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地裁判決

仙台地判 令和8年3月12日

令和7年(わ)第396号等 過失運転致死、道路交通法違反

裁判所
仙台地方裁判所
裁判年月日
令和8年3月12日 (2026-03-12)
事件番号
令和7年(わ)第396号等
事件名
過失運転致死、道路交通法違反
裁判の種類・結果
判決
判例集等
—
分野
刑事

主文

被告人を拘禁刑3年に処する。

この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。

理由

【犯罪事実】

被告人は、

第1 令和7年6月20日午前5時24分頃、大型貨物自動車を運転し、仙台市(住所省略)の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)を信号に従い甲方面から乙方面に向かい左折進行するに当たり、同交差点左折方向出口付近には自転車横断帯が設けられていたのであるから、前方左右を注視し、同自転車横断帯による横断自転車の有無及びその安全を確認しながら左折進行すべき自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、左方道路からその右折専用車両通行帯を進行してくる車両の有無に気を取られ、前方左右を十分注視せず、同自転車横断帯による横断自転車の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約10ないし20キロメートルで左折進行した過失により、折から同自転車横断帯を信号に従い左方から右方へ横断していたA(以下「被害者」という。)運転の自転車に気付かず、自車左前部を同自転車右側部に衝突させて同人を同自転車とともに路上に転倒させ、同人を自車前部車底部に巻き込んだ上、約176メートル引きずりながら自車左前輪等でれき過し、よって、同人に全身挫滅の傷害を負わせ、その頃、同所において、同人を前記傷害により死亡させた。

第2 前記日時・場所において、前記自動車を運転中、前記のとおり被害者に前記傷害を負わせ、その頃、同所において、同人を前記傷害により死亡させる交通事故を起こし、もって自己の運転に起因して人を死傷させ、同日午前5時32分頃、同所から約1.7キロメートル進行した丙付近道路において、同交通事故を認識したのに、直ちに車両の運転を停止して、被害者を救護する等必要な措置を講じず、かつ、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を、直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。

【証拠】(省略)

【事実認定の補足説明】

第1 争点

被告人が、過失により判示第1の事故を起こし、被害者を死亡させたことについては争いがなく、証拠上も容易に認定することができるが、判示第2の事実については、被告人は、事故を起こしたとは認識していなかった旨述べ、弁護人も、当該供述を前提に、被告人には、不救護・不報告の故意がない旨主張している。しかしながら、当裁判所は、被告人には人を死傷させる事故を起こした認識があり、不救護・不報告の故意も認められると判断し、判示第2のとおり認定したので、その理由について補足して説明する。

第2 前提事実

証拠によれば、以下の事実が認められる。

⑴被告人は、判示第1のとおり、令和7年6月20日午前5時24分頃、大型トレーラーを運転して本件交差点を左折する際、交差点を横断していた被害者運転の自転車に自車左前部を接触させて被害者を自転車とともに路上に転倒させるなどの事故を起こした。

⑵本件交差点は、南北に走る県道と東西に走る国道が交差する交差点であり、県道と国道は、いずれも片側二車線以上であった。被告人は、県道を南進して国道側に向かって左折をし、国道の東進車線に進入しているが、同車線は、二車線で対向車線とは中央線で区分されており、被告人は二車線のうちの中央線寄りの車線に進入した。

⑶被告人運転車両のドライブレコーダーによれば、被告人が本件交差点を左折し終えた後から、被告人運転車両から「カン」という音や「シャー」という異音が鳴り、車内においてもその音が聞こえていた。

⑷被告人は、同日午前5時32分頃、自車を路肩に停止させて降車し、自車の車底部を覗き込んだ際に、自車前輪のアクスル(左右の前輪をつなぐ軸)と路面との間に、自転車が挟まっているのを発見した。

⑸被告人は、同日午前5時49分頃から午前5時54分頃までの間、再び路肩に自車を止め、ワイヤーロープを使って車底部に挟まっていた自転車を引き抜いた。

第3 争点に対する判断

⑴上記前提事実を踏まえると、被告人は、死角が多く、巻き込み事故の危険性の高い大型トレーラーを運転し、本件交差点を左折した直後から車内で異音を感じ、自車の異常を確認するために自車を停止させて車底部を確認したところ、自転車が挟まっているのを発見したというのであるから、そのような状況を確認すれば、事故時点での事故の認識の有無にかかわらず、本件交差点を左折する際に、人の乗った自転車に自車を接触させて自転車を巻き込むなどの人身事故を起こした可能性を当然認識したものといえる。しかも、本件交差点が片側二車線以上の県道と国道の交差する交差点であり、同交差点内やその付近の道路上に自転車が放置されていることは通常考え難いことを踏まえると、その可能性は一層高いものとして認識しえたといえる。他方で、そのような人身事故を起こした可能性を払しょくするような事情が何ら認められないこと、大型トレーラーで左折する際に自転車を巻き込めば、自転車の運転者を死傷させる可能性が高いことを踏まえると、被告人は、自車の車底部に自転車が挟まっているのを発見した時点で、自己の運転により人を死傷させる事故を惹起した可能性を認識していたといえ、少なくとも不救護・不報告の未必的な故意はあったものと認められる。

⑵これに対し、被告人は、車底部を見て自転車を見たときには人を巻き込んだと思ったが、車両に血などが付いていることも確認できなかったし、フロントバンパーやナンバープレートの辺りを確認したが、バンパーのちょっと下の辺りに横倒しになった自転車ペダルが引っ掛かったような跡しか確認できなかったので、最終的には、人の乗っていない、横に倒れている自転車をひっかけたのかなと思い、人を巻き込んだかもしれないとの可能性は完全に払しょくされた旨述べ、弁護人は、本件車両に大きな傷跡がなく、血痕様のものもごく小さい痕跡にすぎず、人の負傷を認識する契機になったとは思われない一方、仙台市内には車道にはみ出して放置されている自転車が136台あることが報告されていることなどから、被告人が、倒れている自転車をひっかけたという推測をすることは非常に合理的である旨主張する。

しかしながら、被告人自身が自転車を見た瞬間に人を巻き込んだと思ったと述べていることからも明らかなとおり、前記のような経緯で車底部に自転車が挟まっていることを発見したこと自体が、人の運転する自転車を巻き込むなどの事故を起こした可能性を認識する十分な契機といえるから、それ以上に顕著な事故の痕跡がなかったからといって人身事故は起こしていないと思ったとの供述は不合理というほかない。しかも、被告人が車底部を確認した時間は1分にも満たない上、車両をくまなく確認したものではなく、実際に、組織片様の付着が認められた左前輪付近については、車体の側面をさっと見ただけなどというのであるから、その程度の確認で人を巻き込んだかもしれないとの疑いが完全に払しょくされたとも考え難い。そうすると、人を巻き込んだかもしれないと思いつつ、その可能性は完全に払しょくされたと述べる被告人の供述は不合理であって信用できない。

なお、弁護人が指摘する仙台市内の放置自転車に関する報告は、その調査対象が駅周辺など本件交差点と性質を異にする場所のものであるし、歩道上に放置された自転車を対象とするものである。一部車道にはみ出す形で放置されたものがあった旨指摘されているが、被告人自身、片側二車線の中央線寄りの車線上で自転車をひっかけたのだと思うと述べているから、同報告内容は本件と何ら関連性がなく、弁護人の主張は前提を欠く。

また、弁護人は、事故時点での事故の認識に関する判断枠組みを参照し、被告人に人の負傷の認識がないことは整合的であり、人の負傷の認識があることは不整合であるなどと指摘しているが、被告人が車底部の自転車を発見した時点で人身事故の認識を有するに至ったとの本件訴因及び検察官の主張を踏まえたものとはいえず、失当である(なお、弁護人は、被告人が自転車を発見した後も、証拠隠滅や逃亡に及んでいないことを被告人が人を負傷させる事故を起こした認識がなかったことをうかがわせる事情として指摘しているが、人身事故を起こした可能性を認識した者が必ずしも罪証隠滅や逃亡を行うとも限らないのであるから、この点に関する弁護人の指摘も採用できない。)。さらに、弁護人は、被告人が事故時点では自車を被害者が運転する自転車に接触させた認識がないことを、被告人に故意がないことの根拠として繰り返し指摘するが、被告人に事故時点での事故の認識がなかったとしても、被告人が車底部に自転車が挟まっていることを発見した経緯に照らせば、人身事故を起こした可能性が当然想起されることは先に説示したとおりであり、弁護人の指摘は当を得たものとはいえない。その他弁護人が縷々指摘する点も、いずれも前記認定を左右するものではない。

被告人の供述や弁護人の主張を踏まえても、被告人が本件事故の可能性を認識しなかったとか、一度はその可能性を認識しつつ、これを払しょくしたとの疑いは残らない。

第4 結論

以上によれば、被告人には不救護・不報告の故意が認められるから、判示第2のとおり認定した。

【法令の適用】(省略)

【量刑の理由】

被告人は、勤務先の業務として大型トレーラーを運転して交差点を左折する際に、被害者が運転する自転車を見落とし、これに自車を接触させて本件事故を惹起したものであるが、同車のミラーには被害者が映っていたのであるから、被告人が交差点内の横断者の有無等について十分な確認を行っていれば避けられた事故であり、被告人の過失の程度は小さくない。その結果、被害者は大型トレーラーに引きずられて全身挫滅の傷害を負い、その命を奪われたのであり、その無念さは察するに余りある。また、被害者の姉が、被害者の死に顔も見られずに突然被害者を奪われた悲痛な胸の内を吐露しているのであり、本件事故によりもたらされた結果が取り返しのつかない重大なものであることはいうまでもない。しかも、事故から数分経過していたとはいえ、自車の車底部に自転車が挟まっているのを発見し、人身事故を起こした可能性を認識したにもかかわらず、何ら必要な措置を取ろうともしておらず、この点も非難を免れない。以上によれば、被告人の刑責は軽視できない。もっとも、被告人の勤務先の会社が加入する保険により遺族に対する賠償が見込まれること、被告人には前科がなく、本件事故を起こしたこと自体は認めており、勤務先の代表取締役や被告人の妻が被告人の今後の監督を誓約していることなどの事情を踏まえると、被告人を直ちに実刑に処すべきとまではいえず、主文の刑に処した上でその刑の執行を猶予し、社会内で更生の機会を与えることが相当であると判断した。

令和8年3月12日

仙台地方裁判所第1刑事部

裁判官 米満祥人

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/96099/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。