平成11年(ワ)第10931号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日平成14年7月23日
判決
原告日本臓器製薬株式会社
訴訟代理人弁護士新堂幸司
同品川澄雄
同吉利靖雄
同飯塚卓也
同野口祐子
同小野寺良文
補佐人弁理士村山佐武郎
被告株式会社フジモト・ダイアグノステ
ィックス
被告藤本製薬株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士山本忠雄
同安部朋美
山本忠雄訴訟復代理人弁護士中橋紅美
主文
1 被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスは、原告に対し、金5万0129円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスに対するその余の請求及び被告藤本製薬株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告に生じた費用及び被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスに生じた費用の各50分の1を被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスの負担とし、原告に生じたその余の費用及び被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスに生じたその余の費用並びに被告藤本製薬株式会社に生じた費用を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、原告に対し、連帯して金17億6311万9960円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックスは、原告に対し、金11億9230万円及びこれに対する平成11年10月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、後記特許権(本件特許権)を有する原告が、医薬品を製造している被告株式会社フジモト・ダイアグノスティックス(以下「被告フジモトD」という。)と被告フジモトDから医薬品の譲渡を受けてこれを販売している被告藤本製薬株式会社(以下「被告藤本製薬」という。)に対し、被告フジモトDが同医薬品の品質規格の検定のために行ってきた確認試験の方法は本件特許権に係る発明を実施するものであり、本件特許権(ただし、出願公告後登録までは仮保護の権利)を侵害したとして、平成8年11月1日から平成11年3月31日までの被告藤本製薬による販売分につき、共同不法行為に基づく損害賠償として連帯して17億6311万9960円を支払うよう求めるとともに、被告フジモトDに対し、平成4年3月11日(出願公告日)から平成8年10月31日までの被告藤本製薬による販売分につき、不当利得の返還として実施料相当額11億9230万円の支払を求めた事案である。
2 基礎となる事実
(1) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許出願の願書に添付された明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明を「本件発明」又は「本件特許方法」という。)を有している(争いがない)。
特許番号第1725747号
発明の名称生理活性物質測定法
出願年月日昭和62年9月8日(特願昭62-225959)
出願公告年月日平成4年3月11日(特公平4-14000)
登録年月日平成5年1月19日
特許請求の範囲別紙特許公報該当欄記載のとおり
(2) 本件発明の構成要件を分説すると、次のとおりである。
A動物血漿、血液凝固第ⅩⅡ因子活性化剤、電解質、被検物質、から成る溶液を混合反応させ、
B次いで該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第ⅩⅡ因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え、
C生成したカリクレインを定量すること
Dを特徴とする被検物質のカリクレイン生成阻害能測定法。
(3) 本件発明の概要は、明細書の記載(特許請求の範囲及び発明の詳細な説明)によれば、次のようなものである(甲第2号証)。
ア カリクレインは、種々の動物の血漿中及び組織内に広汎に存在する蛋白質酵素であって、カリクレイン・キニン系を構成することで知られており、カリクレイン・キニン系は、種々の酵素系に密接な関連を有し、様々な生体抑制機能にかかわっている。
血漿中に存在する血液凝固第ⅩⅡ因子(ハーゲマン因子、FⅩⅡ)は、カオリン等の血液凝固第ⅩⅡ因子活性化剤が添加されると、活性化して活性型血液凝固第ⅩⅡ因子(FⅩⅡa)に変化し、この血液凝固第ⅩⅡ因子(FⅩⅡa)は、同じく血漿中に存在するプレカリクレインに作用して、これをカリクレインに変換し、さらに、このカリクレインは血漿中の高分子キニノーゲンに作用して、ブラジキニンを遊離させ、この遊離されたブラジキニンが炎症、痛み及びアラキドン酸カスケードに対する作用を引き起こす。
イ 本件発明における反応は、2段階の反応で構成されており、第1次反応は、血漿にカオリン等の血液凝固第ⅩⅡ因子活性化剤を添加することによって、血液凝固第ⅩⅡ因子(FXⅡ)を活性型血液凝固第ⅩⅡ因子(FXⅡa)とすることにより、該血漿中のプレカリクレインをカリクレインに変化せしめてカリクレインを生成させる反応であり、第2次反応は、このようにして血漿中に生成したカリクレインの量を定量する反応である。
すなわち、動物血漿、血液凝固第ⅩⅡ因子活性化剤、電解質及び被検物質から成る溶液を混合反応させてカリクレイン生成反応を開始せしめた後、該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、カリクレインの生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に、言い換えれば、単位時間当たりのカリクレイン生成量が一定の割合で進行している時間内に、活性型血液凝固第ⅩⅡ因子(FXⅡa)の活性のみを特異的に阻害してカリクレインの生成を停止する作用を有し、かつ、生成したカリクレインの活性には実質的に無影響である阻害剤(例えばLBTI〔リマ豆由来のトリプシンインヒビター〕)を添加し(第1次反応)、次いで、第1次反応液を、カリクレインに対する特異的基質及び緩衝液から成る第2次反応液と混合反応させる(第2次反応)という、2段階の反応により構成されている。
ウ 上記第1次反応及び第2次反応は、酵素反応であるから、これらの酵素反応における酵素量は酵素そのものを物質量として測定するものではなく、単位時間当たりに当該酵素によって生成される反応生成物の量の大きさ、すなわち、酵素活性として測定される。
このように、本件発明における被検物質のカリクレイン生成阻害能の測定は、第1次反応で生成したカリクレイン活性の大きさを、第2次反応においてカリクレインとその特異的基質の反応によって生成する反応生成物(例えばp-ニトロアニリン)の量を定量することによって行われる。
(4) 被告フジモトDは、別紙物件目録1記載の抽出液(商品名「FN原液『フジモト』」。以下「被告抽出液」という。)及びこれを有効成分とする別紙物件目録2記載の製剤(商品名「ローズモルゲン注」。以下「被告製剤」といい、被告抽出液と被告製剤をまとめて「被告医薬品」という。)を製造し、被告製剤を被告藤本製薬に譲渡し、被告藤本製薬は、被告フジモトDから被告製剤を譲り受けてこれを販売してきた。そして、被告フジモトDは、薬事法に基づき、被告抽出液の各ロットを製造する都度、また、被告抽出液を有効成分とする被告製剤の各ロットを製造する都度、品質規格の検定のためにカリクレイン様物質産生阻害活性の確認試験を行っていた(争いがない)。
(5) 原告が本訴において不法行為による損害賠償及び不当利得返還を求めている対象期間である平成4年3月11日から平成11年3月31日までの間(以下「本件請求期間」ということがある。)に被告フジモトDが被告医薬品の製造の際に用いていた測定方法がどのようなものであったかについては争いがある。原告は、別紙被告方法目録1記載の測定方法(以下「イ-1方法」という。)であったと主張し、被告らは、イ-1方法とは異なる別紙被告方法目録2記載の測定方法(以下「イ-2方法」という。)であったと主張する。
(6)アイ-1方法を分説すると、次のとおりである。
1-ⅰワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚組織抽出液又は同抽出液を有効成分とする製剤を被検物質として、これに塩化ナトリウム等の電解質及びヒト血漿を加え、次いでこれにカオリン懸濁液等の血液凝固第ⅩⅡ因子活性化剤を加えて反応させた後、
1-ⅱリマ豆トリプシンインヒビター(LBTI)等の活性型血液凝固第ⅩⅡ因子に対する特異的阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加えてカリクレインの生成を停止させ(以上、第1次反応)、
1-ⅲ生成したカリクレインを合成基質を用いて定量する(第2次反
応)
1-ⅳ前記被検物質のカリクレイン産生阻害能測定法。
イ イ-2方法を分説すると、次のとおりである。
2-ⅰ本品を減圧乾固させてエタノールで抽出し、乾固させ、塩化ナトリウム溶液を加えて溶かし試料溶液とする。
この試料溶液に生理食塩液で希釈したヒト正常血漿溶液を加えた
後、緩衝液で調製したカオリン懸濁液を加えて混和し、氷水中に20分間静置する(以上、第1次反応)。
2-ⅱ直ちに、この反応液を、水浴中で30℃に保温した緩衝液と合成基質溶液との混液に加えて、20分間反応させた後、反応を停止させて遠心分離を行い、その上澄液の吸光度を測定して試料吸光度(AT)を求める(以上、第2次反応)。
2-ⅲ一方、試料溶液の代わりに塩化ナトリウム溶液、カオリン懸濁液の代わりに緩衝液を用いて、前記の場合と同様に操作して、吸光度を測定して試料ブランク吸光度(ATB)を求める。
2-ⅳ別に、カリジノゲナーゼ(別名、カリクレイン)標準品に緩衝液を加えて溶かし標準溶液とする。この標準溶液を、水浴中で30℃に保温した緩衝液と合成基質溶液との混液に加えて、以下前記の第2次反応と同様に操作して、吸光度を測定して標準吸光度(AS)を求める。
2-ⅴ一方、標準溶液の代わりに緩衝液を用いて、標準溶液の場合と同様に操作して、吸光度を測定して標準ブランク吸光度(ASB)を求める。2-ⅵ前記各々の吸光度につき、試料吸光度(AT)から試料ブランク吸光度(ATB)を引いた値と、標準吸光度(AS)から標準ブランク吸光度(ASB)を引いた値とを比較し、前者の値が後者の値より小さいときは、本品は規格に適合とする。
2-ⅶカリクレイン様物質産生阻害能測定法である。
(7) イ-1方法は、本件発明の構成要件をすべて充足し、本件発明の技術的範囲に属する(弁論の全趣旨)。
一方、イ-2方法と本件発明とを対比すると、イ-2方法は、構成2-ⅱにおいて、第1次反応後、直ちに、反応液を、水浴中で30℃に保温した緩衝液と合成基質溶液との混液に加えて、20分間反応させた後、反応を停止させて遠心分離を行い、その上澄液の吸光度を測定して試料吸光度(AT)を求めるという操作(第2次反応)を行うものであり、構成要件Bの「該反応におけるカリクレインの生成を停止させるために、生成したカリクレイン活性には実質的に無影響で活性型血液凝固第ⅩⅡ因子活性のみを特異的に阻害する阻害剤をカリクレイン生成と反応時間の間に実質的に直線的な関係が成立する時間内に加え」という操作、すなわち本件発明の阻害剤を加えることをしていない点で、構成要件Bを充足しない。したがって、イ-2方法は本件発明の技術的範囲に属さない(弁論の全趣旨)。
(8) 医薬品の品質規格の検定のための確認試験については、次のとおり定められている。
医薬品製造業者は、厚生大臣(本件発明に係る方法の実施の有無が問題となっているのは、薬事法本則(第44条を除く。)中の「厚生大臣」を「厚生労働大臣」と読み替える旨の改正を内容とする平成11年法律第160号の施行日である平成13年1月6日より前についてであるから、以下「厚生大臣」と記載する。)に対し医薬品の製造承認を申請する際には、薬事法14条1項、薬事法施行規則17条に基づき、様式第十(一)による医薬品製造承認申請書に申請に係る医薬品の「規格及び試験方法」を記載することが義務付けられており、厚生大臣から製造承認が与えられるときは、医薬品製造承認書の一部として医薬品製造承認申請書が添付される。この医薬品製造承認申請書の「規格及び試験方法」欄の記載方法については、「医薬品の製造又は輸入の承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について」(昭和55年5月30日薬審第718号・都道府県衛生主幹部〔局〕長あて・厚生省薬務局審査課長、同生物製剤課長通知)により、「確認試験」の項目が設定されなければならないものとされている(なお、「医薬品の製造又は輸入の承認申請に際し添付すべき資料の取扱い等について」は、平成7年6月30日薬審第682号により一部改正された。)。(甲第64号証、弁論の全趣旨)
(長文のため、ここでは本文の冒頭のみを掲載しています。全文はこのページの表示後に読み込まれます。原本は原本PDFをご覧ください。)
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/11635/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。