売春防止法案
参議院 法務委員会
昭和31年法律第118号
審議経過
右の数字は会議の発言数提案理由
松原一彦 政府委員(法務政務次官) 昭和31年5月9日ただいま議題となりました売春防止法案につきまして、その提案理由を御説明申し上げます。
終戦後の世相の混乱と道義の頽廃並びに性道徳の低下によって、売春を行う女子の数が著しく増加いたしましたばかりではなく、そのすこぶる露骨となって参りましたことは、すでに御承知の通りと存じますが、さらに、最も遺憾にたえないことは、日本国憲法が侵すべからざる基本的人権の存在を確認し、個人の自由と尊厳とを明らかにし、その奴隷的拘束を除去すべきことを宣言しているにもかかわらず、売春に関連してこれに反する事態のますます増加の傾向にあることであります。このような状況を黙過することは、善良の風俗の維持、保健衛生、女子の基本的人権の確保等の観点から、とうてい許されないところであって、すみやかにこれが対策を樹立してその実効を期さなければならないものと考えるのであります。
しかして、これが対策といたしましては、国民一般の民主主義的自覚、道徳観念の高揚、衛生思想の普及向上を要請されることはもとよりでありますが、これと同時に、売春を助長する行為等を処罰する諸規定を整備強化するとともに、社会政策的見地から、その性格、行状または環境に照らして売春を行うおそれのある女子に対し、保護更生の措置を講ずべき総合的文化立法制定の必要が痛感される次第であります。
従来のこれに対する立法措置といたしましては、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律による婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令、刑法、児童福祉法、労働基準法、職業安定法、風俗営業取締法、性病予防法等があり、さらに地方公共団体が各地の状況に応じそれぞれ制定した取締条例があって、それらの運用によってこれに対処して参ったのでありますが、これらの法令は、その制定の時期、立法目的等を異にしているため、これを総合的、統一的に運用することには事実上少からぬ困難があって、十分その実をあげているとは申せない状態であります。そのため、かねてから総合的立法措置の必要が叫ばれていたのでありますが、ついにその実現を見ず、咋昭和三十年第二十二回国会においては、売春等処罰法案が重ねて衆議院において提出されましたが、同年七月十九日の同法務委員会において否決され、その際、いわゆる売春等に関する諸問題につきすみやかに抜本的総合施策を樹立しこれを実施する必要があり、政府としては、内閣に強力なる審議機関を設け、その議を経て行政措置、立法的措置、予算的措置等総合対策を策定し、国会の審議を要するものについては次の通常国会に提出すべきである、との決議がなされたのであります。
他方、政府としましては、昭和二十八年十二月当時の内閣の閣議決定により設けられました売春問題対策協議会から、昨年九月二日、内閣にいわゆる売春問題対策について答申がなされ、さらに、上述いたしました衆議院法務委員会の決議もありましたので、緊急に法律案を立案する必要があるため、十月二十八日閣議決定をもって内閣に売春問題連絡協議会を設け、前記答申内容を検討する一方、法律案作成の準備を進め、次いで、売春に関する諸問題がきわめて重要であり、かつ複雑な問題であることにかんがみ、内閣総理大臣または関係各大臣の諮問に応じ売春対策に関する重要事項を調査審議するための恒久的機関として、新たなる構想のもとに売春対策審議会を設けることとし、今国会に総理府設置法の一部を改正する法律案を提出し、その成立後、同法律に基く審議会の発足と同時に、立法措置を含めて総合対策を諮問いたしましたところ、去る四月九日答申第一号として売春等の防止及び処分に関する立法措置について適切な答申を得ましたので、これに基いて関係各機関相協力して慎重に立案に当り、ここにこの法律案を提出する運びに至ったのであります。
次に、この法律案の骨子ともいうべきものにつき御説明申し上げます。第一、この法律案におきましては、法律の目的を明らかにし、売春の反社会性を明確にするとともに、これが防止の対策としましては、売春を行うおそれのある女子に対する保護更生の措置を講じ、他方単なる売春行為それ自体はこれを刑罰の対象とせず、主として、売春の周旋、困惑等による売春、売春をさせる契約、場所の提供、対償の収受、前貸し、いわゆる管理売春、資金提供など、売春を助長する各種の行為を刑罰をもって取り締ることとし、第二、保護更生措置としましては、既存の公共の福祉に関する施設の活用、現行法令の適切な運用をはかるほかに、新たに都道府県に、性格、行状または環境に照らして売春を行うおそれのある女子及びその家庭につき必要な調査指導を行い、あるいは相談に応ずるための婦人相談所を設置することとし、このような女子を発見し、その相談に応じ、必要な指導を行う婦人相談員を、都道府県には置くこととし、市には置くことができることとし、なお、都道府県は、右の要保護女子のうち必要と認める者につき収容保護を行うための婦人保護施設を設置することができることとし、第三、婦人相談所、婦人相談員あるいは婦人保護施設の設置その他都道府県または市の支弁する所要費用については、国が一定額を負担または補助することとし、第四、この法律の適用に当りましては、国民の権利を不当に侵害しないように留意すべきことを明らかにし、第五、最後に、いわゆる売春婦あるいは売春業者の保護更生または転廃業のため、一定の猶予期間を設け、保護更生に関する規定を刑事処分に関する規定より先に施行するものとし、また、売春に関する地方条例との関係を明確にいたしました。
以上立法の趣旨及び本法案の要点につき御説明申し上げました。もとより、法律のみをもって直ちによく売春防止の目的を達成し得るものとは考えておりませんが、関係行政措置の推進と国民の協力のもとにこの法律の適切な運用を行うならば、必ずや見るべき効果をあげ得ることと確信いたす次第でございます。何とぞ慎重御審議の上すみやかに御可決あらんことを希望する次第でございます。
第24回国会衆議院法務委員会議録第31号2頁(昭和31年5月9日)〔松原一彦政府委員発言・発言番号2〕 会議録 国会会議録検索システム
出典:国立国会図書館「日本法令索引」(https://hourei.ndl.go.jp/#/detail?billId=102401171)を加工して作成(加工:TaiLexi AI) 発言の出典:「国会会議録検索システム」(国立国会図書館)を加工して作成。引用部分は会議録の原文です(見出しは質問の一文、強調は一致した語)。国会答弁・附帯決議は法的拘束力を持つものではありません。