平成29年12月26日判決言渡
平成29年(行ケ)第10029号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成29年11月7日
判決
原告長春石油化學股份有限公司
原告長春ジャパン株式会社
上記両名訴訟代理人弁理士町田能章
藤浪一郎
松島純也
被告日本合成化学工業株式会社
同訴訟代理人弁護士飯田秀郷
大友良浩
森山航洋
清水紘武
同訴訟代理人弁理士濱田百合子
北島健次
横川晃志
主文
1 特許庁が無効2016-800013号事件について平成28年9月13日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,①新規性の有無,②進歩性の有無,③実施可能要件違反の有無,④サポート要件違反の有無,⑤明確性要件違反の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
被告は,平成15年7月16日,発明の名称を「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群及びその用途」とする発明につき,特許を出願し(特願2003-275196号),平成22年9月3日,設定登録(特許第4580627号)を受けた(請求項の数3。甲30。以下「本件特許」という。)。
原告らは,平成28年2月2日,本件特許の請求項1~3に係る発明について特許無効審判請求をした(無効2016-800013号。以下「本件審判請求」という。甲31。)。
特許庁は,平成28年9月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月26日,原告らに送達された。
2 本件発明の要旨
本件特許の請求項1~3に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲30。以下,これらの発明を「本件発明1~3」といい,これらの発明を併せて「本件発明」という。本件特許の明細書〔甲30〕を「本件明細書」という。)。【請求項1】(本件発明1)
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微紛(判決注:「微粉」の誤記と認める。以下「微紛」とあっても「微粉」と表記する。)の含有量が0.1重量%以下であることを特徴とするエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群。」【請求項2】(本件発明2)
「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物が,エチレン‐酢酸ビニル共重合体ケン化物に対してホウ素換算で0.001~1重量%のホウ素化合物を含有していることを特徴とする請求項1記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群。」
【請求項3】(本件発明3)
「請求項1または2記載のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群を成形してなる層を少なくとも一層含有することを特徴とする積層体。」
3 審判における請求人(原告)らの主張
(1) 本件特許の請求項1の「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」の技術的意義が記載されていないから,本件発明1~3の意義を理解するために必要な事項が記載されておらず,特許法36条4項1号が定める経済産業省令の定めるところに記載したものであるという要件(以下「委任省令要件」という。)を満たしていない。
また,篩分けの方法,条件等が,本件特許の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されておらず,本件特許のエチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物ペレット群を製造することができないから,本件特許の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を満たしていない。
(2) 篩分けの方法,条件等が,本件特許の発明の詳細な説明に記載されておらず,特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の記載を超えており,本件特許の出願時の技術常識を参酌しても,発明の詳細な説明に開示された内容を特許請求の範囲に拡張ないし一般化することができないから,本件特許の特許請求の範囲の記載は,サポート要件を満たしていない。
(3) 本件発明1~3の内容及び範囲が不明確であり,また,特許請求の範囲に特定された「微粉」及び「群」の意味が不明確であるから,本件特許の特許請求の範囲の記載は,明確性要件を満たしていない。
(4) 本件発明1及び3は,甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)であるから,新規性を欠く。
(5) 本件発明1~3は,甲1~3に記載された発明,設計事項及び周知慣用技術に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く。
(6) 本件発明1は,出願前に公然実施された発明であるから,新規性を欠く。
4 審決の理由の要点
(1) 委任省令違反の有無について
「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物(以下,EVOHと略記する)のペレット群及びそれを用いた積層体」(本件明細書【0001】)の技術分野において,「各種積層体に適用したときには押出機へのフィードの不安定性等によりEVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する恐れがある」(本件明細書【0005】)との未解決の課題があり,それを「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下」(【請求項1】)として解決したことが発明の詳細な説明中に記載されているから(本件明細書【0006】,【0007】,【0015】及び【0036】~【0045】),本件発明がどのような技術上の意義を有するかを理解できる。
(2) 実施可能要件違反の有無について
ア EVOHペレット及び微粉の粒径,形状等について
本件明細書の発明の詳細な説明には,EVOHペレット単体の粒径(寸法),平均粒径及び粒径分布については記載されていないが,本件明細書【0036】,【0037】の記載から,各種材料及びその量比,ケン化度や温度条件,製造順序等が明らかであるから,EVOHペレット群及びEVOHペレット群を用いた多層フィルム自体を作ること,使用することができる。
そうすると,当業者は,過度の試行錯誤なく,本件発明に係るEVOHペレット群や積層体を作ることができ,使用することができるような記載が発明の詳細な説明にあるといえる。
また,ポリマーのペレットとは,「直径あるいは1辺が2~5mmくらいの円柱,球状などにペレタイザーを用いて造粒された成形材料」をいい(乙6),EVOHペレットのサイズの例示が「長さ3.0mm,直径2.5mm」であることも踏まえると(乙1),発明の詳細な説明にEVOHペレット単体の粒径(寸法),平均粒径及び粒径分布について記載されていなくとも,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき,当業者が本件発明に係るEVOHペレット群や積層体を作ることができ,使用することができるといえる。
イ EVOHペレット群が製造不可能であること
「得られたEVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)の篩を通して分別し,32メッシュオンのEVOHペレット100部と32メッシュ通過EVOHペレット0.03部(0.03%)を混合して本発明のEVOHペレット群を得た。」(本件明細書【0036】)との記載から,「32メッシュオンのEVOHペレット」と「32メッシュ通過EVOHペレット」を混合したものが本件発明のEVOH「ペレット群」に含まれると解するのが自然であり,これを用いて,多層フィルムが作製され(本件明細書【0037】),「EVOH層の乱れによるゲルの発生状態」が評価されている(本件明細書【0038】)。
そうすると,当業者は,過度の試行錯誤なく,本件発明に係るEVOHペレット群や積層体を作ることができ,使用することができるような記載が発明の詳細な説明にあるといえる。
(3) サポート要件違反について
ア 篩分けについて
本件発明の課題は,「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する」(本件明細書【0005】)ことであって,これを解決するために「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群」(本件明細書【0006】)とすることが発明の詳細な説明に記載されている。
また,「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群」が上記課題を解決することが実施例として確認されている(本件明細書【0036】~【0044】)。
そうすると,当業者は,開示される篩分けの方法(本件明細書【0016】)を参考にしながら,篩の目開きを500μにして,この篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下であるEVOHペレット群を多層フィルムの作製に供して(本件明細書【0037】),上記課題を解決することができるといえる。
イ 積層体の材料について
積層体を製造するに当たり,共押出の場合の相手側樹脂の好ましいものが本件明細書【0029】に開示されている。
そして,実施例として,「EVOHペレット(I),ナイロン-6〔三菱エンジニアリングプラスチックス社製「NOVAMID1022-1」〕(II),ポリプロピレン〔日本ポリケム社製「FL6CK」〕(III)及び接着性樹脂〔三井化学社製「ADMERQF500」,無水マレイン酸変性ポリプロピレン〕(IV)を,フィードブロック式共押出多層フィルム成形機(グンゼ産業社製)に供給して,(II)/(I)/(IV)/(III)=10/10/10/120(μm;厚み)の層構成を有する多層フィルム」が例示されている(本件明細書【0037】)。
そうすると,当業者は,本件明細書【0037】に例示される多層フィルムを参考にしながら,樹脂の組合せを変えた多層フィルムを作製して,上記課題を解決することができると認識できる。
ウ 微粉の数値範囲について
EVOHペレットに混合される32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の割合につき,実施例1では0.08%,実施例2では0.03%,実施例3では0.08%,実施例4では0.02%とし,このようなEVOHペレットの成形性が良好であること,すなわち上記課題が解決されていることを確認している(本件明細書【0044】)。
そうすると,当業者は,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の割合を0.2%とする比較例との対比において(本件明細書【0042】),「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉の含有量が0.1重量%以下」とすることにより,上記課題を解決することができると認識できる。
エ ホウ素の数値範囲について
「ホウ素化合物の含有量は特に限定されないが,EVOHに対してホウ素換算で0.001~1重量%(さらには0.001~0.2重量%,特には0.02~0.1重量%)になるように含有させることが好ましく,かかる含有量が0.001重量%未満では添加効果に乏しく,逆に1重量%を超えると成形物中にゲルやスジが発生する傾向にあり好ましくない。」(本件明細書【0019】)との記載から,ホウ素化合物の含有量は,従来公知の課題である「成形物中にゲルやスジが発生」を抑制するものであることが理解できる。
そうすると,本件発明2は,本件発明1に更に「ホウ素化合物」を含有することで,「EVOH層の界面での乱れに起因するゲル等が発生する」との本来の課題に加え,従来公知の課題も併せて解決するというものである。本件明細書の発明の詳細な説明において,たとえホウ素化合物の含有量が0.03重量%のみの開示に止まるとしても,当業者は,上記本来の課題解決することができると認識できる。
(4) 明確性要件違反について
ア 発明の範囲が不明確であることについて
「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」との記載は,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過できない微粉は含まれないという意味で微粉の大きさが明確に理解できる。また,「EVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)の篩を通して分別し」(本件明細書【0036】)との記載からも,同様に理解できる。加えて,「JISK6726ポリビニルアルコール試験方法3.10粒度」(乙7)との技術常識に従い,当業者は,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する事実上全ての微粉の量を測定することができる。
イ 篩分けの特定について
「メッシュ」とは,25.4mm間にある線の数,または網目の数をいい,「目開き」とは,線径とメッシュの組合せにより決まるものであるから,「32メッシュ(目開き500μ)」も客観的に定まるものであって,「32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉」も明らかである。また,「EVOHペレットを32メッシュ(目開き500μ)の篩を通して分別し」(本件明細書【0036】)との記載からも,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する微粉であることは理解できる。加えて,「JISK6726ポリビニルアルコール試験方法3.10粒度」(乙7)との技術常識に従い,当業者は,32メッシュ(目開き500μ)篩を通過する事実上全ての微粉の量を測定することができる。
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出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/87367/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。