主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人正木昊の上告趣意について。
所論判例違反の主張は、本件の場合における被告人と被害者Aとのいさかいが、当裁判所判例にいう「喧嘩」の範ちゆうに入らないことを前提とするものであつて、その理由とするところは、当裁判所の判例にいう「喧嘩」は、当事者双方に暴行の意思と、これを証すべき客観的事実のある場合に限られるのに、本件被告人は終始一貫して相手方の攻撃に対し受動的に防禦していたものであり、相手方すなわち本件被害者は、同人の偶然的な過失によつて死亡したのに過ぎないのであるから、これを相互の暴行を意味する「喧嘩」の範ちゆうに入れることは、当裁判所判例の濫用であり、違反であるというのである。しかし原判決は、その引用する証拠によつて、被告人が肥立万能でAに暴行を加え、心臓部刺創を与えて死に至らしめた事実を認定しているのであるから、所論は原判示に副わない事実を前提とする主張であつて、結局事実誤認を主張するに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。本件記録によれば、なるほど、いさかいの発端は、むしろ被害者が被告人を罵倒し拳固で被告人を突いて来たため、当初は被告人が守勢にあつたが、そのうち被告人も両手で相手方を押してゆき、被告人は本件肥立万能を手にした後も、相手方の突いて来るのを防禦するだけではなく、反つてその万能で相手方を押してゆくような攻撃に出ていたのであり、被告人及び被害者双方とも、相手を罵倒しながら押したり押されたりしているうち、遂に本件事故が発生したことが窺われるので、原判決がその引用する証拠を綜合して判示傷害致死の事実を認定したことは、誤認と認めがたく、本件の行為が判例にいう「喧嘩」の範ちゆうに属することは、疑のないところである。また記録を調べても、原審の量刑は著しく不当であるとは認めもれず、本件には刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
昭和三一年一一月二七日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 島保
裁判官 小林俊三
裁判官 垂水克己
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/75615/detail2/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。
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