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知財高裁判決請求棄却

知財高判 平成20年10月30日

平成20年(行ケ)第10116号 審決取消請求事件

裁判所
知的財産高等裁判所
裁判年月日
平成20年10月30日 (2008-10-30)
事件番号
平成20年(行ケ)第10116号
事件名
審決取消請求事件
裁判の種類・結果
判決 請求棄却
判例集等
—
分野
行政・知的財産・特許権・行政訴訟

平成20年10月30日

判決言渡

平成20年(行ケ)第10116号

審決取消請求事件

平成20年9月30日

口頭弁論終結

判決

X

原告

訴訟代理人弁護士

安原正之同佐藤治隆同小林郁夫同鷹見雅和

訴訟代理人弁理士

豊田正雄被告

株式会社フジシールインターナショナル

Y

被告

被告ら訴訟代理人弁護士

久田原昭夫同久世勝之

被告ら訴訟代理人弁理士

永田良昭同永田元昭主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び

理由

第1

請求

特許庁が無効2007-800106号事件について平成20年2月18日にした審決を取り消す。

第2

争いのない事実

特許庁における手続の経緯

被告らは,発明の名称を「シート,及びシート折曲部用形成刃」とする特許第3752035号(平成9年1月17日出願,平成17年12月16日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。

被告らは,平成19年4月16日,本件特許につき訂正審判を請求し(訂正2007-390050号),特許庁は,平成19年7月9日付けで,「特許第3752035号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」との審決をし(甲8),同審決は確定した(以下,同審決による訂正後の明細書(甲9)を,図面も含め,「本件訂正明細書」という。本件訂正明細書の請求項の数は5である。)。原告は,本件特許につき,平成19年5月30日,無効審判を請求し(無効2007-800106号),特許庁は,平成20年2月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決をし,その謄本は,同月28日,原告に送達された。

2 特許請求の範囲

本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,請求項1記載の発明を「本件特許発明1」,請求項2記載の発明を「本件特許発明2」,請求項3記載の発明を「本件特許発明3」,請求項4記載の発明を「本件特許発明4」,請求項5記載の発明を「本件特許発明5」といい,本件特許発明1ないし5を包括して「本件特許発明」という。)。

【請求項1】

プラスチックシート等のシート体(10)に折曲方向(X)に垂直に折曲部(12)が形成されてなる折曲部入りシートであって,

前記折曲部(12)は,シート体(10)に形成された多数の凹部(14)と該凹部(14)の間の残部(16)とから構成されてなり,

前記凹部(14)の底部(14a)は,折曲部形成方向(Y)に沿って設けられ,

該凹部(14)と残部(16)との境界線(18)が,折曲部形成方向(Y)に対して鋭角で且つ残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜せしめられてなることを特徴とするシート。

【請求項2】

前記凹部(14)と残部(16)との境界線(18)が,何れも平行に傾斜せしめられてなる

請求項1記載のシート。

【請求項3】

前記凹部(14)と残部(16)との境界線(18)が,折曲部形成方向(Y)に対して5乃至60度で傾斜せしめられてなる

請求項1又は2記載のシート。

【請求項4】

前記凹部(14)の折曲部形成方向(Y)の長さ(L1)がシートの肉厚(H)の0.5乃至100倍で形成されてなり,

しかも前記残部(16)は折曲部形成方向(Y)の長さ(L2)がシートの肉厚(H)の0.3乃至3倍で残存されてなる

請求項1乃至3の何れかに記載のシート。

【請求項5】

プラスチックシート等のシート体(10)に凹部(14)と残部(16)とからなる折曲部(12)を形成するためのシート折曲部用形成刃であって,刃本体(20)は,凹部(14)を形成するための複数の突出部(24)と,該突出部(24)との間で切欠かれた切欠部(26)とを有してなり,且つ前記切欠部(26)の両側の壁部(18)が,同一側で且つ折曲部形成方向(Y)に対して鋭角に,傾斜せしめられてなることを特徴とするシート折曲部用形成刃。

3 審決の理由

( 1) 要するに,本件特許発明1ないし5には,特許法29条1項3号(以下,条文は特許法の条文を示す。)の規定に違反して特許されたこと(新規性欠如),29条2項の規定に違反して特許されたこと(進歩性欠如),36条6項1号に規定する要件を満たしていないこと,36条6項2号に規定する要件を満たしていないこととの無効理由はなく,原告による無効審判請求は成り立たないとするものである。

(2 ) 審決が結論を導く過程において認定した本件特許発明(後記ア),本件特許の出願前に頒布された文献に記載された発明(後記イ),並びに審決が結論を導く過程において示した新規性に関する判断(後記ウ),進歩性に関する判断(後記エ),36条6項1号に関する判断(後記オ),36条6項2号に関する判断(後記カ)は,次のとおりである。

ア 本件特許発明

本件訂正明細書の請求項1ないし5に記載されたとおり(前記2)である。

イ 本件特許の出願前に頒布された文献に記載された発明

(ア) 甲2(米国特許4642086号明細書)に記載された発明熱可塑性プラスチックシートの折り目34に沿って,薄いエリアと厚いエリアとが,交互に配列してなり,薄いエリアが折り目に対して傾いて配列している,該熱可塑性プラスチックシートの発明(審決5(1)(A)(a),以下「甲2発明」という。)

(イ) 甲3(特公昭61-37092号公報)に記載された発明折り曲げ線に沿って,断面がV状であって,シートを切り込み溝にそって直角に折り曲げると,切り込み溝の底縁を軸として切り込み溝が断面扇形に拡開して拡開部が形成される,直線状に断続して連なる切り込み溝と,これら切り込み溝の間に介在する溝なし部分が形成された複合プラスチックシートの発明(審決5(1)(B)(a))

(ウ) 甲4(実公平4-9345号公報)に記載された発明

非発泡のプラスチックシートに折り曲げ線を形成した折り曲げ線入りプラスチックシートにおいて,前記折り曲げ線を形成する凹溝の底部にその長さ方向にそって凹凸を形成したことを特徴とする折り曲げ線入りプラスチックシートの発明(審決5(1)(C)(a))

(エ) 甲5(特開平5-16221号公報)に記載された発明折り曲げ罫線を設けた複合プラスチックシート材において,罫線の深さを,罫線加工時の刃入れ側のプラスチックフィルムの厚さより深く形成するとともに,罫線長さ方向に対して2段階以上とし,罫線の深い深溝部の深さをシート材の全体厚さの60~100%,浅い浅溝部の深さを20~95%とした折り曲げ罫線入り複合プラスチックシート材の発明(審決5(1)(D)(a))

ウ 新規性に関する判断

(ア) 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲2発明を対比すると,本件特許発明1と甲2発明は,プラスチックシート等のシート体に折曲方向に垂直に折曲部が形成されてなる折曲部入りシートであって,その折曲部は,シート体に形成された多数の凹部と該凹部の間の残部とから構成されてなるシートである点で一致するが,本件特許発明1は,凹部の底部が折曲部形成方向に沿って設けられているのに対して,甲2発明は,凹部の底部の位置について特定されていない点(相違点A-1),本件特許発明は,凹部と残部との境界線が,折曲部形成方向に対して鋭角で且つ残部を挟んで対向する境界線と同一側に傾斜しているのに対し,甲2発明は,凹部と残部との境界線の配置について特定されていない点(相違点A-2)で相違する。(審決5(1)(A)(b))

相違点A-1について更に詳述すると,次のとおりである。すなわち,甲2発明において,凹部すなわち「薄いエリア」は,「溝の高い位置と,加熱された切り口をつける工具16とで挟まれて形成される」ものであるところ,溝の配置や形状,及び切り口を付ける工具の形状,特に先端部の形状や溝との相対的な大きさの関係などについては,特定がされておらず,多様なものを含み得るものである。甲2には,一応,FIG.1,FIG.2及びFIG.4に,切り口を付ける工具の先端部が弧状にみえるものが示されているが,その形状について具体的に説明する記載はないから,「薄いエリア」の細部の立体構造がいかなるものであるのかは一義的に特定できない。そうすると,甲2発明において,「薄いエリア」すなわち凹部の底部は,実質的に,折曲部形成方向に沿って設けられているものであると認めることはできない。したがって,本件特許発明1は,凹部の底部が折曲部形成方向に沿って設けられているのに対して,甲2発明は,凹部の底部の位置が特定されておらず,それが折曲部形成方向に沿って設けられているとは認められないから,この点において,甲2発明は本件特許発明1と相違する。(審決5(1)(A)(c))上記のとおり,本件特許発明1と甲2発明は,相違点A-1において相違するから,相違点A-2について更に検討するまでもなく,本件特許発明1と甲2発明とは,実質的に相違するものであって,本件特許発明1は,甲2に記載された発明ではなく,本件特許発明1には新規性が認められる。(審決5(1)(A)(d))

(イ) 本件特許発明2ないし4について

本件特許発明2ないし4は,本件特許発明1の発明特定事項をすべて備え,更に加えて請求項2ないし4に記載された構成を発明特定事項として備えるものであるから,本件特許発明2ないし4には新規性が認められる。(審決5(2))

(ウ) 本件特許発明5について

甲2発明においては,熱可塑性プラスチックシートに付けられる「折り目」は,熱可塑性プラスチックシート20の上表面は切り口を付ける工具16により変形され,下表面は溝24により変形されるものと認められるのであって,本件特許発明5における「シート折曲部形成用刃」に相当するものに関する記載は,甲2には見当たらない。また,無効審判請求人である原告は,甲2のどの記載をもって本件特許発明5の「シート折曲部形成用刃」に相当するものとするかについて具体的な主張をしていない。したがって,本件特許発明5は,甲2に記載された発明ではなく,新規性が認められる。(審決5(3)(A))

エ 進歩性に関する判断

(ア) 本件特許発明1について

甲3ないし5に記載された発明は,「ナイフの刃の形状になつているポンチ,または,たがね」(甲3)又は「罫線刃」(甲4及び甲5)によって,シート体に所定形状の折曲部を形成してなる「折曲部入りシート」に係る発明である。他方,甲2発明は,熱可塑性プラスチックシートを,複数の切り口を付ける工具と,複数の溝をもつ平らなプレートとの間で加熱して変形させることによって所定形状の「折り目」を形成してなる「折曲部入りシート」に係る発明である。そのため,甲3ないし5に記載された発明と甲2発明とは,折曲部を形成する原理に関し,ポンチ,たがね,罫線刃という単独の工具(以下,「罫線刃等」という。)によって折曲部の形状を形成する発明であるか,切り口を付ける工具と溝のつけられたプレートのコンビネーション(以下「工具コンビネーション」という。)によって折曲部の形状を形成する発明であるかという点で,基本的に異なる。折曲部の形状を変更するためには,罫線刃を用いる場合は,罫線刃の形状を変更する必要があるのに対し,工具コンビネーションを用いる場合は,切り口を付ける工具の形状,複数の溝をもつ平らなプレートの形状と溝の配置,更には切り口を付ける工具とプレートの相互の配置等を変更する必要がある。

そうであるとすれば,罫線刃等により折曲部を形成している当業者が,折曲部の形状を変更しようとする場合,罫線刃等の形状の変更に想到することは容易であるとしても,折曲部を形成する原理が基本的に異なる工具コンビネーションによる折曲部の形成手段に転換する必然性は見い出せない。反対に,工具コンビネーションによって折曲部を形成している当業者が,折曲部の形状を変更しようとする場合には,切り口を付ける工具の形状,複数の溝をもつ平らなプレートの形状と溝の配置,更には切り口を付ける工具とプレートの相互の配置等の変更に想到することは容易であるとしても,折曲部を形成する原理が基本的に異なる罫線刃等による折曲部の形成手段に転換する必然性は見い出せない。そして,当業者が,これらの転換を容易に想到し得ないことは,プラスチックシートの両面から折り曲げ罫線となる凹溝を形成してなる「折り曲げ罫線入りプラスチックシート」が記載された甲6をみても,変わるところはない。

したがって,本件特許発明1が,甲2ないし6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできず,本件特許発明1には進歩性が認められる。(審決6(1))

(イ) 本件特許発明2ないし4について

本件特許発明2ないし4は,本件特許発明1の発明特定事項をすべて備えて,更に加えて請求項2ないし4に記載された事項を,発明特定事項として備えるものである。そして,前記(ア)で述べたとおり,本件特許発明1は,甲2ないし6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件特許発明2ないし4も,甲2ないし6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件特許発明2ないし4には進歩性が認められる。(審決6(2))

(ウ) 本件特許発明5について

前記(ア)で述べたとおり,甲3ないし5に記載された発明と,甲2発明とは,単独の工具たる罫線刃等によって折曲部の形状を形成する発明であるか,工具コンビネーションによって折曲部の形状を形成する発明であるか,という点で,折曲部を形成する原理が基本的に異なるから,シート折曲部用形成刃についても,本件特許発明1について述べたと同様の理由により,該罫線刃等と工具コンビネーションとの転換に当業者が容易に想到することができたとはいえない。したがって,本件特許発明5は,甲2ないし6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできず,本件特許発明5には進歩性が認められる。(審決6(3))

オ 36条6項1号に関する判断

(ア) 特許請求の範囲に記載された「残部」の意味を検討すると,請求項1には,「折曲部(12)は,シート体(10)に形成された多数の凹部(14)と該凹部(14)の間の残部(16)とから構成されてなり」と記載されており,請求項5には,「凹部(14)と残部(16)とからなる折曲部(12)」と記載されている。これらの記載からして,折曲部は,凹部と残部のみから構成されるものであるから,「残部」は,折曲部のうちの「凹部」以外のものとして定義されているものと認められる。また,請求項2ないし4は,請求項1を直接又は間接に引用するものであるから,「残部」は,請求項1におけると同様に定義されるものと認められる。(審決7(2))

(イ) 発明の詳細な説明には,「残部」について,少なくとも次のとおり記載されている。

a 「形成刃によってプラスチックシート等のシート体10に折曲部12を形成すると,切欠部26に相当する部位を残存させつつ,突出部24によって該残部16間に凹部14を形成することができ」(【0015】)

b 「本発明の一実施形態に係るシートについて図3を参酌しつつ以下説明する。なお,前記シート体10はポリ塩化ビニル,ポリプロピレン,ポリエステル,ポリスチレン等の硬質や半硬質のプラスチックからなり肉厚Hが0.3mmのものであり,上記形成刃による押圧は,刃本体20の突出部24の先端が0.15mmだけシート体10内部に入り込むように押圧した場合を例にとって説明する。」(【0021】)「上記形成刃により,該シート体10には,刃本体20の突出部24によって所定間隔ごとに複数の凹部14が穿設され,該凹部14の間には平面視平行四辺形の残部16(刃本体20の切欠部26に相当する箇所)が残存され,該凹部14と残部16とにより前記折曲部12は構成されてなる。」(【0022】)

c 「残部16は,シートの厚みをそのまま残存させるものに限定されるものでなく,例えば図4に示すように凹部14より浅い凹みを有し,凹部14よりもシートの厚みが残存されているものも本発明の意図する範囲である。

但し,残部16はシートの肉厚をそのまま残存させる構成を採用することにより,シートの強度を維持できるのみならず,折曲部12の形成が容易であるという利点を有する。つまり,図4に示すように残部16にも凹みを形成するならば,凹部14及び残部16の深さを的確に形成しなければ,シート自体の強度の低下或いは折曲性の低下が生ずるおそれがある。これに対して,残部16がシートの肉厚をそのまま残存させてなる構成を採用するならば,凹部14の深さに多少のズレが生じても,シート自体の強度並びに折曲性に悪影響を与えず,折曲部12の形成が容易であるという利点を有するものである。」(【0028】)

前記aの記載によれば,折曲部は,残部と凹部とからなることが明らかである。前記bの記載によれば,折曲部は,穿設されて形成される凹部と,凹部の間で残存する残部とからなることが明らかである。また,前記cの記載によれば,折曲部は,凹部と,凹部より浅い凹みとして残存させた残部とからなることが明らかである。そうすると,発明の詳細な説明には,特許請求の範囲において定義されるとおりの「残部」と,その具体的態様が記載されているものと認められる。(審決7(3))

(ウ) そして,請求項1ないし5を虚心坦懐に読めば,本件特許発明1ないし5は,シート体に形成された折曲部に,単に「残部」が存在することをもって,発明特定事項とするものではなく,該「残部」と凹部との境界線との位置関係を特定してなるシート,又は,該シートを形成するために用いるシート折曲部形成用刃に係るものであるから,折曲部のうちの「凹部」以外のものとして定義される「残部」自体としては,発明の効果を奏するものも奏しないものも包含することは自明であり,そのことをもって,本件特許発明1ないし5に係るシート又はシート折曲部形成用刃が,発明の詳細な説明に記載したものでないということはできない。

また,本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,「本発明に係るシートにあっては,シート体10を折曲部12に沿って折曲方向Xに曲げた際に,両側の境界線18が同一側で傾斜した残部16は捩じれた状態となるので,互いに当接することもなく,また残部16に引き裂き方向に力が生じても,残部16の境界線18が傾斜してなるので前記引き裂き方向の力は分散され,残部16の破損を防止することができる。」(【0010】)という効果を前提として,「さらに,本発明に係るシートにあっては・・・が好ましく,・・・という利点を有する。」(【0011】),「また,・・・が好ましく,・・・が特に好ましい。」(【0012】),「さらに,・・・・が好ましい。・・・利点を有するのである。しかも,残部16を折曲部形成方向Yの長さL2が・・・となるよう残存させることが好ましい。・・・利点を有する。さらに,残部16を折曲部形成方向Yの長さL2が・・・となるよう残存させることが好ましい。・・・利点を有するのである。」(【0013】)として,より好ましい限定された態様とそれにより奏される付加的な利点を開示しているのであるから,「残部」を含む請求項は,発明の効果を奏する範囲を超えた不当に広い技術的範囲となっているということはできない。また,本件訂正明細書の【0028】の記載は,「残部」の厚みを限定した実施態様を開示したものであり,「不当に広い技術的範囲」であるとすることはできない。(審決7(4))

カ 36条6項2号に関する判断

(ア) 本件特許発明1(請求項1)について

a 請求項1には,「該凹部(14)と残部(16)との境界線(18)」と記載されているから,「境界線」が,シート体に形成された多数の凹部と,凹部の間の残部との境界をなす線であることは,文言上明らかである。そして,本件特許発明1が,3次元の立体成形体等に係るものではなく,「シート」に係るものであることを踏まえれば,該「シート」における,凹部と残部との「境界線」は,第一義的には,シートの折曲部の表面に表れている凹部と残部との境界をなす線として認識するのが技術的に合理的であり,そうであるとすれば,具体的には,折曲部のベース平面をなす「残部」が凹部の底部に向かって変形を開始する線分(以下,「凹部空間形成開始線」という。)として認識するのが相当である。

また,本件訂正明細書には,【0033】に,「上記何れの実施形態においても,境界線18によって凹部14と残部16とが明確に仕切られ,境界線18がシート体10の表面上より明確に線となり表れている場合について説明したが,本発明において境界線18とは,残部16を残存させつつ凹部14を形成する際に凹部14と残部16との間に形成が予定される線を意味し,折曲部12を形成した際に明確に線となり表れないものも本発明の意図する範囲内である。」と記載されており,「境界線」が,基本的には,「表面上より明確に線となり表れている」ものであること,更に加えて,概念としては,形成が予定される線をも意味すること,が記載されているのであるから,特段の説明がない限り,「表面上より明確に線となり表れている」ものと解することができる。

そうすると,シート体を平面視(折曲方向及び折曲部形成方向の両者に直交する方向)で観察し,その境界を認識するべきであるという解釈は合理性があり,「境界線」は「凹部空間形成開始線」であって,その意義は明確である。(審決8(2)(2-1))

b 「境界線」は,シート体を平面視(折曲方向及び折曲部形成方向の両者に直交する方向)で観察し,認識すべきであり,凹部空間形成開始線を意味すると解されるから,本件特許発明1の「境界線」が「残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜」という構成要件の意義は明確である。(審決8(2)(2-1),(2-2))

c 「境界線」が円弧状の場合における,「折曲部形成方向(Y)に対して鋭角」や「残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜」という構成要件の意味内容については,本件訂正明細書に具体的な説明はない。しかしながら,直線について適用される概念を円弧状のような曲線についても適用することは,しばしば採用される技術手段であると認められ,その際には,所定の接線をもって,直線におけると同様の数式処理を行うのが慣用の方法である。そして,本件特許発明1にあっても,かかる技術手段の採用を妨げる格別の理由は見い出せないし,更に,図7に,円弧状の境界線の接線と折曲部形成方向(Y)とがなす角度をθとする旨が示されているから,「鋭角」や「傾斜」という概念を用いることに,何らの不都合はなく,「境界線」が円弧状の場合における,「折曲部形成方向(Y)に対して鋭角」や「残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜」という構成要件の意味内容が不明確であるということはできない。(審決8(2)(2-5))

d 本件特許発明1における「鋭角」は,実質的に,直角(90度)以外のすべての角度を含むことと同義である。そして,該「境界線」が,折曲部形成方向に対して直角でなければ,「折曲部12が形成されない裏面側にシート体10を曲げた際には,残部16に引き裂き方向に力が生ずるが,該残部16の境界線18は傾斜してなるので前記引き裂き方向の力は分散され,残部16の破損を防止することができる。」(本件訂正明細書【0026】)という効果が,その大小はともかくとして奏されるものと認められる。したがって,「鋭角」という表現が不明確であるとはいえないし,「鋭角」が直角以外のすべての角度を含むことを意味するとしても,発明が効果を奏する範囲を超えているとはいえない。(審決8(2)(2-6))

(イ) 本件特許発明2(請求項2)について

「境界線」は,「凹部空間形成開始線」であって,その意義は明確であるから,本件特許発明2の「凹部(14)と残部(16)との境界線(18)が,何れも平行に傾斜せしめ」という構成要件の意味は不明確ではない。(審決8(3))

(ウ) 本件特許発明3(請求項3)について

「境界線」は,「凹部空間形成開始線」であって,その意義は明確であるから,本件特許発明3の「凹部(14)と残部(16)との境界線(18)が,折曲部形成方向(Y)に対して5乃至60度で傾斜せしめ」という構成要件の意味は不明確ではない。(審決8(4))

(エ) 本件特許発明5(請求項5)について

前記(ア)cのとおり,「境界線」が円弧状の場合においても,「鋭角」や「傾斜」という概念を用いることに,何らの不都合もないから,「境界線」の形状に対応する形状となる本件特許発明5のシート折曲部用形成刃の「切欠部(26)の両側の壁部(18)」についても,「鋭角」や「傾斜」という概念を用いることに,何らの不都合はなく,本件特許発明5の「切欠部(26)の両側の壁部(18)が,同一側で且つ折曲部形成方向(Y)に対して鋭角に,傾斜せしめ」という構成要件の意味は不明確ではない。(審決8(6))

第3 原告主張の取消事由

審決は,次に述べるとおり,新規性に関する判断の誤り(取消事由1),進歩性に関する判断の誤り(取消事由2),36条6項1号に関する判断の誤り(取消事由3),36条6項2号に関する判断の誤り(取消事由4)があるので,違法として取り消されるべきである。

新規性に関する判断の誤り(取消事由1)

( 1) 本件特許発明1について

甲2発明のシートは,以下のとおり,本件特許発明1のシートと実質的に同一であり,審決には新規性に関する判断に誤りがある。

ア 相違点A-1について

(ア) 審決は,相違点A-1について,本件特許発明1は,凹部の底部が折曲部形成方向に沿って設けられているのに対して,甲2発明は,凹部の底部の位置が特定されておらず,それが折曲部形成方向に沿って設けられているとは認められないから,この点において,甲2発明は本件特許発明1と相違するとする(前記第2,3( 2)ウ(ア))。しかし,後記(イ)に述べるとおり,甲2にも,凹部の底部が折曲部形成方向に沿って設けられたシートが記載されており,この点において,甲2発明は本件特許発明1と実質的に同一である。

(イ) すなわち,甲2の熱可塑性プラスチックシート20(熱可塑性プラスチックシート20を単に「シート20」ということがある。)は,上表面側を,シート20が溶ける温度以下まで加熱された切り口を付ける工具16に向け,下表面側を,複数の溝24を並列したプレート22で受けるように配置され,形成される。そして,このような配置による上下表面の加工により,「シート20の上表面は切り口を付ける工具16により変形され,下表面は溝24により変形される」ものである。上下表面が変形されたシート20の詳細は,甲2のFIG.4に上下表面が反転した状態に図示されている。これによれば,切り口を付ける工具16は,シート20に下側から接するように図示されており,シート20の前端面の,切り口を付ける工具16の弧状の周面に対向した部分に,弧状に凹んだ切り口が示されており,シート20には,切り口を付ける工具16の奥行の長さに沿って変形した断面弧状の溝が形成されている。そして,切り口を付ける工具16と溝24により形成された薄いエリア30が,シート20の中心部に前端から後端まで連なって図示されている。この図からみると,薄いエリア30の連なったシート20の反対側,すなわちシート上表面には,切り口を付ける工具16の弧状部により変形された弧状凹部が連続して形成されていると容易に理解できる。FIG.2のプレート22に設けられた溝24は,切り口を付ける工具16の縦の軸に対して傾斜しており,FIG.4のシート20の下表面に記載されている薄いエリア30は,溝24に対応して,シート20の下表面に斜め向きの長楕円形として図示されているが,シート20のうち,加熱された切り口を付ける工具16に近接する部位だけが変形した凹溝として示されている。FIG.4に記載されたシート20の薄いエリア30は,切り口を付ける工具16の円弧状凸面の最も高い部分に対向する部分が加熱により最も深く変形され肉薄となるので,この最も薄い部位がエリア30の底部であるとみることができる。そして,この薄いエリア30の最も肉薄の部位は,厚い部位32を挟んで,折曲部形成方向すなわち折り目線34の方向に沿って設けられている。このように,甲2には,凹部の底部が折曲部形成方向に沿って設けられたシートの発明が記載されている。

したがって,審決は,甲2発明は,凹部の底部の位置が特定されておらず,それが折曲部形成方向に沿って設けられているとは認められないとして,甲2発明は本件特許発明1と相違するとしているので,この点において,甲2発明は本件特許発明1と相違するとした審決の認定には誤りがある。

イ 相違点A-2について

(ア) 審決は,相違点A-2について,本件特許発明は,凹部と残部との境界線が,折曲部形成方向に対して鋭角で且つ残部を挟んで対向する境界線と同一側に傾斜しているのに対し,甲2発明は,凹部と残部との境界線の配置について特定されていない点で相違するとする(前記第2,3( 2)ウ(ア) )。しかし,後記(イ)に述べるとおり,甲2にも,凹部と残部との境界線が折曲部形成方向に対し鋭角で且つ残部を挟んで対向する境界線と同一側に傾斜したシートが記載されており,この点において,甲2発明は本件特許発明1と実質的に同一である。

(イ) すなわち,甲2のFIG.4には,シート20の下表面側が斜面視に描かれているが,シート20には,前端から後端に向けて斜面視長楕円形の溝である薄いエリア30が,折り目線34に沿って配列され,薄いエリア30同士の間が厚いエリア32になっている。そして,長楕円形の薄いエリア30は,長手方向が折り目線34に対して45度傾斜して配列されている。この薄いエリア30と厚いエリア32の境界線を,審決が認定するように「シートの折曲部の表面に表れている凹部(薄いエリア)と残部(厚いエリア)の境界をなす線」とみるならば,境界線は,薄いエリア30の溝のシート20の表面に表れる長楕円形の上縁部と解されるが,この部位は,前縁,後縁とも円弧でありながら折り目線34に対し傾斜しており,厚いエリア32を挟んで対向する薄いエリア30の長手方向の後縁,前縁の円弧は同一側に傾斜している。したがって,甲2には,「凹部と残部との境界線が折曲部形成方向に対し鋭角で且つ残部を挟んで対向する境界線と同一側に傾斜」したシートも記載されており,本件特許発明1の構成要件のすべてを具備した発明が記載されている。したがって,本件特許発明1は新規性がない。

(2 ) 本件特許発明2ないし4について

本件特許発明2ないし4は,本件特許発明1の構成要件を中心的な構成として記載されているから,本件特許発明1と同様に新規性がない。(3 ) 本件特許発明5について

本件特許発明5は,本件特許発明1のシートを形成するためのシート折曲部用形成刃の発明であるところ,甲2には,本件特許発明1と同様のシートを形成するためのシート折曲部形成器具が記載されているから,本件特許発明5も新規性がない。

進歩性に関する判断の誤り(取消事由2)

審決は,罫線刃等により折曲部を形成している当業者が,折曲部の形状を変更しようとする場合,罫線刃等の形状の変更に想到することは容易であるとしても,折曲部を形成する原理が基本的に異なる工具コンビネーションによる折曲部の形成手段に転換する必然性は見い出せないとし,反対に,工具コンビネーションによって折曲部を形成している当業者が,折曲部の形状を変更しようとする場合には,折曲部を形成する原理が基本的に異なる罫線刃による折曲部の形成手段に転換する必然性は見い出せないとする(前記第2,3( 2)エ(ア))。しかし,本件特許発明の進歩性の有無を判断するに当たっては,シートの折曲部の形状を変更することが容易か否かを基準とすべきであり,折曲部の形成方法を変えることが容易かどうかを基準とすべきではない。

甲3ないし5には,審決が定義する「残部」の「境界線」に相当する部分がシートの折曲線に対して直角をなすシートが記載されている。他方,甲2には,シートの折曲部分に沿って厚いエリアと薄いエリアが備えられ,厚いエリアが折曲部形成方向に対して傾斜したシートが記載されており,厚いエリアが折曲部形成方向に対して45度の角度の場合に最も良い結果が得られること,このような構成によってシートが屈曲性と強度維持を同時に図ることができることが明示されている。そうすると,甲3ないし5のように罫線刃等により折曲部を形成している当業者は,甲2を見た場合,屈曲性と強度維持を同時に満たすという課題を解決するために,シートにおける「境界線」を折曲方向に対して傾斜させることに,容易に想到することができる。そして,罫線刃の形状は,所望の罫線シートを想定し,想定された罫線が得られるように作成されるから,シートとその罫線刃は裏腹の関係にあり,罫線構造が分かれば,それに合わせて罫線刃を作成することは,容易である。

したがって,本件特許発明1ないし5は,甲2ないし6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,審決の進歩性に関する判断には誤りがある。

3 36条6項1号に関する判断の誤り(取消事由3)

審決は,発明の詳細な説明には,特許請求の範囲において定義されるとおりの「残部」とその具体的態様が記載されているものと認められるとし,また,「残部」を含む請求項は,発明の効果を奏する範囲を超えた「不当に広い技術的範囲」であるとすることはできないとする(前記第2,( 2)3オ)。しかし,審決の判断は,以下のとおり,誤りである。すなわち,特許請求の範囲の技術的事項につき,その作用効果が発明の詳細な説明において特記されているときは,その作用効果を奏するための構成は,発明の構成の必須要件であり,その作用効果を奏しないものは発明の技術的範囲に属さないと解すべきである。そして,本件訂正明細書の課題を解決するための手段の項には,「シート体10を折曲部12に沿って折曲方向Xに曲げた際に,両側の境界線18が同一側で傾斜した残部16は捩じれた状態となるので,互いに当接することもなく」(【0010】)と記載されているから,シートを折り曲げたときに残部が互いに当接することがないという効果を奏するためには,残部の水平方向の厚さが薄いことが必要であって,水平方向に厚い残部はこのような効果を奏さない。そうすると,本件特許発明の「残部」の要件としては,「傾斜した境界線」をなすということだけではなく,シートを折り曲げたときに残部が互いに当接することがないように,残部の水平方向の厚さが薄いことが必要であり,残部の大部分が当接してしまうような水平方向に厚い残部は,これに含まれない。しかるに,請求項1ないし5は,「残部」の肉厚等を薄いものに限定していない。したがって,本件特許の特許を受けようとする発明(本件特許発明)は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。審決の36条6項1号に関する判断には誤りがある。

4 36条6項2号に関する判断の誤り(取消事由4)

( 1) 審決は,「境界線」につき,第一義的には,シートの折曲部の表面に表れている凹部と残部との境界をなす線として認識するのが技術的に合理的であるとし,シート体を平面視(折曲方向及び折曲部形成方向の両者に直交する方向)で観察し,その境界を認識するべきであるとする(前記第2,3( 2)カ(ア)a)。

しかし,本件訂正明細書において,境界線18は,図3等において,残部16の側面である面を指し示している。また,このような本件訂正明細書の記載を措くとしても,「残部」は,ある体積を有する三次元形状であり,同様に「凹部」も三次元空間内の「面」を指しているから,その「境界」とは,立体と面の交わる「線」であると解釈するのが自然であり,合理的である。そうすると,当業者にとって,「境界線」は非常に曖昧で多義的に解釈の余地のある構成要件であり,審決が,本件訂正明細書に記載がない「平面視において」という要件を加えた上で「境界線」について判断しているのは誤りであり,審決が述べるように「境界線」を凹部空間形成開始線を意味すると解する根拠はない。

審決は,「境界線」は,シート体を平面視(折曲方向及び折曲部形成方向の両者に直交する方向)で観察し,認識すべきであり,凹部空間形成開始線を意味すると解されるから,本件特許発明1の「境界線」が「残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜」という構成要件の意味は明確であるとする(前記第2,3( 2)カ(ア)b)。

しかし,本件訂正明細書の図5に示される実施例において,残部16の側面の部分がX(折曲方向)Y(折曲部形成方向)平面に対して垂直ではなく傾きをもっているとすると,その境界線をXY平面に投射したものは,1つの境界面に対し4本もの線分として表されることとなる。そうすると,境界線をXY平面上へ投射したものは必然的に複数本存在することとなり,それ故,境界線をXY平面上へ投射したものと折曲部形成方向(Y)とがなす角も複数個存在することとなるが,そのいずれをもって傾斜角度として特定するかは,本件訂正明細書の請求項及び発明の詳細な説明のいずれにも,何ら説明されていない。したがって,本件特許発明の「境界線」,「鋭角」,「傾斜せしめ」という文言は不明確である。

( 2) 審決は,直線について適用される概念を円弧状のような曲線について適用する際に,所定の接線をもって直線におけると同様の数式処理を行うのが慣用の方法であるとする(前記第2,3( 2)カ(ア)c)。しかし,仮に曲線につきその「接線」をもって傾きの定義をするものとしても,曲線の接線は無限に考えることができるから,いかなる接線をもってその傾きと定義するのかが全く不明確であり,また審決のいう「所定の接線」自体,本件訂正明細書には何らの記載もないから,審決の判断は誤りである。(3 ) 審決は,「境界線」が折曲部形成方向に対して直角でなければ,残部16に生ずる引き裂き方向の力は分散され,残部16の破損を防止することができるとする(前記第2,3( 2)カ(ア)d)。

しかし,「残部」は,本件訂正明細書に記載された作用効果を奏するようなものでなければならないところ,本件特許発明は,「傾斜した境界線」と「水平方向の薄さ」が相まって作用効果を奏することが可能になるから,作用効果を生ずる傾斜の角度は限定されるはずであり,「鋭角」とは何度でも構わないという審決の判断は誤りである。

(4 ) 審決は,「境界線」の形状に対応する形状となる本件特許発明5のシート折曲部用形成刃の「切欠部(26)の両側の壁部(18)」についても,「鋭角」や「傾斜」という概念を用いることに,何らの不都合はないとする(前記第2,3( 2)カ(エ) )。

しかし,「線」である「境界線18」と「面」である「壁部18」は対応するはずがなく,また曲線又は曲面の傾きは定義できないから,本件特許発明5(請求項5)についての審決の判断は誤りである。

( 5) したがって,本件特許発明は明確ではなく,審決の36条6項2号に関する判断には誤りがある。

第4 被告の反論

新規性に関する判断の誤り(取消事由1)について

( )

本件特許発明1について

ア

相違点A-1について

甲2からは,甲2発明の薄いエリア30の細部の立体構造を一義的に特定することはできない。薄いエリア30を本件特許発明1の凹部に対応させると,薄いエリア30の底部が折曲部形成方向に沿っていないことは明らかである。甲2発明において,仮に,原告主張のとおり,シート20のうち,切り口を付ける工具16の円弧状凸面の最も高い部分に対向して加熱により最も深く変形され肉薄となる部位を薄いエリア30の底部とするのであれば,凹部である折り目34(折曲部)の中に残部が存在しないことになるが,本件特許発明1では,残部は折曲部の中に存在するから,本件特許発明1と甲2発明は相違することになる。

したがって,甲2発明は本件特許発明1と相違するとした審決の判断に誤りはない。

イ

相違点A-2について

本件特許発明1は,相違点A-1において甲2発明と異なるから,原告の相違点A-2に関する主張は,検討するまでもない。

ウ

したがって,審決の新規性に関する判断に誤りはない。

( )

本件特許発明2ないし5について

審決の本件特許発明2ないし5の新規性に関する判断に誤りはない。進歩性に関する判断の誤り(取消事由2)について

甲2発明の課題が本件特許発明の課題と同一であるとしても,甲2発明は,熱可塑性プラスチックシートを,切り口を付ける工具と複数の溝をもつ平らなプレートとの間で加熱して変形させることにより,所定形状の折り目を形成してなる折曲部入りシートに係る発明であるのに対し,甲3ないし5の発明は,ポンチ,たがね,罫線刃という単独の工具によって折曲部の形状を形成する発明であり,原理が基本的に異なるから,当業者は,甲2発明と甲3ないし5の発明を組み合わせることを,容易に想到することはできない。したがって,審決の進歩性に関する判断に誤りはない。

3 36条6項1号に関する判断の誤り(取消事由3)について本件特許発明の「残部」については,本件訂正明細書の発明の詳細な説明に明確に示されているから,本件特許発明は,発明の詳細な説明に記載されたものである。原告の主張は,「当接」の意味について独自の主張をするものであり,採用することはできない。したがって,審決の36条6項1号に関する判断に誤りはない。

4 36条6項2号に関する判断の誤り(取消事由4)について本件特許発明において,「境界線」の意味,「境界線」が「残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜」という構成要件の意味は明確である。また,境界線が曲線の場合に所定の接線をもって直線におけるのと同様の数式処理を行うのが慣用の方法であるとする審決の判断は妥当である。したがって,審決の36条6項2号に関する判断に誤りはない。

第5 当裁判所の判断

1 新規性に関する判断の誤り(取消事由1)について

( 1) 本件特許発明に係る特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載

ア 本件訂正明細書の特許請求の範囲には,前記第2,2のとおりの記載がある。また本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,次のとおりの記載がある。

「【0001】

【発明の属する技術分野】

本発明は,シート,及びシート折曲部用形成刃に関するものであり,より詳しくは,折曲部に沿って折曲げ可能に設けられたシート及びシートに折曲部を形成するための形成刃に関し,例えばクリアケースの製造に利用できる。

【0002】

【従来の技術】

従来より,折曲部に沿って折曲げ可能に設けられたシートとして,実開昭63-91455号公報所載のものが公知である。該公報所載のシートは,シートの折曲方向に直角に設けられた凹溝と,該凹溝の底部に長さ方向に沿って形成された凹凸とから折曲部を構成してなるものである(従来例1)。」

「【0006】

【発明が解決しようとする課題】

しかしながら,上記何れの従来例のシートも,シートの折曲性を得るために凹溝を深く或いは凹溝の凸部分等を小さくすると折曲部の強度に欠け,逆にシートの強度を保つために凹溝の凸部分等を大きくするとシートの折曲性に欠けるという問題を有するものであった。」

「【0008】

そこで,本発明は,このような問題を解決すべくなされたものであり,シートの折曲性及びシートの強度を同時に満たし得るシートを提供することを課題とする。

【0009】

【課題を解決するための手段】

本発明は,上記の課題を解決すべくなされたものであり,本発明に係るシートとしての特徴は,プラスチックシート等のシート体10に折曲方向Xに垂直に折曲部12が形成されてなる折曲部入りシートであって,前記折曲部12は,シート体10に形成された多数の凹部14と該凹部14の間の残部16とから構成されてなり,前記凹部(14)の底部(14a)は,折曲部形成方向(Y)に沿って設けられ,該凹部14と残部16との境界線18が,折曲部形成方向Yに対して鋭角で且つ残部16を挟んで対向する境界線18と同一側に,傾斜せしめられた点にある。

【0010】

該構成からなる本発明に係るシートにあっては,シート体10を折曲部12に沿って折曲方向Xに曲げた際に,両側の境界線18が同一側で傾斜した残部16は捩じれた状態となるので,互いに当接することもなく,また残部16に引き裂き方向に力が生じても,残部16の境界線18が傾斜してなるので前記引き裂き方向の力は分散され,残部16の破損を防止することができる。

【0011】

さらに,本発明に係るシートにあっては,凹部14と残部16との境界線18を,何れも平行に傾斜せしめることが好ましく,これにより折曲部12の形成が容易であるという利点を有する。」

「【0014】

また,本発明に係るシート折曲部用形成刃としての特徴は,プラスチックシート等のシート体10に凹部14と残部16とからなる折曲部12を形成するためのシート折曲部用形成刃であって,刃本体20が,凹部14を形成するための複数の突出部24と,該突出部24との間で切欠かれた切欠部26とを有してなり,且つ前記切欠部26の両側の壁部18が,同一側で目つ(判決注「且つ」の誤記と認められる。)折曲部形成方向Yに対して鋭角に,傾斜せしめられた点にある。

【0015】

本発明に係る形成刃は上記構成からなるので,該形成刃によってプラスチックシート等のシート体10に折曲部12を形成すると,切欠部26に相当する部位を残存させつつ,突出部24によって該残部16間に凹部14を形成することができ,この際切欠部26の両側の壁部18が同一側で且つ折曲部形成方向Yに対して鋭角に傾斜せしめられてなるので,シート体10の凹部14と残部16との境界線18が折曲部形成方向Yに対して鋭角で且つ残部16を挟んで対向する境界線18と同一側に傾斜せしめて折曲部12を形成することができる。」

「【0020】

本実施形態の形成刃は上記構成からなり,上記形成刃によってシート体10に折曲部12を形成するには,まずシート体10を平坦な台の上に載置せしめておき,この台上のシート体10に前記形成刃を上方より押圧せしめることによって行われる。なお,この押圧に際して前もって刃本体20を加熱等しておくことにより,折曲部12の形成がより容易となる。」「【0022】

上記形成刃により,該シート体10には,刃本体20の突出部24によって所定間隔ごとに複数の凹部14が穿設され,該凹部14の間には平面視平行四辺形の残部16(刃本体20の切欠部26に相当する箇所)が残存され,該凹部14と残部16とにより前記折曲部12は構成されてなる。」

「【0028】

つまり,残部16は,シートの厚みをそのまま残存させるものに限定されるものでなく,例えば図4に示すように凹部14より浅い凹みを有し,凹部14よりもシートの厚みが残存されているものも本発明の意図する範囲である。

但し,残部16はシートの肉厚をそのまま残存させる構成を採用することにより,シートの強度を維持できるのみならず,折曲部12の形成が容易であるという利点を有する。つまり,図4に示すように残部16にも凹みを形成するならば,凹部14及び残部16の深さを的確に形成しなければ,シート自体の強度の低下或いは折曲性の低下が生ずるおそれがある。これに対して,残部16がシートの肉厚をそのまま残存させてなる構成を採用するならば,凹部14の深さに多少のズレが生じても,シート自体の強度並びに折曲性に悪影響を与えず,折曲部12の形成が容易であるという利点を有するものである。

尚,図4に示す実施形態においては,境界線18は折曲部形成方向Yに対して60度で傾斜せしめてなる。」

「【0032】

しかも,境界線18は直線であることは要せず,図7に示すように円弧状等であっても良く,少なくとも残部16を挟んで対向する境界線18同士が同一側に傾斜せしめられてなるものであれば本発明の意図する範囲内である。

また,境界線18は互いに平行であることを要せず,また,図8に示すように凹部14を挟んで対向する境界線18同士が反対側に傾斜せしめられてなるものであっても本発明の意図する範囲である。

【0033】

また,上記何れの実施形態においても,境界線18によって凹部14と残部16とが明確に仕切られ,境界線18がシート体10の表面上より明確に線となり表れている場合について説明したが,本発明において境界線18とは,残部16を残存させつつ凹部14を形成する際に凹部14と残部16との間に形成が予定される線を意味し,折曲部12を形成した際に明確に線となり表れないものも本発明の意図する範囲内である。」

イ 本件特許発明の内容

前記アによれば,本件特許発明1ないし4は,シートの折曲部に関するものであって,従来,折曲方向に直角に設けられた凹溝と凸部によって折曲部が形成されていたところ,折曲性(折り曲げ易さ)を得るために凹溝を深くすると強度に欠け,強度を保つために凸部等を大きくすると折曲性に欠けるという問題点を解消することを目的とするものである。そのために,折曲部用形成刃をシートに押圧することにより,折曲部に折曲部用形成刃の突出部に対応した形状の凹部を形成するものであって,本件特許発明1は,その特定された構成により,折曲部に多数配置された凹部の底部が折曲部形成方向に沿って設けられているので,折り曲げ易さを有するとともに,凹部と残部との境界線が折曲部形成方向に対して傾斜しているので,シートを折曲部に沿って折り曲げた際に,残部が捩れた状態となって互いに当接することがないことによって,折り曲げ易さを確保しつつ,更に残部に生じる引き裂き方向の力が分散されるので,破損を防止できるという作用効果を有するものである。また,本件特許発明5は,本件特許発明1の折曲部を製造することが可能な形状の折曲部用形成刃を提供するものである。

( )

甲2の記載

ア

甲2には,次のとおりの記載がある(甲2の2に示された訳文による。ただし,記載箇所の表示は,甲2の1の原文の公報の記載箇所を示す。

。)

「請求の範囲

1.熱可塑性プラスチックシートに柔軟な折り目を付けることで,折りたたみ可能な箱の半製品を作る器具で,以下から構成される。

それぞれに縦の軸をもつ複数の切り口を付ける工具を含む切り口を付ける手段

熱可塑性プラスチックシートを支えるために切り口を付ける工具の反対側に配置された平らなプレート。そのプレートは切り口を付ける工具と対応した場所に複数の溝をもつ

切り口を付ける工具の縦の軸にオフセットされた溝の縦の軸

切り口を付ける軸を熱可塑性プラスチックシートが溶ける温度以下まで熱する手段

熱せられた切り口を付ける工具を熱可塑性プラスチックシートを柔らかくするために当て,上表面を,その切り口を付ける工具で,下表面を,プレートにある溝で変形させる手段。この変形より熱可塑性プラスチックシートに柔軟な折り目を付ける。」(4欄21ないし44行)

「6.請求項1に従って,溝の縦の軸が切り口を付ける工具の軸に対して45度の角度で配置されている器具」(4欄56ないし59行)「有利な点としては,当発明の結果として器具は熱された切り口を付ける工具とそれの下に配置された平らなプレートのコンビネーションによって,効果的に且つ経済的に柔軟な折り目を熱可塑性プラスチックシートに成形することを提供した。そのプレートには柔らかくされたプラスチックに一致した複数の溝があり,そこで切り口を付ける工具の圧力によって柔軟な折り目が成形される。その柔軟な折り目は薄いエリアと厚いエリアからなり,熱可塑性プラスチックシートが容易に折れるようにしながらも,依然として折れ目に沿って十分な強さをもつようにしている。」(2欄24ないし34行)

「更に,プレートに成形された溝24は熱可塑性プラスチックシート20を変形させるためにプレート22に対してどんな角度でもつけられる。しかしながら,当発明によると最良の結果は,FIG.2に示されているように,溝のカットが切り口を付ける工具16の縦の軸1に対して45度の角度で配置された際に得られている。そのように配置することで,折り目はベストの強度と柔軟性のコンビネーションとなること,また折り目に沿って熱可塑性プラスチックシート20を変形させるのに,より少ない熱や圧力ですむことが分かっている。」(3欄12ないし22行)

「操作の際,熱せられた切り口を付ける工具16と裁断工具18は溝を付けられたプレート22と熱可塑性プラスチックシート20に向かって移動する。裁断工具18はシート20を貫通し,希望の形に切り抜く。熱された切り口を付ける工具16は部分的に貫通し,熱可塑性プラスチックシートを柔らかくする。その間,圧力は熱可塑性プラスチックシートの上下表面ともにかかっている。より詳細には,熱可塑性プラスチックシート20の上表面は切り口を付ける工具16に,下表面は溝24により変形される。FIG.4に示されるように,操作の際には溝の高い位置は,熱可塑性プラスチックシートの折り目34に沿って薄いエリア30を作り出す。加えて,熱された切り口を付ける工具16がプラスチックを柔らかくするため,切り口を付ける工具によってプラスチックは溝24の低い部分又は谷に移動される。その結果,厚くなったエリア又は高い部分32が切り口を付ける工具16によって作られたくぼみと反対側の折り目34に沿ってプラスチックシートに形成される。そのような薄いエリア30と厚いエリア32がFIG.4において折り目34に沿って詳細に示されている。このようにして柔軟な折り目は切り口を付ける工具と溝のセットによって形成され,そのような折り目は複数の薄いエリアと厚いエリアがあり,それによって半製品の箱に十分な柔軟性と強度を与え,容易に折れるようにしている。」(3欄38ないし64行)

イ 甲2発明の内容

甲2の記載によれば,甲2発明は,複数の溝24をもつプレート22上に熱可塑性プラスチックシート20を載置し,上方より加熱した切り口を付ける工具16を近接させることにより,シート20に柔軟な折り目を付けるものである。そして,甲2には,シート20の上表面は,切り口を付ける工具16により変形されて,FIG.4に示されるような折り目34に沿った凹溝が形成され,下表面は,プレート22の溝24により変形されて,折り目線に沿って薄いエリア30と厚いエリア32とが交互に配列され,薄いエリア30が折り目線に対して傾いて配列された構成の熱可塑性プラスチックシートに関する発明が記載されていると認められる。このような構成により,十分な柔軟性と強度とをもち,容易に折り曲げられる熱可塑性プラスチックシートを得ることができる。

(3 ) 新規性の有無についての判断

ア 本件特許発明1について

(ア) 前記( 2)アの甲2の記載によれば,甲2のシート20の下表面に設けられた薄いエリア30は,プレート22の溝の高い位置に対応して形成されるものであり,溝の高い位置に沿ってシートが溶けて溝の谷に移動することによって形成されるから,薄いエリア30の最も低い箇所は,プレートの溝の高い位置に沿って形成されることになる。そして,溝の高い位置は折曲線に対して傾斜して配置されているから,薄いエリア30の最も低い箇所,すなわち底部は,折曲線形成方向に対して傾斜して形成されることになる。

ところで,本件特許発明1は,折曲性向上と強度維持のために,一つの面にシート厚が薄い凹部と厚い残部が設けられており,甲2発明においても折曲性向上と強度維持のために,下表面に薄いエリア30と厚いエリア32が設けられているから,厚みという点からみると,甲2発明の薄いエリア30が本件発明1の凹部に相当するものといえる。しかし,本件特許発明1の凹部の底部は,折曲線形成方向に沿って設けられているのに対し,甲2発明の凹部に相当する薄いエリア30の底部は,上記のとおり折曲線形成方向に対して傾斜しているから,甲2発明は,凹部の底部が折曲線形成方向に沿って設けられているとの構成を備えていない。したがって,本件特許発明1と甲2発明は,実質的に相違している。

(イ) これに対して,原告は,薄いエリア30の最も肉薄の部位は,厚い部位32を挟んで,折曲部形成方向すなわち折り目線34の方向に沿って設けられているから,甲2には,凹部の底部が折曲部形成方向に沿って設けられたシートの発明が記載されていると主張する(前記第3,1( 1)ア(イ) )。

しかし,前記( )のとおり,甲2発明において,薄いエリア30の底部は,折曲線形成方向に対して傾斜しているから,甲2には,凹部の底部が折曲部形成方向に沿って設けられたシートの発明が記載されているとは認められず,原告の上記主張は,採用することができない。(ウ)

以上のとおり,本件特許発明1と甲2発明は,相違点A-1において相違するから,実質的に相違するものであって,本件特許発明1には新規性が認められる。したがって,相違点A-2について検討するまでもなく,本件特許発明1と甲2発明とは,実質的に相違するものであって,本件特許発明1には新規性が認められるとした審決の判断に誤りはない。

イ

本件特許発明2ないし4について

本件特許発明2ないし4は,本件特許発明1の発明特定事項をすべて備え,更に加えて請求項2ないし4に記載された構成を発明特定事項として備えるものであり,本件特許発明1に新規性が認められることから,本件特許発明2ないし4にも新規性が認められ,本件特許発明2ないし4に新規性が認められるとした審決の判断に誤りはない。

ウ

本件特許発明5について

甲2発明において,熱可塑性プラスチックシート20に付けられる「折り目」は,シート20の上表面は,切り口を付ける工具16により変形され,下表面は,溝24により変形されるものと認められ,甲2には,本件特許発明5における突出部と切欠部とからなる「シート折曲部用形成刃」に相当するものに関する記載はない。したがって,本件特許発明5は,甲2に記載された発明ではなく,新規性が認められ,本件特許発明5に新規性が認められるとした審決の判断に誤りはない。

( )

以上によれば,取消事由1は理由がない。

進歩性に関する判断の誤り(取消事由2)について

( )

甲3ないし6の記載

甲3ないし6には,次のとおりの記載がある。

ア

甲3

「1

複合プラスチツクシートを折り曲げるに当り,この複合プラスチツクシートの折り曲げ線に相当する部分に直線状に断続して連なる切り込み溝を,これら切り込み溝の間に溝なし部分が介在するように形成し,これら切り込み溝にそつて前記複合プラスチツクシートを折り曲げ,前記切り込み溝を折り曲げ角度に応じて拡開させると共に前記切り込み溝に隣接する前記溝なし部分を折り曲げ部分の補強部分としてのリブとして存在させることを特徴とする複合プラスチツクシートの折り曲げ方法

(特許請

。」

求の範囲の請求項1)

「前記したシートを折り曲げ可能にするためには,該シートを好ましくは,冷間状態または加温状態で,ナイフの刃の形状になつているポンチ,または,たがね4を用いて,直線状に断続的に連なる断面がV字状になつている切り込み溝5を形成すればよく,該溝は,例えば,前記シートの厚さの75~80%程度の厚さとする。

前記切り込み溝5を断続的に形成するには,ポンチまたは,たがねの刃の部分に,例えば,1mmの長さの切欠部6を断続して設け,前記切り込み溝形成の際,ポンチ(たがね)を前記シートに圧接すれば,刃の部分が前記シートに食い込んで前記V状の切り込み溝5が形成されると同時に前記切欠部6は,前記シートに食い込まず,これによつて前記シートの各溝5の間は,溝が入らない状態の溝なし部分7として残される

(3欄27

。」

ないし42行)

「発明の効果)

(

この発明によれば,プラスチツク素材からなる複合シートは,折り曲げ線にそつて直線状に断続的に連なる切り込み溝と,溝なし部分とを交互に形成してなるものであるから,該複合シートを折り曲げるに当り,断続的に配列された前記切り込み溝が前記複合シートを折り曲げ易くさせると共に前記切り込み溝の間に介在する溝なし部分が前記切り込み溝によつて脆弱化された折り曲げ縁を補強し,これによつて折り曲げ加工の容易と複合シートの折り曲げ縁部分の補強とが行なわれ,特に,前記切り込み溝と溝なし部分との長さを相対的に調節すれば,複合シートの素材,厚さにより異なる折り曲げ抵抗に対し,折り曲げ加工ならびに強度保持に適切な両者の長さが選択でき,これによつて,折り曲げ加工度を高め,同時に複合シートの補強が可能となるという実用的効果を奏することができる(4欄

。」

26ないし43行)

第1図,第2図には,切り込み溝5と溝なし部分7との境界が,折り曲げの線に対して直角をなす様子が示されている。

イ

甲4

「非発泡のプラスチツクシートに折り曲げ線を形成した折り曲げ線入りプラスチツクシートにおいて,前記折り曲げ線を形成する凹溝の底部にその長さ方向にそつて凹凸を形成したことを特徴とする折り曲げ線入りプラスチツクシート

(実用新案登録請求の範囲)

。」

「本考案のプラスチツクシートを製造するためには,例えば第2,3図に示すように,刃先41を断続的に切り欠いて得られた凹凸42を形成した罫線刃4と,平坦な受け台5との間でプラスチツクシート2を挾圧することにより,プラスチツクシートの表面に凹溝11および凹凸3が同時に形成される

(3欄31ないし37行)

。」

「考案の効果)

(

本考案は,非発泡のプラスチツクシートに折り曲げ線を形成した折り曲げ線入りプラスチツクシートにおいて,前記折り曲げ線を形成する凹溝の底部にその長さ方向にそつて凹凸を形成したことを特徴とする折り曲げ線入りプラスチツクシートであるから,浅い部分で強度を保ち,深い部分で柔軟性を発揮することにより,折り曲げのときに破れ難く,しかも折り曲げにより生ずる歪や弾性力が小さくなるので,折り曲げ角度が正確になり,組み立て後の平面性が良好となる。」(4欄17ないし27行)第1図には,凹凸の境界が,折り曲げ線に対して直角をなす様子が示されている。

ウ 甲5

「折り曲げ罫線を設けた複合プラスチックシート材において,前記罫線の深さを,罫線加工時の刃入れ側のプラスチックフィルムの厚さより深く形成するとともに,罫線長さ方向に対して2段階以上とし,罫線の深い部分の深さをシート材の全体厚さの60~100%,浅い部分の深さを20~95%としたことを特徴とする折り曲げ罫線入り複合プラスチックシート材。」(特許請求の範囲の請求項1)

「【0015】図1乃至図3に示すように,上記複合プラスチックシート材1に設けられる折り曲げ用の罫線10は,上記プラスチックフィルム2側から罫線刃を入れて形成されたもので,その深さは,刃入れ側のプラスチックフィルム2の厚さより深く形成され,罫線長さ方向に深い部分(深溝部)11と浅い部分(浅溝部)12とが交互に適当間隔で設けられている。」(3欄11ないし17行)

図1には,深溝部と浅溝部の境界が,折り曲げ線に対して直角をなす様子が示されている。

エ 甲6

「プラスチックシートの両面から折り曲げ罫線となる凹溝を形成するとともに,少なくとも片面からの凹溝には,長手方向に浅い部分と深い部分とを形成したことを特徴とする折り曲げ罫線入りプラスチックシート。」(特許請求の範囲の請求項1)

(2 ) 本件特許発明の容易想到性の有無についての判断

ア 本件特許発明1について

(ア) 甲3ないし5の記載によれば,甲3ないし5記載の発明は,いずれも折曲性の向上にかかわる発明であって,折曲部に,シート厚の薄い溝の部分と,補強のためのシート厚の厚い部分を,折曲部を形成する刃によって交互に設けたものである。そのため,厚みという点からみると,薄い部分が本件特許発明1の凹部に,厚い部分が残部に相当するが,薄い部分と厚い部分の境界線は,折曲部形成方向に対して直角に形成されている。

他方,甲2には,前記1( 2)のとおり,シート上表面は,切り口を付ける工具16により変形されて,折り目34に沿った凹溝が形成され,シート下表面は,プレート22の溝24により変形されて,折り目線に沿って薄いエリア30と厚いエリア32とが,交互に配列され,薄いエリア30が折り目線に対して傾いて配列した構成の,熱可塑性プラスチックシートに関する発明が記載されている。

そのため,この甲2発明の折曲部に関する形状を,甲3ないし5に示された,罫線刃で折曲部を形成する発明に適用しようとしても,甲3ないし5の発明は,シートの一方から罫線刃で切り込みを入れるものであるから,甲2発明のように上表面と下表面に折曲部を形成することは,そのままの構成では不可能であって,容易であるということはできない。

(イ) また,仮に,甲2発明の上表面に関する構成を省き,甲2発明の下表面の折曲部の形状を甲3ないし5の発明と組み合わせることを想定してみても,次のとおり,本件特許発明1に想到するのは容易とはいえない。すなわち,甲2発明によるシートは,薄いエリア30と厚いエリア32が,プレート22の溝24によりシートが変形することによって形成されるから,薄いエリア30の伸びる方向とその底部が伸びる方向は必然的に一致し,薄いエリアと厚いエリアの境界線を折曲部に対して傾斜させながら,なおかつ薄いエリアの底部を折曲部に沿った方向とすることは不可能である。そうすると,甲2においては,薄いエリアと厚いエリアの境界線と,薄いエリアの底部の伸びる方向が一致する場合のみが想定されており,甲2から,薄いエリアと厚いエリアの境界線が折曲部に対して傾斜しつつ,薄いエリアの底部を折曲部に沿った方向とするという着想に至るのは容易ではない。甲2発明のシート形状のうち,薄いエリア30における底部を切り離して,残余の部分(形状)のみを用いて甲3ないし5の発明と組み合わせることが合理的に示唆されていると解することもできない。したがって,甲2発明の下表面の折曲部の形状を甲3ないし5の発明と組み合わせることによって本件特許発明1に想到するのは容易ではない。

(ウ)

以上によれば,甲2と甲3ないし5から本件特許発明1に想到することは容易ではないし,甲6を考慮に入れても,本件特許発明1に想到することが容易であるとは認められない。

イ

本件特許発明2ないし4について

本件特許発明2ないし4は,本件特許発明1の発明特定事項をすべて備え,更に加えて請求項2ないし4に記載された構成を発明特定事項として備えるものであり,本件特許発明1に進歩性が認められることから,本件特許発明2ないし4にも進歩性が認められ,本件特許発明2ないし4に進歩性が認められるとした審決の判断に誤りはない。

ウ

本件特許発明5について

本件特許発明5は,本件特許発明1のシートを作成するためのシート折曲部用形成刃の発明であり,本件特許発明1に進歩性が認められることから,本件特許発明5にも進歩性が認められる。したがって,本件特許発明5に進歩性が認められるとした審決の判断に誤りはない。

(3 ) 以上によれば,取消事由2は理由がない。

36条6項1号に関する判断の誤り(取消事由3)について

原告は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件特許発明の「残部」は,シートを折り曲げたときに残部が互いに当接することがないように,残部の水平方向の厚さが薄いことが必要であり,残部の大部分が当接してしまうような水平方向に厚い残部は,これに含まれないとして,「残部」という要件を含む請求項1ないし5に記載された発明は,発明の効果を奏する範囲を超えた不当に広い技術的範囲となっており,発明の詳細な説明に記載されたものではないと主張する(前記第3,3)。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

(1 ) 本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載

本件訂正明細書の発明の詳細な説明のうち,残部又はこれに相当するものに関する記載をみると,次のとおりである

「【0007】つまり,例えば,従来例3のシートにあっては,補強リブが凹溝に垂直に(折曲方向に沿って)形成されてなるものゆえに,凹溝側にシートを折り曲げた際には補強リブ自体が当接しあい,シートの折曲げを阻害し,折曲性に欠けるという問題を有し,折曲性を確保すべく補強リブを小さくすると,シートの強度が得られないという問題を有していた。」「【0010】該構成からなる本発明に係るシートにあっては,シート体10を折曲部12に沿って折曲方向Xに曲げた際に,両側の境界線18が同一側で傾斜した残部16は捩じれた状態となるので,互いに当接することもなく,また残部16に引き裂き方向に力が生じても,残部16の境界線18が傾斜してなるので前記引き裂き方向の力は分散され,残部16の破損を防止することができる。」

「【0012】また,凹部14と残部16との境界線18は,折曲部形成方向Yに対して5度以上で傾斜せしめることが好ましく,これにより折曲部12の形成が容易であるという利点を有する。・・・

一方,該傾斜角度は60度以内であることが好ましく,これによりシート体10の強度を十分に発揮せしめることができる。」

「【0013】・・・しかも,残部16を折曲部形成方向Yの長さL2がシートの肉厚Hの0.3倍以上となるよう残存させることが好ましい。・・・さらに,残部16を折曲部形成方向Yの長さL2がシートの肉厚Hの3倍以下となるよう残存させることが好ましい。・・・

なお,シートの折曲性及び強度を調整するには,境界線18の折曲部形成方向Yに対する傾斜角度,凹部14の折曲部形成方向Yの長さL1,残部16の折曲部形成方向Yの長さL2,凹部14の深さ,残部16の肉厚等により変更することができ,上記数値は,シートの肉厚及び材質,並びにシートの用途に応じて決定されることとなる。」

( 2) 判断

上記の発明の詳細な説明の記載によれば,課題を解決するため手段として記載された【0010】では,「両側の境界線18が同一側で傾斜した残部16は捩じれた状態となるので,互いに当接することもなく」とされている。しかし,残部は折曲部を横断するように配置され(折曲線を中心線としてその左右にわたるように配置される。),ある幅をもって形成されるから,折曲線を挟んでその左右がまったく当接しないということはありない。そして,【0007】に,従来例のように「補強リブが凹溝に垂直に形成され」たような場合,シートを折り曲げた際に折曲線を挟んで補強リブの左右が全面的に当接してしまうという従来例の問題点が記載されていることからすると,上記の【0010】の記載は,このような従来例の問題点に対応して記載されていると解される。

そうすると,【0010】の「互いに当接することもなく」ということは,折曲線を挟んだ残部が全面的に当接するものでないことを意味するにとどまり,まったく当接しないことを意味するものと解すべきではない。そして,残部が有意に傾斜していれば,当接する部分が存在するとしても,当接しない部分も必然的に生じ,その当接しない部分が折り曲げ易さに貢献するといえるので,発明の詳細な説明に記載された「残部が当接しない」ことによる効果は生じるものである。また,【0013】に記載されたように,折曲部形成方向Yに対する傾斜角度や残部の肉厚等は,シートの肉厚及び材質,並びにシートの用途に応じて適宜決定されるべきものであり,一義的な特定はできないものと認められる。

これらの事情を考慮すると,発明の詳細な説明には,残部が傾斜していることによる効果が記載されている。その効果を生ずるための最低限の構成は,残部の境界線が,(有意に)傾斜していることであると理解できる。そして,「(有意に)傾斜した境界線」の構成が請求項に特定されていれば,請求項に係る発明と,発明の詳細な説明に記載された効果を生ずるものが対応しているといえるので,更にそれに加えて「残部の肉厚」等を請求項で特定していないとしても,請求項に記載された発明は発明の詳細な説明に記載されたものであると認められる。

請求項1ないし5には,境界線(請求項1ないし4。ただし,請求項4は請求項1ないし3を引用する。)又は壁部(請求項5。後記4( 2)イのとおり,壁部について「傾斜」という概念を用いることはできる。)が傾斜していることが記載されているから,請求項1ないし5に記載された発明(本件特許発明)は発明の詳細な説明に記載されたものであると認められ,36条6項1号を充足しているものと認められる。

したがって,原告の前記主張は採用することができず,取消事由3は理由がない。

36条6項2号に関する判断の誤り(取消事由4)について

原告は,本件特許発明の「境界線」の意味が不明確である旨主張する(前記第3,4( 1 ) )。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

(1 ) 特許請求の範囲の記載,発明の詳細な説明の記載

ア 特許請求の範囲の記載の文言の解釈

請求項1において,「境界線」は,「凹部(14)と残部(16)との境界線(18)」とされており,その文言からすると,凹部と残部の間に形成される線を意味しているものと認められる。

イ 発明の詳細な説明の記載

(ア) 本件訂正明細書には,「上記形成刃により,該シート体10には,刃本体20の突出部24によって所定間隔ごとに複数の凹部14が穿設され,該凹部14の間には平面視平行四辺形の残部16(刃本体20の切欠部26に相当する箇所)が残存され,該凹部14と残部16とにより前記折曲部12は構成されてなる。」(【0022】),「また,凹部14は,図3(イ)に示すように平面視平行四辺形の形状に形成されてなり,これにより凹部14と残部16との複数の境界線18は,何れも平行な直線として形成されてなる。ここで,該境界線18は,折曲部形成方向Yに対して30度(図で示すθ)で傾斜せしめてなる。」(【0024】),「また,上記何れの実施形態においても,境界線18によって凹部14と残部16とが明確に仕切られ,境界線18がシート体10の表面上より明確に線となり表れている場合について説明したが・・・」(【0033】)と記載されており,シート体を表面から見た様子をもとに境界線を認識する前提で,発明の内容が説明されている。そうすると,本件特許発明1において,境界線は,二次元的に,すなわち平面視で観察し,認識すべきものである。

(イ) 本件訂正明細書には,残部との間に境界線を形成する凹部の形成について,次のとおりの記載がある。

「【0020】本実施形態の形成刃は上記構成からなり,上記形成刃によってシート体10に折曲部12を形成するには,まずシート体10を平坦な台の上に載置せしめておき,この台上のシート体10に前記形成刃を上方より押圧せしめることによって行われる。・・・」

「【0021】・・・上記形成刃による押圧は,刃本体20の突出部24の先端が0.15mmだけシート体10内部に入り込むように押圧した場合を例にとって説明する。」

「【0022】上記形成刃により,該シート体10には,刃本体20の突出部24によって所定間隔ごとに複数の凹部14が穿設され,該凹部14の間には平面視平行四辺形の残部16(刃本体20の切欠部26に相当する箇所)が残存され,該凹部14と残部16とにより前記折曲部12は構成されてなる。」

( 2) 判断

ア 上記のように,本件特許発明1における凹部は,形成刃が押圧されてシートに入り込むことにより形成されることが想定されているから,形成刃が入り込んだ,多少でもくぼんだ部位が凹部であるとみるのが相当である。そして,形成刃が入り込んでいない部分は,元のシート厚がそのまま残っているから,本来のシート厚に相当するシートの最も厚い部分が残部で,シートの厚みが減少し始める部位が,残部における端縁ということになり,平面視の場合,この端縁が残部と凹部の境界線として認識されることになる。そうすると,残部はシート厚がそのまま維持されている部分であり,凹部と残部の境界線は,シートの厚みが多少でも減少し始める箇所の線分を意味すると認められる。

なお,本件訂正明細書には,「つまり,残部16は,シートの厚みをそのまま残存させるものに限定されるものでなく,例えば図4に示すように凹部14より浅い凹みを有し,凹部14よりもシートの厚みが残存されているものも本発明の意図する範囲である。・・・」(【0028】)と記載されており,シート厚より残部が薄いことも排除されていない。したがって,残部がシート厚と必ずしも同じ厚みである必要はなく,平面視において,残部の最も厚い部分からシートの厚みが減少し始める箇所の線分が境界線になるとするのが相当である。

以上によれば,本件特許発明1(請求項1)の「境界線」の意義は明確であるものと認められる。

審決は,本件特許発明1のシートにおける凹部と残部との「境界線」は,第一義的には,シートの折曲部の表面に表れている凹部と残部との境界をなす線として認識するのが技術的に合理的であり,具体的には,折曲部のベース平面をなす「残部」が凹部の底部に向かって変形を開始する線分(凹部空間形成開始線)として認識するのが相当であるとし,上記と同旨の前提にたって,「境界線」の意義は明確であるとしているものであるから(前記第2,3( 2)カ(ア)a),審決の判断に誤りはない。

そして,「境界線」の意義が明確であることから,本件特許発明の「鋭角」,「傾斜せしめ」という文言の意義も明確であるものと認められる。

イ 原告は,境界線が曲線の場合,接線は無限にあり得るから,境界線の傾きを決めることはできず,審決が,所定の接線をもって直線におけると同様の数式処理を行うのが慣用の方法であるとしたことは誤りであると主張する(前記第3,4( 2 ) )。しかし,本件訂正明細書の図7の例のように,境界線と折曲部の底部の直線(折曲線)の交点における接線を考えることなどにより,全体的に見て境界線の傾きを認識することができるから,審決が,そのような接線をもって直線におけると同様の数式処理を行うのが慣用の方法であるとしたことは誤りではなく,原告の主張は,採用することができない。

また,原告は,審決が,「境界線」が折曲部形成方向に対して直角でなければ,残部16に生ずる引き裂き方向の力は分散され,残部16の破損を防止することができるとしたことについて,境界線の傾斜は,作用効果を奏するようなものでなければならないから,境界線が折曲形成方向となす角度が直角でなければ何度でも構わないという審決の判断は誤りであると主張する(前記第3,4( 3) )。しかし,前記3( 2)のとおり,境界線の折曲部形成方向Yに対する傾斜角度は,一義的に特定することはできず,有意に傾斜していれば,発明の詳細な説明に記載された「残部が当接しない」ことによる効果は生じるから,審決の判断に誤りはなく,原告の主張は,採用することはできない。

さらに,原告は,審決が,「境界線」の形状に対応する形状となる本件特許発明5のシート折曲部用形成刃の「切欠部(26)の両側の壁部(18)」についても,「鋭角」や「傾斜」という概念を用いることに何らの不都合もないとしたことについて,「線」である「境界線18」と「面」である「壁部18」は対応するはずがなく,また曲線又は曲面の傾きは定義できないから,請求項5についての審決の判断は誤りである旨主張する(前記第3,4( 4) )。確かに「壁部」という語は面を指すが,前記( 1)イ(ア)のとおり,本件明細書では,境界線について,平面視で把握される形状を取り上げているから,境界線を形成するための形成刃の「壁部」についても,その境界線に対応した平面視における形状を把握すべきであり,その形状は,当然,認識し得るものである。そして,境界線が曲線であっても傾斜を特定できるのは,既に述べたとおりである。したがって,審決が,「境界線」の形状に対応する形状となる本件特許発明5のシート折曲部用形成刃の「切欠部(26)の両側の壁部(18)」についても「鋭角」や「傾斜」という概念を用いることに何らの不都合もないとしたことに誤りはなく,原告の主張は,採用することができない。

ウ 以上によれば,本件特許発明は明確であり,審決の36条6項2号に関する判断に誤りはなく,取消事由4は理由がない。

結論

以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告はその他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

飯村敏明

裁判官

中平健

裁判官

上田洋幸

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/36965/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。