TaiLexi AI日本の判例・法令
← ホーム
高裁判決棄却

東京高判 令和2年2月13日

令和元年(行コ)第203号 命令服従義務不存在確認請求控訴事件

裁判所
東京高等裁判所
裁判年月日
令和2年2月13日 (2020-02-13)
事件番号
令和元年(行コ)第203号
事件名
命令服従義務不存在確認請求控訴事件
裁判の種類・結果
判決 棄却
判例集等
—
原審
東京地方裁判所 平成28年(行ウ)第143号
分野
行政

主文

1本件控訴を棄却する。

2 差戻し前控訴審,上告審及び差戻し後控訴審における訴訟費用は,全て控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1原判決を取り消す。

2本件を東京地方裁判所に差し戻す。

第2事案の概要

1本件事案の要旨

(1)本件は,陸上自衛官である控訴人が,被控訴人に対し,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(以下「存立危機事態」という。)に際して内閣総理大臣が自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる旨を規定する自衛隊法76条1項2号の規定は憲法に違反すると主張して,控訴人が同号の規定による防衛出動の命令に服従する義務がないことの確認を求める事案である。なお,後記2の(2)のとおり,自衛隊法76条1項の規定による防衛出動の命令(以下「防衛出動命令」といい,同命令のうち同項2号の規定によるものを「本件防衛出動命令」という。)は,組織としての自衛隊に対する命令であって,個々の自衛官に対して発せられるものではなく,これにより防衛出動をすることとなった部隊又は機関における職務上の監督責任者が,当該部隊等に所属する個々の自衛官に対して当該防衛出動に係る具体的な職務上の命令(以下「職務命令」といい,同命令のうち本件防衛出動命令に基づくものを「本件職務命令」という。)をすることとなるから,本件訴えは,控訴人が本件職務命令に服従する義務がないことの確認を求めるものと解される。

(2) 原審(第1審)において,被控訴人は,本件訴えについて,実質的当事者訴訟(行政事件訴訟法4条後段)のうちの公法上の法律関係に関する確認の訴えであると解されるとした上,確認の利益が認められず,不適法であると主張し,本案前の答弁として,本件訴えを却下することを求めた。原審は,控訴人が本件防衛出動命令の発令される事態に現実的に直面しているとはいえず,また,現時点において控訴人又は控訴人が所属する部署に対して本件防衛出動命令が発令される具体的・現実的可能性があるということはできないことに照らせば,現に,控訴人の有する権利又は法律的地位に危険や不安が存在するとは認められないから,本件訴えは確認の利益を欠き,不適法であるとして,これを却下する旨の判決(原判決)をした。控訴人は,これを不服とし,原判決を取り消した上,控訴人の本件請求を認容することを求めて,本件控訴を提起した。

(3) 差戻し前控訴審において,控訴人は,本件訴えについて,控訴人が本件防衛出動命令に服従しなかった場合に受けることとなる懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)の予防を目的とする無名抗告訴訟(抗告訴訟のうち行政事件訴訟法3条2項以下において個別の訴訟類型として法定されていないものをいう。以下同じ。)である旨釈明した。

差戻し前控訴審は,本件訴えが,本件懲戒処分の差止めの訴えを本件職務命令ひいては本件防衛出動命令に服従する義務がないことの確認を求める訴えの形式に引き直した無名抗告訴訟であるとした上で,本件訴えは,差止めの訴えの訴訟要件である,一定の処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあること(同法37条の4第1項)との要件(以下「重大な損害の要件」という。)及びその損害を避けるため他に適当な方法があるときではないこと(同項ただし書)との要件(以下「補充性の要件」という。)をいずれも満たすから,適法である旨判断し,本件訴えを不適法であるとして却下した原判決を取り消して,本件を東京地方裁判所に差し戻す旨の判決(以下「差戻し前控訴審判決」という。)をした。

被控訴人は,これを不服として,上告受理申立てをした。

(4) 最高裁判所は,本件を上告審として受理した上,要旨,次のとおり判断して,差戻し前控訴審判決を破棄し,本件を当庁に差し戻す旨の判決(以下「本件上告審判決」という。)をした。

本件訴えは,本件懲戒処分の予防を目的として,本件職務命令に基づく公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟であると解されるところ,このような将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は,当該処分に係る差止めの訴えと目的が同じであり,請求が認容されたときには行政庁が当該処分をすることが許されなくなるという点でも,差止めの訴えと異ならない。また,差止めの訴えについては,行政庁がその処分をすべきでないことがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められること等が本案要件(本案の判断において請求が認容されるための要件をいう。以下同じ。)とされており(行政事件訴訟法37条の4第5項),差止めの訴えに係る請求においては,当該処分の前提として公的義務の存否が問題となる場合には,その点も審理の対象となることからすれば,上記無名抗告訴訟は,確認の訴えの形式で,差止めの訴えに係る本案要件の該当性を審理の対象とするものということができる。そうすると,同法の下において,上記無名抗告訴訟につき,差止めの訴えよりも緩やかな訴訟要件により,これが許容されているものとは解されない。そして,差止めの訴えの訴訟要件については,救済の必要性を基礎付ける前提として,一定の処分がされようとしていること(同法3条7項),すなわち,行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることとの要件(以下「蓋然性の要件」という。)を満たすことが必要とされている。したがって,将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は,蓋然性の要件を満たさない場合には不適法というべきである。差戻し前控訴審は,蓋然性の要件を満たすものか否かの点を検討することなく本件訴えを適法としたものといわざるを得ないから,その判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな違法がある。

(5)そこで,当審(差戻し後控訴審)における審理の対象は,本案前の争点(本件訴えの適法性)であり,本件懲戒処分の予防を目的として本件職務命令に基づく公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟としての本件訴えの適法性(重大な損害の要件,補充性の要件及び蓋然性の要件)となるが,控訴人は,当審(差戻し後控訴審)において,本件訴えが無名抗告訴訟としての訴訟要件を欠く場合であっても,控訴人が本件防衛出動命令に服従しなかった場合に受けることとなる行政処分以外の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとして審理判断されるべきであるとの主張もしていることを明らかにしたから,上記公法上の法律関係に関する確認の訴えとしての本件訴えの適法性(確認の利益)も争点となる。

なお,控訴人は,当審(差戻し後控訴審)において,控訴の趣旨を前記第1のとおり訂正し,原判決を取り消して,本件を東京地方裁判所に差し戻すことを求めている。

2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠等により容易に認められる事実)等

(1) 当事者

控訴人は,平成5年4月6日に陸上自衛隊に入隊し,現在,陸上自衛隊関東補給処に所属する陸上自衛官である。

この間の控訴人の経歴は,別紙経歴目録に記載のとおりである。

(2) 防衛出動命令に関する自衛隊法の規定(乙1ないし3)ア我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律(平成27年法律第76号。以下「平和安全法制整備法」という。)による改正前の自衛隊法76条1項

「内閣総理大臣は,我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態に際して,我が国を防衛するため必要があると認める場合には,自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては,武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成15年法律第79号)第9条の定めるところにより,国会の承認を得なければならない。」

自衛隊法76条1项

平和安全法制整備法は,上記アを改正することで,防衛出動命令が発令され得る事態として,自衛隊法76条1項2号に掲げる事態を追加したものである。なお,上記事態は,平和安全法制整備法による改正後の武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律2条4号により,「存立危機事態」と定義されている。

「内閣総理大臣は,次に掲げる事態に際して,我が国を防衛するため必要があると認める場合には,自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては,武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成15年法律第79号)第9条の定めるところにより,国会の承認を得なければならない。

一我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態

二我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」

(3) 防衛出動命令が発令された場合に想定される陸上自衛隊における手続等(乙5ないし7,弁論の全趣旨)

ア内閣総理大臣は,存立危機事態等に際して,我が国を防衛するため必要があると認める場合には,自衛隊の全部又は一部に対し防衛出動命令を発する(自衛隊法76条1項)。

なお,自衛隊法2条1項は自衛隊の定義について,自衛隊法3条1項は自衛隊の任務について,それぞれ次のとおり定めている。

2条1項「この法律において「自衛隊」とは,防衛大臣,…その他の機関(…)並びに陸上自衛隊,…を含むものとする。」

3条1項「自衛隊は,我が国の平和と独立を守り,国の安全を保つため,我が国を防衛することを主たる任務とし,必要に応じ,公共の

秩序の維持に当たるものとする。」

防衛大臣は,自衛隊の隊務を統括し,陸上自衛隊,海上自衛隊又は航空自衛隊の部隊及び機関(以下「部隊等」という。)の指揮監督権を有する(自衛隊法8条)。そこで,防衛大臣は,内閣総理大臣が防衛出動命令を発したときは,部隊等に対する指揮監督権の行使として,統合幕僚長等を通じて,自衛隊の行動及びこれに伴う後方業務(防衛省設置法22条3号に規定する教育訓練,編成,装備,配置,経理,調達,補給及び保健衛生並びに職員の人事及び補充をいう。以下同じ。)に関する自衛隊行動命令を発する。ウ統合幕僚長は,防衛大臣の指揮監督を受け,統合幕僚監部の所掌事務に.係る陸上自衛隊等の隊務及び隊員の服務等の監督権を有し(自衛隊法9条1項,8条1号),また,当該隊務に関し最高の専門的助言者として防衛大臣を補佐し(同法9条2項),かつ,当該隊務に関し,部隊等に対する防衛大臣の命令を執行するものとされている(同法9条3項)。そして,統合幕僚監部は,統合運用による円滑な任務遂行を図る見地からの防衛等に関する計画の立案に関する事務等を所掌事務としている(防衛省設置法22条)。これらの規定に基づき,統合幕僚長は,自衛隊の運用に関して,一元的に防衛大臣を補佐し,防衛大臣の命令を執行するものとされていることから,防衛大臣が防衛出動命令に基づき上記隊務に関して自衛隊行動命令を発したときは,その執行に関し,部隊等に対し,その細部の事項を指令するため,統合幕僚長指令を発する。

また,統合幕僚長は,その職務を行うに当たり,部隊等の運用の円滑化を図る観点から,陸上幕僚長等に対し,陸上幕僚監部の所掌事務に係る陸上自衛隊の隊務(自衛隊法8条2号)に関して必要な措置を執らせる権限を有する(同法9条の2)ため,陸上幕僚長に対し,統合幕僚長後方業務指示を発する。

エ陸上幕僚長は,陸上幕僚監部の所掌事務に係る陸上自衛隊の隊務及び隊員の服務等の監督権を有するところ(自衛隊法9条1項,8条2号),当該監督権に基づき,前記ウの統合幕僚長指令に伴い必要となる後方業務に関する措置について,関係する部隊等の長に対し,陸上幕僚長措置指令を発する。

オ上級部隊等の長は,隷下部隊等の職務の全てについて指揮を行うこととされており(自衛隊の運用等における部隊等の組織の要領及び指揮に関する訓令3条),前記ウ又はエの指令又は指示を受けたときは,当該指揮権に基づき,隷下部隊等に対し,当該部隊等が防衛出動する旨の職務上の命令を発する。

カ前記オの職務上の命令を受けた隷下部隊等における職務上の監督責任を有する者は,当該部隊等に所属する陸上自衛官に対し,防衛出動に係る具体的な職務上の命令(職務命令)を発する(陸上自衛隊服務規則17条1項)。

キ自衛隊法52条は服務の本旨について,同法56条は職務遂行の義務について,同法57条は上官の命令に服従する義務について,それぞれ次のとおり定めている。

そのため,本件職務命令を受けた陸上自衛官は,これに服従する義務を負う。

52条「隊員は,わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し,一致団結,厳正な規律を保持し,常に徳操を養い,人格を尊重し,心身をきたえ,技能をみがき,強い責任感をもって専心その職務の遂行にあたり,事に臨んでは危険を顧みず,身をもって責務の完遂に努め,もって国民の負託にこたえることを期するものとする。」

56条「隊員は,法令に従い,誠実にその職務を遂行するものとし,職務上の危険若しくは責任を回避し,又は上官の許可を受けないで職務を離れてはならない。」

57条「隊員は,その職務の遂行に当っては,上官の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」

ク自衛隊法46条1項は,次のとおり定めているから,本件職務命令を受けた自衛官がこれに服従しなかった場合には,本件懲戒処分を受けるおそれがある。

「隊員が次の各号のいずれかに該当する場合には,これに対し懲戒処分として,免職,降任,停職,減給又は戒告の処分をすることができる。一職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合

二隊員たるにふさわしくない行為のあった場合

三その他この法律若しくは自衛隊員倫理法(平成11年法律第130号)又はこれらの法律に基づく命令に違反した場合」

なお,意に反する懲戒処分を受けた自衛官は,防衛大臣に対する審査請求をすることができ(自衛隊法49条),当該審査請求に対する裁決を経た後であれば,当該懲戒処分の取消しの訴えを提起することができる(同法50条の2,行政事件訴訟法8条1項ただし書)。

ケまた,自衛隊法122条1項は,次のとおり定めているから,本件防衛出動命令に基づく本件職務命令を受けた自衛官がこれに服従しなかった場合には,7年以下の懲役又は禁錮に処せられることになる。

「第76条第1項の規定による防衛出動命令を受けた者で,次の各号のいずれかに該当するものは,7年以下の懲役又は禁錮に処する。一第64条第2項(判決注・「隊員は,同盟罷業,怠業その他の争議行為をし,又は政府の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。」)の規定に違反した者

二正当な理由がなくて職務の場所を離れ3日を過ぎた者又は職務の場所につくように命ぜられた日から正当な理由がなくて3日を過ぎてなお職務の場所につかない者

三上官の職務上の命令に反抗し,又はこれに服従しない者

四正当な権限がなくて又は上官の職務上の命令に違反して自衛隊の部隊を指揮した者

五警戒勤務中,正当な理由がなくて勤務の場所を離れ,又は睡眠し,若しくは酪酊して職務を怠った者」

コ内閣総理大臣が防衛出動命令を発した事例は過去に1件もないため,これまでに職務命令への不服従を理由として懲戒処分又は刑事罰を受けた自衛官は存在しない。

3 本案前の争点(本件訴えの適法性)に関する当事者の主張

(1) 控訴人の主張

ア総論

本件訴えは,以下のとおり,控訴人が本件防衛出動命令に服従しなかった場合に受けることとなる行政処分である本件懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟として適法であり,仮にそうでないとしても,控訴人が本件防衛出動命令に服従しなかった場合に受けることとなる行政処分以外の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法である。

イ無名抗告訴訟としての適法性について

(ア)無名抗告訴訟の許容性について

a最高裁判所平成23年(行ツ)第177号,同第178号,同年(行ヒ)第182号平成24年2月9日第一小法廷判決·民集66巻2号183頁(以下「平成24年最高裁判決」という。)は,東京都教育委員会の教育長が都立学校の各校長宛てに発した,入学式,卒業式等の実施に当たっては国旗に向かって起立して国歌を斉唱し,その斉唱はピアノ伴奏等により行うとすることなどを内容とする通達や,当該通達に基づき都立学校の各校長が教職員に対して発した,当該通達の内容を命ずる旨の職務命令を,いずれも抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないと判断した上で,教職員による国歌斉唱等の義務のないことの確認を求める訴えについて,将来の不利益処分たる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟として位置付けられるべきものと解するのが相当であり,実質的には,当該職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止めの訴えを職務命令に基づく公的義務の存否にかかる確認の訴えの形式に引き直したものということができると判示している。

このように,平成16年に改正された行政事件訴訟法によっても,抗告訴訟を法定されたものに限定する旨の定めはなく,無名抗告訴訟は許容されている。

そして,本件訴えは,平成24年最高裁判決の事案における上記確認の訴えと同様,将来の不利益処分たる本件懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟である。すなわち,自衛隊法76条1項2号は,後記4の(1)のとおり憲法に違反しているにもかかわらず,控訴人は,自衛官として命令に服従する義務があるため,本件防衛出動命令に基づく本件職務命令に服従しなかった場合には,本件懲戒処分を受けることになる。そこで,控訴人は,本件懲戒処分を受けることの予防を目的として,本件防衛出動命令に服従する義務のないことを確認する判決を求めているのである。

b平成16年の行政事件訴訟法改正の趣旨は,国民の権利利益救済の実効性を向上させるために必要な手続の整備を図ることにあったのであるから,無名抗告訴訟の訴訟要件を硬直的ないし限定的に考えるべきではない。

そして,義務のないことの確認を求める無名抗告訴訟は,民事訴訟における確認の利益の判断と同様,各事案に即して,自己の権利又は法律的地位につき危険又は不安があり,当事者間で確認判決をすることがその危険又は不安を除去するために有効適切である場合には適法であるというべきである。

c平和安全法制整備法の制定過程における内閣総理大臣をはじめとする政府関係者の言動は,存立危機事態を具体的に想定したものであるから,本件防衛出動命令を発令する蓋然性があることを前提としたものと理解し得るものである。

そして,以下に述べる同法施行後の自衛隊の活動状況及び国際情勢等にも鑑みれば,自衛隊は,昭和29年の設立時から大きく変容し,米軍との一体化を強めているものであって,本件防衛出動命令が発令される事態は目前に迫っているといえる。

例えば,平成28年8月9日の新聞記事には,防衛犬臣は,同月8日に自衛隊によるミサイル迎撃を可能とする破壊措置命令を出し,かつ,日本政府は,今後常に迎撃態勢をとれるよう,3か月ごとに同命令を更新して常時発令する方針を表明し,自衛隊は,これを受けて東京都市ヶ谷にある防衛省敷地内に地上配備型迎撃ミサイルを配置するとともに,海上配備型迎撃ミサイルを搭載するイージス艦を日本近海へ展開したと報道されているし(甲4),同月25日の新聞記事には,日本政府が,他国を武力で守る集団的自衛権行使も含めた全ての新任務に関する訓練を自衛隊に開始させる旨発表したと報道されている(甲5)。

また,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)は,平成29年になってからもミサイルの発射実験を相次いで行い,6回目の核実験も辞さない旨表明している一方,アメリカ合衆国(以下「米国」という。)の軍隊(以下「米軍」という。)は,北朝鮮が核実験を強行しようとした場合には,先制攻撃を行う準備に入る旨報道されており,米国のトランプ大統領も,北朝鮮と大規模な紛争になる可能性があると述べた旨報道されているほか,自衛隊は,北朝鮮を牽制する狙いで米軍と共同訓練を実施しているとも報道されている(甲13の1ないし4)。このように,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約により我が国と密接な関係にあると判断されることが確実な米国が,近い将来,北朝鮮との間で武力衝突をする明白かつ差し迫った危険があり,米国と北朝鮮との間で武力衝突が発生した場合には,北朝鮮は,我が国に在る米軍基地をミサイル等で攻撃することが確実であるし,北朝鮮外務省報道官は,我が国の米軍基地以外の場所も攻撃する可能性を示唆したと報道されている(甲13の5)のであるから,我が国の存立,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある。

さらに,平成30年12月18日に閣議決定され,平成31年4月から実施されている防衛大綱は,護衛艦いずもを空母化して,垂直離着陸ができる戦闘機F35Bを搭載することとしたり,相手の射程から外れた遠方から攻撃をするというスタンド・オフ防衛(その本質は,敵基地攻撃である。)を登場させたりするなど(甲18),専守防衛を逸脱するものとなっているが,これらは日米軍事一体化の一環として,米国の戦争や武力行使に自衛隊も参加させる条件を整えたもの,あるいは日本を戦闘行為に巻き込むおそれのある作戦であるといえる。加えて,同年3月29日の新聞記事には,自衛隊は,平成30年に,米軍の艦艇や航空機を守る武器等防護を前年の8倍となる16件実施し,弾道ミサイル警戒中の米艦の防護も初めて行った旨報道されているほか,米国の南シナ海における航行の自由作戦や台湾との関係強化なども踏まえ,自衛隊と米軍との一体化が進めば,米国と他国との偶発的な衝突が発生した場合に,日本が巻き込まれる懸念が指摘されている(甲20)。

最近でも,政府は,令和元年10月18日の国家安全保障会議において,ホルムズ海峡周辺のオマーン湾やアラビア海への自衛隊派遣を具体的に検討することを決定したが,派遣される自衛隊は米国と緊密に連携していくとのことである(甲17)から,自衛隊が紛争に巻き込まれたり,武力行使の危険を招くことにより,自衛隊員の生命等が危険にさらされることになる。

d控訴人は,平成29年3月23日から現在の部署に所属しているが,それ以前は戦闘部隊に所属したこともあり,これまで約1年から3年ごとに異動しているのであって,今後戦闘部隊に配属される可能性も十分にある。また,作戦は,通常,普通科部隊等を基幹とし,諸職種の部隊が連合かつ連携した戦闘団等が編成されるのであって,直接戦闘を行うことを主たる任務とする部隊のみでは成り立たず,控訴人が所属する補給部隊等による後方支援が不可欠であるから,控訴人の所属する部隊が出動を命ぜられることがないとはいえない。

そして,補給を絶つことで戦況を有利に進めるため,後方支援部隊が敵から狙われる事態が多いことは軍事上の常識であって,控訴人にも本件防衛出動命令に基づく本件職務命令が発令される具体的かつ現実的な可能性がある。

e一たび本件防衛出動命令が発令され,同命令に基づき控訴人に本件職務命令が発令されれば,控訴人の生命等には重大な損害が生じ,取り返しのつかないことになるおそれがある。

他方,控訴人は,本件防衛出動命令に基づく本件職務命令に従わなかった場合には,命令不服従を理由として本件懲戒処分という不利益処分を受けることになるから,控訴人には自己の権利及び法的地位につき危険及び不安があるといえるばかりか,自衛隊法122条1項により,7年以下の懲役又は禁錮に処せられるおそれすらある。

しかも,本件防衛出動命令が発せられてから行政事件訴訟法37条の4第1項に基づく差止めの訴えを提起したのでは,例えば本件懲戒処分が減給処分や停職処分であった場合には,判決が下されるまでには相当な期間を要することが予想されるのであり,その間,控訴人は生活に困窮することになる。

このように,差止めの訴えでは控訴人の権利利益の救済には不十分であるから,本件では,控訴人が本件防衛出動命令に服従する義務のないことを確認する判決を得ることが,控訴人の危険及び不安を除去して紛争を抜本的に解決するために有効適切であるといえる。

(イ)蓋然性の要件について

a本件上告審判決は,将来の不利益処分の予防として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は,行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることとの要件(蓋然性の要件)を満たすことが必要である旨判示したが,同要件の内容については言及していない。

bそこで,蓋然性の要件につき検討すると,行政庁によって一定の処分がされる蓋然性については,当該処分がされる可能性と当該処分によって被る損害の重大性との相関関係を総合考慮して,柔軟に判断されるべきであり,その判断に当たっては,紛争の成熟性及び事前救済の必要性の観点も考慮すべきである。

蓋然性の要件を充足する典型的な事例としては,同一処分が反復継続して行われている場合や法定の事前手続(行政手続上の聴聞,弁明の機会の付与等)が履践された場合が挙げられるが,これら典型的な事例に限定するような形式的かつ厳格な解釈は採用すべきでない。c一たび本件防衛出動命令が発令され,同命令に基づき控訴人に本件職務命令が発令されれば,控訴人の生命等には重大な損害が生じ,取り返しのつかないことになるおそれがあることは,前記のとおりであり,本件については,事前救済の必要性がある(重大な損害を生ずるおそれが極めて大きい)といえる。

そして,本件防衛出動命令が発令される事態が目前に迫っていることは,前記のとおりであって,同命令の発令の可能性は現実的なものであるといえるし,同命令が発令されれば,現職の自衛官である控訴人が本件職務命令の対象となる現実的な可能性があることも,前記のとおりである。

したがって,控訴人は本件懲戒処分を受ける現実的な可能性があるというべきであり,蓋然性の要件は満たされている。

(ウ)補充性の要件について

差戻し前控訴審判決が説示するとおり,本件防衛出動命令に基つく本件職務命令への不服従を理由とする本件懲戒処分は,免職を含む重大なものとなるばかりか,本件防衛出動命令が発令される場合に,これに基づく本件職務命令を受けながらこれに服従しない自衛官は,服務の本旨を蔑ろにしたものとして極めて厳しい社会的非難を受けることになるのであるから,このような控訴人に生ずるおそれのある損害は,事後的に本件懲戒処分の取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではないことが明らかであり,また,本件懲戒処分の差止めを命ずる判決を受けることによっても容易に救済を受けることができるものではなく,本件防衛出動命令に基づく本件職務命令に服従する義務の不存在を事前に確認する方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものである。じたがって,本件訴えは,補充性の要件も満たすものというべきである。そして,上記差戻し前控訴審判決の判断は,本件上告審判決でも否定されていない。

この点,被控訴人は,本件懲戒処分の差止めの訴えを提起することが最も適切な争訟方法として法律上予定されているとか,差止めの訴えは仮の救済方法が法定されているという点でも無名抗告訴訟より適切な争訟方法であるなどと主張するが,本件職務命令が具体的に予測できる事態(本件防衛出動命令若しくは出動待機命令が発令され又はこれらの発令が予測されるような事態)に至った時点では,控訴人は,所属部隊に発令されると考えられる第三種非常勤務態勢(甲19参照)により,外出が禁止されることになるため,弁護士への相談,依頼及び打合せが困難となり,訴訟手続を行うことは事実上不可能となるのであって,被控訴人が適切であると主張する争訟方法は実際には何の意味も持たない。したがって,本件職務命令に服従する義務がないことを確認することこそが,紛争の抜本的解決に資するものといえる。

(工)小括

よって,本件訴えは,適法な無名抗告訴訟である。

ウ公法上の法律関係に関する確認の訴えとしての適法性について(ア)本件訴えは,仮に無名抗告訴訟としての訴訟要件を欠く場合であっても,控訴人が本件防衛出動命令に服従しなかった場合に受けることとなる行政処分以外の不利益の防止を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,適法である。

本件防衛出動命令に基づく本件職務命令に服従する義務のないことが確認されれば,同義務の存在を理由とする刑事処分等の一切の不利益を予防し得るし,それにより紛争の抜本的解決も可能となる。

(イ)本件防衛出動命令が発令される事態が目前に迫っていること,同命令に基づく本件職務命令が発令された場合,控訴人の生命等に重大な損害が生じ,取り返しのつかないことになるおそれがあること,控訴人が同命令に従わなかった場合には,自衛隊法122条1項により,7年以下の懲役又は禁錮に処せられるおそれがあるほか,服務の本旨を蔑ろにしたものとして極めて厳しい社会的非難を受けることになることは,いずれも前記のとおりである。

(ウ)したがって,控訴人には;現時点において,控訴人が本件防衛出動命令に服する義務のないことの確認を求める必要があるから,確認の利益は認められるべきである。

(2) 被控訴人の主張

ア総論

本件訴えは,以下のとおり,無名抗告訴訟としても,公法上の法律関係に関する確認の訴えとしても,不適法であるから,却下されるべきである。イ無名抗告訴訟としての適法性について

(ア) 無名抗告訴訟の許容性について

無名抗告訴訟については,司法と行政の役割分担や行政庁の第一次判断権の尊重という観点から,かねてより一般的に,①行政庁の作為又は不作為の義務が法律上一義的に明確であって,もはや行政庁の第一次判断権を留保する必要のない場合であること(一義的明白性),②行政庁の作為又は不作為によって国民に重大な損害ないし危険が切迫していること(緊急性),又は,少なくとも行政庁の作為(行政処分)がされようとしていること(蓋然性),③他に救済を求める適切な方法がないこと(補充性)が訴訟要件として挙げられてきた(なお,平成16年に改正された行政事件訴訟法は,義務付けの訴え及び差止めの訴えを法定抗告訴訟として新設したが,その際,上記の要件を前提としつつ,これらの訴訟の実効的な活用を企図して,あえて,これらの要件を一定程度緩和した要件を設定した上で法定化するとの立法政策が採られたが〔行政事件訴訟法37条の2ないし4〕,上記改正において法定化されることのなかった無名抗告訴訟についてまで,その要件を緩和させる旨の立法者意思を見出すことはできない。)。

そして,控訴人は,本件訴えを,将来の不利益処分たる本件懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟であるとしているから,その適法性は,これらの要件に照らして判断されるべきであるし,このような無名抗告訴訟について,差止めの訴えよりも緩やかな訴訟要件により,これが許容されるとは解されないから(本件上告審判決参照),本件訴えが,無名抗告訴訟として適法とされるためには,差止めの訴えと同様,少なくとも,補充性の要件及び蓋然性の要件を満たすことが必要である。(イ)補充性の要件について

控訴人は,本件懲戒処分を受ける蓋然性があり,その危険ないし不安を除去する必要があるというのであれば,同処分の差止めの訴えを提起すればよく,同訴えを適法に提起することのできる時点ないし段階に至ってから,これを提起し,上記危険ないし不安を除去することが,最も適切な争訟として法律上予定されているといえるし,差止めの訴えは,仮の救済方法が法定されているという点でも,無名抗告訴訟より適切な争訟方法であるということができる。

したがって,本件訴えは,法定抗告訴訟である差止めの訴えとの関係で,補充性の要件を満たさない(なお,本件では;いまだ差止めの訴えを適法に提起することのできる時点ないし段階に至っていないが,このことは,他の適切な争訟方法の存在を否定する理由とはならない。)。(ウ)蓋然性の要件について

自衛隊法施行以来現在に至るまで,防衛出動命令が発令されたことはなく,その前提となる手続が行われたこともない。現時点で存立危機事態は発生しておらず,将来的に存立危機事態が発生することを具体的に想定し得る状況にもない。この点に関する控訴人の主張は,抽象的な仮定を述べるものにすぎない。

また,控訴人は,現在,直接戦闘を行う部隊に所属しておらず,これまで直接戦闘を行うことを主たる任務とする部隊に所属したこともないから,仮に存立危機事態が発生して本件防衛出動命令が発令されたとしても,控訴人の所属する部隊にまで出動が命ぜられるかは一層不明である。

さらに,万ー,控訴人に対して本件職務命令が発せられ得るとしても,その具体的内容は定かではなく,我が国の防衛や控訴人の生命身体に何ら影響を及ぼさないような本件職務命令が発せられる可能性もないではない。

そして,控訴人がこのような本件職務命令に服従しなかった場合に本件懲戒処分が行われるのか否か,仮に行われるとして,軽微な処分も含めていかなる処分がされるのかは,いずれも不確定である。

したがって,控訴人に本件職務命令が発せられることが,間近に迫っている状況にあるとはいえず,本件職務命令違反を理由とする本件懲戒処分に向けた告知聴聞等の手続が行われているわけでもない。

以上によれば,控訴人が実際に本件職務命令違反に及び,同命令違反に基づき本件懲戒処分がされることが,高度の確実さをもって現実的かつ客観的に推測される程度に具体性ないし現実性を備えているとはいえない。

したがって,本件訴えは,蓋然性の要件を満たさない。

(エ) 以上のとおり,本件訴えは,少なくとも補充性の要件及び蓋然性の要件を満たさないから,無名抗告訴訟としては,不適法である。

公法上の法律関係に関する確認の訴えとしての適法性について

ア)控訴人の主張は争う。

(イ)本件訴えが,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,適法と認められるためには,確認の利益が存在することが必要であり,現に,控訴人の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被控訴人に対し確認判決を得ることが必要かつ適切であること,すなわち即時確定の利益があることを要する。

控訴人は,本件防衛出動命令に服する義務のないことの確認を求めているが,前記のとおり,本件防衛出動命令が発令されるか否か,また,控訴人に対して本件職務命令が発せられるか否かは,いずれも不明である。

そうすると;現時点では,控訴人が被るおそれのある不利益も,それが具体的に発生するか否か極めて不明確で,かつ,抽象的なものにすぎず,即時確定の利益を欠くから,確認の利益がないというべきである。(ウ)したがって,本件訴えは,行政事件訴訟法4条後段にいう公法上の法律関係に関する確認の訴えとしても,不適法である。

本案の争点(自衛隊法76条1項2号の違憲性)に関する当事者の主張

(1) 控訴人の主張

平和安全法制整備法による自衛隊法の改正で新設された同法76条1項2号は,我が国の集団的自衛権の行使等を容認したものであり,自衛隊を「戦力」と扱っているとみるほかないこと,必ずしも我が国に対する武力攻撃の発生を要件とせずに防衛出動命令の発令を可能としたことなどにおいて,憲法9条及び憲法前文に定める恒久平和主義と平和的生存権の保障の基本原理に反している。

また,平和安全法制整備法は,憲法の改正手続によらず,法律によって実質的に憲法を改変したものであり,憲法96条を潜脱するものであるほか,憲法尊重擁護義務,立憲主義の基本理念及び国民主権の基本原理に反している。

加えて,控訴人は,本件防衛出動命令に従うことに同意しておらず,控訴人の意に反してこれに服従させることは,憲法18条にも反する。これらの点で,自衛隊法76条1項2号は違憲であるから,控訴人は,本件防衛出動命令に服する義務を負わない。

(2) 被控訴人の主張

控訴人の主張は争う。

第3 当裁判所の判断

1当裁判所も,控訴人の本件訴えは不適法であり,これを却下すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

2無名抗告訴訟としての適法性について

(1)控訴人は,本件訴えについて,本件懲戒処分という将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる本件職務命令に基づく公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟である旨主張する。

このような将来の不利益処分(行政処分)の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は,当該処分に係る差止めの訴えよりも緩やかな訴訟要件により,これが許容されているものとは解されないから,行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることとの要件(蓋然性の要件)を満たさない場合には不適法というべきである(本件上告審判決参照)。

(2)そこで,本件懲戒処分がされる蓋然性があるといえるか否かについて検討するに,本件全証拠によっても,現に存立危機事態が発生し,又は近い将来存立危機事態が発生する明白なおそれがあると認めるには足りないから,控訴人が所属する部隊に対し,本件防衛出動命令が発令される具体的ないし現実的可能性があるということはできず,控訴人が本件職務命令を受ける具体的ないし現実的可能性があるということもできない。

そうすると,現時点において,控訴人が本件職務命令への不服従を理由として,本件懲戒処分を受ける蓋然性があると認めることはできない。

(3) 控訴人は,行政庁によって一定の処分がされる蓋然性については,当該処分がされる可能性と当該処分によって被る損害の重大性との相関関係を総合考慮して,柔軟に判断されるべきであり,その判断に当たっては,紛争の成熟性及び事前救済の必要性の観点も考慮すべきである旨主張する。しかしながら,将来の不利益処分(行政処分)の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める無名抗告訴訟は,当該処分に係る差止めの訴えよりも緩やかな訴訟要件により,これが許容されているものとは解されないところ,差止めの訴えにつき一定の処分がされようとしていること(行政事件訴訟法3条7項)が救済の必要性を基礎付ける前提として必要とされていることに鑑みると,上記無名抗告訴訟において蓋然性の要件が満たされているか否かは,当該処分がされようとしているか否かによって判断すべきであって,そのような処分がされようとしているとはいえない場合には,蓋然性の要件は満たされておらず,紛争の成熟性も認められないものというべきである。控訴人の上記主張が,そのような場合であっても,処分によって被る損害の重大性があれば,同要件の充足を認めるべきであるとか,事前救済の必要性があるという趣旨であるとすれば,それは,独自の見解といわざるを得ず,採用できない。

また,控訴人は,本件防衛出動命令の発令が現実的なものであるとして,るる主張するところ,控訴人の主張する事情によっても,それは,不確定かつ抽象的なものにとどまるといわざるを得ないのであって,現に存立危機事態が発生し,又は近い将来存立危機事態が発生する明白なおそれがあると認めるには足りない。

さらに,控訴人は,本件職務命令及び本件懲戒処分の可能性が現実的なものである旨の主張もするが,上記のとおり,本件防衛出動命令が発令される具体的ないし現実的可能性があるということはできない以上,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものといわざるを得ない。

(4)以上のとおり,本件訴えは,蓋然性の要件を満たさないから,重大な損害の要件及び補充性の要件について検討するまでもなく,無名抗告訴訟としては,不適法である。

3 公法上の法律関係に関する確認の訴えとしての適法性について

(1) 控訴人は,本件訴えが無名抗告訴訟としての訴訟要件を欠く場合であっても,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして審理判断されるべきであり,本件防衛出動命令に係る本件職務命令に服従する義務のないことを確認されれば,同義務の存在を前提とする刑事処分等の一切の不利益処分の発動を予防し得るし,それにより紛争の抜本的解決も可能となるから,確認の利益は認められる旨の主張もする。

(2)行政処分である懲戒処分によって課される義務を免れるために,同処分に対する抗告訴訟の提起に代えて公法上の法律関係に関する確認の訴え(当事者訴訟としての義務不存在確認訴訟)を提起するようなことは,一般的には許されないというべきであり,本件訴えは,控訴人が本件防衛出動命令に基づく本件職務命令に服従しなかった場合に受けることとなる行政処分たる本件懲戒処分に関する不服を内容とする訴訟として構成する場合には,専ら,将来の不利益処分たる懲戒処分の予防を目的とする無名抗告訴訟として位置付けられるべきものである。

もっとも,本件訴えは,控訴人が本件防衛出動命令に基づく本件職務命令に服従しなかった場合に受けることとなる行政処分以外の不利益の予防を目的とする訴訟と構成するのであれば,公法上の法律関係に関する確認の訴えとみる余地がある(平成24年最高裁判決参照)が,公法上の法律関係に関する確認の訴えであっても,一般に,確認の訴えは,現に,提訴者の有する権利又は法律的地位に危険や不安が存在し,これを解消するために確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限って認められるものである。(3)そこで,本件訴えについて確認の利益があるか否かを検討するに,前記のとおり,現に存立危機事態が発生し,又は近い将来存立危機事態が発生する明白なおそれがあると認められないから,控訴人が所属する部隊等に対し,本件防衛出動命令が発令される具体的ないし現実的可能性があるということはできず,控訴人が本件職務命令を受ける具体的ないし現実的可能性があるということもできない。

そうすると,控訴人が主張する危険又は不安は不確定かつ抽象的なものにとどまるといわざるを得ないのであって,現に,控訴人の有する権利又は法律的地位に危険や不安が存在するとは認められない。

(4)したがって,本件訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えとしても。確認の利益を欠き,不適法というべきである。

4以上によれば,本案の争点(自衛隊法76条1項2号の違憲性)について検討するまでもなく,本件訴えは不適法な訴えといわざるを得ず,これを却下すべきものである。

第4 結論

よって,控訴人の本件訴えを却下した原判決は正当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第8民事部

裁判長裁判官 阿部潤

裁判官 嶋末和秀

裁判官 畑佳秀

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/89350/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。