主文
1 被告は、原告X1に対し、33万円及びこれに対する平成30年9月3日から支払済まで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 原告X1のその余の請求並びに原告X2及び原告X3の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用のうち、原告X1に生じた費用の1/100を被告の負担とし、その余は、原告らの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告X1に対し、6140万6492円及びうち5582万4084円に対する平成30年9月3日から、その他の原告らに対し、それぞれ220万円及びうち200万円に対する同日から、各支払済まで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 事案の骨子
本件は、被告が設置した鹿児島市立G中学校(以下「G中学校」という。)に通っていた本件生徒の母及び兄である原告らが、被告の公務員である教員の不適切な指導により本件生徒が自死した(以下「本件事件」という。)と主張して、国家賠償法1条1項に基づき、被告に対して、本件生徒の慰謝料及び逸失利益、原告らの固有の慰謝料及び弁護士費用相当額の損害賠償を求める事案である。
2 前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記各証拠及び弁論の全趣旨から容易に認定できる。
⑴当事者等
ア 本件生徒は、平成30年当時、G中学校3年5組に在籍していたが、同年9月3日(以下では、平成30年については、年表記を省略する。)に自死した者である。
イ 原告X1は、本件生徒の母であり、本件生徒の唯一の相続人である。原告X2及び原告X3は、いずれも本件生徒の兄である(甲1の1、1の2)。
ウ 被告は、G中学校の設置者である。
Y教諭は、平成30年当時、本件生徒が在籍していたG中学校3年5組の担任教員であり、鹿児島市の公権力の行使に当たる公務員である。
Y校長(以下では、単に「校長」という。)は、本件事件当時のG中学校の校長である。
エ 生徒A、生徒B、生徒C、生徒Dは、本件生徒の同級生である。保護者Aは、生徒Dの母親であり、本件事件当時のPTA会長である。⑵本件事件発生
ア 本件事件が起きた9月3日は、夏休み明けの始業式であった。
同日、本件生徒のクラスでは、夏休みの宿題((粋にみて宿題と言い得るかは疑問があるものもあるが、以下では特に断りがない限り、「宿題」という。)を8つ提出することとなっていたが、本件生徒は、そのうちの2つしか提出しなかった。
イ Y教諭は、帰りの会の際及び帰りの会の後、夏休みの宿題を提出できなかった本件生徒及び生徒Aを含む6人に前に出て来させて指導を行った(以下、この指導を「本件集団指導」という。)。
さらに、Y教諭は、本件生徒及び生徒Aについては職員室に呼び出し、1人ずつ個別に指導を行った(以下、この指導を「本件個別指導」というほか、本件集団指導と併せて「本件指導」という。)。
ウ 原告X1は、同日午後6時頃に自宅に帰宅し、ドアの取っ手にロープをかけ、ドアに寄り掛かる形で首を吊り、自死している本件生徒を発見した。⑶基本調査と調査委員会による調査
G中学校は、教職員と一部生徒から聞き取りを行い、9月29日に遺族に対し本件事件にかかる基本調査結果を説明し、10月1日付けで鹿児島市教育委員長に報告した。
これに対し、遺族は、基本調査結果は本件を解明するに至ってないとして、第三者による調査委員による詳細調査を要望した。平成31年1月28日、鹿児島市児童生徒の死亡事故に関する調査委員会(以下「調査委員会」という。)が組織され、令和3年6月30日、同調査委員会報告書(甲2。以下「本件調査報告書」という。)が公表された。
3 争点
⑴本件指導の違法性(争点1)
⑵本件指導と本件生徒の自死との間の相当因果関係ないし予見可能性(争点2)⑶校長の安全配慮義務違反(争点3)
⑷校長の予見可能性(争点4)
⑸損害額(争点5)
⑹素因減額(争点6)
4 争点に対する当事者の主張
⑴争点1(本件指導の違法性)について
ア 原告ら
(ア) 本件生徒は、夏休みの宿題のうち、6つを提出しなかったが、このうち数学のプリント集は紛失していて提出できなかった。そして、本件事件当日は、数学の担任が欠勤していたため、ブリント集を再度もらって提出することも不可能であった。
また、残りの5つは、学力に関係するものではなく、宿題ではなく提出物というべきものであったり、すぐにでも提出できる状況にあるものであった。以上からすると、本件生徒が宿題を忘れたことを問題視する必要はないし、数学のプリント集の提出を強いることは不可能を強いることであった。
(イ) Y教諭は、本件個別指導において、異常な怒鳴り声をあげ、宿題を提出しなかったことを一方的に責め立てた上、本件生徒が進学先として希望していたH高校I学科(以下「H高校」という。)のことを持ち出し、進路に対する不安を煽った。さらにY教諭は、本件生徒から、宿題のうち、数学のプリント集を紛失したと相談を受けたにもかかわらず、「どうしたらいいの、そこはもう考えなさいね」などと本件生徒を突き放し、当日中に宿題全部を提出することが困難であることを認識できたにもかかわらず、宿題を当日中に提出するよう無理を強いた。
(ウ) 本件個別指導は、懲戒として行われたところ、その必要性を欠き、学校教育法11条本文に違反する。また、生徒指導提要は、児童生徒の人格を尊重することや、殊更に児童生徒の面前で叱責することは望ましくないこと、生徒との信頼を築く必要があることなどを定めているところ、これらに違反する。
そして、上記のような本件個別指導の内容に加え、本件指導が必要性を欠くものであったこと、生徒の自死の可能性が高まる夏休み明けにされたこと、不可能を強いるものであったこと等も踏まえれば、本件指導は、違法である。
イ 被告
(ア) 本件指導の内容は、宿題を期限内に提出しなかった生徒に対する指導として、一般に想定され得る内容を超えるものではない。本件個別指導は、10分程度の短時間であり、Y教諭が大声を出した回数は最大でも3回程度にすぎない。進路の点についても、語り掛けるような口調で進路の悩みを聞き出そうとしたものであり、不安を煽ることを目的としたものではない。Y教諭は、宿題を終わらせるためにどのようにすればよいかの相談があった場合は、相談に応じることを示唆しており、無理を強いたり、突き放したりはしていない。
(イ) 本件指導が懲戒にあたり、生徒指導提要に沿わない部分があったとしても、教育的見地から本件指導が適切であったか否かを論じるにあたり考慮されるにとどまる。本件指導が教育的見地から見て適切さを欠く部分があったことは否定しないが、本件指導は、一般的に生徒が自死するほどのストレスを与えるものとは考えられず、本件指導に本件生徒の衝動的行動を誘発しかねない具体的な危険性があったとはいえない。
⑵争点2(本件指導と本件生徒の自死との間の相当因果関係ないし予見可能性)について
ア 原告ら
(ア) 本件生徒には、家族関係の悩みや友人関係のトラブル、卒業進路に関する悩み等はなく、本件生徒が自死を選んだ理由として、本件指導以外の事情が寄与していないことは明らかである。
本件における相当因果関係の認定においては、労働災害における業務起因性の認定方法(具体的には、令和5年9月1日に厚生労働省が発した通達により改正された心理的負荷による精神障害の認定基準。以下では、単に「認定基準」という。)を参考とすべきである。認定基準によれば、達成困難なノルマが達成できず重いペナルティを課された場合は、心理的負荷が「強」に該当し、それによって精神障害を発症し、自死した場合は、業務起因性が認められる。本件生徒は義務教育を受けている者であり、その要保護性は被災労働者よりも高く、これとの均衡からも本件指導と本件生徒の自死との間には相当因果関係が認められるべきである。
(イ) 本件事件当時、指導による心理的虐待が自死の危険を高めることや夏休み明けに生徒の自死が急増することは認識されていた。
Y教諭は、日ごろから、大声を出す(怒鳴る)、物や壁を叩く、机や椅子を蹴る、ティッシュの箱を投げる、やかんを目の前に落としてやかんを蹴るといった威圧的な指導を行っていた。また、G中学校では、生徒を抑えつける厳しい指導がされることがあり、Y教諭の指導は、他の教師から好意的にみられていた。
Y教諭は、本件生徒の自死自体を予見する必要はなく、本件個別指導によって精神的苦痛を受けることを予見すれば足りる。また、予見すべき精神的苦痛の程度は、本件生徒が自死すら選択しかねないほど強く追い詰められる程度までは不要であり、精神的に追い詰められる程度で足りる。争点1で主張した個別指導に関する事情に加え、指導による心理的虐待が自死の危険を高めることや夏休み明けに生徒の自死が急増することが認識されていたこと、Y教諭が今までにも威圧的な指導をし、他の教諭もこのような指導を好意的に捉えており、本件生徒がそれによるストレスを蓄積していたことからすると、本件指導によって本件生徒が自死したことにつき予見可能性がある。
イ 被告
(ア) 本件指導は、一般的に生徒が自死するほどのストレスを与えるものとは考えられず、本件指導から本件生徒が自死に至るという結果が発生することが社会通念上相当とはいえない
また、認定基準は、労働者の精神障害の発病を前提として、当該精神病の発病が業務上の心理的負荷に起因するといえるかどうかを統一的、画一的に認定するための行政基準であるところ、本件生徒が自死に至る前に精神障害を発病したとはいえないから、認定基準の考え方は当てはまらない。加えて宿題提出を義務付けられたことが達成困難なノルマと言えるかどうか等についても疑義があり、認定基準の当該項目を参集して相当因果関係があると認めることはできない。
(イ) 本件事件当時、一般論として、指導死の事例が相当件数に達していて社会問題化していたことや、夏休み明けに生徒の自死が急増する傾向があることが指摘されていたことは認めるが、予見可能性の有無は、本件指導の個別具体的な態様等に基づいて判断されるべきものであり、上記の一般的事情をもって、予見可能性を基礎づけることはできない。
本件生徒の自死についての予見可能性の有無は、本件生徒に対してなされたY教諭の指導状況に基づいて判断されるべきものである。本件生徒がY教諭から過去に受けていたとする指導についても、行われた時期が不明である上、異なる原因に基づいて単発的になされたものであり、本件生徒の自死との関連性を見出すことはできない。
予見可能性は、あくまで当該「結果」が発生することの予見可能性をいうのであって、自死事案における「結果」は、自死に至ることそれ自体である。一般論として、指導を受けた生徒は、通常、何らかの精神的負担感を抱くであろうと思われるところ、原告らの主張を前提とすれば、教師において生徒が精神的負担感を抱くであろうと予想すれば自死の予見可能性があるということにもなりかねない。
⑶争点3(校長の安全配慮義務違反)について
ア 原告ら
当時のG中学校の校長は、学校における教育活動及びこれと密接不利の関係にある生活関係より生じる危険から生徒を保護すべき安全配慮義務を負っていた。具体的には、校長は、教員に対して、叱責の基準をブレさせないこと、教員室での指導を控えること、叱責の基準を定め、感情をぶつけたり、人前で叱ることを止めさせるといった指導を行う義務や、行き過ぎた指導を行うY教諭に対して、懲戒を検討したり、指導記録を義務付ける等の仕組みを作る義務といった、生徒指導に関する環境を整える義務を負っていた。
校長は、上記安全配慮義務を負っていたにもかかわらず、何もしなかった。Y教諭に対して指導を行わず、教育委員会への相談等も行わず、指導について教職員間で話し合う環境を整備することもなかった。
イ 被告
Y教諭による本件個別指導が安全配慮義務に違反することの根拠は、教育的見地に立った場合に適切な指導であるかどうかを論じるにとどまり、違法性の有無という見地に立って安全配慮義務違反があることを根拠付けるものではない。そうであれば、校長の安全配慮義務違反も認められない。
⑷争点4(校長の予見可能性)について
ア 原告ら
校長は、行き過ぎた指導が生徒の自死を招きかねないこと及びG中学校には行き過ぎた指導が存在することを認識していた。また、自身が行き過ぎた指導を放置していることも認識していた。
校長は、本件事件後まもなく定年退職するほどの長いキャリアを有しており、多くの指導死に関する悲劇と警鐘を目の当たりにしてきた。校長は、本件事件の発生を明確に予見することができた。
イ 被告
Y教諭の指導方法に教育的見地から必ずしも適切とはいえない部分があるとの認識が校長にあったとしても、そのことによって本件生徒が自死に至ることについての校長の具体的予見可能性があったということはできない。⑸争点5(損害額)について
ア 原告ら
(主位的主張)
本件生徒が死亡したことにより生じた原告らの損害は以下のとおりである。(ア) 本件生徒の損害額
a 慰謝料
本件生徒が受けた精神的損害は金額にして3000万円を下らない。
b 逸失利益
平成30年の男性学歴計全年齢平均の558万4500円を基礎収入とし、生活控除率を50%、ライプニッツ係数を15.6949(18歳から67歳までの52年間に対応するライプニッツ係数18.4181[中間利息年5%。以下同じ。]から、18歳までの3年間に対応するライプニッツ係数2.7232を控除)として算定すると4382万4084円となる。
c 合計
慰謝料3000万円+逸失利益4382万4084円=7382万4084円
(イ) 原告X1の損害額
a 本件生徒の損害の相続
原告X1は本件生徒の唯一の相続人であり、本件生徒の7382万4084円の損害賠償請求権を相続した。
b 原告X1固有の慰謝料
G中学校及びY教諭により我が子を死に追い詰められたものであり、同人が被った精神的損害は金額にして1000万円を下らない。
c 日本スポーツ振興センターからの給付金
原告X1に対し、独立行政法人日本スポーツ振興センターから災害共済給付金2800万円が給付された。
d 弁護士費用
本件訴訟を代理人弁護士に委任した。請求に要する弁護士費用は損害額の10%を下らない。
e 合計
(7382万4084円+1000万円―2800万円)+558万2408円=6140万6492円
(ウ) 原告X2及び原告X3の損害額
a 原告X2及び原告X3固有の慰謝料
原告X2及び原告X3は、本件事件により弟を亡くし、精神的苦痛を被った。その精神的損害は金額にしてそれぞれ200万円を下らない。
b 弁護士費用
本件訴訟を代理人弁護士に委任した。請求に要する弁護士費用は損害額の10%を下らない。
c 合計
200万円+20万円=各220万円
(予備的主張)
仮に本件指導と本件生徒の自死との間に相当因果関係が認められないとしても、Y教諭は本件生徒に対して違法な指導を行い、本件生徒に精神的苦痛を与えたから、本件生徒が被った精神的苦痛について慰謝料を請求する。
イ 被告
争う。
⑹争点6(素因減額)について
ア 被告
本件生徒の何らかの心因的要因が損害発生に大きく寄与した((9割以上)と考えるべきであるから、万が一、被告の賠償責任が認定される場合は、損害の公平な分担という見地から、民法722条2項を類推適用すべきである。
イ 原告ら
争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に加え、証拠(甲27、29、30、乙21~23、証人Y教諭、証人校長、証人生徒D、証人保護者A、原告X1のほか、後掲のもの。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認定できる。
⑴G中学校の風土
ア 平成25年度頃、G中学校は荒れていて、いじめや器物損壊、暴力事件が頻繁に起こっていた。そのため、教師が生徒に大声で叱る、正座させるといった指導が行われていた。学校のルールには、生徒が問題を起こしたときには反省文を書いて先生方一人ひとりに怒られてサインをもらうというルールや、髪型・服装に関するルール、5分前行動・3分前着席といったルールが存在し、生徒を押さえつけるような指導になっていた(甲2・61頁)。
イ 校長は、平成28年度にG中学校に異動してきた。校長は、赴任当時の雰囲気について、生徒はあいさつができている、生徒会はよく動く、先生の雰囲気も良いと感じていた。本件生徒は、同年度にG中学校に入学したところ、同年の時点では生徒が問題を起こすことは少なく、概ね落ち着いていた。しかし、生徒指導は以前と変わらず、大声で叱るなどの方法がとられており、宿題を取りに帰らせる指導も常態化し、本件生徒の入学後も教師による厳しい指導は続いていた(甲2・63頁)。
ウ 本件生徒はバスケットボール部に所属していた。平成29年10月頃((本件生徒が2年生のとき)、バスケットボール部が練習試合で他校に行った際、控室でG中学校の2年生が同校の1年生のズボンを下ろす事件が発生した(バスケットボール部事件)。バスケットボール部内でのイタズラであり、バスケットボール部内では特に問題にはなっていなかったが、同年11月に他校の保護者から報告があり、学校内で問題に発展した。男子バスケットボール部の部活動が活動停止になり、ズボンを下す側だった生徒Dを含む5人がバスケットボール部の顧問から注意を受けた。
Y教諭は、平成29年11月15日の放課後、生徒Dを家庭科室に呼び出しバスケットボール事件に関して1対1で指導を行った。生徒DはY教諭から午後7時すぎまで指導を受けていた((関与した他の4人の生徒も、他の教員から指導を受けた。)。
Y教諭は、同月16日、生徒Dを再び呼び出し、保健室で1対1の指導を行った。Y教諭は生徒Dに椅子を持ち上げて頭上まで振り上げ、大声で怒鳴った。同月17日、バスケットボール部員の保護者が学校に集められ、理科室で男子バスケットボール部の顧問が保護者にバスケットボール事件に関する説明を行った。その際、男子バスケットボール部員は理科室から2、3部屋離れた廊下に整列して立たされていたところ、そこに通りかかったY教諭は、整列していたバスケットボール部員に向かって大声で怒鳴り始めた。その怒鳴り声は、ドアが閉まっている理科室内にも大きく響き渡るほどで(甲3)、泣き出す保護者もいた。
同月22日、校長室でズボンを下ろされた側の生徒と保護者が並んで座り、そこにズボンを下ろした側の生徒と保護者が順に入っていき謝罪をする謝罪会が開かれた。Y教諭は、謝罪する生徒に向かって「声が小さい!」「返事!」などと怒鳴った。
この謝罪会後、Y教諭は、本件生徒を含む男子バスケットボール部員全員に、連帯責任として、毎朝学校の掃除をさせた。
⑵Y教諭の指導方針と周囲の評価
ア Y教諭は、生徒を指導する際、大声で怒鳴ることがあり、その声量は、「5組の教室にいても1組で怒鳴る声が聞こえるくらい。学校にいれば、どこからかY教諭の怒鳴り声が聞こえてくる」(甲5の2)、「1組で出した声が5組まで聞こえるくらい、下手したら3階にある2年生の教室まで聞こえるくらい」(甲7)、「怒鳴り声は学校全体聞こえる」(甲6)、「同じ階にいたらほとんど聞こえるくらい」(甲8)であった。
また、Y教諭は、生徒を指導する際、「ぼけ」「ばか」「お前」「貴様」「なめとんのか」等の表現を使ったり(甲6)、「高校行けないよ」(甲7)、「その調子だったら内申書書かないぞ」
「やる気がないんだったら味方しないぞ」
(甲6)
と突き放すような表現をしたり、「お前」という呼び方をするように全体的に口調が荒くなる(甲8)。Y教諭は、指導の際、机や椅子等を蹴る、物や壁を叩く、ティッシュの箱を投げることもあった(甲5の2、甲2・12頁)。Y教諭の机や椅子を蹴り、あえて大声を出す指導は、教師も真剣に向き合っているという姿を見せるとともに、生徒に恐怖感を与え、生徒が従うようにする意図があった。
イ Y教諭の指導方法について、生徒からは、感情的であり恐怖を覚えるとするもの、体罰に近い指導であると否定的に評価するものがある一方で、怖いが、ちゃんと接してくれると肯定的に評価する生徒もいた(甲2・17頁)。教員からは、Y教諭が大きな声で怒鳴ったり、机を蹴ったりして指導していることは確認しているが、生徒の心に届く指導である、本気で指導するのでしばしば大きな声が出るといった評価があり、全体的に好意的にとらえられている(甲2(・17頁)。もっとも、自分の意見を言いにくくなるのではないか、厳しすぎると違和感を覚える教員もいた。
校長は、Y教諭は頑張り屋であり、生徒指導においては厳しい面もあるものの、けじめがあり、厳しいだけではなくフォローもしていることから、高い評価をつけていた。校長は、Y教諭が大声で指導することもあったことを認識しているが、それが体罰とは認識してはいなかった。また、体育の先生であることもあって、生徒が嘘をつくような時には、大声で厳しい指導もやむを得ないと考えていた。もっとも、保護者からの意見で、Y教諭に対し、より生徒に寄り添った指導をするよう伝えたことがあった。
⑶本件生徒の性格・交友関係
本件生徒は、穏やかで物静かな少年であった。三人兄弟の末っ子で、本件生徒の2人の兄((原告X2、原告X3)とは同居していなかったが、本件生徒が兄弟関係で深く悩む様子はなかった。父親は、本件生徒が小学校低学年の頃に他界しているが、本件生徒は父親になついていた。また、「お母さんを悲しませたくない」と友人に話すなどして、母親である原告X1を気遣う優しい面が見られた。祖父とも同居しており、原告X1が仕事で忙しいときには、祖父が本件生徒の塾の送り迎えに行ったり、ご飯を作るなどしていた。本件生徒が家族関係で悩むことはなかった。
本件生徒は趣味の釣りによく出かけ、友達とも一緒に一泊して早朝から釣りに行くことがあった。本件生徒は、バスケットボール部の友達と一緒に、釣りに行ったり、本件生徒の家でゲームをするなどし、多くの級友と良好な友人関係を築けていた。本件生徒がいじめられていたということもない(甲2、6)。⑷本件生徒の進路希望
本件生徒は、進路希望調査で一貫してH高校への進学を希望しており、夏休みにはH高校の体験入学に参加した。なお、J高校については、4月の進路希望調査では第2~3希望、7月の進路希望調査では第2希望となっていた(甲2・20~21頁)。
本件生徒の模試の成績は、6月30日の第1回模試ではH高校の合格率84%(A判定)、8月19日の第2回模試ではH高校の合格率90%(A判定)、J高校の合格率28%(C判定)であった(甲2・20頁)。
⑸本件事件以前のY教諭と本件生徒の関係
ア Y教諭は、本件生徒が1、2年生だった時の保健体育の教科担任であったが、男女別習だったので、Y教諭が本件生徒の授業を受け持つことはなかった。Y教諭は、バスケットボール部事件を含めて過去に3回、本件生徒を指導したことがあった。このうち、バスケットボール部事件では、本件生徒は事件に関わっていなかったが、Y教諭は、事件に関わらなかった部員にまとめて((他の生徒がズボンを下ろすことを)止めさせる必要があるのではないかと注意した。その他の2回は、いずれも3年生の1学期であり、1回目は宅習についての指導をしたが、この際は特に大声を出して指導をしたわけではなく、叱ったりすることもなかった。2回目は、本件生徒が数学の時間に居眠りをしていたので、机を叩いて起こした。
イ Y教諭は、本件生徒は大人しい生徒であると思っていた。また、本件生徒はY教諭に自分から話しかけることはなかったため、Y教諭は、本件生徒は自分に好意は持っていないだろうと思っていたが、強い嫌悪感を抱いているわけでもないと認識していた。Y教諭は、本件生徒の従前の宿題の提出状況について、全部はできていないこともあったが、概ねできている方だと評価していた。
ウ 本件生徒は、生徒Bに対して、Y教諭を殺したいと言ったことがあり((甲6)、
Y教諭のことを嫌っていた。また、本件生徒は、3年生に進級して間もない頃、母親に対して、「担任が嫌だからクラス替えができないのかな」と言ったことがあった。
⑹本件生徒の夏休み
ア 夏休みの過ごし方
7月24日に三者面談があり、Y教諭は、本件生徒に対し、「宿題の提出期日を守るように、早めに提出するように」と指導した。
本件生徒は、同月25日に部活動を引退し、主に塾に行って勉強するか、ゲームをして夏休みを過ごした。学習時間は、日によってばらつきがあったが、ゲームは、少なくともほぼ毎日2~3時間はしていた(
(甲2(・26~28頁)。
イ H高校の体験入学
本件生徒は、8月7~8日、生徒B、生徒Cを含む5人とH高校の体験入学に行った。本件生徒はH高校の体験入学を楽しんでいる様子で、体験入学後も、一緒に体験入学に行った生徒に対して、「一緒にHに行こう」、「絶対Hしかない」と力強く言い、母親には笑顔で(「楽しかったよ」と語った((甲2(・31頁、甲6)。一方で、体験入学後、「寮はマジやばい」、「寮がきつかった」、「思っていたのと違う」、「Hないわ」、「寮の風呂が汚かった」、「寮には入りたくない」等の不満を友人にこぼした(甲2・22、31頁)。
本件生徒は、4月以降から一貫してH高校を進路希望としていたところ、体験入学を終えた8月19日の時点でも変わらずH高校を第一希望としていた(甲2・20~21頁)。
ウ 8月21日の出校日
本件生徒のクラスでは、各教科から宿題が出されており、宿題ごとに8月1日、同月21日の出校日、9月3日の始業式の日に提出日が設定されていた。8月21日に提出しなければいけない宿題は、①漢字、②国語のワーク、③書写、④「夏のスタート」という問題集(社会・英語)、⑤理科のワーク、⑥理科のプリント、⑦風景画と税に関するポスター(美術)、⑧幼児との触れ合い玩具の制作と感想((家庭)があったところ、本件生徒は、前日にほぼ徹夜で宿題を行い、⑧以外の宿題を提出し、⑧についても、家に忘れて名前を書けば提出できる状態にあったため、家に取りに帰って当日中に提出した(
(甲2(・24、
27~28頁)。
エ 9月2日の夏休み最終日
同日午前11時29分、本件生徒は、英語のワークが終わらないのでLINEで友人に回答を求めた(甲2・25頁)。
また、本件生徒は、生徒Bと夜中まで一緒にゲームをして、「宿題終わんない」と言っていた(甲2・26頁)。
⑺本件集団指導に至る経緯
ア 本件事件のあった9月3日は、夏休み明け初日の始業式のある日であった。本件生徒は起床してからの行動が緩慢で学校に行きたくなさそうな様子であり、原告X1が「どうしたの」と聞くと、本件生徒は「気分が悪い」と答えた(甲2・33頁)。
イ 同日朝、職員室で教員の朝礼が行われた。校長は、教員に対し、①夏休みに大きな問題が起きなかったかどうか、何かあれば教えてくださいと確認をし、②夏休み明けの初日は大事な一日であるから、出席確認を行い、理由もなく休んでいる生徒がいないか、欠席をしている生徒がいないかを確認して報告すること、③2学期は学校行事が多いが、学習にも力を入れましょう等と話した。
ウ 登校後、本件生徒は、本件生徒に社会の宿題を貸していた同じクラスの生徒Bに対し、「社会の宿題を持ってくるのを忘れた」、「やべーよ、やべーよ」と言った。生徒Bからみて、「やべーよ」というのはジョークみたいな口調だったが、焦っている感じもあった。また、本件生徒は、前日に生徒Bと荒野行動というゲームをしていたところ、生徒Bと「昨日調子良かったよね」、(「また勝ちたいね」という内容の会話を交わした(甲6)。
エ 休み時間に、本件生徒と生徒Aは、夏休みの宿題のことで話をした。本件生徒は、夏休みのしおりについて、「適当に書けばいいだろ」と言っていたが、生徒Aからみて、本件生徒は宿題を忘れて怒られることが分かっているから、いつもより元気がなく、落ち込んでいるように見えた(甲5の2)。
オ 午前11時20分頃、本来ならば数学の授業の予定であったが、学級活動に変更になり、Y教諭は、「夏休みを振り返って」というワークシートをまとめさせた(甲2・32頁、甲5の2)。なお、授業が変更になったのは、数学の教諭が欠勤したためであり、Y教諭は、授業の変更によって、数学の教諭が欠勤していることを認識していた。
本件生徒は、夏休みについて、「だらだら」、「ゲームもしたし、宿題ができていなかった」と書き、楽しかったランキングでもゲームと釣りのことを記入した。一日の宅習時間は平均2時間と書いた(甲2・25~26頁)。夏休みのしおりの学習時間記録には、日によって0分、60分、120分、240分、360分などばらつきのある時間を記入している((甲2(・26~28頁)。
⑻本件集団指導
ア 午後1時00分から15分頃、帰りの会が行われた。Y教諭は、「宿題を忘れた人が何人もいる、とても気分が悪い」と言い、「忘れ物をした人はわかっているだろうから、教卓に来なさい」と本件生徒を含む6人を呼び出した((甲2・35頁、甲5の2、甲6)。
その上でY教諭は、他の生徒がいる前で6人に対し、指導した。この時の指導は、厳しい口調ではなく、声量も大きくなかった。
イ Y教諭は、帰りの会の終了後、再び宿題を忘れた6人を集めた。9月3日に提出すべき夏休みの宿題は、①数学のプリント集、②通知表、③夏休みのしおり、④調べ、⑤標語、⑥体話、⑦数学のワーク、⑧理科のプリントの8つがあった。②は保護者にコメントを記入してもらい提出するもの、③は、学習時間や日記など夏休みの生活状況を記録するもの、④は体験入学に参加した学校について調べたことや感想を記録するプリント、⑤は非行防止に関する標語を作成するもの、⑥は夏休み中に親子で運動に取り組み、実施できた日付の印を塗りつぶし、生徒と保護者の感想を記入するものであった。本件生徒は、上記宿題のうち①から⑥を提出できなかった。①の数学のプリント集については紛失していた(甲2・37頁)。
ウ Y教諭は、集めた6人に対し、いつ宿題を提出できるか順番に確認した。本件生徒は、Y教諭に対し、「保体の体話は家に置いています」と申告したところ、Y教諭は、「保体は持ってきなさい」と指導した。そして、本件生徒が「数学のプリントがなくて」と申告すると、Y教諭は、「どうしたらいいの、そこはもう考えなさいね」と述べた。Y教諭が「今日締め切りだから、今日しっかり終わらせて持ってこないと」と言うと、本件生徒は「はい」と小さな声でうなずいた。Y教諭は、体話だけではなく、通知表、夏休みのしおりも取りに帰るよう指導した。この際のY教諭の声量は普通であり、大声や罵声はなかった。
なお、Y教諭は、本件集団指導の際、本件生徒が宿題を持ってくるのを忘れたのか、宿題をやっていないのかは確認することはなかった。①から⑥の宿題について、その日中の宿題提出を求めたものの、何時までに提出すればよいかも決めていなかった。本件生徒が忘れた①から⑥の宿題のうち、通知表については保護者が不在で印鑑が押せない等の相談があるかもしれないが、その他については友達のものを写したりすることで当日中にギリギリ提出できると考えていた。また、本件生徒が忘れた宿題のうち、数学のプリント集については、本件生徒から数学のプリント集を紛失したとの申告を受けていたが、数学の教員に相談して新しくプリント集をもらうか、それができなければ自分に相談をしてくると考えていた。
エ 集団指導後、生徒Aと本件生徒は、職員室で個別指導を受けることとなった。Y教諭が二人に対してのみ個別指導をすることとなったのは、未提出が特に多かったためであった。
⑼本件個別指導
ア Y教諭は、生徒Aの個別指導から開始した。生徒Aが先に職員室に入り、本件生徒は廊下で待機した。
Y教諭は、生徒Aに対して、机をたたきながらなぜ宿題を提出しなかったのかと問いただし、「あなたがやるべきことをしっかりしないのであれば、先生は36人の進路業務しかしなくていいのね(
(クラスには37人在籍していた)」
と、宿題をしないなら進路指導をしないことを伝えた。生徒Aは普段から宿題をよく忘れる生徒であり、Y教諭は生徒Aが夏休みの宿題を忘れたことに呆れ、客観的には大きいといえる程度ではあるが、普段の指導の声に比べれば小さい10段階中の6~8の声量で指導した(甲2・38~39頁)。生徒Aが急いで家に帰って宿題を取ってきますと答え、指導は終了した。生徒Aに対する指導の時間は10~20分程度であった(甲5の2)。
イ 本件生徒が職員室の前で生徒Aの個別指導が終わるのを待機している際、別のクラスの生徒Cが職員室前にやってきた。本件生徒は「Y教諭だから長引くだろうね」、(「ワンチャンすぐ終わるんじゃね」などと冗談めかして、生徒Cとその場にいたもう一人の生徒と3~4分おしゃべりをした(甲7)。
ウ 同日午後1時20分頃、Y教諭は職員室で本件生徒に対する個別指導を開始した。
Y教諭は、本件生徒を立たせたまま、「いったいどのような夏休みを過ごしたのね」と尋ねると、本件生徒は、「ゲームばかりしていた」、「あまり勉強をしなかった」と答えた。そこで、Y教諭は、「7月24日の三者面談の際に頑張ろうねと話したよね」、(「自分の中でどうも思わないね」、(「ゲームばかりしてたらダメでしょうがよ」等と叱責した。「自分の中でどうも思わないね」と発言した時のY教諭の声量は、10段階中の8程度であったが、そのような声量で話したのは数言程度であった((以下、個別指導中で宿題について叱責している部分を「本件宿題指導」という。)。
次に、Y教諭は、「H高校の体験にも行ったでしょう?」、「H高校に向けて頑張れないの」と進路について言及した。この話を始めると、本件生徒は涙を流し始めたので、Y教諭は本件生徒を椅子に座らせて、進路指導に切り替えた。Y教諭が「H高校の体験はどうだった」、「寮の体験はどうだった」と聞くと、本件生徒は「寮がきついというか」「時間がきちきちしている感じで」と返答した。本件生徒が進路に迷いがあると思ったY教諭は、本件生徒に対して、「進
学先を他にあげるとしたら?」と聞くと、本件生徒は「J高校」と答えた。Y教諭は、「まだ悩んでいい時期だよ」とH高校以外の選択肢もあることを伝えた。Y教諭の進路指導の際の声量は10段階中の1であった((以下、進路に関する指導をしている部分を「本件進路指導」という。)。
本件生徒の個別指導を終える際、Y教諭は、「宿題はきちんとださないと」「悩んだり迷ったりしたらまた来なさい」と声をかけた。もっとも、Y教諭は、本件生徒が自分のところに相談に来ることはないと思っていた。
本件生徒は職員室の出入り口で立ち止まり、涙を拭い、職員室を立ち去った(甲2・39~42頁)
エ 本件生徒の個別指導は、約10分間行われた。職員室には教員が4人在室していた(甲2・40頁)。
⑽指導後から本件生徒の自死
ア 午後1時58分、本件生徒は生徒Bに対して「本当にごめん」とLINEを送信した。なお、このLINEについて、生徒Bは、本件生徒に貸していた社会の宿題を忘れたから、「宿題を忘れてごめんね」という意味だと思った(甲6・3頁)。
イ 午後5時40分頃、Y教諭は、原告X1に対して、「本件生徒がどこへ行ったか知りませんか」と連絡した。Y教諭は、原告X1より「本件生徒が家にいる様子がない」との連絡を受け、残っていた教員と校内外を探した。午後6時前頃、Y教諭が本件生徒宅を訪問し、本件生徒宅の玄関前で原告X1と合流した。午後6時9分頃、ドアの取っ手にロープをかけ、ドアに寄り掛かる形で首を吊り自死している本件生徒を発見した。
⑾指導死の周知状況等
ア 指導死の状況(甲20)
指導死とは、指導と考えられている教員の行為により、子供が精神的あるいは肉体的に追い詰められ、自死することをいい、平成25年1月頃から始まった大阪桜宮高校の体罰自殺事件報道をきっかけに広く使われるようになった言葉である(甲21)。
教育評論家のKがまとめたところによれば、平成元年から令和4年3月までの間に教員の生徒に対する指導を契機として生徒が自死(未遂を含む。)したことが窺われる事案が、全国で少なくとも108件(本件を含む。)ある。また、このうち新聞記事等から有形の暴力が確認できる事案は、13件である。
イ 生徒の自死予防等に関する取組等
本件事件前の自死予防等に関する取組等の状況は以下のとおりである。(ア) 児童生徒の自殺予防にかかる取り組みについて(通知)(甲4)文部科学省初等中等教育局児童生徒課長は、平成28年7月8日及び平成29年6月7日に、各都道府県教育委員会指導事務主管部課長等宛てに、8月下旬から9月上旬の長期休業明けに児童生徒の自死が急増する傾向があり、児童生徒の自死予防に向けた取り組みを積極的に実施するよう通知した。(イ) 生徒指導提要(甲12、16)
平成22年3月に公表された生徒指導提要(甲16)では、個別指導を効果的に進めるには、日常の学校生活を通して児童生徒と教員の信頼関係を作ること、校長のリーダーシップの下、校務分掌組織を整備し、家庭や地域住民の意向を把握し、関係機関との密接な協力・連携体制を構築する必要があること、いじめや不登校、事業虐待といった問題も校長のリーダーシップの下、組織的な対応を行うことで、適切に対応できること、生徒指導にあたっては方針・基準を明確にする必要があることなどが記載されている。令和4年12月に文部科学省から公表された生徒指導提要(甲12)は、不適切な指導と考えられ得る例として、大声で怒鳴る等の威圧的、感情的な言動で指導すること、児童生徒の尊厳やプライバシーを損なうような指導を行うこと、児童生徒が著しく不安な圧迫を感じる場所で指導すること、指導後に適切なフォローを行わないこと等を挙げており、教職員による不適切な指導等が児童生徒の不登校や自死のきっかけになる場合があるとしている。(ウ) 体罰関連行為のガイドライン(甲13)
平成26年1月に東京都教育委員会から公表された体罰関連行為のガイドラインは、暴言や行き過ぎた指導は、体罰概念に含まれないが、体罰と同様に教育上不適切な行為であり許されないとしている。また、暴言等とは、教員が児童生徒に恐怖感、侮辱感、人権侵害等の精神的苦痛を与える不適切な言動をいい、行き過ぎた指導とは、運動部活動やスポーツ指導において、児童生徒の現況に適合していない過剰な指導をいうとしている。
(エ) 教師が知っておきたい子供の自殺予防(甲14)
文部科学省は、平成21年3月、学校現場で子供に接する教師に向けて作成した子供の自死防止に関するマニュアルとして「教師が知っておきたい子供の自殺予防」を作成した(以下では、単に「マニュアル」という。)。マニュアルでは、子供の自死の実態として、20歳~39歳までの死因の1位は自死であり、15~19歳の世代でも自死は不慮の事故に次いで第2位の死因になっていること、中・小学生の自死者は毎年300人前後で推移しているが、少子化のため自死率は上昇傾向にあること((なお、平成19年時点において、中・高校生10万人に対する比率は、4人弱である。)、中学・高校教師の5人に1人は生徒の自死に、3人に1人は自死未遂に遭遇したことがあるという調査結果があること等を紹介している。
その上で、子供の自死は遺書が残されていないことが多いため、原因が特定されない場合が少なくなく、大人には信じられないような些細になきっかけで自ら命を絶つことがあるとし、自死の引き金となる「直接のきっかけ」が原因として捉えられがちだが、自死を理解するためには複雑な要因が様々に重なった準備状態に目を向けることが必要であること等を指摘した上で、自死の危険因子((自死未遂、心の病、安心感の持てない家庭環境、独特の性格傾向[未熟・依存的、衝動的、極端な完全癖、抑うつ的、反社会的]、喪失体験、孤立感等)や自死の予兆(自死のほのめかし、集中力がなくなる、投げやりな態度、健康や自己管理が疎かになる、いつもなら楽々できる課題が達成できない等)が挙げられ、因子を数多く認める子供には潜在的に自死の危険が高いと考える必要があるとしている。
(オ) 生徒指導に関する取組の徹底について(通知)(甲24)
鹿児島県教育委員会教育長は、平成22年4月8日、各市町村教育委員会教育長に「生徒指導に関する取組の徹底について(通知)」を発した。通知では、児童生徒にかかわる事件や事故の発生等が依然として憂慮すべき状況にあり、各学校が危機意識を持つこと、学年初めの時期には予期しない問題行動や事故の発生等が懸念されることについて、周知徹底を図り、必要な取り組みをすること等を求めている。
2 争点1(本件指導の違法性)について
⑴学校教育法11条は、「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。」と定めており、一般に、児童に対する叱責や学習内容や学校行事における指示は、指導の一環として教員に認められた行為といえる。
もっとも、教員は、児童に懲戒を加えるに当たって、児童の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をすることが義務付けられており(学校教育法施行規則26条1項)、児童に対する指導は、児童の権利侵害を伴うことも少なくない。そうすると、児童の指導は教員の裁量に委ねられる部分があることは否定できないことを踏まえても、教育的効果と児童の被るべき権利侵害の程度とを比較衡量し、児童の心身の発達状況等を考慮した上で、指導による教育的効果を期待し得る合理的な範囲のものと認められる場合に限り正当な指導の一環として許容されるべきであり、その範囲を超えた場合には、指導としての範囲を超えた違法なものとなると解すべきである。
⑵Y教諭の指導が正当な指導の一環として許容されるものであるか検討する。
ア 本件集団指導について
本件集団指導は、帰りの会の中でと帰りの会終了後の2度にわたって行われている。このうち、前者は、他の生徒の面前で行われたものであるが、対象は複数の生徒であることや、特段威圧的あるいは大声を出したともいえないこと、長時間に及んだ等の事情も認め難いことからすれば、違法なものとは評価できない。
他方、後者については、本件生徒を含む6人に対する指導であるが、各人に順番に確認し、指示するなどしているから、実質は個々に対する指導と評価し得る。そして、Y教諭は、宿題を当日中に持参するよう指示し、数学プリント集については、紛失をしたと申告を受けたものの、自分で考えて対応するよう述べているものである。
もっとも、本件集団指導の後には、生徒A及び本件生徒に対する本件個別指導をすることとなり、これら指導は連続してされているといえるところ、この時点では、本件個別指導において、どのようなフォローがされるか等も不透明だったものである。そうすると、本件集団指導のうち、この部分については、その後にされた本件個別指導も併せて違法性を判断するのが相当である。
イ 本件個別指導について
(ア) 指導の必要性について
本件生徒は、9月3日に提出すべき夏休みの宿題8つのうち6つを提出しておらず、その数が特に多いこと、本件生徒が中学三年生という進学のために特に素行や成績に気を使わなければいけない時期であったこと、本件生徒が「夏休みの振り返り」のワークシートに「だらだら」、「ゲームもしたし、宿題ができていなかった」等と記載していたこと、夏休みの宅習時間について、夏休みのしおりに「1日の家庭学習は6時間以上取り組むこと」と記載されている一方で、本件生徒の宅習時間が0時間から6時間の間でばらつき推移し、他の生徒よりも宅習時間が少なく見えること等からすれば、提出期限に宿題を提出できなかった自己管理の甘さや、夏休みと今後の学業への向き合い方について指導の必要性があったことは否定し難い。
原告は、本件集団指導に加えて本件個別指導をする必要はないと主張するが、上記の事情からすれば、本件生徒についてさらに個別に指導をする必要があると判断することが不合理とはいえず、個別指導について、必要性を欠くとはいえない。
(イ) 指導の態様や指導内容について
次に指導の態様や内容についてみると、Y教諭は、本件集団指導(帰りの会の後)においては、当日中に宿題を提出することを求めるなどしている。その際、当日、数学の教諭が欠勤しており、数学のプリント集の再交付を受けることができない状況であったにもかかわらず、自分で考えるよう突き放すような態様を取っている。
そして、本件個別指導においては、職員室において、前半で、10段階中8の大きさの声量で(「自分の中でどうも思わないね」、「ゲームばかりしてたらダメでしょうがよ」等と本件生徒を叱責している。バスケットボール事件時のY教諭の声量(10段階中の10、甲3)が離れた教室でも聞こえるほど大きいことからすれば、本件生徒への宿題指導の際の声量は、それよりも小さいものであったとしても、教員室から漏れ出るような大声であったと推認でき、対面でY教諭と対峙している本件生徒に対しては、威圧感を与えるものであったと評価できる。本件生徒とY教諭は1体1の対面で会話していたから、教員室から漏れ出るような大声で本件生徒を叱責する必要があったとはいえないし、本件生徒が8月21日の登校日に宿題をすべて提出していたこと、過去に宿題を忘れることもほとんどなかったこと、本件生徒が忘れた宿題のうち学力に関するものは数学のプリント集だけであったことからすれば、本件生徒について威圧的に接する必要は見出し難く、このような指導が教育的効果を期待できるとも認め難い。
本件集団指導で求められた数学のプリント集の当日提出は事実上不可能であったところ、Y教諭は本件個別指導においても威圧的な態度で本件生徒に接しており、事実上不可能な行為に対して何らのフォローもなく、かえって威圧的な言動により、このような対応を取らざるを得ないとの本件生徒の認識をより深めさせるものであったといえる。Y教諭は、その後に進路指導に切り替え、声量を落とし、最後は、(「宿題はきちんとださないと」「悩んだり迷ったりしたらまた来なさい」と声をかけて本件個別指導を終えたものの、これらは進路に関するやり取りでしかなく、宿題の提出については撤回等をするものでもなかったから、上記のような印象を変えるものとはいえない。本件生徒からみれば数学のプリント集の当日提出が不可能であることを相談できるような状況にあったとは言い難く、当該指導は、全体としてみれば、本件生徒に対し、不可能を強いるものであったといえる。そして、長時間ではないものの強度に威圧的な態度を取っていることも踏まえれば、当該指導は、正当な指導の範囲を超えたものとして、違法と評価するのが相当である。(ウ) その他の検討要素
Y教諭は、本件生徒に対しては、バスケットボール事件の際のほか、3年になった後で2度にわたって個別指導をしている。そして、本件指導は夏休み明けにされているところ、長期休業明けに児童生徒の自死が急増する傾向があることが指摘されているところである。
もっとも、Y教諭の本件生徒に対する過去の指導は、時期を異にし、指導の理由も異なるから、本件指導の違法性の判断にあたり、これらの点は考慮すべきではない。指導が夏休み明けにされていることについても、長期休業明けに児童生徒の自死が急増する傾向はあるものの、それをもってこの時期に指導をすることが許されない等とはいえない。
その他、原告らは、Y教諭が個別指導においてH高校の事を持ち出したことも挙げるが、本件進路指導に関するやり取りは、大声を上げるとか威圧的といった状況はなく、本件生徒が悩んでいる様子を見せたことから、まだ悩んでいい時期だよなどとして指導を終わらせており、違法な指導とは評価できない。
3 争点2((本件指導と本件生徒の自死との間の相当因果関係ないし予見可能性)について
⑴本件指導と本件生徒の自死との間の条件関係
本件事件直前の本件生徒の生活状況に特に問題はみられず、悩みなど自死を窺わせる状況も見出せないことからすると、本件生徒は、本件指導を契機として、自死に至ったと認められる。
⑵相当因果関係(予見可能性)
ア 法的な意味での因果関係((相当因果関係)が認められるためには、当該結果(本件生徒の自死)の発生に対する予見可能性が必要である。
原告は、本件生徒が精神的に追い詰められたことの予見可能性があれば足り、自死すら選択しかねないほどに強く追い込まれたことの認識は不要と主張するが、精神的に追い詰められるといっても様々な程度があり得るし、精神的に追い詰められたからといって、誰もが自死を選択するものではない。そうすると、精神的に追い詰められることと自死を選択することは次元が異なり、自死に対する法的責任を負わせるためには、少なくとも自死の可能性について予見し得ることが必要である。
イ 上記認定のとおり、生徒指導提要では、生徒の自死の可能性が触れられているほか、マニュアルでは、子供の自死が深刻な状況にあることや少なくない割合の教師が生徒の自死や自死未遂に遭遇したことがあることなどが具体的なデータを伴って紹介されている。さらに、文部科学省や鹿児島県教育委員会からは、児童生徒の自死予防にかかる取り組みに関する通知が発出されているところである。
また、指導死に限定してみても、平成25年1月頃から始まった大阪桜宮高校の体罰自死事件報道をきっかけとして、指導死という言葉は広く使われるようになったこと、教育評論家のKがまとめたところによれば、平成元年から令和4年3月までの間に教員の生徒に対する指導を契機として生徒が自死((未
遂を含む。)したことが窺われる事案が、全国で少なくとも108件(本件を含む。)あることは上記認定のとおりである。
そうすると、教育現場においては、生徒の自死や指導死は、起こり得る可能性があるとの認識は共有されていたものといえる。
ウ もっとも他方において、子供の自死の実態は深刻ではあるものの、原因が特定されてない場合が少なくなく、大人には信じられないような些細なきっかけで自ら命を絶つこともあると指摘されている。教育評論家のKが指導死についてまとめたところをみても(甲20)、ある程度継続的に厳しい指導がされていた事案が多い一方、単発の指導が自死のきっかけとなったものもあるほか、自死のきっかけとなった指導の程度や内容、必要性等は多様であり、何らかの類型化や基準化ができるとまでは言い難い。令和4年12月に文部科学省から公表された生徒指導提要(甲12)には、教職員による不適切な指導等が児童生徒の不登校や自死のきっかけになる場合があるとの記載はあるが、抽象的な指摘にとどまる上、発行されたのは本件事件後である。
もとより、教員の指導に対しては、生徒が改善の契機と前向きに受け止めるか、逆に否定的評価を受けたと後ろ向きに受け止めるか、指導に対してどのような感情を抱くか等は、生徒の内面の精神活動に関するものである上、当該生徒の性格やその時点における精神状態、当該教員との関係性、生徒が置かれている状況等によっても異なるから、これを外部から的確に把握し、予見することは不可能である。
このようにしてみると、指導によって生徒が自死に至る可能性を完全に排斥することはできない一方、どのような指導をすれば生徒が自死に至る可能性があるか、その可能性はどの程度かを具体的に見通すことは困難と言わざるを得ない。他方で、生徒に対する指導が教育上必要であることは否定できず、生徒に精神的負荷を与えずに指導を終えることもできない。
エ 以上のような状況に照らせば、起こり得る可能性として生徒の自死や指導死が想定されなくはないことや、不適切な指導等が生徒の自死のきっかけとなり得ることが一般的に認識されていたことのみをもって予見可能性があるということはできず、生徒の自死の予見可能性があるというためには、指導自体が執拗であるとか、暴力を伴う、強度の人格否定を伴うなど、当該生徒に重大な精神的苦痛を与えるものであることが明らかである場合や、生徒が精神的に不安定であるとか、自死の危険因子が複数みられる中で、それらに配慮することなく指導を繰り返したような場合に限られると解するのが相当である。本件についてみると、本件指導は、宿題を忘れた生徒に対する指導として必要性はある上、その指導が長時間に及ぶものとは認められない。本件個別指導において、Y教諭は大声を出したものの、それ自体、2、3回にすぎないほか、指導は、職員室において行われているものの、他の生徒の面前と異なり生徒の羞恥心を著しく掻き立てるものとはいえない。威圧性という側面だけでみれば、他の教員の目があるため、抑制的にならざるを得ないとの評価も可能である。
また、数学のプリント集を忘れた本件生徒に対し、なおも宿題の提出を求め、どうすればいいかは自分で考えなさいと突き放すような対応をしたことは認められるものの、そのやり取り自体は単発のやり取りである。当該指導は、不可能を強いるものとして違法と評価し得るものの、当該指導が不可能を強いるものとの認識を本件生徒が実際に有したかどうか(たとえば、プリント集の再交付を受けることを試みたとか、その過程で数学の先生が欠勤していることを認識し、再交付を受けることを不可能と認識するような過程があったか)等は不明であり、不可能を強いられたことをもって精神的に追い詰められたとまでは認定できないし、仮にプリント集の提出が不可能と認識したとしても、Y教諭にその旨を説明して猶予を受ける等の余地があったことも否定できない。
また、本件生徒には精神的に不安定な面があったとは認められず、自死の危険因子が複数みられる等の事情もないことも踏まえれば、本件において、本件生徒の自死について予見可能性があるとはいえない。
オ なお、以上の点に関し、原告らは、Y教諭が今までにも威圧的な指導をしており、本件生徒がそれによるストレスを蓄積していたと考えられること、夏休み明けには生徒の自死が急増することが認識されていたことを挙げて、予見可能性があると主張する。たしかにY教諭は威圧的な指導をしたことはあるものの、本件生徒に対して過去に指導したのは3回にすぎず、それもそれぞれ異なる時期に異なる理由による単発のものであって、その指導が特に厳しいとか威圧的あるいは執拗なものであったとも認め難いことからすると、このようなY教諭の過去の指導からY教諭と本件生徒の間で特別な関係が形成されていたとか、本件生徒の自死について予見できたとはいえない。
夏休み明けに生徒の自死が急増することが認識されていた点については、文部科学省初等中等教育局児童生徒課長による通知(甲4)や鹿児島市教育委員会委員長による通知(甲24)において、夏休み明けの生徒の自死が急増することは指摘されているところである。もっとも、これらの通知は、このような状況に向けた取組として、早期発見に向けた取組や集中的な見守り活動等をすることが考えられるなどとするものであり、教員の指導のあり方等について何らかの指針を示すものとはいえない。そうすると、夏休み明けに本件指導をすることを踏まえても、本件生徒の自死について予見できたとはいえない。
カ 以上によれば、当時の指導死に関する周知状況や当日が夏休み明けの初日であることを考慮しても、Y教諭が本件生徒の自死を予見することができたとは認められない。
⑶なお、原告らは、心理的負荷による精神障害の認定基準を用い、本件生徒は本件個別指導によって心理的視野狭窄に陥ったところ、これらは自死の心理の典型であり、これらの心理が働いた本件生徒が自死した本件事件については相当因果関係が認められるべきであると主張する。
しかし、認定基準は、「業務によりICD―10のF0からF4に分類される精神障害を発病したと認められる者」が自死を図った場合に業務起因性を推定するものである(甲11・10頁)であるところ、心理的視野狭窄はこれに該当する精神障害ではなく、その他に本件生徒が自死までの間に精神障害を発症したとも認められないから、原告らの主張は採用できない。
4 争点3(校長の安全配慮義務違反)及び争点4(校長の予見可能性)について原告らは、校長は生徒指導に関する環境を整える義務に違反しており、安全配慮義務があると主張する。
そこで検討すると、校長は、Y教諭が大声で指導することを認識していたほか、校長自身が直接認識していなかったとしても、他の教員から確認するなどすれば、Y教諭が机を蹴ったりして指導をしていたことも確認し得たと認められる。校長は、Y教諭について、厳しい面もあるものの、けじめがあり、厳しいだけではなくフォローをしていること、体育の先生であることもあって生徒が嘘をつくような時には、大声で厳しい指導もやむを得ないと考えており、肯定的に捉えていたところ、Y教諭の指導に対しては、生徒の中からも肯定的な意見はあったし、教員に至っては、全体的に見て好意的に捉えられていたものである。
Y教諭がしていた指導について、指導の必要性を欠くとまではいえず、少なくとも本件当時、体罰を伴うような指導をしていたとは認められない。教員による生徒の指導については、教育的観点から厳しい指導が求められる場面も想定されるところ、Y教諭の厳しい指導について、他の教員や保護者から特に問題視されていたような状況も窺われない。
そうすると、校長がY教諭について特に改善のための指導やその他の働きかけをしたとはいえないものの、これをもって、安全配慮義務に違反するとまではいえない。
5 争点5(損害額)について
⑴上記のとおり、Y教諭及び校長が本件生徒の自死を予見することができたとは認められないから、本件生徒が死亡したことを前提とした本件生徒及び原告らの損害を認めることはできない。
他方、Y教諭による本件指導の内容、態様を考慮すれば、本件指導によって本件生徒が精神的苦痛を被ったと認められる。上記に検討した本件の指導内容やその他本件の一切の事情を総合すれば、かかる精神的苦痛の慰謝料として30万円を認めるのが相当であり、弁護士費用として3万円を認めるのが相当である。
⑵なお、弁論の全趣旨によれば、日本スポーツ振興センターは、原告X1に対し、災害共済給付金として2800万円を給付したことが認められる。もっとも、この給付は、違法な指導に対する精神的苦痛を填補する趣旨とは認められないから、損害の算定に当たり考慮しない。
6 争点6(素因減額)について
本件生徒につき、素因減額の対象となるような何らかの素因を有していたことを認めるに足りる証拠はない。また、上記5で判断した慰謝料は、Y教諭の指導内容から一般に想定される精神的苦痛を踏まえ算定したものであり、本件生徒が素因等によって特に大きな精神的苦痛を被り、損害が拡大したこと等を前提とするものではない。したがって、素因減額によって公平を図る必要があるとは認められない。
第4 結論
以上によれば、原告X1の請求は、33万円及び平成30年9月3日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。よって、主文のとおり判決する。
鹿児島地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 前原栄智
裁判官 和田義光
裁判官 小泉直樹
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/97124/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。