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裁決労保審棄却

労働保険審査会裁決 

平成30年労第212号 葬祭料

機関
労働保険審査会
年月日
2019年 (公表資料で伏せられています)
事件番号
平成30年労第212号
事件名
葬祭料
種類・結果
裁決 棄却
掲載
—
分野
労働・社会保障

事案の概要

自動車部品の不具合品に係るクレーム対応業務に従事していた者の顧客等から無理な注文、長時間労働等により発病したとする「精神障害」

争点

被災者の精神障害の発病及び死亡が、業務上の事由によるものであると認められるか。

主文(命令・審決の内容)

本件再審査請求を棄却する。

引用された通達

  • 「心理的負荷による精神障害の認定基準について」平成23年12月26日基発1226第1号

参照法条

労働者災害補償保険法

平成30年労第212号

主文

本件再審査請求を棄却する。

事実及び理由

第1 再審査請求の趣旨

再審査請求人(以下「請求人」という。)の再審査請求の趣旨は、労働基準監督署長(以下「監督署長」という。)が平成○年○月○日付けで請求人に対してした労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による葬祭料を支給しない旨の処分を取り消すとの裁決を求めることにある。

第2 事案の概要

1 請求人の亡子(以下「被災者」という。)は、平成○年○月○日、Aに所在し、金型の設計製作やプレス加工のほか、自動車部品の組立て等を行う会社B(以下「会社」という。)に雇用され、会社C課において不具合品に係るクレーム対応の業務に従事していた。

2 被災者は、平成○年○月○日、自宅敷地内にある車庫の中で、縊死しているところを発見された。死体検案書には、「死亡したとき:平成○年○月○日昼頃、直接死因:縊死、死因の種類:自殺」と記載されている。

3 請求人によると、被災者は、気分の浮き沈みを繰り返し、激しい腹痛のほか、嘔吐や便秘、さらには、不眠に悩まされていたことから、平成○年○月○日、D医院に受診し、「うつ状態、睡眠障害」と診断されたが、その後も、過重な労働に従事させられ、同月○日、自殺に至ったとしている。

4 本件は、請求人が、被災者の精神障害の発病及び死亡は業務上の事由のよるものであるとして葬祭料を請求したところ、監督署長はこれを支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)をしたことから、本件処分を不服として同処分の取消しを求める事案である。

5 請求人は、労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)に対し審査請求をしたところ、審査官が平成○年○月○日付けでこれを棄却する旨の決定をしたことから、更にこの決定を不服として本件再審査請求をした。

第3 当事者の主張の要旨

1 請求人

(略)

2 原処分庁

(略)

第4 争点

被災者の精神障害の発病及び死亡が、業務上の事由によるものであると認められるか。

第5 審査資料

(略)

第6 理由

1 当審査会の事実認定

(略)

2 当審査会の判断

(1)労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会(以下「専門部会」という。)は、平成○年○月○日付け意見書において、被災者は平成○年○月上旬頃にICD-10診断ガイドラインの「F43.2適応障害」(以下「本件疾病」という。)を発病したとの意見を述べている。

当審査会としても、被災者の症状の経過等から、専門部会の意見は妥当であり、被災者は平成○年○月上旬頃に本件疾病を発病したものと判断する。

(2)精神障害の業務起因性の判断基準は、決定書理由に記載の「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日付け基発1226第1号。以下「認定基準」という。)のとおりである。

(3)被災者の本件疾病発病前おおむね6か月間(以下「評価期間」という。)において、認定基準別表1の「特別な出来事」に該当する出来事は認められない。

(4)請求人は、評価期間における業務による心理的負荷をもたらす出来事として、①仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があったこと、②顧客や取引先から無理な注文を受けたこと、③勤務形態に変化があったこと、④上司とのトラブルがあったこと、⑤おおむね80時間以上の時間外労働があったことを主張しているので、以下検討する。

ア ①の出来事について、請求人は、要旨、被災者が従事していた不具合品等に対するクレーム対応業務は、常時一定程度の緊張を強いられるものであり、本件疾病発病3か月前(平成○年○月○日から同年○月○日まで)における被災者の1か月当たりの時間外労働時間は、100時間以上とまではいかないものの、同4か月前(平成○年○月○日から平成○年○月○日まで)のそれと比べ、倍近く増加し、しかも同2か月前(平成○年○月○日から同年○月○日まで)のそれは更に増加しており、身体的及び心理的負荷が大きなものであったと主張する。

この点、クレームへの対応は、会社の信用にも関わるものであり、プレッシャーがかかる業務であったとは認められるものの、被災者は、入社後の研修期間を除き、一貫してクレーム対応業務に従事しており、当該業務には慣れていたものと考えられ、また、原則として、上司であるE主担当員とペアを組んでいたことからも、当該業務が大きな心理的負荷になったものとは認め難い。もっとも、年末年始の時期については、業務量が増大したことが認められることから、負荷は大きくなったものと推認される。ただし、業務量の増大はまもなく沈静化し、時間外労働時間数も減少していることからみて、一時的な現象であったと考えることが相当である。

そうすると、①の出来事が、認定基準別表1の具体的出来事「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」(平均的な心理的負荷の強度「Ⅱ」)に該当するとみても、その心理的負荷の総合評価は「中」にとどまるものと判断する。

なお、請求人は、要旨、被災者が会社に雇用される以前の約○年間、他の事業場において製造業務に従事していたことから、被災者の通常業務は品質管理業務ではなく、製造業務であるとして、品質管理業務には十分習熟していなかったと主張するが、被災者は会社入社から相当期間を経ており、当該業務に不慣れであったとは判断し得ず、仮に十分には習熟していなかったとしても、上記のとおり、単独で同業務に従事していたものではないことから、そのことが発病をもたらす心理的負荷になったとは考えられない。

イ ②の出来事について、請求人は、要旨、平成○年○月○日、被災者が休暇中であったにもかかわらず、取引先から電話がかかり、対応を余儀なくされるなど、取引先からのコスト削減要請と売上確保を至上命題とする威圧的な上司との板挟みになり悩んでいたと述べ、この点、Fが作成した被災者経過報告においても、被災者は、要旨、自分が関わっている仕事について、取引先からもっといいものにしてほしいと言われ、コストの問題もあって、上司に言ったら、また何か言われるので、憂鬱になってきたと述べていたと記載されている。

この点について、G部長は、要旨、被災者が担当していた業務にコストを意識させるものはなく、仮に顧客からそのような要求があったとしても、被災者が対応せずにE主担当員か自分に相談すればよく、被災者が1人で抱え込むことはなかったし、実際に、被災者からコストに関する相談を受けたことは一切なかったと述べている。また、E主担当員も、要旨、C課の業務はコストと関係がないので、被災者がコストで悩むことは絶対にないし、顧客に対しては、私が所持している会社支給の携帯電話に連絡が入るようにしており、被災者が自分の携帯電話の番号を顧客に教えていない限り、被災者の携帯電話に連絡が入ることはないと述べている。

これらの申述からすると、休暇中の被災者に顧客からコスト削減要求について連絡が入るといったことがあったとは考えにくいが、仮にそのような事実があったとしても、被災者は上司に報告するなど、容易に事後対応をすることができたと考えられるものであり、こうした報告がなされた形跡もないことからみて、被災者の心理的負荷となるような顧客からの無理な要求があったとは判断し得ない。

そうすると、②の出来事について、認定基準別表1の具体的出来事「顧客や取引先から無理な注文を受けた」(平均的な心理的負荷の強度「Ⅱ」)に該当するとみても、上記事情からみて、その心理的負荷の総合評価は「弱」であると判断する。

ウ ③の出来事について、請求人は、要旨、平成○年○月○日から同年○月○日までの間、被災者は夜勤を行っており、単に勤務形態の変化があったというだけでなく、従事する業務もクレーム処理から製造作業に変化していることを評価すべきであると主張している。

この点について、E主担当員は、要旨、H課の人手不足と生産量が増加したため、平成○年○月に被災者を含め各課からH課に応援に行き、その際には夜勤もあったが、H課での業務は製造ラインでの単純作業であり、誰でも対応できる業務であったと述べており、被災者にとっては、不慣れな業務であり、戸惑いを感じた可能性もあるが、作業そのものは簡易なものであったと推認され、大きな心理的負荷になったとは考えにくい。

そうすると、③の出来事を、認定基準別表1の具体的出来事「勤務形態に変化があった」(平均的な心理的負荷の強度「Ⅰ」)に該当すると認めたとしても、その心理的負荷の総合評価は「弱」であると判断する。

エ ④の出来事として、請求人は、Fが、要旨、被災者は、E主担当員が苦手で嫌っており、E主担当員の愚痴を頻繁に言っていたと述べていることをもって、トラブルがあったと主張するものであるが、E主担当員自身は、要旨、被災者とは特にギスギスした関係ではなかったと思うと述べ、G部長も、要旨、被災者は、E主担当員とはうまくいっていたと思っており、被災者から、E主担当員が嫌だとか嫌いだとかいうことは聞いたことはないと述べている。もっとも、Iは、要旨、被災者とE主担当員との関係はあまりよくないと感じていたが、どこの企業にでもある上司と部下の関係だったと思うと述べており、被災者とE主担当員との間には、スムーズな意思疎通ができない何らかの事情があった可能性は否定できないものと考える。しかしながら、両者の間に、対立が生じたり、考え方の相違が生じたりしていたことを示す具体的な申述や証拠はないことからみて、仮に被災者において、E主担当員とそりが合わない側面があったとして、認定基準別表1の具体的出来事「上司とのトラブルがあった」(平均的な心理的負荷の強度「Ⅱ」)に該当するとみても、その心理的負荷は「弱」であると判断する。

オ ⑤の出来事について、請求人は、要旨、本件疾病発病2か月前における被災者の1か月当たりの時間外労働時間は80時間を超えていると述べている。この点、当審査会において、一件記録を精査したが、監督署長が認定した時間外労働時間数を超えて、被災者が業務に従事していたことを裏付ける申述や証拠は見いだせず、被災者の1か月当たりの時間外労働時間数は最長でも70時間41分であったと判断する。仮に請求人の主張する時間外労働時間であったとしても、認定基準によれば、認定基準別表1の具体的出来事「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」(平均的な心理的負荷の強度「Ⅱ」)の項目は、他に特段の出来事が存在しない場合を想定して、長時間労働それ自体を「出来事」とみなし、評価の対象とされるものであるから、他に評価すべき出来事が存在する本件においては、当該項目をもって評価の対象とすることはできない。

カ 以上からすると、被災者の業務による心理的負荷の総合評価が「中」となる出来事が1つ及び「弱」となる出来事が3つあるものの、恒常的な長時間労働は認められないことから、業務による心理的負荷の全体評価は「中」と判断することが妥当である。

(5)被災者の業務以外の心理的負荷については、特記すべき事項は認められないものの、個体側要因については、Jメンタルクリニックにおいて、平成○年頃に神経症及びうつ状態を発病したものと診断され、平成○年○月○日から平成○年○月○日までの間、通院加療を受けていたことが確認できる。

(6)以上にみたとおり、被災者の業務による心理的負荷の全体評価は「中」であることから、被災者に発病した本件疾病は業務上の事由によるものであるとは認められず、よって、その死亡も業務上の事由によるものとは認められない。なお、請求人のその余の主張についても子細に検討したが、上記判断を左右するものは見いだせなかった。

3 結論

以上のとおり、本件処分は妥当であって、これを取り消すべき理由はないから、請求人の本件再審査請求を棄却することとして、主文のとおり裁決する。

出典:厚生労働省ホームページ「労働保険審査会 裁決事案一覧」掲載の裁決書(https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/shinsa/roudou/saiketu-youshi/dl/30rou212.pdf)を加工して作成(加工:TaiLexi AI)
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