平成26年12月4日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(ワ)第6547号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論の終結の日平成26年10月9日
判決
愛媛県四国中央市<以下略>
原告大王製紙株式会社
同訴訟代理人弁護士小池豊
櫻井彰人
萱島博文
同訴訟代理人弁理士永井義久
加藤和孝
東京都千代田区<以下略>
被告日本製紙クレシア株式会社
同訴訟代理人弁護士水谷直樹
曽我部高志
同訴訟代理人弁理士赤尾謙一郎
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,別紙被告設備目録(原告)記載のティシュペーパーの製造設備を設置し,使用してはならない。
2 被告は,別紙被告方法目録(原告)記載の方法を使用してティシュペーパーを製造し,当該ティシュペーパーを販売し,輸出し,又は譲渡の申出をしてはならない。
3 被告は,「クリネックスAQUAVeil」との商品名のティシュペーパーを製造し,販売し,輸出し,又は譲渡の申出をしてはならない。
4 被告は,第1項の製造設備,第2項の方法を使用して製造したティシュペーパー及び前項のティシュペーパーを廃棄せよ。
5 被告は,原告に対し,1550万7000円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,「ティシュペーパー製品の製造方法及び製造設備」並びに「ティシュペーパー及びティシュペーパーの製造方法」に関する特許権を有する原告が,ティシュペーパーの製造販売をする被告に対し,被告がティシュペーパーの製造設備を設置して使用し,かつ,これによる方法を使用してティシュペーパーを製造等することが前者の特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項,2項に基づき,ティシュペーパーの製造設備の使用等の差止めとその廃棄,方法を使用したティシュペーパーの製造等の差止めとその廃棄を求め,被告が「クリネックスAQUAVeil」との商品名のティシュペーパーを製造等することが後者の特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項,2項に基づき,上記ティシュペーパーの製造等の差止めとその廃棄を求めるとともに,不法行為による損害賠償請求権に基づき,原告が受けた損害の額と推定される被告が上記各侵害の行為により受けた利益の額に相当する1550万7000円及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 原告の特許権
ア 原告は,発明の名称を「ティシュペーパー製品の製造方法及び製造設備」とする特許(特許第4676564号)に係る特許権(以下「本件特許権1」といい,この特許を「本件特許1」という。)を有している。本件特許1の特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1及び5の記載は,本判決添付の本件特許1に係る特許公報の該当項記載のとおりである(以下,この請求項1に係る発明を「本件発明1-1」といい,請求項5に係る発明を「本件発明1-2」という。)。
イ 原告は,発明の名称を「ティシュペーパー及びティシュペーパーの製造方法」とする特許(特許第4868622号)に係る特許権(以下「本件特許権2」といい,この特許を「本件特許2」という。)を有している。本件特許2の特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は,本判決添付の本件特許2に係る特許公報の該当項記載のとおりである(以下,この発明を「本件発明2」といい,本件発明1-1及び1-5と併せて「本件各発明」という。)。
(2) 被告の行為
被告は,遅くとも平成23年7月から,自社工場内にティシュペーパーの製造設備(以下「被告設備」という。)を設置して使用し,これによる方法(以下「被告方法」という。)を使用して「クリネックスAQUAVeil」との商品名のティシュペーパー(以下「被告製品」という。)その他のティシュペーパー(以下,被告製品と併せて「被告製品等」という。)を製造,販売している。
(3) 本件各発明の構成要件の分説
本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件a」のようにいう。)。
ア 本件発明1-1
a 薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造設備であって,
b 抄紙設備により抄造され巻き取られた一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造するプライマシンに;
c 複数の一次原反ロールから繰り出される一次連続シートをその連続方向に沿って積層して積層連続シートとする積層手段と,
d 積層連続シートに対して薬液を塗布する薬液塗布手段と,
e 積層連続シートをティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリットするスリット手段と,
f スリットされた各積層連続シートを同軸で巻取ってティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の二次原反ロールを形成する巻取り手段と,
g がシートの流れ方向に順に組み込まれており;
h 前記プライマシンにより得られた,薬液が塗布された二次原反ロールが,マルチスタンド式インターフォルダの折畳機構部に対応して多数セットされ,各二次原反ロールからの二次連続シートが前記折畳機構部にそれぞれ送り込まれ,二次連続シートが折り畳まれ各二次連続シートの側端部が掛け合わせされながら積み重ねられた積層帯が得られ,
i その後に流れ方向に所定の間隔をおいて裁断されてティシュペーパー束とされ,そのティシュペーパー束が収納箱に収納されてティシュペーパー製品とされる,
j ことを特徴とする,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造設備。
イ 本件発明1-2
k 薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造方法であって,
l 抄紙設備により抄造され巻き取られた一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造するプライマシンとして;
m 複数の一次原反ロールから繰り出される一次連続シートをその連続方向に沿って積層して積層連続シートとする積層手段と,
n 積層連続シートに対して薬液を塗布する薬液塗布手段と,
o 積層連続シートをティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリットするスリット手段と,
p スリットされた各積層連続シートを同軸で巻取ってティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の二次原反ロールを形成する巻取り手段と,
q をシートの流れ方向に順に組み込んだものを用い;
r 前記プライマシンにより得られた,薬液が塗布された二次原反ロールを,マルチスタンド式インターフォルダの折畳機構部に対応して多数セットし,前記マルチスタンド式インターフォルダにおいて,各二次原反ロールからの二次連続シートを前記折畳機構部にそれぞれ送り込み,二次連続シートを折り畳み各二次連続シートの側端部を掛け合わせしながら積み重ねられた積層帯を得て,
s その後に流れ方向に所定の間隔をおいて裁断してティシュペーパー束とし,そのティシュペーパー束を収納箱に収納してティシュペーパー製品を得る,
t ことを特徴とする,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造方法。
ウ 本件発明2
u 表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーであって,v1薬液は2プライの片面にのみ塗布され,
v2薬剤含有量が両面で2.0~5.5g/m 2 であり,
w 2プライを構成するシートの1層あたりの坪量が10~25g/m 2であり,
x 2プライの紙厚が100~140μmであり,
y 下記(A)~(D)の手順により測定される静摩擦係数が0.50~0.65である,
(A) ティシュペーパーを1プライにはがし,2プライ時にティシュペーパーの外面にあった面が外側となるようしてアクリル板に張り付ける。(B) 前記ティシュペーパーとは別のティシュペーパーを2プライのまま100gの分銅に巻きつけ,前記アクリル板上のティシュペーパー上に乗せる。
(C) 前記アクリル板を傾け,おもりが滑り落ちる角度を測定する。(D) 前記角度の測定を,ティシュペーパーのMD方向同士,ティシュペーパーのCD方向同士で行うこととし,各4回ずつの計8回測定して平均角度を算出して,そのタンジェント値を静摩擦係数とする。
z ことを特徴とするティシュペーパー。
(4) 被告装置,被告方法及び被告製品における本件各発明の構成要件充足性
ア 被告設備は,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造設備であり,本件発明1-1の構成要件a及びjを充足する。
イ 被告方法は,薬液が塗布されたティシュペーパー製品の製造方法であり,本件発明1-2の構成要件k及びtを充足する。
ウ 被告製品は,表面に薬液が塗布された2プライのティシュペーパーであって,薬液は2プライの片面にのみ塗布され,薬剤含有量は3.34g/
m 2であり,2プライを構成するシートの1層あたりの坪量が14.3g/m2 であることを特徴とするティシュペーパーであり,本件発明2の構成要件u,v1,w及びzを充足する。
(甲7,8)
2 争点
(1) 被告設備について,その構成,本件発明1-1の技術的範囲の属否及び無効事由の有無であり,(2) 被告方法について,その構成,本件発明1-2の技術的範囲の属否及び無効事由の有無であり,(3) 被告製品について,本件発明2の技術的範囲の属否及び無効事由の有無である。
3 争点についての当事者の主張
(1) 被告設備について
ア 被告設備の構成
(ア) 原告
被告設備の構成は,別紙被告設備目録(原告)記載のとおりである。
(イ) 被告
被告設備の構成は,別紙被告設備目録(被告)記載のとおりである。
イ 被告設備における本件発明1-1の技術的範囲の属否(本件発明1-1の構成要件充足性)
(ア) 原告
a 構成要件b
「プライマシン」は,「マルチスタンド式インターフォルダ」にセットされる原反ロールである「二次原反ロール」を製造するものである。被告設備は,ペーパーマシンワインダーと薬液塗布設備を「連続的に」経て「マルチスタンド式インターフォルダ」にセットされる原反ロールを製造しているから,ペーパーマシンワインダーと薬液塗布設備とを併せたものが「プライマシン」に当たる。そうであるから,被告設備は,構成要件bを充足する。
b 構成要件cないしg
被告設備は,ペーパーマシンワインダーと薬液塗布設備として,積層手段と,薬液を塗布する薬液塗布装置と,積層連続シートをティシュペーパー製品の複数倍幅となるようにスリットするスリッターと,スリットされた各積層連続シートを同軸で巻取ってティシュペーパー製品の複数倍幅の原反ロールを形成する巻取り装置とがシート流れ方向に順に組み込まれている。そうであるから,被告設備は,構成要件cないしgを充足する。
c 構成要件h及びi
被告設備は,ペーパーマシンワインダーと薬液塗布設備を経て製造された原反ロールがマルチスタンド式インターフォルダの折畳機構部に対応して多数セットされ,その原反ロールからの積層連続シートがマルチスタンド式インターフォルダのスリッターによりティシュペーパー製品の製品幅にスリットされて,前記折畳機構部にそれぞれ送り込まれ,積層連続シートが折り畳まれ各積層連続シートの側端部が掛け合わせされながら積み重ねられた積層帯を得るように構成され,その後に流れ方向に所定の間隔をおいて切断装置により裁断されてティシュペーパー束とされ,そのティシュペーパー束が収納箱に収納されてティシュペーパー製品とされる。そうであるから,被告設備は,構成要件h及びiを充足する。
(イ) 被告
a 構成要件b
被告設備において「プライマシン」に当たるのは,ペーパーマシンワインダーである。ペーパーマシンワインダーと薬液塗布設備とは離れた場所にある完全に独立した工程であり,ペーパーマシンワインダーにより製造された原反ロールは,何らかの方法で移送しなければならないのであって,製造ラインが途切れているから,ペーパーマシンワインダーと薬液塗布設備と併せたものを「一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造するプライマシン」ということはできない。
b 構成要件dについて
被告設備のペーパーマシンワインダーは,薬液塗布装置を備えていない。
c 構成要件hについて
構成要件hの「マルチスタンド式インターフォルダ」にはスリット手段がないから,構成要件hの「二次原反ロール」は,ティシュペーパー製品の製品幅であると解さなければならないが,被告設備において「マルチスタンド式インターフォルダ」にセットされる原反ロールは,ティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅である。
ウ 無効事由の有無
(ア) 進歩性の欠如(特許法29条2項)について
a 被告
本件特許1の特許出願前に頒布された米国特許公報(米国特許第7517433号,乙17。)に記載された発明と本件発明1-1とは,薬液が塗布された二次原反ロールを加工する設備に関し,本件発明1-1が,マルチスタンド式インターフォルダの折畳機構部に対応して多数セットされ,各二次原反ロールからの二次連続シートが前記折畳機構部にそれぞれ送り込まれ,二次連続シートが折り畳まれ各二次連続シートの側端部が掛け合わせされながら積み重ねられた積層帯が得られ,その後に流れ方向に所定の間隔をおいて裁断されてティシュペーパー束とされ,そのティシュペーパー束が収納箱に収納されてティシュペーパー製品とされるのに対し,上記公報に記載された発明が,「ハードロールを解き,2プライの連続シートを裁断,折り畳み,箱詰めして,1箱のフェイシャルティシュを製造する」装置を使用する点で相違する。しかし,本件特許1の特許出願前に頒布された「できるまで図鑑⑥巻(日用品①)」と題する書籍(乙18)には,ハードロールを解き,2プライの連続シートを裁断,折り畳み,箱詰めして,1箱のフェイシャルティシュを製造するための周知な装置としてマルチスタンド式インターフォルダに相当する装置及びカッターにより,各連続シートの側端部が掛け合わせられながら積み重ねられてできた長い積層物が,その流れ方向に,ティシュペーパー箱の長手方向サイズ毎に間隔をおいて切断され,切断されてできたティシュペーパーの束が,箱に詰められ,ティシュペーパー製品となることが記載されている。そうであるから,本件発明1-1は,上記公報に記載された発明に上記書籍に記載された技術を組み合せることにより,当業者が容易に発明をすることができた。
b 原告
前記公報には,二次原反ロールに当たる構成及びティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリットする構成が開示されていないし,前記公報に記載された発明に前記書籍に記載されたマルチスタンド式インターフォルダを組み合わせる動機はない。
(イ) 明確性要件(特許法36条6項2号)について
a 被告
本件発明1-1の「マルチスタンド式インターフォルダ」にセットされる「二次原反ロール」の幅は,「ティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅」であることが規定されているが,「マルチスタンド式インターフォルダ」において,連続シートの幅をスリットして当該幅を変更するような加工は施されていないから,「二次原反ロール」の幅が「ティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅」であった場合に,所定の製品幅のティシュペーパーを製造することはできない。そうであるから,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確でない。
b 原告
「二次原反ロール」の幅が,「ティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅」であった場合,その後に製品幅にするための工程が存在することは当然のことである。
(2) 被告方法について
ア 被告方法の構成
(ア) 原告
被告設備の構成は,別紙被告方法目録(原告)記載のとおりである。
(イ) 被告
被告設備の構成は,別紙被告方法目録(被告)記載のとおりである。
イ 被告方法における本件発明1-2の技術的範囲の属否(本件発明1-2の構成要件充足性)
(ア) 原告
a 構成要件l
「プライマシン」は,「マルチスタンド式インターフォルダ」にセットされる原反ロールである「二次原反ロール」を製造するものである。被告方法は,ペーパーマシンワインダーによる工程と薬液塗布工程を「連続的に」経て「マルチスタンド式インターフォルダ」にセットされる原反ロールを製造しているから,ペーパーマシンワインダーによる工程と薬液塗布工程とを併せたものが「プライマシン」に当たる。そうであるから,被告方法は,構成要件lを充足する。
b 構成要件mないしq
被告方法は,ペーパーマシンワインダーによる工程と薬液塗布工程に,積層手段と,薬液を塗布する薬液塗布装置と,積層連続シートをティシュペーパー製品の複数倍幅となるようにスリットするスリッターと,スリットされた各積層連続シートを同軸で巻取ってティシュペーパー製品の複数倍幅の原反ロールを形成する巻取り装置とがシート流れ方向に順に組み込まれている。そうであるから,被告方法は,構成要件mないしqを充足する。
c 構成要件r及びs
被告方法は,ペーパーマシンワインダーによる工程と薬液塗布工程を経て製造された原反ロールがマルチスタンド式インターフォルダの折畳機構部に対応して多数セットされ,その原反ロールからの積層連続シートがマルチスタンド式インターフォルダのスリッターによりティシュペーパー製品の製品幅にスリットされて,前記折畳機構部にそれぞれ送り込まれ,積層連続シートが折り畳まれ各積層連続シートの側端部が掛け合わせされながら積み重ねられた積層帯を得るように構成され,その後に流れ方向に所定の間隔をおいて切断装置により裁断されてティシュペーパー束とされ,そのティシュペーパー束が収納箱に収納されてティシュペーパー製品とされる。そうであるから,被告方法は,構成要件r及びsを充足する。
(イ) 被告
a 構成要件l
被告方法において「プライマシン」に当たるのはペーパーマシンワインダーである。ペーパーマシンワインダーによる工程と薬液塗布工程とは離れた場所にある完全に独立した工程であり,ペーパーマシンワインダーによる工程により製造された原反ロールは,何らかの方法で移送しなければならないのであって,製造ラインが途切れているから,ペーパーマシンワインダーによる工程と薬液塗布工程と併せたものを「一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造するプライマシン」ということはできない。
b 構成要件n
被告方法のペーパーマシンワインダーは,薬液塗布装置を備えていない。
c 構成要件r
構成要件rの「マルチスタンド式インターフォルダ」にはスリット手段がないから,構成要件rの「二次原反ロール」は,ティシュペーパー製品の製品幅であると解さなければならないが,被告方法において「マルチスタンド式インターフォルダ」にセットされる原反ロールは,ティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅である。
ウ 無効事由の有無
(ア) 進歩性の欠如(特許法29条2項)について
a 被告
前記米国特許公報(乙17)に記載された発明と本件発明1-2とは,薬液が塗布された二次原反ロールを加工する方法に関し,本件発明1-2が,マルチスタンド式インターフォルダの折畳機構部に対応して多数セットされ,各二次原反ロールからの二次連続シートが前記折畳機構部にそれぞれ送り込まれ,二次連続シートが折り畳まれ各二次連続シートの側端部が掛け合わせされながら積み重ねられた積層帯が得られ,その後に流れ方向に所定の間隔をおいて裁断されてティシュペーパー束とされ,そのティシュペーパー束が収納箱に収納されてティシュペーパー製品とされるのに対し,上記公報に記載された発明が,「ハードロールを解き,2プライの連続シートを裁断,折り畳み,箱詰めして,1箱のフェイシャルティシュを製造する」装置を使用する点で相違する。しかし,前記書籍(乙18)には,前記のような記載がされているから,本件発明1-2は,上記公報に記載された発明に上記書籍に記載された技術を組み合せることにより,当業者が容易に発明をすることができた。
b 原告
前記公報には,二次原反ロールに当たる構成及びティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリットする構成が開示されていないし,前記公報に記載された発明に前記書籍に記載されたマルチスタンド式インターフォルダを組み合わせる動機はない。
(イ) 明確性要件(特許法36条6項2号)について
a 被告
本件発明1-2の「マルチスタンド式インターフォルダ」にセットされる「二次原反ロール」の幅は,「ティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅」であることが規定されているが,「マルチスタンド式インターフォルダ」において,連続シートの幅をスリットして当該幅を変更するような加工は施されていないから,「二次原反ロール」の幅が「ティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅」であった場合に,所定の製品幅のティシュペーパーを製造することはできない。そうであるから,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確でない。
b 原告
「二次原反ロール」の幅が,「ティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅」であった場合,その後に製品幅にするための工程が存在することは当然のことである。
(3) 被告製品について
ア 被告方法における本件発明2の技術的範囲の属否(本件発明2の構成要件充足性)
(ア) 原告
a 構成要件v2
被告製品の「薬剤含有量」は3.34g/m2であるから,被告製品は,構成要件v2を充足する。
b 構成要件x
被告製品の2プライの紙厚は125.5μmであるから,被告製品は,構成要件xを充足する。
c 構成要件y
構成要件yの(A)ないし(D)の手順により傾斜実験を行ったところ,分銅が滑り落ち始めた時の傾斜角のタンジェント値は0.50ないし0.65の範囲内の値であった。当該タンジェント値が被告製品の静摩擦係数である。そうであるから,被告製品は,構成要件yを充足する。
被告も,被告製品について傾斜実験を行っているが,分銅が滑り落ち始めた時の傾斜角のタンジェント値が約1であるというのは保湿ティシュペーパーの値としてありえない数値である。また,傾斜実験の方法も,ティシュペーパーをアクリル板に皺や弛みがある状態で張り付けて実験を行っている,静摩擦係数を求めるための傾斜角を,おもりが滑り始めた時の傾斜角ではなく,滑り始めた後の傾斜面下まで滑る落ちるときの傾斜角としている,センサーを使用した測定では,センサーの反応を遅らせるような測定をしていることなど不合理なものである。そして,被告が依頼した第三者機関による実験傾斜実験も被告の指示の下に行われたものであるから被告がした実験と同様に不合理なものである。
(イ) 被告
a 構成要件v2
「薬剤」は,ティシュペーパー表面の平滑性確保のために,構成要件yの規定する静摩擦係数が一定の数値範囲内(0.50~0.65)に収まるように塗布されるから,「薬剤含有量」は,平滑性の確保に寄与する成分である「無機および有機の微粒子粉体」,「油性成分」の含有量が重要であり,これらが,「0.15~0.18g/㎡」の範囲内であることを意味する。
被告製品において,ティシュペーパー表面の平滑性確保のために使用される薬剤は,シリコーンオイルであるが,そのシリコーンオイルの含有量は,0.021g/m2である。
b 構成要件x
ダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G 型」による紙厚の測定は,同測定器は測定範囲0~10mmにおいて±20μmの測定誤差が生じること,ティシュペーパーに約70gf(8.7kPa)もの荷重をかけて測定すると表面がつぶれて正確な数値が測定できないおそれがあることから,測定結果(甲8)は信用することができない。そうであるから,被告製品の2プライの紙厚が125.5μmであるということはできない。
c 構成要件y
構成要件yの測定方法は,JISP8147(1994)(以下「JISP8147」という。)に準じたものであるから,特許請求の範囲に記載された「100gの分銅」は,水平時底面圧力1.64±0.24kPaの直方体形状を意味し,「おもりが滑り落ちる角度を測定する」とは,測定機器のセンサーを使用せず目視で行うことを意味するのであって,このような条件で傾斜実験を行うと,分銅が滑り落ち始めた時の傾斜角のタンジェント値は0.50ないし0.65の範囲内の値にはならないし,原告と同様の条件で傾斜実験を行っても,分銅が滑り落ち始めた時の傾斜角のタンジェント値は,0.50ないし0.65の範囲内の値にはならない。また,傾斜実験の際に測定機のセンサーを使用すると分銅の微動をおもりの滑り始めと誤認するおそれがあるから,センサーを使用して得た分銅が滑り落ちる角度に基づくタンジェント値を静摩擦係数ということはできない。
イ 無効事由の有無
(ア) 明確性要件(特許法36条6項2号)について
a 被告
本件発明2は,静摩擦係数の値を「0.50~0.65」と規定したうえで,その測定に使用するおもりとして,「100gの分銅」と規定するものの,分銅の水平時に底面にかかる圧力や分銅の形状については,何ら規定しない。そして,ティシュペーパーの摩擦現象においてはアモントンの法則が適用されず,静摩擦係数の測定値は,分銅の水平時に底面にかかる圧力や分銅の形状によって異なるから,静摩擦係数の測定値が一義的に定まらないことになる。そうであるから,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確でない。
b 原告
アモントンの法則は,ティシュペーパーの摩擦現象に適用されるから,100gの分銅を使用した場合の静摩擦係数は一定であり,分銅の水平時に底面にかかる圧力や分銅の形状を規定しなくても,静摩擦係数の測定値が一義的に定まらないとはいえない。
(イ) 実施可能要件(特許法36条4項1号)について
a 被告
本件発明2は,静摩擦係数の値を「0.50~0.65」と規定するが,ティシュペーパーの静摩擦係数は,0.50ないし0.65の数値範囲内には到底入らず,当業者が静摩擦係数をこの数値範囲内とするティシュペーパーを製造することは困難である。それにもかかわらず,本件特許2の特許出願の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には,「静摩擦係数が0.50~0.65」のティシュペーパーを製造する方法が記載されていないから,発明の詳細な説明は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
b 原告
ティシュペーパーの静摩擦係数は,上記明細書の発明の詳細な説明に記載された原料パルプ種,クレープ率,薬液の種類及び含有量,紙厚,水分率,シート坪量などが関係するものであることは技術常識であるから,これらの要素を考慮し,技術常識を踏まえて製造を試みれば,当業者は格別の困難を伴うことなく,本件発明2のティシュペーパーを製造することができる。
(ウ) 新規性の欠如(特許法29条1項2号)について
a 被告
被告は,本件特許2の原出願日である平成22年6月30日よりも前の平成19年4月の時点で,薬液が塗布されたティシュペーパー製品である製品名「クリネックスローションシルクフィール」(以下「シルクフィール」という。)を製造販売していた。シルクフィールは,本件発明2の構成要件を全て充足するから,本件発明2は,特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明である。
b 原告
シルクフィールが平成22年6月30日よりも前に製造販売されていたとか,片面にのみローションが塗布されていたとか,その静摩擦係数が0.50ないし0.65の範囲内にあるということはできない。
第3 当裁判所の判断
1 被告設備について
(1) 事案に鑑み,まず,被告設備における本件発明1-1の技術的範囲の属否について,判断する。
ア 構成要件bについて
「連続」とは,「つらなりつづくこと」,「つらねつづけること」を意味する(広辞苑第6版)から,構成要件bは,構成要件cないしfの規定する各手段がシートの流れ方向に順に組み込まれるプライマシンにおいて,抄紙設備により抄造され巻き取られた一次原反ロールから「つらなりつづく」ように,又は「つらねつづける」ようにティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造するものであることを規定するものである。証拠(甲2)によれば,本件特許1の特許出願の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には,背景技術及び発明が解決しようとする課題について,「マルチスタンド式インターフォルダを用いた製造方法の従来例としては,次のようなものがある。すなわち,抄紙設備において薄葉紙を抄造して巻き取ることで一次原反ロール(一般にジャンボロールともいわれている)を製造し,次いで,この一次原反ロールをプライマシンにセットし,複数の一次原反ロールから繰り出した一次連続シートを重ね合わせて巻き取ると共にスリット(幅方向にティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅に分割)し,複数のプライからなる二次原反ロールを製造する。プライマシンで製造された二次原反ロールは,プライマシンから取り出された後,必要な数だけマルチスタンド式インターフォルダにセットされる。次いで,二次原反ロールから二次連続シートを繰り出して,折畳機構部へ送り込み,ここで折り畳みながら積み重ね,その後,所定の長さに切断されてティシュペーパー束とし,収納箱内に収納する。このようなマルチスタンド式インターフォルダを用いた製造方法は,他の折り畳み設備を用いた製造方法に比べて,多数(通常80~100基)の折畳み機構を有しているため生産性が高いという利点を有している。」(段落【0004】),「ところで,近年では,ティシュペーパー製品に保湿剤や香料などの薬液を塗布されたものの需要が拡大しており,例えば下記特許文献5~7に開示されるような製造方法や設備が種々提案されている。このようなティシュペーパー製品は,主にロータリー式インターフォルダで製造されるのが一般的であった(例えば下記特許文献5)。しかし,ロータリー式インターフォルダは,加工方向と垂直方向に折畳みと裁断を同時に行なうため,生産性が低いという欠点があった。」(段落【0005】),「そこで,本発明者等は,薬液が塗布されたティシュペーパー製品を,ロータリー式インターフォルダに比して生産性の高いマルチスタンド式インターフォルダを用いた製造方法で製造することを考えたものの,マルチスタンド式インターフォルダを用いた製造方法で製造する場合,プライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に薬液塗布工程を設けると,原反の移送の手間や多大な設備コストがかかってしまうという問題があった。また,薬液塗布工程をマルチスタンド式インターフォルダに設けると,薬液を塗布するティシュペーパー製品を製造するラインと,薬液を塗布しないティシュペーパー製品を製造するラインとを分ける必要があった。」(段落【0007】),「そこで,本発明の主たる課題は,マルチスタンド式インターフォルダを利用するティシュペーパー製品の製造方法及び設備であって,低コストで薬液塗布を行うことができ,且つ,薬液塗布の有無を容易に切り替え可能であるティシュペーパー製品の製造方法及び製造設備を提供することにある。」(段落【0008】)と記載され,発明の効果について,「本発明では,ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備における積層連続シートに対して薬液を塗布するようになっている。このため,プライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に薬液塗布手段を設ける場合と比較して,設備コストを低く抑えることができる。また,薬液を塗布しないティシュペーパー製品を製造する場合は,ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造手段から薬液塗布手段を省略するだけで良いため,設備の切り替えが容易にできる。」(段落【0015】)と記載され,ティシュペーパーの製品用二次原反ロールの製造設備及び製造方法について,「〔ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備〕図11に示すように,本発明に係るティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X1(プライマシンX1)は,上述の製造方法などで製造された一次原反ロールJRを,少なくとも2つ以上セット可能とされており,これらの一次原反ロールJRから繰り出した一次連続シート(図示例ではS11,S12)を,その連続方向に沿って積層して積層連続シートS2とするプライ手段51を有している。」(段落【0022】),「プライ手段51の後段には,プライ手段51から流れてくる積層連続シートS2に対して薬液を塗布する一対の薬液塗布手段53が設けられており,これらの薬液塗布手段53の後段には,並設された複数のカッターから成り,薬液塗布手段53から移送されてきた積層連続シートS2をティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリットするスリット手段55が配置されている。そして,スリット手段55の後段には,スリット手段55によってスリットされた積層連続シートS2を同軸で巻取ってティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の複数の二次原反ロールRを形成する巻取り手段56が設けられている。ここで,この巻取り手段56は,スリットされた各積層連続シートS2を二次原反ロールRに案内するための2つのワインディングドラム56Aを有していて,これら2つのワインディングドラム56Aが二次原反ロールRの外周面に接して積層連続シートS2を案内している。」(段落【0023】),「〔ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法〕次に,本発明に係るティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法の一例を説明する。本形態に係るティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法は,例えば,上述したティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X1を用いて行うことができる。図11に示すように,本発明に係るティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法においては,プライ手段51で複数の一次原反ロールから繰り出される一次連続シート(図示例ではS11,S12)をその連続方向に沿って積層して積層連続シートS2とし(積層工程),この積層連続シートS2に対して一対の薬液塗布手段53で薬液を塗布し(薬液塗布工程),スリット手段55によって積層連続シートS2をティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリットし(スリット工程),次に,スリット工程でスリットされた積層連続シートS2を同軸で巻取ってティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の複数の二次原反ロールRを,巻き取り手段56によって形成する。」(段落【0110】),「なお,本形態に係るティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法では,上述したティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X1と同様に,積層工程の後段であって且つ薬液塗布工程の前段に,積層連続シートS2に対して一対のカレンダー手段52で平滑化処理する平滑化工程を設けることもできる。また,薬液塗布工程の後段であって且つスリット工程の前段に,積層連続シートS2に対してコンタクトエンボス手段54で層間剥離を防止するライン状のコンタクトエンボスを施すコンタクトエンボス工程を設けることもできる。」(段落【0111】),「図19に示すように,薬液塗布手段53とコンタクトエンボス手段54との間に,積層連続シートS2のテンションを制御するテンションコントロール手段57を設けることもできる。このテンションコントロール手段57は円筒形状のロールから形成されており,積層連続シートS2の撓み具合に合わせて上下動可能とされている。また,図19に示す形態のようにテンションコントロール手段57をもうける場合,薬液塗布手段53の前段と,テンションコントロール手段57の後段とにカレンダー手段52を配置することも提案される。この場合,テンションコントロール手段57の後段に配置されたカレンダー手段52では,薬液塗布時には,カレンダーロール52Aを受けロール52Bから積層連続シートS2の紙厚以上の距離だけ離間させて,積層連続シートS2に対して平滑化処理を行なわず素通しさせることも提案される(第2のティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備及び製造方法)。」(段落【0102】),「次に,ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備及び製造方法のその他の形態を説明する。〔第3のティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備及び製造方法〕図20に示すように,コンタクトエンボス手段54は,カレンダー手段52と薬液塗布手段53との間に設置することもできる。このようなティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X3を用いてのティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法は次のようになる。図20に示すように,本形態に係るティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法においては,プライ手段51で複数の一次原反ロールから繰り出される一次連続シート(図示例ではS11,S12)をその連続方向に沿って積層して積層連続シートS2とし(積層工程),この積層連続シートS2に対して一対のカレンダー手段52で平滑化処理し(平滑化工程),平滑化処理された積層連続シートS2に対してコンタクトエンボス手段54でコンタクトエンボスを付与し(コンタクトエンボス工程),コンタクトエンボスを付与された積層連続シートS2に対して一対の薬液塗布手段53で薬液を塗布し(薬液塗布工程),スリット手段55によって積層連続シートS2をティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリットし(スリット工程),次に,スリット工程でスリットされた積層連続シートS2を同軸で巻取ってティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の複数の二次原反ロールRを,巻き取り手段56によって形成する。なお,ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X3で,薬液が塗布されないティシュペーパー製品を製造する場合,図20において二点鎖線で示すように,積層連続シートS2をコンタクトエンボス手段54からスリット手段55に直接移送し,薬液塗布手段53を通さずに積層連続シートS2を流すだけで良い。」(段落【0121】),「〔第4のティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備及び製造方法〕図21に示すように,薬液塗布工程53は,コンタクトエンボス手段54は,プライ手段51とカレンダー手段52との間に設置し,カレンダー手段52を一段として薬液塗布手段53とコンタクトエンボス手段54との間に設置することもできる。このようなティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X4を用いてのティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法は次のようになる。図21に示すように,本形態に係るティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法においては,プライ手段51で複数の一次原反ロールから繰り出される一次連続シート(図示例ではS11,S12)をその連続方向に沿って積層して積層連続シートS2とし(積層工程),この積層連続シートS2に対して上下方向に並設された一対の薬液塗布手段53で薬液を塗布し(薬液塗布工程),一対のカレンダー手段52で平滑化処理し(平滑化工程),平滑化処理された積層連続シートS2に対してコンタクトエンボス手段54でコンタクトエンボスを付与し(コンタクトエンボス工程),スリット手段55によって積層連続シートS2をティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリットし(スリット工程),次に,スリット工程でスリットされた積層連続シートS2を同軸で巻取ってティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の複数の二次原反ロールRを,巻き取り手段56によって形成する。なお,ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X4で,薬液が塗布されないティシュペーパー製品を製造する場合,図21において二点鎖線で示すように,積層連続シートS2をカレンダー手段52からコンタクトエンボス手段54に移送し,薬液塗布手段53を通さずに積層連続シートS2を流すだけで良い。」(段落【0122】),「〔第5のティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備及び製造方法〕図22に示すように,一対のカレンダー手段52を上下方向に沿って配置し,且つ,一対の薬液塗布手段53を上下方向に沿って配置することもできる。このようなティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X5を用いてのティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法は次のようになる。図22に示すように,本形態に係るティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法においては,プライ手段51で複数の一次原反ロールから繰り出される一次連続シート(図示例ではS11,S12)をその連続方向に沿って積層して積層連続シートS2とし(積層工程),この積層連続シートS2に対して一対のカレンダー手段52で平滑化処理し(平滑化工程),積層連続シートS2に対して一対の薬液塗布手段53で薬液を塗布し(薬液塗布工程),積層連続シートS2に対してコンタクトエンボス手段54でコンタクトエンボスを付与し(コンタクトエンボス工程),スリット手段55によって積層連続シートS2をティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリットし(スリット工程),次に,スリット工程でスリットされた積層連続シートS2を同軸で巻取ってティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の複数の二次原反ロールRを,巻き取り手段56によって形成する。なお,ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X5で,薬液が塗布されないティシュペーパー製品を製造する場合,図22において二点鎖線で示すように,積層連続シートS2をカレンダー手段52からコンタクトエンボス手段54に直接移送し,薬液塗布手段53を通さずに積層連続シートS2を流すだけで良い。」(段落【0123】),「〔第6のティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備及び製造方法〕本発明のティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備は,図28に示すように,水平方向に二つのカレンダー手段52を並置し,そのカレンダー手段の上方に水平方向に配置された一対のチャンバー方式のフレキソ印刷機を配置した形態である。このティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X6によりティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造方法は次のようになる。まず,プライ手段51で複数の一次原反ロールから繰り出される一次連続シート(図示例ではS11,S12)をその連続方向に沿って積層して積層連続シートS2とし(積層工程),この積層連続シートS2に対して初段のカレンダー手段52で平滑化処理する(平滑化工程)。次に,そのカレンダー手段52を通った積層連続シートS2をエキスパンダーロール等のテンションコントロール手段,ガイドロール等の案内手段57を適宜設置して,フレキソ印刷機の上方に至らせる。そして,その積層連続シートS2を一対のフレキソ印刷機のうちの上流側のフレキソ印刷機53Bの刷版ロール64Bと弾性ロール65Bとの間を上方から下方側に向かう方向で通して薬液を一方面に塗布する。次にその一方面に薬液が塗布された積層連続シートS2を弾性ロール65Bに沿って上方に案内し,さらにガイドロール等の案内手段57を介して下流側のフレキソ印刷機53Aの上方へと至らせる。そして,その積層連続シートS2を下流側のフレキソ印刷機53Aの弾性ロール65Aと刷版ロール65Bとの間に上方から下方に向かう方向で通して両面の薬液塗布を完了する。積層連続シートS2に対して一対のフレキソ印刷機によって薬液を塗布したならば,積層連続シートS2に対してコンタクトエンボス手段54でコンタクトエンボスを付与し(コンタクトエンボス工程),スリット手段55によって積層連続シートS2をティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅となるようにスリットし(スリット工程),次に,スリット工程でスリットされた積層連続シートS2を同軸で巻取ってティシュペーパー製品の製品幅又はその複数倍幅の複数の二次原反ロールRを,巻き取り手段56によって形成する。なお,ティシュペーパー製品用二次原反ロールの製造設備X6で,薬液が塗布されないティシュペーパー製品を製造する場合,図28において二点鎖線で示すように,積層連続シートS2をカレンダー手段52からコンタクトエンボス手段54に直接移送し,薬液塗布手段53を通さずに積層連続シートS2を流すだけで良い。なお,本形態においては薬液塗布手段としてチャンバー方式のフレキソ印刷機としたが,これに限定されない。本形態は積層連続シートを刷版ロールと弾性ロールとの間に上方から下方に向かって通す形態を開示する。また,本形態では紙粉の発生が少ないという利点がある。」(段落【0124】),と記載されていること,本件特許1の特許出願の願書に添付した図面のうち,【図11】,【図19】,【図20】,【図21】,【図22】及び【図28】は,上記発明の詳細な説明中で引用する「二次原反ロールの製造設備,製造方法を示す概略図」であるが,いずれの図面も,2つの一次原反ロール(JR)から繰り出した一次連続シート(S11,S12)がつながり,プライ手段(積層工程)で積層連続シート(S2)となって,その後,積層連続シート(S2)が途切れることなく,カレンダー手段(平滑工程),薬液塗布手段(薬液塗布工程),コンタクトエンボス手段(コンタクトエンボス工程)及びスリット手段(スリット工程)を経て,巻き取り手段(巻き取り工程)で二次原反ロール(R)を形成することを図示していることが認められる。以上の事実によれば,本件発明1-1は,保湿剤や香料などの薬液を塗布したティシュペーパー製品の需要が拡大していることから,ロータリー式インターフォルダに比して生産性の高いマルチスタンド式インターフォルダを用いて薬液を塗布したティシュペーパーを製造する場合に,プライマシンやマルチスタンド式インターフォルダとは別に薬液塗布工程を設けることにより原反の移送の手間や多大な設備コストがかかったり,薬液塗布工程をマルチスタンド式インターフォルダに設けることによりラインを分ける必要が生じるという課題を解決するために,プライマシンに薬液塗布手段を設け,複数の一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造するという構成を採用したのである。そして,上記明細書の発明の詳細な説明や上記図面には,一次原反ロールからティシュペーパーの製品用の二次原反ロールを製造する設備であるプライマシンに薬液塗布工程を設け,一次原反ロールから繰り出された一次連続シートが積層され,積層連続シートが巻き取られて二次原反ロールを形成するまで途切れることなく流れていることが記載されていて,例えば,薬液塗布工程の前に,積層連続シートを巻き取って原反ロールを形成し,改めて,この原反ロールを移動して薬液塗布その他の工程を経ることを窺わせるような記載はない。そうであれば,構成要件bの「抄紙設備により抄造され巻き取られた一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造するプライマシン」は,一次原反ロールからマルチスタンド式インターフォルダにセットされる二次原反ロールを製造するまでの工程において,その途中で原反ロールを形成することなく,すべての工程が「つらなりつづく」ように,又は「つらねつづける」ように一次原反ロールから二次原反ロールを製造する設備を意味するものと認められる。
イ 証拠(乙4,22,24,27)及び弁論の全趣旨によれば,被告設備は,薬液を塗布したティシュペーパー製品を製造するときは,抄紙設備により抄造され巻き取られた複数の原反ロールから繰り出される連続シートをその連続方向に沿って積層し,積層して得た積層連続シートをティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅となるようにスリットしてから,巻き取って原反ロールを製造し,これを保管場所に移動して保管し,その後,薬液塗布工程のある場所に移動し,原反ロールから繰り出される積層連続シートに対して薬液を塗布してから同軸で巻取ってティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅の原反ロールを製造するものであることが認められる。そうすると,被告設備は,一次原反ロールから二次原反ロールを形成するまでに薬液塗布設備の前で原反ロールを形成し,改めて,これを移動しているのであるから,被告設備には,「抄紙設備により巻き取られた一次原反ロールから連続的にティシュペーパー用の二次原反ロールを製造するプライマシン」がなく,被告設備は,本件発明1-1の構成要件bを充足しない。
ウ したがって,被告設備は,本件発明1-1の技術的範囲に属するとは認められない。
(2) 以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,被告が被告設備を設置して使用することが本件特許権1を侵害するとは認められない。
2 被告方法について
(1) 事案に鑑み,まず,被告設備における本件発明1-2の技術的範囲の属否について,判断する。
ア 前記1(1)アに認定,判示したところに照らせば,構成要件lの「抄紙設備により抄造され巻き取られた一次原反ロールから連続的にティシュペーパー製品用の二次原反ロールを製造するプライマシン」は,一次原反ロールからマルチスタンド式インターフォルダにセットされる二次原反ロールを製造するまでの工程において,その途中で原反ロールを形成することなく,すべての工程が「つらなりつづく」ように,又は「つらねつづける」ように一次原反ロールから二次原反ロールを製造する設備を意味するものと認められる。
イ 証拠(乙4,22,24,27)及び弁論の全趣旨によれば,被告方法は,薬液を塗布したティシュペーパー製品を製造するときは,抄紙設備により抄造され巻き取られた複数の原反ロールから繰り出される連続シートをその連続方向に沿って積層し,積層して得た積層連続シートをティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅となるようにスリットしてから,巻き取って原反ロールを製造し,これを保管場所に移動して保管し,その後,薬液塗布工程のある場所に移動し,原反ロールから繰り出される積層連続シートに対して薬液を塗布してから同軸で巻取ってティシュペーパー製品の製品幅の複数倍幅の原反ロールを製造するものであることが認められる。そうすると,被告方法は,一次原反ロールから二次原反ロールを形成するまでに薬液塗布工程の前で原反ロールを形成し,改めて,これを移動しているのであるから,被告方法には,「抄紙設備により巻き取られた一次原反ロールから連続的にティシュペーパー用の二次原反ロールを製造するプライマシン」がなく,被告方法は,本件発明1-2の構成要件lを充足しない。
ウ したがって,被告方法は,本件発明1-2の技術的範囲に属するとは認められない。
(2) 以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,被告が被告方法によりティシュペーパーを製造して,販売等することが本件特許権1を侵害するとは認められない。
3 被告製品について
(1) 被告製品における本件発明2の技術的範囲の属否について,判断する。
ア 構成要件yについて
(ア) (A)ないし(D)の手順について
証拠(甲25)によれば,本件特許2の特許出願の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明には,構成要件yの静摩擦係数の測定について,「他方,本発明のティシュペーパーは,静摩擦係数が0.50~0.65,より好ましくは0.55~0.60であるのが望ましい。ここでの静摩擦係数は,JISP8147(1998)に準じた,下記の方法で測定する。1プライにはがしたティシュペーパーを,ティシュペーパーの外側の面が外側に来るようにアクリル板に張り付ける。2プライのまま100gの分銅にティシュペーパーを巻きつけ,アクリル板上のティシューに乗せる。アクリル板を傾け,おもりが滑り落ちる角度を測定する。角度測定はMD方向同士で4回,CD方向同士で4回の計8回実施し,平均角度を算出し,そのタンジェント値を静摩擦係数とする。」(段落【0042】)との記載があることが認められ,これによれば,構成要件yの静摩擦係数の測定の手順は,「JISP8147」に準じた,すなわち,「JISP8147」の規定と明示的に異なる部分を除き,「JISP8147」の規定に従うことを意味すると考えられる。そして,証拠(乙1)によれば,「JISP8147」は,紙及び板紙の摩擦係数試験方法に関するJIS規格であり,水平方法又は傾斜方法によって加工紙を含む紙及び板紙の表面間の摩擦係数を測定する試験方法について規定するが,ここで,静摩擦係数とは,紙の最初の動きを阻止しようとする摩擦力と紙に垂直に加わる力の比をいい,傾斜方法では,おもりが滑り始めたときの角度の正接(tanθ)で表されること,傾斜方法では,滑り傾斜角測定装置は,本体及びおもりからなり,本体は,水準器を取り付けた固定台に平行になるような,ちょうつがいで取り付けた傾斜板を持ち,傾斜板の傾斜角は少なくとも45度まで開くことができ,傾斜角を0.5度単位で指示できる目盛り板がつき,傾斜板の上端には試験片を固定するつかみが取り付けてあって,下端にはストッパーが付いており,傾斜板は金属,堅木,硬質プラスチック製で表面が平滑なものを用い,その寸法は,おもりの幅より25mm以上広く,少なくともおもりが15mm以上動かせる長さをもつものであって,おもりは,長方形の平らな底面をもつ金属製ブロックで,試験片を固定するつかみがついていて,試験片を取り付ける面(底面及び側面)は,3mm以上の厚さのゴムシートで覆ってもよく,水平時底面にかかる圧力は1.64kPa±0.24kPa{16.7±2.5gf }とされること(おもりの質量は,例えば幅60mm,長さ100mm,質量1000gのものが使用されるが,寸法,質量とも厳密である必要がないとされる。),試験片は,「JISP8111」に従い前処置された試料から,本体用とおもり用をそれぞれ5枚以上を採取し,測定目的によって試験片の縦横採取方法及び試験片の表裏の組合せを決めるが,試験片には傷やしわがあってはならないとされていること,試験は,「JISP8111」に規定する標準状態の室内で行うこととされ,①本体の固定台に取り付けた水準器で水平を確認し,②本体用試験片を本体傾斜板に,おもり用試験片をおもりにそれぞれ測定面を外側にして密着させ,③傾斜板の傾斜角を零に合わせ,本体用試験片の上に試験片を取り付けたおもりを置き,④毎秒3.0度以下の一定の速度で傾斜板の傾斜角度を上げ,おもりが滑り始めたときの傾斜角を読み取り,⑤②ないし④の操作を繰り返し,ひとつの組合せについて5回以上測定することとされていること,滑り出し開始の角度の正接(tanθ)を静摩擦係数として,その平均値を「JISZ8401」によって小数点2けたに丸めて報告するとされていることが認められる。
(イ) まず,原告における静摩擦係数の測定についてみる。
a 証拠(甲33,65,70,71)によれば,次の事実が認められる。
(a) 大宮製紙株式会社の商品開発部従業員は,日本T.M.C.株式会社製の傾斜式摩擦係数測定機「D-123」を用いて,①1プライにはがした被告製品(ロットNo.20091263)を,その外側の面が外側に来るようにアクリル板に張り付け,②2プライのまま100gの分銅に被告製品を巻きつけ,アクリル板上の被告製品に乗せ,③アクリル板を秒速1.7度の速度で傾け,センサーが作動しておもりが滑り始める角度を測定し,④角度測定は,MD方向同士で4回,CD方向同士で4回の計8回実施し,そのタンジェント値を静摩擦係数として測定したところ,水平時底面圧力が1.59kPaの分銅を使用したときの平均角度から得たタンジェント値は0.57であった。
(b) 大宮製紙株式会社の商品開発部従業員は,新東科学株式会社製の静摩擦係数測定機「HEiDON TYPE:10」(以下「HEiDON」という。)を用いて,①1プライにはがした被告製品(ロットNo.20091263)を4cm×4cmに切り取り,その外側の面が外側となるようにし,アクリル板に滑り落ちる側のみ固定しないで三方をセロハンテープで皺や弛みのない状態で固定して張り付け,②2プライのまま100gの分銅に被告製品を巻きつけ,③これをアクリル板に張り付けた被告製品に乗せ,④アクリル板を秒速1.7度の速度で傾け,センサーが作動してアクリル板の動きが停止した時を分銅が滑り始める角度として測定し,⑤角度測定は,MD方向同士で4回,CD方向同士で4回の計8回実施し,平均角度を算出して,その角度から得たタンジェント値を静摩擦係数として測定したところ,水平時底面圧力が1.59kPaの分銅を使用したときの平均角度から得たタンジェント値は0.58であった。
(c) 一般財団法人化学物質評価研究機構大阪事業所は,HEiDON を用いて,①1プライにはがした被告製品(ロットNo.20091263)を10cm×10cmに切り取り,その外側の面が外側に来るようにアクリル板に四方をセロハンテープで皺や弛みのない状態で固定して張り付け,②2プライのまま100gの分銅に被告製品を巻きつけ,③これをアクリル板に張り付けた被告製品に乗せ,④アクリル板を秒速1.7度の速度で傾け,センサーが作動してアクリル板の動きが停止した時を分銅が滑り落ちる角度として測定し,⑤角度測定は,MD方向同士で4回,CD方向同士で4回の計8回実施し,その平均角度のタンジェント値を静摩擦係数として測定したところ,水平時底面圧力が1.59kPaの分銅を使用したときの平均角度から得たタンジェント値は0.58(センサーの位置を通常より10mm高くした場合は0.55)であった。
b 上記認定の各測定は,構成要件yの(A)ないし(D)の手順により,「JISP8147」に準じて行われたと認められるところ,これによれば,その静摩擦係数は,0.55,0.57及び0.58というのであり,構成要件yの規定する数値範囲内にある。
(ウ) 次いで,被告における静摩擦係数の測定についてみる。
a 証拠(乙52,63ないし65,72,73,80)によれば,次の事実が認められる。
(a) 被告の商品開発部従業員は,HEiDON を用いて,①1プライにはがした被告製品(ロットNo.06121263)を10cm×10cmに切り取り,その外側の面が外側に来るようにアクリル板に皺や弛みのないように張り付けて四方をセロハンテープで固定し,②2プライのまま100gの分銅に被告製品を巻きつけ,③これをアクリル板上に張り付けた被告製品に乗せ,④アクリル板を秒速1.7度の速度で傾け,センサーが作動しておもりの動きを検知した時のデジタル傾斜計の値を読み取り,⑤測定をMD方向同士で4回,CD方向同士で4回の計8回実施し,測定した角度ごとから得たタンジェント値を平均した値を静摩擦係数として測定したところ,おもりの水平時底面圧力が1.59kPaの分銅を使用した時のタンジェント値の平均は0.73及び0.74であり,おもりの水平時底面圧力が1.49kPaの分銅を使用した時のタンジェント値の平均は0.90及び0.92であった。
(b) 被告の商品開発部従業員は,HEiDON を用いて,①1プライにはがした被告製品(ロットNo.06121263)を4cm×4cmに切り取り,その外側の面が外側に来るようにアクリル板に皺や弛みのないように張り付けて四方をセロハンテープで固定し,②2プライのまま100gの分銅に被告製品を巻きつけ,③これをアクリル板上の被告製品に乗せ,④アクリル板を秒速1.7度の速度で傾け,センサーが作動しておもりの動きを検知した時のデジタル傾斜計の値を読み取り,⑤測定をMD方向同士で4回,CD方向同士で4回の計8回実施し,測定した角度ごとから得たタンジェント値を平均した値を静摩擦係数として測定したところ,おもりの水平時底面圧力が1.59kPaの分銅を使用した時のタンジェント値の平均は0.79及び0.81であり,おもりの水平時底面圧力が1.49kPaの分銅を使用した時のタンジェント値の平均は0.95及び0.97であった。
(c) 一般財団法人ボーケン品質評価機構は,HEiDON を用いて,①1プライにはがした被告製品(ロットNo.06121263)を4cm×4cm又は10cm×10cmに切り取り,その外側の面が外側に来るようにアクリル板に皺や弛みのないように張り付けて四方をセロハンテープで固定し,②2プライのまま100gの分銅に被告製品を巻きつけ,③これをアクリル板上の被告製品に乗せ,④アクリル板を秒速1.7度の速度で傾け,おもりが滑り始める時の傾きをセンサーで測定し,⑤これをMD方向同士で4回,CD方向同士で4回の計8回実施し,測定した角度ごとから得たタンジェント値を平均した値を静摩擦係数として測定したところ,おもりの水平時底面圧力が1.59kPaの分銅を使用した時のタンジェント値の平均は4cm×4cmに切り取ったものについて0.78,10cm×10cmに切り取ったものについて0.70であった(なお,4cm×4cmに切り取った被告製品をその外側の面が外側に来るようにアクリル板に滑り落ちる方向以外をセロハンテープで固定して測定すると,タンジェント値の平均は0.76であった。)。
b 上記認定の各測定は,構成要件yの(A)ないし(D)の手順により,「JISP8147」に準じて行われたと認められるところ,これによれば,その静摩擦係数は,0.70,0.73,0.74,0.76,0.78,0.79,0.81,0.90,0.92,0.95及び0.97というのであり,構成要件yの規定する数値範囲外にある。なお,原告における静摩擦係数の測定は,分銅が滑り落ちる角度の平均を算出し,その平均角度から得たタンジェント値を静摩擦係数としているのに対し,被告における静摩擦係数の測定は,分銅が滑り落ちる角度ごとから得たタンジェント値を平均した値を静摩擦係数としているものであるが,両者の間に有意な差があるということはできない。
(エ) 原告は,被告における静摩擦係数の測定は,アクリル板に皺や弛みがある状態で被告製品を張り付けて行ったものであると主張する。しかしながら,前掲証拠(甲63,乙52,63ないし65,72,73,80)ほか全証拠によっても,被告における静摩擦係数の測定に際して,アクリル板上に固定した被告製品に皺や弛みがあったことは窺えない。原告の上記主張は,採用することができない。
また,原告は,被告における静摩擦係数の測定は,センサーの反応を遅らせるようにして行ったものであると主張する。確かに,証拠(乙63,65)によれば,被告における静摩擦係数の測定の際に,おもりが動いたにもかかわらず,センサーが作動しないことがあったことが認められるが,証拠(甲39,46)によれば,HEiDON は,分銅の頂部に固定された遮光板が凹型センサー部の投光部と受光部との間を0.5mm以上移動すると,投光部からの光を受光部が感知して,アクリル板が固定された上昇板が停止するものであることが認められるから,おもりが動いたときにセンサーが作動しないことがあったとしても不自然ではないし,証拠(甲74)によれば,原告における静摩擦係数の測定の際にも同様の事象があったことが認められるのである。そして,証拠(乙63,65)によれば,被告における静摩擦係数の測定の際に,実験開始時におもりの後部が浮いているものもあることが認められるが,おもりの後部が浮いていないものであってもほぼ同様の角度でセンサーが作動していることが認められる。そうであるから,被告における静摩擦係数の測定に際して,センサーの反応を遅らせるようにしたとは窺えない。原告の上記主張は,採用することができない。
さらに,原告は,被告における静摩擦係数の測定結果によれば,被告製品の静摩擦係数はゴムシートやサンドペーパーのそれと同等かそれ以上ということになり,常識的に考え難いと主張する。しかしながら,証拠(甲64)によれば,ゴムシートやサンドペーパーの静摩擦係数の測定は,アクリル板にゴムシートやサンドペーパーを固定して行ったものであることが認められるところ,この測定結果と被告における被告製品の静摩擦係数の測定結果を比較することに意味はない。原告の上記主張は,採用することができない。
(オ) そうすると,原告と被告は,それぞれにおいて,被告製品について,構成要件yの(A)ないし(D)の手順により,「JISP8147」に準じて静摩擦係数を測定したにもかかわらず,原告における測定は,静摩擦係数が構成要件yの規定する数値範囲内にあり,被告における測定は,静摩擦係数が構成要件yの規定する数値範囲外にあるということになる。なお,被告がロット毎に被告製品の製造の方法や製品の仕様を変えていることは格別窺えないから,これらの相違がロット番号を異にすることによるとは考え難い。
これらの相違は,構成要件yの(A)ないし(D)の手順により,「JISP8147」に準じて静摩擦係数を測定しても,その際の紙片のアクリル板への張付け,分銅への巻付けの方法や被告製品のどの部分を試料として選択するかの試料選択等の定量不能な条件が相違することによるものと考えられるが,このような場合,被告製品が構成要件yを充足するというためには,構成要件yの(A)ないし(D)の手順により,「JISP8147」に準じて静摩擦係数を測定する限り,その結果が,具体的な条件のいかんにかかわらず,構成要件yの規定する数値範囲内になければならないと解するのが相当である。
被告における静摩擦係数の測定結果は,構成要件yの規定する数値範囲外にあるから,被告製品は本件発明2の構成要件yを充足するということはできない。
イ したがって,被告製品は,本件発明2の技術的範囲に属するとは認められない。
(2) 以上によれば,その余の点を検討するまでもなく,被告が被告製品を製造,販売等することが本件特許権2を侵害するとは認められない。
4 よって,原告の請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高野輝久
裁判官 三井大有
裁判官 藤田壮
(別添特許公報は省略)
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/84809/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。