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地裁判決

奈良地判 平成16年5月26日

平成14年(行ウ)第13号 収用裁決等取消請求事件

裁判所
奈良地方裁判所民事部
裁判年月日
平成16年5月26日 (2004-05-26)
事件番号
平成14年(行ウ)第13号
事件名
収用裁決等取消請求事件
裁判の種類・結果
判決
判例集等
訟月51巻5号1292頁
分野
行政

主文

1 本件訴えのうち,明渡裁決の取消しを求める部分を却下する。

2 原告らのその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1 請求

被告が平成14年4月24日付でした収用裁決(奈収12(裁)第3号)及び明渡裁決(奈収12(明)第3号)を取り消す。

第2 事案の概要

1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により認める事実)

(1) 原告ら

ア 原告Aは,宗教法人法隆寺から同法人所有の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を含む土地を建物所有目的で賃借し,本件土地上に建物を建築し,同建物で「N食堂」という名で食堂及び土産物の販売等を行うとともに家族と居住していた。N食堂のおおよその位置は,別紙第2図(略)の赤線で囲まれた部分である。

イ 平成6年に,原告会社が設立されるに伴い,N食堂の営業は,原告会社名義で行われている。

(2) 事業認可

ア 奈良県は,奈良県生駒郡斑鳩町法隆寺B丁目G番D及びH番Iの国道25号線を起点として,同町法隆寺B丁目J番K及びL番Kの町道と接する点を終点とする,延長365メートル,幅員52メートルの都市計画道路(以下「法隆寺門前線」あるいは単に「本件道路」という。)の事業を計画した(以下「本件事業」という。)。

法隆寺門前線のおおよその位置は,別紙第2図の青線で囲まれた範囲の部分である。

イ 本件事業につき,建設大臣は,法隆寺門前線の全区画につき,昭和45年7月2日,都市計画法に基づく都市計画事業として,事業認可したことを告示し,その後,何回かの変更認可の告示があり,最終的には平成13年3月30日に,国土交通大臣から委任を受けた近畿地方整備局長の変更認可の告示があり,事業施行期間は,平成16年3月31日までとなった(この事業認可を「本件事業認可処分」又は単に「本件事業認可」という。)。

ウ 本件土地は,法隆寺門前線の計画区域内に含まれていた。

(3) 本件事業の施行

奈良県は,昭和45年度から,本件事業に着手し,平成11年頃までに,本件土地から南側の部分(事業認可延長365メートルのうち,国道25号線から310メートルの区間)の工事を完了し,その道路としての供用を開始したが,本件土地を含めその北側の南大門までの55メートルの区間(以下「本件北側部分」という。)の工事は,原告らとの間の買収交渉等が難航して,未完成である(この未完成部分を以下「本件未完成部分」という。)。

奈良県が本件未完成部分で計画している工事内容等は,別紙第3図(略)のとおりである。

(4) 収用裁決等

被告は,起業者である奈良県の申請に基づき,平成14年4月24日付で,原告Aを借地権者兼関係人とし,原告会社を関係人とする次の各裁決(以下「本件各裁決」という。)をした。

ア 収用裁決(奈収12(裁)第3号)(以下「本件収用裁決」という。)

(ア) 収用する権利の目的となる土地

本件土地

(イ) 収用する権利の種類及び内容

種類借地権

内容建物の所有を目的とした土地の賃借権

(ウ) 損失の補償

借地権者である原告Aに対し,3542万1343円

(エ) 権利取得の時期

平成14年12月24日

イ 明渡裁決(奈収12(明)第3号)(以下「本件明渡裁決」という。)

(ア) 明け渡すべき土地の区域

本件土地

(イ) 損失の補償

物件所有者である原告Aに対し,7383万3239円

ただし,建物賃借権者兼物件所有者である原告会社に対する損失の

補償を含む。

(ウ) 明渡の時期

平成14年12月24日

(5) 本件明渡裁決の行政代執行

奈良県知事は,原告らが,本件明渡裁決の明渡期限である平成14年12月24日を過ぎても,本件土地を明け渡さなかったので,平成15年12月18日,原告らに戒告をした上,平成16年2月4日,代執行に着手し,同月9日これを完了した。

2 被告の本案前の主張

本件明渡裁決に基づく行政代執行により明渡が完了したことにより,原告らの明渡義務が消滅した。そして,原告らがその原状回復を求めるためには,その前提となる本件収用裁決の取消しを求めれば足りる。したがって,本件訴えのうち本件明渡裁決の取消しを求める部分は,訴えの利益を欠き,不適法である。

3 原告ら主張の本件各裁決の取消理由

本件各裁決及びその前提となった本件事業認可処分(本件事業認可処分の違法は本件各裁決の違法をもたらす。)には次のとおりの瑕疵があり,本件各裁決は取り消されるべきである。

(1) 憲法89条前段違反

法隆寺は,聖徳宗の総本山であり,聖徳太子の仏教思想を要諦とする教理を有し,法隆寺求道会などを主催して信仰を広める「宗教上の組織若しくは団体」である。

法隆寺門前線は法隆寺の参道であり,専ら法隆寺に参拝する者のみが通行するための道路であって,宗教のための施設そのものである。特に,本件未完成部分は,自動車の出入りは予定されておらず,専ら法隆寺に参拝する者のみが徒歩で通行する道である。このような参道の整備のための公金の支出は,法隆寺の「使用,便益若しくは維持のため」の支出であり,憲法89条前段に違反する。

(2) 憲法20条1項後段違反

本件各裁決の目的,効果は,法隆寺の見栄えを良くし,法隆寺に参拝しやすいようにするところにあり,法隆寺に特別の利益を与えるものである。特に,本件未完成部分については,東西については法隆寺の金堂の東側から五重塔の西側の距離に会わせて,南北については法隆寺の大講堂から中門までの距離にあわせて,参道が敷設される予定であり,法隆寺の中核部分との一体性を強くした参道が造られる予定である。これはいわば,法隆寺の宗教施設の拡張である。

また,本件事業は,法隆寺の意向のもとに,法隆寺から寄付金を得て,公共団体と法隆寺が共同して計画したものである。

法隆寺が参道を整備しようとすれば,各借地権者と交渉すれば良いのである。しかるに,国家が,宗教団体の意向に影響されつつ,法隆寺の見栄えを良くするために,原告Aの本件土地の借地権を収用等する本件各裁決は,法隆寺に特権を与えるものであり,憲法20条1項後段に違反する。

(3) 都市計画法違反

本件事業認可の対象となる都市計画(本件事業)は,道路の幅員を法隆寺の金堂の東側から五重塔の西側の距離に等しくするという恣意的な計画を立てており,「健全な発展と秩序ある整備」を図っていないばかりでなく,「自然的環境の整備又は保全」に配慮しておらず,都市計画法13条に違反し,また,法隆寺の門前整備であって,同法61条1項前段の要件を備えていない。

さらに,本件事業のうち,既に完成し供用開始された部分で,交通渋滞が解消されており,すでに,その事業を続行する必要性がないのに,平成13年3月30日になされた事業施行期間を平成16年3月31日までとする事業計画変更の認可は,同法63条2項に違反する。

(4) 土地収用法違反

都市計画法70条1項は,都市計画事業については,土地収用法20条の規定による事業の認定は行わず,59条の規定による認可又は承認をもってこれに代えるものとする旨規定しているが,都市計画事業で土地収用法に基づく収用を行おうとする場合は,その収用が土地収用法20条の要件のすべてに該当する必要がある。

そして,人のみが通行する道は道路法所定の道路ではなく,土地収用の対象とすることはできないので,土地収用法20条1号に該当しない。本件事業の主目的は,空間の創造である。原告らの店舗は,100年間,法隆寺南大門の景観の一部として存在してきた。本件事業により失われるものは,原告らの店を利用する参拝客・観光客の利便,原告Aとその家族の生活基盤,及び失われる景観である。得られるものは,創造された空間である。空間の創造に,失われる原告らの私的利益ないし公共の利益を優越するような土地収用法の公益性はなく,土地収用法20条3号に該当しない。

(5) 手続上の瑕疵

ア 縦覧図書の違法

甲11(潰地(道路,河川)取纏表)は,本件事業認可における縦覧図書であり,同図書によれば,L番のDの土地が,本件道路の補償の対象としてあげられている。しかし,同土地は,本件道路内には存在しない。

また,本件事業は,法隆寺所有地については,すべて法隆寺の私有地のままで,法隆寺の私有地を利用して事業を実施することになっている。そして,「潰地(道路,河川)取纏表」において,昭和54年から平成元年度までは,本件土地以外は記載されていない(甲24の1~5)。しかし,平成4年以降,法隆寺の土地も収用される旨の記載がなされている(甲11,24の6~8)。

イ 告示の違法

(ア) 昭和50年3月31日付告示,昭和55年3月25日付告示,昭和58年3月15日付告示には,「大和都市計画道路事業3ー1ー720」と表示しており(甲13~15),本件事業である「大和都市計画道路事業3ー1ー270」を表示しているとはいえない。

(イ) 本件事業認可の変更の告示において,本件の事業地はすべて「収用」で実施し,「使用の部分なし」と記載されている(甲23)。

しかし,本件事業は,法隆寺所有地については,すべて法隆寺の私有

地のままで,法隆寺の私有地を利用して事業を実施することになっているのであり,上記告示の「使用の部分なし」との記載は,誤っている。

ウ 都市計画法60条3項4号違反

都市計画法60条3項4号に定められている行政機関の意見書として,文化庁の意見書の提出がない。

エ 都市計画法63条違反

本件事業は,「斑鳩町都市計画街路事業」として始まったが,現在は

「大和都市計画道路事業」となっている。しかるに,昭和45年当時に,都市計画法63条の変更がなされていない。

オ 事業施行期間の徒過

「斑鳩都市計画街路並びに街路事業」は,旧都市計画法により建設大臣の執行年度割の決定を受けている。執行年度割は,昭和44年度まで,すなわち,昭和45年3月末日までとなっている。

新都市計画法の経過措置の規定によれば,旧法による都市計画事業の執行年度割は,新都市計画法60条2項の事業施行期間に相当し,旧法による都市計画事業の事業施行期間を延長する場合は,新都市計画法63条の事業変更として取り扱わなければならない。

しかるに,施行者は,旧都市計画事業の執行年度割を経過した後,昭和45年7月2日になって,全く同様の内容の事業に関し,本件事業認可を受けている。

都市計画法61条1号は,適切な事業施行期間を要求しているのであるから,事業施行期間内に変更の手続がなされず,事業施行期間が終了した場合は,実質的にも事業は終了すべきである。事業施行期間経過後も同じ事業について事業を継続できるのであれば,法が適切な事業施行期間を定めた意味が失われてしまう。

したがって,本件事業認可は,事業施行期間が適切であることを要求する都市計画法61条1号を潜脱するものであり,手続の瑕疵により無効である。

第3 当裁判所の判断

(被告の本案前の主張)

本件明渡裁決に基づく行政代執行により明渡が完了したことにより,本件明渡裁決の目的は達成し,本件明渡裁決により原告らがそれ以上に何らの義務を負うことはなくなったものである。そして,原告らが,上記明渡につき原状回復を求めるためには,本件収用裁決を争えば足りる。したがって,原告らにおいて,本件明渡裁決の取消しを求める訴えの利益は消滅した。

(原告ら主張の本件収用裁決の取消理由)

1 事実関係

証拠(甲1,2,17,18,19,22,28,29,32,33,乙4~13,22,27,28,34,35(いずれも枝番を含む。),原告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(1) 法隆寺の性格等

法隆寺は,飛鳥時代の姿を現在に伝える世界最古の木造建築として広く知られており,平成5年にも,ユネスコの世界文化遺産として日本で初めて登録されるなど,世界的な仏教文化の宝庫として人々の注目を集めている。このように法隆寺は,宗教施設であるとともに世界文化遺産として観光の対象ともなっている。そして,法隆寺を訪れる拝観者数も年々増加し,平成8年には年間拝観者数は約88万人にも上り,その後,平成9年は約79万人,平成10年は約72万人,平成11年は約68万人,平成12年は約65万人と逓減傾向にある。

(2) 本件事業の目的等

ア 奈良県が本件事業を計画した当時,斑鳩町自体が歴史的風土として,その風致を維持し,かつ歴史的風土を保存するためには,人口の高密化を抑制する必要があり,特に国道25号線以北はほとんどが歴史的風土保存区域,風致地区であり,自然景観の維持に努める必要があったにもかかわらず,本件道路の交通状況は,法隆寺拝観者が年々増加傾向にあり,中でもタクシーや自家用自動車を利用する者が増加したことにより,連日車両ででごった返し,人身に危険を伴い,かつ,自然風致を著しく阻害している状況にあった。そして,観光客のこれら自動車が周辺町道等にも駐車するなど,周辺の町道にまで交通渋滞が及んでいた。

イ 本件事業を計画した当時の本件北側部分の道路も,車両通行区分と歩行者通行区分の別はなく,その北端では町道132号線と213号線が接続しており(別紙第4図(略)参照),その各町道は車両の乗り入れが禁止されていなかったため,上記の各町道から進入してきた車両と歩行者とが接触する危険性があった。一般の拝観者にとって法隆寺の入口は,南大門であり,歩行者が南大門に集中する傾向にあった。

ウ 本件事業は,交通量の増加等に対処し,上記の弊害を緩和するため,「法隆寺を訪れる参拝客・観光客の交通安全と法隆寺参拝・観光を目的とした車両交通の混雑緩和及び周辺道路の円滑な交通の確保並びに観光資源としての法隆寺周辺の環境整備」を目的として計画されたものである。そして,南大門前となる本件北側部分については,歩行者の混雑が生じやすい場所であることにかんがみ,歩行者の交通安全の観点から車両の乗り入れが禁止された。

(3) 本件道路の現状等

ア 本件道路は,別紙第2,第4図のとおり,北端で法隆寺と接しているが,その東西両側面は,法隆寺B丁目の集落であり,斑鳩町営の駐車場のほか複数の民家,商店,個人医院及び駐車場等が存在するほか,東方向あるいは西方向へと通じる複数の道路と交差している。

そして,本件道路の北端は,前記のとおり,西方向は町道132号線と接続し,東方向は町道213号線と接続しており,うち同町道213号線の南側面には法隆寺B丁目D番F号から同E番M号に至る複数の民家が存在するほか,その東方先には,「三町地区」と呼称される法隆寺E丁目等の集落が存在し,町道132号線の西方先にも「西里地区」と呼称される法隆寺西B丁目等の集落が存在する。

なお,本件事業の計画の過程で,一時期上記各町道の廃止を検討した時期があったが,昭和45年7月29日,斑鳩町都市計画審議会において,車両の通行は制限するものの上記各町道を存続させる旨表明され,上記各町道は存続し続け,斑鳩町が上記各町道の舗装工事を施行している。

町道202号線(別紙第4図参照)の西方延長道路が完成しているが,この道路は,一部区間を除き,車両通行区分と歩行者通行区分との別が設けられていないのであり,車両の通行が禁止されている町道213号線と132号線は,歩行者が安全に通行できる道路としての必要性は消滅していない。

イ また,本件北側部分には,斑鳩町水道部が管理する配水管が東西に横断しているほか,近隣の田畑に水を供給するための農業用水路も東西に横断しており,同用水路の管理に不可欠な会所も存在する。

ウ なお,法隆寺境内は南大門より奥に位置し,同境内敷地の境界は南大門及びこれに続く土塀によって外観上明確に区画され,法隆寺境内への立入りの許諾等は南大門の開閉によって管理されている。本件道路は,南大門以南に位置しており,外観上も,上記境内敷地とは明確に峻別されている。

エ 現在,本件道路は本件北側部分を残し,完成しているが,本件土地上の建物のため,歩行者は,車両が通行している町道202号線付近で曲がりくねった通行をせざるを得ないのであり(本件土地上の建物の裏側を通行しても同様である。),本件北側部分についても,本件計画を続行する必要性はなお消滅していない。

2 原告ら主張の取消理由(1)(憲法89条前段違反),同(2)(憲法20条1項後段違反)について

ア 本件事業の目的は,前記認定のとおり,「法隆寺を訪れる参拝客・観光客の交通安全と法隆寺参拝・観光を目的とした車両交通の混雑緩和及び周辺道路の円滑な交通の確保並びに観光資源としての法隆寺周辺の環境整備」である。ところで,法隆寺は,前記認定のとおり,宗教施設であるとともに世界文化遺産として観光の対象ともなっているのであり,その拝観者の中には,宗教上の信仰をもって訪れる人もいる一方で,世界文化遺産としての敬意を抱いているものの,宗教上の信仰とは無関係に,観光の目的で訪れるものも少なくないことは弁論の全趣旨により明らかである。このような拝観者のための事業への公金の支出が,則,宗教団体への公金の支出と評価できないことは明らかである。観光資源としての法隆寺周辺の環境整備も,宗教団体への公金の支出に当たるとも評価することができない。

イ また,法隆寺境内は南大門より奥に位置し,同境内敷地の境界は南大門及びこれに続く土塀によって外観上明確に区画され,法隆寺境内への立入りの許諾等は南大門の開閉によって管理されており,本件道路は,南大門以南に位置しており,外観上も,上記境内敷地とは明確に峻別されていること,本件道路の北端は,前記のとおり,西方向は町道132号線と接続し,東方向は町道213号線と接続しており,これら町道の必要性は現在も消滅していないこと等の前記認定事実を総合すれば,本件道路は,宗教団体である法隆寺の宗教施設であるということもできない。

ウ なお,原告らは,本件事業は,法隆寺の見栄えを良くするためのものでしかすぎない旨主張するが,その主張が採用できないことは,前記認定事実に照らし明らかである。

さらに,原告らは,本件事業は,法隆寺の意向のもとに,法隆寺から寄付金を得て,公共団体と法隆寺とが共同して計画したものである旨主張する。しかし,法隆寺から斑鳩町(本件事業の起業者ではない。)が寄付金を得ているものの(甲17),本件事業により,いわば反射的な利益を得る法隆寺から寄付金を得たことをもって,ただちに,本件事業が法隆寺と公共団体との共同事業であるとすることはできない。

また,原告らは,本件未完成部分については,東西については法隆寺の金堂の東側から五重塔の西側の距離に会わせて,南北については法隆寺の大講堂から中門までの距離にあわせて,参道が敷設される予定である旨主張するが,その事実から直ちに,法隆寺の中核部分との一体性を強くした道路であるとまで評価することができない。

エ 以上のとおりであり,本件事業は,憲法89条前段,20条1項後段に違反するものではない。

3 原告ら主張の取消理由(3)(都市計画法違反)について

この点に関する原告らの主張が理由がないことは,前記認定事実に照らし,明らかである。

4 原告ら主張の取消理由(4)(土地収用法違反)について

都市計画法70条1項は,都市計画事業については,土地収用法20条の規定による事業の認定は行わず,第59条の規定による認可又は承認をもってこれに代えるものとする旨規定しているのであり,都市計画事業で土地収用法に基づく収用を行おうとする場合は,上記認可又は承認のほかに,土地収用法20条の要件のすべてに該当する必要があるということはできない。

さらに,人のみが通行する道も,道路法所定の道路となりうることは,当時の道路法でも,現在の道路法でも,その定義から明らかであり,また,本件北側部分の工事の続行をする必要性があることは,前記認定事実から明らかである。この点に関する原告らの主張は,いずれにしても理由がない。

5 原告ら主張の取消理由(5)(手続上の瑕疵)について

(1) 縦覧図書の違法について

潰地取纏表は,土地の取得に必要と見込まれる概算金額とその内訳を記載したものであり,都市計画法62条2項に規定する縦覧図書に該当しないのであり,仮に,原告ら主張のとおりの誤り等があったとしても,その内容等に照らせば,本件事業認可処分を取り消すまでの瑕疵があったとすることはできない。

(2) 告示の違法について

(ア) 昭和50年3月31日付告示,昭和55年3月25日付告示,昭和58年3月15日付告示の「大和都市計画道路事業3ー1ー720」との表示は,「大和都市計画道路事業3ー1ー270」の誤記であることは明らかであるが,その点のみをとらえて,本件事業認可処分につき取り消すべき瑕疵があるということは到底できない。

(イ) 都市計画法60条2項1号は,事業計画は,事業地の土地利用の形態に応じて「収用」又は「使用」の別を定めなければならないとしているところ,その「収用」又は「使用」の区分基準は法定されていない。弁論の全趣旨によれば,実務上は,敷地所有権の収用を実際に行うか否かにかかわらず,敷地の利用が必要となる部分については「収用」とされるのに対し,例えば,道路の下に埋設された下水道施設等現状の土地利用形態を妨げることなく限定された空間利用にとどまる場合は「使用」と区別されていることが認められ,原告ら指摘の点をもって,本件事業認可処分に取り消すべき瑕疵があるとすることはできない。

(3) 都市計画法60条3項4号違反について

弁論の全趣旨によれば,本件事業の認可申請の際の図書が現存せず,本件事業に関する文化庁の意見書も現存しないことが認められる。しかしながら,証拠(乙20)によれば,奈良県知事は文化庁長官に対し昭和45年2月14日付で本件事業に関する現状変更等の許可の申請をし,同年9月16日付で文化庁長官からその許可を得たことが認められる。そして,本件事業認可の告示がなされたのは,同年7月2日付であったこと,都市計画法60条3項4号にいう「当該行政機関の意見書」とは,行政機関が許可等の処分をなす以前に作成する書面のことであること等を照らし合わせれば,本件事業認可申請の際には,文化庁の意見書を得てこれを添付していたと認めることができる。

この点に関する原告らの主張は採用できない。

(4) 都市計画法63条違反について

都市計画法63条が許可を受けるべきものとして要求している計画の変更は,事業地,設計の概要及び事業施行期間の変更のことであり,都市計画の事業名称自体の変更については,同条は許可を要するとしていない上,原告らが指摘する名称変更は,奈良県公報により,昭和45年12月28日付で告示されている(乙21)。

この点に関する原告らの主張は理由がない。

(5) 事業施行期間の徒過について

従前の都市計画事業につき,その施行期間経過後,これと同一内容の都市計画につき再度,事業認可を受けることを制限する法令は存在しないのであり,この点に関する原告らの主張は失当である。

6 以上のとおりであり,本件事業認可処分の違法が本件収用裁決の違法をもたらすと解するとしても,原告らの主張する本件収用裁決や本件事業認可処分の取消理由の主張は,いずれも理由がない。

第4 結論

以上のとおりであり,本件訴えのうち,本件明渡裁決の取消しを求める部分は不適法であるから却下し,その余の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用は原告らの負担とすることとして,主文のとおり判決する。

奈良地方裁判所民事部

裁判長裁判官東畑良雄

裁判官大澤晃

裁判官松阿彌隆は,転補のため,署名押印することができな

い。

裁判長裁判官 東畑良雄

物件目録

1 奈良県生駒郡斑鳩町B丁目C番D

境内地753平方メートル

(但し,登記簿上の表示による。実測面積は799.69平方メートル)上記土地のうち,別紙第1図(略)のX部分の土地455.54平方メートル

2 同所C番E

境内地138平方メートル

(但し,登記簿上の表示による。実測面積は105.80平方メートル)

3 同所C番F

境内地56平方メートル

(但し,登記簿上の表示による。実測面積は164.63平方メートル)上記土地のうち,別紙第1図のY,Z部分の土地38.62平方メートル

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/7364/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。
出典:「訟務重要判例集データベース」(法務省)(https://shoumudatabasep.moj.go.jp/hanreiSearch/HanreiSearch)を加工して作成(加工:TaiLexi AI)。訟務月報51巻5号1292頁。