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地裁判決請求棄却

東京地判 令和8年9月30日

令和7年(ワ)第70635号 投稿記事削除請求事件

裁判所
東京地方裁判所
裁判年月日
令和8年9月30日 (2026-09-30)
事件番号
令和7年(ワ)第70635号
事件名
投稿記事削除請求事件
裁判の種類・結果
判決 請求棄却
判例集等
—
分野
民事・知的財産・不正競争

令和8年9月30日判決言渡同日原本交付裁判所書記官

令和7年(ワ)第70635号投稿記事削除請求事件

口頭弁論終結日令和8年7月3日

判決原

告津田健次郎

同訴訟代理人弁護士田中雅敏

堀田明希

同復代理人弁護士平野敬

被

告TikTokPte.Ltd.

同訴訟代理人弁護士伊東啓

角田龍哉

新井一希

福王広貴

唐美佳

宮関貴臣

森愛美

山崎恭子

平田友悟

主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

被告は、別紙投稿記事目録記載の各投稿記事を削除せよ。

第2 事案の概要等

1 事案の概要

本件は、声優である原告が、被告に対し、被告が運営するインターネット上の動画投稿サイトに投稿された別紙投稿記事目録記載の各投稿記事(以下「本件各記事」と総称する。)中の動画のナレーションの声が、原告の声に類似しているなどとして、不正競争防止法(以下「不競法」という。)3条又はパブリシティ権に基づく侵害排除請求権に基づき、本件各記事の削除を求める事案である。

2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場合は、全て枝番号を含む。)

⑴当事者

ア 原告は、声優、俳優及びナレーターとして、本名(津田健次郎)で活動し、多数の作品に出演している。原告は、声優として、テレビアニメ「呪術廻戦」及び劇場版アニメ「劇場版呪術廻戦0」に「七海建人」役で出演した。

イ 被告は、インターネット上の動画投稿サイトであるTikTok(以下「本件サイト」という。)を運営するシンガポール法人である。

⑵本件各記事

ア 本件サイトにおいて「八海」(●省略●)というアカウント(以下「本件アカウント」という。)を使用する氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、令和6年7月から令和7年9月までの間に、本件サイトに188件の記事を投稿した(本件各記事)。

本件各記事は、いずれも映像及び字幕と、都市伝説、心霊現象等の雑学のナレーション(以下、この音声を「本件音声」という。)を組み合わせた動画を内容とする。(甲4、甲16の1)

イ 本件アカウントは、令和7年11月時点で21万人以上のフォロワーを有し、本件各記事は、いずれも数千から数万の「いいね」を獲得している(甲4)。

ウ 本件アカウントのトップページ(甲4)には、外部サイトへのリンクが張られ、同外部サイト(乙2)には、本件音声は原告の声を無断で使用してAIに学習させたものではなく、声真似が上手い友人の声をAIに学習させたデータを使用したものである旨が記載されていた(以下「本件記載」という。)。本件各記事のコメント欄には、

「津田健次郎...?」、

「ツダケンの声がする」、

「津田健次郎の声に似てる」、「津田健次郎の声真似が上手い友達の声をAI変換させたって言ってるけど嘘だよな」といった投稿が見られた。(甲15、乙1)

⑶本件投稿者は、令和8年5月29日、本件アカウントを削除した。(乙3、4、8)

3 争点

⑴不競法に基づく削除請求の可否(争点1)

⑵パブリシティ権に基づく削除請求の可否(争点2)

⑶本件各記事が既に削除されたか(争点3)

4 争点に関する当事者の主張

⑴争点1(不競法に基づく削除請求の可否)について

(原告の主張)

ア 原告は、「艶のある低音ボイス」、「低く渋みのある声」が特徴的であると評され高い人気を得ており、原告の声を聴いた者は原告を想起するから、原告の声質は、声優である原告の営業表示である。

原告自身が特に声優として著名であるし、その出演する「劇場版呪術廻戦0」が980万人の観客を動員するなど、原告の声質の認知度は高いから、原告の声質は、原告の営業表示として著名であり、そうでないとしても、少なくとも需要者の間に広く認識されている。

イ 本件音声と原告の声は、独特の抑揚や低音の響きといった顕著な特徴が共通する類似のものであり、このことは広く採用されている科学的手法による音声比較分析(甲22)によって証明されている。本件サイトは、動画の再生数に応じて投稿者に金銭が支払われる仕組みであり、本件投稿者は、本件各記事に係る動画の再生により収益を得ているから、本件各記事の投稿は本件投稿者の営業であるといえ、本件各記事における本件音声の使用は、原告の営業表示と類似する営業表示の使用に当たる。

ウ 本件各記事のコメント欄の投稿によれば、ナレーションに原告の声を用いたものと誤認されており、原告の営業と混同を生じさせるおそれがある。

エ 以上によれば、本件投稿者は、不競法2条1項1号又は2号の不正競争を行ったものといえる。そして、次のとおり、被告は、不競法3条所定の「侵害する者」に当たるから、本件各記事の削除義務を負う。

(ア) ウェブサーバ管理者は、侵害情報送信防止措置請求に対して真摯に対応すべき義務を負い、これを怠ったときは、不競法3条所定の「侵害する者」に当たる。

被告は、令和7年8月の発信者情報開示命令(甲19)及び同年9月の原告による侵害情報送信防止措置請求(甲20)により、本件各記事の違法性を認識し得たにもかかわらず、侵害情報送信防止措置をとっていないから、不競法3条所定の「侵害する者」に当たる。

(イ) サイト運営者が、不正競争の環境等を整備するのみならず、不正競争の実現における枢要な行為をしている場合には、サイト運営者は、不正競争の主体であるということができる。

被告は、本件各記事に係るウェブサーバを包括的に管理支配して閲覧者に本件各記事を配信するという不正競争の枢要な行為をしている。のみならず、被告は、閲覧者の多い動画に金銭を支払って投稿を動機付けており、本件投稿者による不正競争に物理的及び心理的に深く関与している。(被告の主張)

ア 原告の声質が原告の著名又は周知の営業表示であることは争う。

イ 本件音声は、普遍的な男性の声であり、話し方も必ずしも特徴的なものではないから、原告の声と類似すると直ちにはいえない。

ウ 本件記載は、本件音声が原告の声を出力したものでないことを明示するものであるから、本件各記事について、原告の営業と混同を生じさせるおそれはない。

エ 被告は、インターネット上で投稿の場を提供しているにすぎず、不競法3条所定の「侵害する者」には当たらない。

⑵争点2(パブリシティ権に基づく削除請求の可否)について

(原告の主張)

ア 前記⑴(原告の主張)アによれば、原告の声は顧客吸引力を有する。

イ 同イのとおり、本件投稿者は、本件各記事の再生により収益を得ているから、本件各記事に係る動画は商品である。

本件各記事に係る動画は、同イのとおり原告の声に類似する本件音声を使用したものであるから、原告の声を独立して鑑賞の対象となる商品として使用するものである。

また、本件各記事に係る動画は、いずれもありふれた雑学を利用したものであってそれ自体は商品価値が乏しいが、本件音声を使用することで商品価値を高めたものであるから、顧客吸引力を有する原告の声を商品の差別化を図る目的で使用したものである。

さらに、本件各記事に係る動画は、ありふれた内容について本件音声を使用することで多くの閲覧者を誘引したのであるから、顧客吸引力を有する原告の声を商品の広告として使用したものである。

以上によれば、本件各記事における本件音声の使用は、専ら原告の声の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえる。

ウ 以上によれば、本件投稿者は、原告の声を使用することにより、原告のパブリシティ権を侵害したものといえる。

そして、①被告は、本件各記事についての表現の事由を主張し得る利害関係人に当たらないこと、②本件投稿者は自己の防御権を放棄していること、③被告は簡単な操作によって本件各記事を削除することができ、本件各記事の削除は被告に過度の負担を課すものではないことからすれば、本件各記事の削除に係る原告の法的利益は、被告が本件各記事を一般の閲覧者に供し続ける利益に優越するから、サイト運営者である被告は、原告のパブリシティ権に基づき本件各記事を削除する義務を負う。

(被告の主張)

ア 本件音声は、原告以外の第三者の声をAIによって加工したものであるから、本件各記事における本件音声の使用は、原告の声を使用するものとはいえない。

イ 本件各記事に係る動画は、本件音声を独立して鑑賞の対象とするものではない。また、その内容に照らして、本件音声によって再生数が伸びるなどしたともいえないから、商品の差別化を図る目的で原告の声を使用したものとはいえない。以上によれば、本件音声を商品等の広告として使用したものともいえない。

ウ ①本件各記事には本件投稿者の表現の自由の保障が及ぶこと、②本件各記事が閲覧される範囲が広いとはいえないこと、③本件各記事は、原告の声優としての社会的地位や影響力に何ら影響はなく、原告にイメージダウン等の損害が生じたともいえないこと等からすれば、本件各記事を一般の閲覧に供し続ける利益は、本件各記事の削除に係る原告の法的利益に優越するから、被告は、本件各記事の削除義務を負わない。

⑶争点3(本件各記事が既に削除されたか)について

(被告の主張)

本件各記事のデータは、令和8年6月28日の経過をもって被告のサーバから削除された。

(原告の主張)

インターネット上のサービスで公表されているデータ保持期間と実際のデータ保持期間が異なることは頻繁にあるから、本件アカウントが削除されたとしても、本件各記事のデータが削除されたかは不明である。

第3 当裁判所の判断

1 被告は、本件各記事は削除済みであるから、原告の訴えは訴えの利益を欠くと主張するが、削除請求の対象の存否は実体上の削除請求権の存否に関するものであり、訴えの利益の有無を左右するものではない。

2 パブリシティ権に基づく削除請求の可否(争点2)に関し、人の声は、人の肖像と同様に個人の人格の象徴であるということができるところ、例えば実演家の声等を無断で使用する行為は、その声が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有するといえる場合であって、その声を使用する行為が専らその声の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえるときは、パブリシティ権の侵害に当たると解するのが相当であるといえる。もっとも、本件においては、削除請求の対象である本件各記事が既に削除されたか(争点3)が問題となっていることから、まず、この点について検討する。

⑴前記前提事実⑶及び証拠(乙7ないし9)によれば、本件投稿者が令和8年5月29日に本件アカウントを削除し、30日以内にアカウントの復旧申請をしなかったことから、本件各記事を含む本件アカウントのデータは、同年6月28日の経過をもって被告のサーバから削除されたことが認められる。これに対し、原告は、インターネット上のサービスで公表されているデータ保持期間と実際のデータ保持期間が異なることは頻繁にあるから、本件アカウントが削除されたからといって、本件各記事のデータが削除されたかは分からないと主張し、ユーザーが削除したデータが長期にわたって残存していたとする報道等(甲30ないし40)を指摘する。

しかしながら、本件各記事のデータが同日の経過をもって被告のサーバから削除されたことは、被告の内部規則及び被告が公表している本件サイトの利用ポリシー(乙5、6、8、10)とも整合するものであり、原告が指摘する報道等はいずれも本件アカウントの削除手続に直接関連するものではないから、前記認定を左右するものではない。

⑵仮に被告に削除義務が生じ得るとしても、前記⑴によれば、口頭弁論終結時までに、被告において削除の対象である本件各記事を削除したことが認められ、被告が更に本件各記事の削除義務を負うものではないから、原告の請求はいずれも理由がないことが明らかである。事案にかんがみ、本件において、その余の争点についてこれ以上の判断はしない。

第4 結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部

裁判長裁判官髙

橋彩

裁判官西

山芳樹

裁判官瀧

澤惟子

(別紙)

投稿記事目録

省略

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/97097/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。