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高裁判決原判決一部取消

名古屋高判 平成22年11月4日

平成22年(ネ)第94号 損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件

裁判所
名古屋高等裁判所民事第3部
裁判年月日
平成22年11月4日 (2010-11-04)
事件番号
平成22年(ネ)第94号
事件名
損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件
裁判の種類・結果
判決 原判決一部取消
判例集等
—
分野
民事
この事件の審級
  1. 第一審岐阜地判平成21・12・16(一部認容)
  2. 控訴審名古屋高判平成22・11・4(原判決一部取消)

判示事項

大学院修士課程に在籍していた中国人留学生の被控訴人(附帯控訴人)が,控訴人(附帯被控訴人)である研究指導教員から休学を強要されるなどのアカデミック・ハラスメントを受けたと主張し,同教員に対し損害賠償を求めた訴訟において,公共団体である国立大学法人に講師として雇用されて学生に対する教育活動をゆだねられた職員は国家賠償法1条1項の「公務員」に該当し,国立大学法人が被害者に対し損害賠償責任を負っている以上,職員個人が重ねて民事上の損害賠償責任を負うことはないとした事案

結果

控訴取消自判,附帯控訴棄却

原審結果一部認容

平成22年11月4日判決

名古屋高等裁判所

平成22年㨯第94号,同第473号

損害賠償請求控訴,同附帯控訴事件

(原審・岐阜地方裁判所平成19年㨯第91号)

主文

本件控訴に基づき,原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用のうち当審において生じた部分及び原審において控訴

人と被控訴人との間に生じた部分は被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1

当事者の求めた裁判

控訴人

主文同旨

被控訴人

㨯

本件控訴を棄却する。

㨯

原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。

控訴人は,被控訴人に対し,330万円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

㨯

訴訟費用は第1,2審とも控訴人の負担とする。

第2

事案の概要

本件は,被控訴人が,国立A大学大学院修士課程に在籍中,研究指導教員であった控訴人から休学を強要されるなどのアカデミックハラスメントを受けたとして,控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として928万0250円及びこれに対する不法行為の後である平成18年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原審が,被控訴人の請求を一部認容し,その余を棄却したところ,控訴人が控訴するとともに,被控訴人が前記のとおり不服申立の範囲を限定して附帯控訴した。

なお,被控訴人は,原審において,国立大学法人A大学に対し,民法715条,国家賠償法1条1項,在学契約に基づく債務不履行又は民法709条に基づく損害賠償請求を行い,原審で債務不履行に基づく損害賠償請求が一部認容され,その余の請求が棄却されたが,被控訴人及び国立大学法人A大学のいずれからも控訴がなく,両者間で原判決は確定した。

前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり当審における主要な争点及びこれに関する当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2

事案の概要」欄の1ないし3に記載のとおりであるか

ら,これを引用する(ただし,被控訴人の国立大学法人A大学に対する請求に関する部分を除く。)。

当審における主要な争点及びこれに関する当事者の主張

㨯

争点

控訴人が個人として損害賠償責任を負うか否か(国立大学法人の職員による職務行為に国家賠償法1条1項が適用されるか否か)。

㨯

控訴人の主張

本件で問題とされている控訴人の被控訴人に対する各行為は,指導の枠外での純然たる私的行為ではなく,あくまで控訴人が職務行為として行ったものであるから,国家賠償法1条1項の適用があり,控訴人は個人として被控訴人に対し損害賠償責任を負わない。

国立大学法人は,私立大学と異なり,実質的には旧国立大学時代と同様に公権力の強固な監督の下に運営されており,国立大学法人における教育活動が公権力の行使に当たるか否かについて,国立大学法人化を理由として解釈を異にするほどの実質的な変化は認められない。なお,被控訴人は国家賠償法の適用を否定する根拠として在学契約を挙げるが,被控訴人と国立大学法人A大学との間には,同大学法人が国から承継した入学措置が存在するのみで,在学契約は存在しない。

被控訴人は,控訴人の不法行為の内容として,被控訴人の研究生時代の行為も列挙するが,その当時A大学の設置主体は国であったから,控訴人の行為には当然に国家賠償法が適用される。

したがって,国立大学法人化の前後を問わず,国立大学の職員の職務行為には国家賠償法が適用されるから,控訴人個人は被控訴人に対し損害賠償責任を負わない。このことは仮に控訴人個人に故意又は重過失があっても異ならない。

㨯

被控訴人の主張

国立大学法人と学生の法律関係は,私立大学の場合と同様に,専ら当事者の合意に基づく在学契約関係として規律されるべきものであり,純然たる私経済作用に基づくものであるから,「公権力の行使」には当たらず,国家賠償法は適用されない。

また,国立大学法人の職員は,その業務に公務性がないため,独立行政法人通則法51条が準用されず(国立大学法人法35条),非公務員とされ,国家公務員法及び人事院規則は適用されない。職員の労働関係は各国立大学法人との関係となり,各国立大学法人が個別に定める就業規則が適用され,職員は労働三権を有する。したがって,国立大学法人の職員の職務については「公務員が,その職務を行うについて」という要件を欠き,国家賠償法は適用されないというべきである。

仮に国立大学法人に国家賠償法の適用があったとしても,職員個人に故意又は重過失がある場合には,職員個人も被害者に対して損害賠償責任を負うというべきである。

第3

当裁判所の判断

当裁判所は,被控訴人の控訴人に対する請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

控訴人が個人として損害賠償責任を負うか否か(国立大学法人の職員による職務行為に国家賠償法1条1項が適用されるか否か)について㨯

国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国又は公共団体がその被害者に対して賠償の責めに任ずることとし,公務員個人は民事上の損害賠償責任を負わないこととしたものと解される(最高裁昭和30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁等)。

本件において被控訴人が問題としている控訴人の各行為は,いずれも控訴人が国立A大学における被控訴人の研究指導教員として行った教育活動上の行為であるところ,国家賠償法1条1項の「公権力の行使」は,国又は公共団体の作用のうち,純然たる私経済作用及び同法2条の営造物の設置管理作用を除くすべての作用であって,権力的作用のほか非権力的作用も含み,公立学校における教職員の教育活動も「公権力の行使」に当たると解されるから(最高裁昭和62年2月6日第二小法廷判決・集民150号75頁参照),国立大学法人が設立された平成16年4月1日より前における控訴人の行為は「公権力の行使」に該当し,それが故意又は過失によって違法に被控訴人に損害を与えたと認められる限り,国立A大学を設置する国が国家賠償法に基づく損害賠償責任を負い,控訴人個人は民事上の損害賠償責任を負わないこととなる(なお,被控訴人は中華人民共和国の国籍を有する外国人であるが,同国の国家賠償法は日本人に対し同国に対する国家賠償請求を認めているから(甲36),被控訴人に対しては我が国の国家賠償法が適用される(国家賠償法6条)。)。

他方,国立大学法人が設立され,国立大学の設置主体が国から同法人に移行した平成16年4月1日以降の行為につき控訴人が個人として損害賠償責任を負うかどうかについては,国立大学法人の職員による職務行為に国家賠償法1条1項が適用されるか否かが問題となる。

㨯

まず,国立大学法人法は,独立行政法人通則法51条を準用していないから(国立大学法人法35条),国立大学法人A大学の職員である控訴人は,国立大学法人法19条が規定する刑法その他の罰則の適用に関する場合を除き,みなし公務員ではない。

しかし,国家賠償法1条1項にいう「公務員」は,国家公務員法,地方公務員法等の定める身分上の公務員に限られず,国又は公共団体の公権力の行使をゆだねられた者をいうと解されるから(最高裁平成19年1月25日第一小法廷判決・民集61巻1号1頁参照),控訴人が国家公務員法等の定める公務員に該当しないからといって,そのことから直ちに控訴人の行為について国家賠償法1条1項の適用がないとすることはできず,さらに控訴人が国又は公共団体の公権力の行使をゆだねられた者であるか否かを検討しなければならない。

㨯

そこで,まず国立大学法人が国家賠償法1条1項の「公共団体」に当たるか否かが問題となる。

国立大学は,我が国の学術研究,高等教育及び研究者養成の中核を担うとともに,全国的に均衡のとれた配置により地域の教育,文化,産業の基盤を支え,学生の経済状況に左右されない進学機会を提供するなどの重要な役割を果たしているところ(当裁判所に顕著な事実),国立大学法人は,このような国立大学を設置することを目的として国立大学法人法の定めるところにより設立される法人であり(同法2条1項),国立大学の設置,運営等を業務としている(同法22条1項)。なお,各国立大学法人の名称及び主たる事務所の所在地並びに当該国立大学法人の設置する国立大学の名称は国立大学法人法によって定められており(同法2条2項,4条),国立大学法人制度の下でも国立大学の設置が従前の国立学校設置法と同様に法定という形で国の意思によるものであることが明らかにされている。

国立大学法人の資本金については,国の機関が独立行政法人化した場合と同様に,法人成立の際に国が有する国立大学に関する一定の権利を承継し(同法附則9条1項),基本的に承継した当該権利に係る財産の価額に相当する金額が政府から国立大学法人に対して出資されたものとされ(同条2項),この金額が国立大学法人の資本金となるものとされている(同法7条1項)。また,政府は,必要があると認めるときは,追加して金銭及び土地建物等を出資することができる(同条2項,3項)。

国立大学法人においては,学長が学校教育法92条3項に規定する職務(校務をつかさどり所属職員を統督する職務)を行うとともに,国立大学法人を代表してその業務を総理するが(国立大学法人法11条1項),学長の任命は国立大学法人の申出に基づいて文部科学大臣が行うこととされている(同法12条1項)。国立大学法人の業務を監査する監事(同法11条4項)も文部科学大臣によって任命される(同法12条8項)。また,国立大学法人については,文部科学大臣が国立大学法人からあらかじめ意見を聴取し当該意見に配慮等した上で6年間において国立大学法人が達成すべき業務運営に関する目標を中期目標として策定し,教育研究の質の向上に関する事項,業務運営の改善及び効率化に関する事項,財務内容の改善に関する事項,大学の自己点検及び評価並びに情報発信に関する事項等についての基本的な方向性が定められ(同法30条),国立大学法人は,中期目標に基づき当該目標を達成するための計画を中期計画として作成し,文部科学大臣の認可を受けなければならないこととされている(同法31条)。このように,国立大学法人においては,国立大学の自主性,自律性や教育研究の特性に配慮しつつも(同法3条),引き続き国から必要な財政措置を受けることを前提として国による一定の関与が行われる。

なお,国立大学法人の役員及び職員については秘密保持義務が課されるほか(同法18条),刑事罰の適用については公務員とみなされ(同法19条),例えば,公務執行妨害罪の客体や収賄罪の主体となり得るものとされている。

さらに,国立大学法人の財務及び会計については独立行政法人通則法の財務及び会計に関する規定が準用される(国立大学法人法35条)。また,国の財源措置すなわち政府が予算の範囲内で独立行政法人に対しその業務の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額を交付することができることを定める独立行政法人通則法46条を準用することにより,国立大学法人に対する国の財政上の責任が明確化されている。以上のとおり,国立大学法人が法律によって設立され,我が国における高等教育,学術研究等に関して重要な役割を担う国立大学の設置運営等の目的及び権能を付与された法人であり,国からの必要な財政措置及びこれを前提とする一定の関与を受けながら国立大学の設置運営等に当たっていること等からすれば,国立大学法人は国家賠償法1条1項の「公共団体」に該当するというべきである。

㨯

次に,国立大学法人の教職員による教育活動上の行為が国家賠償法1条1項の「公権力の行使」に該当するか否かが問題となる。

国立大学法人成立前の国立大学の教職員による教育活動については「公権力の行使」に該当し,国家賠償法1条1項が適用されるところ,前記のとおり新たに国立大学の設置主体となった国立大学法人に公共団体性が認められること,国立大学法人制度は国の機関として位置付けられていた国立大学を法人化して予算,組織及び人事に関する大学の裁量を拡大し,国立大学の自主性,自律性を高めること等を目的とする制度であり,同制度自体が国立大学における教育活動の性質を変更するものとは解されないこと,国立大学法人の成立時において,従前の国立大学が国立大学法人の設置する国立大学となり(国立大学法人法附則15条),現に国が有する一部の権利及び義務を国立大学法人が承継し(同法附則9条),従前の国立大学の学長が原則として任期満了まで引き続き国立大学法人の学長を務め(同法附則2条),従前の国立大学の職員が原則として国立大学法人の職員となるなど(同法附則4条),従前の国立大学と国立大学法人の設置する国立大学との間に同一性が認められることを考慮すれば,国立大学法人が設立され,国立大学の設置主体が国から国立大学法人に変更されたからといって,教職員による教育上の行為の性質が異なるとする実質的な根拠を見いだすことはできない。

したがって,国立大学法人A大学の教職員である控訴人による教育活動上の行為の性質に変化はなく,法人化前と同様に「公権力の行使」に該当するというべきである。

よって,公共団体である国立大学法人A大学に講師として雇用されて被控訴人を含む学生に対する教育活動をゆだねられた控訴人は国家賠償法1条1項の「公務員」に該当する。

㨯

以上によれば,本件における控訴人の被控訴人に対する各行為については国家賠償法1条1項が適用されるから,国立大学法人A大学が控訴人に代位して損害賠償責任を負うべきものであって,控訴人が個人として民事上の損害賠償責任を負うことはない。

なお,原審は,この点に関する法令の解釈適用を誤り,国立大学法人に対する国家賠償法1条1項の適用を否定して,被控訴人の国立大学法人A大学に対する同条項に基づく損害賠償請求を棄却している。しかし,その一方で原審は国立大学法人A大学の被控訴人に対する債務不履行責任を認めて被控訴人が被った損害の賠償を命じているところ,同判決が被控訴人と国立大学法人A大学との間で確定しており,同大学法人には上記損害額を十分に弁済し得る能力があるとうかがわれること,民事訴訟における損害賠償の機能は被害者の損害を填補する点にあり,行為者に対する懲罰や制裁ではないことからすれば,国立大学法人A大学が被控訴人に対し損害賠償責任を負っている本件において,控訴人個人が重ねて損害賠償責任を負うべき実質的理由は存しないというべきである。

㨯

この点,被控訴人は,国立大学法人と学生の法律関係は,私立大学の場合と同様に,専ら当事者の合意に基づく在学契約関係として規律されるべきものであり,純然たる私経済作用に基づくものであるから,「公権力の行使」には当たらず,国家賠償法は適用されないと主張する。しかし,たとえ国立大学法人と学生との間の法律関係が当事者の合意に基づく在学契約関係であるとしても,大学における教育活動は,我が国における高等教育及び学術研究の中心として,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を発展させることを目的として行われる非権力的作用であるというべきであり,これを純然たる私経済作用であるとみることはできない。

また,被控訴人は,国立大学法人の職員がみなし公務員でないこと等を根拠として国家賠償法の「公務員」に当たらない旨主張するが,前記のとおり,同法1条1項にいう「公務員」は身分上の公務員とは異なる概念であるから,控訴人がみなし公務員でないことは上記判断を左右しない。さらに,被控訴人は,仮に国立大学法人に国家賠償法の適用があったとしても,職員個人に故意又は重過失がある場合には被害者に対して損害賠償責任を負うべきであると主張するが,独自の見解であって,採用することができない。

以上の次第であるから,被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求は,その余の点を検討するまでもなく理由がない。

第4

結論

よって,以上と結論を異にする原判決を控訴人の控訴に基づき変更し,被控訴人の附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所民事第3部

裁判長裁判官 高田健一

裁判官 尾立美子

裁判官 中丸隆

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/80916/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。