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裁決労保審取消

労働保険審査会裁決 平成29年労第212号

平成29年労第212号 療養補償給付

機関
労働保険審査会
年月日
2018年 (公表資料で伏せられています)
事件番号
平成29年労第212号
事件名
療養補償給付
種類・結果
裁決 取消
掲載
—
分野
労働・社会保障

事案の概要

看護助手の内視鏡の消毒洗浄に使用する消毒薬に接触したことにより発症したとする「接触皮膚炎(両腕)、掻破性湿疹(両腕)」等

争点

請求人に発症した本件疾病が、業務上の事由によるものであると認められるか。

主文(命令・審決の内容)

労働基準監督署長が、平成○年○月○日付けで再審査請求人に対してした労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による療養補償給付を支給しない旨の処分は、これを取り消す。

引用された通達

  • 「医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止について」平成17年2月24日基発第0224007号

参照法条

労働者災害補償保険法

平成29年労第212号

主文

労働基準監督署長が、平成○年○月○日付けで再審査請求人に対してした労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による療養補償給付を支給しない旨の処分は、これを取り消す。

事実及び理由

第1 再審査請求の趣旨

主文同旨

第2 事案の概要

1 再審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成○年○月○日、A所在のB病院(以下「病院」という。)に雇用され、看護助手として業務に従事し、平成○年○月○日から内視鏡室に配属され、自動消毒洗浄機で消毒薬(オルトフタルアルデヒド(以下「フタラール」という。)を0.55%含有。)を使用して、内視鏡を消毒洗浄する業務(以下「消毒洗浄業務」という。)等に従事した。

2 請求人によると、平成○年○月○日から目と喉に腫れの症状が出現し、同年○月○日頃から両前腕に軽度のかゆみ、湿疹が生じるなどの皮膚症状が徐々に悪化したとして、同年○月○日、C医院に受診し「接触皮膚炎(両腕)、掻破性湿疹(両腕)」(皮膚症状に係る疾病を以下「本件疾病1」という。)と診断された。同年○月以降、請求人は、消毒薬に直接関わる作業は免除されたものの、その後もぜい鳴などの呼吸器症状が悪化したとして、同月○日、D医院に受診し「気管支喘息、急性咽頭喉頭炎」と診断され、さらに、同月○日、E病院に受診し「気管支喘息」と診断された(呼吸器症状に係る疾病を以下「本件疾病2」といい、本件疾病1と併せて「本件疾病」という。)。

3 本件は、請求人が療養補償給付の請求をしたところ、労働基準監督署長(以下「監督署長」という。)はこれを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたことから、請求人が本件処分の取消しを求める事案である。

4 請求人は、労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)に対し審査請求をしたところ、審査官が平成○年○月○日付けでこれを棄却する旨の決定をしたことから、更にこの決定を不服として本件再審査請求をした。

第3 当事者の主張の要旨

1 請求人

(略)

2 原処分庁

(略)

第4 争点

請求人に発症した本件疾病が、業務上の事由によるものであると認められるか。

第5 審査資料

(略)

第6 理由

1 当審査会の事実認定

(略)

2 当審査会の判断

(1)請求人は、平成○年○月○日から内視鏡室に配属され、以下の①から⑤の手順で、内視鏡の消毒洗浄業務に従事していた。

洗浄スペースは、内視鏡室の検査室と天井から床までカーテンで仕切られており、消毒洗浄は、①内視鏡を流し台で家庭用洗剤を使って水洗い(以下「一次洗浄」という。)し、②自動消毒洗浄機の防水カバーを開け、内視鏡をセットし、防水カバーを閉める、③開始スイッチを押すと、水と指定洗浄剤で洗浄→消毒薬で消毒→水によるすすぎ→エタノールによるアルコールフラッシュが自動的に行われる(自動消毒洗浄1回当たり約20分間)、④自動消毒洗浄機の防水カバーを開け、内視鏡を取り出し、ガーゼで拭く、⑤内視鏡を検査室内の専用フックにかけて乾燥させ、保管庫で保管するという手順で行われる。なお、自動消毒洗浄機は、40回毎に消毒薬を交換する必要があり、その際、防水カバーを開け、消毒薬(約15リットル)を洗浄槽に投入する作業(交換1回当たり約4分間)を行う。

(2)自動消毒洗浄機で使用されていたフタラールは、グルタラールよりも揮発性が低く、粘膜刺激性も弱いことなどから、グルタラールの代替品として使用されているものであるが、フタラールで消毒した医療器具によっても患者の健康に影響をもたらした症例報告があることから、フタラールを使用する場合には、換気を行うとともに、グルタラールを使用する場合に準じて労働者に保護具を使用させる必要があるとされている(厚生労働省労働基準局長通達「医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康障害防止について」(平成17年2月24日付け基発第0224007号)。

病院の内視鏡室の洗浄スペースには、自動消毒洗浄機が○台設置されていたが、局所排気装置は設置されておらず、換気扇等の設備も設置されていなかった。

(3)請求人及び再審査請求代理人(以下両者を併せて「請求人ら」という。)は、本件疾病は、いずれも消毒洗浄業務に使用した消毒薬に含有されるフタラールが原因である旨主張しているので、以下検討する。

ア 本件疾病1について、請求人らは、最初に診察したF医師の診断は接触皮膚炎であるとされており、原因としてフタラールを含有する消毒剤の可能性が極めて高いと主張し、フタラールに接触した事実について、要旨、「平成○年○月○日から消毒洗浄業務に初めて従事し、自動消毒洗浄機から内視鏡を取り出す際、内視鏡を検査室内の専用フックにかけて乾燥させる際などに、内視鏡に残留したフタラールと接触した。」、「自動消毒洗浄機の消毒薬の交換は、消毒液が飛び跳ねないように注意して入れていた。交換時に液が飛び跳ねてきたかな、気のせいかなという感じはあった。飛んできたかなという箇所は、左腕の手首と肘の真ん中の手のひら側である。」、「消毒洗浄業務中、左腕の外側に洗浄後の内視鏡が触れ、消毒薬の残留が0(ゼロ)ではない水分が繰り返し付着していた状況があった。フックにかける度に毎回あった。袖無しエプロンの時は左腕の外側にそのまま触れ、ビニールガウンの時はその上から触れていた。」、「作業時は半袖のユニホームを着ていたので、そのまま皮膚に接触していた。皮膚に接触した後は、洗い流していなかった。」等と述べている。

さらに、その後の状況について、請求人は、「平成○年○月○日に看護師長に、F医師から腕は保護した方が良いと言われたことを伝えたところ、袖付きビニールガウンを備品として常設してくれることになり、自分でも病棟から袖付きビニールガウンを集めた。同月○日から同月○日までは、一次洗浄の際や連続して一次洗浄の多い午前中は、必ず袖付きビニールエプロンを着用し、午後の1本程度の洗浄や自動洗浄機からの取り出し作業時は袖なしエプロンを着用し、洗浄後には必ず手洗いをするようにした。この○日間で昼間のかゆみは大分治まり、かき傷も乾いてきた。同月○日から同月○日までの休日でかゆみが消失し、ひどかった左腕外側に茶色の痕が残っていたが、皮膚の表面はきれいになり、夜中にかゆみで起きることはなかった。同月○日以降、袖付きビニールガウンが常備されるようになったが、不足することがあり、そのときは、袖なしエプロンに布製の肘カバーの上にビニール袋を付けたものを自作して着用した。」などと極めて具体的に申述している。この点、病院も、平成○年○月○日付け回答書において、要旨、消毒洗浄業務に従事させる際、被ばく防止ができるよう使い捨て手袋、サージカルマスク、ゴーグル、防水ガウン(袖付き)を使用させるよう教育等しており、請求人に対しても皮膚保護のための長袖ガウンを基本としていたが、平成○年○月から同年○月の途中まで、袖なしビニールエプロンで行っていた実態があったと述べており、消毒洗浄時に保護具の着用が徹底できていなかったことを認めている。

請求人の皮膚の状態について、F医師は、平成○年○月○日付け意見書において、要旨、「消毒洗浄業務を始めて、手背を中心の皮疹が生じており、消毒薬によりかぶれを生じた可能性が高い。」と述べ、G医師も、同年○月○日付け意見書において、要旨、「手・腕への接触防御は、平成○年○月○日頃にかゆみと皮膚炎が初発するまで、ゴム手袋と袖なしエプロンの装着のみで行われており、一次刺激性接触皮膚炎が生じた事は否定できない。」と述べており、いずれも請求人が消毒薬による接触皮膚炎を発症した可能性について言及している。

以上のように、請求人が、内視鏡の消毒洗浄業務に際し、フタラールに直接触れた可能性は否定できず、また、身体症状の出現時期と完治に至る経緯についても、消毒薬による影響を推認させるに十分であることから、当審査会としては、本件疾病1については、業務上の事由により発症したものであると判断する。

イ 本件疾病2について、請求人は、内視鏡室の空気中のフタラール蒸気を吸入したことにより喘息等の呼吸器に係る疾病を発症したと主張し、具体的には、要旨、「平成○年○月下旬より、早朝の○時頃に、かすかなぜい鳴の症状が1週間に○~○回起きるようになり、午前○時頃には治まっていたが、徐々に回数が増えた。」、「同年○月から消毒洗浄業務と消毒薬の交換作業はなくなったが、内視鏡室では引き続き物品補充等の業務を行った。」、「同月上旬、早朝のぜい鳴が徐々に増え週に○~○回となった。同月中旬には、軽作業や長話をすると、息切れが出現し、軽度の頭痛、息苦しさを感じるようになった。」などと申述している。

請求人の主張は、内視鏡室の空気中や自動消毒洗浄機の消毒薬交換時に揮発したフタラールを吸入したというものであるが、内視鏡室の空気中のフタラール濃度は、0.00007から0.00068ppmであったことが確認されており、請求人が作業を行った当日における現場の値であるとはいえないものの、少なくとも極めて低濃度のフタラールを吸入したとする事実以外は確認されていないこと、請求人の喘息発症は内視鏡室で消毒洗浄業務を開始した時期から○か月近くを経ていること、フタラールにばく露する可能性がなくなってからぜい鳴の出現回数が増加していることなどの点から、本件疾病2については、業務に起因して発症したと確定できないことはもとより、合理的な推認もし得ないものである。

この点、G医師は、平成○年○月○日付け意見書において、要旨、「消毒薬との因果関係は不明であるが、無関係とは断定できない。」と述べるにとどまり、H医師は、同年○月○日付け意見書において、「フタラールは間接的原因ではあったかもしれないが、直接的原因とはいえない。」と述べており、医学的な因果関係についても不明であると判断せざるを得ないものである。

(4)以上のことから、本件疾病1は業務上の事由によるものであることが認められるも、本件疾病2については、業務上の事由によるものとは認められないと判断する。

3 結論

以上のとおり、請求人に発病した本件疾病のうち、本件疾病1は業務上の事由によるものと認められるから、監督署長が本件疾病1に係る療養補償給付を支給しないとした本件処分を取り消すこととして、主文のとおり裁決する。

出典:厚生労働省ホームページ「労働保険審査会 裁決事案一覧」掲載の裁決書(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/shinsa/roudou/saiketu-youshi/dl/29rou212.pdf)を加工して作成(加工:TaiLexi AI)
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