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知財高裁判決

知財高判 令和2年3月19日

平成31年(行ケ)第10018号等 審決取消請求事件

裁判所
知的財産高等裁判所
裁判年月日
令和2年3月19日 (2020-03-19)
事件番号
平成31年(行ケ)第10018号等
事件名
審決取消請求事件
裁判の種類・結果
判決
判例集等
—
分野
行政・知的財産・特許権・行政訴訟

令和2年3月19日判決言渡

平成31年(行ケ)第10018号審決取消請求事件(以下「甲事件」という。)平成31年(行ケ)第10029号審決取消請求事件(以下「乙事件」という。)口頭弁論終結日令和2年1月14日

判決

甲事件原告シージェイジャパン株式会社

乙事件原告シージェーチェイルジェダン

コーポレーション

甲事件原告及び乙事件原告訴訟代理人弁護士

飯村敏明

同末吉剛

訴訟代理人弁理士山本修

同鶴喰寿孝

訴訟復代理人弁護士高橋聖史

甲事件・乙事件被告味の素株式会社

訴訟代理人弁護士森崎博之

同津城尚子

訴訟代理人弁理士白石真琴

訴訟復代理人弁理士北谷賢次

主文

1 甲事件原告及び乙事件原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は甲事件原告及び乙事件原告の負担とする。

3 乙事件原告につき,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が無効2017-800021号事件について平成31年1月8日にした審決のうち,特許第3651002号の請求項1~2及び4に係る部分を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

⑴甲事件・乙事件被告(以下「被告」という。)は,平成11年9月22日にした特許出願(特願2000-572382号。優先日平成10年9月25日(以下「本件優先日」という。),優先権主張国日本)の一部を分割して,平成16年7月8日,発明の名称を「アミノ酸生産菌の構築方法及び構築されたアミノ酸生産菌を用いる醗酵法によるアミノ酸の製造法」とする発明について特許出願(特願2004-202121号。以下「本件出願」という。)をし,平成17年3月4日,特許権の設定登録(特許第3651002号。請求項の数8。以下,この特許を「本件特許」という。甲1)を受けた。

⑵甲事件原告は,平成29年2月24日,本件特許について特許無効審判を請求(無効2017-800021号事件。以下「本件審判」という。)した。

被告は,同年7月7日付けで,請求項1ないし8からなる一群の請求項について,請求項1,2及び4を訂正し,請求項3及び5ないし8を削除する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。甲46)をした。

乙事件原告は,同年11月2日,本件審判に参加を申請し,本件審判に参加した。

その後,特許庁は,平成31年1月8日,本件訂正を認めた上で,「特許第3651002号の請求項1~2及び4に係る発明についての審判請求は成り立たない。」,「特許第3651002号の請求項3及び5~8に係る発明についての審判請求を却下する。」との審決(乙事件原告に対し,出訴期間として90日を附加。以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月18日,甲事件原告及び乙事件原告(以下,併せて「原告ら」という。)に送達された。

⑶甲事件原告は,平成31年2月14日,乙事件原告は,同年3月8日,それぞれ,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2 特許請求の範囲の記載

本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2及び4の記載は,以下のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本件発明1」などという。甲46)。

【請求項1】

コリネ型細菌の染色体上の,

グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列,並びに/或いは

クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法。

【請求項2】

GDH遺伝子のプロモーターが,-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものである請求項1記載の方法。【請求項4】

CS遺伝子のプロモーターが,-10領域にTATAAT配列を有するもの,又は-35領域にTTGACA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものであり,

GDH遺伝子のプロモーターが,-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有するものである請求項1記載の方法。

3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。その要旨は,請求人(甲事件原告)及び参加人(乙事件原告)の主張する本件発明1,2及び4に係る無効理由1(本件優先日前に頒布された刊行物である甲2(Microbiology(1996)142「Promoters from Corynebacteriumglutamicum:cloning,molecular analysis and search for a consensusmotif」(訳文:「コリネバクテリウム・グルタミカム由来のプロモーター:クローニング,分子解析及びコンセンサスモチーフの探索」))を主引用例とする進歩性の欠如),無効理由2(本件優先日前に頒布された刊行物である甲5(国際公開第95/34672号)を主引用例とする進歩性の欠如),無効理由3(サポート要件違反),無効理由4(実施可能要件違反)などは,いずれも理由がないというものである。

(2)ア本件審決は,本件発明1には以下の3つの発明が含まれると認定した。(本件発明1-1)

「コリネ型細菌の染色体上の,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法」に係る発明(本件発明1-2)

「コリネ型細菌の染色体上の,クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法」に係る発明

(本件発明1-3)

「コリネ型細菌の染色体上の,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列,並びにクエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法」に係る発明

イ なお,本件発明1-1~1-3における酵素遺伝子及びプロモーター配列の領域の関係を図示すると,以下のとおりとなる。

本件発明 GDH CS

-35 領域 -10 領域 -35 領域 -10 領域1-1 TTGTCA TATAAT (特定無し)

1-2 (特定無し) (特定無し) TATAAT

1-3 TTGTCA TATAAT (特定無し) TATAAT⑶本件審決が認定した甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という。),本件発明1-1と甲2発明の一致点及び相違点,本件発明1-2と甲2発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 甲2発明

「コリネ型細菌の染色体上の,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGTCA配列及び-10領域にCATAAT配列を有し,クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGCTA配列及び-10領域にTAGCGT配列を有する,コリネ型細菌」の発明

イ 本件発明1-1と甲2発明の一致点及び相違点

(一致点)

コリネ型細菌の染色体上の,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域に特定の塩基配列及び-10領域に特定の塩基配列を有する,コリネ型細菌に係る発明である点。(相違点1)

本件発明1-1のコリネ型細菌は,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲2発明のコリネ型細菌は,GDH遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTGGTCA配列及び-10領域にCATAAT配列を有するものである点。

(相違点2)

本件発明1-1は,コリネ型細菌を培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法の発明であるのに対し,甲2発明は,コリネ型細菌の発明である点。

ウ 本件発明1-2と甲2発明の一致点及び相違点

(一致点)

コリネ型細菌の染色体上の,クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域に特定の塩基配列を有する,コリネ型細菌に係る発明である点。

(相違点1)

本件発明1-2のコリネ型細菌は,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲2発明のコリネ型細菌は,CS遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTAGCGT配列を有するものである点。

(相違点2)

本件発明1-2は,コリネ型細菌を培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法の発明であるのに対し,甲2発明は,コリネ型細菌の発明である点。

⑷本件審決が認定した甲5に記載された発明(以下「甲5発明」という。),本件発明1-1と甲5発明の一致点及び相違点,本件発明1-2と甲5発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。

ア 甲5発明

「染色体上に存在するα-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子又はそのプロモーターの塩基配列中に1又は2以上の塩基の置換,欠失,挿入,付加又は逆位が生じたことにより,α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性が欠損したコリネ型L-グルタミン酸生産菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とするL-グルタミン酸の製造方法」の発明

イ 本件発明1-1と甲5発明の一致点及び相違点

(一致点)

コリネ型細菌の染色体上の,遺伝子のプロモーター配列に1又は2以上の塩基の置換させた配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法である点。

(相違点)

本件発明1-1のコリネ型細菌は,グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲5発明のコリネ型細菌は,そのような特定がされていない点。

ウ 本件発明1-2と甲5発明の一致点及び相違点

(一致点)

コリネ型細菌の染色体上の,遺伝子のプロモーター配列に1又は2以上の塩基の置換させた配列を導入したコリネ型細菌を,培地で培養し,培地中にL-グルタミン酸を生成蓄積させ,これを該培地から採取することを特徴とする発酵法によるL-グルタミン酸の製造方法である点。

(相違点)

本件発明1-2は,クエン酸合成酵素(CS)遺伝子のプロモーター配列の-10領域にTATAAT配列を導入したものであるのに対し,甲5発明は,そのような特定がされていない点。

第3 当事者の主張

1 取消事由1(本件発明1のサポート要件及び実施可能要件の判断の誤り)について

⑴取消事由1-1(GDH遺伝子のプロモーターへの変異導入について)

ア 原告らの主張

本件審決は,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面と併せて「本件明細書」という。)の実施例等には,コリネ型細菌の染色体上のグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH。以下,単に「GDH」ということがある。)遺伝子のプロモーター配列の-35領域にTTGTCA配列及び-10領域にTATAAT配列を有する変異株が,L-グルタミン酸の収率を向上させたことが示されており(表5(別紙1を参照)),本件発明1(本件発明1-1)はかかる内容に対応するものであるから,本件発明1は,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく,本件特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない(サポート要件に適合する),また,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえ,本件発明の詳細な説明の記載は,同条4項1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない(実施可能要件に適合する)旨判断した。

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出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/89340/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。