主文
1 A刑務所長が原告に対し平成30年4月12日付けでしたBへの信書の発信を禁止する処分の取消しを求める訴えを却下する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 A刑務所長が原告に対し平成30年4月12日付けでしたBへの信書の発信を禁止する処分を取り消す。
2 被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する平成30年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,A刑務所に服役中に,養父であるBに対する信書の発信許可を求めたところ,A刑務所長から不許可処分(以下「本件処分」という。)を受けたことについて,①本件処分は違法であるとして,その取消しを求めるとともに,②違法な本件処分によって精神的苦痛を受けたとして,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料10万円及びこれに対する本件処分の日である平成30年4月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 関係法令等の定め
⑴刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「法」という。)は,刑事施設の長は,受刑者に対し,法の規定により禁止される場合を除き,他の者との間で信書を発受することを許すものと定めている(法126条)。そして,信書の発受を禁止できる場合として,法は,犯罪性のある者その他受刑者が信書を発受することにより,刑事施設の規律及び秩序を害し,又は受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者については,受刑者がその者との間で信書を発受することを禁止することができる旨を定めている(法128条本文)。ただし,受刑者の親族との間の信書の発受については,禁止の対象から除外されている(同条本文括弧書き)。また,婚姻関係の調整,訴訟の遂行,事業の維持その他の受刑者の身分上,法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理のため信書を発受する場合にも,法128条本文による禁止は許されない(同条ただし書)。
⑵被収容者の外部交通に関する訓令の運用について(依命通達)平成19年5月30日付け矯正局長依命通達である「被収容者の外部交通に関する訓令の運用について」(平成28年2月矯成第694号による改正後のもの。以下「外部交通通達」という。)28項は,被収容者の外部交通について,次のとおり定めている。(乙4)
「⑴法は,人道上の観点から,親族については外部交通を許すことが適当であるとして,その権利を保障しているところ,当該養子縁組が民法第802条第1号の規定により無効を主張できる場合はもとより,無効とは認定できないまでも,専ら外部交通を得る目的などのためにされたものであり,養親子としての情を深めたりするという目的意識はなく,あるいは極めて希薄である場合など,法令における外部交通に関する各種規制を潜脱するためと認められる場合は,当該養子縁組による親族関係は,法における親族との外部交通に係る規定を適用する基礎を欠くものであり,当該外部交通を認めない運用もあり得ること。特に,暴力団関係受刑者の場合,安易に外部交通を認めないよう留意すること。
⑵養子縁組が外部交通の確保を目的としたものであるか否かの判断に当たっては,在社会時における交流の状況,養子縁組に至る経緯,被収容者の外部交通の内容,被収容者及び相手方の養子縁組及び離縁の回数等を十分に調査の上,記録を残すことが相当であること。」
3 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である。
⑴原告(昭和▲年▲月▲日生まれ)は,平成28年1月21日,B(昭和▲年▲月▲日生まれ)と養子縁組をし(以下「本件縁組」という。),Bの養子となった。(甲2)
⑵Bは,C組の組長であり,原告はC組の構成員である。(争いがない)⑶原告は,平成28年7月14日,東京地方裁判所において,恐喝未遂の罪により懲役2年の実刑判決を受け,平成28年10月26日以降,A刑務所において服役していた。(争いがない)
⑷原告は,平成30年4月10日,A刑務所長に対し,養父であるBに宛てた別紙の内容の手紙(以下「本件信書」という。)の発信許可を申請した。(争いがない)
⑸A刑務所長は,平成30年4月12日,本件信書の発信を禁ずる旨の処分(本件処分)をした。(争いがない)
⑹原告は,平成30年9月6日,A刑務所を満期出所した。その際,A刑務所長は,原告に対し,本件信書を引き渡した。(乙2,3)
4 争点
⑴Bが法128条にいう「親族」に当たるか
⑵本件処分は国家賠償法上違法といえるか
⑶損害額
5 争点に関する当事者の主張
⑴Bが法128条にいう「親族」に当たるか
(被告の主張)
本件縁組は,C組の組長であるBとその構成員である原告との間における,C組を維持し又は強化するための疑似的血縁関係の形成等を目的とするものであり,原告とBは,社会通念上,親子の関係と認められる関係を持つ意思はなかった。したがって,本件縁組は,真に養親子関係の設定を欲する効果意思を欠き,無効であるから,Bは,法128条にいう「親族」には当たらない。
仮に,本件縁組が無効といえないとしても,外部交通通達28項が定めるように,法令における外部交通の各種規制を潜脱するために養子縁組がされた場合には,当該縁組による養親子関係にある者については,法128条にいう「親族」には当たらないと解すべきである。本件縁組は,上記場合に当たると認められるから,Bは,法128条にいう「親族」には当たらない。
(原告の主張)
Bは,「Cの名を残したい。」,「墓を守ってほしい。」との思いから,原告に対し,養子縁組の申出をし,原告において,温かい人柄のBとそれまで同様の関係を一生続けていくであろうとの思いをもって,養子縁組を決意したものであって,本件縁組は,C組における組織の維持強化を目的としたものではない。仮にそのような目的があったとしても,この目的と,真の親子関係を成立させる意思とは併存し得る。したがって,本件縁組は,社会通念上,親子と認められる関係を成立させる意思に基づくものであって,有効である。
そして,本件縁組が民法上有効である以上は,信書の発信を禁止する根拠は存在しない。
したがって,Bは,法128条にいう「親族」に当たる。
⑵本件処分は国家賠償法上違法といえるか
(原告の主張)
本件信書については,法128条によりその発出を禁止することは許されないにもかかわらず,A刑務所長は本件処分を行ったのであるから,A刑務所長には過失が認められ,本件処分は国家賠償法上違法となる。(被告の主張)
本件処分が違法であったとしても,A刑務所長は,原告及びBの身上関係等について必要な調査をし,相応の根拠に基づいて本件処分をした。したがって,A刑務所長は,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件処分をしたわけではないから,本件処分は国家賠償法上違法とはいえない。
⑶損害額
(原告の主張)
本件処分による原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は,10万円を下らない。
(被告の主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件処分の取消請求に係る訴えの利益について
本件処分は,当時受刑者であった原告に対してされたものであるところ,前記前提事実⑹のとおり,原告は,既にA刑務所を満期出所しており,かつ,本件信書の引渡しを受けているのであるから,もはや本件処分を取り消す法律上の利益は失われたというべきである。
したがって,本件処分の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠き,不適法である。
2 認定事実
前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
⑴Bについて
ア 服役歴
Bは,詐欺罪及び窃盗罪により懲役1年2月に処せられ,平成8年10月25日から平成9年11月17日までの間,宮城刑務所に服役した。(争いがない)
Bは,覚せい剤取締法違反,公務執行妨害,傷害,詐欺未遂,詐欺及び強盗の各罪により懲役7年に処せられ,平成13年9月10日から平成20年2月2日までの間,府中刑務所に服役した。(争いがない)
Bは,覚せい剤取締法違反の罪により懲役2年に処せられ,平成22年3月23日から平成24年1月5日までの間,水戸刑務所に服役した。(争いがない)
Bは,平成29年9月,銃砲刀剣類所持等取締法違反等の被疑事実で逮捕された。Bは,同法違反,覚せい剤取締法違反及び大麻取締法違反の各罪により懲役12年及び罰金300万円に処せられ,平成30年5月25日以降,旭川刑務所において服役している。(争いがない)
イ 養子縁組歴等
Bは,平成22年1月6日,Dと養子縁組をし,Dの養父となった。Dは,C組の組員である。(甲2,乙6,弁論の全趣旨)
Bは,平成24年4月26日,Eと養子縁組をし,Eの養父となったが,平成30年2月7日,離縁をした。Eは,C組の幹部(若頭補佐)である。(甲2,乙6,弁論の全趣旨)
Bは,平成27年9月20日,Fと婚姻した。(甲2)
⑵原告について
ア 原告は,平成25年頃,C組に加入した。平成28年10月当時,原告は,C組の幹部(若頭)であった。(乙7,弁論の全趣旨)
イ 原告は,平成28年1月21日,Bと養子縁組をし,Bの養子となった。(前提事実⑴)
ウ 原告は,平成28年2月26日から同月27日までの間,Eほか1名と共謀の上,C組の組員がC組から逃げ出したことに因縁を付け,その組員と親しい関係にあった者から現金500万円を脅し取ろうとしたものの,目的を遂げなかったという恐喝未遂事件を起こした。原告は,同事件で起訴され,平成28年7月14日,東京地方裁判所において,懲役2年に処せられた。(争いがない)
⑶A刑務所における原告の処遇等
ア 原告は,平成28年10月26日,A刑務所に移送され,同刑務所における服役を開始した。原告の服役は,この服役を含めて4度目であった。(乙7,弁論の全趣旨)
イ A刑務所においては,平成28年11月2日,原告について,「暴力団の反社会性を認識させ,定職に就く意欲を持たせる。」などの矯正処遇の目標が設定され,以後,原告に対し,暴力団離脱指導の特別改善指導が行われた。(乙9,弁論の全趣旨)
⑷原告による信書の発受等
ア 原告は,A刑務所において,本件処分前,別表1の「年月日」欄記載の日に,「相手方」欄記載の者との間で,「内容」欄記載の信書を発受した。A刑務所長は,上記発受について,別表1の「発受の許否」欄記載のとおり,許可,一部許可又は不許可の処分をした。(争いがない)
イ 原告は,A刑務所において,本件処分前,別表2の「年月日」欄記載の日に,「相手方」欄記載の者と面会し,その際,要旨,「内容」欄記載のとおり会話を交わした(なお,「内容」欄の「(本)」は原告の発言を意味し,「(相)」は相手方の発言を意味する。)。(争いがない)
ウ 原告は,平成30年4月10日,A刑務所長に対し,本件信書の発信許可を申請した。これに対し,A刑務所長は,同月12日,Bが矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者と認められるとして,法128条に基づき,本件信書の発信を禁止する処分をした(本件処分)。(前提事実⑷,⑸,乙10)
3 争点⑴(Bが法128条にいう「親族」に当たるか)について⑴法128条にいう「親族」の意義
法128条が信書の発受の禁止対象から親族を除外しているのは,矯正処遇の適切な実施等の目的を達成するため,受刑者の改善更生上好ましくない社会関係を遮断することを原則としつつ,親族との間の信書の発受については,人道上の要請を考慮して,例外的に許容したものと解される。ところが,実親子間の信書の発受であれば,類型的にみて,人道上の観点からこれを認めるべき必要性が高いと考えられるが,養親子間については,養子縁組の動機は様々であって,養親子間であるからといって,信書の発受を当然に許容すべき人道上の要請があるとは限らない。しかるに,養親子間の信書の発受を養親子間であることのみをもって許容することとなれば,受刑者が,犯罪性のある者その他矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者と外部交通を行うことが可能となってしまい,ひいては矯正処遇の目的が達成できないおそれがあると考えられる。そうすると,受刑者を養子とし,刑務所外部の第三者を養親とする養子縁組が民法上無効とはいえない場合であっても,当該養親子間において信書の発受を認める人道上の必要性が乏しく,受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある場合には,上記発受を認めることにより法128条の規制の潜脱を許す結果となるのであるから,上記養親は法128条にいう「親族」には当たらないと解するのが相当である。
⑵検討
ア これを本件についてみると,原告とBは,本件処分がされた時点で約2年3か月養親子の関係にあったにすぎず(前提事実⑴,⑸),原告の主張によっても,原告とBの親子としての関係は,原告がBの身の回りの世話をしたり,入院に付き添ったりする程度の関係であったというのであって,実親子同様の親密な親子の情で結ばれていたことは特段うかがわれない。また,本件信書には原告がBの身辺を気遣う内容はあるものの,Bが当時重篤な疾病に罹患していたなど,原告とBとの外部交通を認めることが人道上要請される状況にあったとは認められない。
イ 一方,Bもその養子(原告,D,E)も,全てC組の構成員であって(認定事実⑴イ,⑵ア),本件縁組当時,原告もBも複数回の服役歴があったのであるから(認定事実⑴ア,⑶ア),原告やBが,再度服役した場合に備えて外部交通の手段を確保しようと考えていたとみても不自然ではない。また,認定事実⑷ア,イのとおり,本件縁組後,原告とBは,信書や面会を通じて,多数回にわたって互いの近況報告や身辺を気遣う発言を交わそうとしているほか(例えば別表1の順号2,3,5,12,別表2の順号2,3),原告やBの身柄拘束や刑事裁判の方針など暴力団組織の維持・強化に密接に関わる事項について意見や情報の交換を試みているのであって(例えば別表1の順号1,5,別表2の順号3,7,8),暴力団組長とその構成員としての関係が維持・強化されているとみることができる。
そうすると,本件信書の内容が専らBの安否を気遣うものであるとしても,本件信書の発受を認めることとなれば,暴力団構成員としての原告とBの関係を維持・強化し,原告の暴力団からの離脱を阻害する結果をもたらすおそれがあるのであって,A刑務所において原告に対して行われていた暴力団離脱指導の特別改善指導の目標(認定事実⑶イ)の達成に,支障を来すおそれがあるというべきである。
ウ 以上の事情を総合すると,仮に本件縁組に至る経緯や本件縁組後の原告とBの関係が原告の主張ないし供述(甲6)するようなものであったとしても,Bは法128条にいう「親族」には当たらないというべきである。
4 本件処分の適法性
上記3のとおり,Bは法128条にいう「親族」には当たらない。そして,前記認定事実⑴アによれば,Bは犯罪性のある者であって,Bとの信書の発受により原告に対する矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるというべきである。また,本件信書は,その内容に照らして,法128条ただし書所定の「重大な利害に係る用務の処理」のためのものでないことは明らかである。
したがって,A刑務所長は,法128条本文により本件信書の発信を禁止することができるから,本件処分は適法である。
5 結論
以上の次第であるから,本件処分の取消しを求める訴えは,不適法である。また,本件処分の違法を理由とする慰謝料請求は,理由がない。よって,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官 武藤貴明
裁判官 亀井佑樹
裁判官 亀井直子
(別紙)
前略にて失礼します。
先日はカードの件などでのご返事,わざわざ有難うございました。ニュースなどでそちらの様子を観る機会がありますが,夏のような気温があったかと思うと雪がちらついたりと不安定な天気が続いていたりするようですが,お躰の調子はどうでしょうか。
風邪など引いてないでしょうか。
糖尿の方は大丈夫なのでしょうか。
社会に居た頃は姐さんが毎日管理してインシュリンを打っていたので,何の心配もなかったのですが,今はこんな状態なので・・・・・
それと首と腰の調子はどうでしょう。
せまい空間にての生活で自由に運動する事や歩く事ができないでしょうし,まして,今季節の変わり目なので貴重な運動時間を有効に使って欲しいと思います。自分の方は肉体的には,これまでにないほど元気ですが,精神的には正直言って少々まいってます・・・・
が泣き事は言いたくないのでやめておきます(笑)
その他にも書きたい事はたくさんありますが今回も特別に許可を貰っての手紙なので,どうかご理解,そして勘弁して下さい。とにかく今は,オヤジが元気でいてくれる事が一番なのでどうかお躰ご自愛下さい。
今回はこのへんで失礼します。
乱筆乱文お許し下さい。
草々
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/89613/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。