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地裁判決請求認容

大分地判 平成22年9月30日

平成21年(行ウ)第8号 生活保護申請却下処分に係る審査請求に対する裁決取消請求事件

裁判所
大分地方裁判所民事第1部
裁判年月日
平成22年9月30日 (2010-09-30)
事件番号
平成21年(行ウ)第8号
事件名
生活保護申請却下処分に係る審査請求に対する裁決取消請求事件
裁判の種類・結果
判決 請求認容
判例集等
—
分野
行政

平成22年9月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官

平成21年(行ウ)第8号生活保護申請却下処分に係る審査請求に対する裁決取消請求事件

口頭弁論終結の日平成22年8月5日

判決

主文

a県知事が平成21年3月17日付けでした原告の生活保護申請却下決定に係る審査請求を却下する旨の裁決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文第1項同旨

第2 事案の概要

本件は,日本国における永住者の在留資格を有する外国人である原告が,a市福祉事務所長がした生活保護申請却下決定に対して,a県知事に審査請求を行ったところ,同知事から,外国人である原告に対する上記却下決定は行政不服審査法上の処分に該当しないとして,これを却下する旨の裁決を受けたために,上記裁決の取消しを求めた事案である。

前提事実(証拠を掲記しない事実は争いがない。)

⑴ア原告は,b国の国籍を有し,日本国の永住者の在留資格を有する外国人である。

イ 被告は,後記⑸の裁決をした行政庁であるa県知事が所属する地方公共団体である。

⑵原告は,昭和7年5月5日,c市で生まれ,昭和29年10月5日に婚姻し,a市内で,公租公課を支払いながら,生計を立てていた(甲1,8,35)。

⑶その後,原告は,生活保護の実施機関であるa市長から保護の決定及び実施に関する事務の委任を受けたa市福祉事務所長に対し,生活保護の申請をし(以下「本件申請」という。甲12参照),同所長は,平成20年12月15日,これを受理した(委任につき弁論の全趣旨,受理につき甲13)。⑷a市福祉事務所長は,原告に対し,平成20年12月22日付けで,原告やその夫に相当額の預金があるとの理由により,本件申請を却下する旨の決定(以下「本件却下決定」という。)をした(却下理由につき甲5)。⑸そこで,原告は,平成21年2月6日,a県知事に対し,本件却下決定を不服として,審査請求(以下「本件審査請求」という。)をしたが,同知事は,原告に対し,同年3月17日付けで,生活保護が法律上の権利として保障されていない外国人である原告に対する保護の決定は行政不服審査法上の「処分」に該当しないことを理由に,本件審査請求を却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし(却下理由につき甲7),原告は,同月18日,これを知った。

⑹原告は,平成21年6月19日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

本件審査請求の適法性についての当事者の主張

⑴原告

ア 本件却下決定の処分性について

(ア) 外国人に生活保護受給権があること

憲法が保障する基本的人権は,性質上国民固有の権利と解されない限り,外国人に対しても保障されるところ,生存権が人の生存を支える極めて重要なものであるうえ,日本国に定住する外国人は,国民と同様に公租公課を納めており,永住者の資格を有する外国人は,日本国の社会の構成員といえるし,保護の補足性の原理も働かないことに照らせば,このような外国人にも生存権の保障が及ぶと解すべきである。また,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「A規約」という。)2条2項,9条,11条1項,あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(以下「人種差別撤廃条約」という。)5条( e)の(i v)は,外国人にも生存権を保障する趣旨の規定であるところ,これらの規定には裁判規範性がある。そうすると,これらの規定を受けて制定された生活保護法にいう「国民」には,日本国に定住する外国人も含まれることになるから,かかる外国人には,当然に生活保護受給権がある。また,外国人に対して同受給権を認めないことは,国籍による差別であり,これは憲法14条1項後段「社会的身分」による差別に当たるところ,このような取扱いに合理性はなく,むしろ,定住外国人については,強い違憲性が推定されるうえ,自動執行力を有し,かつ裁判規範性のある市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)26条,人種差別撤廃条約5条( a)にも反するから,定住外国人には生活保護受給権がある。

したがって,同受給権がある者の申請を退けた本件却下決定には処分性がある。

(イ) 本件却下決定が生活保護法に基づく却下決定であること外国人には生活保護受給権がないと解さざるを得ないとしても,同受給権の有無は生活保護法上の保護を認めるか否かの問題であり,本案で審理されるべきものであって,処分性の問題ではない。被告の主張は,給付要件の問題とこれらとを混同するものである。そして,本件却下決定は,生活保護法の解釈に基づいてされた以上,同法に基づく却下決定であり,要保護状態にない日本国民が生活保護受給権がないとして保護申請を却下された場合と同様に処分性が認められてしかるべきである。そして,このことは審査請求適格についても同様である。

(ウ) 昭和29年通知に基づく行政上の措置であっても,保護の拒否に処分性があること

仮に,本件却下決定が「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」(昭和29年5月8日社発第382号厚生省社会局長通知。以下「昭和29年通知」という。)に基づく保護に関するものであるとしても,通知ないし要綱に基づく行為だからといって直ちに処分性がないとはいえず,行政不服審査法が権利のほか法的保護に値する利益の侵害も保護の対象にしていること,上級庁による誤った処分の是正が期待できること,今日に至るまでの永年にわたる外国人に対する生活保護法のいわゆる準用の実態に照らせば,同決定の処分性を肯定すべきである。

イ 本件審査請求適格について

そして,行政不服審査法にいう「国民」には,日本国民に限らず外国人を含むというべきであるから,原告には同法に基づく審査請求適格がある。

ウ まとめ

以上によれば,本件審査請求は行政不服審査法上の要件を充たしてされた適法なものである。

⑵

被告

ア 本件却下決定の処分性について

(ア) 外国人には生活保護受給権がないこと

外国人について国民と同程度に憲法上の社会権を保障しないことが違憲となるとはいえず,憲法25条の保障する生存権の趣旨に応えてされる立法措置の内容は,著しく合理性を欠くような場合などを除き,裁判所が審査判断するのに適しない。生活保護法は,保護の対象を「国民」と明記し外国人を権利主体としていないが,このことは生活保護制度が全額公費支出によっている等の事情に照らし,相応の合理性がある。現在,保護の実施機関は,生活保護法を準用して,永住者等の外国人の生活保護申請を受理し,保護の要否を決しているが,これは同受給権があることを前提としたものでなく,行政上の措置にすぎない。

そして,外国人が国民と比較して全く平等に取り扱われるべきとまでは憲法が要請しておらず,このように外国人に生活保護受給権を認めないことは,同法14条やB規約26条に反しない。また,A規約2条2項,9条及び11条1項,並びに人種差別撤廃条約5条( ),同条( )のa

e

( )は裁判規範性がないから,これらの規定に反するともいえない。iv

(イ)

処分性がないこと

行政不服審査法3条は,行政庁の処分に対する審査請求権を認めているところ,同法1条1項が国民の権利利益の救済を図ることなどを規定していることに照らし,同法3条にいう「行政庁の処分」とは「国民の権利義務又は法律上の地位に直接かつ具体的な影響を及ぼす公権力の行使に当たる行為」を指すものである。

しかし,上記のとおり,外国人については生活保護受給権が認められず,外国人に対する生活保護があくまで行政上の措置にすぎない以上,このような国民を名宛人としない生活保護申請の却下決定に処分性はない。また,外国人に対して国民に準じる扱いで生活保護が実施されている現状があるからといって,当然に却下決定に対する不服申立てが認められるべきものとはいえない。

イ

本件審査請求適格について

そして,行政不服審査法にいう「国民」は,国籍法により,日本国籍を有するものをいい,外国人を含まないから,原告には審査請求適格がない。ウ

まとめ

以上によれば,本件審査請求は不適法である。

第3

当裁判所の判断

本件審査請求の適法性について

⑴ア

前記前提事実のとおり,原告が生活保護に係る本件申請をし,これに対してa市福祉事務所長が本件却下決定をしたものであるところ,本件申請は,生活保護法に基づく申請を行う旨の申請書の記載(甲12)に照らせば,同法7条に基づき,同法所定の保護を求める趣旨の申請であると認められ,これに反する証拠はない。また,本件却下決定は,その記載(甲5)に照らし,本件申請に対する応答としてされたものであると認められる。

そうすると,本件却下決定は,同法24条に基づき,原告の同法による保護を否定する旨の決定にほかならないから,これが同法64条及び行政不服審査法4条1項にいう「処分」に当たることは明らかである。イ

これに対して,被告は,外国人には生活保護法に基づく生活保護受給権が認められず,実務上行われている外国人に対する生活保護は行政上の措置にすぎないので,外国人は権利として保護の措置を求めることはできないから,本件却下決定に処分性がないと主張する。

しかし,この主張は,本件申請が昭和29年通知に基づく行政上の措置としての保護のみを求める趣旨のものであることを前提としていると解されるが,上記認定のとおり,本件申請はかかる趣旨のものではない。また,本件申請が生活保護法所定の保護を求める趣旨の申請である以上,実体的に生活保護受給権が認められるかどうかは,同法における給付要件の有無の問題であって,本案で審理されるべきことがらであり,審査請求等の適法要件ないし行政訴訟たる抗告訴訟の訴訟要件である処分性の有無とは直接関係がないというべきである(このことは最高裁平成13年9月25日第三小法廷判決(集民203号1頁)等が同法上の保護を申請した外国人につき処分性等を問題にすることなく本案につき実体的な判断をしていることからも明らかである

。そもそも却下決定が要保護状態にない日本国

。)

民についてなされた場合であれば,保護を否定するものとして公権力性及び法効果の直接具体性の観点から処分性が認められることは異論がないところ,同法上の保護を否定するという点では,日本国民であれ,外国人であれ同じであり,行為の客体と離れた行為の客観的性質自体は何ら異なるところはないと考えられる。これらに照らせば,被告の上記主張は採用できない。

なお,被告は,行政不服審査法3条にいう「行政庁の処分」は同法1条1項の文言に照らし,「国民の」権利義務又は法律上の地位に直接かつ具体的な影響を及ぼす公権力の行使に当たる行為に限定されるかのような主張をするが,簡易迅速な手続で権利利益の救済を図るとともに行政の適正な運営を確保しようとする行政不服審査法の目的(1条1項)に照らせば,およそ外国人には同法の適用の余地はないと解すべき合理的な理由は見い出し難い(なお,同法4条1項10号の規定は,外国人にも同法の適用があることを前提としている。)。

⑵

そして,本件却下決定に処分性が認められる以上,その名宛人である原告に,同決定に対する審査請求適格があることはいうまでもない。この点に関し,被告は,行政不服審査法上の「国民」に外国人は含まれないと主張するが,これは通常の場合を規定したにすぎず,既に判示したとおり,外国人にも同法の適用はあるというべきであるから,採用の限りではない。⑶したがって,本件審査請求は,生活保護法64条及び行政不服審査法4条1項に基づいて適法にされたものであるから,これを却下した本件裁決は,生活保護法及び行政不服審査法の解釈を誤った違法なものといわざるをえない。

結論

以上によれば,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。

大分地方裁判所民事第1部

裁判長裁判官

金光健二

裁判官

萩原孝基

裁判官

前川悠

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/80947/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。