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高裁判決原判決取消

札幌高判 昭和51年8月5日

昭和48年(行コ)第2号 保安林解除処分取消請求控訴事件

裁判所
札幌高等裁判所
裁判年月日
昭和51年8月5日 (1976-08-05)
事件番号
昭和48年(行コ)第2号
事件名
保安林解除処分取消請求控訴事件
裁判の種類・結果
判決 原判決取消
判例集等
—
分野
行政
この事件の審級
  1. 控訴審札幌高判昭和51・8・5(原判決取消)
  2. 上告審最一小判昭和57・9・9(棄却)

判示事項

1農林大臣のした水源かん養保安林の指定解除処分により,農業用水及び飲料水の確保並びに水害防止につき直接影響を受ける地域内の耕地の権利者及び居住者は,右処分を争う法律上の利益を有するとした事例 2 保安林の指定解除処分により,地元住民が生命,身体の安全を侵害される不利益は,えん堤等の洪水防止施設によって補償,代替されるに至ったものであって,右地元住民らは,右処分の取消しを求める訴えの利益を失ったものとした事例 3 訴えを不適法として却下したが,一審以来の当事者の主張の経過及び一審判決の判断にかんがみ,本案における争点の一つである自衛隊等の憲法適合性に関する司法審査の可否について判断を示した事例 4 保安林指定解除処分後,立木竹がほぼ全面的に伐採され,その跡地に航空自衛隊第3高射群の施設等が建設されていても,右跡地は,その地形,周辺の状態及び利用状況等から見て,木竹の集団的な生育に供される土地として,その森林性を失っていないとした事例

○主文

原判決を取消す。

被控訴人らの訴えはいずれもこれを却下する。

訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人らの負担とする。

○事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの訴えを却下する。訴訟費用に第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決、予備的に、「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の主張並びに証拠関係は、別紙二「主張並びに証拠」記載のほかは、原判決事実摘示と同一であるからここに引用する。

○理由

第一 処分の存在

控訴人は、昭和四四年七月七日、農林省告示第一、〇二三号をもつて、北海道夕張郡<以下略>所在の防衛庁所管国有財産に係る水源かん養保安林(実測面積〇・三二二六四平方キロメートル)及び林野庁所管国有財産に係る水源かん養保安林(実測面積〇・〇二八四六四平方キロメートル)(以上実測面積合計〇・三五一一〇四平方キロメートル、別添図面一表示の(イ)斜線部分、以下「本件保安林部分」という。)の指定を解除する旨の処分をなしたこと、右処分は、本件保安林部分を航空自衛隊第三高射群の施設及びその連絡道路の敷地にするためになされたものであり、国家の防衛は公益性をもつものとの見地から、森林法第二六条第二項にいう公益上の理由により必要が生じたときに当るとしてなされたものであること、以上の事実は当事者間に争いがない。

第二 手続の概要

当事者間に争いない事実及び明らかに争わない事実並びに各その成立に争いない乙第一号証の一ないし六八、同第四三号証の一ないし一〇、同第四四、第四五号証の各一、二、原審証人A、同Bの各証言及び原審における被控訴人C、同D各本人尋問の結果の各一部によれば、本件保安林部分の指定解除手続の概要は以下のとおりである。

防衛庁は、第三次防衛力整備計画を執行するため、新たに北海道中央部に航空自衛隊の第三高射群(三個高射隊編成)を配備するに当り、その配置地点として本件保安林部分を決定した。そこで、本件保安林部分のうち前記防衛庁所管の〇・三二二六四平方キロメートルについては、札幌防衛施設局長から控訴人に対し、これを航空自衛隊第三高射群施設の敷地として使用するため、森林法第二七条の規定により保安林指定の解除申請がなされ、前記林野庁所管の〇・〇二八四六四平方キロメートルについては、右第三高射群施設への連絡道路用敷地として使用するために、札幌防衛施設局長が、国有林野法第七条に基づき、所管の札幌営林局長に対し、国有林の貸与申請をしたため、右営林局長から控訴人に対し、同一の理由により保安林指定の解除申請がなされた。しかして、右各申請並びにこれに対する解除処分は、大要次の手続を経て行われた。すなわち、札幌防衛施設局長は、本件保安林部分のうち防衛施設設置区域につき、昭和四三年六月一二日、航空自衛隊第三高射群施設を設置するため、控訴人あての同日付保安林指定の解除申請書を北海道知事に提出したところ、同知事は、同年六月一三日、右保安林指定の解除はやむを得ないものであるとの意見書を付して、右申請書を控訴人に進達した。

控訴人は、同年六月二〇日、右申請書及び意見書を受理したが、北海道林務部長あてに疑義を照会するなどして審査した結果、解除を相当と認め、同年七月一三日、北海道知事あてに森林法第二九条の規定による通知を行い、次いで、同月一九日、同知事は、北海道告示第一、四八五号をもつて同法第三〇条の規定による予定告示を行うとともに、長沼町役場においても関係書類を縦覧に供した。なお、本件保安林部分のうち連絡道路の敷地に関する部分については、同年七月八日付で札幌営林局長から控訴人あてに上申書が提出され、これに対し、同月二三日、控訴人から同法第二九条の規定による通知がなされ、更に、同月二七日、北海道告示第一、五七〇号をもつて同法第三〇条の規定による予定告示関係書類の縦覧がなされた。右予定告示に対する異議意見書の提出期限は第三高射群施設の敷地については同年八月一八日、連絡道路の敷地については同月二六日であつたが、それぞれの期限までに、両者を合併した異議意見書が一三八通提出され、これを受理した北海道知事は、同年九月三日付でこれらを控訴人に進達した。

そこで、控訴人は、同年九月一六日から一八日までの三日間札幌市<以下略>所在の札幌営林局の会議室において公開の聴聞会(第一回)を行うこととし、その旨を同月五日付で前記意見書提出者に通知するとともに同月七日付官報で告示した。右公聴会は、反対意見者らから解除後の跡地を自衛隊ミサイル基地に利用すること等に関する釈明要求が繰返され紛糾するに至つたこともあり、更に、控訴人は、昭和四四年五月八日から一〇日までの三日間北海道夕張郡<以下略>所在の長沼町公民館において再度公開の聴聞会(第二回)を行うこととし、その旨を同年四月末日付で異議意見書提出者(意見書取下者を除く)に通知するとともに同年五月一日付官報で告示したか、右聴聞会も前同様の経過で終了した。

以上の経過を経たうえで、控訴人は、本件保安林部分の指定を解除することを相当と認め、前述のとおり、本件保安林部分の指定解除処分の告示をするとともに関係書類を北海道庁並びに長沼町役場において縦覧に供するに至つた。

第三 本件保安林部分周辺の地理的概要

当事者間に争いない事実、その成立に争いない乙第一一号証、同第一九号証、同第二二号証の一、二並びに弁論の全趣旨に徴すれば、次の諸事実を認めることができる。

本件保安林部分は、北海道夕張郡<以下略>及び由仁町にまたがり、標高八〇ないし二九七メートルの、傾斜度五ないし二〇度の緩斜地もしくは中斜地からなり、その主稜線がほぼ南北に走る丘陵性の山地で、俗に馬追山丘陵と呼ばれる山地に存する約一五・〇八平方キロメートルの水源かん養保安林(長沼町所在部分約一〇・九六平方キロメートル、由仁町所在部分約四・一二平方キロメートル)のうち、長沼町所在の一部〇・三五一一〇四平方キロメートル(右保安林全体の約三・二パーセント)である。本件保安林部分を含む通称馬追山保安林は、まず、明治三〇年に、次いで同四二年ないし四四年の間に四回にわたり水源かん養保安林に指定(編入)されたもので、本件保安林部分は、明治四二年に指定されたものの一部である。右保安林の指定面積は、合計二一・六一平方キロメートルであつたが、昭和九年以降数次にわたる部分的解除が行われた結果、本件解除処分当時、その面積は前記のとおりとなつたものである。右馬追山丘陵の地質は第三紀層に属し、本岩は砂岩、泥岩、頁岩、凝灰岩及び安山岩などから構成され、地表部には樽前火山灰が堆積し、土壌は砂壌土からなつている。その地上の林況をみると、約一五・〇八平方キロメートルの前記保安林の主体は、トドマツ、カラマツ、ストローブマツ等の人工林であるが、一部比較的急斜地は、ナラ、シナ、イタヤ等の老壮令の天然生広葉樹でおおわれ、生育は中庸で、下層植生はクマザサが密生している。そして、本件保安林部分の約七〇パーセントが何回かにわたつて植栽された人工造林で、他は広葉樹を主とした天然生林であり、本件解除処分当時、人工林は六ないし三五年生のトドマツ、カラマツ、ストローブマツ等からなり、うち七七パーセントが一二年生以下、その半数が六年生以下の比較的若年生の樹木からなつていた。馬追山丘陵は、その中央部を南北に走る背梁から、東西にほぼこれと直交する方向に多数の渓流が山腹を刻んでいるが、本件保安林部分は、右丘陵のやや北寄り地点においてほぼ東西に横断する道道札幌夕張線の南寄りの西側斜面を流下する渓流に発し、旧夕張川に流入する富士戸川本、支流の上流部に位置を占めている。右富士戸川本、支流を流下する流水は、背梁から約三キロメートル離れた標高約二〇メートルの地点で合流し、右馬追山麓の扇状地を経て、長沼町平野部に入り、東西線排水路を南方に流れ、零号排水路を西方に流れて馬追運河の中央部に流入し、更にそれから長沼町の西北側境界をなす旧夕張川に合流する。右馬追運河は、長沼町を南北に分けて、その中央部をほぼ東西に貫流しており、右零号排水路流入点から右旧夕張川合流点までの距離はほぼ四キロメートルである。長沼町は、その東方の馬追山丘陵を背にし、他の三方を石狩川支流の千歳川、旧夕張川及び夕張川に囲まれた東西約一五・五キロメートル、南北約二一・一キロメートルの地域に広がる面積約一七〇平方キロメートルの農村地帯で、そのほぼ中央部に市街地を有する町である。同町内は、丘陵地を除き、平野部は海抜六ないし一〇メートルの低地帯であるため、多数の排水路を掘さくしているが従来から水害に見舞われることが多く、殊に昭和九年以前においては、ほとんど毎年のように旧夕張川及び千歳川の屈曲した流れが河川の勾配緩慢かつ流水面積の狭小なため、この地域で停滞して氾濫していたが、昭和一二年までには千歳川及び旧夕張川の切替工事が完成し右氾濫の原因はほぼ解消した。しかし、その後も、なお、長期降雨時等には、石狩川本流の水位が上昇し、これに合流する千歳川、旧夕張川及びこれら河川に流入する排水路である馬追運河等の各水位も高くなつて、同運河等に流入する内水を排出することができず、かつ、これら河川からの逆流もあつて、同町内の低地帯に水害を起すことがあつた。そこで、北海道開発局は、洪水防止施策の一環として、昭和三九年三月、同町内の中央部に位置する馬追運河、南方韻に位置する南六号川、南九号川の内水を旧夕張川又は千歳川に揚水機で排出することを内容とする千歳川長沼地区機械排水事業計画を立案し、昭和四〇年度に着工、昭和四三年一〇月末日、その完成をみた。そして、右計画の実施により、馬追運河と旧夕張川との合流点、南六号川及び南九号用と千歳川との各合流点に、それぞれ機械排水設備及び逆水門が設置され、内水の排出が促進され、増水時に石狩川本流及び旧夕張川、千歳川の高水位による馬追運河等の内水排水路への逆流現象が阻止されるようになつた。

第四 当事者適格

一行政処分取消訴訟における法律上の利益

司法裁判所による行政裁判制度は、一面において行政の適法性、合公益性の確保を図る行政是正制度の一環をなすものであるとともに、他面違法な行政処分により被る個々の国民の被害の救済を図る争訟制度である。しかして司法権が行政権に介入することとなる右の制度を、行政是正の観点と被害者救済の観点との間にたつて、これを如何に構成するかは立法政策の問題であるところ、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)は、行政に関する訴訟として、抗告訴訟(第三条)、当事者訴訟(第四条)、民衆訴訟(第五条)、機関訴訟(第六条)、の類型を定め、抗告訴訟については、処分等の取消しを求めるいわゆる行政処分取消訴訟のみならず、無効等確認の訴えにおいても、提訴者の資格として「法律上の利益」を有することを要件とし(第九条、第三六条)、これに対し、民衆訴訟、機関訴訟にあつては、処分取消し又は無効確認等を求める訴訟であつても、提訴者の資格として「法律上の利益」を必要と定める第九条、第三六条の規定は準用せず(第四三条)、民衆訴訟提起については、法律に特別の定めがある場合に限定はしているが(第四二条)、選挙人その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で足りるものとしている。そうすると、行訴法は行政処分の効力を争う訴訟類型として、一方において主体的行政参加者たる地位に基づき、専ら国又は公共団体における行政の適法性の確保を目的とする客観訴訟としての民衆訴訟を規定するとともに、別途、「法律上の利益」を訴え提起者の資格と定めた抗告訴訟という類型を定めているのであるから、右「法律上の利益」は、行政対象者として受ける生活利益を指称し、かつ、抗告訴訟は、その利益侵害の救済にその重点が置かれた訴訟であるものと解さなければならない。換言すれば、行政処分取消訴訟は、たとえ当該処分に違法があつても、その取消訴求者に取消しを求めるにつき利益のない限り、裁判によつてこれを取消すことはなく、瑕疵を有しながらも、これを行政部門における措置にまかす処分として残ることを認めているのである。

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出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/17841/detail5/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。