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地裁判決

東京地判 平成31年3月20日

平成29年(ワ)第26468号 特許権侵害差止等請求事件

裁判所
東京地方裁判所
裁判年月日
平成31年3月20日 (2019-03-20)
事件番号
平成29年(ワ)第26468号
事件名
特許権侵害差止等請求事件
裁判の種類・結果
判決
判例集等
—
分野
民事・知的財産・特許権・民事訴訟
この事件の審級
  1. 第一審東京地判平成31・3・20
  2. 控訴審知財高判令和2・1・21(控訴棄却)

平成31年3月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官

平成29年(ワ)第26468号特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日平成31年1月30日

判決

原告センクシア株式会社

同訴訟代理人弁護士齊藤拓史

松山智恵

髙梨義幸

小勝有紀

同補佐人弁理士澤井光一

被告コーリョー建販株式会社

同訴訟代理人弁護士飯田圭

同訴訟代理人弁理士奥山尚一

小川護晃

同補佐人弁理士徳本浩一

主文

1 被告は,別紙被告製品目録記載の各製品を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

2 被告は,別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。

3 被告は,原告に対し,156万2345円及びこれに対する平成30年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用はこれを5分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

6 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 主文第1項及び第2項と同旨

2 被告は,原告に対して,1377万2088円及びこれに対する平成30年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 仮執行宣言

第2 事案の概要

1 本件は,原告が,被告に対し,被告は別紙被告製品目録記載の各製品(以下,その符号に従い「被告製品1」などといい,併せて「被告各製品」という。)を製造,販売等することにより原告の有する特許権を侵害しているとして,特許法100条1項に基づく被告各製品の生産,使用及び譲渡等の差止め並びに同条2項に基づく同各製品の廃棄を求めるとともに,民法709条,特許法102条2項又は3項に基づく損害賠償金1377万2088円及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

なお,原告は,原告第8準備書面(訴えの変更)により,請求の趣旨第3項を,当初の「被告は,原告に対して,1377万2088円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」から「被告は,原告に対して,156万2345円及びこれに対する平成30年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」と減縮したが,被告は,これに同意しなかった。その後,原告は,第2回口頭弁論期日において,請求の趣旨第3項を前記第1の2のとおり改め,被告はこれに同意した。

2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実)

(1) 当事者

ア 原告は,建築構造用部材及びその附属品の製造,販売及び工事等を業とする株式会社である。

イ 被告は,建築資材の販売,土木・建築工事の施工,請負,設計,監理及びこれらに付帯関連する一切の業務を業とする株式会社である。

(2) 原告の特許権

ア 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本件特許」という。)を有している。(甲1,2)

登録番号:特許第3909365号

発明の名称:梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造

出願日:平成14年12月3日(特願2002-351706)

優先日:平成13年12月4日

優先権主張国:日本国

登録日:平成19年2月2日

イ 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1,2,4及び5の記載は,以下のとおりである(以下,上記各請求項に係る発明を,その符号に従い「本件発明1」などといい,併せて「本件各発明」という。)。なお,下線部は平成18年9月26日受付に係る手続補正書(以下「本件手続補正書」という。乙5)により補正(以下「本件手続補正」という。)された部分である。(ア) 請求項1(本件発明1)

梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍とし,前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成したことを特徴とする梁補強金具。

(イ) 請求項2(本件発明2)

前記梁補強金具の体積を,前記梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0~3.0倍としたことを特徴とする請求項1に記載の梁補強金具。

(ウ) 請求項4(本件発明4)

前記外周部の最小外径部から前記フランジ部外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし,前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下としたことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の梁補強金具。

(エ) 請求項5(本件発明5)

前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下としたことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の梁補強金具。

ウ 本件各発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。

(ア) 本件発明1

1-A梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって,

1-Bその軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍とし,

1-C前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した

1-Dことを特徴とする梁補強金具。

(イ) 本件発明2

2-A前記梁補強金具の体積を,前記梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0~3.0倍とした

2-Bことを特徴とする請求項1に記載の梁補強金具。

(ウ) 本件発明4

4-A前記外周部の最小外径部から前記フランジ部外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし,

4-B前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とした

4-Cことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の梁補強金具。

(エ) 本件発明5

5-A前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下とした5-Bことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の梁補強金具。

エ 被告は,平成29年10月19日,本件特許につき特許無効審判請求をし(無効2017-800139。乙22),原告は,平成30年1月9日付けで,本件特許の特許請求の範囲について以下の訂正(以下「本件訂正」という。)を求める訂正請求(甲11)をした。

①請求項1及びその記載を引用する請求項2~7の訂正(訂正事項1。訂正内容は後記オ(ア)のとおり。)

②請求項4及びその記載を引用する請求項5~7の訂正(訂正事項2。訂正内容は後記オ(ウ)のとおり。)

特許庁は,平成30年10月3日,本件訂正を認め,上記審判請求は成り立たないとする審決(甲12)をした。被告は,同審決を不服として,知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起した(知財高裁平成30年(行ケ)第10163号)。

オ 本件訂正後の請求項1,2,4及び5の記載は,以下のとおりである(以下,その符号に従い「本件訂正発明1」などといい,併せて「本件各訂正発明」という。なお,下線部が訂正部分である(下記カも同じ。))。(甲11,12)

(ア) 請求項1(本件訂正発明1)

梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍とし,前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面であることを特徴とする梁補強金具。(イ) 請求項2(本件訂正発明2)

前記梁補強金具の体積を,前記梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0~3.0倍としたことを特徴とする請求項1に記載の梁補強金具。

(ウ) 請求項4(本件訂正発明4)

前記外周部の最小外径部から前記フランジ部の外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし,前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下としたことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の梁補強金具。

(エ) 請求項5(本件訂正発明5)

前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下としたことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の梁補強金具。

カ 本件各訂正発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。(ア) 本件訂正発明1

1-A梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって,

1-Bその軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍とし,

1-C'-1前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,

1-C'-2前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前

記フランジ部の外周まで平面である

1-Dことを特徴とする梁補強金具。

(イ) 本件訂正発明2

2-A前記梁補強金具の体積を,前記梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0~3.0倍とした

2-Bことを特徴とする請求項1に記載の梁補強金具。

(ウ) 本件訂正発明4

4-A’前記外周部の最小外径部から前記フランジ部の外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし,

4-B前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とした

4-Cことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の梁補強金具。

(エ) 本件訂正発明5

5-A前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下とした5-Bことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の梁補強金具。

(3) 被告の行為と被告各製品の構成等

ア 被告は,被告各製品を製造,販売及び使用している。

イ 被告各製品の構成は,別紙被告製品説明書のとおりである。

ウ 被告各製品は,本件発明1の構成要件1-B~D,本件発明2の構成要件2-A,本件発明4の構成要件4-A,本件発明5の構成要件5-A,本件訂正発明1の構成要件1-B,1-C'-1,1-C'-2,1-D,本件訂正発明2の構成要件2-A,本件訂正発明4の4-A’,本件訂正発明5の構成要件5-Aをそれぞれ充足する。また,被告製品8~13は,本件発明4及び本件訂正発明4の構成要件4-Bを充足する。

(4) 被告各製品の売上高及び利益額

平成28年7月15日から平成30年10月10日頃までの間の被告各製品の売上高(税込)は合計472万6353円,利益額は合計142万0314円であり,その内訳は以下のとおりである。

平成29年10月売上高108万8527円利益額29万6704円平成30年5月売上高180万2930円利益額61万2748円平成30年6月売上高105万7126円利益額33万8127円平成30年7月売上高5万0004円利益額1万6166円

平成30年8月売上高70万5067円利益額15万1609円

平成30年10月売上高2万2699円利益額4960円

(5) 原告の製品

原告は,被告各製品の競合品である「ハイリング」,「ハイリングⅡ」及び「ハイリングⅢ」(以下,併せて「原告各製品」という。乙8~13)を販売している。

(6) 先行文献

本件特許の優先日(平成13年12月4日)より前に,以下の文献が存在した。

ア 「円形孔を有するはりの耐力と設計法2.スリーブ管補強付の場合の耐力」(日本建築学会論文報告集第301号・昭和56年3月・43~51頁。乙3。以下「乙3文献」といい,同文献に記載された発明を「乙3発明」という。)

イ 発明の名称を「鉄骨梁貫通孔構造」とする公開特許公報(特開昭63-219745,昭和63年9月13日公開。乙19。以下「乙19文献」といい,同文献に記載された発明を「乙19発明」という。)

ウ 考案の名称を「鉄骨孔部補強材」とする公開実用新案公報(実開平4-103917,公開日平成4年9月8日。乙20。以下「乙20文献」という。)

エ 発明の名称を「梁貫通スリーブ」とする公開特許公報(特開昭62-202155,昭和62年9月5日公開。乙21。以下「乙21文献」という。)

3 争点

(1) 被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)

ア 構成要件1-Aの充足の有無(争点1-1)

イ 均等侵害の成否(予備的主張)(争点1-2)

(2) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点2)

ア 乙19発明に基づく新規性又は進歩性の欠如(争点2-1)

イ 乙3発明に基づく進歩性の欠如(争点2-2)

(3) 訂正の再抗弁の成否(争点3)

ア 本件訂正の適法性(争点3-1)

イ 被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属するか(争点3-2)

ウ 本件訂正による無効理由の解消の有無(争点3-3)

(ア) 乙19発明に基づく新規性又は進歩性の欠如(争点3-3-1)(イ) 乙3発明に基づく進歩性の欠如(争点3-3-2)

(4) 損害額(争点4)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1-1(構成要件1-Aの充足の有無)について

(原告の主張)

本件各発明におけるリング状の梁補強金具の「外周部」とは,リング状の梁補強金具の外側に沿った周りの部分を意味するところ,被告各製品は,つば状の出っ張り部が形成されたリング状の梁補強金具の外周部を,梁に形成された貫通孔の周縁部に溶接固定しているから,構成要件1-Aを充足する。

(1) 構成要件1-Aの「外周部」及び「周縁部」の意義

構成要件1-Aは,「梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって,」であるが,ここで「外周部」とは,リング状の梁補強金具の外側に沿った周りの部分を意味する。

本件特許出願の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明及び図面(以下「本件明細書等」という。)には,【図3】のとおり,梁補強金具7の外周部が貫通孔3の周縁に位置する梁2のウェブ部2wに溶接固定されている実施例が挙げられている(段落【0029】)ように,本件明細書等において「外周部」は,フランジ部の外周部を含む「梁補強金具の外周部」という意味で記載されている。

【図3】

「外周」の一般的意味は,「ものの外側に沿ったまわり」,「ものの外側をとり巻いている部分」(広辞苑第五版。甲6)であり,また,「物に沿った外側の一周り」(大辞林第二版新装版。甲7)であるから,「外周部」とは,「ものの外側に沿ったまわりの部分」を意味する。それゆえ,本件各発明におけるリング状の梁補強金具の「外周部」とは,フランジ部の外周部を含む,リング状の梁補強金具の外側に沿った周りの部分(下記の赤線部分)を意味する。【図3】の一部拡大図

そして,「周縁」とは,「まわり。ふち。」(広辞苑第五版。乙1),「もののまわり。周辺。」(大辞林第二版新装版。甲10)を意味するところ,「貫通孔の周縁部」とは,ウェブ部のうち,貫通孔に近接した領域を指すことが明らかである。例えば,上記【図3】において,梁補強金具の外周部が梁に形成された貫通孔の周縁部に「溶接固定」されている箇所は,下図の赤矢印で示した黒色の三角部分である。

【図3】の一部拡大図(右へ90度回転。赤矢印追加)

上記【図3】の溶接固定箇所からしても,梁補強金具の「外周部」が溶接固定される貫通孔の「周縁部」とは,下図において青丸で示した部分である。【図3】の一部拡大図(右へ90度回転。青丸追加)

(2) 被告各製品の構成要件1-Aの充足

被告各製品は,リング状の梁補強金具の外周部(下図における赤線部分)の軸方向の片側端部に,つば状の出っ張りが形成されており,当該つば状の出っ張り部は,本件各発明の「フランジ部」に相当する。

甲4(3頁)の図(赤線追加)

そして,被告製品においては,当該つば状の出っ張り部が形成されたリング状の梁補強金具の外周部を,梁に形成された貫通孔に近接した領域であるその周縁部に溶接固定している。

甲4(1頁)の図(一部抜粋。灰色加工。赤線追加)

したがって,被告製品は,「梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具」に該当し,構成要件1-Aを充足する。

(3) 被告の主張について

ア 本件発明1に関する主張について

被告は,「フランジ部」と「外周部」が別の部位であると主張するが,「フランジ部」が「梁補強金具」の一部であり,本件発明1の「外周部」が「梁補強金具」の外周部である以上,フランジ部の外周部が本件発明1の「外周部」の一部であることは明らかである。被告の解釈によると,梁補強金具の「外周部」に梁補強金具の内部の部位を含むことになるが,「ものの外側に沿った周りの部分」(甲6,7)を意味する「外周部」という語の一般的意義とあまりにもかけ離れることになる。フランジ部が特徴構成要素であるという被告の主張は,本件発明1における梁補強金具がフランジ部という特徴的な構成を有するというだけのことであり,むしろ,梁補強金具の「外周部」に当該梁補強金具の一部であるフランジ部の外周部が含まれることを裏付けるものである。

また,本件明細書等の段落【0029】及び【図3】においては,つば状の出っ張り部を梁補強金具7の構成要素として特に「フランジ部」と呼称し,梁補強金具7の外周部のどの部位を溶接するかを明らかにするために「外周部9」のうちの一部を「フランジ部8の外周部」として特別に呼称したにすぎず,「外周部9」と「フランジ部8」及び「フランジ部8の外周部」とは峻別されていない。

イ 本件発明3に関する主張について

請求項3及び本件明細書等の段落【0017】,【0049】等に記載されているのは,「外周部」を徐々に縮径させるということのみであり,「外周部」の全体を徐々に縮径させるとは記載されていないから,「外周部」の一部である「フランジ部」がテーパ形状となっていなくても,「外周部」を徐々に縮径させていることに変わりはない。

また,本件明細書等に記載された第3実施形態や第4実施形態の溶接の態様は,「外周部12」を貫通孔3の内縁部3aに溶接すること及び「外周部12」が溶接開先として機能することのみであり(段落【0033】,【0037】,【図6】,【図9】),「フランジ部13」の外周部を含む「外周部12」の全体が溶込み溶接され,又は溶接開先として機能することは何ら示されていないから,これらの記載も「外周部」と「フランジ部」及びその外周部とが峻別されていることの裏付けとはならない。

ウ 本件発明4に関する主張について

請求項4や本件明細書等の段落【0018】,【0050】等の「フランジ部外周まで」との記載は,「外周部」のうちの特定の部位(フランジ)の外周までの長さを説明するための記載にすぎないので,これらの記載は,梁補強金具の「外周部」と「フランジ部」の「外周」とが峻別されていることの根拠とはならない。

エ 本件発明6に関する主張について

本件発明6に対応する第4実施形態に係る【図7】を第3実施形態に係る【図4】と対比すると,「位置決め突起部11」が「フランジ部13」(下図のオレンジ色部分)にまたがって配置されていることからしても,本件明細書等の段落【0035】における「外周部12…に位置決め突起部11を均等配置している」と記載されているのは,「外周部12」に「フランジ部13」の外周部が含まれるからであることが明らかである。

【図4】(オレンジ色追加)【図7】(赤丸,オレンジ色追加)

オ 出願経過に関する主張について

本件手続補正の前後を通じて,「外周部」及び「フランジ部」の意義は変更されていない。本件特許の出願当初からフランジ部は梁補強金具の一部位であり,フランジ部の外周部は梁補強金具の「外周部」に当然に含まれるから,補正後の請求項1には,「フランジ部8」の外周部を梁2のウェブ2wの表面側に溶接固定する実施形態も含まれる。むしろ,出願当初明細書の段落【0029】及び【図3】は,梁補強金具の「外周部」のうちフランジ部がある側とない側の両方を梁のウェブ部の両面側に溶接固定するものであり,補正後の請求項1(本件発明1)の典型的な実施形態の1つである。

カ 本件発明1の実施品の実施形態に基づく主張について

原告各製品の溶接態様と本件発明1の解釈とはそもそも無関係である。なお,原告各製品においても,つば状の出っ張り部の外周部を「組立溶接」しているから(乙9,13),本件発明1の「外周部」に含まれる「フランジ部」の外周部を溶接固定している。

(被告の主張)

構成要件1-Aは「梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定される」ものであるところ,本件発明1にいう「フランジ部」と「外周部」とは別の部位であると解すべきであり,被告各製品において溶接固定される部位は「外周部」ではなく「フランジ部」に相当する部位であるから,同各製品は,構成要件1-Aを充足しない。そして,それゆえに,被告各製品は,本件発明1の従属発明である本件発明2の構成要件2-B,本件発明4の構成要件4-C及び本件発明5の構成要件5-Bをいずれも充足しない。

(1) 構成要件1-Aの「外周部」及び「周縁部」の意義

ア 本件発明1に関する特許請求の範囲の記載

請求項1には,「梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって,」(構成要件1-A),「前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した」(構成要件1-C)と記載されている。

構成要件1の上記記載によれば,本件発明1は,構成要件1-Aの「リング状の梁補強金具」の「外周部」を前提構成とし,構成要件1-Cの「フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した」ことを特徴構成とするものである。

一般に,「フランジ部」とはつば状の出っ張り部を意味するため,かかる出っ張りの基点(どこから出っ張るか)が特定される必要がある。構成要件1-Cは,「フランジ部」の出っ張りの基点を前提構成である「リング状の梁補強金具」の「外周部」とし,「前記外周部の軸方向の片面側に形成した」という製法的ないし状態的な記載により,上記前提構成との関係で「フランジ部」の出っ張り方(どこから出っ張るか)と配置を特定したものと理解するのが最も自然である。

そして,構成要件1-Aの「周縁部」とは,貫通孔に近接した領域の全てを含むものではなく,外周部が固定されることとの関係において,外周部と溶接固定され得る領域としての貫通孔の周りの縁を意味すると解すべきである。

そうすると,「フランジ部」は,これが軸方向の片面側に形成される前提構成要素である「外周部」とは別の部位であり,構成要件1-Aは,梁に形成された貫通孔の周りの縁の部分(周縁部)に,リング状の梁補強金具の「フランジ部」ではなく「外周部」が溶接固定されることを意味すると解するのが合理的である。

イ 本件発明1に関する本件明細書等の記載

(ア) 上記のとおり,「フランジ部」が特徴構成要素であり,前提構成要素である「外周部」とは別の部位であるとの解釈は,本件明細書等の記載(発明が解決しようとする課題に関する段落【0010】,課題を解決するための手段に関する段落【0011】,【0012】及び【0016】,発明の効果に関する段落【0045】,【0046】及び【0048】)などに照らしても明らかである。

(イ) また,以下のとおり,本件明細書等の第1実施形態(従来技術)に係る記載(段落【0024】,【0028】,【図1】)や第2実施形態(実施例)に係る記載(段落【0029】,【図3】)において,「外周部4」及び「外周部9」と「フランジ部8の外周部」とが峻別されている。すなわち,まず,従来技術に係る第1実施形態に関する【図1】(a)における「外周部4」及び「周縁部」は以下のとおりである。

【図1】(a) 【図1】(a)の拡大参考図1【図1】(a)の拡大参考図2次に,本件発明1の実施例である第2実施形態について,本件明細書等の段落【0029】には,「外周部9と,フランジ部8の外周部とをそれぞれ梁2のウェブ部2Wの表面側および裏面側にそれぞれ溶接することによって固定される」などの記載がある。同段落の記載及び同実施形態に係る【図3】を,第1実施形態と対照しつつ合理的に理解すれば,「梁補強金具7」の「外周部9」は,第1実施形態の「梁補強金具1」の「外周部4」に「形成した」「フランジ部8」及びそ「の外周部」(下記拡大参考図1’の緑色部分)とは峻別され,上記「外周部4」と同じ部位である下記拡大参考図1’の黄色部分を指称する一方,下記拡大参考図2’の左側矢印部分は,「貫通孔3の周縁部」とは指称し得ないものと理解するのが自然である。

10 【図3】【図3】の拡大参考図1’【図3】の拡大参考図2’仮に,「外周部9」と「フランジ部8」及びその外周部が峻別されていないとすると,第2実施形態において,「フランジ部8の外周部」には,「外周部9」と同様な符号(「9」,「9’」など)や称呼が付されてしかるべきである。しかし,実際にはこれに対応する符号や呼称は付されておらず,「外周部9」と「フランジ部8の外周部」とをそれぞれ溶接固定する部位は,第1実施形態と同様に「貫通孔3の周縁部」と記載すれば足りるのに,本件明細書等ではあえて「梁2のウェブ部2wの表面側および裏面側」とされている。

また,上記段落【0029】の記載等からすれば,「梁補強金具7…の外周部9」とは,貫通孔3へ嵌入され,梁2のウェブ部2wの表面側に溶接固定される,梁補強金具1の外周部4におけるフランジ部8を形成した以外の部分を指称するものと解するほかない。そうすると,梁2のウェブ2wの表面側における,当該部分と溶接固定される箇所こそが,本件発明1における「リング状の補強金具」の「外周部」が溶接固定される「貫通孔の周縁部」であるものと解するほかはない。

ウ 本件発明3に関する本件明細書等の記載

請求項1の従属項である請求項3の記載及び本件発明3に関する本件明細書等の記載(段落【0017】,【0045】,【0049】,図4~6等)によれば,同発明は,リング状の梁補強金具の「外周部」について,「軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させ」るという特徴構成を採用することによって,当該「外周部」を「貫通孔に嵌入させる作業を容易化して作業時間を短縮する」という効果を奏するものである。これを逆にいえば,リング状の梁補強金具において,「軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させ」るという特徴構成を採用することによって,「貫通孔に嵌入させる作業を容易化して作業時間を短縮するという効果を奏することができる」部位が,請求項3及び請求項1(本件発明1)にいう「外周部」にほかならない。また,その実施例である第3実施形態や第4実施形態においても,梁補強金具において,「その外周部12」の軸方向の片面側に設けられた「フランジ部13」の外周部ではなく,これとは峻別される「外周部12」を「その軸方向の他面側(フランジ部13のない面側)に向かって徐々に縮径するテーパ形状と」するとともに,「外周部12」を貫通孔3の内縁部3aに溶接固定する構成が記載されている(段落【0030】~【0038】,【図4】~【図9】)。

エ 本件発明4に関する本件明細書等の記載

請求項1の従属項である請求項4の記載及び本件発明4に関する本件明細書等の記載(段落【0018】,【0045】,【0050】等)によれば,リング状の梁補強金具の「外周部」の最小外径部から,「フランジ部」の「外周」までの長さを,前記外周部の最小外径の半分以下とし,フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とするという特徴構成を採用することによって,「貫通孔に溶接接合したとき優れた補強作用を発揮し,無孔梁と同等の強度が得られる」という効果を奏することができるとされているから,「フランジ部」は「外周部」と峻別される別の部位であることが明らかである。また,その実施例である第3実施形態や第4実施形態においても,梁補強金具において,その「外周部12」の最小外径部12aから,これとは峻別される「フランジ部13の外周」までの長さCを,「外周部12」の最小外径d3の半分以下とし,「フランジ部13」の軸方向の長さFを,当該梁補強金具の軸方向の長さAの半分以下とする構成が記載されている(段落【0032】,【0038】,【図4】~【図9】)。

オ 本件発明6に関する本件明細書等の記載

請求項1の従属項である請求項6の記載及び本件発明6に関する本件明細書等の記載(段落【0021】,【0045】,【0052】等)によれば,同発明は,リング状の梁補強金具の「外周部」に「貫通孔の内縁部に直接当接する3以上の位置決め突起部を」「形成する」という特徴構成を採用することにより,「貫通孔と梁補強金具の形状の誤差を吸収して中心位置を合わせることができる」という効果を奏するものである。これを逆にいえば,上記の効果を奏する部位が,請求項6及びこれが従属する本件発明1にいう「外周部」にほかならないのであるから,本件発明1にいう「フランジ部」及びその外周部はこれに含まれない。

また,その実施例である第4実施形態においても,梁補強金具において,「その外周部12」の軸方向の片面側に設けられた「フランジ部13」ではなく,これとは峻別される「外周部12」の120度間隔の3か所に貫通孔3の内縁部3aに直接当接する位置決め突起部11を均等配置する構成が記載されている(段落【0035】,【0036】,図7~9)。

カ 出願経過

本件特許の出願当初の請求項1は,構成要件1-A,1-B及び1-Dをその内容とするもので,フランジ部に係る構成要件1-Cは,従属項である請求項3に規定されていたものであり,出願当初の明細書(以下「出願当初明細書」という。乙2)の発明の詳細な説明の段落【0010】~【0012】,【0024】,【0025】,【0028】,【0045】,【0046】や図面の記載からすれば,出願当初の請求項1においては,梁に形成された貫通孔の周りの縁の部位に,リング状の梁補強金具の「外周部」自体が溶接固定されるものとされていた。これに対し,出願当初の請求項1に係る発明について乙3文献に基づく進歩性欠如とする拒絶理由通知がされたため,出願人は,本件手続補正書(乙5)及び意見書(乙6)により,拒絶理由の対象となっていない請求項3の内容を元の請求項1に組み込む補正を行ったが,その際,出願当初の請求項3の実施例である第2実施形態のうち,フランジ部8の外周部を梁2のウェブ部2wの表面側に溶接固定する実施形態は,あえて特許請求の範囲には含めず,特許査定を受けたものである(乙7)。かかる本件特許の出願経過も,「フランジ部」と「外周部」が別の部位であるとの前記解釈を裏付けるものである。

キ 本件発明1の実施品

原告が販売している原告各製品は,いずれも本件発明1の実施品であって,基本的に,「梁(はり)ウェブ」の「貫通孔」に「円形の」前記外周部12に相当する部位を「挿入」し,「位置決め」をして,前記フランジ部13の外周部に相当する部位で数箇所の「組立溶接」を行った後,「はり(を)反転」した上で,「反対側」の前記外周部12に相当する部位の「全線円周」を「本溶接」する。かかる溶接の態様は,前記解釈に合致するものである。

(3) 被告各製品の構成等

被告各製品は,本件発明1にいう「外周部」に相当する部位を溶接固定するものではなく,また,梁に形成された貫通孔の周りの縁の部位に溶接固定するものでもなく,その反対側において,本件発明1にいう「フランジ部」に相当するつば状の出っ張り部の外周部のみを片面的に,また,該貫通孔の周りの縁の部位より外周側に位置する,該つば状の出っ張り部の外周部に沿って,「組立溶接」及び「本溶接」することにより,固定するものである(甲3~5)。その結果,被告各製品においては,「従来のプレート補強に対して溶接量を大幅に削減でき」るのみならず,「はめ込んで,全周溶接するだけ」なので,「製品精度が高く,施工精度を容易に確保でき」ることに加えて,本件発明1や原告各製品と異なり,「[梁の反転が不要]となり施工性が大幅にアップ」するという,顕著な効果を奏することができる。

したがって,被告各製品は,構成要件1-Aを充足しない。

2 争点1-2(均等侵害の成否)について

(原告の主張)

仮に被告各製品が本件発明1の構成要件1-Aのうち,「貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定される」との文言を充足しないとしても,被告各製品は,本件各発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件各発明の技術的範囲に属する。

(1) 第1要件について

本件明細書等の記載(段落【0007】~段落【0012】)によれば,本件発明1は,従来技術である梁貫通スリーブや補強プレートには見られない,梁補強金具の形状をリング状とし,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍に規制すること及び貫通孔より外径が大きいフランジ部を外周部の軸方向の片面側に形成するという構成によって,その課題を解決しているのであり,これらの構成が本件発明1の本質的部分である。

他方,本件明細書等には,梁補強金具を溶接固定する位置が本件発明1の作用効果に寄与すること等の記載や示唆は一切なく,梁補強金具を溶接固定する位置は,本件発明1の本質的部分ではない。

したがって,仮に,被告各製品が構成要件1-Aのうち「貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定される」との構成を有しないとしても,かかる構成は本件発明1の本質的部分ではないから,均等侵害の第1要件を充足する。

(2) 第2要件について

本件発明1は,「梁補強金具の形状をリング状とし,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍…とすることにより,大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ,貫通孔に対して配管を斜めから挿通しても梁補強金具に当接することがなくなり配管等の取り付けの自由度を高めることができる」(段落【0046】),「貫通孔より外径が大きいフランジ部を外周部の軸方向の片面側に形成することにより,軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができるようになる」(段落【0048】)という作用効果を奏するものである。

仮に,構成要件1-Aの「貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定される」との構成を,貫通孔の周縁部にフランジ部の外周が溶接固定されるとの構成に置き換えたとしても,本件発明1の目的を達することに変わりなく,同一の作用効果を奏するから,均等侵害の第2要件を充足する。

(3) 第3要件について

乙21文献の第1図(3頁)において,「フランジ2の外周部全周を溶接4によりウェブ右側面に固定」されている例が記載されていること(乙21・2頁左下欄下から1行目~右下欄1行目),本件明細書等の【図3】においてフランジ部8がウェブ部2wに溶接固定される構成が開示されていることからすれば,梁補強金具のうち,梁のウェブ部に直接当接されるフランジ部の外周を貫通孔の周縁部に溶接固定することは,被告各製品の製造等の時点において当業者が容易に想到可能な構成であることが明らかである。

したがって,均等侵害の第3要件を充足する。

(4) 第5要件について

本件明細書等においては,「フランジ部」の外周部とそれ以外の「外周部」とを梁のウェブ部の表面側及び裏面側にそれぞれ溶接固定する実施例は記載されているものの(段落【0029】),被告各製品に係る構成である「フランジ部」の外周部のみを貫通孔の周縁部に溶接固定する構成については本件明細書等には一切言及がされていないのであり,原告が,被告各製品の上記構成が本件発明1に係る構成を代替すると認識しながら,あえてかかる構成を意識的に除外したということはできない。

したがって,被告各製品が本件各発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情は存しないから,第5要件を充足する。

(被告の主張)

被告各製品は,均等論によっても,本件各発明の技術的範囲に属するものではない。

(1) 第1要件について

本件明細書等の記載内容及び本件特許の出願経過からすれば,本件発明1は,構成要件1-Cの追加をするとともに,構成要件1-Aにつき,梁補強金具の外周部を貫通孔の周縁部に表側及び裏側のいずれか又は双方から溶接固定するとしていたものを,表側のみから溶接固定するものに実質的に限定することにより,特許権を付与されたものである。すなわち,本件発明1の構成要件1-Aは,上記の減縮補正により,「梁補強金具」の「外周部」が「貫通孔の周縁部」に表側のみから溶接固定されるものに限定されたのであるから,同補正に伴い必然的に出願当初の請求項1記載の同一文言から実質的に限定されるようになった構成要件1-Aも本件発明1の本質的部分と認められるべきである。

(2) 第2要件について

本件発明1に特有の作用効果は,本件発明1の従来技術である出願当初の請求項1に係る発明の作用効果との比較から,構成要件1-Cに係るフランジ部の作用効果に加えて,構成要件1-Aに係る固定に必要な溶接箇所,ひいては溶接量・溶接方法等の作用効果をも含むものとして認定すべきである。そして,梁補強金具の外周部を貫通孔の周縁部に表側から溶接固定する構成要件1-Aを,フランジ部の外周部を梁のウェブ部の裏面側に溶接固定する被告各製品の構成と置き換えた場合,固定に必要な溶接箇所,ひいては溶接量・溶接方法等が,当然に有意に相違することになる(例えば,本件発明1の実施品と思料される原告各製品は,溶接量を低減できる半面,梁の反転が必要となる(乙8,10~12)のに対し,被告各製品は,そこまでは溶接量を低減し難いものの,梁の反転が不要となる(甲4)という相違がある。)。

したがって,構成要件1-Aを被告各製品の構成と置き換えた場合,本件発明1に特有の作用効果と同一の作用効果を奏することはない。

(3) 第3要件について

本件発明1と被告各製品とでは,固定に必要な溶接箇所,ひいては溶接量・溶接方法等が,当然に有意に相違することになるのは前記(2)のとおりであるから,構成要件1-Aに接した当業者が,特許請求の範囲に明記されているのと同程度の容易さをもって,被告各製品の構成を認識し得たということはできない。

(4) 第5要件について

前記(1)のとおり,出願当初明細書には,出願当初の請求項1に係る発明(梁補強金具の外周部を貫通孔の周縁部に表側及び裏側のいずれか又は双方から溶接固定するもの)と,本件発明1の実施例である第2実施形態(梁補強金具の外周部を貫通孔の周縁部に表側から,フランジ部の外周部を梁のウェブ部の裏面側にそれぞれ溶接固定するもの)のいずれもが明記されていたにもかかわらず,出願人は,第2実施形態におけるフランジ部の外周部を梁のウェブ部の裏面側に溶接固定する実施形態を,出願当初から前記補正に至るまで,一貫して特許請求の範囲に含めなかったのであるから,原告は,本件特許出願時において,フランジ部の外周部を梁のウェブ部の裏面側の溶接固定する被告各製品の構成が構成要件1-Aに代替するものであると認識しながら,あえて請求項1に記載しなかったということができる。

したがって,上記構成は,特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる。

3 争点2-1(乙19発明に基づく新規性又は進歩性の欠如)について(被告の主張)

本件各発明は,乙19発明と同一の発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,新規性を欠き,仮に,本件各発明が新規性を有するとしても,乙19発明に基づいて,出願時に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同条2項に該当し,進歩性を欠くので,本件各発明は,同法123条1項2号に該当し,無効とされるべきものである。

(1) 乙19発明の内容

ア 乙19文献の記載内容

乙19文献の特許請求の範囲に加え,溶接に関する記載(2頁右上欄1~6行),第4図及び第5図並びに同各図面に関する説明(2頁左下欄11~19行,同頁右下欄3~7行)等によれば,乙19文献には,以下の発明が記載されている。

1-a梁鉄骨1のウェブ1aに形成された貫通孔1bの周縁部に鋼管2を溶接固定する

1-b鋼管2を含む梁補強金具の軸方向の長さL1が,梁補強金具の半径方向の肉厚Tの約3倍である

1-c貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aを,鋼管2の軸方向の片面側にて鋼管2と一体に形成する

1-dことを特徴とする鉄骨梁貫通孔構造用の肉厚鋼管

イ 構成要件1-Bが開示されていること

第5図に記載された鉄骨梁貫通孔構造の各種寸法比及び各種体積比を計測してみると,①L1(鋼管2及び裏当て体3aからなる梁補強金具の軸方向の長さ)=9,②L2(裏当て体3aの軸方向の長さ)=1,③T(鋼管2の半径方向の肉厚)=3,④P(鋼管2の最小外径縁から裏当て体3aの外周縁までの長さ)=3,⑤D1(鋼管2の最小外径縁の直径又はウェブ1aの貫通孔1bの直径)=20.5,⑥D2(鋼管2の内径)=14.5,⑦H(梁鉄骨1の梁成)=45,⑧t(ウェブ1aの肉厚)=1.8であるそして,V1(鋼管2及び裏当て体3aからなる梁補強金具の体積)は543π(式:V1=π×((D1/2)

2-(D2/2)

2)×L1+π×((D

1/2+P)2-(D1/2)2)×L2=π×((20.5/2)2-(14.5/2)

2)×9+π×((20.5/2+3)

2-(20.5/2)

2)

×=543π)である。

また,V2(梁鉄骨1のウェブ1aにおける貫通孔1bの内部空間の体積)は189π(式:V2=π×(D1/2)

2×t=π×(20.5/2)

2×

H D1 D2

P T

L1

L2 28

1.8≒189π)である。

そうすると,V1/V2(梁鉄骨1における貫通孔1bの内部空間の体積V2に対する梁補強金具の体積V1の比率)は2.87倍(式:V1/V2≒543π/189π≒2.87)である。

一般に,引用例に開示された技術的事項は,特許出願当時の技術水準を背景として当業者において認識し理解するところに基づいて判断されるべきものであるから,引用例に寸法・比率等について格別の記載や示唆が存しなくとも,当業者は,広く知られた技術的事項に基づき,図面から引用例記載の発明においても寸法・比率等が設定されていると認識する。本件特許出願当時,梁貫通補強構造分野において,梁貫通孔に挿通され溶接・固定されるスリーブ管の肉厚・幅等が補強効果に関係することが当業者に広く知られていたから(乙3の46頁左欄18行~右欄6行,乙21の「発明の効果」等),このように広く知られた技術的事項に基づき,当業者は,乙19発明について,少なくともこれらの寸法の比率が相対的に設定されていると認識する。すなわち,乙19発明に係る第5図により,同図記載のプロポーションを持った鉄骨梁貫通孔構造は,客観的に公知になっていた。

ウ 裏当て体がフランジに相当すること

乙20文献において,鉄骨4の孔5より外径が大きく,かつ,スリーブ部2と一体に形成された部分は,以下のとおり,フランジ部と呼ばれている。また,乙21文献においても,同様な部分は,以下のとおり,フランジと呼ばれている。

このように,乙19発明の裏当て体3aに相当するものをフランジと呼ぶことは,本件特許の出願当時において周知であった。

(2) 本件各発明と乙19発明との対比

ア 本件発明1について

(ア) 構成要件1-aについて

乙19発明の構成要件1-aは,「梁鉄骨1のウェブ1aに形成された貫通孔1bの周縁部に鋼管2を溶接固定する」であるところ,乙19発明の「梁鉄骨」,「貫通孔」及び「肉厚鋼管」は,それぞれ構成要件1-Aの「梁」,「貫通孔」及び「リング状の梁補強金具」に相当するから,貫通孔1bの周縁部に交換の外周を溶接固定することを含めて,乙19発明の「肉厚鋼管」と本件発明1の「リング状の梁補強金具」とが対応しており,両者は一致する。

(イ) 構成要件1-bについて

乙19発明の構成要件1-bは,「鋼管2を含む梁補強金具の軸方向の長さL1が,梁補強金具の半径方向の肉厚Tの約3倍である」であるところ,乙19発明のL1/T(梁補強金具の半径方向の肉厚Tに対する金具の軸方向の長さL1の比率)は約3倍であり,構成要件1-B(その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍とし,)の定める比率の範囲内にある。

また,構成要件1-Bやこれに関する本件明細書等の記載(段落【0010】,【0012】,【0013】,【0046】)の有する技術的意義は乏しく,これらの記載は本件発明1の新規性・進歩性を基礎付けるものではない。このことは,乙3文献により構成要件1-Bに関して進歩性が欠如する旨の拒絶理由通知がされ(乙4),これを受けて出願当初の請求項3を組み込む補正をして初めて特許が付与されたこと(乙5~7)からしても明らかである。

(ウ) 構成要件1-cについて

乙19発明の構成要件1-cは,「貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aを,鋼管2の軸方向の片面側にて鋼管2と一体に形成する」であるところ,この「裏当て体」は,構成要件1-C(前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した)の「フランジ部」に相当するから,乙19発明における「裏当て体」の形成は,構成要件1-Cの「フランジ部…を形成」に対応する。構成要件1-Cは,フランジ部の形成位置を片面側「の端部」に限定していないから,「フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した」ものを広く含むと解すべきである。仮に,フランジ部が上記片面側「の端部」に形成したものに限定されるとしても,一般にフランジ部を接続・補強用に管の軸方向の端部に形成することは周知・慣用技術であるから(甲6~8,乙33~39),乙19発明の厚肉鋼管の軸方向の片面側に形成される裏当て体を端部に形成するようにすることは単なる設計事項にすぎず,本件発明1が進歩性を欠くことに変わりはない。

(エ) 構成要件1-dについて

乙19発明の構成要件1-dは,「ことを特徴とする鉄骨梁貫通孔構造用の肉厚鋼管」であるところ,「鉄骨梁貫通孔構造用の肉厚鋼管」が,構成要件1-D(ことを特徴とする梁補強金具。)の「梁補強金具」に対応することは明らかである。

(オ) まとめ

以上のとおり,乙19発明と本件発明1は,全ての構成要件が一致するから,本件発明1は,新規性を欠き,仮に,本件発明1が新規性を有するとしても,同発明は乙19発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く。

イ 本件発明2について

本件発明2は,本件発明1の構成要件に構成要件2-A(前記梁補強金具の体積を,前記梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0~3.0倍とした)との構成が付加されたものであるが,乙19発明の第5図におけるV1/V2(梁鉄骨1における貫通孔1bの内部空間の体積V2に対する梁補強金具の体積V1の比率)は,前記(1)イのとおり,約2.87倍であるから,構成要件2-Aの規定する範囲内にある。

また,構成要件2-Aやこれに関する本件明細書等の記載(段落【0015】,【0047】の有する技術的意義は乏しく,これらの記載は本件発明2の新規性又は進歩性を基礎付けるものではない。

したがって,乙19発明と本件発明2は,全ての構成要件が一致するから,本件発明2は,新規性を欠き,仮に,本件発明2が新規性を有するとしても,同発明は乙19発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く。

ウ 本件発明4について

本件発明4は,少なくとも本件発明1の各構成要件に,構成要件4-A(前記外周部の最小外径部から前記フランジ部外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし,)及び4-B(前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とした)との各構成を付加したものである。

前記(1)イ記載の計測結果によれば,乙19発明におけるP/D1(鋼管2の最小外径縁の直径D1に対する鋼管2の最小外径縁から裏当て体3aの外周縁までの長さPの比率)は,約0.15倍であるから,構成要件4-Aの規定する範囲内にあり,L2/L1(梁補強金具の軸方向の長さL1に対する裏当て体3aの軸方向の長さL2の比率)は,約0.11倍であるから,構成要件4-Bの規定する範囲内にある。

また,本件明細書等において,構成要件4-A及び4-Bの数値範囲とする場合における臨界的意義は記載されておらず,それゆえ,本件明細書等の段落【0015】及び【0047】の記載も,本件発明4の新規性又は進歩性を基礎付けるものではない。

したがって,乙19発明と本件発明4は,全ての構成要件が一致するから,本件発明4は,新規性を欠き,仮に,本件発明4が新規性を有するとしても,同発明は乙19発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く。

エ 本件発明5について

本件発明5は,少なくとも本件発明1の各構成要件に構成要件5-A(前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下とした)との構成を付加したものである。

前記(1)イ記載の計測結果によれば,乙19発明におけるD2/H(梁鉄骨1の梁成Hに対する鋼管2の内径D2の比率)は,約0.32倍であるから,構成要件5-Aの規定する範囲内にある。

また,構成要件5-Aやこれに関する本件明細書等の記載(段落【0020】,【0051】の有する技術的意義は乏しく,これらの記載は本件発明5の新規性又は進歩性を基礎付けるものではない。

したがって,乙19発明と本件発明5は,全ての構成要件が一致するから,本件発明5は,新規性を欠き,仮に,本件発明1が新規性を有するとしても,同発明は乙19発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く。

(原告の主張)

本件各発明は,乙19発明と同一の発明ではないし,同発明に基づいて,出願時に当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,新規性及び進歩性を有する。したがって,本件各発明は,特許法123条1項2号に該当せず,特許無効審判により無効とされるべきものではない。

(1) 乙19発明の内容について

被告の主張は,乙19文献の特許請求の範囲の記載や明細書の実質的な開示内容ではなく,その第5図の記載のみに基づくもので,乙19発明の特定を誤っている。

ア 本件発明1について

(ア) 構成要件1-Bが開示されていないこと

特許出願の願書に添付された図面は,設計図ではなく特許を受けようとする発明の内容を明らかにするための説明図にすぎないから,乙19文献の第5図のみから,厚肉鋼管2の軸方向の長さとその半径方向の肉厚との各寸法及びそれらの比率までも開示されているということはできない。また,乙19文献には,本件発明1の目的(本件明細書等の段落【0010】),技術事項(段落【0012】,【0013】),作用効果(段落【0046】)に着目して構成要件1-Bに相当する構成を採用したことの示唆等はない。

したがって,乙19文献に,構成要件1-Bは開示されていない。(イ) 構成要件1-Cが開示されていないこと

乙19文献の被告指摘部分の記載からすれば,乙19文献は,厚肉鋼管と一体の裏当て体3aを当接した,ウェブ1aの1方面のみの箇所を溶接して従来よりも溶接長及び溶接量を少なくするという技術的事項が開示されているにすぎず,裏当て体3aを厚肉鋼管2の「軸方向の片面側に形成した」という構成が記載されているとはいえないから,乙19文献に,構成要件1-Cは開示されていない。

イ 本件発明2について

乙19文献には,構成要件2-Aに相当する具体的構成は何も示されていない。また,乙19文献には,本件発明2の技術的事項(本件明細書等の段落【0015】)及び作用効果(段落【0047】)に着目して構成要件2-Aに相当する構成を採用したことの示唆等はない。

したがって,乙19文献に,構成要件2-Aは開示されていない。

ウ 本件発明4について

乙19文献には,構成要件4-A及び4-Bに相当する具体的構成は何も示されていない。また,乙19文献には,本件発明2の技術的事項(本件明細書等の段落【0018】)及び作用効果(段落【0050】)に着目して構成要件4-A及び4-Bに相当する構成を採用したことの示唆等はない。したがって,乙19文献に,構成要件4-A及び4-Bは開示されていない。

エ 本件発明5について

乙19文献には,構成要件5-Aに相当する具体的構成は何も示されていない。また,乙19文献には,本件発明2の技術的事項(本件明細書等の段落【0020】)及び作用効果(段落【0051】)に着目して構成要件5-Aに相当する構成を採用したことの示唆等はない。

したがって,乙19文献に,構成要件5-Aは開示されていない。

(2) 本件各発明と乙19発明との対比

ア 本件発明1について

(ア) 相違点

本件発明1と乙19発明とは,以下の点で相違する。

〈相違点1-1〉

梁補強金具の軸方向の長さと半径方向の肉厚との比率について,本件発明1は,「その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍と」する(構成要件1-B)のに対し,乙19発明は,厚肉鋼管2の軸方向の長さとその半径方向の肉厚との関係が不明である点

〈相違点1-2〉

梁に形成された貫通孔より外径が大きいフランジ部の形成について,本件発明1は,「フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成し」ている(構成要件1-C)のに対し,乙19発明は,厚肉鋼管と一体の裏当て体を当接した,ウェブの1方面のみの箇所を溶接したものであって,裏当て体が「前記外周部の軸方向の片面側に形成した」ものであるかは不明である点

(イ) 進歩性を有すること

前記相違点1-1及び1-2は,当業者が容易に想到できたものではないから,本件発明1は,進歩性を有する。

イ 本件発明2について

(ア) 相違点

本件発明2と乙19発明は,以下の点で相違するから,両発明は同一ではない。

〈相違点2-1〉

梁補強金具の体積と,梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部との体積に対する比率について,本件発明2は,「前記梁補強金具の体積を,前記梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0~3.0倍とし」ている(構成要件2-A)のに対し,乙19発明は,厚肉鋼管2の体積と,梁鉄骨のウェブに設けた貫通孔の内部に形成された空間との体積の比率が不明である点

(イ) 進歩性を有すること

前記相違点2-1は,当業者が容易に想到できたものではないから,本件発明2は進歩性を有する。

ウ 本件発明4について

(ア) 相違点

本件発明4と乙19発明は,以下の点で相違するから,両発明は同一ではない。

〈相違点4-1〉

梁補強金具の外周部のうち最小外径部からフランジ部外周までの長さ及びフランジ部の軸方向の長さについて,本件発明4は,「前記外周部の最小外径部から前記フランジ部外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし」(構成要件4-A),「前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とし」ている(構成要件4-B)のに対し,乙19発明は,厚肉鋼管2の外周部の最小外径部から裏当て体外周までの長さ及び裏当て体の軸方向の長さとの関係が不明である点

(イ) 進歩性を有すること

前記相違点4-1は,当業者が容易に想到できたものではないから,本件発明4は進歩性を有する。

エ 本件発明5について

(ア) 相違点

本件発明5と乙19発明は,以下の点で相違するから,両発明は同一ではない。

〈相違点5-1〉

梁補強金具の内径と梁の梁成との関係について,本件発明5は,「前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍とし」ている(構成要件5-A)のに対し,乙19発明は,厚肉鋼管2の内径と梁鉄骨の梁成との関係が不明である点

(イ) 進歩性を有すること

前記相違点5-1は,当業者が容易に想到できたものではないから,本件発明4は進歩性を有する。

4 争点2-2(乙3発明に基づく進歩性の欠如)について

(被告の主張)

本件各発明は,乙3発明と,乙19~21文献に示されるような周知技術に基づいて,出願時に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,進歩性を欠くので,本件各発明は,同法123条1項2号に該当し,無効とされるべきものである。

(1) 乙3発明の内容

乙3文献には,「試験体はFig.1に示すように,SS41の圧延H形鋼のウェブに円形孔を設け,スリーブ管を全周すみ肉溶接したものである。寸法をTable 1に示す。」(43頁右欄下から8行目~下から6行目)との記載があるところ,Fig. 1及びTable 1の記載は,以下のとおりである。そして,Fig. 1及びTable 1のWHS-3を参照すると,Hは梁成,twはウェブ厚み,2Rは円形孔の直径,tsはスリーブ管の半径方向の肉厚,bsはスリーブ管の軸方向の長さであるところ,bs=50.1mm,ts=13.02mmであるから,bs/ts≒3.85となる。

また,スリーブ管の体積は83631π(mm3)であり(式:(R+2×ts)

2-2R2)×π×bs÷4=((192.1(mm)+2×13.02(mm))

2-192.1(mm)

2)×π×50.1(mm)÷4≒133800

π(mm3)),円形孔の内部空間部の体積は83631π(mm3)であり(式:(2R+2×ts)

2×π×tw÷4=(192.1(mm)+2×13.02

(mm))2×π×7.03(mm)÷4≒83631π(mm3))であり,この場合,スリーブ管の体積/円形孔の内部空間部の体積は,133800π(mm3)/83631π(mm3)≒1.6となる。

さらに,2R/H(圧延H形鋼の梁成Hに対するスリーブ管の内径2Rの比率)=192.1(mm)/350.2(mm)≒0.55となる。そうすると,乙3文献には,以下の発明が記載されている。

1-aウェブに形成された円形孔の周縁部にスリーブ管が溶接固定され,1-bスリーブ管の軸方向の長さbsが,スリーブ管の半径方向の肉厚tsの3.85倍であり,

1-c’スリーブ管が円筒形状に形成されている

1-dことを特徴とするスリーブ管

2-a’スリーブ管の体積を,ウェブに形成された円形孔の内部に形成された空間部の体積の1.6倍とした

2-bことを特徴とするスリーブ管

5-aスリーブ管の内径2Rが,圧延H形鋼の梁成Hの0.55倍である5-bことを特徴とするスリーブ管

(2) 本件各発明と乙3発明との対比

ア 本件発明1について

(ア) 一致点

乙3発明の構成要件1-aは,「ウェブに形成された円形孔の周縁部にスリーブ管が溶接固定され,」,同1-dは「ことを特徴とするスリーブ管。」であるところ,同発明の「圧延H形鋼(のウェブ)」,「円形孔」及び「スリーブ管」は,それぞれ構成要件1-A,構成要件1-Dの「梁」,「貫通孔」及び「リング状の梁補強金具」に相当するから,両者はそれぞれ一致する。

また,乙3発明の構成要件1-bは,「スリーブ管の軸方向の長さbsが,スリーブ管の半径方向の肉厚tsの3.85倍であり,」であるから,bs/ts(スリーブ管の半径方向の肉厚tsに対するスリーブ管の軸方向の長さbsの比率)は,構成要件1-B(その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍とし,)の定める比率の範囲内にある。(イ) 相違点

本件発明1の構成要件1-Cは,「前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した」ものであるのに対し,乙3発明の構成要件1-c’のスリーブ管は,円筒形状に形成されている点で本件発明1と相違する。

(ウ) 容易想到性

乙3発明のようにウェブの円形孔に挿入されるスリーブ管のような部材の軸方向の片面側に円形孔より外径が大きいフランジ部を形成することは,乙19文献の「裏当て体」,乙20文献の「フランジ部」,乙21文献の「フランジ」のように,乙3発明が属する梁貫通孔補強構造分野における周知技術である。また,これらの部位は,それぞれ乙19文献の「ウェブ1a」,乙20文献の「ウェブ4の孔5周辺部」及び「ウェブ」に当接し,必然的に位置決め効果を奏する。

そして,乙19文献の裏当て体3a及び乙20文献のフランジ部3は,厚肉鋼管2又はスリーブ2の左側に,乙21文献のフランジ2はスリーブ本体1の右側にそれぞれ形成されており,いずれもフランジ部がスリーブ管の片面側に形成されているのであるから,乙3発明のスリーブ管の軸方向の片面側に位置決め効果を得るべく,上記周知技術のように円形孔より外径が大きいフランジ部を形成することは,当業者が容易に想到し得たものである。

したがって,本件発明1は,進歩性を欠く。

なお,仮に構成要件1-Cに係る本件発明1の要旨を,その実施例である第2~第4実施例に示されているような,フランジ部をリング状の梁補強金具の外周部の軸方向の片面側の端部に形成したものに限定して認定した場合でも,フランジ部を接続・補強用に管の軸方向の端部に形成することも周知技術であるから(甲6~8,乙33~39),乙3発明のスリーブ管の軸方向の片面側に形成されるフランジ部を端部に形成することは,単なる設計事項にすぎず,やはり,本件発明1は,進歩性を欠く。

イ 本件発明2について

(ア) 相違点

本件発明1の従属発明である本件発明2は,外周部及びフランジ部からなる梁補強金具の体積を,梁の貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0~3.0倍としているのに対し,乙3発明は,フランジ部未形成の場合のスリーブ管の体積を,ウェブに形成された円形孔の内部に形成された空間部の体積の1.6倍としているものの,フランジ部を形成した場合のスリーブ管の全体の体積や,これとウェブに形成された円形孔の内部に形成された空間部の体積との比率が直ちに算出されない点で,本件発明2と相違する。

(イ) 容易想到性

スリーブ管の,上記空間部との体積比が,本件発明2の定める体積比「1.0~3.0倍」の範囲内である1.6倍である乙3発明において,そのスリーブ管の軸方向の片面側に,周知技術のフランジ部を形成するに当たって,「材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強する」といった設計上当然の要請に応えるために,本件発明2のように,スリーブ管及びフランジ部の合計の体積も上記空間部の体積の1.0~3.0倍に保つようにする程度のことは,単なる数値範囲の最適化又は好適化であって,設計事項にすぎない。そして,本件明細書等には,かかる数値範囲の臨界的意義を明確にするための実験値,計算値等の数値的根拠も何ら示されておらず,かえって,従来技術である第1実施形態と,本件発明2の実施例である第3実施形態について,フランジ部の有無にかかわらず,各体積比を同じく「1.0~3.0倍」に設定することにより,同じく「貫通孔3が形成された梁2の強度を無孔梁と同等にすることができる」ことが記載されている(段落【0026】,【0032】)。

したがって,本件発明2は,進歩性を欠く。

ウ 本件発明4について

(ア) 相違点

少なくとも本件発明1の従属発明である本件発明4は,外周部の最小外径部からフランジ部外周までの長さを外周部の最小外径の半分以下とし,かつ,フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下としているのに対して,乙3発明は,スリーブ管が円筒形状に形成されていて,フランジに関連する長さが算出されない点で,本件発明4と相違する。

(イ) 容易想到性

乙3発明のスリーブ管の軸方向の片面側に周知技術のフランジ部を形成するに当たって,「材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強する」といった設計上当然の要請に応えるために,本件発明4のように,スリーブ管の最小外径に対するスリーブ管の最小外径部からフランジ部外周までの長さの比率を0.5倍以下に定め,かつ,スリーブ管の軸方向の長さに対するフランジ部の軸方向の長さを0.5倍以下に定めることは,単なる数値範囲の最適化又は好適化であって,設計事項にすぎない。そして,本件明細書等には,本件発明4の数値範囲の臨界的意義を明確にするための実験値,計算値等の数値的根拠も何ら示されていない。

したがって,本件発明4は,進歩性を欠く。

エ 本件発明5について

少なくとも本件発明1の従属発明である本件発明5は,「前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下とした」(構成要件5-A)ことを特徴として含むが,乙3発明において,圧延H形鋼の梁成Hに対するスリーブ管の内径2Rの比率2R/Hは0.55倍であるから,本件発明5の上記比率の範囲内にある。

(原告の主張)

本件各発明は,乙3発明と,乙19~21文献に示される技術とに基づいて出願時に当業者が容易に想到できたものではないから,進歩性を有する。したがって,本件各発明は,特許法123条1項2号に該当せず,特許無効審判により無効とされるべきものではない。

(1) 本件発明1について

ア 相違点

乙3文献には構成要件1-Cは開示されていないから,本件発明1と乙3発明は,以下の点で相違する。

〈相違点1-3〉

梁に形成された貫通孔より外径が大きいフランジ部の形成について,本件発明は「前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成し」ている(構成要件1-C)のに対し,乙3発明は,スリーブ管が円筒形状に形成されたものであって,「フランジ部」を備えていない点

イ 進歩性を有すること

(ア) 乙19~21文献には,「ウェブの円形孔に挿入されるスリーブ管のような部材の軸方向の片面側に円形孔より外形が大きいフランジ部を形成すること」は記載されていないから,本件発明1を当業者が容易に想到できたとはいえず,本件発明1は進歩性を有する。

(イ) 乙19文献は,厚肉鋼管と一体の裏当て体3aを当接した,ウェブ1aの1方面のみの箇所を溶接して従来よりも溶接長及び溶接量を少なくするという技術的事項を開示するものにすぎず,裏当て体3aを厚肉鋼管2の「軸方向の片面側に形成した」という構成が記載されているとはいえない。乙20文献及び乙21文献にも,それぞれ,スリーブの外周において軸方向の中央部に設けたフランジが開示されているにすぎず(乙20・4頁末行~5頁3行目,乙21・2頁右上欄14行目~16行目),フランジをスリーブの軸方向の「片面側」に形成する構成は記載されていない。このように,乙19~21文献には構成要件1-Cは開示されていない。(ウ) また,乙3発明に,乙19~21文献の「裏当て体」又は「フランジ」の構成を採用する動機付けや示唆は何もない。かえって,乙19~21文献によれば,本件特許出願時において,スリーブ管を梁に固定する場合,スリーブ管の軸方向の中央部に裏当て体又はフランジを設けることが通常の技術であったと考えられるが,このような従来のスリーブ管において,裏当て体又はフランジを軸方向の片面側に形成する改変をすると,スリーブ管をその中央部において梁に取り付ける場合と比べてスリーブ管が不安定になると考えられるから,当業者にとって,そのような改変を加えることを想定するのは困難である。

したがって,仮に乙3発明に乙19~21文献を組み合わせても,相違点1-3の構成に至らず,本件発明1は,当業者が容易に想到し得たものではない。

(2) 本件発明2について

ア 相違点

乙3文献に構成要件2-Aは開示されていないから,本件発明2と乙3発明とは,前記相違点1-3のほか,以下の点でも相違する。

〈相違点2-2〉

梁補強金具の体積と,梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積に対する比率について,本件発明2は,「前記梁補強金具の体積を,前記梁形成された空間部の体積の1.0~3.0倍とした」ものである(構成要件2-A)のに対し,乙3発明は,フランジを形成したスリーブ管の体積等が不明である点

イ 進歩性を有すること

本件明細書等には,構成要件2-Aに係る数値範囲の技術的意義の記載もある(段落【0015】)から,当業者にとって,その数値の臨界的意義は明確である。他方,乙3文献には本件発明2に関する技術的事項について何らの記載も示唆もなく,かかる事項が本件発明2の技術分野において自明であったと認めるに足りる証拠もない。

したがって,相違点2-2に係る構成は,当業者が乙3発明に基づいて容易に想到し得たものではない。

(3) 本件発明4について

ア 相違点

乙3文献に構成要件4-A及び4-Bは開示されていないから,本件発明4と乙3発明とは,前記相違点1-3のほか,以下の点でも相違する。〈相違点4-2〉

梁補強金具の外周部のうち最小外径部からフランジ部の外周までの長さ及びフランジ部の軸方向の長さについて,本件発明4は,「前記外周部の最小外径部から前記フランジ部外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし」(構成要件4-A),「前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とし」ている(構成要件4-B)のに対し,乙3発明は,そもそも「フランジ部」に相当する構成を有していない点

イ 進歩性を有すること

本件明細書等には,構成要件4-A及び4-Bの数値範囲の技術的意義の記載もある(段落【0018】から,当業者にとって,その数値の臨界的意義は明確である。他方,乙3文献には本件発明4に関する技術的事項について何らの記載も示唆もなく,かかる事項が本件発明4の技術分野において自明であったと認めるに足りる証拠もない。

したがって,相違点4-2に係る構成は,当業者が乙3発明に基づいて容易に想到し得たものではない。

(4) 本件発明5について

本件発明5は,本件発明1の構成要件を全て具備するところ,本件発明5と乙3発明は,少なくとも相違点1-3において相違し,この点が当業者にとって容易に想到し得ないものであることは,前記(1)のとおりである。

5 争点3-1(本件訂正の適法性)について

(原告の主張)

本件訂正は,いずれも特許法134条の2の要件を満たし,適法である。

(1) 訂正事項1について

ア 訂正の内容と目的

訂正事項1は,請求項1の構成要件1-Cを,「前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」(下線は訂正箇所)とするものである。

訂正事項1は,訂正前の請求項1における「梁補強金具」における「フランジ部」の形成位置を,「前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」ものに限定したものであり,このうち,「前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」との記載は,梁補強金具においてフランジ部が端に形成されることを,より明確に特定するためのものである。

したがって,特許法134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,同法134条の2第9項が準用する同法126条6項に適合する。

イ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること

訂正事項1は,本件明細書等の段落【0029】,【0031】及び【0035】並びに【図3】,5及び8等の開示内容に基づくものである。なお,訂正事項1のうち「前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周」という訂正箇所は,「梁補強金具」の外周部と,梁補強金具の一部位である「フランジ部」の外周とが別の部位であるとの誤解を生じることがないよう,その記載内容の明確化を図ったものであるから,特許法134条の2第9項が準用する同法126条5項に適合する。

(2) 訂正事項2

ア 訂正の内容と目的

訂正事項2は,訂正前の請求項4の「前記外周部の最小外径部から前記フランジ部外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし,」という記載を「前記外周部の最小外径部から前記フランジ部の外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし,」(下線は訂正箇所)という記載に改めたものである。

訂正事項2は,訂正事項1に係る訂正(「前記フランジ部の外周」)に伴って,請求項4が引用する訂正後の請求項1の用語との整合を図るために,訂正前の請求項4における「前記フランジ部外周」を「前記フランジ部の外周」という記載に改めたものであり,明瞭でない記載の釈明に該当するものである。

したがって,訂正事項2は,特許法134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと訂正事項2は,訂正後の請求項1の用語との整合を図るものにすぎず,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法134条の2第9項が準用する特許法第126条6項に適合する。

ウ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること

訂正事項2は,本件明細書等の段落【0032】)等の記載に基づくものであるから,特許法134条の2第9項で準用する特許法126条第5項に適合するものである。

(被告の主張)

訂正事項1に係る訂正は,訂正要件違反により認められない。

すなわち,訂正事項1のうち,構成要件1-C'-2の部分は,構成要件1-Aにいう「梁補強金具」の「外周部」とは別の部位である構成要件1-Cにいう「フランジ部」を,構成要件1-Aにいう「梁補強金具」の「外周部」の「一部である」と規定する点において,減縮を目的とするものではなく,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正であることが明らかである。そして,上記部分の訂正要件違反により,構成要件1-C'-1の部分を含めて,訂正事項1に係る訂正は,全体として認められないから(最高裁昭和53年(行ツ)第27号,第28号同55年5月1日第一小法廷判決・民集第34巻3号431頁参照),訂正事項1に係る訂正は,全体として認められない。

6 争点3-2(被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属するか)についてこの争点の内容は,争点1-1(構成要件1-Aの充足の有無)及び争点1-2(均等侵害の成否)と同一である。

7 争点3-3-1(乙19発明に基づく新規性又は進歩性の欠如)について(被告の主張)

前記のとおり,訂正事項1に係る訂正は認められないから,乙19発明に基づく無効理由は解消されない。また,訂正事項1のうち,構成要件1-C'-1について,フランジ部を接続・補強用に管の軸方向の端部に形成することは,周知慣用技術ないし技術常識である上(甲6~8,乙33~39,44~46),本件訂正発明1においてフランジ部を梁補強金具の外周部の軸方向の片面側に形成するに当たり,これを特に端部に形成することによる特有の作用効果等について,本件明細書等には記載も示唆もないから,乙19発明において「肉厚鋼管」の外周部の軸方向の片面側に形成される「裏当て体」を更に片面側の端部に形成するようにすることは,単なる設計事項にすぎない。

したがって,本件各発明に進歩性がないことに変わりはない。

(原告の主張)

本件各訂正発明は,乙19発明と同一の発明ではないし,同発明に基づいて,出願時に当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,新規性及び進歩性を有する。

したがって,本件各訂正発明は,特許法123条1項2号に該当せず,特許無効審判により無効とされるべきものではない。

(1) 本件訂正発明1について

ア 本件訂正発明1が新規性を有すること

乙19文献に構成要件1-Cが開示されていないことは前記のとおりであるところ,本件訂正発明1-C'-1及び1-C'-2は,構成要件1-Cを更に限定したものであるから,これらが乙19文献に開示されていないことは明らかである。

したがって,本件訂正発明1は,乙19発明と同一ではないから,新規性を有する。

イ 本件訂正発明1が進歩性を有すること

(ア) 相違点

本件訂正発明1と乙19発明は,相違点1-1のほか,以下の点でも相違する。

〈相違点1-2’〉

梁に形成された貫通孔より外形が大きいフランジ部の形成について,本件訂正発明1は,「フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」(構成要件1-C'-1及び1-C'-2)のに対し,乙19発明は,裏当て体が厚肉鋼管の軸方向のいずれの位置に形成されるかは不明である点

(イ) 進歩性を有すること

相違点1-2’に係る構成について開示した文献は見当たらない。また,乙19~21文献によれば,本件特許の出願時においては,管状のスリーブ管を梁に固定する場合,スリーブ管の軸方向の中央部に裏当て体又はフランジを設けることが通常の技術であったと考えられる。そして,このような従来のスリーブ管において裏当て体又はフランジを軸方向の端に形成する構成に更に改変することは,管状のスリーブ管をその端において梁へ取り付けることとなり,梁へ取り付けた際にスリーブ管が不安定になると考えられるから,当業者にとってそのような改変を加えることを想定することは困難である。

したがって,上記相違点1-2’に係る構成は,乙19発明に基づいて当業者が容易に想到できたものではないから,本件訂正発明1は,進歩性を有する。

(2) 本件訂正発明2,4及び5について

本件訂正発明2及び5が乙19発明と同一ではなく,乙19発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものでないことは,前記のとおりである。また,本件訂正発明4の構成要件4-A’は本件発明4の構成要件4-Aと実質的に同一であるから,本件訂正発明4は,前記と同様の理由により,乙19発明と同一ではなく,乙19発明に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。

したがって,本件訂正発明2,4及び5は,いずれも新規性及び進歩性を有する。

8 争点3-3-2(乙3発明に基づく新規性又は進歩性の欠如)について(被告の主張)

前記のとおり,訂正事項1に係る訂正は認められないから,乙19発明に基づく無効理由は解消されない。また,訂正事項1のうち,構成要件1-C'-1について,フランジ部を接続・補強用に管の軸方向の端部に形成することは,周知慣用技術ないし技術常識である上(甲6~8,乙33~39,44~46),本件訂正発明1においてフランジ部を梁補強金具の外周部の軸方向の片面側に形成するに当たり,乙3発明において,周知技術に基づき,スリーブ管の外周部の片面側に形成されるフランジ部を更に片面側の端部に形成するようにすることは,単なる設計事項にすぎない。

したがって,本件各発明に進歩性がないことに変わりはない。

(原告の主張)

本件各訂正発明は,乙3発明に基づいて,出願時に当業者が容易に発明をすることができたものではないから,進歩性を有する。したがって,本件各訂正発明は,特許法123条1項2号に該当せず,特許無効審判により無効とされるべきものではない。

(1) 本件訂正発明1が進歩性を有すること

ア 相違点

乙3文献には構成要件1-Cが開示されておらず,本件訂正発明1-C'-1及び1-C'-2は,構成要件1-Cを更に限定したものであるから,これらが乙3文献に開示されていないので,本件訂正発明1と乙3発明は,以下の点で相違する。

〈相違点1-3’〉

梁に形成された貫通孔より外径が大きいフランジ部の形成について,本件訂正発明1は,「前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」(構成要件1-C'-1及び1-C'-2)のに対し,乙3発明は,スリーブ管が円筒形状に形成されたものであって,「フランジ部」を備えていない点

イ 進歩性を有すること

前記のとおり,構成要件1-Cが容易想到ということはできない以上,同構成を更に限定した構成要件1-C'-1及び1-C'-2は,当業者が容易に想到とし得たものではない。

(2) 本件訂正発明2,4及び5について

本件訂正発明2及び5が乙3発明に基づいて当業者が容易に想到できたものでないことは,前記のとおりである。

また,本件訂正発明4の構成要件4-A’は本件発明4の構成要件4-Aと実質的に同一であるから,同様の理由により,本件訂正発明4は,乙3発明に基づいて当業者が容易に想到できたものではない。

したがって,本件訂正発明2,4及び5は,いずれも進歩性を有する。

9 争点4(損害額)について

(原告の主張)

(1) 特許法102条2項に基づく損害額

原告は,鉄骨梁貫通孔を補強するためのリング状の梁補強金具である原告各製品を製造販売しているところ,被告は,遅くとも平成28年11月頃から,原告各製品と競合する被告各製品につき,業として販売の申出をし,遅くとも平成29年2月から原告が本訴を提起した平成29年8月4日までの間に,被告各製品を業として製造し,少なくとも毎月400個(6か月間で2400個)販売してきた。被告各製品の平均価格は1万7389円であるから,この期間における被告各製品の売上高は,少なくとも4173万3600円であり,その利益率は30%を下らないから,被告が,本件特許権を侵害することにより受けた利益は,1252万0080円を下らない(なお,原告が損害論の審理を踏まえ,損害額の一部について訴えの取下げを求めたが,被告がこれに同意をしなかったことは前記のとおりである。)。

被告は本件各発明等の寄与度は30%を上回らないと主張するが,被告各製品は,本件各発明や本件各訂正発明(以下,両者を併せて「本件各発明等」という。)の構成要件を全て充足しているから,構成要件1-Cや構成要件1-C'-1及び1-C'-2といった特定の構成要件に限定して寄与度を論じるべきではない。また,構成要件1-C等は,それ自体で独立して何らかの作用効果を発揮するという性質のものではなく,梁補強金具が構成要件1-C等を備えることによって,梁補強金具全体として特有の作用効果が発揮されるものであるから,かかる構成に限定して寄与度を論じることはできない。被告が被告各製品の特有の効果と主張する,梁の反転が不要という点は,本件各発明等の利用形態の一例にすぎず,寄与度とは無関係である。

(2) 特許法102条3項に基づく損害額

本件発明は,従来技術の課題を解決した画期的な発明であり,従来技術に比して高い技術的価値を有する。また,原告は,平成15年から原告各製品の製造販売をしているが,第三者に一切実施許諾をしてこなかったことから明らかなとおり,本件発明は,独占性を備え,高い経済的価値を有する。そして,被告各製品全体は,本件各発明の実施品そのものといえるから,実施料率を減じる理由はない。

したがって,本件各発明の技術的価値及び経済的価値の高さ等を考慮すると,その実施利用率は10%を下らず,前記期間中の実施料率相当損害金の額は,同期間中の売上高4173万3600円の10%である417万3360円を下らない。

(3) 弁護士費用等

弁護士費用及び弁理士費用相当額は,前記(1)記載の利益の1割に相当する125万2008円を下らない。

(被告の主張)

否認し,争う。

(1) 特許法102条2項に基づく損害額について

本件各発明等は,形式的には被告各製品全体を対象とするものであるが,いずれも基本発明ではなく,従来技術の一部分の改良発明であり,その特徴部分が仮にあるとしても,構成要件1-C又は構成要件1-C'-1及び1-C'-2にとどまるもので,実質的に被告各製品の部分である「つば状の出っ張り部の外周部」のみを対象とするから,特許法102条2項による推定の一部覆滅事由として,侵害製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合である寄与度を考慮すべきである。

そして,①被告各製品全体における上記部分の体積比,ひいては材料費比がその断面積比から一般に3分の1程度と考えられること(甲3~5),②構成要件1-C等に特有の効果は,「貫通孔より外径が大きいフランジ部を外周部の軸方向の片面側に形成することにより,軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができるようになる」という効果にとどまること,③かかる特有の効果は,被告各製品の宣伝広告において,需要者に何ら積極的に訴求されていないこと(甲3~5),④他方,「つば状の出っ張り部の外周部」のみを溶接固定する被告各製品は,「[梁の反転が不要]となり施工性が大幅にアップ」するという,原告各製品の有しない特有の顕著な効果を有しており,かかる効果が被告各製品の宣伝広告において,需要者に積極的に訴求されていること(甲3~5)からすれば,本件各発明等の寄与度は30%を上回らないというべきであるから,上記推定は,少なくとも70%の割合で覆滅される。

(2) 特許法102条3項に基づく損害額について

発明協会研究センター編「実施料率」第5版(乙47)によれば,本件各発明が属する「建設技術」分野において,「イニシャル無し」の実施料率の平均値が3.5%であり,経済産業省経済産業政策局知的財産政策室編「ロイヤルティ料率データハンドブック」(乙48)によれば,本件各発明が属する土木技術分野におけるロイヤルティ料率の平均値は3.7%である。そして,本件各発明の寄与度は,高くとも30%を上回ることはないから,本件における相当実施料率は2%と認定すべきである。

(3) 弁護士費用等について

認容額の1割程度とする裁判例の一般的傾向や,損害賠償請求額に対する認容額の割合が極めて低いことに照らし,弁護士費用等相当額としては,せいぜい5万円と認定すべきである。

第4 当裁判所の判断

1 本件各発明の内容

(1) 本件明細書等(甲2)には,以下の記載がある。

ア 発明の属する技術分野

「本発明は,各種建築構造物を構成する梁に形成された貫通孔に固定され当該梁を補強する梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造に関する。」(段落【0001】)

イ 従来の技術

「H形鋼やI形鋼等は建築構造物の梁として多数使用されている。このような建築構造物においては,その内部に設けられている配管や配線を通過させるため,梁のウェブ部に1または2以上の貫通孔を形成することがある。この場合,梁の強度低下を防止する手段として,貫通孔に取り付ける補強用のスリーブ部材(例えば,特許文献1(判決注:特公平4-63942号公報(第1-2頁,第1図))参照。)や補強プレート(例えば,特許文献2(判決注:実開平5-57149号公報(第3-4頁,第1図))参照。)などがある。」(段落【0002】)

「特許文献1には,図11に示すような梁貫通スリーブ83が記載されている。この梁貫通スリーブ83は,スリーブ本体80と,このスリーブ本体80の外周部に位置するフランジ81とを,梁82に溶接可能な材料で一体成形されたものであり,スリーブ本体80の肉厚は,少なくともその内周面側が,スリーブ本体80の両端からスリーブ本体80とフランジ81との交接部に向かって徐々に厚くなるように形成されている。このような構成とすることにより,配管84を斜め方向から挿通しても梁貫通スリーブ83の端部に接触して配管84が損傷することがなくなるという効果がある。」(段落【0003】)

【図11】

「特許文献2には,貫通孔が形成された梁ウェブ部の両面に,平板状の開口プレートを高力ボルト止めによって接合することを特徴とする貫通孔補強構造が記載されている。これによって,鉄骨加工工数の少ない合理的経済的な梁貫通孔の補強が可能となる。」(段落【0004】)

イ 発明が解決しようとする課題

「しかしながら,特許文献1に記載されている梁貫通スリーブ83は,梁82のフランジ部85の幅より少し短い筒状の部材であるため,肉厚の調整によって形成できる内径の変化量にも限界があり,梁貫通スリーブ83の挿通角度にも限界がある。このため,さらに配管84の取付けの自由度が高い補強部材が求められている。」(段落【0006】)

「また,特許文献2に記載されている貫通孔補強構造は,2枚の開口プレートを必要とするため部品点数が多くなり,梁のウェブ部の両面に配置される2枚の開口プレートをボルトで締結する際の位置決めが困難であるなどの問題がある。」(段落【0007】)

「一方,近年のインテリジェントビルに代表されるように,建築構造物の設備機能の複雑化が進み,さらに設計対象である建築物が将来的にも建築計画上および建築設備上,十分に機能するように配慮する必要がある。このため,建築構造物内部の各種配管,配線類は柱梁接合構造において柱,言い換えれば,梁の接合端部に接近した領域に集約することが望ましいため,前記貫通孔も柱梁接合構造の柱に近い位置に形成したいという要請がある。」(段落【0008】)

「しかしながら,柱に接近した梁の端部は塑性化領域と呼ばれ,大地震時において地震エネルギを吸収して大変形する部位であり,このような領域に貫通孔を設置すると柱梁接合構造の著しい強度低下を招き,それを補うことのできる補強手段もないので,一般に,塑性化領域における貫通孔の設置は避けられている。したがって,配管や配線の面からは不都合な場所である,柱から離れた部位,即ち梁の塑性化領域から離れた部位に貫通孔を形成せざるを得ないのが実状である。」(段落【0009】)

「そこで,本発明が解決しようとする課題は,梁に開設された貫通孔に対する配管の取り付けの自由度を高めるとともに大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ,柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置を可能とする梁補強金具と,前記梁補強金具を用いた梁貫通孔補強構造とを提供することにある。」(段落【0010】)

ウ 課題を解決するための手段

「前記課題を解決するため,本発明の梁補強金具は,梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍とし,前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成したものである。」(段落【0011】)

「梁に外力が加わったとき貫通孔の周縁部に生じる応力は,ウェブ部から貫通孔の中心軸に沿って離れるに従って徐々に小さくなるため,所定以上の軸方向長さは材料の無駄になる。そこで,梁補強金具の形状をリング状とし,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍(より好ましくは0.5倍~5.0倍)に規制することによって,大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ,また,梁の貫通孔に対して配管を斜めから挿通しても梁補強金具に当接することがなくなり,配管の取り付けの自由度が高まる。」(段落【0012】)「この場合,軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍に設定したのは,0.5倍より小さくすると強度が不十分になり,また,10.0倍より大きくすると軸方向長さの増大の割には梁補強金具の強度が大きくならず,材料の無駄が大きくなるからである。」(段落【0013】)「また,前記梁補強金具の体積を,前記梁に形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0倍~3.0倍にすることも可能である。ここで,空間部の体積は,貫通孔の開口面積にウェブ部の厚みを乗じることにより求めることができる。」(段落【0014】)

「前記梁補強金具の体積を,空間部の体積の1.0倍~3.0倍にしたのは,1.0倍より小さいと,貫通孔が形成されていない梁(以下「無孔梁」という。)より強度が小さくなり,また,3.0倍より大きいと梁の無孔部より強度が大きくなるので品質過剰になり,また,重量が大きくなり過ぎるからである。このような構成とすることによって,大きさが異なる貫通孔に対して所定の強度で補強が行われる。」(段落【0015】)

「また,本発明の梁補強金具では,前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を外周部の軸方向の片面側に形成している。梁補強金具は,貫通孔の軸方向の片方の面側から嵌入されて取り付けられるが,このとき,梁補強金具のフランジ部が,貫通孔周囲の梁ウェブ部に当接するまで嵌入することにより軸方向の位置決めを正確に行うことができる。」(段落【0016】)「また,前記外周部を,軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させることも可能である。かかる構成によって,梁補強金具を貫通孔に嵌入させる作業が容易化されて作業時間が短縮される。」(段落【0017】)

「一方,前記外周部の最小外径部からフランジ部外周までの長さを,前記外周部の最小外径の半分以下とし,フランジ部の軸方向の長さを,当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とすることが望ましい。このような構成を有する梁補強金具を,梁の貫通孔に溶接接合すると,その優れた補強作用により,貫通孔が形成されていない梁,いわゆる無孔梁と同等の強度が得られるので,柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置が可能となる。」(段落【0018】)

「また,前記梁補強金具の内径を梁成の0.8倍以下とすることが望ましい。ここで,梁成とは,梁の重力方向の寸法,例えば,H形鋼を用いた梁であれば片方のフランジ部表面から他方のフランジ部表面までの寸法をいう。」(段落【0019】)

「従来の梁貫通孔スリーブの場合,梁に形成可能な貫通孔の内径は梁成の0.5倍程度が上限であったので,配管,配線が多いときは複数の貫通孔を設ける必要があったが,梁補強金具の内径を梁成の0.8倍以下とすることにより,梁の強度低下を招くことなく,配管・配線用の孔のサイズを梁成の0.8倍までサイズアップすることが可能となるため,複数の貫通孔を設ける必要がなくなり,工数低減を図ることができる。なお,梁補強金具の内径が梁成の0.8倍を超えると,梁補強機能が低下するため,0.8倍以下が好適である。」(段落【0020】)

「また,前記貫通孔に直接当接する3以上の位置決め突起部を外周部に形成することも可能である。このような構成とすることにより,貫通孔と梁補強金具の形状の誤差を吸収して中心位置を合わせることができる。」(段落【0021】)

エ 発明の実施の形態

(ア) 第1実施形態

「(前略)図1(a)は本発明の第1実施形態である梁補強金具の使用状態を示す側断面図であり,(b)は前記梁補強金具が取り付けられる梁の貫通孔を示す側断面図であり,図2は前記梁補強金具の使用状態を示す斜視図である。」(段落【0024】)

【図1】【図2】

「図1に示すように,梁補強金具1は,例えばH形鋼からなる梁2に形成された内径Rの大きさの円形の貫通孔3に嵌入され,貫通孔3の周縁部に外周部4が溶接固定されるリング状の補強部材である。梁補強金具1の外径d1は,貫通孔3の内部に形成された内径Rの円形の空間部6に嵌入可能な大きさであり,その軸方向長さAは,梁2のウェブ部2wの厚みt1より厚く形成されている。また,梁補強金具1の内径d2は,その内側に配管5を挿通可能な大きさであって,梁2の重力方向の高さである梁成Hの0.8倍以下に形成している。」(段落【0025】)

「梁2のウェブ部2wの欠損部分である空間部6の体積V1は,

V1=R2×π×t1×1/4

によって求めることができ,梁補強金具1の体積V2は,

V2=(d12-d22)×π×A×1/4

によって求めることができる。本実施形態においては,梁補強金具1の体積V2を空間部6の体積V1の1.0倍~3.0倍に設定している。かかる構成によって,貫通孔3が形成された梁2の強度を無孔梁と同等にすることができる。」(段落【0026】)

「また,従来の梁貫通スリーブのように,軸方向の長さを長くしても強度への影響が少ないことを考慮し,軸方向の長さAを,半径方向の肉厚B(但しB=(d1-d2)/2)の0.5倍~10.0倍(より好ましくは0.5倍~5.0倍)に設定している。かかる構成によって,空間部6の体積V1と梁補強金具1の体積V2との体積比率の設定を変えずに必要な強度を確保できるとともに梁補強金具1の軸方向の長さを短くすることができ,梁補強金具1の内部を通過する配管5の梁2に対する挿通角度を大きくすることができるので,取り付けの自由度を上げることができる。」(段落【0027】)

「図1(a)に示すように,梁補強金具1は,外周部4の軸方向の両端部を,貫通孔3の周縁部に表側および裏側からそれぞれ全周にわたって溶接することによって固定されている。梁補強金具1を溶接固定した後は,図2に示すように,その内部に配管5などを挿通させることができる。」(段落【0028】)

(イ) 第2実施形態

「図3は本発明の第2実施形態である梁補強金具の使用状態を示す側断面図である。梁補強金具7は,前述した梁補強金具1の外周部4の軸方向の片面側に,梁2に形成された貫通孔3より外径が大きいフランジ部8を形成したものである。梁補強金具7は,その外周部9を梁2のウェブ部2wの片面側(図3の紙面左側)から貫通孔3へ嵌入し,フランジ部8を梁2のウェブ部2wに当接した後,その外周部9と,フランジ部8の外周部とをそれぞれ梁2のウェブ部2wの表面側および裏面側にそれぞれ溶接することによって固定される。このようなフランジ部8を設けることによって,軸方向の位置決めを設置用工具なしで確実に行うことができる。」(段落【0029】)

【図3】

(ウ) 第3実施形態

「図4は本発明の第3実施形態である梁補強金具を示す正面図であり,図5は図4におけるX-X線断面図であり,図6は図4に示す梁補強金具の使用状態を示す側断面図である。」(段落【0030】)

【図5】

【図4】

【図6】

「図4,図5に示すように,梁補強金具10においては,その外周部12の軸方向の片面側にフランジ部13を設けるとともに,外周部12をその軸方向の他面側(フランジ部13の無い面側)に向かって徐々に縮径するテーパ形状としている。ここで,梁補強金具10の各部の寸法を図5に示すような符号で表すと,梁補強金具10の体積V2は,

V2=(πT/3)×[(Q/2)

2+{(Q/2)×(d3/2)}+(d

3/2)2]+(S/2)2πF-(d2/2)2πAによって求めることができる。また,図6に示すように梁2のウェブ部2wに形成された貫通孔3の空間部6(図示せず)の体積V1は,図1(b)に基づいて算出した場合と同様に,

V1=R2×π×t1×1/4

によって求めることができる。」(段落【0031】)

「本実施形態においては,梁2の貫通孔3に溶接接合された梁補強金具10の体積V2を,空間部6の体積V1の1.0~3.0倍とし,梁補強金具10の内径d2を梁2の梁成Hの0.8倍以下としている。さらに,梁補強金具10においては,外周部12の最小外径部12aからフランジ部13の外周までの長さCを外周部12の最小外径d3の半分以下(より好ましくは1/4以下)とするとともに,フランジ部13の軸方向の長さFを,梁補強金具10の軸方向の長さAの半分以下としている。このような構成により,貫通孔3が形成された梁2の強度を無孔梁と同等にすることができる。」(段落【0032】)

「図6に示すように,梁2のウェブ部2wに形成された貫通孔3と梁補強金具10との溶接部Wにおいては,梁補強金具10の外周部12を貫通孔3の内縁部3aまで溶け込み溶接することによって強固に固定されている。また,梁補強金具10の外周部12をフランジ部13の無い方の面側に向かって徐々に縮径する形状としているため,梁補強金具10の外周部12を貫通孔3へ嵌入させたとき,外周部12は貫通孔3の内縁部3aに対して傾斜した状態となる結果,外周部12が溶接開先として機能するため,溶接性が向上し,溶接不良の発生を回避することができる。」(段落【0033】)

(エ) 第4実施形態

「図7は本発明の第4実施形態である梁補強金具を示す正面図であり,図8は図7におけるY-Y線断面図であり,図9は図7に示す梁補強金具の使用状態を示す側断面図である。」(段落【0034】)

【図8】

【図7】

【図9】

「図7,図8に示すように,梁補強金具20においては,その外周部12の軸方向の片面側にフランジ部13を設けるとともに,外周部12を軸方向の他面側に向かって徐々に縮径するテーパ形状としている。また,外周部12の120度おきの3カ所に,梁2の貫通孔3の内縁部3aに直接当接する位置決め突起部11を均等配置している。」(段落【0035】)

「このような位置決め突起部11を設けることによって,梁2の貫通孔3の内縁部3aと梁補強金具20の外周部12との間に形状的な誤差がある場合でも,容易かつ正確に中心位置合わせを行なうことができ,これによって取り付け精度を向上させ品質向上を図るとともに作業時間も短縮することができる。」(段落【0036】)

「また,外周部12は,フランジ部13のない方の面側に向かって徐々に縮径する形状としているため,図9に示すように,梁補強金具20の外周部12を貫通孔3へ嵌入させたとき,外周部12は貫通孔3の内縁部3aに対して傾斜した状態となる結果,外周部12が溶接開先として機能するため,溶接性が向上し,溶接不良の発生を回避することができる。」(段落【0037】)

「さらに,梁補強金具20においては,外周部12の最小外径部12aからフランジ部13の外周までの長さCを外周部12の最小外径d3の半分以下(より好ましくは1/4以下)とするとともに,フランジ部13の軸方向の長さFを梁補強金具20の軸方向の長さAの半分以下としている。また,梁補強金具20の内径d2を,梁2の梁成Hの0.8倍以下としている。このような構成を有する梁補強金具20を,図9で示したように,梁2の貫通孔3に嵌入させ,外周部12と貫通孔3の内縁部3aとを溶接接合すると優れた補強作用を発揮し,貫通孔3が形成されていない無孔梁と同等の強度が得られる。」(段落【0038】)

オ 発明の効果

「本発明によって以下の効果を奏することができる。」(段落【0045】)「(1)梁補強金具の形状をリング状とし,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍(より好ましくは0.5倍~5.0倍)とすることにより,大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ,貫通孔に対して配管を斜めから挿通しても梁補強金具に当接することがなくなり配管等の取り付けの自由度を高めることができる。」(段落【0046】)

「(2)梁補強金具の体積を,梁に形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0倍~3.0倍にすることにより,大きさが異なる貫通孔に対しても必要な強度で補強が行われ,また,重量が大きくなり過ぎることを防止できる。」(段落【0047】)

「(3)貫通孔より外径が大きいフランジ部を外周部の軸方向の片面側に形成することにより,軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができるようになる。」(段落【0048】)

「(4)外周部を軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させることにより,梁補強金具を貫通孔に嵌入させる作業を容易化して作業時間を短縮することができる。」(段落【0049】)

「(5)外周部の最小外径部からフランジ部外周までの長さを,外周部の最小外径の半分以下とし,フランジ部の軸方向の長さを,当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とすることにより,梁の貫通孔に溶接接合したとき優れた補強作用を発揮し,無孔梁と同等の強度が得られるので,柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔の設置が可能となる。」(段落【0050】)「(6)梁補強金具の内径を梁成の0.8倍以下とすることにより,梁の強度低下を招くことなく,梁の貫通孔のサイズを梁成の0.8倍までサイズアップすることが可能となるため,複数の貫通孔を設ける必要がなくなり,工数低減を図ることができる。」(段落【0051】)

「(7)梁の貫通孔の内縁部に直接当接する3以上の位置決め突起部を外周部に形成することにより,貫通孔と梁補強金具の形状の誤差を吸収して中心位置を合わせることができるため,取付け(判決注:誤記につき修正)精度が高まり品質が向上するとともに作業時間を短縮することができる。」(段落【0052】)

「(8)柱梁接合構造を構成する梁の貫通孔に前記(1)~(7)のいずれかの梁補強金具を溶接接合して形成した梁貫通孔補強構造において,柱と梁との接合部から梁補強金具の軸心までの距離を梁成の2倍以下とすることにより,柱に近い位置に貫通孔を配置可能となるため,配管,配線の集約化を図ることができ,建築物の設計上好都合であり,配線・配管の施工性も大幅に向上する。」(段落【0053】)

(2) 本件各発明の意義

本件特許の特許請求の範囲の記載及び前記(1)によれば,本件各発明は,①梁に形成された貫通孔に固定され当該梁を補強する梁補強金具を技術分野とするものであり,②梁に開設された貫通孔に対する配管の取付けの自由度を高めるとともに,大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ,柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置を可能とすることを課題とし,③この課題を解決するために,各請求項記載の構成を備えるものであり,④これにより,本件明細書等の段落【0045】~【0053】に記載された作用効果を奏するものであると認められる。

2 争点1(構成要件1-Aの充足の有無)について

当裁判所は,被告各製品が構成要件1-Aを充足すると判断するが,その理由は,以下のとおりである。

(1) 構成要件1-Aの解釈

ア 特許請求の範囲(請求項1)の記載内容

(ア) 外周部について

構成要件1-Aは,「梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって,」というものであり,これは,「梁に形成された貫通孔の周縁部」に「リング状の梁補強金具」の「外周部」が「溶接固定される」ことを規定するものである。そして,本件発明1の他の構成要件の記載には,外周部が溶接固定される位置を特定する記載は存在しないので,本件発明1において上記「外周部」が溶接固定される位置については,「貫通孔の周縁部」であること以外に特に規定されていないと解するのが相当である。

ところで,一般に,「外周」とは,「ものの外側に沿ったまわり。ものの外側をとり巻いている部分」をいうものと認められるところ(甲6,7),これを本件発明1に即していえば,構成要件1-Aの「外周部」は,「リング状の梁補強金具」の「外側に沿ったまわり」又はその「外側を取り巻いている部分」を意味するというべきである。

(イ) 「フランジ部」について

構成要件1-Cは,「前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した」というものであるが,この「前記外周部」は構成要件1-Aの「外周部」を指すことは明らかであるから,同構成要件は,「フランジ部」が「リング状の梁補強金具」の「外周部」の軸方向の片面側に形成されていることを規定したものと解される。

一般に,「フランジ」とは,「部品全周囲に張り出したつば状の出っ張り」,「管,軸,その他の機械部品で,つば状に突き出ている板状部分,または同じ目的のために取付けられる板状部品」をいうところ(甲6~8,乙33~39,44~46),構成要件1-Cの「フランジ部」は「リング状の梁補強金具」の「外周部」に形成されているのであるから,「フランジ部」は「外周部」の一部をなすとともに,「リング状の梁補強金具」の一部をも構成するものであって,そうすると,フランジ部の外周は,「リング状の梁補強金具」の「外周部」に含まれると解するのが自然である。(ウ) 「周縁部」について

構成要件1-Aは,「梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定される」と規定するところ,一般に,「周縁」とは,「もののまわり」(甲10),「まわり。ふち」(乙1)を意味するから,「梁に形成された貫通孔の周縁部」とは,梁に形成された貫通孔の周り又は縁に係る部分を意味するものと解するのが自然である。

(エ) 被告の主張について

被告は,本件発明1は,構成要件1-Aの「リング状の梁補強金具」の「外周部」を前提構成とし,構成要件1-Cの「フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した」ことを特徴構成とするものであると主張する。しかし,被告の主張に係る「前提構成」,「特徴構成」という語は,本件明細書等で用いられているものではなく,その意味自体が判然としない上,このような構成の性格付けから「外周部」が「フランジ部」と別の部位であるとの結論が導き出されるものではない。

イ 本件明細書等の記載内容等

本件明細書等には,「外周部」,「フランジ部」及び「周縁部」の意義又は範囲についてこれを明確に定義する記載は存在しない。

(ア) そこで,本件明細書等の記載や図面を参照するに,従来技術である第1実施形態について,本件明細書等の段落【0028】には,「梁補強金具1は,外周部4の軸方向の両端部を,貫通孔3の周縁部に表側および裏側からそれぞれ全周にわたって溶接することによって固定されている」との記載がある。これによれば,第1実施形態における「外周部」は,梁補強金具の「外側に沿ったまわり」全体を意味するものとして使用されていることは明らかである。

(イ) 次に,第2実施形態は,第1実施形態の具備する構成に,構成要件1-Cに係る構成(前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した)を付加したものと認められるところ(段落【0029】,【図3】),段落【0029】には「梁補強金具7は,その外周部9を梁2のウェブ部2wの片面側(図3の紙面左側)から貫通孔3へ嵌入し,フランジ部8を梁2のウェブ部2wに当接した後,その外周部9と,フランジ部8の外周部とをそれぞれ梁2のウェブ部2wの表面側および裏面側にそれぞれ溶接することによって固定される」との記載が存在する。

同実施形態における「外周部9」は「梁補強金具7」の「外周部」であり,前記のとおりの「外周部」の一般的な意義及び上記実施形態1における「外周部」の意義との整合性を考慮すると,実施形態2の外周部9は,以下の図の赤線部分のとおり,梁補強金具7の一部であるフランジ部の外周も含め,梁補強金具7の外側に沿った外周全体を意味するものと解するのが相当である。

これに対し,被告は,実施形態2の「外周部9」は以下の図の黄色部分であると主張するが,下記の黄色部分は,その一部は梁補強金具の外周であるものの,その余の部分は梁補強金具の内部の部位を含むものとなっており,「ものの外側に沿ったまわり。ものの外側をとり巻いている部分」という「外周部」との語の一般的意義と大きく乖離する解釈であるといわざるを得ない。

また,被告は,上記段落【0029】及び【図3】等において,「外周部9」と異なる「フランジ部8の外周部」という呼称がされていることをもって,「外周部」と「フランジ部」は別の部位であると主張する。しかし,前記のとおり,構成要件1-Cの「フランジ部」は「リング状の梁補強金具」の「外周部」に形成されるものであり,また「フランジ部」は「リング状の梁補強金具」の一部であるから,「フランジ部8の外周部」は,「リング状の梁補強金具」の外周全体を形成する「外周部9」のうち「フランジ部8」の外周部分を指すと解するのが相当である。そして,本件明細書等において「フランジ部の外周部」との語が用いられているのは,外周全体である「外周部9」とは区別して,その一部である「フランジ部8」の外周部を特定する必要があるためであると考えられる。

さらに,被告は,梁2のウェブ2wの表面側における,フランジ部以外の部分と溶接固定される箇所こそが,本件発明1における「貫通孔の周縁部」であると主張するところ,構成要件1-Aの「梁に形成された貫通孔の周縁部」とは,梁に形成された貫通孔の周りや縁に係る部分を意味し,貫通孔の周縁に限定すべき理由はないことに照らすと,本件発明1における「貫通孔の周縁部」は貫通孔の周り又は縁に近接した部分を含むものであり,梁2のウェブ2wの裏面側においてフランジ部と溶接固定される箇所についても「周縁部」に含まれると解するのが相当である。

なお,このように解すると,「フランジ部」の外径に制限はないことから,「フランジ部」の外径が相当に大きい場合,その外周部を溶接固定したとしても「周縁部」への溶接固定に当たらない場合もあり得るが,そのような場合には,外径の小さい「外周部」を「周縁部」に溶接固定すれば足りるのであるから,「フランジ部」の外径に制限がないことをもって,「フランジ部」と「外周部」とを別の部位に解すべき理由はない。(ウ) 被告は,請求項3の記載及び本件発明3に関する本件明細書等の記載(段落【0017】,【0045】,【0049】,【図4】~【図6】等)によれば,本件発明3は,リング状の梁補強金具の「外周部」を「軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させ」るという構成を採用しており,第3及び第4実施形態においても,そのような構成を備えている「外周部」と同構成を備えていない「フランジ部」は峻別されていると主張する。しかし,請求項3は「前記外周部を,軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させた」と規定するのみで,「外周部」の全体を徐々に縮径させるとはされていないのであるから,上記構成を備えた部分のみを「外周部」と解すべき理由はない。第3及び第4実施形態についても,「フランジ部13」の外周が「外周部12」の一部であることを前提として,「外周部12」の一部が上記構成を備えていることが示されていると解することができるのであり,本件発明3に係る請求項3及びこれに関する本件明細書等の記載は,「フランジ部」の外周が「外周部」の一部であるとの上記解釈を妨げるものではないというべきである。

(エ) 被告は,請求項4の記載及び本件発明4に関する本件明細書等の記載(段落【0018】,【0045】,【0050】等)には,リング状の梁補強金具の「外周部」の最小外径部から,「フランジ部」の「外周」までの長さを,外周部の最小外径の半分以下とするなどの構成が採用されており,ここでも「フランジ部」は「外周部」と峻別されていると主張する。しかし,請求項4や本件明細書等の上記記載における「フランジ部外周までの長さ」との記載は,梁補強金具10にフランジ部13を設けたことにより,外周部の外径の長さが地点により異なることを前提として,「外周部」の一部であり,かつ,外周部の外径の長さが最も長くなる「フランジ部13の外周」を特定して呼称したものにすぎないというべきであり,上記記載をもって「外周部」と「フランジ部」が別の部位であるということはできない。

(オ) 被告は,請求項6の記載及び本件発明6に関する本件明細書等の記載(段落【0021】,【0045】,【0052】等)によれば,本件発明6は,リング状の梁補強金具の「外周部」に「貫通孔の内縁部に直接当接する3以上の位置決め突起部を」「形成する」という構成を採用しており,その構成を備えた部位が「外周部」であって,同構成を備えない「フランジ部」とは別の部位であると主張する。

しかし,本件発明6に対応する第4実施形態に係る【図7】を第3実施形態に係る【図4】と対比すると,「位置決め突起部11」が「フランジ部13」にまたがって配置されていることが開示されており,これによれば,本件明細書等において「外周部」と「フランジ部」が峻別されているということはできない。

また,仮に,「位置決め突起部」が「フランジ部」に設けられていないとしても,「位置決め突起部」が設けられた箇所により「外周部」の範囲が画されるものではないので,請求項6及び本件明細書等の上記記載は,「フランジ部」の外周が「外周部」の一部を構成するとの解釈を妨げるものではない。

(カ) 被告は,本件手続補正により原告が当初の請求項3の内容を請求項1に組み込んだ際,出願当初の請求項3の実施例のうち,フランジ部8の外周部を梁2のウェブ部2wの表面側に溶接固定する実施形態をあえて特許請求の範囲に含めなかったことを理由として,本件特許の出願経過も「フランジ部」と「外周部」が別の部位であるとの前記解釈を裏付けるものであると主張する。

しかし,原告が,本件手続補正の際に当初の請求項3の意義や範囲を変更したことをうかがわせる証拠はなく,むしろ,原告は,「フランジ部」の外周が「外周部」の一部であることを前提として,本件手続補正を行ったと認めるのが相当である。

(キ) 被告は,原告が販売している原告各製品における溶接の態様も,「外周部」と「フランジ部」が別の部位であるとの解釈に合致するものであると主張するが,原告各製品における溶接の態様から本件発明1に係る請求項1の文言の解釈を導き出せるものではなく,原告各製品の溶接の態様を理由にして,本件発明1の「外周部」と「フランジ部」が別の部位であると解することはできない。

ウ 以上のとおり,本件発明1の「外周部」と「フランジ部」は別の部位ではなく,「フランジ部」の外周は「外周部」の一部を構成するものであると認めるのが相当である。

(2) 被告各製品の構成との対比

被告各製品は,鉄骨梁の開口部,すなわち梁に形成された貫通孔にはめ込むことにより,当該開口部を補強するために用いられるリング状の梁補強金具であり,つば状の出っ張り部を鉄骨梁のウェブ部に溶接固定して,上記補強を行うものであると認められる(甲4)。上記つば状の出っ張り部が本件発明1の「フランジ部」に相当することについては当事者間に争いがなく,前記判示のとおり,「フランジ部」の外周も本件各発明の「外周部」を形成するものであるので,被告各製品の上記出っ張り部は本件発明1の梁補強金具の「外周部」に当たる。

甲4号証1頁の図(一部抜粋。灰色加工)

そして,被告各製品において,下図のTはいずれも25mm,D3とD2との差の2分の1はいずれも11mmであるから(別紙被告製品説明書の「ダイヤリングAタイプ寸法および製造方式一覧」参照),つば状の出っ張り部の長さは14mmとなるので,溶接固定される部分は,鉄鋼梁の開口部(貫通孔)の周縁から,最大でも14mm程度(下孔寸法として4mmの隙間が許容されていること(別紙被告製品説明書の最終頁)からすると,最小で10mm程度)離れた辺りということになる。

甲4号証3頁の図

このように,被告各製品の溶接部分であるつば状の出っ張り部と貫通孔の周縁の間の距離は,被告各製品の隅肉溶接サイズが9mmとされていること(甲5)に照らしても,近接しているということができるから,被告各製品においては,梁固定金具の「外周部」が貫通孔の「周縁部」に溶接固定されているということができる。

したがって,被告各製品は,構成要件1-Aを充足する。

(3) 被告各製品の構成要件充足性

ア 被告各製品は構成要件1-Aを充足するところ,被告各製品が本件発明1の構成要件1-B,1-C及び1-Dを充足することについては当事者間に争いがないから,被告各製品は,本件発明1の構成要件をいずれも充足する。また,被告各製品が本件発明2の構成要件2-A及び本件発明5の構成要件5-Aをそれぞれ充足することについては当事者間に争いはなく,被告各製品が本件発明1の技術的範囲に属するがゆえに,本件発明2の構成要件2-B及び本件発明5-Bを充足することになるから,被告各製品は,本件発明2及び5の構成要件をいずれも充足する。

そして,被告各製品が本件発明4の構成要件4-A及び被告製品8~13が本件発明4の構成要件4-Bを充足することについては当事者間に争いがなく,被告製品8~13は本件発明1の技術的範囲に属するがゆえに,本件発明4の構成要件4-Cを充足することになるから,被告製品8~13は,本件発明4の構成要件を充足する。

イ なお,被告各製品が本件訂正発明1の構成要件1-B,1-C'-1,1-C'-2及び1-Dを充足することについては当事者間に争いがないから,被告各製品は,本件訂正発明1の構成要件を充足する。

また,被告各製品が本件訂正発明2の構成要件2-A,本件訂正発明4の4-A’及び本件訂正発明5の構成要件5-Aを充足すること並びに被告製品8~13が本件訂正発明4の構成要件4-Bを充足することについては当事者間に争いがないことから,前記アと同様に,被告各製品は本件訂正発明2及び5の構成要件をいずれも充足し,被告製品8~13は本件訂正発明4の構成要件を充足する。

3 争点3-1(本件訂正の適法性)について

事案に鑑み,続いて,争点3-1(本件訂正の適法性)について検討する。

(1) 訂正事項1について

ア 訂正事項1は,訂正前の請求項1の「梁補強金具」における「フランジ部」の形成位置を,「外周部の軸方向の片面側」から「外周部の軸方向の片面側の端部」に限定するものであり,また,「梁補強金具の軸方向の前記片面側の面」につき,その形状が特定されていないものから「梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面」に限定するものであるから,訂正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認められる。

また,訂正事項1の内容は,本件明細書等の段落【0029】,【0031】及び【0035】並びに【図3】,【図5】及び【図8】等に記載されているから,訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると認められる。

イ これに対し,被告は,訂正事項1のうち,構成要件1-C'-2は,「外周部」とは別の部位である「フランジ部」を,「梁補強金具」の「外周部」の「一部である」と規定する点において,減縮を目的とするものではなく,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正であると主張する。しかし,「フランジ部の外周」が「外周部」の一部であることは前記判示のとおりであり,被告の主張は理由がない。

(2) 訂正事項2について

訂正事項2は,訂正前の請求項4の「前記フランジ部外周」を「前記フランジ部の外周」という記載に改めたものであるから,明瞭でない記載の釈明に該当するものであると認められ,かかる訂正が,発明のカテゴリーや対象,目的を変更するものではないことは明らかであるから,訂正事項2は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認められる。

そして,訂正事項2は,本件明細書等の段落【0032】等の記載に基づくものであるから,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると認められる。

(3) 以上のとおり,本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり,同条9項が準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するから,適法なものと認められる。

4 争点3-2(被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属するか)について被告各製品が本件各訂正発明の技術的範囲に属すること(ただし,本件訂正発明4については,被告製品8~13が同発明の技術的範囲に属すること)は,前記2(3)イに記載のとおりである。

5 争点3-3-1(本件訂正による無効理由の解消の有無:乙19発明に基づく新規性又は進歩性の欠如)について

(1) 引用発明の内容

ア 乙19発明の内容

乙19文献には,以下の記載がある(乙19)。

(ア) 特許請求の範囲

「1.梁鉄骨のウェブに設けた貫通孔と,この貫通孔に挿入した厚肉鋼管と,この厚肉鋼管の外周をウェブに固着する溶接部とを備えていることを特徴とする鉄骨梁貫通孔構造。

2.溶接部は,ウェブの一面側に位置し,厚肉鋼管と一体の裏当て体を備えていることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の鉄骨梁貫通孔構造。

3.貫通孔の縁はその断面が平坦であって,厚肉鋼管の外周部との間隙を溶接部の肉がウェブの一面から他面に及び得る幅に設定してあることを特徴とする特許請求の範囲第2項記載の鉄骨梁貫通孔構造。

4.裏当て体は厚肉鋼管を被嵌したリング状であることを特徴とする特許請求の範囲第2項または第3項記載の鉄骨梁貫通孔構造。」(1頁左下欄4行目~20行目)

(イ) 従来の技術

「従来の鉄骨梁貫通孔構造は薄肉の鋼管を梁鉄骨のウェブに設けた貫通孔に挿入して溶接により固着し,貫通孔の周辺のウェブ両面に補強プレートを溶接により固着しているものであった。」(1頁右下欄4行目~8行目)

(ウ) 発明が解決しようとする問題点

「しかしながら従来例によると,薄肉の鋼管と2枚のプレートとの組合せであるので,溶接部分や鋼管,プレートの寸法精度に対する品質管理が難しく,さらにプレート加工に手間がかかっていた。そして鋼管の取付けに際して,梁ウェブと,鋼管,各プレートとそれぞれ全周まわし溶接を必要とするので,溶接長が長く,溶接量が多くなるので,このために発生する溶接変形の矯正を必要とし,それだけ取付けの作業性向上に悪影響を与えていた。本発明の目的は,溶接量と部品点数とを少なくして,加工や取付けの品質管理をしやすくし,加工や取付け作業の向上が図れる鉄骨梁貫通孔構造を提供することにある。」(1頁右下欄下から2行目~第2頁左上欄13行目)

(エ) 実施例

「第1,2図において,梁鉄骨1のウェブ1aには貫通孔1bを設けてある。この貫通孔には厚肉の鋼管2が貫通し,この厚肉鋼管の外周のほぼ中央部を全周にわたってウェブ1aに溶接部3によって固着してある。溶接部3はすみ肉溶接により形成されている。」(2頁右上欄1行目~6行目)

「第4,5図に溶接部の他の実施例を示す。第4図の例では,貫通孔1aの径は上例より大きく形成し,溶接部の肉がウェブ1aの右面から他面に達する径とし,孔縁断面を平坦としている。そしてウェブ1aの左面からリング状の裏当て体3aを当接してある。この例によれば,溶接作業は片側のみでよいので,溶接の際ウェブ1aの歪みが生じにくく,作業を迅速にすることができる。」(2頁左下欄11行目~19行目)

「第5図では,開先をレ形のものを使用している。その他の構成は第4図の例と実質的に同一である。第4,5図の例に示すように溶接部が裏当て体を備える場合,裏当て体を鋳造,鍛造,圧延などの方法で肉厚鋼管と一体に形成してもよい。」(2頁右下欄3行目~7行目)」

イ 乙19発明の内容

前記ア(ア)~(エ)の記載並びに乙19の第2図,第5図からは貫通孔1bの周縁部にリング状の厚肉鋼管2が溶接部3により固着されていること,第4図,第5図からは裏当て体3aがリング状の厚肉鋼管2から突出して一体的に設けられ,当該裏当て体3aの外径が貫通孔1bより大きいことがそれぞれ認められることからすれば,乙19発明の内容は,「梁鉄骨1のウェブ1aに形成された貫通孔1bの周縁部にリング状の厚肉鋼管2が溶接部3により固着され,溶接部3は裏当て体3aを備えており,裏当て体3aが厚肉鋼管2から突出して設けられ,貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aが,厚肉鋼管2の中央付近やや左側において厚肉鋼管2と一体的に形成され,裏当て体3aをウェブ1aの左面から当接する鉄骨梁貫通孔構造用の厚肉鋼管」であると認められる。

ウ 乙20文献の記載

乙20文献には,以下の記載がある(乙20)。

(ア) 考案の名称

「鉄骨孔部補強材」

(イ) 目的

「梁等の鉄骨に設ける配管,配線用孔の周辺を補強するにつき,補強作業を簡素化し,かつ溶接長を短くして現場施工時間を短縮する。また,各種の梁成の鉄骨に,同じものを使用可能とする。」(要約)

(ウ) 構成

「スリーブ部2とその外周のフランジ部3とからなる鉄骨孔部補強材1を,溶接構造用鋳鋼等で一体に形成する。施工に際しては,鉄骨4のウエブ4aに設けた孔5に,鉄骨孔部補強材1のスリーブ部2を挿通し,フランジ部3をウエブ4aの表面に沿わせる。この状態で,ウエブ4aの孔5の内周とスリーブ部2の外周とを溶接する。」(要約)

(エ) 実施例

「図1はこの鉄骨孔部補強材1を,H形鋼からなる鉄骨4に固定した状態を示す。鉄骨孔部補強材1は,スリーブ部2と,このスリーブ部2の軸方向中央の外周に設けた円板状のフランジ部3とからなり,全体が溶接構造用鋳鋼等で一体に鋳造されている。スリーブ部2は,外周面がテーパ状に形成されて中央部の肉厚が厚くなっており,かつフランジ部3は内周側が厚肉となるテーパ面に片面が形成されている。スリーブ部2の外径は,鉄骨4の孔5の内径に応じて,例えば直径が100~400mm程度に形成される。」(段落【0010】)

【図1】

エ 乙21文献の記載

乙21文献には,以下の記載がある(乙21)。

(ア) 発明が解決しようとする問題点

「従来例によると,スリーブと当板との組合せであるので,溶接部分や製品(スリーブ,当板)の寸法精度に対する品質管理が難しく,品質にばらつきが生じやすく,さらに製作加工に手間がかかり,したがって量産性に適合しない。そしてスリーブの取付けに際して,梁ウェブとスリーブとは全周まわし溶接個所が2個所,梁と一方の当板とについても2個所の全周まわし溶接個所が必要であり,さらに梁ウェブと他方の当板についても2個所と合計6個所の全周まわし溶接を必要とし,溶接長を少なくして施工性の向上を図るという見地からはなお改善の余地がある。」(2頁左上欄3行目~14行目)

(イ) 問題点を解決するための手段

「本発明の梁貫通スリーブは,スリーブ本体1とこのスリーブ本体の外周に位置するフランジ2とを,鍛造によって一体成形したものである。スリーブ本体1は梁貫通孔32を挿通可能であって,フランジ2,12は一側面22を梁3に当接する面としている。スリーブ本体1の外周部が両端からフランジ2,12の基部との交点部に向けて肉厚となっている。」(2頁左上欄16行目~右上欄3行目)」

(ウ) 実施例

「第1,2図において,梁貫通スリーブはスリーブ本体1と,このスリーブ本体の外周のほぼ中央部に設けたフランジ2とからなる。スリーブ本体1とフランジ2とは,鍛造により一体成形してある。スリーブ本体1の外径は,梁3のウェブ31に設けてある梁貫通孔32を挿通可能の大きさである。そしてスリーブ本体1の外周部11は,フランジ2の基部に向けて本体が肉厚となり,フランジとの交点部で最大厚となっている。(2頁右上欄14行目~左下欄3行目)

「そして梁貫通孔32内のスリーブ本体1の外周部の開先24を,ウェブ31の左側面側から溶接41してスリーブ本体をウェブに固定する。」(2頁右下欄1行目~4行目)」

(2) 本件訂正発明1について

ア 本件訂正発明1と乙19発明の対比

(ア) 対比

乙19発明の内容は前記(1)イのとおり「梁鉄骨1のウェブ1aに形成された貫通孔1bの周縁部にリング状の厚肉鋼管2が溶接部3により固着され,溶接部3は裏当て体3aを備えており,裏当て体3aが厚肉鋼管2から突出して設けられ,貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aが,厚肉鋼管2の中央付近やや左側において厚肉鋼管2と一体的に形成され,裏当て体3aをウェブ1aの左面から当接する鉄骨梁貫通孔構造用の厚肉鋼管。」であるところ,本件訂正発明1と乙19発明を対比すると,乙19発明の「梁鉄骨1」は本件発明1の「梁」に,「貫通孔1b」は「貫通孔」に,「周縁部」は,「周縁部」に,「溶接部3により固着」は,「溶接固定」に,「貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3a」は,「貫通孔より外径が大きいフランジ部」に,「厚肉鋼管2」と「裏当て体3a」からなるものは「リング状梁補強金具」に,前記「裏当て体3a」が形成されている「外周部」は,本件訂正発明1の「フランジ部」が形成されている「前記外周部(リング状の梁補強金具の外周部)」にそれぞれ相当する。そうすると,本件訂正発明1と乙19発明の一致点と相違点は,それぞれ以下の(イ)及び(ウ)のとおりと認められる。

(イ) 一致点

梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって,前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成してある梁補強金具(構成要件1-A,1-C’-1の一部,1-D)

(ウ) 相違点

〈相違点1〉

本件発明1が梁補強金具の軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍としている(構成要件1-B)のに対し,乙19発明はそのような特定がされていない点

〈相違点2〉

貫通孔より外径が大きいフランジ部が,本件訂正発明1では,外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面であるのに対して,乙19発明では,外周部の片面側中央寄りに形成している点

イ 新規性について

本件訂正発明1と乙19発明を対比すると,上記各相違点が存在するので,両発明が同一であるとは認められない。そうすると,本件訂正発明1につき,新規性が欠如する旨の被告の主張は理由がない。

ウ 進歩性について

(ア) 相違点1について

相違点1に係る構成要件1-Bの意義に関し,本件明細書等には,「梁補強金具の形状をリング状とし,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍(より好ましくは0.5倍~5.0倍)に規制することによって,大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ,また,梁の貫通孔に対して配管を斜めから挿通しても梁補強金具に当接することがなくなり,配管の取り付けの自由度が高まる。」(段落【0012】),「0.5倍より小さくすると強度が不十分になり,また,10.0倍より大きくすると軸方向長さの増大の割には梁補強金具の強度が大きくならず,材料の無駄が大きくなる」(段落【0013】)との記載があるものの,同構成要件の数値の範囲内外で効果等に差違が生じることを示す実験結果等は示されておらず,本件明細書等の上記記載を参酌しても,同構成要件の数値に格別の臨界的意義があるとは認められない。

また,乙3文献のFig. 1及びTable 1のWHS-3には,梁補強金具に相当するスリーブ管の半径方向の肉厚(ts),スリーブ管の軸方向の長さ(bs)の数値自体が記載され,梁補強金具の軸方向の長さを半径方向の肉厚の3.85倍とすることが開示されていると認められる。同文献に開示されているスリーブ管が構成要件1-Bの数値範囲にあることからもうかがわれるとおり,同構成要件の数値範囲は相当程度広範なものであり,強度の維持や材料の効率的使用等の観点から梁補強金具の半径方向の肉厚と軸方向の長さの比率を調整することは当業者であれば当然考慮すべき事項であることにも照らすと,同構成要件に係る数値範囲は当業者が適宜工夫し設定し得るものというべきである。

(イ) 相違点2について

相違点2に係る構成に関し,被告は,フランジ部を接続・補強用に管の軸方向の端部に形成することは,周知慣用技術ないし技術常識である上(甲6~8,乙33~39,44~46),乙19発明において「厚肉鋼管」の外周部の軸方向の片面側に形成される「裏当て体」を更に片面側の端部に形成するようにすることは,単なる設計事項にすぎないと主張する。しかし,本件訂正発明1の「貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」という構成(構成要件1-C'-1,1-C'-2)にすることは,乙20文献及び乙21文献並びに被告主張の周知技術(甲6~8,乙33~39,44~46)には記載も示唆もない。

また,乙20及び21によれば,本件特許の出願時において,管状のスリーブ管を梁に固定する場合には,スリーブ管の軸方向の中央部に裏当て体又はフランジを設けることが通常の技術であったと考えられ(乙20,21),乙19発明の裏当て体が設けられているのも厚肉鋼管2のほぼ中央部である。この裏当て体を設ける位置を,その中央部ではなく,軸方向の端部にした場合には,梁に取り付けた際に厚肉鋼管が不安定になるとも考えられることから,乙19発明の裏当てを外周部の軸方向の片面側の端部に形成することが設計事項であるということもできない。

したがって,本件特許の出願当時,当業者が,乙19発明に乙20文献及び乙21文献その他の周知技術を組み合わせることにより,相違点2に係る構成に容易に想到し得たということはできない。

よって,本件訂正発明は,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。

(3) 本件訂正発明2,4及び5について

本件訂正発明2,4及び5は,いずれも本件訂正発明1の構成を含むものであるから,前記(2)と同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたとは認められず,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。

6 争点3-3-2(本件訂正による無効理由の解消の有無:乙3発明に基づく進歩性の欠如)について

(1) 乙3発明の内容

ア 乙3文献には,以下の記載がある(乙3)。

(ア) 表題

「円形孔を有するはりの耐力と設計法2.スリーブ管補強付の場合の耐力」

(イ) 序

「前報では,無補強円形孔を有するH形鋼はりのせん断及びせん断+曲げ耐力に関して,実験と解析について述べた。本報では,円形孔にスリーブ管を設けて補強した場合のせん断及びせん断+曲げ耐力について報告する。」(43頁左欄2行目~6行目)

「筆者らは,スリーブ管の幅・肉厚を変えた試験体を用いて,そのせん断およびせん断+曲げ耐力を実験的に調査したが,その結果,厚肉のものを用いた場合は,かなりの補強効果があることが分かったので,これを報告し,さらに,この実験的知見に基づいて,スリーブ管管肉の曲げ耐力に着目した補強効果の解析法について述べ,解析結果と実験値を比較して,その妥当性を検討する。」(43頁右欄5行目~12行目)

(ウ) 試験体及び載荷・測定方法

「試験体はFig. 1に示すように,SS41の圧延H形鋼のウェブに円形孔を設け,スリーブ管を全周すみ肉溶接したものである。寸法をTable 1に示す。」(43頁右欄下から8行目~下から6行目)

(エ) 実験結果

「以上の実験で,次の事柄が認識された。

1)曲げに対する補強に関しては,スリーブ管により容易に無孔部以上の耐力を有することが出来る。

2)Fig.6には,ほぼ同じ孔径で無補強のもの(HW-4;2R=200mm)

1)と,スリーブ管補強したもの(WHS-5)のせん断実験におけるV-γ曲線を比較したものである。肉厚のかなり大きなスリーブ管なら,せん断補強効果は相当にあることが分かる。

3)Fig.7には,WHS-5,6,7のVy/Vpをスリーブ管幅bsに対しプロットした(●印)。なお比較のため,無補強の場合の実験値(HW-4))もbs=0としてプロットした(○印)。これにより,肉厚を等しくしてbsのみを拡げても,補強効果は比例的には増大しないことが分る。」(46頁左欄18行目~右欄6行目)

イ 乙3発明の内容

前記Fig. 1及びTable 1のWHS-3を参照すると,Hは梁成,2Rは円形孔の直径,tsはスリーブ管の半径方向の肉厚,bsはスリーブ管の軸方向の長さであるところ,bs=50.1mm,ts=13.02mmであるから,bs/tsは3.85となり,2R/H(圧延H形鋼の梁成Hに対するスリーブ管の内径2Rの比率)は0.55となる。

上記アの乙3文献の記載に,上記の計算結果も加味すると,乙3発明は,「はりのウェブに形成された円形孔にスリーブ管の全周がすみ肉溶接され,スリーブ管の軸方向の長さbsが,スリーブ管の半径方向の肉厚tsの3.85倍であり,スリーブ管が円筒形状に形成されており,スリーブ管の内径2Rが,梁成Hの0.55倍であることを特徴とする,はり補強用のスリーブ管」と認められる。

(2) 本件訂正発明1について

ア 本件訂正発明1と乙3発明の対比

(ア) 対比

本件訂正発明1と乙3発明とを対比すると,乙3発明の「円筒形状」,「はり補強用のスリーブ管」は,それぞれ本件訂正発明1の「リング状」,「梁補強金具」に対応するから,乙3発明の「円筒形状のはり補強用のスリーブ管」は,本件訂正発明1の「リング状の梁補強金具」に相当し,「はりのウェブに形成された円形孔」は,「梁に形成された貫通孔」に相当する。

乙3発明の「スリーブ管の全周」は,本件訂正発明1の「梁補強金具の外周部」に対応し,乙3発明の「円形孔」に「スリーブ管の全周がすみ肉溶接され」は,本件訂正発明1の「貫通孔の周縁部」に「(梁補強金具の)外周部が溶接固定され」に相当する。

乙3発明の「スリーブ管の軸方向の長さbs」と「スリーブ管の半径方向の肉厚ts」との比率は,本件訂正発明1の「その(リング状の梁補強金具の)軸方向の長さ」と「半径方向の肉厚」との比率に対応し,乙3発明の「スリーブ管の軸方向の長さbsが,スリーブ管の半径方向の肉厚tsの3.85倍」は,本件訂正発明1の「その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍」に相当する。

(イ) 一致点及び相違点

上記(ア)によれば,本件訂正発明1と乙3発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

〈一致点〉

梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍とする梁補強金具

〈相違点3〉

本件訂正発明1が,貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である構成を有しているのに対して,乙3発明は,そのような構成を備えていない点

イ 進歩性についての判断

被告は,訂正事項1のうち,構成要件1-C'-1について,フランジ部を接続・補強用に管の軸方向の端部に形成することは,周知慣用技術ないし技術常識である上(甲6~8,乙33~39,44~46),乙3発明において,スリーブ管の外周部の片面側に形成されるフランジ部を更に片面側の端部に形成するようにすることは,単なる設計事項にすぎないと主張する。しかし,乙3発明は,スリーブ管の幅・肉厚を変えた試験体を用いて,そのせん断及びせん断+曲げ耐力を実験的に調査した結果等を開示するものであり,そもそも梁補強金具の外周にフランジ部がないことを前提とした技術であって,乙3文献にはそのスリーブ管にフランジ部を設けて補強することを示唆する記載も存在しない。

また,乙19~21文献には,梁補強金具の外周にフランジ部を設けることが記載されているものの,乙19~21文献における「裏当て体」又は「フランジ」は,建設等の現場における加工や取付け作業の向上(乙19文献),建設等の現場施工時間の短縮(乙20文献)及び量産性の向上や建設等の現場における施工性の向上(乙21文献)などを目的とするものであり,その目的は乙3文献に記載された実験の目的とは異なるので,乙3発明に上記乙19文献ないし乙21文献に記載された事項を適用してフランジ部を設ける動機付けはないというべきである。

さらに,仮に乙19文献~乙21文献に記載された発明に乙3発明を適用したとしても,同各文献に記載されたフランジ部は中央部に設けたものであるので,相違点3に係る構成に想到することはできない。そして,このようにフランジ部が中央部に設けられたスリーブ管において裏当て体又はフランジを,更に軸方向の片面側の端部に形成する構成に変更することは,管状のスリーブ管を梁へ取り付けた際にスリーブ管が不安定になるとも考えられることに照らすと,設計事項であったということもできない。

したがって,本件訂正発明1が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。

(3) 本件訂正発明2,4及び5について

本件訂正発明2,4及び5は,いずれも本件訂正発明1の構成を含むものであるから,前記(2)と同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたとは認められず,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。

7 争点4(損害額)について

(1) 特許法102条2項に基づく損害額

原告は,被告各製品の競合品である原告各製品を販売しているところ,被告が平成28年10月から平成30年10月10日頃までの間に,被告各製品を販売したことにより受けた利益の額は,142万0314円である(前記前提事実(4))から,被告の侵害行為により原告が受けた損害の額は,同額と推定される(特許法102条2項)。

(2) 推定覆滅の可否について

被告は,上記推定の覆滅事由として,本件各発明及び本件各訂正発明(以下「本件各発明等」という。)は基本発明ではなく,従来技術の一部分の改良発明であり,その特徴部分は実質的には「つば状の出っ張り部の外周部」のみであるから,①被告各製品全体における上記部分の材料費比が3分の1程度と考えられること,②構成要件1-C等に特有の効果は「軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができる」という効果にとどまり,③同効果は,被告各製品の宣伝広告において,需要者に何ら積極的に訴求されていないこと,④他方,「つば状の出っ張り部の外周部」のみを溶接固定する被告各製品は,「[梁の反転が不要]となり施工性が大幅にアップ」するという,原告各製品の有しない特有の顕著な効果を有していることからすれば,上記推定は,少なくとも70%の割合で覆滅されるべきであると主張する。

しかし,本件各発明等は,フランジ部を含むリング状の梁補強金具全体に関するものであって,フランジ部のみが梁補強金具と別個独立の部分を構成し,固有の機能や作用効果を奏するものではないので,フランジ部のみを取り出して,製品全体に占める同部分の材料費に応じて覆滅の割合を定めることは相当ではない。

また,被告は,本件各発明等のフランジ部の効果が限定的で,被告各製品において需要者に積極的に訴求されていないと主張するが,被告各製品は前記のとおりフランジ部を有するので,本件各発明等と同様の効果を享受しているほか,被告のウェブサイト(甲3)や被告各製品のカタログ(甲4)においても,被告各製品のフランジ状の部分が図示されるなどしている(甲3の2,3頁,甲4の1,3,5頁)。

さらに,被告のウェブサイトや被告各製品のカタログには,被告各製品の特長として,鉄骨梁ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部の外周部)のみを全周溶接することにより,取付けの際に梁の回転が不要となり施工性が大幅にアップするという点が挙げられているが,このような施工が可能となるのも,梁補強金具にフランジ部に該当するつば状の出っ張り部を設けたからであると考えられる。そうすると,被告各製品の特長的な点は本件各発明等の構成に由来するものであると考えられる。

以上によれば,本件においては,損害額の推定を覆滅すべき事情があるとは認められない。

(3) したがって,被告の侵害行為に原告が受けた損害の額は,前記推定額である142万0314円と認められる。

なお,前記期間中の被告各製品の売上高が前記のとおり472万6353円であることからして,特許法102条3項に基づく損害額は,上記金額を超えないことが明らかである。

(4) 本件事案の難易,請求額及び認容額等の諸般の事情を考慮すると,被告の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金として14万2031円を認めるのが相当である。

8 結論

以上のとおり,被告が製造販売等する被告各製品は,本件各訂正発明の技術的範囲に属する(ただし,本件訂正発明4に関しては被告製品8~13のみがその技術的範囲に属する)から,特許法100条に基づき被告各製品の生産,使用,譲渡等及びその申出の差止め並びに被告各製品の廃棄を求める原告の請求は理由がある。

また,民法709条及び特許法102条2項に基づく損害賠償請求は,156万2345円及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。

よって,原告の請求を主文掲記の限度で認容し,その余は棄却することとし,仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

佐藤達文

裁判官

三井大有

裁判官

遠山敦士

別紙

被告製品目録

以下の製品番号のダイヤリング

1 DA100

2 DA125

3 DA150

4 DA175

5 DA200

6 DA250

7 DA300

8 DA350

9 DA400

10 DA450

11 DA500

12 DA550

13 DA600

別紙

被告製品説明書

1 概要

被告各製品は,リング状の梁補強金具である(下の写真「甲4号証,表紙の写真」参照)。被告各製品は,鉄骨梁の開口部にはめ込むことにより,当該開口部を補強するために用いられる(下の写真及び図参照)。

甲4号証,表紙の写真甲4号証,6頁の写真

甲4号証,2頁の図

2 被告各製品の構成

下図は,被告各製品の断面図である。被告各製品においては,リング状の梁補強金具の外周部の軸方向の片側端部に,つば状の出っ張り(赤丸部分)が形成されている。

甲4号証,3頁の図(赤丸追加)

上図における各パラメータは,被告各製品の製品番号ごとに,以下のように仕様が定められている。

甲4号証,3頁の表

また,被告各製品を適用可能な鉄骨梁の構造,形状,開口等に関する規定は,以下のとおりである。

甲4号証,2頁の表

被告各製品においては,つば状の出っ張り部を,下図に示されるように溶接固定している。

甲4号証,1頁の図

被告各製品の「D3」の寸法と,鉄骨梁の開口部(下孔)寸法との関係は,以下のとおりである。

甲4号証,5頁の表

以上

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/88674/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。