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地裁判決

札幌地判 令和2年9月14日

令和2年(わ)第387号 建造物侵入,強盗傷人被告事件

裁判所
札幌地方裁判所
裁判年月日
令和2年9月14日 (2020-09-14)
事件番号
令和2年(わ)第387号
事件名
建造物侵入,強盗傷人被告事件
裁判の種類・結果
判決
判例集等
—
分野
刑事

判示事項

被告人が,ATMで現金装填作業中の警備員に暴行を加えて現金を強取しようとしたが未遂に終わり,その際,同人に全治約2週間を要する傷害を負わせた建造物侵入,強盗傷人の事案について,懲役6年を言い渡した事例

(裁判員裁判)

令和2年9月14日宣告

令和2年(わ)第387号建造物侵入,強盗傷人被告事件

主文

被告人を懲役6年に処する。

未決勾留日数中30日をその刑に算入する。

札幌地方検察庁で保管中のスタンガン1個(同庁令和2年領第70

8号符号7-2)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,現金自動預払機で作業中の警備員から現金を強取する目的で,令和2年5月22日午前11時55分頃,A株式会社B店マネージャーZが看守する札幌市a区所在のB店1階ATMコーナー裏通路に,無施錠の南東側ドアから侵入し,その頃,同所及び同通路に隣接するD銀行Cブースにおいて,現金装填作業中のE(当時56歳)に対し,いきなり右目付近を手拳で殴打し,転倒して床に仰向けになった同人に馬乗りになった上,スタンガン(札幌地方検察庁令和2年領第708号符号7-2)を放電状態にして,同人の右前腕部,右腰付近及び右足に合計4回押し当てて感電させるなどの暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同人から現金を強取しようとしたが,同人に抵抗されたためその目的を遂げず,その際,前記暴行により,同人に全治約2週間を要する顔面打撲,右眼球打撲及び右前腕電撃傷の傷害を負わせた。

(証拠の標目)省略

(争点に対する判断)

1 争点

本件では,被告人が被害者の右目付近を手拳で殴打し,転倒して仰向けになった同人に馬乗りになったかについて当事者間に争いがある。

2 被害者証言

⑴被害者は,①ブース内で現金装填作業中,ATM機裏側部分の前に立っていたところ,背後に人の気配を感じ,左後方に体をねじって振り返った瞬間,いきなり右こめかみ付近を硬いもので殴られた,②その人影にタックルをして壁にぶつけた反動で仰向けに転倒したところを犯人に馬乗りされ,その胸元を両手で引き付けると,スタンガンを右腕に2回押し当てられ,続いて右腰及び右太ももにも押し当てられた旨証言する。

⑵①についてみると,被害者は,振り向きざまに頭蓋骨に響き渡るような強い衝撃があったと具体的に説明しており,犯人から受けた最初の攻撃であって特に印象に残りやすい出来事でもあることから,勘違いが生じるとは考えにくい。その上,被害者の右目の目尻付近から右頬骨辺りに見られる皮下出血の程度が重いこととも整合する。

なお,この皮下出血には出血量が多い部分が2か所あることなどから,F医師は,平坦なものではなく,凹凸のある手拳で殴られて生じた可能性が高いと証言する。証拠上,他の方法や機会により生じた現実的な可能性は想定し難いことも踏まえれば,その証言どおり被害者は手拳で殴られたと認められる。弁護人は,前記皮下出血は手拳によるものとしては不自然であるというが,手拳のどこが当たったのかはっきりしない以上,不自然さを見出すことまではできず,採用できない。

⑶②についてみると,被害者は,このときの状況として,大きなビビッという音を聞き,青白い光を放つスタンガンが見え,約30本の針で刺されたような痛みを感じたなどと,自らの五感を通じた特異な体験を具体的に語っている。また,被害者の電撃傷は,右前腕の外側に2か所存在し,いずれも11ミリメートルの間隔がある2つの電極を腕を横断する方向に押し当てられて生じたと認められるが,被害者が証言する体勢で犯人が左手に持つスタンガンを2回押し当てたものとして整合する。

⑷そして,①及び②は短時間のうちに生じた一連の出来事であって,他の場面の記憶と混同した可能性は想定し難く,その後犯人を取り押さえるまでの場面とは異なり,その供述内容に捜査段階からの変遷は認められない。また,被害者があえて虚偽の事実を述べているとする根拠も見当たらない。

そうすると,少なくとも,犯人に初めに殴られてからスタンガンを押し当てられるまでの被害者の証言は,被告人が利き手でない左手を用いて殴ったりスタンガンを使ったりしたことになる等の弁護人の指摘を踏まえても,高い信用性がある。

3 被告人供述

他方,被告人は,①被害者を殴りつけたことはなく,被害者がタックルしてきたとき,その右目が自分の頭に当たりけがをした可能性がある,②スタンガンの使用について,被害者の頭を右脇の下に抱え,右手に持つスタンガンを被害者の体の下に差し入れた状態で,その体のどこに当たっているかは分からないまま放電したと供述する。

しかし,①につき,被害者が負傷部位である右目下付近がぶつかるような姿勢でタックルすることは不自然である上,被告人自身も,結局,被害者の右目付近が自分の頭にぶつかった事実ははっきり覚えていないと述べているほか,被害者の負傷原因という重要な事項に関して公判で初めて①の可能性を指摘するに至った供述経過は不自然であり,この点に関する被告人供述は到底信用できない。そして,②についても,そもそも被告人の述べる体勢は曖昧である上,それに近い体勢で右手で持つスタンガンを被害者の右腕の外側2か所に押し当てることは困難とみられ,①と一連のものとして述べられていることも踏まえると,被害者を負傷させた状況に関する①及び②の被告人供述は信用し難い。

4 結論

以上によれば,十分に信用できる被害者証言に沿って,被告人が被害者に対して判示の暴行を行い,故意にけがを負わせたことが疑いなく認められる。(法令の適用)

1 構成要件及び法定刑を示す規定

被告人の判示所為のうち,建造物侵入の点は刑法130条前段に,強盗傷人の点は同法240条前段にそれぞれ該当する。

2 科刑上の一罪の処理

建造物侵入と強盗傷人との間には手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により1罪として重い強盗傷人罪の刑で処断する。

3 刑種の選択

有期懲役刑を選択する。

4 宣告刑の決定

所定刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処する。

5 未決勾留日数の算入

刑法21条を適用して未決勾留日数中30日をその刑に算入する。

6 没収

札幌地方検察庁で保管中のスタンガン1個(同庁令和2年領第708号符号7-2)は,判示強盗傷人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,刑法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収する。

7 訴訟費用の不負担

訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。

(量刑の理由)

本件の犯行態様は,いきなり被害者の顔面を手拳で殴打した上,相手の動きを封じることも可能な高電圧のスタンガンを合計4回も押し当てるという危険かつ悪質なものである。被害者のけがは幸いにして重くはないものの,被害者の抱いた恐怖心等も考慮すると,被害者に与えた結果を軽くみることはできない。

また,被告人は,かつて勤めた警備会社の従業員による現金輸送中のかばんに入った数千万円を強奪することを企図し,2か月以上前から,犯行に用いたスタンガンや変装用かつらなどを購入し,現金輸送車の尾行を繰り返すといった周到な準備を行っており,事前の想定とは異なる状況下で本件に及んだ側面もあるとはいえ,十分に計画性があり,かつ,多額の現金を狙う強固な犯意に基づく犯行というほかない。

さらに,犯行動機は,要するに生活費欲しさというものであり,被告人が述べる夫婦関係はともかく,約4年前に得て管理していた約3000万円もの退職金を使い果たす前に十分な対策を講じなかったことは,まずもって被告人自身が責任を負うべきであって,ほとんど酌むことはできない。

これらの犯情を踏まえると,被告人の刑事責任には重いものがあり,相応の期間の実刑は免れない一方,同様の事案の中で最も重い分類に属するとまではいえない。そこで,以上の事情のほか,被告人が,約12万円の被害弁償を申し出ていること,これまでに前科前歴がなく,長年真面目に稼働してきたこと,罪が成立する限度の事実は認め,反省の弁を述べるとともに更生の意欲を示していること,被告人の妹が社会復帰後の更生に助力する旨述べていることなどの事情も併せ考慮して,被告人を主文の刑に処するのが相当と判断した。

検察官大濱新悟,国選弁護人大鹿祐太郎(主任),同岸田洋輔各公判出席(検察官の求刑懲役7年及び主文同旨の没収,弁護人の科刑意見懲役3年)令和2年9月14日

札幌地方裁判所刑事第3部

裁判長裁判官 駒田秀和

裁判官 山下智史

裁判官 北村規哲

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/89752/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。