税務訴訟資料第260号-12(順号11368)
横浜地方裁判所平成●●年(○○)第●●号所得税更正処分等取消請求事件
国側当事者・国(藤沢税務署長)
平成22年1月27日棄却・確定
判決
原告甲
被告国
上記代表者法務大臣千葉景子
処分行政庁藤沢税務署長
新妻幹夫
指定代理人玉田康治
同雨宮恒夫
同小松欣子
同金田孝司
同山中義一
同伊藤仁志
同佐藤直志
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 藤沢税務署長が平成19年12月21日付けでした原告の平成16年分所得税の更正処分のうち総所得金額147万6926円を超える部分及び還付される税額5万0160円を超えない部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
2 藤沢税務署長が平成19年12月21日付けでした原告の平成17年分所得税の更正処分のうち総所得金額125万2696円を超える部分及び還付される税額5万5186円を超えない部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
3 藤沢税務署長が平成19年12月21日付けでした原告の平成18年分所得税の更正処分のうち雑損控除の額を184万1000円として計算した額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の骨子
本件は、原告が、①平成16年分所得税につき、原告に債務を有する者との間で締結した和解契約に基づき、同債務者に対する債権を放棄したとする金額を総合短期譲渡所得の損失金額であるとして確定申告をし、②平成17年分所得税につき、原告がかつて経営していた会社に対し求償権を有する者との間で締結した約定に基づき負担することとなった債務の額及び原告に債権を有する者との間で締結した和解契約に基づき同債権者に対して弁済した金額をそれぞれ総合短期譲渡所得の損失金額であるとして確定申告をし、③平成18年分所得税につき、借入金債務の弁済額が雑損控除の金額であるとして、それぞれ確定申告をしたところ、処分行政庁である藤沢税務署長が、上記①及び②についてはいずれも資産を譲渡した事実がないことから譲渡損失に該当せず、上記③については雑損控除の適用要件に該当しないなどとして、それぞれ平成16年分、平成17年分及び平成18年分の所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)を行ったことから、原告が、本件各更正処分の一部及び本件各賦課決定処分の取消しを求めている事案である。
2 基礎となる事実(掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 確定申告書の記載等
ア 平成16年分所得税関係
(ア) 原告は、平成17年3月1日、藤沢税務署長に対し、平成16年分の所得税について、別表1「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件16年分申告書」という。)を提出して確定申告をした(甲1の4、乙1)。
本件16年分申告書には、原告が平成16年11月2日付けで訴外乙(以下「乙」という。)との間で締結した和解契約(以下「本件乙和解契約」という。)に係る「和解契約書」(乙4。以下「本件乙和解契約書」という。)が添付されていた(弁論の全趣旨)。
(イ) 本件乙和解契約書には、要旨、次の記載がある(乙4)。
a 債権者原告
b 債務者乙
c 原告と乙は、原告が保有する乙に対する債権について、以下のとおり和解契約を締結する。
(a) 債権の内容
乙は、原告に対して以下の内容の債務を負担していることを認諾する。
① 平成10年8月7日、不動産名義変更登記印紙代立替
20万8000円
② 平成10年8月10日、司法書士手数料立替・振込料共
2万2825円
③ 平成11年3月2日、弁護士着手金立替・振込料共
50万0315円
④ 平成11年3月2日、金銭消費貸借
50万円
⑤ 平成11年5月6日、司法書士手数料立替・振込料共
4万8025円
⑥ 平成13年10月1日、金銭消費貸借・振込料共
13万0420円
⑦ 以上合計:140万9585円
(b) 和解の内容
乙の経済状態が、平成12年3月ころに破綻を来し、その後も怪我をして入院退院を繰り返すなどして、経済面で立ち直る目算が立たない現況にかんがみ、また、原告も高齢に達したので身辺の整理を計りたい希望があり、この際、乙が本契約書調印と同時に以下の金員を原告に支払うことにより、本件を和解とし、決着することとする。
① 任意弁済金額:10万円
② 弁済方法:現金受け渡し
(c) 和解条件
原告、乙ともに本契約を認証し、乙が原告に10万円の支払を行ったことにより、原告はその余の請求権をすべて放棄する(以下「本件債権放棄」という。)。
(ウ) 本件16年分申告書第一表の総合短期譲渡所得に係る収入金額等の欄には、「△1,309,585円」との記載があり、同第二表の「配当所得・雑所得(公的年金等以外)・総合課税の譲渡所得・一時所得に関する事項」欄には、本件債権放棄について、以下の記載がある(甲1の4、乙1)。
a 所得の種類「債権放棄」
b 種目・所得の生ずる場所「G町乙」
c 収入金額「100,000円」
d 必要経費等「1,409,585円」
e 差引金額「△1,309,585円」(以下「本件債権放棄額」という。)
イ 平成17年分所得税関係
(ア) 原告は、平成18年2月28日、藤沢税務署長に対し、平成17年分の所得税について、別表2「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件17年分申告書」という。)を提出して確定申告をした(乙2)。
本件17年分申告書には、原告が平成16年8月20日付けで訴外丙(以下「丙」という。)との間で締結した約定(以下「本件丙約定」という。)に係る「債権債務の処置並びに弁済に関する約定書」(乙5。以下「本件丙約定書」という。)、及び、原告が平成16年9月8日付けで訴外A株式会社(以下「A」という。)との間で締結した和解契約(以下「本件A和解契約」という。)に係る「和解契約書」(乙6。以下「本件A和解契約書」という。)が添付されていた(弁論の全趣旨)。
(イ) 本件丙約定書には、要旨、次の記載がある(乙5)。
a 債権者丙
b 債務者原告
c 丙と原告は、丙が原告に対して保有すると主張する(a)の債権を、原告は債務として負担することに同意し、かつ弁済を(b)の方法、条件にて行うものと約定した。
(a) 債権の内容
平成10年4月16日ころ、B株式会社(以下「B社」という。)が負担していたC金融公庫大森支店からの借入金につき、連帯保証人であった丙が、同公庫の請求に応じて同社の債務の一部として200万円を肩代わり返済した。その後において原告は自己の所有するD株式会社の株券をもって30万円を弁済してあったが、残額金170万円の負担についての約束はなかった。原告はこの残額すべてを債務として負担することに同意し、以下のとおり弁済を行うことを約定した(以下、原告が本件丙約定書により負担することとなった丙に対する債務額170万円を「本件丙債務額」という。)。
(b) 契約の内容
原告は170万円を以下の条件により月賦で返済するものとする。
① 弁済金額:170万円
② 弁済方法:平成16年9月5日を初日として、毎月初め5日ころに2万5000円を丙の指定する銀行口座に、振込料は原告の負担にて振り込むものとする。
③ 利息条件:債務発生以前も弁済開始後も金利負担はしないものとする。したがって、元金返済をもって自動的に債務終了とする。
④ 特約条項:原告死亡の場合は、その時点で債務終了とし、原告の遺族は本債務の相続義務を免れるものとする。
(ウ) 本件A和解契約書には、要旨、次の記載がある(乙6)。
a 債権者A
b 債務者原告
c AとE信用金庫との平成15年3月27日付け債権譲渡契約により、Aが主債務者B社及び原告に対して有する債権について、Aと原告とは以下のとおり和解契約を締結する。
(a) 譲渡債権の内容
原告は、Aに対し以下の譲渡債権について連帯保証債務を負担していることを確認する。
①ⅰ原債権者E信用金庫
ⅱ主債務者B社
ⅲ契約の種類金銭消費貸借証書
ⅳ契約年月日平成5年7月30日
ⅴ契約金額3000万円
ⅵ債権残元本794万3608円
ⅶ利息39万9590円
ⅷ遅延損害金率18.25%
②ⅰ原債権者E信用金庫
ⅱ主債務者原告
ⅲ契約の種類金銭消費貸借証書
ⅳ契約年月日平成2年3月9日
ⅴ契約金額4000万円
ⅵ債権残元本1192万2688円
ⅶ利息70万5058円
ⅷ遅延損害金率18.25%
(b) 和解内容
前項記載の債務について、原告は、以下のとおりAに支払う。
① 任意弁済金10万円
② 返済期限平成16年9月17日
③ 返済方法Aに持参またはA指定の銀行口座に振込払いとする。
(c) 上記(b)に基づき、原告が期限の利益を喪失することなくAに支払をしたときは、Aはその余の請求権を放棄する。
(エ) 原告は、平成16年9月10日、A指定の銀行口座に10万円を振り込んだ(乙7。以下、原告がAに支払った上記10万円を「本件A弁済額」といい、本件丙債務額と併せて「本件丙債務額等」という。)。
(オ) 本件17年分申告書第二表の「配当所得・雑所得(公的年金等以外)・総合課税の譲渡所得・一時所得に関する事項」欄には、以下の記載がある(乙2)。
a 本件丙債務額について
(a) 所得の種類「保証債務」
(b) 種目・所得の生ずる場所「丙」
(c) 収入金額「△1,700,000円」
(d) 必要経費等(空欄)
(e) 差引金額「△1,700,000円」
b 本件A弁済額について
(a) 所得の種類「保証債務」
(b) 種月・所得の生ずる場所「A」
(c) 収入金額「△100,000円」
(d) 必要経費等(空欄)
(e) 差引金額「△100,000円」
ウ 平成18年分所得税関係
(ア) 原告は、平成19年3月1日、藤沢税務署長に対し、平成18年分の所得税について、別表3「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件18年分申告書」という。)を提出して確定申告をした(甲1の1、乙3)。
本件18年分申告書には、「(丁)(¥2,200,000)」と題するメモ(乙8)が添付されていた(弁論の全趣旨)。同メモには、「回数」、「振込実行日」及び「金額」の各欄が設けられており、これらの欄には30回分の振込に関する記載があり、各「金額」欄に記載された括弧書の金額以外の金額を合計すると、184万1000円(以下「本件丁弁済額」という。)となる。
(イ) 原告が平成20年4月22日に国税不服審判所に提出した審査請求書には、原告が事実関係を証するための資料として、原告と訴外丁(以下「丁」という。)との間における債権債務に関する、東京法務局所属公証人が平成6年4月5日作成した平成●●年第●●号債務弁済契約公正証書(乙9。以下「本件公正証書」という。)の写しが添付されていた(弁論の全趣旨)。
本件公正証書には、要旨、次の記載がある(乙9)。
a 第1条債務者原告は、債権者丁に対し、平成5年11月1日、原告が丁からB社の株式の譲渡を受けるに当たり、丁から借り受けた675万円の返還債務を負担していることを承認し、同債務を以下の約定により弁済することを約し、丁はこれを承諾した。
(a) 元金は、平成8年10月31日限り、丁の指定する方法により一括して支払う。
(b) 利息は年3.5パーセントと定め、起算日を平成5年11月1日とし、平成6年から同8年までの間毎年10月31日限り既経過分を丁の指定する方法により支払う。
b 第2条原告が利息の支払を怠ったときは、丁からの通知催告がなくても原告は当然に期限の利益を失い、直ちに元金を完済しなければならない。
(ウ) 本件18年分申告書第一表の雑損控除欄には、「1,841,000円」との記載があり、同第二表の雑損控除欄には、本件丁弁済額について、以下の記載がある(甲1の1、乙3)。
a 損害の原因「保証債務」
b 損害年月日「18・10・30」
c 損害を受けた資産の種類など「株式損害補償」
d 損害金額「1,841,000円」
(2) 本件各更正処分等
ア 平成16年分所得税の更正処分
藤沢税務署長は、平成19年12月21日、別表1「更正処分等」欄記載のとおり、平成16年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(甲2の3)。
上記各処分に係る通知書に記載された上記更正処分の理由は、要旨、以下のとおりである(甲2の3)。
(ア) 総合短期譲渡所得の金額について
本件16年分申告書に総合短期譲渡所得の金額として記載されている△130万9585円は、原告が乙に対して有していた債権を放棄したものであり、所得税法23条《利子所得》から35条《雑所得》までに規定するいずれの所得にも該当しない。
(イ) 雑損控除について
本件16年分申告書に雑損控除の額として記載されている10万6046円は、交通事故に関連して支出した費用に係るものであり、所得税法72条に規定する災害又は盗難若しくは横領により生じた損失には該当しないので、雑損控除の対象にはならない。
イ 平成17年分所得税の更正処分
藤沢税務署長は、平成19年12月21日、別表2「更正処分等」欄記載のとおり、平成17年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(甲2の2)。
上記各処分に係る通知書に記載された上記更正処分の理由は、要旨、以下のとおりである(甲2の2)。
(ア) 給与所得について
本件17年分申告書に給与所得の金額として記載されている138万3400円は、正しく計算すると138万2400円となる。
(イ) 総合短期譲渡所得の金額について
本件17年分申告書に総合短期譲渡所得の金額として記載されている△180万円は、丙及びAに対する債務を返済したものであり、所得税法23条《利子所得》から35条《雑所得》までに規定するいずれの所得にも該当しない。
ウ 平成18年分所得税の更正処分
原告は、平成19年4月20日、藤沢税務署長に対し、別表3「更正の請求」欄のとおり記載した平成18年分所得税の更正の請求書(乙12の1枚目。以下「本件更正請求書」という。)を提出して、更正の請求をした。その際、原告は、本件更正請求書とともに、これと同様の内容を記載した「平成18年分の所得税の申告書B」(乙12の2枚目。以下「本件B様式申告書」という。)を提出した(弁論の全趣旨)。
上記更正の請求に対し、藤沢税務署長は、同年12月19日、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を行い(乙13)、さらに、同月21日、別表3「更正処分等」欄記載のとおり、平成18年分所得税の更正処分(以下「本件18年分更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(甲2の1)。
本件18年分更正処分及び上記賦課決定処分に係る通知書に記載された本件18年分更正処分の理由は、要旨、以下のとおりである(甲2の1)。
(ア) 給与所得の金額について
本件18年分申告書に給与所得の金額として記載されている155万8000円は、正しく計算すると155万8800円となる。
(イ) 雑所得の金額について
本件18年分申告書に雑所得の金額として記載されている177万2622円は、正しく計算すると166万3496円となる。
(ウ) 雑損控除について
本件18年分申告書に雑損控除の額として記載されている184万1000円は、B社の株主であった丁に対して、その持分を割賦補償弁済したものであり、所得税法72条に規定する災害又は盗難若しくは横領により生じた損失には該当しないので、雑損控除の対象にはならない。
(エ) 医療費控除について
本件18年分申告書に医療費控除の額として記載されている11万7625円は、駐車場代として支出した金額5200円を含めたところで計算されているが、当該金額は所得税法73条2項及び同法施行令207条に規定する医療費には該当しない。
(3) 不服申立て等
ア 原告は、平成20年1月24日、藤沢税務署長に対し、本件各更正処分等を不服として異議申立てをしたところ、同税務署長は、同年3月31日付けで、上記異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした(甲9)。
イ 原告は、平成20年4月22日、国税不服審判所長に対し、本件各更正処分等を不服として審査請求をした。
国税不服審判所長は、同年12月16日、上記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした(甲9)。
ウ 原告は、平成21年4月28日、本件訴えを提起した。
3 争点及び当事者の主張
(1) 原告の平成16年分所得税の計算上、本件債権放棄額を譲渡所得の損失額として他の各種所得の金額から控除することができるか否か。
(被告の主張)
譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであると解されている。
本件債権放棄額は、原告が有していた乙に対する債権の放棄額であり、所得税法33条に規定する資産を譲渡したことによる所得ではない。
原告は、乙から支払われる10万円について、譲渡所得に係る収入であると申告しているが、上記10万円の収入は、原告が乙に対して有する債権の一部回収による収入にすぎず、資産の譲渡による収入ではないから譲渡所得に係る収入ではない。
それゆえ、本件債権放棄額は原告の平成16年分の譲渡所得の損失額に当たらず、所得税の計算上他の各種所得の金額から控除することはできない。
(原告の主張)
本件債権放棄の基となる140万9585円の立替金債権は、原告が、B社の代表取締役として、関係会社であったF株式会社代表取締役の乙のために立替払をしたことにより乙に対して取得した債権であり、その後に同社が倒産し、また、乙も交通事故により腰部を損傷し、働くことができず、返済不能となったので、原告は、本件乙和解契約を締結して130万9585円について債権放棄したものである。本件債権放棄は、原告の立場上やむなく生じた資産の償却であり、日常生活外の損失であるので、業務上の損失金として控除が認められるべきである。
(2) 原告の平成17年分所得税の計算上、本件丙債務額等を譲渡所得の損失額として他の各種所得の金額から控除することができるか否か。
(被告の主張)
本件丙債務額等のうち、本件丙債務額は、B社の連帯保証人として保証債務を履行した丙に対して、本件丙約定に基づき、原告が負担することとなった債務額である。
また、本件丙債務額等のうち、本件A弁済額は、B社及び原告のAに対する債務の一部について、原告が本件A和解契約に基づいて支払った弁済金の額である。
これらは、いずれも資産を譲渡したことによる所得ではないから、本件丙債務額等は、原告の平成17年分の譲渡所得の損失額に当たらず、所得税の計算上他の各種所得の金額から控除することはできない。
(原告の主張)
本件丙債務額等の基となった丙及びAに対する原告の債務は、元々はB社がC金融公庫及びE信用金庫それぞれに負っていた債務であり、原告が立場上、職務上それぞれに連帯保証していたものである。本件丙債務額等は、B社が倒産して10年余りを過ぎた後に、原告が、勤務していた会社から得た給与収入を原資として、業務上の保証債務の履行として支払った弁済額であり、業務上の損失金として控除が認められるべきである。
(3) 原告の平成18年分所得税の計算上、本件丁弁済額を雑損控除の対象とすることができるか否か。
(被告の主張)
ア 雑損控除の対象となる損失の発生原因は、「災害、盗難若しくは横領」と規定されているところ(所得税法72条1項)、課税行政の明確性や公平性の観点からみて、雑損控除の適用要件について類推ないし拡張解釈は認められるべきではなく、雑損控除の対象となる発生原因も「災害、盗難若しくは横領」に限定されると解されている。
本件丁弁済額は、原告が株式購入のために丁から借り入れた金員の返済額であるところ、これは、「災害、盗難若しくは横領」による損失などではないから、本件丁弁済額が雑損控除の対象に当たらないことは明らかである。
イ 原告は、当初の申告内容を訂正した本件B様式申告書を提出しているにもかかわらず、当初の本件18年分申告書に基づいて、本件18年分更正処分を行うのは不当である旨主張している。
しかし、本件B様式申告書は、本件更正請求書とともに提出されたものであるが、これは、本件更正請求書における添付資料として取り扱われるものである。
そして、藤沢税務署長は、平成19年12月21日付けの本件18年分更正処分をする以前に、本件更正請求書に係る更正の請求に対し、平成19年12月19日付けで本件通知処分をしている。
したがって、藤沢税務署長が、原告が当初提出した本件18年分申告書に対して本件18年分更正処分を行うことは、何ら不当なものではなく、原告の上記主張は失当である。
ウ 以上のとおり、本件丁弁済額が雑損控除の対象に当たらないことは明らかであり、所得税の計算上総所得金額から控除することはできない。また、藤沢税務署長が本件18年分申告書に対して本件18年分更正処分を行ったことに何ら違法な点はない。
(原告の主張)
本件丁弁済額は、当初、平成18年分の所得税の申告書用紙(A様式)に、事業上の必要経費を記載する欄がなかったので、本件18年分申告書に雑損控除として記載して申告したものであって、その後、本件B様式申告書に譲渡所得の損失として訂正して申告しているのであって、訂正後の申告に基づいて判断されるべきであるところ、訂正前の本件18年分申告書の内容に従って判断するのは不当である。
また、本件丁弁済金は、業務上の損失であるから控除が認められるべきである。
(4) 本件各更正処分に係る各年分の更正通知書(以下「本件各更正通知書」という。)における理由附記の不備により本件各更正処分が違法となるか否か。
(被告の主張)
原告の本件16年分申告書、本件17年分申告書及び本件18年分申告書は、いずれもいわゆる白色申告書であるところ、青色申告書とは異なり、白色申告書に係る更正処分については更正通知書に理由の附記を要しないと解されている。したがって、更正通知書の理由附記が不備であることをもって、当該更正処分が違法な処分になるものではなく、仮に、本件各更正通知書に記載された更正理由の内容が不適切であったとしても、そのことをもって本件各更正処分が違法となるものではない。
また、本件各更正通知書には、更正理由が附記されているが、その内容は何ら不適切なものではない。
(原告の主張)
本件各更正通知書に記載されている更正の理由は、総合短期譲渡所得の欄に記載することは適切でない、あるいは、雑損控除の欄に記載することは適切でないという趣旨にすぎず、更正処分の理由たり得ないものである。本件各更正通知書においては、原告の申告内容、主張内容が意図的に無視されており、その対応は違法である。
被告は、青色申告書とは異なり、白色申告書に係る更正処分については更正通知書に理由の附記を要しないと主張するが、青色申告書であろうと白色申告書であろうと、等しく扱われるべきである。
被告が本訴において本件各更正処分等の適法性に関して主張していることは、本件各更正通知書の記載の処分理由と乖離しており、処分理由の差替えに該当し、課税処分取消訴訟における争点主義の下では許されない。
第3 当裁判所の判断
1 原告が本件18年分更正処分の取消しを求める範囲について
(1) 原告は、平成21年5月25日付け訴状訂正申立書において、請求の趣旨1項として、前記第1の3記載のとおり「藤沢税務署長が、平成19年12月21日付けでした原告の平成18年分所得税の更正処分(ただし、雑損を184万1000円として計算した額を超える部分)及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。」と記載している。
これに対し、被告が、答弁書において、上記請求について、本件18年分更正処分のうち本件18年分申告書記載の総所得金額333万0622円を超える部分及び還付される税額9万0346円を超えない部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求めるものと解した上で、その棄却を求める旨の答弁をしたところ、原告は、平成21年7月15日の本件第1回口頭弁論期日において、上記訴状訂正申立書記載の請求の趣旨は、答弁書の上記記載のとおりの趣旨である旨陳述した。
ところが、その後、原告は、上記陳述を撤回し、答弁書の上記記載には処分取消しを求める金額の表現に重大な誤りがある旨主張して、平成18年分所得税に係る請求の趣旨については、あくまでも上記訴状訂正申立書記載のとおりとする意思を明らかにしている(平成21年7月21日付け原告第2準備書面及び同年10月5日付け原告第3準備書面)。
(2) しかし、そもそも更正処分とは、申告書に係る課税標準等又は税額等を更正するものであるから(国税通則法(以下「通則法」という。)24条。なお、課税標準等又は税額等の意義については、同法19条1項、2条6号参照。)、更正処分の取消しを求める範囲については、一般的には、原告が正当であると主張する総所得金額及び納付すべき税額(納付すべき税額がない場合には、還付すべき税額)を明示することによって特定するのが通例である。しかし、上記訴状訂正申立書記載の請求の趣旨のみでは、原告が正当であると主張する平成18年分の総所得金額及び還付すべき税額が一義的に明らかになっているとはいい難く、本件18年分更正処分の取消しを求める範囲が特定されていないのではないかという疑問が生じ得る。
もっとも、原告が主張する雑損控除の額である184万1000円(本件丁弁済額)は、本件18年分申告書に記載された雑損控除の額と一致している。また、原告は、本件訴訟において、本件各更正通知書の理由附記に不備があるから本件各更正処分は違法である旨主張している上、本件各賦課決定処分については全部の取消しを求めていることからすれば、要するに、本件各更正処分のうち確定申告額と異なる部分についてはすべて違法であるとして取消しを求める意思であると解される。他方、原告は、本件18年分申告書の提出後に、平成18年分所得税について、総所得金額を本件18年分申告書よりも少ない148万9622円、還付すべき税額を本件18年分申告書よりも多い9万2686円と記載した本件更正請求書を提出しているが、その更正の請求に理由がない旨の本件通知処分に対しては、審査請求や取消訴訟の提起を行わず、これを確定させている。これらの事情からすれば、本件18年分更正処分のうち原告が本件訴訟において取消しを求めている範囲は、結局、被告が答弁書で指摘するとおり、本件18年分申告書に記載された総所得金額を超える部分及び還付すべき税額を超えない部分であると解するのが相当である。
(3) 後記4以下においては、以上のような前提に立って、本件18年分更正処分の適法性について判断することとする。
2 争点(1)(原告の平成16年分所得税の計算上、本件債権放棄額を譲渡所得の損失額として他の各種所得の金額から控除することができるか否か)について
(1) 前記基礎となる事実(1)ア(ウ)のとおり、本件16年分申告書には、本件債権放棄額が譲渡所得の損失額として記載されている。
(2) ところで、所得税法69条は、総所得金額等を計算する場合において、譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、これを他の各種所得の金額から控除する旨規定している(損益通算)。
そして、同法33条1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいうと規定し、同条3項は、譲渡所得の金額は、短期譲渡所得と長期譲渡所得につき、それぞれその年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額(譲渡益)から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とすると規定し、同条4項は、譲渡所得の特別控除額を50万円(譲渡益が50万円に満たない場合には、当該譲渡益)とすると規定している。また、一般に、譲渡所得に対する課税は、資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものと解すべきである(最高裁昭和47年12月26日第三小法廷判決・民集26巻10号2083頁)。
(3) しかし、本件債権放棄額は、原告が有していた乙に対する債権の放棄額であるところ、かかる債権放棄が所得税法33条1項に規定する「資産の譲渡」に該当しないことは、その規定文言及び上記譲渡所得課税の趣旨に照らし明らかである。また、証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、国税不服審判所に対し、平成16年分ないし平成18年分における原告の所得は、給与及び年金収入のみであり、譲渡所得の基因となる資産を譲渡した事実はないと述べていることが認められ、原告が平成16年中において、譲渡所得の基因となる資産を譲渡した事実を認めることはできない。
そして、前記基礎となる事実(1)ア(ウ)のとおり、原告は、本件16年分申告書において、原告が乙から支払を受ける10万円について、譲渡所得に係る収入金額であると申告しているが、上記10万円の収入金額は、原告が乙に対して有する債権を一部回収した金額にすぎず、資産の譲渡による収入金額ではないから、所得税法33条3項にいう譲渡所得に係る総収入金額には該当しない。
また、上記のとおり、そもそも譲渡所得の基因となる資産の譲渡がない以上、所得税法33条3項にいう譲渡所得に係る総収入金額は0円であるし、同項にいう資産の取得費及び資産の譲渡に要した費用も0円なのであって、本件債権放棄額がこれらの取得費又は譲渡費用に該当すると解する余地はない。
したがって、原告の平成16年分の譲渡所得の総収入金額並びに資産の取得費及び資産の譲渡に要した費用はいずれも0円であり、譲渡益も0円であって、譲渡所得の特別控除額も0円となるから、結局、原告の平成16年分の譲渡所得の金額は0円であり、本件債権放棄額に相当する額の譲渡損失が生じたことを認めることはできない。
よって、所得税法69条により本件債権放棄額を譲渡所得の損失額として他の各種所得の金額から控除することはできない。
(4) 以上のとおり、原告の平成16年分の譲渡所得の計算上、損失は存在しないから、本件債権放棄額を譲渡所得の損失額として他の各種所得の金額から控除すべきである旨の原告の主張を採用することはできない。
なお、本件債権放棄額は、所得税法で規定する各種所得(同法23条ないし34条)の金額の計算上控除される必要経費等のいずれにも該当せず、同法に規定する所得控除(同法72条ないし84条)及び税額控除(同法92条ないし95条)のいずれにも該当しないのであって、原告の平成16年分所得税の計算上、原告に有利に考慮されるものではない。
3 争点(2)(原告の平成17年分所得税の計算上、本件丙債務額等を譲渡所得の損失額として他の各種所得の金額から控除することができるか否か)について
(1) 前記基礎となる事実(1)イ(オ)のとおり、本件17年分申告書には、本件丙債務額等180万円が短期譲渡所得の損失額として記載されている。
(2) しかし、本件丙債務額等のうち、本件丙債務額は、B社の連帯保証人として保証債務を履行した丙に対して、本件丙約定に基づき、原告が負担することになった債務額である。
また、本件丙債務額等のうち、本件A弁済額は、B社及び原告のAに対する債務の一部について、原告が本件A和解契約に基づいて支払った弁済額である。
これらの本件丙約定や本件A和解契約が所得税法33条1項に規定する「資産の譲渡」に該当しないことは、その規定文言及び前記2(2)の譲渡所得課税の趣旨に照らし明らかである。また、前述のとおり、原告は、国税不服審判所に対し、平成16年分ないし平成18年分における原告の所得は、給与及び年金収入のみであり、譲渡所得の基因となる資産を譲渡した事実はないと述べていることが認められ、原告が平成17年中において、譲渡所得の基因となる資産を譲渡した事実を認めることはできない。
そして、上記のとおり、そもそも譲渡所得の基因となる資産の譲渡がない以上、所得税法33条3項にいう譲渡所得に係る総収入金額は0円であるし、同項にいう資産の取得費及び資産の譲渡に要した費用も0円なのであって、本件丙債務額等がこれらの取得費又は譲渡費用に該当すると解する余地はない。
したがって、原告の平成17年分の譲渡所得の総収入金額並びに資産の取得費及び資産の譲渡に要した費用はいずれも0円であり、譲渡益も0円であって、譲渡所得の特別控除額も0円となるから、結局、原告の平成17年分の譲渡所得の金額は0円であり、本件丙債務額等に相当する額の譲渡損失が生じたことを認めることはできない。
よって、所得税法69条により本件丙債務額等を譲渡所得の損失額として他の各種所得の金額から控除することはできない。
(3) 以上のとおり、原告の平成17年分の譲渡所得の計算上、損失は存在しないから、本件丙債務額等を譲渡所得の損失額として他の各種所得の金額から控除すべきである旨の原告の主張を採用することはできない。
なお、本件丙債務額等は、所得税法で規定する各種所得(同法23条ないし34条)の金額の計算上控除される必要経費等のいずれにも該当せず、同法に規定する所得控除(同法72条ないし84条)及び税額控除(同法92条ないし95条)のいずれにも該当しないから、原告の平成17年分所得税の計算上、原告に有利に考慮されるものではない。
4 争点(3)(原告の平成18年分所得税の計算上、本件丁弁済額を雑損控除の対象とすることができるか否か)について
(1) 前記基礎となる事実(1)ウ(ウ)のとおり、本件18年分申告書には、本件丁弁済額が雑損控除の額として記載されている。
所得税法72条1項は、雑損控除について、居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産について「災害又は盗難若しくは横領」による損失が生じた場合において、その年における当該損失の金額の合計額が所定の金額を超えるときは、その超える部分の金額を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する旨規定している。
雑損控除は、昭和25年のシャウプ税制において初めて所得税法に規定が設けられたものであり、納税者の所有する住宅、家財等が災害等により異常な損失を蒙った場合、その原状回復のため、相当の出費を要することに伴い、多分に担税力が減殺されることに着目して設けられた制度であるとされている(乙11参照)。
そして、雑損控除の対象となる損失の発生原因は、「災害、盗難若しくは横領」と限定的に規定されているところ、課税行政の明確性や公平性の観点からみて、雑損控除の適用要件について類推ないし拡張解釈を行うのは相当でない。
これを本件についてみるに、本件丁弁済額は、原告が株式購入のために丁から借り入れた金員の返済金であるところ、これは、「災害、盗難若しくは横領」による損失ではないことは明らかであるから、本件丁弁済額は、雑損控除の対象に当たらない。
(2) 原告は、本件18年分申告書を提出した後に、本件丁弁済額について、本件B様式申告書(乙12の2枚目)に譲渡所得の損失として訂正して申告しているから、訂正後の申告に基づいて判断されるべきであり、訂正前の本件18年分申告書の内容に従って判断するのは不当であると主張する。
しかし、そもそも、納税者の申告は、納税者が課税標準や税額等を確認し、これを確定させて国に通知するという性質のものであるから、修正申告(通則法19条)又は更正の請求(同法23条)の手続によることなく申告内容の変更や申告の撤回を行うことは原則として許されないと解すべきである。もっとも、納税申告書はもともと申告期限までに提出すれば足り、期限間際に提出する者との権衡上から、法定申告期限前に限っては申告内容の訂正が許されるものと解される。
しかるに、前記基礎となる事実(2)ウのとおり、本件B様式申告書は、所得税法120条1項が規定する申告期限である平成19年3月15日以後の同年4月20日に、本件更正請求書ととも提出されたものであるから、本件B様式申告書それ自体によって本件18年分申告書の訂正をすることは許されない。そして、本件B様式申告書の記載内容は本件更正請求書と同様であるというのであるから、本件B様式申告書は、本件更正請求書の添付資料として取り扱われるものと解さざるを得ない。
そして、前記基礎となる事実(2)ウのとおり、藤沢税務署長は、本件18年分更正処分をする以前に、本件更正請求書に係る更正の請求に対し、平成19年12月19日付けで本件通知処分をしているのであるから、その時点で、原告の平成18年分所得税についての申告内容は、依然として本件18年分申告書記載のとおりとなっていたものと認めることができる。
したがって、藤沢税務署長が、原告が当初提出した本件18年分申告書に対して本件18年分更正処分を行うことは当然であり、何ら不当ではない。
なお、仮に、原告の上記主張が、本件丁弁済額が譲渡所得の損失額として他の各種所得の金額から控除されるべきであるという趣旨のものであるとしても、原告が丁から借り入れた金員の一部である本件丁弁済額を弁済したことは、所得税法33条1項に規定する「資産の譲渡」に該当するものではないから、前記2及び3において本件債権放棄額や本件丙債務額等について説示したのと同様に、本件丁弁済額は、譲渡所得の損失額に当たらず、他の各種所得から控除することはできないのであり、原告の上記主張はやはり失当である。
(3) 以上のとおり、本件丁弁済額が雑損控除の対象に当たらないことは明らかである上、藤沢税務署長が平成18年分申告書に対して平成18年分更正処分を行ったことは何ら違法ではないから、本件B様式申告書の内容に従って判断すべきことを前提とした上で、本件丁弁済額は、業務上の損失であるから控除が認められるべきであるとの原告の主張を採用することはできない。
なお、本件丁弁済額は、所得税法で規定する各種所得(同法23条ないし35条)の金額の計算上控除される必要経費等のいずれにも該当せず、所得税法で規定する雑損控除以外の所得控除(同法73条ないし84条)及び税額控除(同法92条ないし95条)のいずれにも該当しないから、原告の平成18年分所得税の計算上、原告の有利に考慮されるものではない。
5 争点(4)(本件各更正通知書における理由附記の不備により本件各更正処分が違法となるか否か)について
(1) 原告の本件16年分申告書、本件17年分申告書及び本件18年分申告書は、いずれも白色申告書であるところ、原告は、本件各更正通知書に記載されている更正の理由は、総合譲渡所得の欄に記載することは適切でない、あるいは、雑損控除の欄に記載することは適切でないという趣旨にすぎず、否認処分の理由たり得ないものであると主張する。
しかしながら、所得税法155条2項は、所得税の更正に関し、青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正をする場合には、更正通知書に更正の理由を附記しなければならない旨規定しているのに対し、白色申告書については、更正通知書に処分の根拠となった理由を附記しなければならないとする法律上の規定は置かれていないこと(通則法28条2項参照)に照らせば、白色申告書に係る更正処分については、更正通知書に処分理由の附記を要しないと解すべきである(最高裁昭和43年9月17日第三小法廷判決・訟務月報15巻6号714頁参照)。
この点につき、原告は、青色申告書であろうと白色申告書であろうと、等しく扱われるべきであると主張する。
しかし、一般に行政処分に理由附記を要求する趣旨は、処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、処分理由を相手方に知らせることによって不服申立ての便宜を図ることにあると解される。そして、白色申告書に係る所得税の更正処分については、更正通知書にその更正に係る年分の総所得金額等の所得別の内訳が附記される(所得税法154条2項)ほか、不服申立手続等において処分庁から処分の理由が明らかにされることが予定されており(通則法84条4項、93条2項)、処分庁の恣意的課税の抑制と納税者に対する処分理由の開示が一定の範囲で制度的に担保されている。更に、これら各規定内容のほか、所得税課税事務の円滑な遂行の要請をも考慮すれば、所得税法が上記のように青色申告書に係る一定の更正処分以外の更正処分については更正通知書に理由附記を要することとしていないことには合理性があるといえるから、原告の上記主張を採用することはできない。
以上のとおり、そもそも本件各更正通知書には更正理由の附記を要しないものであるから、仮に、本件各更正通知書に記載された更正理由の内容が不十分等であったとしても、そのことをもって直ちに本件各更正処分等が違法となるものではない。
(2) また、前記基礎となる事実(2)ア、イのとおり、原告の平成16年分及び平成17年分の所得税の各更正処分等に係る通知書において、原告が総合短期譲渡所得として申告したもの(本件債権放棄額及び本件丙債務額等)は所得税法に規定するいずれの所得にも該当しないということが明らかにされているのであって、単に総合短期譲渡所得の欄に記載することが適切でない旨が述べられているに過ぎないというものではない。
同様に、前記基礎となる事実(2)ウのとおり、本件18年分更正処分の通知書において、原告が雑損控除として申告したものは法律上定められた雑損控除の要件に該当せず、雑損控除の対象にはならないことが明らかにされているのであって、単に雑損控除の欄に記載することが適切でないことが述べられているに過ぎないというものではない。
したがって、本件各更正通知書における本件各更正処分の附記理由に不備があるということはできず、この点においても、原告の主張を採用することはできない。
(3) なお、原告は、被告が本訴において本件各更正処分等の適法性に関して主張していることは、本件各更正通知書記載の処分理由と乖離しており、処分理由の差替えに該当し、課税処分取消訴訟における争点主義の下では許されないなどと主張しているが、被告が本訴において本件各更正処分等の適法性に関して主張している内容が本件各更正通知書の記載の処分理由と同一であることは明らかであって、処分理由の差替えには当たらない。よって、原告の上記主張は前提を誤っており、採用することができない。
6 本件各更正処分等の適法性
よって、本件各争点に関する被告の主張には理由がある。また、原告は、本訴において、これまで判断した以外の計算関係等を争うというものではなく、その他弁論の全趣旨によれば、原告の平成16年分、平成17年分及び平成18年分の所得税の納付すべき税額は、いずれも本件各更正処分における納付すべき税額を上回るものと認めることができるから、本件各更正処分はいずれも適法である。
また、本件各更正処分により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうち、所得金額等を過少に申告したことについて通則法65条4項に規定する正当な理由があると認めることはできない。そして、本件各更正処分により新たに納付すべきこととなった税額を前提に、同条1項及び通則法118条3項の規定に基づいて算出される原告の上記各年分の所得税の過少申告加算税の額は、いずれも本件各賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であるから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
7 結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
横浜地方裁判所第1民事部
裁判官一原友彦
裁判官戸室壮太郎
裁判長裁判官北澤章功は、差支えにより、署名押印することができない。
裁判官一原友彦
別表1
課税処分等の経緯(平成16年分)
(単位:円)
項目
確定申告
更正処分等
異議申立て
異議決定
審査請求
審査裁決
年月日
平成17年3月1日
平成19年12月21日
平成20年1月23日
平成20年3月31日
平成20年4月22日
平成20年12月16日
総所得金額(②+③+④)①
1,476,962
2,786,547
1,476,962
1,476,962
給与所得の金
額②
1,382,400
1,382,400
1,382,400
1,382,400
雑所得の金
額③
1,404,147
1,404,147
1,404,147
1,404,147
内訳
総合短期譲渡所得の金額④
△1,309,585
△1,309,585
△1,309,585
所得控除額の合計額(⑥+⑦+⑧)⑤
1,744,077
1,638,031
1,744,077
1,638,031
雑損控除の金
額⑥
106,046
106,046
医療費控除の金額⑦
208,951
208,951
208,951
208,951
内訳
社会保険料控除、損害保険料控除、
老年者控除、配偶者控除、基礎控
除の合計額
⑧
1,429,080
1,429,080
1,429,080
1,429,080
課税総所得金額(①-⑤)⑨
1,148,000
課税総所得金額に対する税額⑩
114,800
定率減税
額⑪
22,960
源泉徴収税
額⑫
50,160
50,160
50,160
50,160
納付すべき税
額⑬
41,600
還付される税
額⑭
50,160
50,160
50,160
過少申告加算
税⑮
9,000
棄却
棄却
(注1)△印は、損失金額を表す。
(注2)課税総所得金額は、1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額である。(注3)納付すべき税額は、100円未満の端数を切り捨てた後の金額である。別表2
課税処分等の経緯(平成17年分)
(単位:円)
項目
確定申告
更正処分等
異議申立て
異議決定
審査請求
審査裁決
年月日
平成18年2月28日
平成19年12月21日
平成20年1月23日
平成20年3月31日
平成20年4月22日
平成20年12月16日
総所得金額(②+③+④)①
1,252,696
3,051,696
1,252,696
1,251,696
給与所得の金
額②
1,383,400
1,382,400
1,383,400
1,382,400
雑所得の金
額③
1,669,296
1,669,296
1,669,296
1,669,296
内訳
総合短期譲渡所得の金額④
△1,800,000
△1,800,000
△1,800,000
所得控除額の合計額(⑥+⑦+⑧)⑤
1,115,381
1,115,381
1,115,381
1,115,381
雑損控除の金
額⑥
----
医療費控除の金額⑦
209,861
209,861
209,861
209,861
内訳
社会保険料控除、損害保険料控除、
配偶者控除、基礎控除の合計額
⑧
905,520
905,520
905,520
905,520
課税総所得金額(①-⑤)⑨
137,000
1,936,000
137,000
136,000
課税総所得金額に対する税額⑩
13,700
193,600
13,700
13,600
定率減税
額⑪
2,740
38,720
2,740
2,720
源泉徴収税
額⑫
66,146
66,146
66,146
66,146
納付すべき税
額⑬
88,700
還付される税
額⑭
55,186
55,186
55,266
過少申告加算
税⑮
14,000
棄却
棄却
(注1)△印は、損失金額を表す。
(注2)課税総所得金額は、1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額である。(注3)納付すべき税額は、100円未満の端数を切り捨てた後の金額である。別表3
課税処分等の経緯(平成18年分)
(単位:円)
項目
確定申告
更正の請求
通知処分
更正処分等
異議申立て
異議決定
審査請求
審査裁決
年月日
平成19年3月1日
平成19年4月20日平成19年12月19日平成19年12月21日平成20年1月23日平成20年3月31日平成20年4月22日平成20年12月16日総所得金額(②+③+④)①
3,330,622
1,489,622
3,222,296
1,489,622
3,222,296
給与所得の金
額②
1,558,000
1,558,000
1,558,800
1,558,000
1,558,800
雑所得の金
額③
1,772,622
1,772,622
1,663,496
1,772,622
1,663,496
内訳
総合短期譲渡所得の金額④
-
△1,841,000
△1,841,000
-
所得控除額の合計額(⑥+⑦+⑧)⑤
2,967,615
1,152,134
1,121,415
1,152,134
2,962,415
雑損控除の金
額⑥
1,841,000
---
1,841,000
医療費控除の金額⑦
117,625
143,144
112,425
143,144
112,425
内訳
社会保険料控除、損害保険料控除、
配偶者控除、基礎控除の合計額
⑧
1,008,990
1,008,990
1,008,990
1,008,990
1,008,990
課税総所得金額(①-⑤)⑨
363,000
337,000
2,100,000
337,000
259,000
課税総所得金額に対する税額⑩
36,300
33,700
210,000
33,700
25,900
定率減税
額⑪
3,630
3,370
21,000
3,370
2,590
源泉徴収税
額⑫
123,016
123,016
123,016
123,016
123,016
納付すべき税
額⑬
65,900
還付される税
額⑭
90,346
92,686
更正をすべき理由がない旨の通知処分
92,686
99,706
過少申告加算
税⑮
15,000
棄却
棄却
(注1)△印は、損失金額を表す。
(注2)課税総所得金額は、1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額である。(注3)納付すべき税額は、100円未満の端数を切り捨てた後の金額である。
出典:国税庁ホームページ「税務訴訟資料」(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/soshoshiryo/kazei/2010/pdf/11368.pdf)を加工して作成(加工:TaiLexi AI)。
本文は公表資料(PDF 等)から機械的に抽出・整形したもので、改行や記号に誤りを含むことがあります。正確な文言は原本でご確認ください。