主文
被告人を懲役15年に処する。
未決勾留日数中620日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、実父の末期ガンをきっかけに実家に戻り、実父の遺産の大部分を相続する一方、実母(A)と同居することになるが、実母と遺産相続や生活費を巡りトラブルが徐々に増え、兄姉からの協力も得られないと思い込み、ストレスを溜めていったところ、
第1 令和4年12月14日頃、川崎市a区bc番地d被告人方において、実母であるA(当時62歳)から罵倒されたことをきっかけに同人を殺害しようと考え、同人に対し、その頸部を両手で絞め付け、よって、その頃、同所において、同人を扼頸による窒息により死亡させて殺害した。
第2 同月15日、山梨県都留市所在のeトンネル南西側出入口端から南方に図測fメートルの山林内において、前記Aの死体を投棄し、もって死体を遺棄した。
(争点に対する判断)
1 殺意について
遺体の状況及びB教授の証言によれば、被害者の死因は首を手指により絞められたことによる窒息死と認められる。また、B教授は、首を絞めて窒息死させるためには、両手で左右の頸動脈を最低5分間圧迫し、閉塞させる必要があると証言する。
それだけの時間、人の首を両手で絞め続けることは、常識的に考えて、通常、それを意図して行っている動作と認めることができる。
これに対して、弁護人や被告人は、被害者の殺害について記憶にないから、意識的にやったことではないかのような主張をする。
しかし、被告人は、捜査段階の取調べで、被害者の首を絞めた状況について、順序立てて具体的に詳細に説明しており、被告人の記憶がないとの主張は、にわかに信用し難い。
この点、被告人は捜査段階の供述は、想像で考えたストーリーを話したものであると主張する。
しかし、B教授の証言によれば、被告人の供述した被害者の死亡までに至る状況は、医学的所見に合致しており、想像のみでこのような正確なストーリーを構築することはおよそ考えられない。
また、逮捕直後から、被告人が、被害者を殺害した状況につき、自ら身振り手振りを交えて詳細に説明をしていた状況からすると、自ら体験した事実を語っていると認められる。
以上からすると、被告人は、意識がある中で被害者の首を意図して絞め続けたのであるから、殺意は当然に認められる。
2 責任能力について
弁護人は、被告人が、前頭葉てんかんにり患しており、その発作中に殺害行為に及んだため、殺害当時は心神耗弱の状態にあったと主張する。しかし、B教授およびC教授の証言によれば、てんかん発作中に上記のように首を絞め続けることはおよそできないと考えられる。
そもそも、被告人に対しては、脳波の検査やCT・MRIなどの確定診断のため必要な検査が行われていない上、てんかん発作とみられる症状も過去に確認されておらず、てんかんにり患していたかも疑わしい。よって、弁護人の主張は認められない。
(量刑の理由)
殺害行為は、仰向けの被害者に馬乗りになって、被害者が動かなくなるまで首を絞め続けたというもので非常に悪質である。遺棄行為についても、遺棄するための道具を買い揃えて暗くなるまで待ち、手足を縛った被害者を山中の涸れ川に投げ落とすという悪質なものである。
被告人は、双極性障害を抱える母と二人で同居する中で、亡き父の遺産相続や生活費を巡って母と口論が増え、兄姉の協力も得られないと思い込み、ストレスを溜め込んでいたことには一定の同情の余地がある。
しかし、母に罵倒されたとはいえ、殺害を決意して実行したことは厳しく非難されるべきである。
それにもかかわらず、被告人は、自分が母を殺害したことについて、向き合っておらず、十分に反省しているとはいい難い。
他方で、法廷に出廷した被告人の幼なじみのように、被告人のことをよく理解し更生を支えてくれる人がいることや、被告人に前科がないことも考慮し、同種事案の量刑傾向(単独犯、殺人1件、被害者が親、示談又は宥恕すべてなし、突発的だが強固な殺意、被告人の反省あり以外)も参考にして、主文の刑を定めた。
(求刑懲役16年)
令和7年6月17日
横浜地方裁判所第3刑事部
裁判長裁判官 髙橋康明
裁判官 福田恵美子
裁判官 田治百合恵
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/94271/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。