主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人林千衛の上告理由一について
原判決理由の説示に照らし、原判決に所論判断遺脱の違法があるとは認められない。論旨は、採用することができない。
同二について
偽造手形を振り出した者は、手形法八条の類推適用により手形上の責任を負うべきものであることは、当裁判所の判例とするところであるが(最高裁昭和四三年(オ)第九四二号同四九年六月二八日第二小法廷判決・民集二八巻五号六五五頁)、その趣旨は、善意の手形所持人を保護し、取引の安全に資するためにほかならないものであるから、手形が偽造されたものであることを知つてこれを取得した所持人に対しては、手形法八条の規定を類推適用する余地なく、手形偽造者は、右所持人に対して手形上の責任を負わないものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原審が適法に確定した事実によれば、被上告人は、Dに無断でみずから同人の印章を押捺しあるいは他人をして押捺せしめて所論の約束手形を振り出したものであるが、上告人は、被上告人がDに無断で右約束手形を振り出すことを知つてこれを取得したというのであるから、右事実関係のもとで、被上告人が上告人に対して右約束手形につき手形上の責任を負うべきいわれはないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例(最高裁昭和三二年(オ)第九二六号同三三年三月二〇日第一小法廷判決・民集一二巻四号五八三頁)は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。
同三について
本件記録に現われた訴訟の経過に照らせば、原審に所論審理不尽の違法はなく、論旨は、採用することができない。
同四について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 栗本一夫
裁判官 木下忠良
裁判官 塚本重頼
裁判官 鹽野宜慶
裁判官 宮崎梧一
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/53365/detail2/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。