外国出願●(省略)●円/単位

・・・

特別表彰

(1) 工業所有権の登録を受けた発明の実施あるいは実施許諾によって特に顕著な功績が挙がった場合には,これを1年毎に審査の上当該発明者を特別に表彰することがある。

(2) 前項の特別表彰の審査は,経営会議において,工業所有権の登録を受けており,かつ実施あるいは実施許諾された発明について行う。

(3) 第1項の特別表彰にあたっては次の区分により,褒賞金を支給する。等級褒賞金

1級●(省略)●円以上

2級●(省略)●円以上

3級●(省略)●円以上

4級●(省略)●円以上

5級●(省略)●円以上

(4) 表彰の対象となる1個の発明について発明者が複数の場合は,前項の規定にかかわらず次のとおり褒賞金を支給する。

等級褒賞金

1級●(省略)●以上

2級●(省略)●×N人

3級●(省略)●×N人

4級●(省略)●×N人

5級●(省略)●×N人

ただし,Nは表彰の対象となる1個の発明についての発明者の数で,N≧2とする。

一発明複数出願・出願分割・出願変更・共同発明

・・・

(3) 一発明に関して,日本国以外に出願する場合には,各国に対するいかなる出願をも一つの単位とみなし,その単位に対し1個の表彰を行うものとする。

・・・」

なお,同規定が改定された昭和61年5月1日より前に発明の届出があったものについては,登録褒賞金が支払われるものとされていた。(乙1,弁論の全趣旨)

ウ 被告は,平成3年4月,本件発明考案規定中,特別表彰の等級区分及び褒賞金に関する定めを,次のとおり改定した。(乙2,3)

「・・・

(3) 第1項の特別表彰にあたっては次の区分により,褒賞金を支給する。等級褒賞金

1級●(省略)●円以上

2級●(省略)●円

3級●(省略)●円

4級●(省略)●円

(4) 表彰の対象となる1個の発明について発明者が複数の場合は,前項の規定にかかわらず次のとおり褒賞金を支給する。

等級褒賞金

1級●(省略)●×N人以上

2級●(省略)●×N人

3級●(省略)●×N人

4級●(省略)●×N人

ただし,Nは表彰の対象となる1個の発明についての発明者の数で,N≧2とする。

・・・」

エ 被告は,平成9年5月,本件発明考案規定を改定し,特別表彰に関し,次のとおり定めた。(乙4)

「第6条特別表彰

工業所有権の登録を受けた発明の実施あるいは実施許諾によって特に顕著な功績が認められた場合には,会社の内規に従いこれを審査の上,経営会議の決定により当該発明をした従業員を特別に表彰する。.前1項の特別表彰にあたっては次の区分により褒賞金を支給する。なお,特級区分の表彰にあっては,その功績が継続する限り5年間継続して同額の褒賞金を支給する。但し,対象となる工業所有権が消滅した場合はこの限りでない。

等級区分褒賞金

特級●(省略)●円以上

1級●(省略)●円

2級●(省略)●円

3級●(省略)●円

4級●(省略)●円

5級●(省略)●円

.表彰の対象となる1個の出願についてなした従業員が複数の場合は,各従業員につき前第2項に定める金額の2分の1の褒賞金を各当該従業員に支給する。

.1997年度以降,特別表彰を受けた従業員は,5年後に同じ発明での特別表彰の審査を再度受けることが出来る。」

オ 被告は,平成13年4月,本件発明考案規定を改定したが,実施等に関する褒賞については,おおむね従前の特別表彰のとおりとされた。(乙5)

(4) 原告に対する褒賞金の支払(甲27の1,27の3,37,乙1,3,4,弁論の全趣旨)

被告は,原告に対し,本件発明考案規定に基づき,本件各発明の褒賞金として,次のとおり各金員を支払った(合計●(省略)●円)。なお,下記の実施褒賞は,本件発明考案規定の特別表彰に対応するものである。

ア 本件発明A

出願褒賞昭和61年ころ●(省略)●円

登録褒賞平成7年ころ●(省略)●円

実施褒賞平成9年●(省略)●

同(再表彰)平成14年●(省略)●

イ 本件発明B

出願褒賞(国内)昭和61年ころ●(省略)●円

出願褒賞(外国)●(省略)●円

登録褒賞(日本及び外国合計7か国分)●(省略)●円

実施褒賞平成9年●(省略)●

ウ 本件発明C

出願褒賞昭和61年ころ●(省略)●円

実施褒賞平成9年●(省略)●

エ 本件発明D

出願褒賞(国内)昭和62年ころ●(省略)●円

出願褒賞(外国)●(省略)●円

実施褒賞平成4年6月8日以前●(省略)●

オ 本件発明E

出願褒賞(国内)昭和62年ころ●(省略)●円

出願褒賞(外国)●(省略)●円

実施褒賞平成4年6月8日以前●(省略)●

カ 本件発明F

出願褒賞(国内)●(省略)●円

出願褒賞(外国)●(省略)●円

実施褒賞平成6年7月7日以前●(省略)●

(5) 被告らによるゲーム機の製造,販売

ア 被告は,平成6年から,SCEを通じ,ゲーム機「プレイステーション」(以下「PS」という。),「プレイステーション・ワン」(以下「PSone」という。)及び「プレイステーション2」(以下「PS2」という。)を製造,販売している。

PS,PSone及び平成15年以前に販売されたPS2には,被告が製造,販売したレーザーカプラー方式の光学ピックアップ(以下「本件光学ピックアップ」という。)が搭載されている。なお,平成16年度以降に販売されたPS2(以下「新型PS2」という。)には,ディスクリート方式の光学ピックアップが採用されている。(乙21)

イ 本件光学ピックアップの構成の概要は,別紙記載のとおりである(ただし,半導体基板と半導体レーザー(LDチップ)の間に,スペーサーが設けられているかどうかについては争いがある。)。本件光学ピックアップでは,フォーカス誤差検出方法として差動スポットサイズ法が採用されており,4個又は8個の光検出部を有する光検出器(フォトディテクタ)が使用されている。(弁論の全趣旨)

なお,本件光学ピックアップにおいて,本件発明D及びEが実施されていることは,当事者間に争いがない。

(6) 被告に対する相当対価の請求

原告は,平成18年12月21日,被告に対し,本件各発明を含む合計7件の職務発明につき,相当対価の不足額を請求する旨の通知をした。(甲28の1,2)

原告は,平成19年4月25日,当庁に対し,被告を相手方として,本件訴訟を提起した。

(7) 被告は,平成19年6月25日の第1回口頭弁論期日において,原告に対し,本件発明DないしFに係る相当対価支払請求権について,上記各消滅時効を援用するとの意思表示をした。

2 争点

(1) 本件各発明の実施の有無(争点1)

(2) 独占の利益の有無(争点2)

(3) 仮想実施料率(争点3)

(4) 被告の貢献度(争点4)

(5) 共同発明者間における原告の貢献度(争点5)

(6) 相当対価額(争点6)

(7) 消滅時効の起算点(消滅時効の抗弁,争点7)

3 争点についての当事者の主張

(1) 争点1(本件各発明の実施の有無)について

【原告の主張】

ア 本件発明A

(ア) 本件発明Aは,特定のフォーカス誤差検出方法に限定したものではなく,非点収差法及び差動スポットサイズ法の両方に利用し得るものである。本件発明Aの特許出願に係る明細書(以下「本件特許A明細書」という。)の実施例の記載は,一例として非点収差を用いる方法に触れたにすぎず,差動スポットサイズ法や他の検出方法を除外するものではない。本件発明Aの目的は,光分岐面であるマイクロプリズム斜面への光束入射位置を低く設定した場合でも,光分岐面から光検出器までの光路(光学的距離)を長くすることによって,誤差検出感度を向上させることにある。誤差検出方法としていかなるものを採用するにしても,誤差検出感度の向上は,光学ピックアップの制御技術における共通の課題ないし目的であるから,本件発明Aの技術的範囲が,実施例に記載されている非点収差法のみに限定されることはない。

そして,マイクロプリズムを用いてフォーカス誤差を検出する際に,非点収差が利用されることは明らかであって,本件光学ピックアップにおいても,非点収差は利用されている。

(イ) また,被告がスペーサーであると主張する部分は,半導体レーザーの出力モニター用検出器である。レーザー発光点の高さを設定するスペーサーとして用いるために,光学設計の際,その高さを適宜変更したことはない。

(ウ) さらに,被告は,平成9年,原告に対し,本件発明Aに関し,十分な審査をした上で,PS等における実施につき褒賞金を支払った。

(エ) したがって,本件光学ピックアップにおいて,本件発明Aが実施されていることは明らかである。

イ 本件発明B及びC

(ア) 光検出器の光検出部を4以上の数に分割し,その一部を再度回路的に接続することで,実質的に3分割として用いることも,当然,本件発明B及びCの技術的範囲に含まれる。本件光学ピックアップにおいては,4個の光検出部の中央2個の部分が加算されて使用されており,光検出部を実質的に3分割して利用していることは明らかである。

本件光学ピックアップの光検出器の光検出部が4又は8分割された理由は,本件発明B及びCに対し,トラッキングエラー信号の検出特性の向上という,両発明と関連性のない新たな機能を付け加えたからにすぎない。

(イ) 内外に3つの部分に分割された光検出器を用いてフォーカスエラー検出をする方法が,差動スポットサイズ法であり,共同発明者である乙によって,「差動3分割法」と名付けられたものであるが,被告は,他の特許出願(特開2003-151169等)に当たり,4個又は8個に分割された光検出器を用いた構成に対しても,この名称を使用している。

(ウ) また,被告は,平成9年,原告に対し,本件発明B及びCに関しても,十分な審査をした上で,PS等における実施につき褒賞金を支払った。

(エ) 以上によれば,本件光学ピックアップにおいて,本件発明B及びCが実施されていることは明らかである。

ウ 本件発明F

本件発明Fは,トップホールド・プッシュプル法として実施されている。【被告の主張】

ア 本件発明A

(ア) 本件特許A明細書の【発明の詳細な説明】の〔従来の技術〕及び〔発明が解決しようとする問題点〕の項の記載によれば,本件発明Aの目的及び技術的課題は,フォーカス誤差検出方法として非点収差法を用いる場合におけるレーザー装置の小型化であり,この発明が解決しようとする課題も,非点収差法を用いた従来技術において,非点収差発生後のビームの非点隔差及びスポットサイズの大きさを確保するために設けられてきた半導体レーザーと半導体基板との間のスペーサーの存在が,半導体レーザー装置の小型化及び組立工程の低コスト化を困難なものとしてきたという問題点を克服することであるとされている。

また,同明細書の〔作用〕の項等においては,本件発明Aの半導体レーザー装置は,非点収差法を用いる機器に適用することにより,初めて,「非点隔差を大きくして引込み範囲を広くすることによってフォーカスサーボを安定的に行うことができる」という,本件発明Aの作用を発揮することができることが明らかにされている。さらに,同明細書の〔発明の効果〕の項等の記載のとおり,本件発明Aの効果は,①プリズムがビームスプリッタの機能と非点収差発生機能を兼備しているため,非点収差法を利用する機器に適用するときの小型化と低コスト化とが可能である,及び,②非点収差法によってフォーカスサーボを行う機器に適用した場合に,半導体レーザーと半導体基板との間にスペーサーを介挿させる必要がなく,装置が小型化かつ低コストにできる,という点にある。このように,本件発明Aの作用効果は,フォーカス誤差検出方法として非点収差法を用いる場合に初めて奏するものである,との記載となっている。

これに対し,同明細書及び図面のいずれにおいても,非点収差法を用いない構成は,全く開示されていない。

そうすると,特許請求の範囲の記載においては,本件発明Aにおける「半導体レーザ装置」が,フォーカス誤差検出方法として非点収差法を用いるものであるとは明記されていないが,発明の詳細な説明の記載に照らせば,当該「半導体レーザ装置」は,「非点収差法を利用した半導体レーザ装置」等と,限定的に解釈されるべきである。

(イ) これに対し,本件光学ピックアップには,フォーカス誤差検出方法として差動スポットサイズ法を用いた半導体レーザー装置が使用されており,非点収差法を用いた半導体レーザー装置は使用されていない。本件光学ピックアップは,半導体基板に形成されている2つの光検出器により,反射する前のビームと2つの反射面により2回反射したビームとをそれぞれ異なる検出器により検出し,両者を対比して誤差を検出するものである。同一の半導体基板に形成されている2つの光検出器を用いて,スポットサイズの変化を検出するためには,一方の光検出器に対し,ビームを何かしらの方法で反射させて導く必要があるため,このような方式を採用しているのであって,本件発明Aのように,非点較差を大きくすることを目的とするものではない。

なお,本件光学ピックアップにおいては,差動スポットサイズ法に適切なビームをプリズムに射出できるようにするため,半導体レーザーと半導体基板との間にスペーサーを設置しており,本件発明Aのような,半導体レーザーと半導体基板との間にスペーサーを介挿させる必要がなく,装置が小型かつ低コストにできるという作用効果を奏しない。本件光学ピックアップの小型化,低コスト化は,専ら各部材の小型化,低コスト化によって実現している。

(ウ) したがって,本件光学ピックアップに使用されている半導体レーザー装置は,本件発明Aの「半導体レーザ装置」に該当しないから,本件発明Aは実施されていない。

(エ) 原告は,非点収差法は,本件発明Aの実施例の1つにすぎないと主張するが,上記のとおり,本件特許A明細書には,発明の目的及び課題が,非点収差法を採用した従来の半導体レーザー装置における問題点を解決することであること,発明の作用効果も,本件発明Aがこれを解決したものであることが,それぞれ記載されていることからすると,非点収差法を用いた半導体レーザー装置が,単なる実施例の1つにとどまるということはできない。

また,本件特許A明細書及び図面に,非点収差法を使用した半導体レーザー装置のみが開示され,差動スポットサイズ法については,示唆もされていない一方,同日出願された本件発明Bは,差動スポットサイズ法を使用した発明であることが明らかである。すなわち,本件発明Aは,非点収差法を使用したもの,本件発明Bは,差動スポットサイズ法を使用したもの,と二分されて出願されていることからも,本件発明Aは,差動スポットサイズ法と関係がないものというべきである。

イ 本件発明B及びC

(ア) 本件特許B及びCの特許請求の範囲の記載によれば,本件発明Bのフォーカス検出装置及び本件発明Cの光学ヘッドにおいては,3個の光検出部を有する光検出器,及び3分割されている光検出部を有する光検出器を,それぞれ具備することが必要である。しかしながら,本件光学ピックアップに使用されている光検出器は,4個又は8個の光検出部を有するものであり,光検出部の数は3個ではない。

本件光学ピックアップは,トラッキングエラーを検出する機能をも兼ね備えたものであり,この機能を具備するため,本件発明B及びCとは異なる構成としているのである。

(イ) 原告は,被告が,本件光学ピックアップにおける本件発明Aの実施の有無に関し,差動スポットサイズ法を用いていると主張していることを問題とするが,本件発明B及びCの特許請求の範囲及び両発明の特許出願に係る明細書等には,「差動スポットサイズ法」や「差動3分割法」についての記載はなく,特許請求の範囲に,それぞれ「3個の光検出部」及び「3分割されている光検出部」との記載があるのみである。原告は,「差動スポットサイズ法」や「差動3分割法」という,抽象的かつ意味に幅のある文言と,本件発明B及びCの構成要件である「3個の光検出部」及び「3分割されている光検出部」という,光検出部の個数を具体的に示す文言とを混同している。

(ウ) したがって,本件光学ピックアップにおいて,本件発明B及びCは実施されていない。

ウ 本件発明F

本件発明Fに係る本件特許Fは,米国特許であるところ,SCEは,PS等を米国へ輸出し,SCEの完全子会社であるSCEアメリカが,米国においてPS等を販売している。

(2) 争点2(独占の利益の有無)について

【原告の主張】

ア

独占の利益の存在

すべてのPS,PSone及び平成16年までに販売されたPS2に,被告が製造,販売した本件光学ピックアップが独占的に使用されたことについて,被告は,本件各発明の自己実施により,独占の利益を得ている。イ

本件光学ピックアップの独占力

,

,

(ア) 本件各発明は

光ディスク用光学ピックアップを製造するに当たり

半導体生産設備を用いて,高い組立精度を保ちつつ受発光部を集積化することを可能にするものであって,これにより,ピックアップ部分の小型化,軽量化が実現されるとともに,主要部品を4点にまで削減することで,低コストでの量産が可能となった。

本件各発明により,被告は,平成3年,厚さわずか14.8mmのポータブルCDプレーヤー「D-J50」を販売することが可能となり,後記のとおり,本件各発明の上記の特性は,PS等においても十分生かされている。

(イ) 被告がPSの販売を開始した平成6年当時,ゲーム機市場において,

(

「

」

。)

,

は

任天堂株式会社

以下

任天堂

という

のスーパーファミコン

株式会社セガのセガサターンがシェアを2分していたところ,平成7年には,PSが一気にシェアを拡大し,3社がシェアを3分する状況となった。

その後,PS及びPS2は更にシェアを拡大し,被告は,それまで10年以上にわたりゲーム機市場を独占してきた任天堂を下し,圧倒的なシェアを獲得するに至った。

このシェア拡大には,記録媒体として,従来のROMカセットではなく,CD及びDVDを採用することによって,ゲームソフトの低価格化が可能となったことが大きく寄与しているところ,その記録媒体の読取りに用いられる本件光学ピックアップには,本件各発明が不可欠であった。すなわち,従来の光学ピックアップに比較して,本件光学ピックアップの信頼性が格段に向上したことにより,ゲーム機として長時間使用することが可能となり,また,故障率が低下した(PS等の光学ピックアップに,レーザーカプラー方式を採用することによって,ディスクリート方式を採用したものと比べ,光学ピックアップに起因する故障率は,1パーセント程度から少なくとも0.1パーセント以下となった。)ことにより,品質イメージが向上し,サービス費用を削減することができた。加えて,構成部品が削減されたことや,組み立てやすさから,大幅なコストダウンも可能となった。

(ウ) さらに,ゲーム機市場においては,ゲームソフトの不法コピーを防止することが,収益性確保の上で重要な課題である。

本件発明Fを実施して,CD-Rに対するトップホールド・プッシュプル信号を設定し,不法にゲームソフトがコピーされたCD-Rからの信号読取りを防止することができるなど,本件各発明は,不法にコピーされたゲームソフトを確実に排除できる技術である。

このように,本件各発明を活用し,独自の再生方法を採用した光学ピックアップを用いることで,不法コピーによる莫大な損失を免れ得る点においても,本件各発明は,他の技術に対する競争力を持ち,競業他者が実施料を支払うに値する技術思想であることは明らかである。

ウ 競合技術の不存在

(ア) 被告は,ディスクリート方式及びホログラム方式が,本件各発明の競合技術であると主張している。

しかしながら,ディスクリート方式に関し,PS2が発売された平成12年までに,他者の特許権(トムソン・ブラント社が保有していた特許権(第1511546号)やエヌ・ベー・フィリップス社(以下「フィリップス社」という。)が保有していた特許権(第1648429号)等)の存続期間が満了しているにもかかわらず,被告は,この方式を採用していない。

また,ホログラム方式は,光学ピックアップの小型化が図れないことから,被告自身がこの方式に関する特許を保有しているにもかかわらず,PS等には採用していない。

(イ) さらに,SCEは,本件各発明が属するレーザーカプラー方式に特有の価値を見出し,PS等の光学ピックアップに同方式を採用することを決定したこと,PS等においては,トラッキング制御に本件発明F以外の方式が用いられていないことからも,本件各発明が特異技術であることは明らかである。

(ウ) 特に,半導体組立技術を用いた製造方法は,特許庁によるFターム分類において,単独で分類されることになったところ,本件各発明は,その分類の中においても,最初かつ最大の規模で実用化されたものであるから,この製造方法が極めて画期的なものであったことは,特許庁も認めているのである。

(エ) これらの事実からすると,ディスクリート方式及びホログラム方式が,本件各発明と対等な競合技術であるとは,到底考えられない。

エ 被告は,第三者に対し,本件各発明の実施を許諾していないこと被告は,音楽用CD及びCDプレーヤーに関し,ジョイントライセンス契約を締結していたとしても,PS等のようなゲーム機の分野においては,本件各発明の実施を一切許諾をしていない。

このことは,被告以外の半導体レーザーメーカーも,本件光学ピックアップ,又はレーザーカプラーを製造及び供給することが技術的に可能であったにもかかわらず,本件光学ピックアップやレーザーカプラーを,被告以外の他者から調達していないだけでなく,被告以外の他者がPS等に用いる光学ピックアップを製造していないことからも明らかである。そもそも,レーザーカプラー素子が1個も外販されていないことは,被告が,本件各発明を実施した光学ピックアップを製造する上で必要な技術情報,合理的な実施料率の判断根拠等を一切提供していなかったことを,端的に示すものである。また,他者が,低コストで製造できるレーザーカプラー方式ではなく,ホログラム方式を使用せざるを得なかったことからも,被告が本件各発明の実施を許諾していなかったことは明らかである。

オ 小括

このように,本件光学ピックアップは,PS及びPS2に独占的に使用されたものであって,仮に,被告が,第三者に対し,本件各発明の実施を許諾した場合,被告は,本件光学ピックアップの売上げの少なくとも50パーセントを喪失した。

【被告の主張】

ア 競合技術の存在

(ア) 職務発明につき,同様の機能や効果を有する代替技術や競合技術が存在し,使用者以外の他者がこれを実施している場合には,仮に使用者が当該職務発明を実施していたとしても,使用者は,当該職務発明を自己実施することにより,いわゆる「独占の利益」を享受していない。

(イ) CDプレーヤー用の光学ピックアップは,もともとディスクリート方式のものが量産化されたものの,ポータブルCDプレーヤー市場の創出により,各社,各機関で,種々の小型光学ピックアップの開発が行われた。

そのうち,被告が開発したレーザーカプラー方式と,シャープ株式会社(以下「シャープ」という。)等が開発したホログラム方式の,2種類の小型光学ピックアップが量産化され,製品に搭載された。ディスクリート方式の光学ピックアップの小型・軽量化の努力も,並行して各社で継続的に行われ,昭和63年には,厚さ1.3cmの光学ピックアップが量産化されている。新型PS2にもディスクリート方式の光学ピックアップが採用されているが,この光学ピックアップは,本件光学ピックアップより,はるかに小型・薄型である。

すなわち,レーザーカプラー方式は,光学ピックアップの小型化,薄型化を実現するための一方式にすぎない。

(ウ) このように,本件各発明が属するレーザーカプラー方式の光学ピックアップ技術に対し,ディスクリート方式及びホログラム方式の光学ピックアップ技術が,競合技術として存在し,これら2つの技術が,それぞれの開発を経て,実際の製品に採用され,量産化されてきた。

また,原告が,本件各発明の目的及び作用効果として強調する光学ピックアップの小型化,薄型化の面からみても,競合他者が販売するディスクリート方式の光学ピックアップを採用したポータブルCDプレーヤーが,光学ピックアップの厚さのために,被告が販売するCDプレーヤーと競争できなかったということはない。

なお,新型PS2には,ディスクリート方式の光学ピックアップが搭載されているのであるから,PS等において,レーザーカプラー方式の光学ピックアップを採用することは,必須の要請ではない。

(エ) 以上のとおり,競業他者が,ディスクリート方式又はホログラム方式の光学ピックアップを,CDプレーヤーやDVDプレーヤーに採用して製品化し,逆に被告のみがレーザーカプラー方式の光学ピックアップを採用していたことに加えて,被告自身が,過去及び現在において,ディスクリート方式の光学ピックアップを量産化製品に使用していることからすると,仮に,本件各発明を特許権者である被告が実施していたとしても,それは,特許法35条1項の通常実施権の範囲内にとどまるものであって,被告が,その実施により,独占の利益を得ているとはいえない。

イ 開放的ライセンスポリシーの採用

(ア) 使用者である特許権者が,自ら保有する特許権について,他者に対してライセンスをし,又は,実際にライセンスをしていなくとも,ライセンスを希望するすべての者に対し,合理的な実施料率によりライセンスを与えるとの方針,いわゆる開放的ライセンスポリシーを採用している場合には,仮に特許権者である使用者が自ら当該発明を実施していても,当該自己実施による独占の利益は存在しない。

(イ) 被告及びフィリップス社が,昭和56年に提案した音楽用CDに関する規格書,並びに,昭和60年に策定したCD-ROMに関する規格書においては,当該各規格書に従った記録媒体及びその記録・再生機器の製造,販売に関する特許であって,被告及びフィリップス社が保有するものを,公開して広く実施を許諾するとのプログラムが実施された。このプログラムは,フィリップス社が,被告が保有する特許権の再実施許諾権を得た上で,フィリップス社を窓口とし,規格書の開示,統一ロゴの使用,及び両社が保有する特許権の実施許諾を行う,ジョイントライセンス方式のものである。

これらのジョイントライセンスにおいては,音楽用CD及びCDプレーヤーに関しては,①昭和58年1月1日以前の出願日を有する特定の特許については,規格製品を製造するための必須特許として有償とし,②同日以後の出願日を有する特許については,付随的な特許として非独占的な実施権を許諾することに同意するものとされている。本件各特許は,上記②の付随的な特許として,実施許諾の対象となる。

CD-ROMについても同様に,①昭和60年1月1日以前の出願日を有する特定の特許については必須特許として有償とし,②それ以外の特許で,昭和57年12月31日以後の出願日を有するものについては,付随的なグループの特許として,通常実施権の許諾の対象となる。したがって,CD-ROMの規格のライセンシーが,本件各発明をCD-ROMに使用することを希望するときは,当然にこれに対する実施権を得ることができる。

DVDにおいては,必須特許については,フィリップス社を中心とする同様のジョイントライセンス,又は,必須特許を保有する個別企業からのライセンスを行い,その他の関連特許については,必須特許のライセンシーの希望に応じて,特許権者が個別に実施許諾することになったことから,被告は,関連特許を例示したリストを作成し,積極的に実施許諾の提示を行い,数社に対し,実施を許諾してきた。本件各発明は,関連特許に属するが,その他の関連特許のライセンシーは,本件各発明を実施していない。

上記音楽用CD,CD-ROM及びDVDの各ライセンスプログラムには,世界中の光ディスク及びプレーヤーのメーカーが参加しており,これらのメーカーは,規格書に従った製品を製造するとともに,本件各特許を含む付随特許の実施を許諾され,又はその提示を受けている。しかしながら,実際に,本件各特許の実施許諾を受ける申込みをし,又は,許諾を受けてこれを実施した会社はない。

(ウ) また,被告は,光ディスク関連技術に関し,内外の大手電機,電子機器メーカー各社と,広範な包括的クロスライセンス契約を締結してきた。これらのクロスライセンス契約は,互いが取り扱うすべての製品,あるいは,情報機器すべてなど,極めて広範な製品を対象とするものである。そもそも,当該クロスライセンス契約の相手先は,本件各発明を実施していないし,これらのクロスライセンス契約は無償であって,被告は,本件各発明に対応する実施料収入を得ていない。

(エ) そして,上記ジョイントライセンス契約及びクロスライセンス契約においては,ゲーム機についても,許諾の対象から除外されていない。

(オ) 以上のように,被告は,本件各発明につき,上記各規格に参加する企業には実施を許諾する方針,いわゆる開放的ライセンスポリシーを採用していた。

さらに,上記規格に参加したライセンシー及びクロスライセンス契約のライセンシーは,本件各特許につき,実施権を取得し,実施をする選択肢があったにもかかわらず,これらの多数のライセンシーは,レーザーカプラー方式を採用せず,競合技術であるディスクリート方式,あるいはホログラム方式の光学ピックアップを製造,販売している。そうすると,仮に,被告自身が本件各発明を実施していたとしても,被告は,本件各特許から,通常実施権を超える独占の利益を享受していたとはいえない。

ウ 超過売上高の割合

上記の事情に照らせば,いずれかの企業が本件各特許の実施権を取得して,これを実施した可能性はほとんどゼロであることが明らかであるから,超過売上高の割合は0パーセントである。

エ 小括

したがって,仮に,特許権者である被告が,自ら本件各発明を実施していたとしても,それは,特許法35条1項の法定通常実施権の範囲内にとどまるものであるから,改正前特許法35条3項及び4項の相当の対価の請求の前提となるべき独占の利益は存在しない。

(3) 争点3(仮想実施料率)について

【原告の主張】

本件各特許の重要性にかんがみれば,本件各特許を第三者に対し実施許諾する際の実施料率は,5パーセントである。

【被告の主張】

争う。

上記(2)【被告の主張】イ(イ)記載のジョイントライセンスの対象とされている必須特許や,付随特許及び関連特許のうち,実施許諾され,又は実施されている特許は,極めて多数であるにもかかわらず,実施許諾も求められず,実施もされていない本件各特許の仮想実施料率を5パーセントとすることは,他の特許との関係でみて,明らかに不合理である。

(4) 争点4(被告の貢献度)について

【原告の主張】

ア 被告は,本件各発明以前,「これまでにない画期的な光学ピックアップ・ユニットを作りたい」との意向を有していた一方で,その実現には,被告自身が危機感を持っていたところ,原告,丙及び乙の3名は,昭和60年10月に光学ピックアップ開発部署へ異動してから6か月余で,素子のプロトタイプ試作を行い,開発メンバーを増員しながら,素子を光学ピックアップへと発展させ,極めて短期間で,本件各発明の出願を実現した。また,原告は,平成11年,PS2用光学ピックアップの開発プロジェクトに配属されたところ,レーザーカプラー方式の開発の経験を評価され,同年11月から翌年2月まで,2波長,すなわちCD用とDVD用の異なる2つの波長を用いたレーザーカプラー方式光学ピックアップの量産立上げを支援するため,ソニー白石セミコンダクタ株式会社に常駐し,その間,同社において,同ピックアップのマネジメントに関わった。さらに,原告は,被告において,PS2用2波長レーザーカプラー方式光学ピックアップの規格決定及び技術課題の克服を目的とした定例の技術会議で事務局を務め,同ピックアップの製造所における生産支援,生産設備進捗管理,DVD用ガラス標準ディスクの製造所展開及び2波長対物レンズの評価設備展開など,本件各特許につき,多大な貢献をした。

イ

これに対し,被告は,単に「画期的な光学ピックアップ・ユニットを作れ」という抽象的指示をしたにすぎず,新たな施設や人員を提供したこともない。

ウ

したがって,本件各発明に対する被告の貢献度は,50パーセントを超えない。

【被告の主張】

ア

争う。

イ

被告は,PSのゲームソフトの記録媒体として,ROMカセットではなくCD-ROMを採用したが,CD-ROMは,PCの普及に伴って,ゲームソフトの創作者,供給者にとって取扱いが容易になったことに加え,被告が,ゲームソフトの創作者に対し,開発ツールを安価で供給したことにより,PSの販売初期から,多数の評判の高いゲームソフトを販売することが可能となった。また,ゲームソフトのみならず,ゲーム機本体のCPU,LSIの開発に向けた多大な投資や努力も必要であった。これらに加え,PS等の販売台数の伸びは,世界的な規模での宣伝,販売活動によるところが大きい。

このように,本件光学ピックアップの製造数量の伸びは,被告の活動を通じて獲得したPS等のゲーム機としての評判や,ゲームソフトの評判に伴う売上げ伸張に伴うものであって,本件各発明に基づくものではない。ウ

また,PS2の開発においては,2波長を1つの光学ピックアップで処理することができるかについて,開発努力,試行,失敗とその克服が必要であった。レーザーカプラー方式の光学ピックアップというアイディアがあっても,その製品化,商品化には,PS2に向けた被告の開発担当者の総力を挙げての貢献が必要であった。

エ

さらに,CDプレーヤーやPS等の開発が,光学ピックアップのみの改良により達成できるものでないことは当然である。CDプレーヤーの薄型化,小型化にしても,信号処理回路の集積化,高密度化や,ディスク回転用モーターの薄型化など,様々な技術的課題を克服しなければならない。これらの課題解決には,被告に蓄積された製品の小型化技術や,半導体部門,メカ設計部門の新たな開発努力が必要であった。

(5) 争点5(共同発明者間における原告の貢献度)について【原告の主張】

ア

本件発明AないしEの共同発明者である乙は,これらの発明を利用した素子のプロトタイプが完成した後に被告を退社し,製品の実用化には立ち会っていないなど,原告のみが,本件各発明のすべてにつき,発明から製品化の全行程に関与するとともに,各発明時期に,開発リーダーとして主導的な役割を果たした。

イ

また,原告は,自ら技術的思想の創作を行うとともに,光学システムの構成,半導体技術による製法,電気的な制御の補正,光学的な補正など,多岐にわたる技術を束ねることで,画期的な製品を実用化し,被告に多大な経済的利益をもたらす貢献をした。

ウ

このように,原告は,本件各発明の製品化の推進と,重要な周辺技術の開発に大きく貢献したことを考慮すると,共同発明者間における原告の貢献度は,50パーセントである。

【被告の主張】

争う。

(6) 争点6(相当対価額)について

【原告の主張】

ア

相当対価額算定の基礎となる本件光学ピックアップ1個当たりの価格は,

PS用ピックアップ

(KSM-440)

平均1500円

PS2用ピックアップ(KHS-400)

平均2000円

である。

イ

本件光学ピックアップを搭載したPS等の販売台数は,

PS(PSoneを含む)

1億0249万台

PS2

7389万台

である。

ウ

本件各発明は,本件光学ピックアップの小型,軽量化,性能向上のために不可欠な技術であるから,本件各発明の寄与は,本件光学ピックアップの少なくとも40パーセントを占める。

本件各発明それぞれの重要性と効果を勘案すると,本件各発明全体に占めるそれぞれの発明の寄与の割合は,次のとおりである。

本件発明A

25パーセント

本件発明B

25パーセント

本件発明C

10パーセント

本件発明D

25パーセント

本件発明E

10パーセント

本件発明F

5パーセント

エ

したがって,本件各発明についての特許を受ける権利の承継に係る相当対価の額は,

PSにつき3億8433万円,

1500円/個[単価]×1億0249万個[売上数量]×0.5[超過売上高の(=

割合]×0.05[仮想実施料率]×0.4[本件各発明が占める割合]×(

-0.5[被告の貢献度])×0.5[共同発明者間における原告の貢献)

度],1万円未満切捨

PS2につき3億6945万円,

(=2000円/個[単価]×7389万個[売上数量]×0.5[超過売上高の割合]×0.05[仮想実施料率]×0.4[本件各発明が占める割合]×(1-0.5[被告の貢献度])×0.5[共同発明者間における原告の貢献度])であるから,合計7億5378万円である。

オ なお,本件発明Fに係る相当対価額の請求については,従業者等が特許法35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求に該当し,改正前特許法35条3項及び4項の規定が類推適用される。

カ よって,原告は,被告に対し,上記7億5378万円から既払金の額を控除した残額のうち,その一部請求として,1億円の支払を求める。【被告の主張】

争う。

(7) 争点7(消滅時効の起算点(消滅時効の抗弁))について【被告の主張】

ア 本件発明D及びEについて

本件発明考案規定6項(3)によれば,国内特許の公告日,登録日がいつであろうと,それに対応する外国特許出願は,それぞれ1つの単位とみなされ,この単位に対し,1個の表彰をすることとされている。本件発明考案規定においては,実施褒賞受賞の決定に当たり,日本国特許を優先する旨の定めは存在せず,日本国特許が特許登録されていない時期であっても,これに対応する外国特許が登録され,「特に顕著な功績」が挙がった場合には実施褒賞を行うとされており,実際もこれに従った運用がされている。被告は,原告に対し,本件発明考案規定に基づき,本件特許D及びEに対応する米国特許の登録時である平成4年に,本件特許D及びE並びにそれらそれぞれに対応する外国特許のファミリーを対象として,実施褒賞の褒賞金を支払った。

イ 本件発明Fについて

被告は,原告に対し,本件発明Fについて,平成6年7月7日以前に実施褒賞の褒賞金を支払った。

原告は,本件発明考案規定5項(1)の「1年毎に審査」との文言を問題とするが,これは,実施褒賞の審査を随時行うのではなく,毎年1回行うことを意味するのであり,一度実施褒賞を行った後,1年毎に審査し,再度の実施褒賞を認める規定ではない。

ウ 消滅時効の援用

以上のとおり,本件発明DないしFについては,職務発明の相当対価の支払時期から,原告がその支払請求をした平成18年12月21日まで,いずれも10年以上が経過している。

よって,被告は,本件発明DないしFに関する請求について,消滅時効を援用する。

【原告の主張】

ア 本件発明D及びEについて

(ア) 本件発明考案規定は,表彰するに当たり,「国内」,「外国」を明確に区別した上で,「一発明に関して,日本国以外に出願する場合には,各国に対するいかなる出願をも一つの単位とみなし,その単位に対し一個の表彰を行うものとする。」と定めているが,これは,文理上,我が国に対する出願と,我が国以外への出願があることを前提として,後者が複数ある場合について定めたものと解釈すべきである。

また,本件特許Fのように,外国特許が設定登録されたとしても,必ずしもこれに対応する日本国特許が自動的に設定登録されるわけではないのであるから,外国特許の褒賞金と日本国特許の褒賞金の支払は別個にされるものである。

本件発明D及びEを含む複数の発明に関し,外国出願とは別個に行った国内出願について,原告が実施褒賞の申請をしたところ,被告は,これらを一旦受理しているが(ただし,結果は選外であった。),このことは,被告が,国内出願と外国出願を,明確に区分していることを示すものである。

したがって,本件発明考案規定6項(3)の「登録」を,外国特許あるいは日本国特許のいずれかの登録,と解する余地はない。

(イ) そして,被告においては,一般的に,日本における出願に「特に顕著な功績」が認められることを勘案すると,平成4年に,本件特許D及びEについてされた支払は,本件発明D及びEの「外国出願」に対するものであったというべきである。

(ウ) したがって,本件発明考案規定によれば,消滅時効の起算点は,本件特許D及びEの我が国における登録日以降で,かつ,「実施による特に顕著な功績」が認められ,「1年毎の審査」を経た後である,平成9年9月26日である。

実質的にみても,本件特許D及びEの登録日は,本件特許AないしCよりも後であるところ,本件発明AないしCについては,平成9年9月26日に実施褒賞の受賞が決定しているのであるから,それ以前に,本件発明D及びEにつき,実施褒賞の受賞の有無が決定していることはあり得ない。

イ 本件発明Fについて

本件発明Fにつき,本件発明考案規定5項(1)において,「工業所有権の登録を受けた発明の実施あるいは実施許諾によって特に顕著な功績が挙がった場合には,これを1年毎に審査の上当該発明者を特別に表彰することがある。」と規定されており,権利が満了する時期まで顕著な功績の有無は確定し得ず,最後の実施褒賞の有無も確定し得ないところ,原告は,平成9年の規定改定によって導入された,実施褒賞の再審査制度の不適用により,初めて本件発明Fについての実施褒賞を受けられなくなったのであるから,本件発明Fに係る相当対価請求権の消滅時効の起算点が,平成9年9月以前となることはない。

また,PS等に関する褒賞金については,PSが発売された平成6年12月3日(北米については,平成7年12月)以降でなければ,「特に顕著な功績」が明らかにならないのであるから,被告が支払った褒賞金をもって,本件光学ピックアップを通じて独占的に用いられた本件発明Fに対する褒賞がされたということはできない。

ウ 原告は,被告に対し,平成18年12月21日到達の書面により,相当対価支払の催告を行った上,その6か月以内に本件訴訟を提起しているから,本件発明DないしFに関する請求につき,消滅時効が完成する余地はない。

第3 争点に対する当裁判所の判断

本件の事案にかんがみ,まず,本件発明AないしCに係る対価請求権について,争点2(独占の利益の有無)を,次に,本件発明DないしFに係る対価請求権について,争点7(消滅時効の起算点(消滅時効の抗弁))を,それぞれ判断する。争点2(独占の利益の有無)について

(1) 総論

勤務規則等により,職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1256号同15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。そして,使用者等が,職務発明について特許を受ける権利等を承継しなくとも,当該特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことからすると,同条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の額ではなく,当該発明を実施する権利を独占することによって得られる利益(独占の利益)の額と解すべきである。

本件では,後記(2)エのとおり,被告が,少なくとも競業他者の一部に対し,本件各特許の実施を許諾しているものと認められるところ,原告においては,被告が本件各特許を自ら実施しているとして,それによって得た利益を相当対価算定の根拠として主張している。このような場合においては,使用者等が,当該特許権を有していることに基づき,実施許諾を受けている者以外の競業他者が実施品を製造,販売等を禁止することによって得ることができたと認められる収益分をもって,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」というべきである。

なお,改正前特許法35条3項及び4項の規定は,職務発明についての特許を受ける権利の承継時において,当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について,これを当該発明をした従業者等において確保できるようにすることを趣旨とする規定と解される。もっとも,特許を受ける権利自体が,将来特許登録されるか否か不確実な権利である上,当該発明により使用者等が将来得ることができる利益を,その承継時において算定することは,極めて困難であることにかんがみれば,その発明により使用者等が実際に受けた利益の額に基づいて,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を事後的に算定することは,「利益の額」の合理的な算定方法の1つであり,同条項の解釈としても当然許容し得るところというべきである。

そして,当該特許発明の実施について,実施許諾を得ていない競業他者に対する禁止権に基づく独占の利益が生じているといえるためには,当該特許権の保有と競業他者の排除との間に因果関係が認められることが必要であるところ,その存否については,①特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)を採用しているか,あるいは,特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか,②当該特許の実施許諾を得ていない競業他者が一定割合で存在する場合でも,当該競業他者が当該特許発明に代替する技術を使用して同種の製品を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がないか,また,③包括ライセンス契約あるいは包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が,当該特許発明を実施しているか又はこれを実施せず代替技術を実施しているか,さらに,④特許権者自身が当該特許発明を実施しているのみならず,同時に又は別な時期に,他の代替技術も実施しているか等の事情を総合的に考慮して判断すべきである。

(2) 事実認定

ア 本件各発明について

(ア) 本件各発明は,光ディスク用光学ピックアップに用いられるものであるが,当該光学ピックアップは,音楽用CDプレーヤーを初めとする音響機器,PC,ゲーム機等において,CD,MD,DVD等の様々な記録媒体の読取り,記録等のため,幅広く利用されている。(甲16ないし22,24の1,30の1,30の2,乙19,20)

被告及び競業他者等における光ディスク用光学ピックアップの製造,販売数量を正確に算定するに足りる的確な証拠はないが,ゲームソフトの記録媒体として,CD-ROM等を利用するPS等に限っても,全世界で2億台以上が生産,出荷されている。(甲25)

(イ) 従来,光ディスク用光学ピックアップは,多数の光学部品で構成されており,このことが光学ピックアップの小型化,軽量化,耐環境性能の向上の障害となっていた。(乙8,9)

レーザーカプラー方式の光学ピックアップの最大の特徴は,光学ピックアップ自体,ひいては,当該光学ピックアップを搭載した製品を,薄型化,小型化できることにあり,本件各発明は,それに寄与するものである。(甲2ないし4,32の2,乙21)

被告は,平成3年,レーザーカプラー方式の光学ピックアップを用いて,当時,最も薄型であった松下電器産業株式会社(以下「松下電器産業」という。)製のCDプレーヤーに比べ3.1mm薄いポータブルCDプレーヤー「D-J50」(厚さ14.8mm)を製造,販売した。それ以前に被告が製造,販売していたポータブルCDプレーヤーに用いられていた光学ピックアップの厚さは11.8mmであったところ,D-J50に搭載された光学ピックアップの厚さは7mm,半導体レーザ素子の厚さは1.7mmであった。(甲16ないし18,22(5頁),30の2,乙21,弁論の全趣旨)

PS2に搭載されていたレーザーカプラー方式の半導体レーザ素子は,1チップでCD用及びDVD用の2波長に対応するものでありながら,外形寸法は7.5mm×6.5mm×2.0mmという小型のものであった。(甲19,20,21の4,32の2,弁論の全趣旨)

(ウ) なお,競合他者において,本件各発明が実施されていると認めるに足りる証拠はない。

イ 本件各発明の代替技術

(ア) 上記第2,1(2)イのとおり,光ディスク用光学ピックアップの光学系の方式として,レーザーカプラー方式のほか,ディスクリート方式及びホログラム方式が実用化されている。

(イ) 被告が,昭和57年10月に,世界に先駆けて発売したCDプレーヤー1号機である「CDP-101」には,ディスクリート方式の光学ピックアップが搭載されていた。また,被告は,昭和59年に発売したポータブルCDプレーヤー「D-50」においても,ディスクリート方式の光学ピックアップを採用していた。(弁論の全趣旨)

被告以外の各メーカーも,薄型化,軽量化を図ったポータブルCDプレーヤーを商品化していたが,その光学ピックアップには,引き続きディスクリート方式が用いられていた(乙21)。例えば,三洋電機株式会社は,ディスクリート方式を採用した薄型小型のCD用光学ピックアップの開発に取り組んでおり,昭和63年には,幅31.3mm,長さ42.3mm,高さ13.0mmの光学ピックアップの開発に成功した(乙15)。さらに,上記第2,1(5)アのとおり,新型PS2には,ディスクリート方式の光学ピックアップが採用されているが,新型PS2の外形寸法は,23cm×15cm×2.8cmと,従来のPS2(30cm×17cm×7.8cm)に比べ,より薄型化されている。(乙21)

(ウ) また,松下電器産業,シャープ等は,光学ピックアップの薄型化,小型化,軽量化のため,ホログラム方式の研究,開発を進めていた。(弁論の全趣旨)

シャープは,遅くとも平成元年には,ホログラム方式を採用し,耐環境性能の優れた小型軽量のCD用光学ピックアップ(幅25mm ,長さ48mm,高さ40mm)を,平成3年には,LD用光学ピックアップ(幅48mm,長さ60mm,高さ29mm)などを開発した。(乙8,9)

松下電器産業は,平成9年,厚さ10mmのホログラム方式のDVD用光学ピックアップを開発した。(乙20)

(エ) なお,被告及び競業他者が現在までに製造,販売した光学ピックアップにおける各方式の市場占有率については,これを正確に認定するに足りる証拠はない。

ウ 本件各発明に関するジョイントライセンス契約

証拠(乙24)及び弁論の全趣旨によれば,被告及びフィリップス社が策定した音楽用CDに関する規格に従った記録媒体及びその記録,再生機器の製造,販売に関し,被告及びフィリップス社が保有する特許につき,フィリップス社を窓口として他者との間で締結された契約(以下「本件ジョイントライセンス契約」という。)において,以下の内容が定められていることが認められる。

(ア) 許諾特許については,

ⅰCDオーディオプレーヤーに関しては,フィリップス社が,ライセンシー及びその子会社に対し,フィリップス社が保有し又は今後取得する限度で,使用許諾を与える無償の権利を有し又は今後取得するCDオーディオプレーヤーに関する特許権であって,最先の出願日又は最先の出願日と認められる日が昭和58年1月1日より前であるもので,別紙Ⅰ(省略)記載の特許権を含むがこれらに限定されない。(1条1.21(ⅰ)項)

ⅱCD-ROMプレーヤーに関しては,上記1.21(ⅰ)項の特許権に加え,専らCD-ROMプレーヤーに係る発明をカバーする範囲内においてのみ,かつその限りにおいて,最先の出願日又は最先の出願日と認められる日が昭和60年1月1日より前である,別紙Ⅱ(省略)記載の特許権。(1条1.21(ⅱ)項)

(イ) この点につき,フィリップス社は,別紙ⅠないしⅣ(省略)記載のN.V.Philips' Gloeilampenfabrieken及びその関連会社,又は被告及びその子会社により保有される特許権を実施許諾する権利を取得していることを表明する。(2条2.02項)

(ウ) フィリップス社は,さらに,ライセンシー及びその子会社に対し,本契約時において未だ実施許諾されていない,本件許諾製品(CDオーディオプレーヤー,CD-ROMプレーヤー等を指す。1条1.19項参照。)に付随する発明をカバーする特許権であって,フィリップス社が保有し又は今後取得する限度で,フィリップス社がライセンシー及びその子会社に対し,使用許諾を与える無償の権利を保有し又は今後取得する,世界のいかなる国においてであれ最先の出願が昭和57年12月31日より後にされた特許権に基づき,本件地域において本件許諾製品を製造し,製造された本件許諾製品を世界のすべての国において使用,販売,又はその他処分する,非独占的かつ移転不可の実施権を許諾することに同意する。2条2.03項により実施許諾される特許権については,(中略)2条2.01項による許諾特許の使用に基づいて当然支払うべきロイヤリティに加えて,支払うべきロイヤリティの支払がされる必要があることが明示的に了解される。(2条2.03項)

エ 本件各発明に関するクロスライセンス契約

証拠(乙25)によれば,被告は,平成7年3月31日,国内電機・電子機器メーカーA社との間で,次の条項を含むクロスライセンス契約(以下「本件クロスライセンス契約」という。)を締結したことが認められる。(ア)「契約製品」とは,本契約発効時点において,被告及びA社に共通する事業範囲に属する製品をいい,例示として,CDプレーヤー,コンピューター周辺機器(CD,MD応用装置を含む。)が含まれるとされている。(1条1項及び添付書類A)

(イ)「甲特許」とは,被告が本契約有効期間前及び平成11年12月31日までに第一国出願を行い,単独で所有もしくは将来所有する全世界における特許及び実用新案であって,第三者に対する実施料その他の代償の支払をすることなしに処分権を有するものをいう。(1条2項)

(ウ) 被告は,A社及びその子会社に対し,本契約の有効期間前及び有効期間中に,A社及びその子会社が甲特許を実施した契約製品を製造,販売,使用,賃貸その他の処分(A社又はその子会社のために下請けさせる場合を含む)をするための通常実施権を許諾する。(2条1項)

(エ) 本契約の有効期間は,平成7年1月1日から平成11年12月31日までとする。ただし,被告又はA社は,相手方に対し,有効期間満了の日の6か月前の該当日の翌日から有効期間満了の日の3か月前の該当日までの期間に,書面による特段の申し出がない限り,本契約の有効期間を更に5年間延長する。以後も同様とする。(7条1項)

第1項の規定にかかわらず,満了日までに出願済み(中略)の甲特許(中略)に係る第2条規定の通常実施権は,当該甲特許(中略)の権利存続期間満了日まで有効とする。(同条3項)

(3) 検討

上記(2)の認定事実及び第2,1の前提となる事実によれば,次のようにいうことができる。

ア 代替技術について

(ア) 被告と競業する松下電器産業,シャープ等の他の電機・電子機器メーカーは,ディスクリート方式又はホログラム方式の光学ピックアップを製造,販売している。

他方,被告は,レーザーカプラー方式の光学ピックアップを採用することにより,平成3年,当時,最も薄型であったポータブルCDプレーヤー「D-J50」を製造,販売することができたと認められるが,それ以降,被告が,レーザーカプラー方式の光学ピックアップを採用することにより,ポータブルCDプレーヤー等の薄型化,小型化を指向する製品の市場において,競業他者と比較して優位にあることを認めるに足りる証拠はない。

そして,ディスクリート方式の光学ピックアップを搭載した新型PS2は,レーザーカプラー方式の光学ピックアップを搭載したPS2に比較して,より薄型となっていることなどからすると,ディスクリート方式及びホログラム方式と本件各発明との間に,光学ピックアップ自体,ひいては,当該光学ピックアップを採用した製品を,薄型化,小型化できるとの作用効果等の面で,顕著な差異が存在すると認めることはできない。

,

,

,

,

,

(イ) この点

原告は

本件各発明の特徴として

薄型化

小型化に加え

故障率の低下という高信頼性や製造コストの低価格化を挙げるが,本件各発明を採用した光学ピックアップ及び他の方式を採用した光学ピックアップの故障率や,製造に要する費用等について,具体的な差異を認めるに足りる的確な証拠はない

なお

乙28ないし30には

シャープ

。

,

,「

のホログラムユニットの価格=約290円,本方式のレーザーカプラーの価格=約200円」との記載があるが,これらは原告を含む本件各発明の発明者らが記載したものであって,比較の対象となっている具体的な製品や価格の算定根拠等が明らかでなく,シャープ以外のメーカーの製品も含めて,製造コストの低下の点においても,顕著な差異が存在するとまでは認めることができない。

また,原告は,本件各発明は,不法コピー防止に資する旨を主張するが,他の方式との間で,不法コピーの防止の程度にいかなる差異が存在するのかを認めるに足りる証拠はない。

(ウ) なお

被告の競業者において

本件各発明につき実施許諾を得ている

,

,

者の具体的な割合等を認定するに足りる証拠はない。

イ

ライセンスポリシーについて

上記第2

1(2)ア(ア)ないし(カ)のとおり

本件各発明は

いずれも昭

,

,

,

和61年以降に出願されたものであるから,本件ジョイントライセンス契約における「許諾特許」には含まれず,直接的には許諾の対象となっていない。

しかしながら,本件各発明は,本件ジョイントライセンス契約が規定するCDオーディオプレーヤー,CD-ROMプレーヤー等を製造するために必須ではないが,それに付随する発明であると認められるから,本件各特許は,本件ジョイントライセンス契約2条2.03項に基づき,フィリップス社による実施権許諾の対象となっていたというべきである。そうすると,本件各特許に関しては,特許権者が当該特許について有償実施許諾を求める者にはすべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)が採用されていたと認めるのが相当である。

ウ 包括ライセンス契約あるいは包括クロスライセンス契約等を締結している相手方の実施状況

本件クロスライセンス契約の相手方であるA社が,本件各発明を実施していると認めるに足りる証拠はない。

エ 被告による代替技術の実施状況

被告は,従来から,ディスクリート方式の光学ピックアップを製造,販売しており,新型PS2には,ディスクリート方式の光学ピックアップが採用されている

(4) 小括

以上検討したところによれば,被告は,本件各特許につき,開放的ライセンスポリシーを採用していたこと,本件各発明の代替技術が存在し,両者の間に作用効果等の面で顕著な差異が存在すると認めることができないこと,クロスライセンス契約の相手方が,本件各発明を実施しているとは認められないこと,被告自身も本件各発明の代替技術を実施していたこと等を総合考慮すると,被告の競業他者が本件各発明を実施していないことが本件各特許の禁止権に基づくものであるという因果関係を認めることはできない。したがって,被告が,仮に,本件発明AないしCを自己実施しているとしても,それらの禁止権の効果により独占の利益を得ているということはできない。

以上のとおり,本件発明AないしCについて,被告に「使用者等が受けるべき利益の額」が認められないのであるから,これらの発明についての相当の対価の額も認められず,その余の点について判断するまでもなく,本件発明AないしCについての相当の対価の支払請求は,いずれも理由がないことに帰する。

争点7(消滅時効の起算点(消滅時効の抗弁))について

(1) 本件発明DないしFに係る相当対価支払請求の時効消滅について

ア 相当対価支払請求の可否及び根拠

原告は,本件発明D及びEについて特許を受ける権利を被告に承継した時点で,被告に対する相当の対価の請求権を取得したものであるから,相当の対価の請求権に関しては,改正前特許法35条3項及び4項が適用されるところ(平成16年法律第79号附則2条1項),勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(前掲最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決参照)。

また,原告は,アメリカ合衆国において出願された本件発明Fについても,改正前特許法35条3項の類推適用により,被告に特許を受ける権利を承継させたことによる相当の対価の請求権を取得したものと解され,相当の対価の額を定めるに当たっても,本件発明D及びEの特許を受ける権利の承継の場合と同様,改正前特許法35条4項を類推適用すべきであると解される(最高裁平成16年(受)第781号同18年10月17日第三小法廷判決・民集60巻8号2853頁参照)。

イ 消滅時効の起算点

(ア) 職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させる旨を定めた勤務規則等がある場合においては,従業者等は,当該勤務規則等により,特許を受ける権利等を使用者等に承継させたときに,相当の対価の支払を受ける権利を取得する(改正前特許法35条3項)。対価の額については,勤務規則等により定められる対価の額が同条4項の規定により算定される額に満たない場合は,同条3項に基づき,その不足する対価の額に相当する対価の支払を求めることができるのであるが,勤務規則等に対価の支払時期が定められているときは,その定めによる支払時期が到来するまでの間は,相当の対価の支払を受ける権利の行使につき法律上の障害があるものとして,その支払を求めることができないというべきである。そうすると,勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解するのが相当である(前掲最高裁平成15年4月22日第三小法廷判決参照)。

(イ) これを本件についてみると,上記第2,1(3)イのとおり,本件発明考案規定には,被告の従業員が職務発明をした場合には,当該発明について特許を受ける権利を被告に譲渡しなければならないこと(2項(1) ),被告は,当該発明を特許出願した場合には,出願表彰褒賞金を支給すること(4条),被告は,特許登録された当該発明の実施,又は実施許諾により,特に顕著な功績が挙がった場合には,1年毎に経営会議において審査の上,褒賞金を支給すること(5条(1)ないし(3)),などが定められており,また,昭和61年5月1日の改訂前の発明考案規定では,登録褒賞金を支払うものとされていた。

そうすると,本件発明考案規定(改訂前を含む。)は,被告従業員が,被告に対し,職務発明について特許を受ける権利を承継した場合に,被告は,当該従業員に対し,出願褒賞金及び登録褒賞金を支払うこととしており,その支払時期は,特許出願時及び特許登録時であるものと認められる。

これに対し,いわゆる実績補償については,本件発明考案規定によれば,被告は,特許登録された発明が,実施又は実施許諾され,特に顕著な功績が挙がった場合に,経営会議において審査の上,褒賞金(以下「実施褒賞金」という。)を支給するとされているところ(5条(1)),上記のとおり,当該褒賞金の支払時期は,従業者等による実績補償としての相当対価の請求権の行使を可能とし,また,この請求権の消滅時効の起算点となるのであるから,それが,「特に顕著な功績」という抽象的な基準や,経営会議における審査といった被告自身の内部の意思決定によって左右される基準により画されているものと解することは相当でない。そして,同規定が,特許登録された発明が実施又は実施許諾された場合を前提として実施褒賞金を支給すると定めていることに照らすと,従業者等においては,特許登録された発明が実施又は実施許諾される以前に実施褒賞金の支給を求めることは困難であり,相当対価の請求権の行使につき法律上の障害があるものと認められるが,当該発明が実施又は実施許諾された場合には,実績補償としての実施褒賞金の請求権の行使が可能となるものというべきであり,その実施褒賞金の支払時期については,被告において,本件各特許の実施による利益を取得することが可能となり,実施褒賞金を支払う可能性が出てきた時点,すなわち,特許権の設定登録時,当該発明の実施又は実施許諾時のうち,いずれかの遅い時点と解するのが相当である。

(ウ) そこで,上記の各時点につき検討するに,上記第2,1(2)アによれば,本件発明DないしFは,米国において,平成元年10月10日,平成2年1月9日及び平成5年1月19日に,それぞれ設定登録されたことが認められる。

これに対し,本件発明DないしFの実施又は実施許諾がされた具体的な時期を認めるに足りる的確な証拠はないが(なお,原告が,本件各発明が実施されていると主張するポータブルCDプレーヤー「D-J50」(上記第2,3(2)【原告の主張】イ(ア)参照)は,平成3年に発売されている。甲16ないし18,22(5頁),30の2,乙21),上記第2,1(4)エないしカによれば,被告は,原告に対し,本件発明D及びEの実施褒賞金として,平成4年6月8日以前に●(省略)●円を,本件発明Fの実施褒賞金として,平成6年7月7日以前に●(省略)●円を,それぞれ支払ったことが認められるところ,これらの実施褒賞金の支払が被告における発明の実施又は実施許諾と関わりなく行われたとの主張はなく,また,これを認めるに足りる証拠もないから,少なくとも上記各支払期日までの間に本件発明DないしFの実施又は実施許諾が行われたものと推認され,したがって,本件発明考案規定に基づく本件発明DないしFの実施褒賞金の支払時期は,各支払日以前であったというべきである。

そして,本件発明DないしFの実施褒賞金についての消滅時効は,上記各支払によりそれぞれ中断し,上記各支払の時点から,再び進行を開始したものといえる。

そうすると,上記各支払の時点から,原告が,被告に対し,本件発明DないしFの実施褒賞金の支払を催告した平成18年12月21日まで,10年以上経過していることが明らかであるから,各支払請求権につき消滅時効が完成しているものと認められる。

ウ したがって,本件発明DないしFについての相当対価支払請求権は,時効により消滅したというべきである。

(2) 原告の主張について

ア これに対し,原告は,本件発明考案規定は,表彰に当たり「国内」と「外国」とを明確に区別しているから,国内出願についての実施褒賞金の支払時期は,本件発明D及びEの我が国における登録日以降の日である平成9年9月26日であると主張する。

確かに,上記第2,1(3)イのとおり,本件発明考案規定においては,出願褒賞について,「国内」と「外国」とが明確に区別されているが(4条),実施褒賞については,これらを区別する規定が何ら設けられておらず(5条),複数出願につき,1発明に関して,日本国以外に出願する場合には,各国に対するいかなる出願をも1つの単位とみなし,その単位に対し1個の表彰をする(6条(3))と定められていることからすると,実施褒賞金の支払は,日本国特許及び外国特許を区別することなく,一体のものとして行う趣旨であると解するのが相当である。

イ また,原告は,本件発明Fにつき,権利が満了する時期まで,顕著な功績の有無は確定できず,最後の実施褒賞の有無も確定し得ないところ,平成9年の発明考案規定改定によって導入された再審査制度の不適用により,実施褒賞を受けられないことが確定したのであるから,相当対価請求権の消滅時効の起算点が,平成9年9月以前となることはないと主張する。しかしながら,上記(1)アのとおり,職務発明について特許を受ける権利を使用者等に承継させた場合に,従業員等が取得する相当対価請求権は,その承継の時に発生するものであり,その相当の対価の額は,相当対価請求権の発生時において,客観的に見込まれる利益の額として「使用者等が受けるべき利益の額」を算定することによって決定し得るものであるから,原告の上記主張は,その前提において誤りがあるというべきである。また,仮に,原告が主張するように,特許権が満了する時期まで顕著な功績の有無が確定できず,実施褒賞金請求権の消滅時効が起算されないとすることは,すなわち,その時期まで従業者等が実施褒賞金を請求できないことを意味するのであって,従業者等にとってかえって不利益な状況となり得るのであるから,勤務規則等に明確な定めがある場合にのみそのような解釈が可能となると解すべきところ,本件発明考案規定には,そのような規定が設けられていないことは明らかである。

そして,発明考案規定の改定による再審査制度の不適用などの被告内部の意思決定によって,原告による実施褒賞金の請求が可能となると解するのが不合理であることは

上記(1)イ(イ)のとおりであるから

この時点を

,

,

もって消滅時効の起算点とすることも相当でない。

ウ

したがって,この点についての原告の主張は,いずれも採用することができない。

(3) 小括

よって,その余の点について判断するまでもなく,本件特許DないしFについての相当の対価の支払請求は,いずれも理由がないことに帰する。第4

結論

以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないので,これらを棄却することと,

,

,

。

し

訴訟費用の負担につき

民事訴訟法61条を適用して

主文のとおり判決する

東京地方裁判所民事第29部

裁判長裁判官

清水節

裁判官

國分隆文

裁判官間明宏充は,海外留学のため,署名押印することができない。裁判長裁判官

清水節

別紙

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/36905/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。