主文
1⑴原判決主文第1項から第3項までを破棄する。
⑵被上告人の控訴を棄却する。
⑶被上告人が原審において拡張した請求を棄却する。
2 本件附帯上告を棄却する。
3 原審及び当審における訴訟費用は被上告人の負担とする。
理由
第1 事案の概要
1 内国法人である被上告人は、平成27年4月1日から同28年3月31日までの事業年度又は課税事業年度(以下、併せて「本件事業年度」という。)に係る法人税及び地方法人税(以下「法人税等」という。)の申告をしたところ、処分行政庁から、租税特別措置法(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下「措置法」という。)66条の6第1項の規定により、ケイマン諸島において設立された被上告人の子会社であるA及びB(以下、併せて「本件各子会社」という。)の後記2の課税対象金額に相当する金額が、被上告人の本件事業年度の所得金額の計算上、益金の額に算入されるなどとして、法人税等の各増額更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を受けた。また、被上告人は、本件事業年度の法人税等について更正の請求をしたが、処分行政庁から、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)を受けた。
本件は、被上告人が、上告人を相手に、上記各増額更正処分(ただし、後記3⑶イの各減額更正処分により一部取り消された後のもの)の一部及び上記各賦課決定処分(ただし、後記3⑶イの各変更決定により一部取り消された後のもの)並びに本件各通知処分の取消しを求める事案である。
2 関係法令の定めは、次のとおりである。
措置法66条の6第1項(以下「本件委任規定」という。)は、同項各号に掲げる内国法人に係る特定外国子会社等が、各事業年度において適用対象金額(基準所得金額を基礎として所定の調整を加えた金額)を有する場合には、その適用対象金額のうち、その内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等(株式又は出資をいう。以下同じ。)の請求権(剰余金の配当等、財産の分配その他の経済的な利益の給付を請求する権利をいう。以下同じ。)の内容を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(以下「課税対象金額」という。)に相当する金額を、その内国法人の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨を規定する。
これを受け、租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの)39条の16第1項(以下「本件規定」という。)は、上記の政令で定めるところにより計算した金額は、上記特定外国子会社等の各事業年度の適用対象金額に、当該各事業年度終了の時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了の時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請求権勘案保有株式等の占める割合(以下「請求権勘案保有株式等割合」という。)を乗じて計算した金額とする旨を規定する。請求権勘案保有株式等とは、内国法人が直接に有する外国法人の株式等の数又は金額等をいい、当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合には、当該外国法人の発行済株式等に、当該内国法人が当該請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の額がその総額のうちに占める割合を乗じて計算した数又は金額等をいう(同条2項1号)。
3 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。⑴被上告人による資金調達
ア 本件各子会社は、平成20年に、ケイマン諸島の法令に基づいて設立された外国法人であって、被上告人(旧商号は、株式会社C。以下、同銀行に吸収合併される前の株式会社Xと併せて、単に「被上告人」という。)に係る特定外国子会社等であった。
D(以下「D」という。)は、同年にケイマン諸島の法令に基づいて設立された外国法人であり、その発行する普通株式の全部を株式会社Eが有していた。
イ Dは、平成20年12月29日、額面1億円の優先出資証券3550口(以下「D優先出資証券」という。)を発行し、投資家に販売した。本件各子会社は、同日、合わせて額面1億円の優先出資証券3550口(以下「本件優先出資証券」という。)を発行し、Dは、D優先出資証券の発行により調達した資金を原資として本件優先出資証券の全部を購入した。本件優先出資証券の保有者は、原則として、普通株主に優先して配当受領権を有する一方、議決権を有しないものとされていた。
本件各子会社は、同日、本件優先出資証券の発行により調達した資金を原資として、被上告人に対し、劣後ローン(以下「本件劣後ローン」という。)により金銭を貸し付けたところ、本件劣後ローンの利息の発生期間の終期は、本件優先出資証券及びD優先出資証券に係る配当の支払日の前日とされていた。本件劣後ローンの利息は、ほぼ全て本件優先出資証券への配当に充てられ、本件各子会社に利益が留保されたり本件各子会社の発行する普通株式に配当がされたりすることは予定されていなかった。
⑵本件優先出資証券の償還等
本件各子会社は、平成27年6月30日、被上告人から本件劣後ローンの全額の返済を受けた上で、これを原資として、本件優先出資証券に係る出資金及び配当金をDに送金し、本件優先出資証券を償還した。この結果、本件各子会社の平成26年12月30日から同27年12月3日までの事業年度(以下「本件各子会社事業年度」という。)の終了の時における発行済株式等は、被上告人が有する普通株式のみとなった。
⑶課税の経過等
ア 被上告人は、本件各子会社の本件各子会社事業年度終了の時における発行済株式等のうちに被上告人の有する本件各子会社の請求権勘案保有株式等の占める割合(以下「本件保有株式等割合」という。)は0%であり、したがって本件各子会社事業年度における課税対象金額は0円であるとして、本件事業年度に係る法人税等の申告をした。
イ 処分行政庁は、平成29年11月7日付けで、被上告人に対し、本件保有株式等割合は100%であり、本件各子会社の適用対象金額の全額が課税対象金額となるなどとし、法人税等の各増額更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。その後、処分行政庁は、令和元年7月29日付けで、被上告人に対し、上記各処分に係る法人税等の各減額更正処分及び過少申告加算税の各変更決定をした(以下、上記各減額更正処分により一部が取り消された後の上記各増額更正処分を「本件各増額更正処分」といい、上記各変更決定により一部が取り消された後の上記各賦課決定処分と併せて「本件各増額更正処分等」という。)。
ウ 被上告人は、上記各減額更正処分がされたことを踏まえ、第1審の口頭弁論終結後の令和3年1月27日付けで、上記アの申告において法人税等の控除の計算を誤るなどした結果、納付すべき法人税等の額を過大に申告したとして、国税通則法23条1項1号の規定により、本件各増額更正処分後の法人税等の額につき、申告額を下回る額に更正をすべき旨の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をしたところ、処分行政庁から、同年4月26日付けで、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(本件各通知処分)を受けた。
エ 被上告人は、第1審においては、本件各増額更正処分のうち申告額を超える部分及び上記各賦課決定処分(ただし、上記イの各変更決定により一部取り消された後のもの)の取消しを求めていたところ、原審において、本件各増額更正処分に係る取消請求を本件各更正の請求に係る額を超える部分の取消しを求めるものに拡張するとともに、本件各通知処分の取消しを求める訴えを追加した。
第2 上告代理人〈略〉ほかの上告受理申立て理由について
1 原審は、前記事実関係等の下において、本件規定を適用すれば本件保有株式等割合は100%となるとした上で、要旨次のとおり判断し、本件各子会社事業年度における適用対象金額のうちに課税対象金額は存在しないなどとして、本件各増額更正処分等に係る取消請求を認容した。
被上告人が本件各子会社から剰余金の配当等を受けることは想定されていなかったため、内国法人が外国子会社の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するという、いわゆるタックス・ヘイブン対策税制の下での合算課税の合理性を基礎付ける事情は見いだせない上、本件各子会社事業年度における処理につき、租税回避の目的も、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められない。そうすると、本件規定を本件に形式的に適用することは、本件委任規定の趣旨及びタックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度趣旨に反するから、その限度で本件規定を本件に適用することはできないというべきである。
2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
⑴本件では、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かが問題となるところ、この点を判断するに当たり、まず、本件規定の内容が、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するか否かにつき検討する。
本件委任規定は、私法上は特定外国子会社等に帰属する所得を当該特定外国子会社等に係る内国法人の益金の額に合算して課税する内容の規定である。これは、内国法人が、法人の所得に対する租税の負担がないか又は著しく低い国又は地域に設立した子会社を利用して経済活動を行い、当該子会社に所得を発生させることによって我が国における租税の負担を回避するような事態を防止し、課税要件の明確性や課税執行面における安定性を確保しつつ、税負担の実質的な公平を図ることを目的とするものと解される。また、本件委任規定は、課税対象金額について、内国法人の有する特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等の請求権の内容を勘案して計算すべきものと規定するところ、これは、請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の割合を持株割合よりも大きくしてかい離を生じさせる方法による租税回避に対処することを目的とするものと解される。
そして、本件委任規定が課税対象金額の具体的な計算方法につき政令に委任したのは、上記のような目的を実現するに当たり、どの時点を基準として株式等の請求権の内容を勘案した計算をするかなどといった点が、優れて技術的かつ細目的な事項であるためであると解される。したがって、上記の点は、内閣の専門技術的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。このような趣旨に基づく委任を受けて設けられた本件規定は、適用対象金額に乗ずべき請求権勘案保有株式等割合に係る基準時を特定外国子会社等の事業年度終了の時とするものであるところ、本件委任規定において課税要件の明確性や課税執行面における安定性の確保が重視されており、事業年度終了の時という定め方は一義的に明確であること等を考慮すれば、個別具体的な事情にかかわらず上記のように基準時を設けることには合理性があり、そのような内容を定める本件規定が本件委任規定の目的を害するものともいえない。
そうすると、本件規定の内容は、一般に、本件委任規定の趣旨に適合するものということができる。
⑵以上を前提として、次に、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否かにつき検討する。前記事実関係等の下において本件規定を適用した場合には、本件各子会社事業年度における本件各子会社の利益は本件優先出資証券にのみ配当されたにもかかわらず、本件優先出資証券が同事業年度の途中で償還されたために本件保有株式等割合が100%となり、被上告人に対して合算課税がされることとなる。
もっとも、前述のとおり、個別具体的な事情にかかわらず基準時を設ける本件規定の内容が合理的である以上、上記のような帰結をもって直ちに、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱することとはならないところ、特定外国子会社等の事業年度の途中にその株主構成が変動するのに伴い、剰余金の配当等がされる時と事業年度終了の時とで持株割合等に違いが生ずるような事態は当然に想定されるというべきである。また、内国法人が外国子会社から受ける剰余金の配当等は、原則として、内国法人の所得金額の計算上、益金の額には算入されない以上(平成27年法律第9号による改正前の法人税法23条の2第1項等)、本件委任規定につき、特定外国子会社等において剰余金の配当等が留保されることにより内国法人が受ける剰余金の配当等への課税が繰り延べられることに対処しようとするものと解することはできないから、前記事実関係等の下において剰余金の配当等に係る個別具体的な状況を問題とすることなく本件規定を適用することによって、本件委任規定において予定されていないような事態が生ずるとはいえない。加えて、前記事実関係等の下においては、本件各子会社の事業年度を本件優先出資証券の償還日の前日までとするなどの方法を採り、本件各子会社の適用対象金額が0円となるようにする余地もあったと考えられるから、本件規定を適用することによって被上告人に回避し得ない不利益が生ずるなどともいえない。
そうすると、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものではないというべきである。⑶したがって、〔判示事項1〕前記事実関係等の下において本件規定を適用することができないとした原審の判断には、本件委任規定の解釈適用を誤った違法がある。
3 以上によれば、原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、前記事実関係等の下においては、本件各増額更正処分等にその他の違法事由も見当たらず、これらは適法というべきである。そうすると、被上告人の第1審における請求は理由がないから、これらを棄却した第1審判決は正当であって、被上告人の控訴を棄却すべきであり、また、被上告人が原審において拡張した請求も理由がないから、これらを棄却すべきである。
第3 附帯上告代理人〈略〉ほかの附帯上告受理申立て理由について
1 原審は、前記事実関係等の下において、被上告人は、本件各増額更正処分に係る取消請求において本件各更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることが可能であるから、重ねて本件各通知処分の取消しを求める利益を有しておらず、本件訴えのうち本件各通知処分の取消しを求める部分は不適法であるとして、これを却下した。
2 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
⑴増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定によりされた更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分は、上記増額更正処分により一旦確定した税額について、更正の請求の理由を踏まえて改めて調査がされた上で、上記増額更正処分後の税額を減額すべき理由はないとしてされる処分である(同項、同条4項)。そうすると、上記通知処分は、上記増額更正処分とは別個にされた新たな処分であることが明らかであり、上記増額更正処分に吸収され、又はその内容が実質的に包摂されるということもできないのであって、上記更正の請求をした者は、上記通知処分が取り消された場合には、減額更正処分を受ける可能性を回復することができる以上、上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきである。
本件のように上記増額更正処分後に上記更正の請求がされた場合、これに係る税額が申告税額を下回るときであっても、上記増額更正処分に係る取消訴訟において、上記増額更正処分のうち上記更正の請求に係る税額を超える部分の取消しを求めることができるものの、このことから直ちに上記通知処分の取消しを求める訴えの利益を否定することはできない。
したがって、〔判示事項2〕増額更正処分後に国税通則法23条1項の規定による更正の請求をし、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた者は、当該通知処分の取消しを求める訴えの利益を有すると解するのが相当である。
⑵以上に説示したところによれば、被上告人は、本件各通知処分の取消しを求める訴えの利益を有するものということができるから、これと異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。もっとも、前記第2のとおり、本件各増額更正処分は適法であり、本件各通知処分に固有の違法事由が争われていない本件において、本件各通知処分を違法とすべき事由は見当たらない。そうすると、本件各通知処分の取消しを求める請求は理由がなく、これらを棄却すべきものであるが、不利益変更禁止の原則により、附帯上告を棄却するにとどめるほかなく、原判決の上記違法は結論に影響を及ぼすものではない。
以上の次第で、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官草野耕一の補足意見がある。
裁判官草野耕一の補足意見は、次のとおりである。
私は法廷意見に賛同するものであるが、法廷意見第2について異なる視点から補足して述べておきたいことがあるので、以下これを敷衍する。
1 一般に、我が国の税法は、世界的にも稀有といえるほどに緻密で合理的な条文の集積から成り立っており、このことが税制に対する国民の信頼や我が国企業の国際競争力の礎となってきたことは税法の研究や実務に携わる者が均しく首肯するところではないかと推察する。
しかしながら、本件委任規定を受けて設けられた本件規定について子細にみてみると、いささか精緻さに乏しいとの見方ができることは否定し難い。なぜならば、これらの規定の適用下にある外国法人について、
⑴当該外国法人がその事業年度終了時とは異なる日を基準日として剰余金の配当等(以下、本補足意見においては、単に「配当」という。)を支払ったところ、これを受け取った当該外国法人の株主(以下「受取株主」という。)がその直後に到来する事業年度終了時(以下「直近年度末」という。)にはもはや当該外国法人の株主ではない場合において、①当該外国法人が上記基準日においては特定外国子会社等であり、受取株主が当該特定外国子会社等に係る内国法人(以下、本補足意見においては「特定親会社」という。)であるとすれば、当該配当の原資として用いられた当期純利益の額(以下「配当原資金額」という。)につき、経済実態からすれば、当該特定親会社に対し合算課税をすることが相当であるにもかかわらず、合算課税をなし得ない事態(以下、本補足意見においては、このような事態を「過少課税」という。)が発生し得る一方、②当該外国法人が直近年度末においては特定外国子会社等であるが、受取株主は特定親会社と資本関係のない者であるとすれば、配当原資金額につき、経済実態からすれば、当該特定親会社に対し合算課税をすることは相当でないにもかかわらず、合算課税がされる事態(以下、本補足意見においては、このような事態を「過剰課税」という。)が発生し得るところ、
⑵仮に、本件委任規定を受けて政令の定めを設けるに当たり、「事業年度」の意義につき、特定外国子会社等が、その財産及び損益の計算の単位となる期間(以下「会計期間」という。)の末日以外の日を基準日として配当を行った場合には、当該会計期間の始期から当該配当の基準日までの期間をもって一つの事業年度とみなした上で、その翌日から当該会計期間の末日までの期間をもって次の事業年度とみなす(会計期間の末日以外の日を基準日とする配当の支払が一つの会計期間中に複数回なされた場合には各配当の基準日の翌日から次の配当の基準日までの期間も一つの事業年度とみなす)ことにすれば、過少課税も過剰課税も回避することができる
と解されるからである。
2 しかしながら、以上の事実を斟酌しても、本件規定の内容は一般に本件委任規定の趣旨に適合する旨の法廷意見の判断(第2の2⑴参照)を覆すことはできない。以下、そう考える理由を、いわゆるタックス・ヘイブン対策税制一般に当てはまる理由(後記⑴)と本件規定に固有の理由(後記⑵)の二つに分けて述べたいと思う。
⑴タックス・ヘイブン対策税制は、税負担の軽減を企業の積極的行動原理の一つとして国際的活動を展開する我が国企業に対して我が国が課し得る税額が過少となるような事態を可及的に回避することを目的として作り出された税制であると解される。しかるところ、このような企業が実施する取引は複雑多様でかつ可変性の高いものであり、そうである以上、発生し得るいかなる事態に対しても合理的な帰結(過少課税にも過剰課税にもならないような帰結)をもたらし得る税制を立案することは(理想論としてはともかく)実際には期待し難く、加えて、制度の精緻さを過度に追求することは、効率的で公平な徴税手続の実現という点からみれば望ましくない場合があることも否定できない。
⑵上記⑴の一般論を本件規定との関係で敷衍すると、課税対象金額の計算を特定外国子会社等の事業年度終了時における特定親会社の請求権勘案保有株式等割合を用いて行うものとする本件規定の在り方は、特定外国子会社等がその会計期間の末日を基準日として配当を支払うという典型的な配当支払実務を前提とすれば、十分に合理的であり、かつ、本件委任規定の趣旨を実現するための税制を簡便なものにするという目的にも合致している。確かに、本件規定は、会計期間の末日以外の日を基準日として配当を支払った特定外国子会社等(当該配当の支払日後直近年度末までの間に特定外国子会社等となった外国法人を含む。以下、同じ。)に関して過剰課税を発生させることがあるというある種の難点を抱えていることは事実である。しかしながら、配当をいつ支払うかあるいは事業年度終了時をいつとするかは、実質的には当該特定外国子会社等の配当支払決定時における支配株主の判断によって決め得ることであると考えられるから、当該特定外国子会社等の配当支払決定時における支配株主と過剰課税によって不利益を受け得る者が同一である場合には、専らその判断により、両者が異なる場合には両者の協議により、過剰課税の発生はほとんど常に回避し得るはずである(なお、過少課税については、もとより関係当事者がこれを回避するように行動することは期待し難いであろうが、この点は本件の判断に影響しない。)。
3 もっとも、本件各子会社事業年度における本件各子会社の利益に関し、現に過剰課税が発生していることは否定し難い事実であり(法廷意見第2の2⑵参照)、しかもこの事態は本件各子会社の設立、本件優先出資証券の発行及び本件劣後ローンによる貸付けの実施という一連の手続(以下、本補足意見においては「本件資金調達手続」という。)がなされた平成20年当時においては起こり得ないものであった(当時の租税特別措置法施行令39条の16第1項の下では、特定外国子会社等が株主に配当として支払った金額は、同項にいう適用対象留保金額に含まれず、合算課税の基礎となる余地がなかったからである。)。しかしながら、この点を斟酌してもなお、本件の事実関係の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものとはいえない旨の法廷意見の判断(第2の2⑵参照)を覆すことはできない。そう考える理由は以下のとおりである(なお、後記⑴及び⑵は、飽くまでも本件に即して十分な理由付けを示すためのものであって、例えば、以下に示す事情の一部が欠けるような事案の場合に、当然に、その事案の事実関係の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するとの結論に結び付くことを含意するものではない。)。
⑴被上告人は、利払の損金算入効果を享受しつつ国際金融市場から自己資本を調達しようという意図の下に本件資金調達手続を立案しこれを実行したものであるとうかがわれる。しかるところ、被上告人のような我が国を代表する金融機関が本件資金調達手続を立案するに当たっては、当然関係各国の税制を詳細に調査研究し、その内容を知悉することが前提であろうから、被上告人は、我が国のタックス・ヘイブン対策税制についても十分な調査を行い、かつ、(タックス・ヘイブン対策税制は頻繁に改正されるものであることは周知の事実であるから、)必要に応じて、本件資金調達手続の実施後においても最新のタックス・ヘイブン対策税制の内容を調査し、本件資金調達手続によって生み出された会社法や契約法上の権利義務関係に合理的な変更を加えることによって、予期せざる税務上の不利益が発生することがないよう注意を払い続けることを期待され得る立場にあった。
⑵しかるところ、本件各子会社の利益に関して過剰課税が発生する余地が生ずることとなったのは、いわゆる外国子会社受取配当益金不算入の制度の導入に伴う平成21年の関係規定の改正によって、合算課税の基礎となる金額(適用対象金額)から、特定外国子会社等がその株主に支払った配当を控除することができなくなったためであるところ、その改正に係る改正法の施行の時から本件優先出資証券の償還がなされた平成27年6月30日までの間には6年余りの期間があった。しかも、本件優先出資証券の償還は本件各子会社(実質的には被上告人とみてよいであろう。)の任意の判断によりなされたものであるから、被上告人において、上記償還に当たって、任意償還がもたらす税効果を検討し、本件各子会社の事業年度を本件優先出資証券の償還日の前日までとするなどの方法を採ることによって合算課税を回避することは、さしたる取引費用をかけることもなく容易にできたはずである(法廷意見第2の2⑵参照)。
4 以上の次第により、私は法廷意見の結論及び理由付けに全面的に賛成するものである。
(裁判官草野耕一三浦守岡村和美尾島明)
当事者目録〈略〉
上告受理申立て理由書
申立人(一審被告、原審被控訴人。以下同じ。)は、本書面において、上告受理申立ての理由を明らかにする。
なお、略語等については、本書面で新たに定義するもののほか、原判決及び原判決が引用する一審判決の例による(参考に原判決及び一審判決で定義された略語について別紙略語表のとおり整理した。)。
第1 事案の概要等
1 事案の概要
相手方(一審原告、原審控訴人。以下同じ。)は、ケイマンに所在する相手方の特定外国子会社等であるB及びA(本件各子SPC)について、本件各子SPCの平成26年(2014年)12月30日から平成27年(2015年)12月3日までの事業年度(本件各子SPC事業年度)に係る本件各子SPCの発行済株式等のうち相手方の請求権勘案保有株式等の占める割合(本件保有株式等割合)が0パーセントであるとして、本件各子SPC事業年度の課税対象金額を0円と算出し、相手方の平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度又は課税事業年度(本件事業年度)に係る法人税及び地方法人税(法人税等)の確定申告及び修正申告を行ったところ、処分行政庁である麹町税務署長は、本件保有株式等割合が100パーセントであり、本件各子SPCの適用対象金額の全額が課税対象金額として相手方の本件事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入されるなどとして、平成29年11月7日付けで法人税等に係る各更正処分及びこれらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分(令和元年7月29日付け減額更正又は変更決定により税額が一部減額後のもの。本件各処分。)をした。
本件は、相手方が、本件保有株式等割合がいずれも0パーセントであり、本件各子SPCに係る課税対象金額が0円であるとして、本件各更正処分のうち本件各更正の請求額を超える部分及び本件各賦課決定処分の各取消しを求める事案である。
2 本件の争点
本件の争点は、相手方の本件事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入されるべき本件各子SPCに係る課税対象金額であり、具体的には、課税対象金額の計算における措置法施行令39条の16第1項及び第2項の規定の適用の可否である。
3 原判決の要旨
⑴タックス・ヘイブン対策税制の趣旨等
タックス・ヘイブン対策税制は、タックス・ヘイブンに設立した外国子会社の所得から剰余金の配当等を受け得る支配力を有している内国法人が剰余金の配当等を受けずに外国子会社に留保所得を蓄積しているところに租税回避があるとみて、留保所得のうち内国法人の持分に応じて計算される金額を内国法人の所得に合算して課税することとしたものである。内国法人が外国子会社の留保所得から剰余金の配当等を受け得る支配力を有する点(留保所得が実質的に内国法人に帰属するという評価も可能)がこのような課税の合理性を基礎づけ、正当化するものと解される(原判決13ページ)〈編注・訟務月報本号(以下月報本号省略)729ページ〉。
平成21年税制改正は、上記のタックス・ヘイブン対策税制の制度の基本的な趣旨や合理性、正当性の根拠について変更をもたらすような改正ではない(原判決14ページ)〈編注・729ページ〉。
⑵措置法施行令39条の16第1項及び第2項の規定を適用することの可否本件資金調達スキームが利用された経緯、目的、仕組みからして、相手方が本件各子SPCの当期純利益から剰余金の配当等を受け得ること、言い換えれば、その当期純利益に対して支配力を有すると評価されるような処理はもともと想定されておらず、現に本件各子SPC事業年度においても、上記の仕組みに従って、本件各子SPCの当期純利益を上回る金額が期中に持株SPCに配当されており、事業年度全体を通じてみても、また、期末時点についてみても、相手方が上記当期純利益(適用対象金額は同額である。)に対して支配力を有していたとは認められない。そうすると、本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の処理において、内国法人(相手方)が外国子会社(本件各子SPC)の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するというタックス・ヘイブン対策税制の合算課税の合理性を基礎づけ、正当化する事情は見いだせないし、また、上記処理に租税回避の目的があることも、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められない。それにもかかわらず、処分行政庁は、措置法施行令39条の16第1項及び第2項の規定を形式的に適用し、本件各子SPC事業年度終了の時には相手方が本件各子SPCの全株式を保有していたことから、持株割合による請求権勘案保有株式等割合が100パーセントであったとして、相手方が支配力を有していなかった本件各子SPCの同事業年度の当期純利益から算出された適用対象金額(当期純利益と同額)の全額を本件各子SPCとは別法人である相手方の所得に合算したものであって、このような扱いは、措置法66条の6の趣旨ないしタックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度趣旨や理念に反するものであり、正当化できない(原判決17及び18ページ)〈編注・731ページ及び732ページ〉。
そして、本件の事実関係によれば、本件各子SPC事業年度の本件各子SPCの適用対象金額(当期純利益)に対する相手方の支配力は存在しないから、その適用対象金額のうちに、相手方の有する株式等の数に対応するものとして剰余金の配当等の経済的な利益の給付を請求する権利の内容を勘案して相手方の益金に算入するのが相当な金額(課税対象金額)は存在しないと解するのが、タックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度及び理念、そして、これを踏まえた措置法66条の6の趣旨に照らして相当であり、これに反する限度で措置法施行令39条の16第1項及び第2項を本件に適用することはできないというべきである(原判決18ページ)〈編注・733ページ〉。
第2 上告受理申立て理由の要旨
1 原判決の判断は措置法66条の6第1項並びに措置法施行令39条の16第1項及び第2項の解釈適用を誤っていること(後記第3)
⑴タックス・ヘイブン対策税制の制度趣旨は、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ、外国法人を利用することによる税負担の不当な回避又は軽減(租税回避)を防止して税負担の実質的な公平を図ることにある。そして、平成21年税制改正前におけるタックス・ヘイブン対策税制が、内国法人において子会社等に配当を十分にさせないで、所得を留保・蓄積しているところに租税の回避を推認できるという考え方に立っていたとしても、同改正以降は、タックス・ヘイブン対策税制が防止しようとしている租税回避とは、子会社等が留保所得を蓄積していることではなく、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)に事業実体のない子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を生じさせることにあると解される。平成21年税制改正後は、適用対象となる特定外国子会社等の所得は留保所得ではなく、所得そのものである。特定外国子会社等が内国法人に剰余金の配当等を行ったか否かは、適用対象金額の計算に影響を与えることはなく、その計算において考慮されるべき事情でもない。
また、平成21年税制改正の前後を通じ、特定外国子会社等が支払う剰余金の配当等の額が請求権勘案保有株式等割合の計算において考慮されないことは、変わるところはない。
⑵原判決は、内国法人が外国子会社の留保所得から剰余金の配当等を受け得る支配力を有する点がタックス・ヘイブン対策税制の課税の合理性を基礎づけ、正当化するものとするが、平成21年税制改正以降、タックス・ヘイブン対策税制は、タックス・ヘイブンに子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を生じさせるところに租税回避があるとみているのであり、その所得から配当がされ、当該子会社に所得が留保・蓄積されていなくても、外国子会社の所得のうち内国法人の請求権の内容を勘案した持分に応じて計算される金額を内国法人の所得に合算して課税するものであるから、かかる原判決の理解は誤っている。措置法66条の6にいう適用対象金額は、特定外国子会社等の事業活動の成果である法人所得であり、本件各子SPCの本件各子SPC事業年度における適用対象金額は、同事業年度の終了時における法人所得たる当期純利益である。原判決は、本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の会計処理を取り上げて、措置法66条の6の規定に係る合算課税の合理性や正当化事由の検討を行っているが、タックス・ヘイブン対策税制における合算課税の合理性や正当化の事由を検討すべき対象は、本件各子SPCの事業活動の成果を金銭的に評価した総額としての法人所得の金額であって、本件資金調達スキームや同スキームにおける会計処理ではないから、原判決は、措置法66条の6の解釈を誤るものである。⑶次に、原判決は、本件の事実関係の下においては、相手方が本件各子SPCの当期純利益に対して支配力を有していないとするが、これも、タックス・ヘイブン対策税制の趣旨に対する誤った理解を前提としたものである。平成21年税制改正後のタックス・ヘイブン対策税制においては、特定外国子会社等の適用対象金額に対して支配力を有しているかを判断する上で、当該適用対象金額の計算の基礎となる当該特定外国子会社等の所得が処分されているかは考慮されるべきでないのであり、これを考慮した上で相手方が本件各子SPC事業年度の本件各子SPCの当期純利益に対して支配力を有していないとする原判決の評価は、誤っている。
本件資金調達スキームは、本件各子SPCに対し、相手方が普通株式、持株SPCが本件優先出資証券をそれぞれ有していることが前提となっており、相手方が本件各子SPCの当期純利益から剰余金の配当等を受け取ることができないのは、「本件優先出資証券が存在する限りにおいて」という留保があるからである。本件優先出資証券が償還されれば、相手方も本件各子SPCの当期純利益から剰余金の配当等を受け取る地位を有するのであって、相手方は、原判決がいう「支配力」を潜在的に有しているということができ、そこに担税力を見いだすことができる。相手方についていかなる「支配力」も認めることができないとする原判決は、かかる点でも、措置法66条の6の解釈を誤っている。
⑷また、原判決は、適用対象金額自体は本件各子SPCの当期純利益であるものの、請求権勘案保有株式等割合が0パーセントであると評価すべきであるとしているものと解されるが、請求権勘案保有株式等割合は、課税対象金額を内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等に対応するように計算するためのものであり、当該内国法人が当該特定外国子会社等の全株式を保有している場合には、どのように請求権の内容を勘案しても、請求権勘案保有株式等割合は100パーセントにしかなり得ない。特定外国子会社等が支払う剰余金の配当等の額が請求権勘案保有株式等割合の計算において考慮されないことは、平成21年税制改正の前後を通じて変わるところはなかったところ、原判決は、課税対象金額の計算方法における請求権勘案保有株式等割合の理解を誤っている。
⑸タックス・ヘイブン対策税制の趣旨の一つは、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保することであるから、措置法66条の6等の各規定は、規定の文言に即して解釈しなければならない。措置法66条の6は、第3項において第1項の適用を除外する要件を明確かつ具体的に定めているのであって、明文の適用除外規定から離れて、措置法66条の6第1項等の適否を判断することは、タックス・ヘイブン対策税制の趣旨や枠組みに反する。内国法人が外国子会社の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するというタックス・ヘイブン対策税制の合算課税の合理性を基礎づけ、正当化する事情の有無や、租税回避の目的あるいは客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情の有無といった明文に規定されていない不明確な事情を考慮して、措置法施行令39条の16第1項及び第2項を適用しないとする原判決の判断は、措置法66条の6第1項並びに措置法施行令39条の16第1項及び第2項の趣旨に反し、その解釈適用を誤っている。
⑹上記のとおり、タックス・ヘイブン対策税制における租税回避とは、内国法人が、タックス・ヘイブンに事業実体のない子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を生じさせることにより、我が国の税負担の軽減を図ることである。原判決は、本件で租税回避の目的があることも、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められないとするが、誤りである。本件において、相手方は、ケイマンに事業実体のない本件各子SPCを設立し、自らに代わって本件各子SPCに優先出資証券を発行させて資金調達を行い、自らは本件各子SPCに本件劣後ローンの利払いを発生させてその分所得を減少させるとともに、本件各子SPCにそれに係る所得を生じさせており、本件資金調達スキームによる処理には、タックス・ヘイブン対策税制における典型的な租税回避の事態が客観的に生じているし、租税回避の目的がないとみることもできない。
2 本件は法令の解釈に関する重要な事項を含むものであること(後記第4)
本件は、タックス・ヘイブン対策税制に係る法令の趣旨や解釈論といった基本的かつ重要な事項を含んでおり、法令の解釈に関する重要な事項を含むものであることが明らかである。
以下、詳述する。
第3 原判決の判断は措置法66条の6第1項並びに措置法施行令39条の16第1項及び第2項の解釈適用を誤っていること
1 タックス・ヘイブン対策税制の趣旨及び制度の枠組み、合算所得の計算方法
⑴タックス・ヘイブン対策税制新設の背景及び制度趣旨
ア タックス・ヘイブン対策税制は、昭和53年に新設されたが、その背景には、次のような事情があった。
我が国の対外民間投資は、昭和53年頃までに、数次にわたる自由化措置や経済の著しい成長を反映して、急激に増加してきていた。そして、我が国企業の対外進出に伴って、国際的な取引を通じた租税回避の問題が顕在化するようになり、内国法人である親会社が、タックス・ヘイブンに名目上の子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を留保することによって、我が国における課税を免れようとする事例が目立つようになった。内国法人である親会社によるタックス・ヘイブンを利用した我が国の税負担の不当な軽減に対する規制としては、実質所得者課税の原則を定めた法人税法11条の規定の適用により、外国に設立された子会社の所得が当該親会社に帰属するものとして課税する方法があったが、同条の規定の適用に当たっては、所得の実質的な帰属についての具体的な判定基準が明らかでないため、課税執行面での安定性を欠くこと等の問題が指摘されており、租税回避対策のための明文規定の整備が強く要請されていた。税制調査会による「昭和53年度の税制改正に関する答申」においても、「近年、我が国経済の国際化に伴い、いわゆるタックスヘイブンに子会社等を設立し、これを利用して税負担の不当な軽減を図る事例が見受けられる。このような事例は、税負担の公平の見地から問題のあるところであり、また、諸外国においてもこれに対処するための立法措置が講じられていることを考えると、我が国においても〈中略〉所要の立法措置を講ずることが適当である。」とされたところであった。タックス・ヘイブン対策税制は、こうした要請に応えるべく新設されたものであって、その趣旨は、①課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ、②外国法人を利用することによる税負担の不当な回避又は軽減を防止して税負担の実質的な公平を図ることにあると考えられる(以上につき、最高裁判所判例解説民事篇平成19年度(下)660ページ(森英明))。
イ このように、タックス・ヘイブン対策税制の趣旨の一つは、外国法人を利用することによる税負担の不当な回避又は軽減の防止、すなわち租税回避防止であるが(上記②)、立法時には、株主たる内国法人がいずれ外国子会社から配当を受ければ、その配当について我が国で課税されることを前提として、「株主たる内国法人あるいは居住者に係る課税対象留保金額が、通常であれば当該内国法人あるいは居住者に対する利益の配当又は剰余金の分配として交付されるべき性質のものであり、株主は子会社等にそうさせるだけの支配力をもっているにもかかわらず、子会社等が配当を全くあるいはわずかしか行わず、留保所得を蓄積しているところに税の回避を推認し得る」〈証拠略〉、「タックス・ヘイブンに子会社を設けてもその子会社が所得をタックス・ヘイブンに留保しないでこれを株主たる我が国の居住者又は内国法人に配当すれば、その配当について我が国で課税が行われるので我が国における租税回避は生じないこととなる。」〈証拠略〉という説明がされていた。また、平成21年税制改正前の措置法66条の6第1項は、
「次に掲げる内国法人に係る外国関係会社のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(以下この款において「特定外国子会社等」という。)が、昭和53年4月1日以後に開始する各事業年度において、その未処分所得の金額から留保したものとして、政令で定めるところにより、当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び法人税法第23条第1項第1号に規定する剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配(以下この項及び次項において「剰余金の配当等」という。)の額に関する調整を加えた金額(以下この条において「適用対象留保金額」という。)を有する場合には、その適用対象留保金額のうちその内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等(株式又は出資をいう。以下この項及び次項において同じ。)の請求権(剰余金の配当等、財産の分配その他の経済的な利益の給付を請求する権利をいう。以下この項及び次項において同じ。)の内容を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(以下この款において「課税対象留保金額」という。)に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。(以下略)」と規定しており、特定外国子会社等の未処分所得の金額から留保したものとされた金額が適用対象とされていた。
このような立法経緯や法令の規定ぶりから、従前の判例は、平成21年税制改正前の措置法66条の6第1項について、「同条(引用者注:平成10年法律第23号による改正前の措置法66条の6)1項の規定は、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国又は地域に子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を留保することによって、我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ、このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、一定の要件を満たす外国会社を特定外国子会社等と規定し、これが適用対象留保金額を有する場合に、その内国法人の有する株式等に対応するものとして算出された一定の金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものである。」(最高裁平成19年9月28日第二小法廷判決・民集61巻6号2488ページ。以下「最高裁平成19年判決」という。)と判示していた(平成12年法律第97号による改正前の措置法66条の6第1項につき、最高裁平成21年10月29日第一小法廷判決・民集63巻8号1881ページ、平成21年法律第13号による改正前の同項につき、最高裁平成29年10月24日第三小法廷判決・民集71巻8号1522ページ同旨)。
ウ しかし、平成21年税制改正において、外国子会社配当益金不算入制度(法人税法23条の2)が導入されたことに伴い、内国法人が一定の外国子会社から受ける剰余金の配当等は益金不算入となり、タックス・ヘイブン対策税制の適用の対象となる金額の計算において配当に対する課税との調整を行う必要がなくなったため、特定外国子会社等が支払う剰余金の配当等の額は、タックス・ヘイブン対策税制の適用の対象となる金額の計算上控除しないことになり、タックス・ヘイブン対策税制の適用の対象となる金額は、「適用対象留保金額」から端的に「適用対象金額」、すなわち、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額(基準所得金額)を基礎として、政令で定めるところにより、当該各事業年度開始の日前7年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額及び当該基準所得金額に係る税額に関する調整を加えた金額となった(措置法66条の6第2項2号)。
そのため、平成21年税制改正以降は、外国子会社が日本の支配株主に配当しないことをもって不当とみる考え方をそのまま維持することは困難になった(増井良啓=宮崎裕子著「国際租税法第4版」187ページ・別添1〈略〉)。したがって、平成21年税制改正以降は、タックス・ヘイブン対策税制が防止しようとしている税負担の不当な回避又は軽減(租税回避)とは、外国子会社が配当を全くあるいはわずかしか行わず、所得を留保・蓄積することではなく、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)にあえて子会社(ただし、下記⑵イに述べるとおり、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うにつき十分な経済合理性があるものを除く。)を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を生じさせること(同改正前の措置法66条の6第1項にいう未処分所得を生じさせること)自体であると解される。
⑵タックス・ヘイブン対策税制の枠組み
ア タックス・ヘイブン対策税制の構築の在り方としては、大別すると、㋐外国関係会社等を組織法的に区別せず、ある一定の取引に係る所得のうち未配分所得を内国法人に帰属させる取引的アプローチ(アメリカ合衆国、ドイツ)と、㋑取引類型や所得の種類にかかわらずタックス・ヘイブン(軽課税国)に置かれた外国関係会社等の所得を内国法人に帰属させるエンティティ・アプローチ(日本、イギリス、フランス)があるとされる。㋐の取引的アプローチは、一般的に租税回避の観点からリスクが高いとされる受動的な取引のみを対象として明記して合算するため、タックス・ヘイブン対策税制の詳細な一般的適用除外基準を必要としない反面、受動的所得か否かの範囲が明確ではないため、コンプライアンスコストが高いといわれる。他方、㋑のエンティティ・アプローチは、租税回避否認規定の制度の簡便性、コンプライアンスコストが軽い反面、タックス・ヘイブン対策税制の適用除外要件において真正な事業に係るか否かの判定を要し、立法技術上は複雑なメカニズムになりがちであると指摘されている(最高裁判所判例解説民事篇平成29年度(下)534ページ(日置朋弘))。
もっとも、先進国のタックス・ヘイブン対策税制は、取引的アプローチとエンティティ・アプローチのいずれを主軸として採用しようが、他方のアプローチを組み込む傾向にあり、双方のアプローチがもたらす結果はかなり接近したものとなるといわれている(前掲最高裁判所判例解説民事篇平成29年度(下)535ページ)。
イ 我が国のタックス・ヘイブン対策税制は、平成21年税制改正の前後を問わず、措置法66条の6第1項が、同項各号に掲げる内国法人に係る外国関係会社のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(特定外国子会社等)が、昭和53年4月1日以後に開始する各事業年度において、適用対象留保金額(平成21年税制改正前)又は適用対象金額(同改正後)を有する場合に適用すると規定しているとおり、外国子会社がタックス・ヘイブンに置かれているか否かに着目する㋑エンティティ・アプローチを採用している。
そして、タックス・ヘイブン対策税制の趣旨の一つは、外国法人を利用することによる税負担の不当な回避又は軽減の防止であるから、内国法人がタックス・ヘイブンに子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を生じさせている場合であっても、それによる税負担の回避又は軽減が不当とは評価できない場合にまでタックス・ヘイブン対策税制が適用されるべきでない。すなわち、タックス・ヘイブン対策税制の対象となる特定外国子会社等であっても、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合には、当該特定外国子会社等に所得が生じることにより内国法人の我が国の税負担が回避又は軽減されたとしても、その税負担の回避又は軽減は不当とは評価できず、その場合にまでタックス・ヘイブン対策税制を適用すれば、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがあるから、その適用は除外されるべきである。他方で、タックス・ヘイブン対策税制には、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保する趣旨もあるから、その適用を除外する基準はできる限り明確であるべきである。
ウ このような趣旨から、措置法66条の6は、第3項において、エンティティ・アプローチの下、適用対象金額から正常かつ合理的な経済活動と認められる取引に係る所得を除外するのではなく、正常かつ合理的な経済活動を行っていると認められる特定外国子会社等を類型化し、事業基準等の具体的かつ画一的な明文の適用除外要件を定めた上で、これらが全て満たされる場合には、当該特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対象金額については、その全額について第1項の規定を適用しないこととしている。すなわち、措置法66条の6第3項が規定する適用除外要件の判断において、特定外国子会社等の主たる事業を特定した上で、それが真正な事業か否かを判定することとしており、その限りで取引的アプローチの要素を組み入れた枠組みを採用しているといわれるものの、その判断においては、特定外国子会社等の所得の種類、性質に着目しておらず、その所得が受動的所得(利息、配当、賃料、権利使用料、株式等の譲渡によるキャピタル・ゲイン)であるか、それ以外の積極的な事業活動による所得であるかに配慮することなく、適用対象金額の計算を行うこととしており、適用除外要件の規定においては、真に租税回避行為があることや税負担の「不当な軽減」を図る目的があることを要件とするものではない(前掲最高裁判所判例解説民事篇平成29年度(下)535及び536ページ参照)。
⑶タックス・ヘイブン対策税制における合算所得(課税対象金額)の計算方法
ア 措置法66条の6第1項は、特定外国子会社等が各事業年度において適用対象金額を有する場合に、その適用対象金額のうち同項に規定する内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等の請求権の内容を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(課税対象金額)に相当する金額を、その内国法人の収益の額とみなしてその内国法人の所得に合算することとしている。
すなわち、課税対象金額を計算するに当たっては、適用対象金額のうちに特定外国子会社等の株主たる内国法人の有する直接及び間接保有の株式等の数を対応させようとするものであるから、措置法66条の6第1項の委任を受けて規定された措置法施行令39条の16第1項が定めているように、適用対象金額に特定外国子会社等の株主たる内国法人の請求権勘案保有株式等割合を乗じて、その内国法人の課税対象金額を計算することとなる。これを計算式で表せば、
(内国法人の)課税対象金額
=適用対象金額×(内国法人の)請求権勘案保有株式等割合
となる。
イ ここで、適用対象金額とは、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額(基準所得金額)を基礎として、政令で定めるところにより、所定の調整を加えた金額である(措置法66条の6第2項2号)から、これはタックス・ヘイブン対策税制における租税回避の結果そのものといい得るものである。
平成21年税制改正前は、この適用対象金額は、適用対象留保金額とされ、特定外国子会社等が内国法人に支払った剰余金の配当等の額は、特定外国子会社等の適用対象留保金額の計算上控除されていたが、上記⑴ウのとおり、平成21年税制改正により、特定外国子会社等が支払う剰余金の配当等の額は、タックス・ヘイブン対策税制の適用の対象となる金額の計算上控除しないこととなった。
すなわち、平成21年税制改正後は、適用対象となる特定外国子会社等の所得は留保所得ではなく、その所得そのものであり、特定外国子会社等が内国法人に剰余金の配当等を行ったか否かは、適用対象金額の計算に影響を与えることはなく、その計算において考慮されるべき事情でもない。
ウ 課税対象金額の計算方法について措置法66条の6第1項の委任を受けて定められた措置法施行令39条の16第1項及び第2項は、請求権勘案保有株式等割合を、特定外国子会社等の事業年度終了の時の状況によって判定する旨を規定する。措置法66条の6は、請求権勘案保有株式等割合の判定方法の細目を明示せず、これを政令に委ねるものであるが、措置法66条の6第2項2号は、適用対象金額について「特定外国子会社等の各0事0業0年0度0の0決0算0に基づく所得の金額」を基礎として計算した額である旨規定し、措置法66条の6第1項は、「各事業年度において適用対象金額を有する場合」に内国法人に係る特定外国子会社等の課税対象金額相当額の益金算入を認めるものであることからすると、措置法66条の6第1項に定める株式又は出資を有する内国法人であるか否かを「外国関係会社の各事業年度終了の時」(措置法施行令39条の20第1項)を基準日とし、請求権勘案保有株式等割合について「当該特定外国子会社等の当該各事業年度終了の時」(措置法施行令39条の16第1項)を基準日として判定することは、措置法の委任の趣旨に十分に沿うものであって、これに背馳するものではない。また、租税法律主義の観点からは、措置法66条の6第1項に規定する内国法人の益金の額に算入される課税対象金額相当額の算出の過程が一義的に明白であることが要請されるところ、措置法施行令39条の16は、その点においても、措置法の委任の趣旨に沿うものである。
その上で、上記アの計算式からも明らかなとおり、請求権勘案保有株式等割合は、適用対象金額のうちに課税対象金額相当額として特定外国子会社等の株主たる措置法66条の6第1項に規定する内国法人に合算課税される割合を算出するためのものであるから、当該特定外国子会社等の事業年度終了の時に当該特定外国子会社等の株主が内国法人1社のみの完全親会社の場合には、どのように請求権の内容を勘案して請求権勘案保有株式等割合の算出方法を定めようとも、当該内国法人の請求権勘案保有株式等割合は、100パーセントにしかなり得ない。請求権勘案保有株式等割合とは、飽くまでも、特定外国子会社等の株主又は出資者が複数存在する場合に、課税対象金額を内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するように計算するためのものである。
エ なお、措置法66条の6第1項における適用対象(留保)金額から課税対象(留保)金額を計算する方法は、平成21年税制改正の前後を通じ、「その内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等(株式又は出資をいう。)の請求権(剰余金の配当等、財産の分配その他の経済的な利益の給付を請求する権利をいう。)の内容を勘案して政令で定めるところにより計算」するというものであり変わるところはなかった。すなわち、平成21年税制改正前は、課税対象留保金額を計算する上で、特定外国子会社等が支払う剰余金の配当等の額は、請求権勘案保有株式等割合の計算ではなく適用対象留保金額の計算において考慮され(平成21年法律第13号による改正前の措置法66条の6第1項及び平成21年政令第108号による改正前の措置法施行令39条の16)、平成21年税制改正後は、適用対象金額の計算においても考慮されなくなったが、剰余金の配当等の額が請求権勘案保有株式等割合の計算において考慮されないことは、平成21年税制改正の前後を通じて変わるところはなかった。
オ 以上のとおり、我が国の平成21年税制改正後のタックス・ヘイブン対策税制は、まず租税回避の結果たる特定外国子会社等の所得を各事業年度の決算に基づき認識し、それを否認する結果(効果)として、当該特定外国子会社等の事業年度終了の時における当該特定外国子会社等に係る内国法人の請求権勘案保有株式等割合に応じて計算された金額を当該内国法人の擬制収益とするものである(ただし、持株割合が10パーセント未満の法人は、措置法66条の6第1項各号により合算課税される納税義務者(内国法人)とはならない。)。
特定外国子会社等の各事業年度において生じた所得は、当該特定外国子会社等の各事業年度終了の時を区切りとしてそのタイミングで、その全額が適用対象金額となる。当該所得(利益)は、当該特定外国子会社等に係る内国法人にも配当されることがあり、その配当は当該事業年度終了の時の前後を問わず行われ得るが、外国子会社配当益金不算入制度が導入されて以降は、いずれにせよ配当時において当該内国法人の益金の額に算入されて課税対象となることはない。
2 本件資金調達スキームの概要及びその特質
⑴本件資金調達スキームとは、次のようなものである。
① 相手方は、資金を調達するための会社として、ケイマンに本件各子SPCを設立する。本件各子SPCは、ケイマン法により設立された「免除会社」であり、ケイマンにおいて実質的な経済活動を行っていない。また、相手方を子会社とする銀行持株会社であるEは、ケイマンに有限責任免除会社である持株SPCを設立する。この持株SPCも、ケイマン法により設立された「免除会社」である。
② 持株SPCは、額面1億円の優先出資証券3550口(持株SPC優先出資証券)を発行し、投資家に販売する。本件各子SPCは、額面1億円の優先出資証券合計3550口(本件優先出資証券)を発行し、持株SPCは、持株SPC優先出資証券の発行により調達した資金を原資として、本件優先出資証券の全部を購入する。
③ そして、本件各子SPCは、相手方に対し、本件優先出資証券の発行により調達した資金を原資として、劣後ローンによる貸付け(本件劣後ローン)を行う。
④ 本件劣後ローンに基づく相手方の本件各子SPCに対する利息の支払日、本件優先出資証券に基づく本件各子SPCの持株SPCに対する配当の支払日、持株SPC優先出資証券に基づく投資家に対する配当の支払日は、いずれも年2回の同一日(6月30日及び12月30日)とされており、また、本件劣後ローンの利息発生期間の終期は、配当の支払日の前日とされている。⑵相手方の主張によれば、本件資金調達スキームは、国際的な金融システムの安定性維持という目的の下で、バーゼル銀行監督委員会にて策定されたバーゼルⅡ規制に応じて我が国の銀行法で定められた自己資本比率規制上の自己資本の調達を目的として採用されたものである(原審控訴理由書・5ページ)。
自己資本の調達は、我が国の銀行が国内で自らが優先株式を発行することによっても達成可能であるが、内国法人が自ら国内で優先株式を発行して資金調達する方法に比べ、タックス・ヘイブンに特別目的会社(SPC)を設立し、その外国子会社に優先出資証券を発行させるという仕組みを採用することによって、我が国の企業は、税務上のメリットを享受することができるとともに、外部から資金調達をすることが可能となるというメリットがあるとされる(西村あさひ法律事務所編「ファイナンス法大全(上)」98及び99ページ・別添2〈略〉)。
すなわち、相手方は、資金調達のため、タックス・ヘイブンであるケイマンにある本件各子SPCからの借入という形で資金を調達すれば、相手方が自ら国内で優先株式を発行して資金調達して配当を支払う場合とは異なり、外国子会社である本件各子SPCへの支払利息を損金の額に算入することによって、我が国における所得を減少させることが可能となる。また、タックス・ヘイブンであるケイマンにある本件各子SPCが受け取る利息については、課税が生じないことになる(後記4⑵の図参照)。
かかる相手方の所得の減少と本件各子SPCの所得の発生をもって租税法上容認できない租税回避とみるか否かは、正に措置法66条の6の規定の適用の如何によるのであって、措置法66条の6並びに措置法施行令39条の16第1項及び第2項が定める要件に該当する事由が認められるか否かで判断されることになる。
3 本件各子SPC事業年度の本件各子SPCの適用対象金額(当期純利益)に対する相手方の支配力は存在しないなどとして、措置法施行令39条の16第1項及び第2項を本件に適用しないとした原判決の判断は、措置法66条の6第1項並びに措置法施行令39条の16第1項及び第2項の解釈適用を誤っていること
⑴原判決の判示
原判決は、内国法人が外国子会社の留保所得から剰余金の配当等を受け得る支配力を有する点がタックス・ヘイブン対策税制の課税の合理性を基礎づけ、正当化するものと解した(原判決13ページ)〈編注・729ページ〉上で、本件資金調達スキームが利用された経緯、目的、仕組みからして、相手方が本件各子SPCの当期純利益から剰余金の配当等を受け得ること、言い換えれば、その当期純利益に対して支配力を有すると評価されるような処理はもともと想定されておらず、本件各子SPC事業年度全体を通じてみても、また、期末時点についてみても、相手方が上記当期純利益(適用対象金額は同額である。)に対して支配力を有していたとは認められない(同17ページ)〈編注・732ページ〉から、本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の処理において、内国法人である相手方が外国子会社である本件各子SPCの利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するというタックス・ヘイブン対策税制の合算課税の合理性を基礎づけ、正当化する事情は、見いだせない(同17ページ)〈編注・732ページ〉と説示する。そして、本件各子SPC事業年度の本件各子SPCの適用対象金額(当期純利益)に対する相手方の支配力は存在しないから、その適用対象金額のうちに、相手方の有する株式等の数に対応するものとして剰余金の配当等の経済的な利益の給付を請求する権利の内容を勘案して相手方の益金に算入するのが相当な金額(課税対象金額)は存在しないと解するのが、タックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度及び理念、これを踏まえた措置法66条の6の趣旨に照らして相当であり、これに反する限度で措置法施行令39条の16第1項、2項を本件に適用することはできないと説示する(原判決18ページ)〈編注・733ページ〉。⑵原判決は、平成21年税制改正後のタックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度趣旨や理念に対する理解を誤っていること
原判決は、「タックス・ヘイブン対策税制は、タックス・ヘイブンに設立した外国子会社の所得から剰余金の配当等を受け得る支配力を有している内国法人が剰余金の配当等を受けずに外国子会社に留保所得を蓄積しているところに租税回避があるとみて、留保所得のうち内国法人の持分に応じて計算される金額を内国法人の所得に合算して課税することとしたものである。」とした上で、「内国法人が外国子会社の留保所得から剰余金の配当等を受け得る支配力を有する点(留保所得が実質的に内国法人に帰属するという評価も可能)がこのような課税の合理性を基礎付け、正当化するものと解される。」(原判決13ページ)〈編注・729ページ〉とする。そして、平成21年税制改正につき、「タックス・ヘイブン対策税制の制度の基本的な趣旨や合理性、正当性の根拠について変更をもたらすような改正ではない。」(原判決14ページ)〈編注・729ページ〉と説示する。
しかし、上記1⑴ウで述べたとおり、平成21年税制改正以降は、タックス・ヘイブン対策税制は、タックス・ヘイブンに子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を生じさせること自体に租税回避があるとみているのであり、その所得から配当がされて当該子会社に所得が留保・蓄積されていなくても、外国子会社の所得のうち内国法人の請求権の内容を勘案した持分に応じて計算される金額を内国法人の所得に合算して課税するものである。したがって、外国子会社に生じた所得が配当されずに留保・蓄積されている点に租税回避があるとした上で、適用対象となる外国子会社の所得をかかる留保所得と捉え、内国法人が外国子会社の留保所得から剰余金の配当等を受け得る支配力を有する点がタックス・ヘイブン対策税制の課税の合理性を基礎づけ、正当化するという原判決の理解は、平成21年税制改正以降のタックス・ヘイブン対策税制の趣旨及び考え方を正解しないものである。⑶措置法66条の6にいう適用対象金額は、特定外国子会社等の事業活動の成果である法人所得であり、本件資金調達スキームやその会計処理は、同規定に係る合算課税の合理性や正当化の事由を検討すべき対象とはならないこと
措置法66条の6は、特定外国子会社等という内国法人と一定の関係にある外国法人が、昭和53年4月1日以降に開始する事業年度において、適用対象金額を有する場合に適用される(同条1項、2項1号)。上記1⑴のとおり、措置法66条の6の規定の趣旨は、その制定当時においては、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国又は地域に子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を留保させることによって、我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ、このような事例に対処して税負担の実質的公平を図ることにあったが(最高裁平成19年9月28日第二小法廷判決・民集61巻6号2486ページ)、平成21年税制改正以降は、内国法人が、当該子会社に所得を生じさせることによって、我が国における租税の負担を回避しようとすることに対処して税負担の実質的公平を図ることにあるものと解することができる。措置法66条の6にいう適用対象金額とは、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして措置法施行令で定める基準により計算した金額を基礎として、同施行令で定めるところにより、所定の調整を加えた金額をいうところ(同条2項2号)、かかる適用対象金額の租税法上の性質は、法人税法にいう所得(法人所得)、すなわち法人の事業活動の成果である利益(profit)を総額として金銭的に評価したものと解することができる(金子宏・租税法第24版344ページ参照)。法人所得の金額は、法人の事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とされ(法人税法22条1項)、益金と損金の意義は、法人税法22条2項及び3項においてそれぞれ規定されており、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるもの」とされるが(同条4項)、特定外国子会社等の法人所得(法人の事業活動の成果たる利益)の構成要素である益金を生じさせる原因となる取引(会計的意味における取引)に関して、法令上の制限はなく、当該特定外国子会社等の個々の取引や事業活動スキーム、あるいはその会計処理の特性を考慮して措置法66条の6の適用の可否を判断することは、同規定が予定するところではない。原判決は、本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の会計処理を取り上げて、措置法66条の6の規定に係る合算課税の合理性や、正当化事由の検討を行っているが、合算課税の合理性や正当化の事由を検討すべき対象は、本件各子SPCの事業活動の成果を金銭的に評価した総額としての法人所得の金額であって、本件資金調達スキームや同スキームにおける会計処理そのものではないから、原判決は、措置法66条の6の適用可否の判断方法を誤っているというほかない。
上記1⑶イのとおり、適用対象金額は、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額を基礎として計算されるから(措置法66条の6第2項2号)、本件各子SPCの本件各子SPC事業年度における適用対象金額は、本件各子SPC事業年度の終了時における法人所得たる当期純利益となる。
⑷相手方が本件各子SPCの当期純利益に対して支配力を有していたとは認められないとする原判決の評価は、措置法66条の6の解釈を誤っていること
ア 原判決は、上記⑴のとおり、事業年度全体を通じてみても、また、期末時点についてみても、相手方が当期純利益に対して支配力を有していたとは認められないとするが、かかる原判決の評価も、上記⑵で述べたタックス・ヘイブン対策税制に対する誤った理解に基づくもので、措置法66条の6の解釈を誤るものである。
すなわち、原判決は、本件においては、本件各子SPC事業年度の終了の時点で、本件各子SPCの当期純利益が全て配当されてしまっており、相手方が本件各子SPCの当期純利益から配当を受け得ないこと、換言すれば、本件各子SPCに留保所得がないことから、相手方には本件各子SPCの当期純利益に対して支配力を有していないとするものである。しかし、かかる評価は、タックス・ヘイブン対策税制の趣旨に対する誤った理解を前提としており、是認できない。上記1⑶で述べたとおり、平成21年税制改正後のタックス・ヘイブン対策税制においては、特定外国子会社等が内国法人に剰余金の配当等を行ったか否かは適用対象金額の計算においても課税対象金額の計算においても考慮されるべき事情ではない。
仮に、原判決のように考えるのであれば、内国法人との関係で特定外国子会社等に当たるX社が、その完全親会社であるA社に当期純利益の全額を配当し、その後、X社の事業年度終了の時までに内国法人であるB社がX社を買収し、その完全親会社となった場合に、X社の当期純利益は、期末において株主でないA社の所得に合算されることはなく、他方で、B社も、X社の当期純利益から剰余金の配当等を受け得ないのだから、事業年度全体を通じてみても、また、期末時点についてみても、B社がX社の当期純利益に対して支配力を有していたとは認められないから、B社の所得にも合算されないこととなる。しかし、このように特定外国子会社等であるX社に所得が生じ、タックス・ヘイブン対策税制における租税回避の結果が生じていながら、内国法人に対して合算すべき課税対象金額がないとして、誰ひとりとして合算課税を受ける対象とならないような帰結はタックス・ヘイブン対策税制の趣旨に反して不合理である。すなわち、原判決の考えによれば、平成21年税制改正後では、特定外国子会社等に生じた所得について、タックス・ヘイブン対策税制においても課税されず、外国子会社配当益金不算入制度の下、配当としても課税されず、いずれにおいても非課税となってしまう場面を許容することとなり、税負担の公平を害することは明らかである。
以上のとおり、特定外国子会社等の適用対象金額に対して支配力を有しているかを判断する上で、当該適用対象金額の計算の基礎となる当該特定外国子会社等の所得が処分されているかは考慮されるべきでないのであり、これを考慮した上で相手方が本件各子SPC事業年度の本件各子SPCの当期純利益に支配力を有していないとする原判決の評価は、誤っている。
イ 本件資金調達スキームは、本件各子SPCに対し、相手方が普通株式、持株SPCが本件優先出資証券をそれぞれ有することが前提となっており、相手方が本件各子SPCの当期純利益から剰余金の配当等を受け取ることができないのは、「本件優先出資証券が存在する限りにおいて」という留保があることを看過してはならない。本件優先出資証券が償還されて消滅すれば、本件各子SPCの株式を有する相手方は、本件各子SPCの当期純利益から剰余金の配当等を受け取る地位を有するのであって、その意味で、相手方は、本件各子SPCの当期純利益に対して原判決がいう「支配力」を潜在的に有しているということができ、そこに担税力を見いだすことができる。原判決は、相手方が本件各子SPCの当期純利益に対して支配力を有していたと認めることができないと述べて、本件各子SPCの当期純利益に対するいかなる「支配力」も認めることができないとしているが、かかる原判決の理解は誤っている。取り分け、措置法施行令39条の16第2項1号(平成21年税制改正前措置法施行令39条の16第3項1号)が剰余金の配当等の割合から請求権勘案保有株式等を計算すべき場合として定める「外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合」に該当するか否かの判定が、特定外国子会社等の事業年度終了の時の状況によるべきであることは、原判決も肯定しているところ(原判決15ページ)〈編注730ページ〉、本件各子SPC事業年度の期末である平成27年12月3日の時点では、本件優先出資証券は既に償還されて消滅しており、相手方のみが本件各子SPCに対し株式を有していたのであるから、相手方は、本件各子SPC事業年度の当期純利益に対して原判決がいう「支配力」を有していたということができるのであって、原判決は、かかる点でも誤った評価をしている。
ウ 以上によれば、「本件各子SPC事業年度においても、…(中略)…事業年度全体を通じてみても、また、期末時点についてみても、控訴人(引用者注:相手方)が上記当期純利益(適用対象金額は同額である。)に対して支配力を有していたとは認められない」、「本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の処理において、内国法人(控訴人[引用者注:相手方])が外国子会社(本件各子SPC)の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するというタックス・ヘイブン対策税制の合算課税の合理性を基礎付け、正当化する事情は見いだせない」などとする原判決は、措置法66条の6の解釈を誤っているというほかない。
⑸原判決は、課税対象金額の計算方法についての考え方を誤っていること
原判決は、本件各子SPC事業年度の本件各子SPCの適用対象金額に対する相手方の支配力は存在しないから、その適用対象金額のうちに、相手方の課税対象金額は存在しないとしているところ、その趣旨は必ずしも明らかではないものの、適用対象金額自体は本件各子SPCの当期純利益であるとしても、相手方の請求権勘案保有株式等割合が0パーセントであると評価すべきとしたものと解される。
しかし、上記1⑶ウで述べたとおり、請求権勘案保有株式等割合は、措置法の委任を受けた措置法施行令39条の16第1項の規定を前提とすれば、特定外国子会社等の事業年度終了の時に内国法人が当該特定外国子会社等の全株式を保有している場合には、どのように請求権の内容を勘案しても、適用対象金額の全てに対応している、すなわち請求権勘案保有株式等割合は100パーセントにしかなり得ない。また、原判決は、本件の事実関係の下で、本件各子SPC事業年度の本件各子SPCの適用対象金額に対する相手方の支配力が存在しないことを理由に、請求権勘案保有株式等割合が0パーセントであると評価しているところ、課税対象金額の計算に特定外国子会社等が内国法人に剰余金の配当等を行ったか否かを考慮すべきでないことは上記1⑶のとおりであり、平成21年税制改正前でさえ、かかる事情は、適用対象留保金額の計算において考慮されているものの、請求権勘案保有株式等割合の計算において考慮されるべき事情ではなかったのであって、原判決は、課税対象金額の計算方法における請求権勘案保有株式等割合の理解を誤っている。仮に、相手方が課税対象金額を有せず、相手方以外の者が適用対象金額のうちにいくらかの課税対象金額を有するという評価をするのであれば、原判決が16ページで例示した事例〈編注731ページ〉における内国法人Aのように、その者は、期末の持株割合ではなく、これより多い事業年度全体を通じた剰余金の配当等の額の割合による合算課税を受けることになり、正に原判決の説示するとおり、このような結論は、納税者の経済生活における法的安定性や予測可能性を害するおそれがあり、到底採用できるものではない。結局のところ、原判決の上記解釈は、請求権勘案保有株式等割合の算出に当たり、本件事案においては、特定外国子会社等の事業年度終了時の状況によらずに、期中の持株割合の変化や現実の配当状況を考慮すべきであるという考えに基づくものと理解するほかない。しかし、期中に持株割合が変化した理由は、本件優先出資証券の償還が期中に終了したからにほかならないが、期中の持株割合の変化や現実の配当状況によって期末(特定外国子会社等の事業年度終了の時)を基準に算出される請求権勘案保有株式等割合を計算しようとすることは、本件優先出資証券の償還が期中には終了せず、期末まで継続していたことを前提とした評価をするのと同じであって、現実の事実関係から離れた仮定の判断とみるほかなく、到底採用できるものではない。また、原判決は、措置法施行令39条の16第1項及び第2項を適用せず、期中の持株割合を反映させて請求権勘案保有株式等割合を計算すべきであるとの考えを前提としているものとも考えられるが、例えば、持株比率を反映させるべく期間按分して計算するとしても、相手方は、本件各子SPC事業年度において、優先出資証券償還後事業年度終了の時までの約5か月間にわたり本件各子SPCの発行済株式等の全てを保有していたのであるから、およそ0パーセントと評価することなどできないはずである。にもかかわらず、原判決は、本件各子SPC事業年度における相手方の請求権勘案保有株式等割合を0パーセントとして評価しており、措置法施行令39条の16第1項及び第2項の適用を排除した場合に、いかなる根拠で請求権勘案保有株式等割合を計算するのかを明らかにしていない。
以上によれば、請求権勘案保有株式等割合について、措置法施行令39条の16第1項及び第2項の適用を排除した原判決は、措置法66条の6の解釈を誤るものである。
⑹小括
以上のとおり、本件各子SPCの適用対象金額(当期純利益)に対する相手方の支配力が存在しないなどとして、措置法施行令39条の16第1項及び第2項を適用しないとした原判決の判断は、措置法66条の6第1項並びに措置法施行令39条の16第1項及び第2項の解釈適用を誤るものである。
4 本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の処理に租税回避の目的があることも、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められないという原判決の評価は、措置法66条の6第1項の解釈適用を誤っていること
⑴原判決は、本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の処理に租税回避の目的があることも、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められないと説示する(原判決17ページ)〈編注・732ページ〉。
⑵上記1⑴ウで述べたとおり、タックス・ヘイブン対策税制における租税回避とは、内国法人が、タックス・ヘイブンに事業実体のない(適用除外要件に該当しない)子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を生じさせることにより、我が国の税負担の軽減を図ることである。そして、本件資金調達スキームのように、資金調達のため、タックス・ヘイブンにある子会社からの借入という形で資金を調達すれば、内国法人が自ら国内で優先株式を発行して資金調達して配当を支払う場合とは異なり、外国子会社への支払利息を損金の額に算入することによって、我が国における所得を減少させることが可能となり、また、タックス・ヘイブンにある外国子会社が受け取る利息については、課税が生じない又は我が国よりも低い税負担のみが生じ得ることになる。
本件についてみると、相手方は、低コストの資金を調達するための会社として、ケイマンに本件各子SPCを設けたものである。本件各子SPCは、ケイマン法により設立された「免除会社」であり、ケイマンにおいて実質的な経済活動を行っていないから、我が国において優先出資証券を発行して自己資本を調達する場合と、本件資金調達スキームにより自己資本を調達する場合とで、大きく異なる点は、以下の図で示すとおり、相手方が損金の額に算入すべき額、すなわち、所得(利益)の金額、ひいては税負担の額に違いが生じることである。そして、この支払利息(本件各子SPCにとっては利息収入)こそが、本件各子SPCに発生した所得である。相手方は、あえてタックス・ヘイブンであるケイマンに事業実体のない本件各子SPCを設立し、自らに代わって本件各子SPCに優先出資証券を発行させて資金調達を行い、自らは本件各子SPCに本件劣後ローンの利払いを発生させてその分所得を減少させるとともに、本件各子SPCにそれに係る所得を生じさせているのであるから、本件資金調達スキームによる処理には、タックス・ヘイブン対策税制における典型的な租税回避の事態が客観的に生じているし、租税回避の目的もあるというべきである。
⑶そもそも本件紛争は、相手方が本件資金調達スキームの終了時期を本件各子SPCの事業年度の終了時期と一致させなかったことから生じたものである。すなわち、もともと相手方が予定したところによれば、本件各子SPCは、本件資金調達スキームに欠かせない存在として位置づけられており、その活動が本件資金調達スキームの下で行われるべきものとされていたのであるから、本来、本件各子SPCの存続も、本件資金調達スキームと一体となって運命を共にすべきであって、本件優先出資証券の償還が完了すれば、本件各子SPCを清算して本件各子SPC事業年度を終了させるべきものであった。しかるに、相手方は、本件各子SPCの清算を本件優先出資証券の償還と一致させることなく、本件各子SPCを平成27年12月3日に清算することとし、それまで存続させることとした。相手方がこのような取扱いをした理由は判然としないが、相手方のかかる行為も経済合理性に基づく行為とみなされて、租税法規の適用を受けるのである。このように、本件資金調達スキームは、本件優先出資証券の償還後においては、当初予定していた形態から変形し、相手方の普通株式のみが残る形で存続していたのであり、その限りで、タックス・ヘイブン対策税制の合算課税の適用を受ける対象となったということができる。原判決は、当初想定していた本件資金調達スキームの形態にのみに着眼して、相手方が本件各子SPCに対して支配力を有していたとは認められないと即断しているが、本件資金調達スキームの当初想定されていた形態は、本件各子SPC事業年度の途中に変形し、現実のものではなくなっていたのであるから、原判決の上記評価は、現実の事実関係に基づかないものとなっており、措置法施行令39条の16第1項及び第2項の適用を制限することを正当化する根拠となるものではない。
⑷したがって、本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の処理に租税回避の目的があることも、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められないとする原判決の評価は、措置法66条の6第1項の解釈適用を誤ったものである。
5 明文に規定されていない不明確な事情の有無を考慮して措置法施行令39条の16第1項及び第2項を適用しないとする原判決の判断は、措置法66条の6第1項並びに措置法施行令39条の16第1項及び第2項の解釈を誤っていること
⑴原判決の判示
原判決は、本件の具体的事案においては、「内国法人が外国子会社の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するというタックス・ヘイブン対策税制の合算課税の合理性を基礎付け、正当化する事情」は見いだせず、また、本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の処理に「租税回避の目的があることも、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情」も認められないことを理由に(原判決17ページ)〈編注・732ページ〉、措置法施行令39条の16第1項及び第2項の規定を形式的に適用することはできず、課税対象金額は存在しないとしている(同17及び18ページ)〈編注・732ページ及び733ページ〉。
⑵原判決は、租税法規、取り分けタックス・ヘイブン対策税制に係る租税法規の解釈として許される限界を超えていること
ア しかし、租税法規の解釈については、最高裁判所平成27年7月17日第二小法廷判決(集民250号29ページ)が、「憲法は、国民が法律の定めるところにより納税の義務を負うことを定め(30条)、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としており(84条)、それゆえ、課税要件及び租税の賦課徴収の手続は、法律で明確に定めることが必要である(最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。そして、このような租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないというべき」と判示するとおり、租税法律主義の観点から租税法規をみだりに規定の文言を離れて解釈すべきではなく、このことは法律の委任を受けて規定された政令の解釈においても同様である(最高裁平成22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420ページ参照)。
イ そして、上記1⑴で述べたとおり、タックス・ヘイブン対策税制の趣旨の一つは、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保することにあるから、タックス・ヘイブン対策税制を規定する措置法66条の6等の規定及びその委任を受けて規定された各政令の規定は、なおさら規定の文言に則して解釈しなければならない。
措置法66条の6は、上記1⑵で述べたとおり、第3項において第1項の適用を除外する要件を明確かつ具体的に定めているのであって、かかる明文の適用除外規定の解釈においてタックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度趣旨や理念が考慮されるのは当然としても、明文の適用除外規定から離れて、措置法66条の6第1項やその委任を受けて規定された措置法施行令39条の16第1項及び第2項の適否を判断することは、タックス・ヘイブン対策税制の趣旨や枠組みに反するものである。
仮に、原判決のように、個々の事案におけるタックス・ヘイブン対策税制の規定の適否について、内国法人が外国子会社の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力の有無や程度、租税回避の意図や客観的な租税回避の事態の発生の有無といった曖昧で認定の困難な事情の有無等に基づいて判断することとなれば、課税執行面での安定性を欠き、ひいては税負担の公平を欠くこととなりかねないのであって、原判決は、租税法規、取り分けタックス・ヘイブン対策税制に係る租税法規の解釈として許容される限度を超えているといわざるを得ない。
ウ この点、従前の高等裁判所における裁判例でも、租税回避の有無等の明文に規定されていない抽象的な事情を考慮してタックス・ヘイブン対策税制の適用を除外することはできない旨が繰り返し判示されている(逆に租税回避の有無をタックス・ヘイブン対策税制に係る法令の適否の判断に取り込むべきとする裁判例は下級審のものを含めて不見当である。)。
ア 高松高等裁判所平成16年12月7日判決(訟務月報52巻2号667ページ、最高裁平成19年判決の原審)
「タックスヘイブン対策税制の立法趣旨は、前記のとおり、外国法人を利用することによる税負担の不当な回避又は軽減を防止するとともに、課税執行面の安定性を確保しつつ税負担の実質的公平を図ることにあるのであって、このような趣旨に鑑みれば、特段の明文の規定がないにもかかわらず、租税回避のおそれの有無という認定の困難な要件を、措置法66条の6の適用の要件に加えるべきとは考えられない。したがって、措置法66条の6の適用の有無は、特定外国子会社等に該当するか否かでのみで判断すべきである。」なお、同判決の上告審判決である最高裁平成19年判決においてこの点について明示的に判断されていないが、「本件の第1審及び原審において、X(引用者注:一審原告)は、措置法66条の6の立法趣旨等からすれば、租税回避のおそれがない場合には同条を適用すべきでないと主張していた。本判決は、この点に関する判断を示していないが、XがA(引用者注:Xの特定外国子会社等)の設立以来A名義の損益等のすべてをXに帰属するものとして申告しており租税回避のおそれはないとみられる本件において、このようなおそれの有無に言及せずに同条の適用を前提とした判示をしていることに照らせば、本判決は、Xの上記主張のような見解には立たないものとみられる。」との理解が示されている(前掲最高裁判所判例解説民事篇平成19年度(下)665ページ)。
イ 東京高等裁判所平成19年11月1日判決(税務訴訟資料257号順号10816)
「措置法66条の6は、いわゆる国際的な租税回避行為を防止するためのタックスヘイブン対策税制として立法されたものであって、1項においてタックスヘイブン対策税制が適用される特定外国子会社等を定義した上で、3項において適用除外要件を定め、特定外国子会社等(債券の保有等を主たる事業とするものを除く。)が独立企業としての実体を備え、かつ、その所在地国で事業活動を行うことについて十分な経済的合理性がある場合には、1項の規定を適用しないとして、課税要件を明確かつ具体的に定め、その適用範囲を国際的な租税回避の事案に限定するとともに、法の適正な執行が担保されるようにした規定であると解され、同条が、それ以上に、「税負担の不当な軽減を図る目的により、異常な法形式を用いた租税回避行為が存在すること」といった要件まで要求していないことは、条文の文言上、明らかである。また、租税法規は、侵害規範であり、法的安定性が強く要請されることから、その解釈は、原則として文理解釈によるべきであって、文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにすることが困難な場合に初めて、規定の趣旨目的に立ち戻って、その意味内容を明らかにするという目的的解釈が行われるべきところ、控訴人の上記主張は、規定が設けられた趣旨目的から出発して、条文にない要件を付加して租税法規の適用範囲を限定しようとするものであり、しかも、その付加すべき要件自体が明確性に欠け、公平な解釈適用を確保することに困難が伴うものであるから、これを採用することはできないといわざるを得ない。」
ウ 東京高等裁判所平成29年5月25日判決(訟務月報63巻11号2368ページ)タックス・ヘイブン対策税制のうち、居住者の特定外国子会社等に係る所得に関するものとして、「措置法40条の4第1項の規定は、我が国経済の国際化に伴い、居住者が法人の所得に対する租税の負担がないか又は極端に低いいわゆるタックス・ヘイブンに子会社等を設立して経済活動を行い、当該法人の所得を留保することによって、我が国における租税の負担を回避しようとする事態に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、一定の要件を満たす外国会社を特定外国子会社等と規定し、その課税対象留保金額を居住者の雑所得の計算上総収入金額に算入することとしたものと解されることは、前記1説示のとおりであるものの、他方、措置法40条の4第4項は、特定外国子会社のうち株式の保有等を主たる事業とするもの以外のものであることなど経済合理性を有すると認められるための具体的な要件を法定した上、これらの要件が満たされる場合には同条1項の規定を適用しないこととしているのであり、同条は、それ以上に、居住者が租税回避の意図目的を有することや、居住者がタックス・ヘイブンに子会社等を設立し、その後、同社に所得を留保して租税回避したことを要件として要求していないことは規定の文言上明らかであり、また、非居住者が外国において会社を設立し、当該会社の利益が留保された状況で、その後に居住者となった場合を対象から除く旨の定めもないこと、租税法規は、多数の納税者間の税負担の公平を図る観点から、法的安定性の要請が強く働くため、その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、措置法40条の4の規定の文言や意味内容は文理上明確であることは、前記1において説示したとおりである。」⑶小括
以上のとおり、本件の具体的な事案において、内国法人が外国子会社の利益から剰余金の配当等を受け得る支配力を有するというタックス・ヘイブン対策税制の合算課税の合理性を基礎づけ、正当化する事情の有無や、本件資金調達スキームにおける本件各子SPC事業年度の処理に租税回避の目的があるか否かや客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情の有無といった明文に規定されていない不明確な事情を考慮して、措置法施行令39条の16第1項及び第2項を適用しないとする原判決の解釈手法は、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保するというタックス・ヘイブン対策税制の趣旨に反し、タックス・ヘイブン対策税制に係る法解釈として誤っている。
原判決は、本件の具体的事案において、措置法施行令39条の16第1項及び第2項が定める課税対象金額の計算に関する部分を適用することはできないとしたにすぎないものであるとし、いかなる事案であれば本件と同様の結論に至るのかを明らかにしていない。すなわち、原判決は、本件資金調達スキームにおいて相手方が所有する本件各子SPCの株式について配当が支払われることが仕組み上想定されていなかったこと(原判決9ページ)〈編注・725及び726ページ〉、本件各子SPC事業年度の当期純利益の額を上回る金額が本件優先出資証券に係る配当として支払われたこと(同10ページ)〈編注・726ページ〉を本件事案の事情として挙げるが(同17ページ参照)〈編注・732ページ〉、原判決が認定した事実のうちどの事実が欠けると原判決の判断に至らないのか(すなわち措置法施行令39条の16第1項及び第2項の適用があるのか)、原判決の説示からは何ら明らかではなく、税負担の公平及び法的安定性を著しく害することとなる。この点、本件資金調達スキームの終了に向けて本件優先出資証券を償還するに際し、仮に本件各子SPC事業年度の当期純利益の額のほとんどを本件優先出資証券に係る配当として支払ったものの、端数計算の処理等の理由により、ごくわずかに(例えば1円でも)相手方が保有する本件各子SPCの株式に配当し得る額が生じた場合には、措置法施行令39条の16第1項及び第2項の適用があるのか否か、仮に、あるというのであれば、そのような事案と本件事案との間の法適用の差異を明文の規定を離れたどのような根拠によって正当化するのか疑問であるし、結局は、内国法人が特定外国子会社等にどのような配当をさせるのかによって、法適用そのものの適否が決まることとなり、法的安定性に欠けることとなる。このように結論において不合理な事態が生じるのは、原判決が、明文に規定されていない不明確な事情を考慮して、措置法施行令39条の16第1項及び第2項の適否を判断しようとしたことに基づくものであり、その点からも、原判決が措置法66条の6第1項並びに措置法施行令39条の16第1項及び第2項の解釈を誤ったものであることは明らかである。
第4 本件は法令の解釈に関する重要な事項を含むものであること21世紀の第1四半期における国際課税の最大の課題は、BEPS(課税ベースの浸食と利益の移転)の問題であり、タックス・ヘイブン対策税制は、この問題の解決を図るために、先進各国が移転価格税制、過少資本税制、過大支払利子税制とともに採用している極めて重要な税制である(前掲金子・租税法第24版565ないし568ページ参照)。
本件は、平成21年税制改正後のタックス・ヘイブン対策税制の制度趣旨や理念が何かという同税制の最も基本的かつ重要な問題を含んでいるところ、従前の最高裁判例は、いずれも平成21年税制改正前の措置法66条の6の解釈等が争いとなった事件であり、平成21年税制改正後の措置法66条の6の制度趣旨等について判断したものはない。
また、本件は、タックス・ヘイブン対策税制において、法令上の要件を満たす場合であっても、その適用を制限することができるかという極めて重要な法解釈上の問題を含んでいるところ、いまだこの点に関して明示に判断した最高裁判例はない。
以上のとおり、本件は、国際課税における重要な税制の一つであるタックス・ヘイブン対策税制に係る法令の規定の趣旨や解釈論といった基本的かつ重要な事項を含んでおり、法令の解釈に関する重要な事項を含むものであることが明らかである。
第5 結語
以上のとおり、原審の判断には、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり(民訴法325条2項)、本件は、法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件である(同法318条1項)。よって、本件上告受理申立てに係る事件を上告審として受理した上、原判決を破棄し、更に相当の裁判をすることを求める。
以上
「添付資料省略」
別紙
略語表〈略〉
附帯上告受理申立書〈略〉
附属書類〈略〉
当事者目録〈略〉
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/92467/detail2/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。
出典:「訟務重要判例集データベース」(法務省)(https://shoumudatabasep.moj.go.jp/hanreiSearch/HanreiSearch)を加工して作成(加工:TaiLexi AI)。訟務月報70巻6号631頁。
出典:国税庁ホームページ「税務訴訟資料」(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2023/pdf/13900.pdf)を加工して作成(加工:TaiLexi AI)。