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地裁判決請求棄却

大阪地判 平成20年10月6日

平成18年(ワ)第7760号等 特許権侵害差止等請求事件

裁判所
大阪地方裁判所
裁判年月日
平成20年10月6日 (2008-10-06)
事件番号
平成18年(ワ)第7760号等
事件名
特許権侵害差止等請求事件
裁判の種類・結果
判決 請求棄却
判例集等
—
分野
民事・知的財産・特許権・民事訴訟

平成20年10月6日判決言渡同日原本受領裁判所書記官

平成18年(ワ)第7760号特許権侵害差止等請求事件

平成20年(ワ)第6887号承継参加申出事件

判決

原告兼脱退原告承継参加人(以下「原告」という。)

ユーロスクリーンエス. エー.

同訴訟代理人弁護士城山康文

同岩瀬吉和

同山本健策

同訴訟代理人弁理士山本秀策

同森下夏樹

同補佐人弁理士長谷部真久

脱退原告アイコスコーポレイション

被告小野薬品工業株式会社

同訴訟代理人弁護士加藤幸江

同中務尚子

同近藤恭子

同國吉雅男

主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判

原告

(1) 被告は,別紙物件目録1ないし6記載の物件を生産,使用,譲渡もしくは貸渡し,又は譲渡もしくは貸渡しの申出をしてはならない。

(2) 被告は,その占有にかかる別紙物件目録1ないし6記載の物件を廃棄せよ。

(3) 被告は,原告に対し,16億円及びうち5億円に対する平成14年3月15日から,うち11億円に対する平成18年8月17日から各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(4) 訴訟費用は被告の負担とする。

(5) 仮執行宣言

被告

主文と同旨

第2 事案の概要

前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)

(1) 当事者

原告は,ベルギー王国ブリュッセルに主たる営業所を有する会社であり,脱退原告(以下「アイコス」という。)は,アメリカ合衆国ワシントン州に主たる営業所を有する会社である。

被告は,大阪市中央区に本店を有し,医薬品などの製造,売買及び輸出入を業とする会社である。

(2) 技術的背景

ア ケモカインは,ケモタクティック・サイトカインからの造語であり,サイトカインの一種である。サイトカインは,ヒトのような多細胞生物の細胞間において情報のやり取りを担うシグナル伝達物質であり,タンパク質(ペプチド分子)で構成されている。また,細胞膜上には,ケモカインと特異的に結合する受容体(レセプター)が存在し,ケモカイン受容体と呼ばれる。ケモカインは,ケモカイン受容体と結合することにより,白血球やリンパ球の遊走,活性化を誘導するという機能を有し,炎症反応,免疫応答などの生命維持活動に関係する役割を果たしている。ヒトでは45種のケモカインと,19種のケモカイン受容体が同定されているが,さらに多くの同定が試みられている。

イ 本件各発明(後述)に係るケモカイン受容体88Cは,マクロファージ,T細胞などの免疫作用に関連する細胞の表面に存在する。その後,ケモカイン受容体88Cは,一般的にCCR5と呼ばれるようになった。

(3) 原告の特許権

ア アイコスは,次のとおりの特許権(以下「本件特許権」といい,その特許出願を「本件特許出願」という。本件特許権に係る特許請求の範囲請求項1ないし14の発明を「本件特許発明1ないし14」,同特許の出願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)を有していた。特許番号第3288384号

出願日平成8年12月20日

登録日平成14年3月15日

優先権主張番号 08/575,967(以下「本件基礎出願1」という。)優先日(第1優先日)平成7年12月20日

優先権主張国米国(US)

優先権主張番号 08/661,393(以下「本件基礎出願2」という。)優先日(第2優先日)平成8年6月7日

優先権主張国米国(US)

発明の名称ケモカイン受容体88-2B[CKR-3]及び88Cならびにそれらの抗体

イ 本件明細書の特許請求の範囲

(ア) 請求項1(本件発明1)

配列番号:2に示されるケモカイン受容体88Cのアミノ酸配列をコードする,精製及び単離されたポリヌクレオチド

(イ) 請求項2(本件発明2)

前記ポリヌクレオチドがDNAである請求項1記載のポリヌクレオチド

(ウ) 請求項8(本件発明8)

請求項2記載のDNAを含む,生物学的機能を有するDNAベクター

(エ) 請求項9(本件発明9)

前記DNAが,DNA発現制御配列と作動可能に連結されている請求項8記載のベクター

(オ) 請求項10(本件発明10)

前記DNAの発現を許容するように,請求項2記載のDNAを用いて安定に形質転換またはトランスフェクトされた宿主細胞

(カ) 請求項13(本件発明13)

配列番号:2に示されるケモカイン受容体88Cのアミノ酸配列を含み,ケモカイン受容体88Cとして作用する,精製及び単離されたポリペプチド

(キ) 請求項14(本件発明14)

請求項1または12記載のポリヌクレオチドによってコードされる,精製及び単離されたポリペプチド

(以下,本件発明1,2,8,9,10,13,14を「本件各発明」という。)

ウ 本件各発明の構成要件

本件各発明の構成要件は,次のとおりに分説することができる。

(ア) 本件発明1

A配列番号:2に示されるケモカイン受容体88Cのアミノ酸配列をコードする,

B

精製及び単離された,

C

ポリヌクレオチド。

(イ) 本件発明2

D

前記ポリヌクレオチドがDNAである,

E

請求項1のポリヌクレオチド。

(ウ) 本件発明8

F

請求項2記載のDNAを含む,

G

生物学的機能を有するDNAベクター。

(エ) 本件発明9

H

請求項2記載のDNAが,

I

DNA発現制御配列と作動可能に連結されている,

J

請求項8記載のベクター。

(オ) 本件発明10

K

請求項2記載のDNAの発現を許容するように,

L

請求項2記載のDNAを用いて安定に形質転換またはトランス

フェクトされた,

M

宿主細胞。

(カ) 本件発明13

N

配列番号:2に示されるケモカイン受容体88Cのアミノ酸配列を含み,

O

ケモカイン受容体88Cとして作用する,

P

精製及び単離された,

Q

ポリペプチド。

(キ) 本件発明14

R

請求項1または12記載のポリヌクレオチドによってコードされる,

S精製及び単離された,

Tポリペプチド。

エ 独占的通常実施権の付与

原告は,平成14年12月24日,アイコスから,本件特許及び対応米国特許について,独占的通常実施権の設定を受けた(弁論の全趣旨)。

オ 専用実施権の設定

原告は,平成18年6月30日,アイコスから,本件特許について,専用実施権の設定を受けた。

カ 本件特許権の譲渡

原告は,平成20年4月2日,アイコスから,本件特許権の譲渡を受けた。

(4) 被告の行為

ア ケモカイン受容体CCR5を標的とした化合物のスクリーニング被告は,********************ケモカイン受容体CCR5を標的として,薬剤の候補となる化合物のスクリーニングを行った。

その際,被告は,①本件発明1のアミノ酸配列(別紙物件目録添付の別紙配列表)をコードするDNAである別紙物件目録1記載のDNA(以下「本件物件1」もしくは「本件DNA」という。)の増幅,精製及び単離,②本件物件1(DNA)を含む別紙物件目録2記載のDNAベクター(以下「本件物件2」という。)の生産,③本件物件2(DNAベクター)によって安定にトランスフェクト(培養動物細胞へDNAを直接導入して,細胞の遺伝形質を変異させること)された別紙物件目録3記載の宿主細胞(以下「本件物件3」という。)の生産を行った(***********引き続きこれら①ないし③を行っているか否かについては争いがある。)。

イ 情報記録媒体の作成

被告は,上記アの行為を行うことに伴い,別紙物件目録5記載の記録媒体(以下「本件物件5」という。)を作成している。

ウ 被告特許出願

被告は,前記アの行為の結果,薬剤の候補となる化合物であるトリアザスピロ[5.5]ウンデカン誘導体(ONO-4128)を発見し,平成11年12月3日,日本国内において特許出願するとともに(甲4。以下「被告特許出願」という。),平成13年3月19日を優先日と主張して,国際特許出願(PCT/JP2002/002554)をした(甲6)。

エ GSK社との取引

被告は,平成14年12月,英国グラクソ・スミスクライン社(以下「GSK社」という。)に対し,上記ONO-4128及び後続の化合物に関する開発,製造,販売についての権利を供与した。

(5) 債権譲渡

アイコスは,原告と共に,本訴を提起し,被告に対し,本件物件1の生産の禁止などを求め(前記第1の1(1),(2)参照),併せて,それぞれ,特許法184条の10に基づく補償金として各2億5000万円,民法709条,特許法102条2項もしくは3項に基づく損害賠償として各5億5000万円及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めていたが,平成20年4月2日,原告に対し,本件特許権を譲渡するとともに(前記(3)カ),アイコスが被告に対して支払を求めていた上記金銭請求権を原告に譲渡した。

原告の請求

原告は,被告のスクリーニング行為などが,本件特許権を侵害するとして,被告に対し,次のとおり求めている。

(1) 前記第1の1(1)関係

ア 特許法100条1項に基づき,本件物件1ないし3及び別紙物件目録4記載のポリペプチド(以下「本件物件4」という。)の生産,使用,譲渡及び貸渡し,並びに譲渡又は貸渡しの申出の差止

イ 特許法101条1号,100条1項,2項に基づき,本件物件5(記録媒体)の生産,使用,譲渡及び貸渡し,並びに譲渡又は貸渡しの申出の差止

ウ 特許法100条2項に基づき,別紙物件目録6記載の化合物(以下「本件物件6」という。)の生産,使用,譲渡及び貸渡し,譲渡又は貸渡しの申出の差止

(2) 前記第1の1(2)関係

ア 特許法100条2項に基づき,本件物件1ないし4の廃棄

イ 特許法100条2項,101条1号に基づき,本件物件5の廃棄

ウ 特許法100条2項に基づき,本件物件6の廃棄

(3) 前記第1の1(3)関係

ア 特許法184条の10に基づき,補償金として5億円の支払

イ 民法709条,特許法102条2項もしくは3項に基づき,損害賠償として11億円(うち訴訟代理人費用1億円を含む。)の支払

ウ 上記ア,イに対する遅延損害金の支払

争点

(1) 技術的範囲への属否……………(争点1)

ア 直接侵害の成否………………(争点1-1)

本件物件1(DNA)の単離等による本件特許権の直接侵害の成否

イ 間接侵害の成否………………(争点1-2)

本件物件5(記録媒体)の作成等による本件特許権の間接侵害の成否

(2) 差止請求の範囲……………(争点2)

本件物件5(記録媒体),同6(化合物)に対する差止請求の可否

(3) 無効事由の存否……………(争点3)

ア 新規性欠如の有無(その1)………………(争点3-1)

イ 本件基礎出願1の優先権主張の可否……………(争点3-2)

ウ 新規性欠如の有無(その2)………………(争点3-3)

(4) 補償金……………(争点4)

(5) 損害……………(争点5)

第3 争点に関する当事者の主張

技術範囲への属否

-1直接侵害の成否(争点1-1)

【原告の主張】

(1) 本件物件1(DNA)の増幅,精製及び単離

ア 被告の行為

PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)では,目的とするDNA配列の両端部分に対応するプライマーを予め設計し,このプライマーを添加することにより,プライマーに挟まれた部分のDNAのみを増幅することができる。

被告は,本件明細書添付の配列表番号2に示されるアミノ酸配列(別紙物件目録添付の配列表と同じ。以下「本件アミノ酸配列」という。)の情報を含むヒト胎盤cDNAを作製し,さらに,GenBank U54994 の配列(CCR5をコードするDNAの配列情報)に基づき,PCRプライマーを設計し,上記ヒト胎盤cDNAから,当該プライマーによって挟まれた部分(本件物件1:CCR5遺伝子)のみを選択して,これを増幅し,さらに,増幅したPCR産物を,1%アガロースゲル電気泳動後,DNA(本件物件1)を精製,単離した(甲4)。

イ 本件発明1(構成要件A~C)との対比

(ア) 構成要件A

被告が作製した上記ヒト胎盤cDNAから,PCRによって増幅された本件物件1(DNA)は,本件発明1のポリヌクレオチドがコードするアミノ酸配列(本件アミノ酸配列)をコードするものであり(甲3),本件発明1の構成要件Aを充足する。

(イ) 構成要件B,C

また,前記アのとおり,被告は,本件物件1(DNA)を精製,単離した。

本件物件1(DNA)は,本件発明1の構成要件B,Cを充足する。

(ウ) したがって,被告の前記アの行為によって得られた本件物件1(DNA)は,本件発明1の技術的範囲に属する。

ウ 本件発明2(構成要件D,E)との対比

被告の前記アの行為によって得られた本件物件1(DNA)は,前記イからも明らかなとおり,本件発明2の構成要件D,Eを充足し,本件発明2の技術的範囲に属する。

(2) 本件物件2(DNAベクター)の生産

ア 被告の行為

被告は,前記増幅したPCR産物から精製した本件物件1(DNA)を,制限酵素XbaⅠで切断し,その断片をDNAベクターである pEF-BOS-bsr に連結した(甲4)。

また,被告は,それ以外にも,本件物件1(DNA)をDNAベクターである pEF6/V5-His に連結している(甲5)。

このように,被告は,本件物件1(DNA)を含むDNAベクター(本件物件2)を生産したといえる。

イ 本件発明8(構成要件F,G)との対比

(ア) 構成要件F

被告の前記アの行為により得られた本件物件2(DNAベクター)は,構成要件Fを充足する。

(イ) 構成要件G

本件物件2(DNAベクター)は,いずれも,異種DNAの運搬機能以外に,転写開始配列(プロモーター)や薬剤耐性遺伝子を有しており,生物学的機能を有しており,構成要件Gを充足する。

(ウ) したがって,被告の前記アの行為によって得られた本件物件2(DNAベクター)は,本件発明8の技術的範囲に属する。

ウ

本件発明9(構成要件H~J)との対比

(ア) 構成要件H,J

(

)

被告の前記アの行為によって得られた本件物件2DNAベクターは,前記イからも明らかなとおり,本件発明9の構成要件H,Jを充足する。

(イ) 構成要件I

被告が生産したプラスミドpEF-BOS-bsr/hCCR5(本件物件1を含むDNAベクター:pEF-BOS-bsr)をCHO細胞に形質導入(トランスフェクト)した結果,安定過剰発現細胞を樹立したのであるから,被告が生産したDNAベクター内のDNA発現制御配列は,異種DNAである本件物件1(DNA)の発現を制御しているので,構成要件Iを充足する。

(ウ) したがって,被告の前記アの行為によって得られた本件物件2(DNAベクター)は,本件発明9の技術的範囲に属する。

(3) 本件物件3(宿主細胞)の生産

ア

被告の行為

被告は,プラスミドpEF-BOS-bsr/hCCR5(本件物件1を含むDNAベクターpEF-BOS-bsr)をCHO細胞に形質導入(トランスフェクト)した結果,安定過剰発現細胞を樹立したが,上記CHO細胞は,本件物件1(DNA)が導入された,いわゆる宿主細胞に該当する。

したがって,被告は,本件物件1(DNA)を含むDNAベクターによって,安定にトランスフェクトされた宿主細胞(本件物件3)を生産したといえる。

イ

本件発明10(構成要件K~M)との対比

(ア) 構成要件K

被告の前記アの行為により生産した本件物件3(宿主細胞)は,本件物件1(DNA)がコードするタンパク質であるCCR5を発現していることから,本件物件1(DNA)の発現が許容されており,構成要件Kを充足する。

(イ) 構成要件L

前記アのとおり,安定過剰発現細胞を樹立したのであるから,構成要件Lを充足する。

(ウ) 構成要件M

前記アのとおり,被告が調製したCHO細胞は,宿主細胞であり,構成要件Mを充足する。

(エ) したがって,被告の前記アの行為によって得られた本件物件3(宿主細胞)は,本件発明10の技術的範囲に属する。

(4) スクリーニングの実施

ア

被告の行為

被告は,本件物件1(DNA)を用いて発現したケモカイン受容体CCR5と,これに特異的に結合するケモカインの一種であるRANTESとの結合を阻害する化合物のスクリーニングを行った。

イ

本件発明1,2との対比

被告は,前記行為(前記ア)にあたり,本件物件1(DNA)を使用しているが,ここで使用されるDNAは,本件発明1及び同2の各構成要件を充足し,本件発明1,2の技術的範囲に属する。

ウ 本件発明8,9との対比

被告は,前記行為(前記ア)にあたり,本件物件1(DNA)(前記イ)を用いて,生物学的機能を有し,かつ,そのDNAがDNA発現制御配列と作動可能に連結されている本件物件2(DNAベクター)が調製されているが,上記DNAベクターは,本件発明8,9の各構成要件を充足し,本件発明8,9の技術的範囲に属する。

エ 本件発明10との対比

被告は,前記行為(前記ア)にあたり,前記イのDNAを使用してケモカイン受容体CCR5を発現する本件物件3(宿主細胞)を生産しているが,上記宿主細胞は,構成要件KないしMを充足し,本件発明10の技術的範囲に属する。

(5) ケモカイン受容体CCR5の精製及び単離

ア 被告の行為

被告は,ケモカイン受容体CCR5の精製及び単離を行っている。

イ 本件発明13(構成要件N~Q)との対比

(ア) 構成要件N,O

ケモカイン受容体CCR5のアミノ酸配列(別紙物件目録添付の配列表の配列)は,配列番号:2(本件明細書添付の配列表番号)に示されるケモカイン受容体88Cのアミノ酸配列と同じ配列であり,また,ケモカイン受容体CCR5が,ケモカイン受容体88Cとして作用することも当然であるから,ケモカイン受容体CCR5は,構成要件N,Oを充足する。

(イ) 構成要件P

前記アのとおり,被告は,ケモカイン受容体CCR5を精製及び単離しているので,構成要件Pを充足する。

(ウ) 構成要件Q

ケモカイン受容体CCR5はポリペプチドであるから,構成要件Qを充足する。

(エ) したがって,被告によって精製及び単離された本件物件4(ケモカイン受容体CCR5)は,本件発明13の技術的範囲に属する。

ウ 本件発明14(構成要件R~T)との対比

ケモカイン受容体CCR5は,本件発明1のポリヌクレオチドによってコードされ,精製及び単離されたポリペプチドであるから,被告によって精製及び単離された本件物件4(ケモカイン受容体CCR5)は構成要件RないしTを充足し,本件発明14の技術的範囲に属する。

(6) 発見した化合物についての更なる解析

ア 被告の行為

被告は,本件物件1(DNA)をCHO細胞に導入し,その細胞を用いてケモカイン受容体CCR5を量産し,これを用いてONO-4128を選択したが,平成14年3月18日以降も,ONO-4128を含む本件物件6(ONO-4128等)について解析を行い,有用な薬物を得るため等に,ケモカイン受容体CCR5を用いた実験を行っている。

イ 本件発明10(構成要件K~M)との対比

被告は,上記実験のため,本件物件1(DNA)及び上記DNAを含む本件物件2(DNAベクター)を使用してケモカイン受容体CCR5を発現する本件物件3(宿主細胞)を量産しているが,上記宿主細胞は構成要件KないしMを全て充足し,本件発明10の技術的範囲に属する。【被告の主張】

(1) DNAの増幅,精製及び単離

被告が,【原告の主張】(1)アのとおり,本件物件1(DNA)の増幅,精製及び単離をした事実はあり,この行為によって得られたDNAが本件発明1,2の技術的範囲に属することは争わない。

しかし,被告の上記行為は,被告特許出願(特願平11-344967号。甲4)の日の平成11年12月3日以前である,*********行われたものであり,原告の本件特許の登録日である平成14年3月15日より前のことである。

よって,被告の上記行為は,原告の本件特許権を侵害していない。

(2) DNAベクターの生産

被告が,【原告の主張】(2)アのとおり,本件物件2(DNAベクター)を生産した事実はあり,これが本件発明8,9の技術的範囲に属することは争わない。

しかし,被告の上記行為は,被告特許出願(上記(1)参照)の日の平成11年12月3日以前である,*********行われたものであり,原告の本件特許の登録日である平成14年3月15日より前のことである。

よって,被告の上記行為は,原告の本件特許権を侵害していない。

(3) 宿主細胞の生産

被告が,【原告の主張】(3)アのとおり,本件物件3(宿主細胞)を生産した事実はあり,これが本件発明10の技術的範囲に属することは争わない。

しかし,被告の上記行為は,被告特許出願(前記(1)参照)の日の平成11年12月3日以前である,*********行われたものであり,原告の本件特許の登録日である平成14年3月15日より前のことである。

よって,被告の上記行為は,原告の本件特許権を侵害していない。

(4) スクリーニングの実施

被告が,【原告の主張】(4)アのとおり,ケモカイン受容体CCR5を発現する安定発現細胞を調製し,これをスクリーニングに供した事実はあり,その工程の一部で使用した物が本件発明1,2,8,9,10の技術的範囲に属することは争わない。

しかし,被告の上記行為は,いずれも,被告特許出願(前記(1)参照)の日の平成11年12月3日以前に行われたものであり,原告の本件特許の登録日である平成14年3月15日より前のことである。

よって,被告の上記行為は,原告の本件特許権を侵害していない。

(5) ケモカイン受容体CCR5の精製及び単離

被告は,多種の膜蛋白質が混在した状態でケモカイン受容体CCR5を使用したのであって,ケモカイン受容体CCR5の精製,単離を行った事実はない。

よって,被告の上記行為は,原告の本件特許権を侵害していない。

(6) 発見した化合物についての更なる解析

被告が,本件物件1(DNA)をCHO細胞に導入し,同細胞を用いてケモカイン受容体CCR5を生産し,これを用いてONO-4128を選択した事実,及びONO-4128の特性を確認した事実はあるが,********************原告の本件特許の登録日である平成14年3月15日より前のことである。

その後,被告は,上記化合物(ONO-4128)の解析のため,本件各発明を使用したことはない。

よって,被告の上記行為は,原告の本件特許権を侵害していない。-2間接侵害の成否(争点1-2)

【原告の主張】

本件各発明はいずれも物の発明であるが,これらの物はスクリーニングにおいて使用され,スクリーニングの結果得られる情報に重要な価値がある。被告は,1-1【原告の主張】(4),(6)のとおり,一連のスクリーニングを繰り返し行っており,その過程で,本件物件1ないし4の物件を繰り返し生産し,これらの実験や試験の結果得られる情報を,本件物件5(記録媒体)に記録している。

本件物件5は,将来の実験ないし試験に先立ち,あるいは,その過程において,本件物件1ないし4の使用のために作成されるものである。そして,本件物件5の用途は,専ら,本件物件1ないし4を使用して行う実験ないし試験(一連のスクリーニング)に限られるのであり,これ以外の用途は存在しない。

他方,リサーチツールとして使用される道具(物)の発明に関しては,当該道具(物)の生産と使用とは,社会的に一体の行為と見るべきである。特に,本件物件3(宿主細胞)は,生きている宿主細胞を使用するので,使用の過程において,常に細胞の増殖である生産が行われる。

したがって,本件物件5(記録媒体)は,本件各発明の技術的範囲に属する「その物の生産にのみ用いる物」に該当し,特許法101条1号の適用又は準用により,その生産,譲渡若しくは貸渡しは,本件特許権を侵害するものとみなされる。

また,「その物の生産にのみ用いる物」に該当するとの解釈が困難であるとしても,前述したとおり,バイオテクノロジーの分野においてリサーチツールとして利用される発明の場合には,「その物の使用にのみ用いる物」についても,特許法101条1号が適用又は準用されるものと解するべきである。【被告の主張】

特許法101条1号の間接侵害の規定の趣旨は「特許が結合発明として,複数の要素の結合よりなる場合,その一部の要素の製造販売は,特許請求範囲との比較においては,他の要素を欠如しているから,技術的範囲に属するとはいえない。しかし,その一部の要素が,特許発明の実施にのみ用いられるもので,他の用途の存しない場合は,この一要素は結局,最終的な直接侵害の遂行に役立ち,またそのためにのみなされているものであるから,この一部の要素の製造販売をも,特許権侵害とすることを要する。」とされている。

本件各発明は,いずれも物の発明であるところ,本件物件5(記録媒体)は,本件各発明のいずれについても,その「一部の要素」ではなく,また,本件各発明の「生産にのみ用いる物」でもない。

よって,本件物件5(記録媒体)の作成が,本件特許権の間接侵害に当たることはない。

2 差止請求の範囲(争点2)

【原告の主張】

(1) 「侵害の行為を組成した物」,「侵害の行為に供した設備」(特許法100条2項)

ア 本件物件5(記録媒体)

本件物件5は,本件特許権を侵害するスクリーニングにおいて使用される情報を記録した媒体であるから,「侵害の行為を組成した物」に該当する。

仮に,本件物件5(記録媒体)が,「侵害の行為を組成した物」でないとしても,後続のスクリーニングに用いられものであるから,少なくとも「侵害の行為に供した設備」に該当する。

イ 本件物件6(ONO-4128等)

被告が保有する本件物件6は,本件発明13のケモカイン受容体CCR5の使用,本件発明10の宿主細胞の生産,使用により得られた化合物であるから,本件発明の「侵害行為を組成した物」,「侵害の行為に供した設備」に該当する。

(2) 「侵害の予防に必要な行為」(特許法100条2項)

本件物件5(記録媒体)を使用,譲渡する行為や,本件物件6(ONO-4128等)を生産,使用,譲渡する行為は,被告による本件特許権侵害行為によって惹起される損害を拡大する行為である。

したがって,本件物件5,本件物件6の生産,使用及び譲渡を差し止め,これらを廃棄することは,とりわけ本件物件3(宿主細胞)の使用の差止を実効あらしめるものであるから,特許法100条2項の「侵害の予防に必要な行為」に該当する。

【被告の主張】

(1) 「侵害の行為を組成した物」,「侵害の行為に供した設備」(特許法100条2項)

特許法100条2項にいう「侵害の行為を組成した物」は,特許が物の発明である場合,まさにその物を指すところ,本件物件5(記録媒体)や本件物件6(ONO-4128等)が,本件各発明の実施品に当たらないことは明らかである。

また,本件物件5(記録媒体)や本件物件6(ONO-4128等)は,本件各発明の「侵害の行為に供した設備」にも当たらない。

(2) 「侵害の予防に必要な行為」(特許法100条2項)

特許法100条2項にいう「侵害の予防に必要な行為」とは,「特許発明の内容,現に行われ又は将来行われるおそれがある侵害行為の態様及び特許権者が行使する差止請求権の具体的内容等に照らし,差止請求権の行使を実行あらしめるものであって,かつ,それが差止請求権の実現のために必要な範囲内のもの」をいうところ,物の発明である本件各発明の特許権に基づく侵害差止請求としては,本件各発明の生産,使用等の差止を請求することができるにとどまる。

したがって,本件各発明とその構成要件を全く異にする本件物件5(記録媒体)や本件物件6(ONO-4128等)の生産の差止及びそれらの廃棄を求めることはできない。

無効事由の存否(争点3)

-1新規性欠如の有無(その1)(争点3-1)

【被告の主張】

(1) 本件基礎出願1の出願日(第1優先日)に先立つ公知文献乙3,4があること

本件特許は,平成7年12月20日を第1優先日とするが,本件各発明に係る物は,全て,それ以前である平成7年7月14日に発行された文献乙3(後に乙4により一部訂正)に記載されていた。

ア 本件発明1,2

文献乙3には,ケモカイン受容体CCR5のcDNAが精製,単離されていたことが記載されているが,このDNAは,ケモカイン受容体CCR5をコードするポリヌクレオチドから構成されており,本件発明1,2は,乙3に記載されている。

イ 本件発明8,9

文献乙3には,遺伝子組み換え実験において宿主菌内で別の生物種に由来する遺伝子を増幅したり発現させたりするためのベクターとして用いられるプラスミドが記載されているが,このプラスミドは,ケモカイン受容体CCR5のcDNAを含んでいることが明らかにされており,本件発明8,9のDNAベクターは,乙3に記載されている。

ウ 本件発明10

文献乙3には,「cDNAを含むプラスミドで安定的にトランスフェクトし,Fura-2を添加したHEK293細胞」ないしは「CCCKR3を安定的に発現するHEK293細胞」との記載があるが,これは,ケモカイン受容体CCR5をコードするDNAの発現を許容するように,同DNAを用いて安定に形質転換(トランスフェクト)された宿主細胞を意味しており,本件発明10の宿主細胞は,乙3に記載されている。

エ 本件発明13,14

文献乙3には,「CCCKR3」との記載が多く見られるが,平成7年12月15日に発行された乙4の1によって,上記「CCCKR3」は,「CCCKR5」(CCR5)であったことが明らかにされており,このケモカイン受容体CCR5は,ポリペプチドであるから,本件発明13,14のポリペプチドは,乙3に記載されている。

(2) 特許庁の判断基準

特許庁が平成17年3月に公表した「特許検索ガイドブック~遺伝子工学~」(乙7)には,「本願発明に係る蛋白質がアミノ酸配列で特定され,かつ,そのアミノ酸配列が新規であるとしても,当該蛋白質が本願出願前に単離・精製されていれば,新規性無しと判断する。」との判断基準が示されている。

(3) まとめ

前記(1),(2)を総合すると,本件各発明は新規性を有しない。【原告の主張】

(1) 文献乙3,同4で開示されている内容について

ア 文献乙3,同4に記載された遺伝子は,CCR5遺伝子(本件各発明に係る配列番号:2に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子)ではない。

文献乙3,同4の著者が発表した論文(甲25)によると,文献乙4で「CCCKR5」と呼ばれるケモカイン受容体は,「CCCKR5」(CCR5)とは異なることが明らかである。

当業者からも文献乙3,同4は,「CCCKR5」を開示したものとは認められていない。

イ 仮に,文献乙3,同4において単離された遺伝子が,CCR5遺伝子(本件各発明に係る配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする遺伝子)であったとしても,文献乙3,同44には,その精製,単離が開示されていない。

(2) 特許庁の判断基準の適用について

文献乙3では,タンパク質の単離・精製が行われているわけではないので,この判断基準を引用することは当を得ていない。

(3) まとめ

文献乙3,同4を引用例として,本件基礎出願1の新規性の欠如をいうことはできない。

-2本件基礎出願1の優先権主張の可否(争点3-2)

【被告の主張】

(1) 本件各発明における有用性,実施可能性の記載

特許を受けるためには,その発明が,産業上の利用可能性(有用性)を有する必要があるとともに(特許法29条),明細書において,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,詳細な説明を記載する必要がある(特許法36条4項)。

物の発明において,「実施することができる」とは,その物を作ることができ,かつ,その物を「使用することができる」ことである。そして,遺伝子,遺伝子断片,タンパク質等に係る発明において,「使用することができる」とは,当該遺伝子等が特定の機能を有することを発明の詳細な説明に記載されることを要する。

(2) 本件基礎出願1の明細書には,本件各発明に係るケモカイン受容体88Cに結合するリガンドが開示されていないこと

本件各発明は,ケモカイン受容体88C(CCR5)に係るDNA等であるが,ケモカイン受容体88Cの機能は,ケモカイン受容体88Cに結合するリガンド(ケモカインはリガンドの一種)が特定されて初めて,その機能の具体的内容が判明する。

本件基礎出願1の明細書(乙1)には,88-2Bと88Cの両方がクレームされているが,ケモカイン受容体88Cに結合するリガンドは特定されていない。

しかも,本件基礎出願1の明細書には,ケモカイン受容体88Cが本来結合するリガンドであるMIP-1α,MIP-1βについて,シグナル伝達が確認できなかった(結合しなかった)と明記されている。

このように,本件基礎出願1の明細書には,ケモカイン受容体88Cが結合するリガンドについて,一切開示されておらず,本件各発明における有用性,実施可能性が記載されていない。したがって,本件基礎出願1には,本件各発明が開示されているとはいえず,本件特許は,本件基礎出願1の優先権を主張することができない。

【原告の主張】

(1) 本件基礎出願1においてケモカイン受容体88Cに結合するリガンドが特定されていること

本件基礎出願1の明細書には,88C(CCR5)と結合するリガンド(CCケモカイン)が実質的に開示されていたといえるため,上記明細書に接した当業者は,88C(CCR5)が特定のCCケモカインと特異的に結合することを認識できた。

また,そのことから,既知の上記CCケモカインと同様の機能を有することを当業者は当然に理解できた。

ア

リガンドとしてCCケモカインを特定していること

次のとおり,本件基礎出願1の明細書では,本件各発明に係る88C(CCR5)と結合するリガンドをCCケモカインと特定している。

(ア) 本件基礎出願1の明細書(乙1)には,本件各発明に係る配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質(88C)が,既知のCCケモカイン受容体と高い同一性を有していることが記載されている。

88C(CCR5)のリガンドが実験により特定されるか否かとは無関係に,88C(CCR5)の配列が既知のケモカイン受容体の配列と高い同一性を有すれば,当該既知のケモカイン受容体と同様の機能を有すること,当該既知のケモカイン受容体と同様のリガンドに結合することを当業者は当然に理解する。

(イ) 上記明細書の実施例2には,「マクロファージcDNAライブラリーから全長の88-2B及び88CcDNAを単離した。」と記載されている。

また,上記明細書の実施例3から,88Cが,脾臓,胸腺組織,末梢血白血球,小腸及び肺組織で発現することが示されているが,これらの組織には,マクロファージが豊富に含まれていることが公知であり,上記出願時において当業者は,88Cがマクロファージにおいて発現していることを理解する。

ところで,本件基礎出願1の出願日前の技術常識では,CXCケモカインが一般に好中球に影響を及ぼすのに対し,CCケモカインは,単球,リンパ球,好塩基球,好酸球に影響を及ぼす傾向があることが知られ,マクロファージは単球であるから,マクロファージにおいて発現するケモカイン受容体は,CCケモカイン受容体であることが理解できた。

イ リガンドの候補を特定していること

本件基礎出願1の出願日前において,7種類のヒトCCケモカインが知られていたが,本件基礎出願1の明細書において,本件各発明に係る88Cが結合するケモカインの候補として,MCP-1,MCP-2,MCP-3,MIP-1α,MIP-1β及びRANTESを挙げている。さらに,上記CCケモカインの中でも,当時,マクロファージに対し走化という影響を与えるCCケモカインとして,RANTES(甲36),MIP-1α,MIP-1β及びMCP-1が知られており,本件基礎出願1の明細書に接した当業者は,88C(CCR5)と結合するリガンドは,上記CCケモカインの全部又は一部であると理解した。

なお,本件基礎出願1の明細書には,「MIP-1α,MIP-1βについて,シグナル伝達(88Cとの結合により生じる現象)が確認できなかった」旨の記載があるが,88Cとの結合を否定まではしていない。

ウ リガンドの同定法が開示されていること

本件基礎出願1の明細書(乙1)には,当業者が試行錯誤することなく本件各発明に係る88Cと結合するリガンドを容易に決定できる程度に,リガンドの同定方法が具体的に開示されており,本件各発明に係る88Cと結合するリガンドが実質的に開示されている。

(2) アンタゴニストのスクリーニングにおける有用性

仮に,本件基礎出願1の明細書の記載では,88C(CCR5)と結合するリガンドの特定が必ずしも十分でなかったとしても,本件基礎出願1の明細書の記載は,マクロファージの走化(トラフィッキング)が関連する疾患に対する有効な治療薬(アンタゴニスト)について開示されているといえるため,88Cの技術的に意味のある特定の用途が推認できる機能が必要かつ十分に開示されている。

ア 本件各発明に係る88Cが,CCケモカインと結合することにより,マクロファージの走化(トラフィッキング)が誘引されることを開示していること

前記(1)ア(イ)のとおり,本件基礎出願1の明細書には,88Cが,マクロファージから単離されていること(実施例2),88Cは,脾臓,胸腺組織,末梢血白血球,小腸及び肺組織で発現すること(実施例3)が開示されており,88Cがマクロファージにおいて発現するとともに,88CがCCケモカイン受容体であることを理解できる。

他方,CCケモカイン受容体がCCケモカインと結合することにより,白血球(マクロファージは,その一種)の走化(トラフィッキング)が誘引されることは,本件基礎出願1の出願時において,技術常識であった。

したがって,88CがCCケモカインと結合することにより,マクロファージの走化が誘引されることを開示しているといえる。

イ 本件各発明に係る88Cが,マクロファージの走化(トラフィッキング)と関連する具体的疾患に関連することを開示していること

本件基礎出願1の明細書には,マクロファージの走化と関連する具体的疾患として,アテローム性動脈硬化症,慢性関節リウマチ,腫瘍生長抑制,ぜんそく及び他の炎症性病態が挙げられ,本件各発明に係る88C(CCR5)が,これらの処置のための療法の開発に利用可能であることが開示されている。

ウ 本件各発明に係る88Cに対するアンタゴニストが,マクロファージ機能の異常に起因する疾患に対する有効な治療薬となることを開示していること

前記イの疾患の原因はマクロファージ機能の異常にあり,その原因はマクロファージの過剰な走化にある。

また,前記アのとおり,88C(CCR5)がCCケモカインと結合することによりマクロファージの走化が誘引されることを理解するので,これらの疾患を治療するためには,88CとCCケモカインとの結合を阻害すればよい。

したがって,当業者は,88Cに対するアンタゴニスト(ケモカイン受容体である88Cが,本来結合すべき生体内物質との結合を阻害する物質)を調製し,これによりマクロファージの過剰な走化に起因する疾患に対する有効な治療薬になることを理解する。

しかも,88Cのアンタゴニストは,たとえ88Cのリガンドが特定される以前であっても,スクリーニングすることが可能であった。

(3) 以上のとおり,本件基礎出願1の明細書には,本件各発明が,その有用性,実施可能性とともに記載されており,本件特許は,本件基礎出願1の優先権を主張することができる。

【被告の反論】

(1) 88Cに結合するリガンドの特定について

ア CCケモカインの特定について

(ア) CCケモカイン受容体であっても,アミノ酸配列において,他のCCケモカイン受容体よりもCXCケモカイン受容体とより高い同一性(相同性)を有するものも存する。したがって,88Cと既知のCCケモカイン受容体とのアミノ酸配列の同一性の数値から,88CをCCケモカイン受容体であると特定することはできない。

(イ) マクロファージcDNAライブラリーから88CのcDNAを単離したからといって,88Cがマクロファージで発現することや,CCケモカイン受容体であることまでを理解することはできない。

(ウ) 当初,CXCケモカインは白血球のうち主として好中球を遊走させ,CCケモカインは,白血球のうち主として単球を遊走させるものとされていたが,CXCケモカイン,CCケモカインのうちのいくつかは,白血球のうちリンパ球を遊走させるものも存在し,CXCケモカインとCCケモカインで明確な機能の区別はない。

仮に,88CがCCケモカイン受容体であることが認識できたとしても,具体的にどのリガンドと結合するか認識できない以上,特定の機能が開示されているとはいえない。

イ

リガンドの候補の特定について

本件特許の本件基礎出願1の明細書には,88C(CCR5)が本来結合するリガンドであるMIP-1α,MIP-1βについて,シグナル伝達(88Cとの結合により生じる現象)が確認できなかった(結合しなかった)と明記されており,88C(CCR5)が結合するリガンドは,一切開示されていない。

仮に,当業者が88CがCCケモカイン受容体であると認識し,理解できたとしても,具体的にどのリガンドと結合するか認識できない。ウ

リガンドの同定方法について

本件基礎出願1の明細書に感度の高い同定方法が記載されていることは争う。また,リガンドの同定方法を開示したからといって,ケモカイン受容体としての機能を開示したことにはならない。

なお,原告は,上記明細書において,ケモカイン受容体の活性についての機能性アッセイ(分析)を実施したが,特定のリガンドとの結合を確認できなかったと記載している。このことは,当業者が,原告が記載する方法をもってリガンドを特定することができなかったことの証左である。

(2) アンタゴニストのスクリーニングにおける有用性

ア

本件基礎出願1の明細書の記載から,当業者が,88CがCCケモカインと結合することによりマクロファージの走化が誘引されると認識し,理解することはできない。

(ア) 上記明細書には,88CがCCケモカインと結合することによりマクロファージの走化が誘引されるとの記載は一切ない。

白血球の走化は単にケモカイン一般が有する性質を述べたものに過ぎず,マクロファージ走化の誘引の根拠とはならない。

(イ) 本件基礎出願1の明細書の実施例2には「以下の方法によって,マクロファージcDNAライブラリーから全長の88-2B及び88CcDNAを単離した。」と記載されているが,この記載では,マクロファージが88Cのクローニングソースとされたということのみが開示されているだけで,この記載から,88Cの発現細胞やその有する特定の機能を認識し理解することはできない。

また,脾臓や胸腺組織等には,マクロファージのほか,リンパ球,単球,好中球,好酸球,好塩基球などの白血球も存在し,88Cが上記組織において発現したことをもって,マクロファージで発現したとはいえない。

イ 仮に,88Cによりマクロファージの走化が誘引されることが当業者において理解されることを前提としても,本件基礎出願1の明細書には,88Cを技術的意味のある特定の用途に使用することのできる記載はない。

-3新規性欠如の有無(その2)(争点3-3)

【被告の主張】

アイコスは,前記本件基礎出願1の後である平成8年6月7日,米国において,本件基礎出願1の一部継続出願(本件基礎出願2)をし,本件基礎出願2の明細書において,CCR5のリガンドとしてRANTES,MIP-α,MIP-1βを特定している。

しかし,本件基礎出願2の出願日(平成8年6月7日)に先立ち,上記リガンドについての公知文献として,乙3,乙5,乙6,乙10,乙11,乙が存する。

【原告の主張】

前記3-1【原告の主張】と同様,乙3を引用例として,新規性の欠如をいうことはできない

本件基礎出願1において,ケモカイン受容体88Cに結合するリガンドが特定されているため,本件特許は,本件基礎出願1の優先権を主張することができ,新規性は否定されない。

補償金(争点4)

【原告の主張】

(1) 被告の実施

,

,

,

,

,

被告は

*****************本件発明1

10,13及び14を実施し,スクリーニングを行い,エイズ治療薬剤の良好な候補であるE910,E913,E916,E917を得た。

(2) 本件特許に対する被告の認識

本件特許の出願は,平成11年3月23日に公表された。上記公表特許公報(甲16)に記載された請求項16,17,23ないし25は,上記本件発明1,2,8,9,10に相当し,同請求項28は,本件発明13となったものであるとともに,本件発明14を開示している。

被告は,GenBank U54994 配列(CCR5をコードするDNAの配列情報)を使用しているが,上記配列は,本件各発明の発明者3名がアイコスの従業員として平成8年4月12日,GenBankに提出し,公表した(甲3)のであるから,上記配列を実施した被告は,同配列がアイコスの従業員によって同定されたことを知っていたはずである。

被告は,本件DNAが,本件特許出願に係る発明であることを知りながら,本件特許権の登録前に上記各発明を実施していた。

(3) 補償金の額と補償金請求権の帰属

本件特許の登録前の被告の実施行為についての実施料相当額は5億円を下らない。

原告とアイコスは,被告に対する上記補償金請求権を折半し,それぞれ50%相当を保有することに合意し,その後,前提事実(5)のとおり,アイコスは,原告に対し,被告に対する補償金請求権を譲渡した。【被告の主張】

被告が,本件特許登録前,原告もしくはアイコスから,本件各発明の内容を記載した書面を提示して警告を受けたこと(特許法65条1項)はない。被告が,本件各発明が登録されていることを知ったのは,原告から平成15年8月27日付書簡の送付を受けた際である。

よって,原告の被告に対する補償金請求には理由がない。

損害(争点5)

【原告の主張】

(1) 損害の発生

前記1【原告の主張】のとおり,被告が本件各発明を実施し,その結果,原告及びアイコスは,合計11億円の損害を受けた。

そのうち10億円については,後記(2)ないし(4)の理由により,1億円については,後記(5)の理由による。

原告は,前提となる事実(5)のとおり,アイコスの被告に対する損害賠償請求権の譲渡を受けており,その結果,原告は,被告に対し,民法709条に基づき11億円の損害賠償請求権及びこれに対する遅延損害金の請求権を有する。

(2) 特許法102条2項による推定

ア 被告の得た利益

被告は,平成14年12月ころ,GSK社と契約し,本件物件1(DNA)及び本件物件3(宿主細胞)を用いてスクリーニングした結果得られた本件物件6(ONO-4128等)に関する権利を同社に供与し(甲13),*****************************

イ 損害額の推定

被告の上記行為は,本件各発明の実施によるものであるが,被告は,これにより******************同額が原告及びアイコスの損害と推定される(特許法102条2項)。

なお,本件各発明のように,発明の対象が世界で単一市場を形成している場合には,特許権者,独占的通常実施権者もしくは専用実施権者のいずれかが発明を実施していれば,その実施が国内か国外であるかは問わず,特許法102条2項は適用されるべきである。

(3) 特許法102条3項による推定

ア 原告の本件各発明に係るライセンス状況

原告は,アイコスから本件特許及び全世界の対応特許について,サブライセンス権を含む独占的実施許諾を受け,*******************との間で,本件各発明のライセンス契約を締結し,次の条件で実施料を受領することとなっている。

********************

********************

********************

イ 本件特許の重要性

本件各発明は,エイズ治療薬等の極めて価値の高い医薬化合物をスクリーニングするために使用されるDNA等に関するものであり,エイズ治療薬が販売された場合,年間売上は5億ないし7億ドルになるといわれている。

エイズ治療薬剤の候補である化合物を同定するスクリーニングに関する本件各発明は,非常に大きな医学的,経済的価値を有し,前記(2)アのとおり,本件各発明の実施により,被告は,本件特許の登録日である平成14年3月15日以降,******************

ウ 上記事情を総合すると,本件特許の登録日である平成14年3月15日以降,被告の本件各発明実施に対し,*******************************

(4) 民法709条による損害額の算定

ア 仮に,本件特許権を侵害して得られた化合物ないし情報の利用自体は,本件各発明の実施行為そのものを構成しないとしても,本件特許権を侵害して得られた化合物ないし情報を,被告が第三者に提供するなどしたことにより,原告やアイコスに損害が生じれば,その損害は,本件特許の侵害行為と相当因果関係を有する。

また,第三者が被告から価値ある化合物ないし情報をいったん得てしまえば,あえて原告やアイコスから重複的に同じ化合物ないし情報を得ようとはしないのであるから,被告が本件特許権を侵害して得られた化合物ないし情報を第三者に提供して得た金額は,まさに原告やアイコスの得べかりし利益として,原告やアイコスの損害を構成する。

イ 原告及びアイコスの損害

前記(2)アのとおり,被告は,*************原告及びアイコスは同額の損害を受けたというべきである。

(5) 訴訟代理人費用

原告及びアイコスは,訴訟代理人費用として,それぞれ5000万円を要した。

(6) 損害賠償請求権の折半と譲渡

原告とアイコスは,被告に対する上記10億円の損害賠償請求権を折半し,それぞれ50%相当額の債権を保有することを合意し,その後,前提事実(5)のとおり,アイコスは,原告に対し,被告に対する訴訟代理人費用5000万円を含む損害賠償請求権を譲渡した。

【被告の主張】

前記1-1・2のとおり,被告の行為は,本件特許権を直接的にも間接的にも侵害していない。

また,原告の主張する損害と被告の行為との間には,因果関係はない。なお,本件特許権には,本件特許物すなわち特許実施品自体の生産,使用等を差し止めるなどの効力が認められるに過ぎず,本件特許権の効力は,ケモカイン結合阻害についての特性が確認された化合物や本件特許を使用して得られた情報が記録された媒体には一切及ばない。

第4

当裁判所の判断

本件紛争に至る経緯事実等

(1) 本件各発明に係る技術的背景

ア

本件各発明とCCR5

ケモカインとケモカイン受容体との関係は,前提事実(2)に述べたとおりである。

すなわち,ケモカインは,細胞間の情報のやり取りを担うシグナル伝達物質であるサイトカインの一種で,細胞膜上に存する受容体と結合することにより,炎症反応,免疫応答などの生命維持活動に関係する役割を果たしている。このため,より多くのケモカイン受容体とそのリガンドの同定が試みられていた。

なお,前提事実(2)に述べたとおり,本件各発明に係るケモカイン受容体88Cは,現在では,CCR5と呼ばれるようになった。

イ

原告によるCCR5遺伝子等の精製,単離

前記アに述べたとおり,原告は,ケモカイン受容体とそのリガンドの同定を試みていたところ,マクロファージcDNAライブラリーから88C遺伝子(CCR5遺伝子)のcDNAを単離し,その塩基配列及びその塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を決定し,CCR5遺伝子から,CCR5タンパク質を発現させることに成功した。

本件基礎出願1,本件基礎出願2,本件特許出願は,いずれも上記発明に係る出願である。

(以上,甲2,46,乙1,2)

ウ 被告によるONO-4128の発明

被告は,ヒト胎盤cDNAに対しPCR反応を行い,ヒトCCR5遺伝子を精製,単離し,上記遺伝子を含むDNAベクターを用いて大腸菌に形質転換し,DNA配列を確認した上,さらに,CHO細胞(宿主細胞)への形質導入を経て,ヒトCCR5の安定過剰発現細胞を樹立し,これを利用して,CCR5とRANTESとの結合に対する阻害実験を繰り返し,CCR5のアンタゴニスト(拮抗剤)であるトリアザスピロ[5.5]ウンデカン誘導体(ONO-4128)を発明し,平成11年12月3日,これを対象とする被告特許出願をした(甲4)。

なお,上記CCR5遺伝子等の使用は,本件特許出願後の使用であるが,少なくとも,被告特許出願の日(平成11年12月3日)より前の使用であるため,後記(2)のとおり,本件特許権登録日(平成14年3月15日)より前の実施となる。

(2) 本件特許権を巡る状況

本件特許権の出願状況(優先権)と公知文献,被告の特許出願状況は,次のとおりである。

ア 平成7年7月14日乙3(文献)

イ 平成7年12月15日乙4(文献)

ウ 平成7年12月20日本件基礎出願1

エ 平成8年3月19日乙10の1・2(文献)

オ 平成8年3月29日乙11(文献)

カ 平成8年6月7日本件基礎出願2

キ 平成8年12月20日本件特許出願

ク 平成11年12月3日甲4(被告による特許出願)

(3) 本件の争点に対する判断順序

被告は,本件基礎出願1に先立つ文献(乙3,4)に本件各発明が記載されており,前記(2)のとおり,第1優先権,第2優先権の主張の可否にかかわらず,本件特許は,新規性を欠如すると主張する。

また,被告は,本件基礎出願2に先立つ2つの文献(乙10の1・2,乙11)に本件各発明が記載されており,本件基礎出願1の明細書に本件各発明が記載されていなければ,本件特許は,本件基礎出願1の優先権を主張することができなくなり,本件基礎出願2について,その優先権を主張することができたとしても,上記文献(乙10の1・2,乙11)を引用例として,新規性を欠如すると主張する。

そこで,まず,争点1,2に先立ち,本件基礎出願1に先立つ文献(乙3,4)の記載内容(争点3-1)を検討し(後記2),次に,本件基礎出願1の明細書に本件各発明が記載されているか否か(争点3-2)について検討し(後記3),次に,2つの文献(乙10の1・2,乙11)に本件各発明が記載されているかどうか(争点3-3)を検討することとする(後記4)。

新規性欠如の有無(その1)(争点3-1)

被告は,本件基礎出願1の出願時において,既に文献乙3が発行され(後に乙4で訂正がされる。),乙4の訂正内容を併せ読むと,上記出願時において,本件各発明は開示されており,新規性を有しないと主張する。たしかに,文献乙3(平成7年7月14日発行)は,ヒト好酸球CCケモカイン受容体のクローニング及び機能に関する論文であるが,乙3の著者3名が,乙4の1の訂正文(平成7年12月15日発行)により,「(乙3の)16493頁の図3,4において,CCCKR3のcDNAで形質転換された細胞とあるが,CCCKR5(CCR5)のcDNAを用いて形質転換されたものであり,そのアゴニスト(ケモカイン受容体と結合するケモカイン)は,MIP-1α,MIP-1β及びRANTESである。」旨訂正していることが認められ,乙3にはCCCKR5(CCR5)が開示されていたかのように読める。

しかし,文献甲25によると,4名の著者(文献乙3の著者3名全員を含む。)は,CCCKR5遺伝子を,乙3に記載されたものとは異なる方法で再度クローニングし,乙3で示したリガンドとの結合結果が異なることを示しており(甲25),このことは,乙3に記載されたCCCKR5遺伝子が,甲25に記載されたCCCKR5遺伝子とは異なる可能性のあることを示している。さらに,甲25に記載されたCCCKR5のアミノ酸配列は,本件アミノ酸配列とは90番目のアミノ酸が異なり,リガンド特異性も異なることが窺える(甲2,25,乙10の1)。

そうすると,文献乙3,同4に,本件明細書の配列番号:2に示されるアミノ酸配列を有するケモカイン受容体が記載されているとはいえず,CCR5遺伝子の精製,単離についても開示されているとはいえない。したがって,文献乙3,同4を理由として,本件各発明の新規性を否定することはできない。

3 本件基礎出願1の優先権主張の可否(争点3-2)

(1) はじめに

特許を受けるためには,その発明が,産業上の利用可能性(有用性)を有する必要があるとともに(特許法29条),明細書において,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,発明の詳細な説明を記載する必要がある(特許法36条4項)。

物の発明において,「実施することができる」とは,その物を作ることができ,かつ,その物を「使用することができる」ことであり,遺伝子等に係る発明において,「使用することができる」とは,当該遺伝子等が特定の機能を有することが発明の詳細な説明に記載されることを要する。被告は,本件基礎出願1の明細書(乙1)には,ケモカイン受容体88Cの機能が記載されていないので,本件基礎出願1に記載の発明は有用性を有さず,また,明細書に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明も記載されていないこととなり,本件特許は,本件基礎出願1の優先権を主張することができず,その結果,本件特許は新規性を欠如する(本件基礎出願2の優先権を主張することができても,これに先立つ公知文献において本件各発明が開示されている。)と主張する。

そこで,以下,本件基礎出願1に本件各発明の実施可能性と有用性が記載されているか否かについて検討する。

(2) 実施可能性の判断基準

前記(1)のとおり,物の発明において,「実施することができる」とは,その物を作ることができ,かつ,その物を「使用することができる」ことが必要であるが,本件各発明においても,「実施することができる」というためには,CCR5等を生産することができることだけでなく,その特定の機能の記載が必要と解するべきである。

なお,特許庁作成の特許・実用新案審査基準(第Ⅶ部)第2章生物関連発明には,次のとおり,同様の記載がある(乙9の2)。

「③使用できること

遺伝子,ベクター,組換えベクター,形質転換体,融合細胞,組換えタンパク質,モノクローナル抗体等の発明においては,当業者がその物を使用できるように記載しなければならない。これは,発明の詳細な説明において示されていることが必要であるから,どのように使用できるかについて具体的な記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を使用できる場合を除き,どのように使用できるかについて具体的に記載しなければならない。

例えば,遺伝子に係る発明が使用できることを示すためには,遺伝子が特定の機能(ここでいう「特定の機能」とは,「技術的に意味のある特定の用途が推認できる機能」のことである。)を有すること(例えば,構造遺伝子に係る発明の場合には,該遺伝子によるコードされるタンパク質が特定の機能を有すること)を発明の詳細な説明に記載する必要がある。

請求項において包括的に記載された遺伝子が,その機能により特定して記載されていない場合(単に「置換,欠失若しくは付加された」,「ハイブリダイズする」又は「○○%以上の相同性を有する」等の表現のみで記載された遺伝子)には,通常,当該包括的に記載された遺伝子に当該機能を有しないものが含まれるので,該遺伝子のうちの一部が使用できないことになり,当業者がその物を使用することができるように発明の詳細な説明が記載されていないことになる。」

(3) 本件基礎出願1の明細書の記載内容

本件基礎出願2の明細書(乙2:訳文7頁下6~下9行目)によると,「本明細書における実施例において詳説しているように,88C受容体に結合するケモカインには,RANTES,MIP-1α及びMIP-1βが包含され,そして88-2B受容体に結合するケモカインには,RANTESが包含される。」と記載され,同明細書の実施例5(乙2:訳文18++

頁~23頁)には,Ca流出アッセイ,ホスファチジルイノシトール加水分解,結合アッセイなどの方法により,上記リガンドを同定した経過が詳しく記載され,88Cに結合するリガンドを具体的に特定している。しかし,本件基礎出願1の明細書(乙1:訳文6頁下11行目~7頁4行目)には,ケモカイン受容体へのリガンド結合の検出方法とともに,「リガンドの同定を確証するために,標識付けされていない状態にある供試化合物の量を増加して存在させた下で,検出可能に標識付けされた供試化合物を,ケモカイン受容体を呈示する膜調製物に曝す。標識付けしていない供試化合物の添加量を増加するに従って,フィルターに会合している標識のレベルが漸減すれば,リガンドの特定が確証される。」と記載されているが,それ以上に,88Cに結合するリガンドを具体的に特定する記載は++

なく,むしろ,同明細書の実施例5には,「Ca流出アッセイにより,88Cに結合するリガンドを特定しようとしたが,88-2Bまたは88Cのいずれかを発現しているHEK-293 細胞は,MCP-1,MCP-2,MCP-3,MIP-1α,MIP-1β,IL8,NAP-2,gro/MGSA,IP-10,ENA-78,PF-4のいずれに曝された場合において++

も細胞内のCa濃度の流出が示されることはなかった。」と記載されている(乙1:訳文15・16頁)。なお,88-2Bについては「さらに++

感度の高いアッセイを使用して,RANTESに対するCa流出の応答を,88-2Bを発現している細胞で顕微鏡によって観察した。」と記載されているが,88Cについては,さらに感度の高いアッセイを使用して,結合を確認できたケモカインの記載はない(乙1:訳文15・16頁)。以上によると,本件基礎出願1においては,ケモカイン受容体88C(CCR5)に結合する具体的なケモカイン(リガンド)は特定されておらず,本件基礎出願1のうち88Cの発明に係る部分については,産業上の利用可能性が認められず,その明細書には,その機能が開示されておらず,88Cの実施可能性が記載されているとはいえない。

(4) 88Cと結合するリガンドの開示

これに対して,原告は,本件基礎出願1の明細書には,88Cと結合するケモカイン(リガンド)としてCCケモカインを特定しているなどと主張する(前記第3の3-2【原告の主張】(1) )。

ア リガンドとしてCCケモカインを特定しているか

(ア) アミノ酸配列の相同性

a 乙1によると,88Cのアミノ酸配列と他の既知のケモカイン受容体のアミノ酸配列を比較したところ,次のとおり,公知のCCケモカイン受容体と54ないし72%という同一性を示した。

ケモカイン受容体88Cとの同一性

IL-8RA30%

IL-8RB30%

CCCKR154%

CCCKR2A66%

CCCKR2B72%

原告は,このことから,88CがCCケモカイン受容体としての機能を有することが認識できたと述べる(前記【原告の主張】(1)ア(ア) )。

しかし,アミノ酸の配列が72%の同一性を有することから,同じ機能を有することがある程度期待できるとしても,それのみで,同じ機能を有することを特定できるとは限らない。

b すなわち,CCケモカイン受容体であっても,アミノ酸配列において,他のCCケモカイン受容体よりも,CXCケモカイン受容体と,より高い同一性(相同性)を有するものも存し(弁論の全趣旨),88Cと既知のCCケモカイン受容体とのアミノ酸配列の同一性の数値が高いからといって,88CをCCケモカイン受容体であると特定することはできない。

c この点,原告は,他のポリペプチドとのアミノ酸配列の相同性からその機能を推定することで,特許査定となった事例が複数存すると主張し,甲29の1ないし13(いずれも平成4年ないし平成12年までに出願された発明に関する特許公報で,うち甲29の1ないし4,甲29の11は,被告出願のもの)を提出する。

しかし,これらの発明が,アミノ酸配列の相同性のみによる推定によって,その機能を特定しているということは困難である。

また,原告は,被告自身が,過去において,アミノ酸配列につき31.4%の以上の相同性があれば同一の機能を有するタンパク質であると主張していたと述べ,甲30(拒絶査定に対する意見書)を提出するが,甲30の記載を見ても,ヒトとマウス間では,同じ免疫系因子であっても,相同性にばらつきがあり,マウスの配列からヒトの配列を予測することはできないと指摘しているだけであり,配列の相同性が31.4%以上あれば,同一の機能を有するなどと主張しているわけではないことがわかる。

(イ) マクロファージから発現したかどうか

原告は,88C(CCR5)のcDNAをマクロファージcDNAライブラリーから単離したことや,88Cが脾臓,胸腺組織,末梢血白血球,小腸及び肺組織において発現することから,88Cが,マクロファージにおいて発現すること,及び,CCケモカイン受容体であることが理解できるとも主張する(前記第3の3-2【原告の主張】(1)ア(イ) )。

しかし,本件基礎出願1の明細書(乙1)の実施例2には,88Cだけでなく,88-2B(CCR3)も同じくマクロファージcDNAから単離したと記載されている。一方,88-2Bは,マクロファージではなく,好酸球に優位に発現すると解されており(争いはない。),88Cが,マクロファージcDNAから単離されたからといって,そのことのみを理由に,88Cがマクロファージで発現することや,CCケモカイン受容体であるということを理解することは困難というべきである。

また,本件基礎出願1の明細書の実施例3によると,88CのmRNAが,脾臓,胸腺組織,末梢血白血球,小腸及び肺組織において発現していることが記載されており(乙1),本件基礎出願1の当時,これらの組織においてマクロファージが豊富に含まれていることが,技術常識であったことが認められる(甲42~44,甲61の9の1,甲61の11)。

しかし,これらの組織においてマクロファージが含まれるとしても,他に,リンパ球(T細胞,B細胞,NK細胞など),単球,好中球,好酸球,好塩基球などの白血球も存在していることが認められ(甲31,乙121,122),本件基礎出願1の出願当時においては,88Cが,これらの細胞において発現した可能性を否定することはできない。そうすると,上記実施例3には,ノザンブロット分析方法によって,上記の組織において88Cが発現することが確認されたということだけが開示されているに過ぎず,それ以上に,上記実施例3の記載から,88Cが上記組織中のマクロファージで発現したということまでを理解することは困難というべきである。

(ウ) CCケモカイン受容体であるということによる機能

仮に,本件基礎出願1の明細書の記載から,88CがCCケモカイン受容体であることを理解することができるとしても,ケモカインの種類は多く,本件基礎出願1の出願時である平成7年12月当時,ヒトケモカインとしてその存在が判明していたのは19種類であり,うち,CCケモカインとしては,MCP-1,MCP-2,MCP-3,MIP-1α,MIP-1β,RANTES,I-309の7種類が,CXCケモカインとしては,IL-8,GROα(gro/MGSA),GROβ,GROγ,NAP-2,ENA-78,GCP-2,PF-4,IP-10,Mig,SDF-1の11種類が,XCケモカインとしては,lymphotactin が判明していた。また,当時,ケモカイン受容体としてその存在が判明していたのは6種類であり,CCケモカイン受容体としては,CCR1,CCR2,CCR3,CCR4の4種類が,CXCケモカイン受容体としては,CXCR1,CXCR2の2種類が判明していた。

そして,ケモカインの活性は一律ではなく,その有する機能も異なっていた。

(以上,甲62の12,乙18,22~119)

したがって,前記(3)でも述べたとおり,ケモカイン受容体88Cに特異的に結合するCCケモカイン(リガンド)を具体的に特定できて,初めて,そのリガンドに特有の機能を特定し,88Cの有用性を特定したことになるというべきである。

イ リガンドの候補の特定

原告は,本件基礎出願1の明細書(乙1)において,本件各発明に係る88Cが結合するケモカインの候補として,MCP-1,MCP-2,MCP-3,MIP-1α,MIP-1β,及びRANTESが挙げられており,その中でも,マクロファージに対し走化という影響を与えるMCP-1,MIP-1α,MIP-1β,RANTESの全部又は一部に絞られることが理解できると主張する。

しかし,その根拠は,88CがCCケモカイン受容体であるということ,88Cがマクロファージで発現し,マクロファージに対し走化という影響を与えるということを前提とするものであるが,前記ア(ア) ,(イ)で述べたとおり,本件基礎出願1の明細書において,88Cがケモカイン受容体であることや,88Cがマクロファージで発現することまでが記載されているわけではなく,また,示唆もされているともいえない。むしろ,上記明細書(乙1)によると,IL8,NAP-2,gro/MGSA,IP-10,ENA-78,および,PF-4についてもリガンドの候補として記載されているということになるが,これらはCXCケモカインであり(争いはない),明細書上,88Cと結合するリガンドの候補が,CCケモカインか,CXCケモカインかについても特定されていないことが分かる。

そもそも,数種類あるCCケモカインを,リガンドの候補となる可能性があると指摘しただけでは,リガンドを特定したことにはならず,88Cとの結合を実際に確認できて,初めてリガンドを特定したことになるというべきである。

特に,前記(3)において述べたとおり,上記明細書(乙1)には,本++

来結合するリガンドであるMIP-1α,MIP-1βについて,Ca流出アッセイによるシグナル伝達が確認できなかった(結合を確認できなかったことと同旨である。)ことが明記されており,到底,88C(CCR5)と結合するリガンドが開示されているとはいえない。

ウ 同定法が開示されていることによる特定

また,原告は,本件基礎出願1の明細書には,リガンドの同定法が開示されていたので,88Cと結合するリガンドが実質的に開示されていると主張する。

たしかに,上記明細書には,リガンドの同定法が記載されていることが認められるが,リガンドの同定法が開示されていたとしても,それだけで,リガンドを特定したことにはならないというべきである。++

また,前記(3)のとおり,本件基礎出願2の明細書には,Ca流出アッセイ,ホスファチジルイノシトール加水分解,結合アッセイなどの方法とともに,これによりリガンドを同定した経過が記載されている++

が,本件基礎出願1の明細書の記載は,Ca流出アッセイが記載されているのみであり,しかも,この方法によっては,本来結合するリガンドであるMIP-1α,MIP-1βについて,シグナル伝達が確認できなかった(結合を確認できず,リガンドを特定することができなかった。)というのであるから,同定法を記載したことにより,リガンドを特定していたといえないことは明らかである。

(5) アンタゴニストのスクリーニングにおける有用性

原告は,仮に,本件基礎出願1の明細書の記載では,88Cと結合するリガンドの特定が必ずしも十分でなかったとしても,本件基礎出願1の明細書には,88C自体の「技術的意味のある特定の用途が推認できる機能」が開示されており,本件各発明の有用性及び実施可能要件を基礎づけるのに十分であると主張する。

ア マクロファージの走化の誘引

(ア) 原告は,CCケモカイン受容体がCCケモカインと結合することにより,マクロファージの走化(トラフィッキング)が誘引されることは,本件基礎出願1の出願時において,技術常識であり,かつ,本件基礎出願1の明細書に,88Cがマクロファージから単離されていることが開示されていることから,同明細書には,本件各発明に係る88Cが,CCケモカインと結合することにより,マクロファージの走化(トラフィッキング)を誘引することが開示されていると主張する。

(イ) たしかに,証拠(甲35~39,甲61の59)によると,一定のCCケモカインであるRANTES,MIP-1α,MIP-1β,MCP-1などでマクロファージの走化が誘引されることが知られていたことが認められる。

しかし,本件基礎出願1の明細書(乙1)には,上記技術常識について何らの指摘もなく,88CとCCケモカインとの結合により,マクロファージの走化を誘引することに関する記載があるとはいえず,また,その示唆があるともいえない。

(ウ) また,仮に,88Cがマクロファージで発現することが理解できたとしても,88Cがマクロファージで機能するかどうか(特に,マクロファージを走化させることができるかどうか)は不明といわざるを得ず(乙123ないし128によると,遺伝子が発現しても,受容体が機能していない事例が報告されている

,本件基礎出願1の明細

。)

書において,88Cがマクロファージを走化させることができることを開示しているとはいえない。

(エ) 以上のとおり,原告が主張する機能は,本件各発明に係る88Cに期待される機能ではあるが,期待に過ぎない上,本件基礎出願1の明細書に開示されているとはいえない。

イ

具体的疾患の開示

(ア) 原告は,本件基礎出願1の明細書には,マクロファージの走化と関連する具体的疾患として,アテローム性動脈硬化症,慢性関節リウマチ,腫瘍生長抑制,ぜんそく及び他の炎症性病態が挙げられ,本件各発明に係る88C(CCR5)が,これらの処置のための療法の開発に利用可能であることが開示されていると主張し,その理由として,本件基礎出願1の明細書に「ケモカイン及びその活性の広範なる多様性のゆえに,ケモカインに対して数多くの受容体が存在する。その特徴が明らかにされている受容体は,ケモカイン受容体の全体的な補集合の一画分のみを表しているにすぎない。かくして,当該技術分野においてさらなるケモカイン受容体の同定が希求され続けている。これら新規受容体の有用性により,ケモカインまたはケモカイン受容体機能の治療用モジュレーターの開発のための手段が提供されよう。アテローム性動脈硬化症,慢性関節リウマチ,腫瘍生長抑制,喘息,及び他の炎症性病態の処置のための療法における,かかるモジュレーターの有用性が本発明によって企図される。」(乙1の4頁10~19行,同訳文3頁34行~4頁5行)と記載されていること,これらの疾患が,マクロファージの走化と関係することは,本件基礎出願1の出願当時,公知であったこと,88Cがマクロファージの走化を誘引することを述べる。

(イ) 明細書の記載

原告が理由としてあげる本件基礎出願1の明細書の記載部分は,「発明の背景」として,既知のケモカイン及びその受容体の,治療用モジュレーターの開発手段としての有用性が記載されたものに過ぎず,本件基礎出願1の明細書には,上記記載以上に,88Cと具体的な疾患との関係について,具体的な記載は見あたらない。

(ウ) マクロファージの走化と疾患との関係

たしかに,アテローム性動脈硬化症(甲45:平成元年発行)や慢性関節リウマチ(甲47:平成6年発行),腫瘍組織の増殖,進展,及び転移(甲48:平成6年3月発行)がマクロファージの過剰な走化に起因したり,関係したりすることが,本件基礎出願1の出願当時の技術常識であったことが窺われる。

しかし,本件基礎出願1の出願当時,88Cがマクロファージの走化と関係することが,同出願の明細書に開示されていないことは前記(4)ア(イ),(5)アで述べたとおりであり,同明細書に,本件各発明に係る88Cがこれらの疾患に関係しているか否かについての具体的な記載や示唆はないというべきである。

また,仮に,88Cによりマクロファージの走化が誘引されることが当業者において理解されることを前提としても,具体的にどの疾患に関係するかについては,何ら特定されておらず,本件基礎出願1の明細書には,88Cの具体的な機能が,記載ないし示唆されていないというべきである。

(エ) 以上によると,本件基礎出願1の明細書において,88Cと具体的疾患との関係が開示されているとはいえない。

ウ 88Cに対するアンタゴニスト

(ア) 原告は,本件基礎出願1の明細書には,88Cに対するアンタゴニストがマクロファージ機能の異常に起因する疾患に対する有効な治療薬となることが開示されており,アンタゴニストは,88Cのリガンドを特定できなくてもスクリーニングすることが可能であると主張する。

(イ) たしかに,本件基礎出願1の出願当時,ケモカインとケモカイン受容体との関係については,前提事実(2)のとおりであることが技術常識となっており,より多くのケモカインとその受容体の同定が試みられていた。

しかし,ケモカイン受容体を精製,単離することができさえすれば,これと結合するケモカインを特定できなくても,アンタゴニストをスクリーニングすることが一般的に可能といえるかどうかは疑問であり(甲45は,一般的な方法を記載しているとは考えにくい。),また,88Cに対するアンタゴニストをスクリーニングすることが可能であるとしても,どのような機能があるかも分からないまま,アンタゴニストのスクリーニングをすることとなり,結局,ケモカイン受容体としての機能が特定されることにはならない。

結局,本件基礎出願1の明細書には,これらの機能についての記載がないといわざるを得ない。

(6) まとめ

以上によると,本件基礎出願1の明細書には,ケモカイン受容体88C(CCR5)と結合するケモカイン(リガンド)についての記載がなく,88Cの機能が開示されていないこととなり,産業上の利用可能性ないし実施可能性要件を欠き,また,最初の出願に係る出願書類の全体により本件各発明が明らかにされているということもできない。したがって,本件特許は,本件基礎出願1に基づく優先権を享受することができない。新規性欠如の有無(その2)(争点3-3)

アイコスは,前記本件基礎出願1の後である平成8年6月7日,米国において,本件基礎出願1の一部継続出願(本件基礎出願2)をし,本件基礎出願2の明細書において,CCR5のリガンドとしてRANTES,MIP-1α,MIP-1βを特定している。

しかし,本件基礎出願2の出願日(平成8年6月7日)に先立ち,上記リガンドについての文献(乙10の1・2,乙11)が存する。

上記各文献のうち乙10の1・2(平成8年3月19日発行)では,CCR5(88C)のアミノ酸配列が記載された上,このリガンドとして,CCケモカイン中,MIP-1α,MIP-1β,RANTESが特定され,MIP-1αが,もっとも高いアゴニスト活性を示したが,他のCCケモカインであるMCP-1,MCP-2,MCP-3並びにCXCケモカイン類は無効であったことが報告されている。そして,上記文献乙10の1・2に記載されている「CCCKR5(hChemR13)」が本件各発明における88C(CCR5)と同一であることについては,当事者間に争いがない(原告第2準備書面7頁)。

また,上記各文献のうち乙11(平成8年3月29日発行)でも,CCR5(88C,CCCKR5)とこれに対応するケモカインとしてMIP-1α,MIP-1β,RANTESの記載がある。

一方,前記1で述べた技術的背景及び上記各文献(乙10の1・2,乙11)によると,同各文献に接した当業者にとって,本件各発明に係る物質を精製,単離することは,技術的に容易であったと認めることができる。そうすると,本件各発明は,上記文献に開示されているか,もしくは,これから容易に想到することができるというべきである。

以上によると,本件特許は,本件基礎出願2の優先権を主張できたとしても,本件各発明に係る特許は,いずれも新規性もしくは進歩性を欠如することとなり,特許無効審判により無効にされるべきであると認められるから(特許法123条1項2号,29条),特許法104条の3により,原告は,被告に対し本件各発明に係る特許権を行使することができない。

第5 結論

以上によると,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないので,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日平成20年6月9日)

大阪地方裁判所第26民事部

裁判長裁判官 山田陽三

裁判官 島村雅之

裁判官 北岡裕章

(別紙)

物件目録

本物件目録添付の別紙配列表に示されるケモカイン受容体CCR5のアミノ酸配列をコードするDNA

物件目録1に記載のDNAを含むDNAベクター

物件目録2に記載のDNAベクターによって安定に形質転換又はトランスフェクトされた宿主細胞

本物件目録添付の別紙配列表に示されるアミノ酸配列を含み,ケモカイン受容体CCR5として作用する,精製及び単離されたポリペプチド物件目録1に記載のDNA,同2に記載のDNAベクター,同3に記載の宿主細胞,又は同4に記載のポリペプチドを使用して得られた一切の情報が記録された媒体

ONO4128その他物件目録1に記載のDNA,同2に記載のDNAベクター,同3に記載の宿主細胞,又は同4に記載のポリペプチドを使用して得られた一切の化合物

(別紙)

配列表

Met Asp Tyr Gln Val Ser Ser Pro Ile Tyr Asp Ile Asn Tyr Tyr ThrSer Glu Pro Cys Gln Lys Ile Asn Val Lys Gln Ile Ala Ala Arg LeuLeu Pro Pro Leu Tyr Ser Leu Val Phe Ile Phe Gly Phe Val Gly AsnMet Leu Val Ile Leu Ile Leu Ile Asn Cys Lys Arg Leu Lys Ser MetThr Asp Ile Tyr Leu Leu Asn Leu Ala Ile Ser Asp Leu Phe Phe LeuLeu Thr Val Pro Phe Trp Ala His Tyr Ala Ala Ala Gln Trp Asp PheGly Asn Thr Met Cys Gln Leu Leu Thr Gly Leu Tyr Phe Ile Gly PhePhe Ser Gly Ile Phe Phe Ile Ile Leu Leu Thr Ile Asp Arg Tyr LeuAla Val Val His Ala Val Phe Ala Leu Lys Ala Arg Thr Val Thr PheGly Val Val Thr Ser Val Ile Thr Trp Val Val Ala Val Phe Ala SerLeu Pro Gly Ile Ile Phe Thr Arg Ser Gln Lys Glu Gly Leu His TyrThr Cys Ser Ser His Phe Pro Tyr Ser Gln Tyr Gln Phe Trp Lys AsnPhe Gln Thr Leu Lys Ile Val Ile Leu Gly Leu Val Leu Pro Leu LeuVal Met Val Ile Cys Tyr Ser Gly Ile Leu Lys Thr Leu Leu Arg CysArg Asn Glu Lys Lys Arg His Arg Ala Val Arg Leu Ile Phe Thr IleMet Ile Val Tyr Phe Leu Phe Trp Ala Pro Tyr Asn Ile Val Leu LeuLeu Asn Thr Phe Gln Glu Phe Phe Gly Leu Asn Asn Cys Ser Ser SerAsn Arg Leu Asp Gln Ala Met Gln Val Thr Glu Thr Leu Gly Met ThrHis Cys Cys Ile Asn Pro Ile Ile Tyr Ala Phe Val Gly Glu Lys PheArg Asn Tyr Leu Leu Val Phe Phe Gln Lys His Ile Ala Lys Arg PheCys Lys Cys Cys Ser Ile Phe Gln Gln Glu Ala Pro Glu Arg Ala SerSer Val Tyr Thr Arg Ser Thr Gly Glu Gln Glu Ile Ser Val Gly Leu

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/36934/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。