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高裁判決棄却

高松高判 平成20年9月30日

平成19年(ネ)第312号 損害賠償請求控訴事件

裁判所
高松高等裁判所第4部
裁判年月日
平成20年9月30日 (2008-09-30)
事件番号
平成19年(ネ)第312号
事件名
損害賠償請求控訴事件
裁判の種類・結果
判決 棄却
判例集等
—
原審
松山地方裁判所 平成17年(ワ)第68号
分野
民事

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

本件は,偽造領収書の作成を手段とした愛媛県警察における捜査費等不正支出問題について記者会見を行った同警察警察官である被控訴人が,上司らにより違法に記者会見を妨害され,記者会見を行ったことに対する報復目的で違法にけん銃保管,配置換え及び勤勉手当の減額の処置を受けたと主張して,控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料100万円の支払を求めた事案である。

原審が被控訴人の請求を認容したため,控訴人が控訴し,前記第1のとおりの判決を求めた。

前提事実(当事者間に争いがない事実及び括弧内に掲記の証拠により容易に認められる事実。なお,役職,階級及び肩書きなどはすべて当時のものである。)) 当事者及び関係者等

ア 被控訴人は,昭和42年4月,愛媛県警察(以下「県警」という。)の警察官として採用された。被控訴人が警察官に採用されてからの経歴は,以下のとおりである。

昭和42年4月愛媛県警察学校入学(愛媛県巡査拝命)

昭和43年3月松山西警察署(警務課)

同年4月松山西警察署(堀川交番)

昭和44年4月機動隊

同年10月松山東警察署(一番町交番)

昭和47年7月松山東警察署(巡査部長昇任試験一次(学科)合格)同年8月西条警察署(駐在所)

昭和48年7月西条警察署(巡査部長昇任試験合格)

同年8月三島警察署(巡査長昇任(港交番主任心得))

昭和49年4月三島警察署(巡査部長昇任)

昭和50年3月三島警察署(駐在所)

昭和51年4月東予警察署(駐在所)

昭和54年8月宇和島警察署(城北交番)

昭和57年8月今治警察署(駐在所)

昭和58年8月松山東警察署(駐在所)

昭和62年8月伊予警察署(砥部交番)

平成元年4月伊予警察署(駐在所)

平成3年3月八幡浜警察署(水上交番)

平成8年4月八幡浜警察署(駐在所)

平成9年4月松山南警察署(石井交番)

平成11年2月県警本部生活安全部地域課(以下「地域課」という。)鉄道警察隊(第3小隊分隊長)

平成16年4月地域課鉄道警察隊(第2小隊分隊長)

平成17年1月27日地域課通信指令室(企画主任)

イ 控訴人は,県警が置かれた地方公共団体である。

ウ 県警の組織は次のとおりである。

ア) 県警本部には総務室,警務部,生活安全部,刑事部,交通部,警備部が置かれ,その内部組織としてそれぞれ課,室,所及び隊が置かれている(愛媛県警察本部組織条例(昭和35年条例第5号。以下「組織条例」ということがある。),愛媛県警察組織規則(昭和41年愛媛県公安委員会規則第7号。以下「組織規則」という。)2条)(甲108)。組織規則は,課等に所要の係を置き,係の種別,構成及び配置人員は,本部長が定めるとし,具体的な係名等は,当時の訓令により定められている(愛媛県警察本部各課,警察学校及び警察署の係設置に関する訓令(昭和41年4月本部訓令第9号))(乙29)。

例えば,会計課は総務室に置かれる。

イ) 生活安全部には,生活安全企画課,地域課,少年課,生活保安課が設置される。地域課には付置施設として鉄道警察隊,通信司令室,航空隊が置かれる(同訓令)。地域課長は,鉄道警察隊に勤務する警察官を指揮監督する権限を有するとともに,その職務を指定するものとされている(愛媛県警察の職員の任用に関する訓令(昭和45年5月本部訓令第6号))(甲109,乙3)。

ウ) 被控訴人が通信司令室企画係に配置換えになった後の,地域課の組織図は別紙組織図のとおりである(乙14)。

エ) また,警察法62条は,長官を除く警察官の階級について,警視総監,警視監,警視長,警視正,警視,警部,警部補,巡査部長,巡査と定める。

エ 関係者の経歴等

ア) 県警本部長A(以下「A本部長」という。)は,昭和56年警察庁警部補になり,平成16年3月26日から平成18年7月28日まで県警本部長を勤め,その後,警察大学校刑事教養部長となった(乙10,13,原審証人A)。

イ) 生活安全部長B警視正(以下「B部長」という。)は,昭和43年に愛媛県巡査になり,平成16年3月23日から平成17年3月24日まで,生活安全部長であったが,平成18年3月30日退職した(乙3,原審証人B,弁論の全趣旨)。

ウ) 県警察本部警務部参事官兼警務課長D警視(以下「D課長」という。)は,被控訴人の同期であり,昭和42年に愛媛県巡査になり,被控訴人が記者会見をした当時は,警察人事等を担当する警務部参事官兼警務課長という職にあった(乙9,原審証人D)。

エ) 地域課参事官(地域課長事務取扱)E警視(以下「E課長」という。)は,昭和38年に愛媛県巡査となり,昭和45年9月に巡査部長,昭和52年4月に警部補,昭和60年4月に警部,平成8年4月に警視に昇任し,平成16年3月15日から生活安全部参事官兼地域課長となり,平成17年3月31日に定年退職した。E課長は,上記のとおり,平成16年3月15日から被控訴人の所属長である地域課長となった(甲60,61,乙14,原審証人E)。

オ) 地域課調査官F警部(現在は警視)(以下「F調査官」という。)は,被控訴人の同期であり,昭和42年に愛媛県巡査になり,被控訴人が記者会見をした当時は,県警本部地域課企画調査官の職にあった(乙4,原審証人F)。

カ) 地域課鉄道警察隊長G警部(以下「G隊長」という。)は,平成16年9月13日からは,鉄道警察隊長を兼務しており,被控訴人の上司であったが,平成17年3月31日退職した(乙11,原審証人G)。) 捜査費等不正支出問題

ア 平成13年から平成16年にかけて,北海道,青森県,静岡県,宮城県,京都府,鳥取県,広島県,岐阜県,香川県,福岡県,高知県の各警察あるいは警視庁において,捜査費等の不正支出を問題として損害賠償請求訴訟,住民訴訟が提起され,一部の警察では捜査費等の不正支出が行われてきたことが明らかになった(甲4の1ないし9,5の1ないし6,6の1ないし3,10)。

北海道警察における報償費不正支出においては,元同警察釧路方面本部長Hが,同警察旭川中央警察署署長として在任中,捜査報償費を組織的に裏金としてプールし,幹部の交際費などに使用していたことを,同警察弟子屈警察署(以下「弟子屈署」という。)の元次長Iが,平成12年4月から平成13年3月までの間,同警察が弟子屈署に交付した捜査報償費について自らが裏金として保管していたことをそれぞれ明らかにしたことから,同警察は,捜査報償費の不正流用問題に関して,ほぼすべての部署で少なくとも平成12年度まで,領収書の偽造などによる不正経理があったことを認めた(原審証人H,同I)。

イ 県警の捜査費等不正支出問題

ア) 県警の元職員Jは,平成16年5月31日,内部資料(偽造された領収書,裏帳簿,ゴム版)に基づいて,県警の警察署で年間数百万円の捜査費用が不正に支出され,警察の裏金としてプールされていたと告発した(甲12の3,14,17)。

イ) その後,新聞報道等で,県警は,平成16年6月1日,県警本部総務室長K(以下「K室長」という。)を責任者とする内部調査班を編成し,報道の真偽を確認する調査を開始したこと,同月8日,県警内部で平成15年度における警察庁による会計監査に備えて想定問答集を作成していたこと,同月9日には,同様に平成13年における会計検査院の検査に備えて想定問答集が作成されていたことなどが伝えられた(甲12の6・7)。

ウ) 弁護士らで組織するオンブズX(L代表)(以下「オンブズX」という。)は,平成16年6月7日,捜査費,捜査報償費の偽名を使った領収書の情報公開を県警本部に請求したが,県警は,同月21日,オンブズXが行った情報公開請求に対して,「公文書の特定ができない」との理由で非公開決定を行った(甲12の8・10,18,20)。エ) A本部長は,平成16年8月5日,愛媛県議会警察経済委員会において,平成13年度に大洲署で支出された捜査費約250万円のうち,飲食代など21万8356円分(86件)の捜査諸雑費について,偽造領収書を作成して処理していたことを明らかにした。また,県警本部が同年9月17日に発表した最終報告では,上記以外にも平成11年度と平成13年度から平成15年度の間に,約8万9000円分の偽造領収書が作成されていたことを報告した。A本部長は,平成16年9月22日,愛媛県議会の代表質問に対して,事実と異なる会計処理がなされていたことに遺憾の意を表明して謝罪したが,同時に大洲署以外に不適切な支出はないと述べた(甲12の11ないし13,22,23)。

オ) 愛媛県知事M(控訴人代表者,以下「M知事」という。)は,愛媛県監査委員(以下「県監査委員」という。)に対し,平成16年10月7日,平成13年度における県警と県内全署の捜査報償費(県費)の執行について特別監査を請求した。これに対し,オンブズXは,M知事及び県監査委員に対し,監査対象期間を平成11年度から平成15年度に拡大すること,捜査協力者の住所,氏名を開示させ監査委員による記録を拒否させないことを求めた。県監査委員は,県警本部において,特別監査の対象となる会計資料の全面開示を求めたが,同年11月2日,県警は捜査への支障を理由に開示を拒否した。また,大洲署での実地監査における県監査委員の会計資料の全面開示の求めに対しても,捜査協力者の名前や接触場所が黒塗りにされた資料が提出された。県監査委員は,捜査報償費が適正に執行されたかどうかは不明であり,特別監査に進展がなかったことを明らかにした(甲12の16ないし18・20,25,26,28)。

カ) 県警は,平成16年12月24日,オンブズXの情報公開請求に対し,内部調査班がまとめた調査結果報告書のうち,捜査協力者や情報提供者に支払われた捜査費や捜査報償費の日付け,協力者名を黒塗りにして部分公開した。県監査委員は,平成17年1月11日,捜査員への聞き取り調査を開始した(甲12の24・25)。

) 平成17年1月20日の被控訴人の記者会見の内容

ア 被控訴人は,平成17年1月20日午後1時30分から,愛媛県弁護士会館において,オンブズXのメンバーである弁護士とともに,報道機関の前で記者会見を行った(以下「本件記者会見」という。)。

イ 本件記者会見の内容の概略は以下のとおりである。

被控訴人は,昭和48年から平成7年にかけて,所属したすべての警察署において,偽造領収書の作成を依頼された。偽造領収書は裏金作りの手段である。偽造の手口は,電話帳から抜粋した住所氏名を書いたメモを会計課長から渡され,そのとおりに領収書に書き写すというもので,同じ筆跡が多数あると監査などにおいて疑われるので,1回につき3枚がめどとされていた。これらは,架空の捜査協力者をでっち上げたものであるから,捜査協力者への実際の支出は皆無である。偽造領収書の作成は,警察官が昇任する際の「踏み絵」として半ば強制されており,これを書かない限り上級へ昇任することはできない。現に,偽造領収書の作成を拒否し続けた被控訴人は,巡査部長から警部補へ昇任することなく30年を経過し現在に至っている(甲12の27)。

) けん銃保管

ア E課長は,平成17年1月20日,本件記者会見の内容を聞いて,けん銃の管理責任者として,警察官等けん銃使用及び取扱規範(以下「けん銃規範」という。)18条2項に該当する事項があると判断し,被控訴人のけん銃を取扱い責任者に保管させることとし(以下「本件けん銃保管」という。),同日午後5時過ぎ,被控訴人に対し,被控訴人のけん銃を保管する旨電話で伝えた(争いがない。)。

イ 平成17年4月1日より地域課参事官(地域課長事務取扱)になったN警視は,同月18日,被控訴人に対し,上記保管命令を解除した旨告げ,他の警察官と同様の保管方法に切り替えている(争いがない。)。) 配置換え

E課長は,平成17年1月27日,被控訴人に対し,地域課通信指令室企画主任を命じる辞令書を交付した(以下「本件配置換え」という。)(争いがない。)。

) 勤勉手当の減額(甲40ないし46,64)

ア 平成15年6月,12月,平成16年6月及び同年12月分における被控訴人の勤勉手当は,「良好である」(評語C)旨の勤務成績評価に基づき,給料と給料加算額の合計額に0.7を乗じた金額がそれぞれ支給されていた。

イ 本件記者会見を行った後の平成17年6月及び同年12月分の勤勉手当は,「欠勤時間がある。勤務成績がやや良くない。(注意処分を受けた場合に相当)」(評語C下)との勤務成績評価に基づき,給料と給料加算額の合計額に平成17年6月は0.65を乗じた金額,同年12月分は支給割合の引き上げがあったので0.7を乗じた金額がそれぞれ支給されていた。) 人事委員会裁決(甲86)

ア 被控訴人は,愛媛県人事委員会に対し,平成17年2月23日,県警本部長及び県警本部生活安全部地域課長を処分者として,本件けん銃保管及び本件配置換えについて不服申立てをした。

イ 上記人事委員会は,県警本部生活安全部地域課長のみを処分者として認めた上で,平成18年6月6日,本件けん銃保管については,地方公務員法49条の2第1項に規定する不服申立ての対象となる処分には該当しないと判断した。ただ,処分者が,本件配置換えは,本件けん銃保管を行ったことによる不可避な措置と主張していたことから,本件配置換えに関して人事権の濫用の有無を検討する中で,本件けん銃保管について検討し,本件記者会見前後における被控訴人の言動やけん銃暴発による他害の危険性を裏付ける証拠もないこと等にかんがみると,被控訴人に自殺のおそれや他害の危険性があったとは認められず,本件けん銃保管に正当な根拠は見出し難いと判断した。その上で,本件けん銃保管の不当性に加え,本件配置換えに至る経緯の不当性,本件配置換えの必要性の不存在等を勘案すると,本件配置換えは人事権の濫用と評価せざるを得ず,本件配置換えは本件記者会見直後に行われたもので,捜査費等不正支出問題の実態を明らかにするという公益目的で告発会見を行った被控訴人に対する配慮が欠如しており,健全な社会通念に照らして妥当性を欠くものであるといわざるを得ないとも判断して,本件配置換えを取り消す旨の裁決をした。争点

) 記者会見妨害行為の存否及び違法か否か(争点1)

) 本件けん銃保管が違法か否か(争点2)

) 本件配置換えが違法か否か(争点3)

) 勤勉手当減額が違法か否か(争点4)

) 損害額(争点5)

争点に関する当事者の主張

) 争点1(記者会見妨害行為の存否及び違法か否か)について【被控訴人の主張】

ア オンブズXは,マスコミ各社に対し,平成17年1月20日午後1時30分から愛媛弁護士会館において,捜査費等不正支出問題で記者会見を行う旨連絡していた。

イ E課長は,平成17年1月13日,被控訴人を夕食に誘い,その際,被控訴人に対し,「総務室長のKから,先ほど電話があって,『OがオンブズXの人と何かを発表するらしいから,やめてくれないか』と要請された。」,「もしお前が発表するなら,事前にわしに連絡してくれ。」,「近々(定期異動の)ヒアリングがあるが,お前は(地域課鉄道警察隊に)おるようにして,Pは出すけんのう。」と言った。また,同月19日午後9時5分から午後10時44分までの間,県警本部において,E課長ら県警の幹部等から,「明日の記者会見はやめてくれ。その代わり,警部補昇任も考えている。残り4年間,楽なセクションで送ったらどうか。」,「(春の定期異動の)ヒアリングでもお前を鉄道警察隊に残すことにしたんだから,記者会見を止めてくれ。」と言った。さらに,E課長らは,同月20日の早朝被控訴人方を訪れて記者会見をやめさせようとした。

ウ 上記面談行為や説得行為は記者会見妨害行為に当たる。本件記者会見は,憲法21条1項の保障する表現の自由の範囲内の行為であることは明らかであり,これを妨害する上記行為が被控訴人の表現の自由を侵害するものとして違法であることは明白である。

また,刑事訴訟法239条2項は,「官吏又は公吏は,その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは,告発をしなければならない。」と規定し,公務員に告発義務を課するところ,被控訴人は警察官として知り得た犯罪行為を告発するために記者会見に臨もうとしたのであるが,県警の幹部らは,犯罪があることを知悉しながら,被控訴人の記者会見を妨害しようとしたものであって,違法である。

さらに,被控訴人の記者会見を妨害することは,公益通報者保護法の趣旨からみても違法である。

エ 現職警察官による裏金の告発記者会見は,警察庁へ報告すべき特異事案にあたり,そのような事案については,事前及び事後に懲戒処分その他の監督上の処分を行った場合には,警察庁に報告することになっているところ,A本部長は,現職警察官による裏金の告発記者会見という「不祥事」が起こるかもしれないという情報をK室長から聞いたのであるから,平成-

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17年1月13日のE課長の面談も,A本部長がK室長に指示して,行わせたものであるし,同月19日には,E課長に指示して,オンブズXと打合せ中の被控訴人に本部へ戻るように指示させたものであって,これらの行為は,A本部長の指示のもと,被控訴人の記者会見を妨害し,中止させようとする違法な行為である。

【控訴人の主張】

ア

地方公務員法をはじめとする公務員法は,公務の適正かつ円滑な遂行を目的としており,公務の執行に悪影響を及ぼすことになる公務とは直接関連のない私的な行為及び時間も服務の対象としている。地方公務員法の趣旨を受けて,愛媛県警察職員服務規程は,5条,8条,9条,11条,20条,22条において,監督者たる上司は部下の身上(私生活)に関して適切な指導監督を行わなければならないことを定めている。

イ

本件において,監督者たるE課長は,部下である被控訴人が記者会見をするとの風評を認知し,現職警察官による記者会見という極めて特異な事態についてその事実及び被控訴人の真意を確認するとともに,記者会見の内容が,職務上の秘密に及ぶものや誤った事実である場合は,それを指摘あるいは修正し,被控訴人自身についても不利益を被ることがないように指導する必要性を認めたことから面談したものであり,これは正当な行為である。

ウ

被控訴人は,E課長らが面談を行ったことは被控訴人の表現の自由を侵害するものであると主張するが,E課長らは被控訴人が記者会見を実施するとの風評があったことから,前記理由によりその事実及び被控訴人の真意を確認するために面談を行ったのであり,表現の自由を侵害するものではない。

エ

刑事訴訟法239条2項に定める「告発」とは,告訴権者及び犯人以外の第三者が捜査機関に対して犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意思-

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表示をいうのであり,記者会見はこれに当たらない。また,被控訴人は,県警の幹部らが犯罪があることを知悉しながら被控訴人の記者会見を妨害しようとしたと主張するが,被控訴人と面談したE課長らは,捜査費等不正支出の事実等を認知しておらず,犯罪があることを知りながら被控訴人と面談したのではない。

オ

公益通報者保護法は,公益通報を行った労働者に対する不利益な取扱いを制限することを内容としたものであるが,本件において,E課長らが被控訴人と面談した段階では被控訴人は記者会見を行っておらず,また,E課長らの面談は前記の理由により事実及び被控訴人の真意を確認するためのものであり,被控訴人の主張するような「同法の趣旨を没却する違法行為」ではない。

カ

E課長らの面談は,A本部長の指示のもと行われたものではない。2)

争点2(本件けん銃保管が違法か否か)について

【被控訴人の主張】

ア

警察官は制服を着用して勤務するときはけん銃を携帯するものとされ,その例外は限定されている。例外事由なく人事管理権者が警察官の意に反してけん銃を取り上げる措置は違法行為になる。本件けん銃保管は本件記者会見の後直ちに行われており,客観的にみて被控訴人の行為に対する陰険な報復,見せしめを行ったと評価できる。

なお,職務を遂行する警察官にとってけん銃を携帯することは職務上の義務であるだけでなく,職業上の矜持の象徴であり支えでもあるから,理由なく警察官からけん銃を取り上げられたことにより被った精神的苦痛は法的に保護に値するというべきである。

イ

控訴人は,本件けん銃保管は,被控訴人の自傷他害のおそれや現場における混乱のおそれがあることから,けん銃規範18条2項4号に基づく正当な措置であると主張する。しかし,自傷他害のおそれは,記者会見における被控訴人の発言の言葉尻をとらえた言いがかり的なもので根拠のないものであるし,記者会見により被控訴人の顔が周知されたからといって現場で混乱が予想されるというものではない。控訴人が主張するところは何ら理由にならない。

ウ けん銃規範17条は,本部長がけん銃などの管理責任者を指定するものと定めているから,けん銃の管理,保管の責任は県警本部の総括責任者である本部長にある。

また,現職警察官による裏金の告発記者会見は,警察庁へ報告すべき特異事案にあたり,そのような事案については,事前及び事後に懲戒処分その他の監督上の処分を行った場合には,警察庁に報告することになっているのであるから,被控訴人に係る本件けん銃保管は,A本部長の指示のもとに行われたものである。

要するに,本件けん銃保管は,被控訴人が行った本件記者会見に対する報復,見せしめとして,A本部長の指示のもとに行われた組織的な違法行為である。

【控訴人の主張】

ア 警察官は職務の特殊性から職務遂行のためにけん銃を所持できるが,けん銃はいったん使用すれば人の命を奪いかねない強力な武器であり,また奪取のおそれもあることから警戒しなければならず,その携帯及び使用には緊張感と集中力を要する。

イ E課長らは,本件記者会見の前日である平成17年1月19日午後8時50分ころから約2時間にわたり被控訴人と面談したところ,被控訴人は,記者会見を決意するに当たって,「息子たちとは水盃を交わしてきた。妻の墓にも別れを告げてきたので何も思い残すことはない。」,さらに,長男の殺人事件の捜査に関して現職警察官等3名を名指しし,「3人だけは,絶対に許せん。辞めるときは道連れを2,3人は作る。」,「妻の供養と息子の敵討ちのために覚悟を決めた。」「,自分にはもう何も失うものはない。」等と悲壮感を漂わせながら涙声で話すなど,これまでにない覚悟を決めた過激な言動が認められた。また,E課長は,報道機関からの情報として,本件記者会見において被控訴人が「辞めるときは死ぬとき。」という発言を行ったほか,涙を流して声を詰まらせたことなどを知った。

ウ 被控訴人の所属していた地域課鉄道警察隊は,駅や列車等多くの市民が往来する場所で,突発的な事故に対応し,けん銃使用も含めた直接の権限行使を行う部署であり,新聞やテレビのニュース等で被控訴人の顔が周知されていることから,被控訴人が多数の注視の的になり,見ず知らずの者から勤務中に話しかけられたり,取り囲まれたりすることが予想され,そうした状態において,万が一にも職務執行に冷静さや集中力を維持できなかったり,予期せぬトラブルが発生したりすれば,市民を守り,犯人を逮捕制圧するなどの職務遂行に万全を期することができず,被控訴人はもとより周辺の市民にも被害が及ぶことが懸念された。

エ 以上のような状況の中で,けん銃の管理責任者であるE課長は,被控訴人が万が一の事故やトラブルに遭遇する可能性を考慮して,特に必要があると認め,取扱責任者であるQ次長にけん銃の保管を命じたのである。その後,被控訴人の勤務している通信指令室ではけん銃の携帯を要しないこと,被控訴人は通信指令室での勤務にある程度慣れるとともに,平成17年4月に異動がなかったこと,記者会見前後に比して本人の状態が落ち着いてきたことなどから,けん銃の管理責任者は同月18日上記保管命令を解除した。したがって,本件けん銃保管は正当であり何ら違法性はない。

オ なお,本件けん銃保管は,A本部長の指示のもと行われたものではない。) 争点3(本件配置換えが違法か否か)について

【被控訴人の主張】

ア 公務員の労働関係において任命権者は所属する職員に対して人事権の行使として配置換えをする権限を有するが,その権限の行使は,合理的な裁量権の範囲内で行使される必要がある。合理的な裁量権を逸脱ないし濫用した場合は違法となり,合理的な裁量権の範囲にあるか否かは,当該配置換えの必要性・合理性及びその程度,配置換えをされる本人の不利益の有無及びその程度を考慮して判定されるべきである。

イ 本件配置換えは,県警の組織の業務運営上の必要性が乏しく,被控訴人の不利益取扱いを伴うものである上,被控訴人の本件記者会見に対し,被控訴人に警察官としての適格性がないとの評価を組織の内外に表明して報復,見せしめをすることを意味するものであって,これらを総合すれば,裁量権の濫用として違法というべきである。

ウ 控訴人は,本件配置換えはE課長の権限に基づいて行われたと主張するが,本件配置換えの権限は県警本部長にあると解すべきである。すなわち,県警本部長は職員の任免に関する権限を有し(地方公務員法6条1項),本件配置換えは同法17条1項の「転任」に含まれるからである。そして,こうした人事権を他の機関に「委任」するためにはその旨の明文の定めが必要であるところ,関係法令等には委任を認める規定はない。控訴人は,訓令等で地域課長に職務を指定する権限があることを認めている旨主張するが,これらの規定は,内部組織の取り決めに関する規則だったり,県警本部長の権限を内部において補助するための規定である。これらの規定によって地域課長が本件配置換えを行うことができるとする根拠にはならない。

エ また,被控訴人に対する事情聴取の後である平成17年1月23日に,A本部長を交えた検討会が実施され,具体的な異動ポストが定まっていない翌24日に,E課長ではなく,B部長が被控訴人に異動の内示をし,内示から2日後の同月26日に地域課通信司令室企画係が設置された等の事実を総合すれば,本件配置換えは,被控訴人が行った本件記者会見に対す-

-

る報復,見せしめとして,A本部長が決定したものであることが強く推認される。

また,被控訴人が行った本件記者会見は,警察庁へ報告すべき特異事案にあたり,そのような事案については,事前及び事後に懲戒処分その他の監督上の処分を行った場合には,警察庁に報告することになっているのであるから,被控訴人に対する本件配置転換処分は,A本部長の指示のもとに行われたものである。

【控訴人の主張】

ア

本件配置換えは,任命権者である県警本部長が地方公務員法17条1項の規定に基づき行う転任処分ではなく,被控訴人の上司であるE課長が職務上の監督権に基づき発した職務命令である。

イ

本件配置換えは,本件記者会見後の騒然とした環境の中で地域課鉄道警察隊で勤務することは適正な職務執行に支障が生じるおそれが認められること,110番受理件数の急増や全県的な緊急配備実施計画の改正作業の実施など業務量が増大していた通信指令室の体制強化が検討されていたこと,30年以上の地域警察勤務歴をもち地域警察の豊富な実務経験と知識を有する被控訴人であれば通信指令室における業務も十分こなし得ると考えられたこと,本部庁舎にある通信指令室に勤務する方が本件記者会見に関する聞き取り調査を容易に行えることなどの事情を考慮して,E課長がその必要性に基づき合理的な理由により総合的に判断して行ったものであり,裁量権を濫用するものではない。

ウ

本件配置換えは,A本部長の指示のもと行われたものではない。エ

本件配置換えは,本件けん銃保管を行ったための不可避な措置として,被控訴人を地域課鉄道警察隊から異動させる必要があったからであり,適法である。

オ

本件配置換えは,県警本部の通信司令室体制の強化の必要が平成16年12月ころから検討され,平成17年4月には通信司令室に企画係を新設することが内定していたのを,同年1月に前倒しして実施し,その上で,地域課の勤務が長く適任者である被控訴人を異動させただけであり,適法である。

) 争点4(勤勉手当減額が違法か否か)について

【被控訴人の主張】

ア 被控訴人の勤勉手当は,本件記者会見を行う前までは「C」ランクの評価で支給されてきたが,記者会見後,「C下」ランクとして減額して支給されている。

イ 「C下」ランクの評価は,「欠勤時間がある。勤務成績がやや良くない(注意処分を受けた場合に相当)。」ことを理由とするものであるが,被控訴人は,年休をとったことがある以外に欠勤したことはないし,上司から勤務について特段の注意や指導を受けたこともない。

ウ 上記勤勉手当の減額は,被控訴人が本件記者会見を行ったことによる報復措置であって違法である。

エ 上記勤勉手当の減額は,A本部長の指示のもと行われたものである。【控訴人の主張】

ア 勤勉手当は,能率給としての性格を有するものであり,職員の勤務成績に応じて支給するものである。

イ 勤務成績の評定は,評定期間中に職員に割り当てられた職務を遂行する上で,どの程度の成績をあげたかなどを判定するものであって,職員にどのような評価を行うかという点については,任命権者に広範な裁量が認められるものである。評定期間中における被控訴人の勤務状況は,仕事ぶり,勤務実績,積極性において劣っていたことから所属長は,その勤務成績が良好ではなかったと適正に判断したものであり,勤勉手当の評価は,被控訴人の記者会見とは全く関係がない。

ウ 上記勤勉手当の減額は,A本部長の指示のもと行われたものではない。) 争点5(損害額)について

【被控訴人の主張】

A本部長は,被控訴人の裏金問題告発の記者会見が行われるとの情報がもたらされて以後,記者会見の中止・妨害から本件けん銃保管,配置換えに至るまで,本件に深く関与をしてきており,これらの行為はA本部長の指示のもとに行われた。そのような組織的な違法行為であるから,被控訴人の精神的苦痛は一層深刻である。これを金銭に評価すると,100万円を下ることはない。

【控訴人の主張】

争う。

第3 当裁判所の判断

経緯

証拠(甲34,37ないし48,51,52,54,55,57の1・2,61,64,86ないし88,104の1・2,114,116,117,119,120,125,128,乙3,4,8の1・2,9ないし12,14,19,原審証人E,同G,同F,同D,同A,同B,同R,原審における被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。) 記者会見に関する風評

被控訴人は,平成17年1月7日にオンブズXと捜査費等不正支出問題に関する記者会見の打合せ等をした後に,高校の同窓会に出席し,その場でも上記記者会見のことなどを話し,たまたまその会に出席していたS県会議員とも会話した(原審における被控訴人本人)。

被控訴人の同窓会における言動等の情報は,上記県会議員から,捜査二課のT課長補佐を経由して,K室長のところまで伝達され,K室長は,E課長に対し,被控訴人が捜査費等不正支出問題に絡んで記者会見をするのではないかとの風評が入っているから,確認してほしい旨依頼した(甲61,原審証人E,原審における被控訴人本人)。

) 平成17年1月13日の面談

E課長は,被控訴人を誘って,午後5時30分ころから午後6時30分ころまで,喫茶店で夕食をとった(甲61,原審証人E)。

E課長は,その席で,被控訴人に対し,K室長からの依頼内容を伝えた上,記者会見を行うのかその真否を聞いた。被控訴人は,まだ迷っている旨返答するとともに,E課長に対し,記者会見を行ったら異動になるかなどと聞いた。E課長は,在職期間からみて異動の対象だが残留を希望するということで要望しておく旨答えた(甲61,64,原審証人E,原審における被控訴人本人)。

E課長は,K室長に,被控訴人は記者会見をやるかやらないかは決めていないようだなどと伝えた。K室長は,A本部長に,被控訴人が記者会見をするかもしれないという風評があったけれども,どうもしないようだなどと報告した(原審証人E,原審証人A)。

) 平成17年1月中旬ころのG隊長と被控訴人の会話

平成17年1月中旬ころ,被控訴人は,鉄道警察隊の事務所で,上司であるG隊長と雑談中,被控訴人が捜査費等不正支出問題のことで内部告発の記者会見をするような話をした。その際,被控訴人は,記者会見は,オンブズXに頼まれてやるようになったことや,高校の同窓会の席で話したところ県会議員からやめた方がいいと説得されたことなどを話したが,記者会見の内容等の具体的な説明はしなかった。G隊長は,上司の立場から,被控訴人については,一度決めたことは絶対に譲らない性格で,扱いづらいタイプの部下であるものの,よく雑談をし,本音を打ち明けることもあり,そこそこの信頼関係を保てていると感じていたが,被控訴人が自分にそのような話をした真意を図りかね,憶測で内部告発の記者会見をしようとしているのではないかと心配にもなり,被控訴人の決心の度合いを確認するため,「わしが何か言うても,やめんのやろ」と質問すると,被控訴人は即座にやめる気はない旨返答した。G隊長は,被控訴人が日頃E課長の世話になっている旨の話を聞いていたことから,被控訴人に対し,E課長にその話をしたのか質問してみたところ,被控訴人は,話をするつもりでいる旨返答した(乙11,原審証人G)。

) 平成17年1月19日の状況

ア 面談まで

午前10時半,U弁護士(以下「U弁護士」という。)は,県警記者クラブに電話をし,愛媛弁護士会館においてオンブズXが県警の捜査費等不正支出問題で明日午後1時30分から記者会見を行う趣旨の予告の連絡をした(甲37)。なお,被控訴人は,上記弁護士が上記予告の連絡をしたことを知らなかった(原審における被控訴人本人)。

被控訴人は,午後5時ころ,帰り際にG隊長に「今夜,弁護士と会う。」などといった話をした(原審証人G)。

被控訴人は,午後5時過ぎころ,県警本部にE課長を訪れ,記者会見をするかどうかについてはまだ決めていないが,今からその件の打合せのため弁護士事務所へ行く旨,終わったら連絡する旨告げた(原審証人E,原審における被控訴人本人)。

被控訴人の同期であるF調査官は,同じころ,被控訴人と県警本部の廊下で会った際,被控訴人から世話になったというような,今生の別れのようにもとれる言葉をかけられたことから,不審に思った(乙4,原審証人F)。

被控訴人は,午後5時40分頃,F調査官に電話をし,記者会見のことを告げ,「世話になった。お前には言ってなかったので,言っておく。本心は決めかねている。」などと話した(乙4,原審証人F)。

F調査官は,上記のやりとりを被控訴人の上司であるE課長に伝え,E課長は,F調査官に対して被控訴人の記者会見の風評等に端を発したこれまでの経緯を説明し,今夜被控訴人と面談する旨告げ,同席を求め,F調査官は了承した(原審証人F,同E)。

E課長は,被控訴人が訪れたことなどを報告するため本部長室に赴いた。本部長室では,A本部長が警務部長,D課長とともに4月以降の人事構想を練っていた。E課長は,A本部長に対し,被控訴人が弁護士事務所へ向かったことや上記被控訴人とF調査官とのやりとりなどを報告し,被控訴人の弁護士との打合せが終わった後に面談して,被控訴人からその真意を聞くつもりである旨告げた。その場にいた被控訴人の同期であるD課長は,E課長に対し,被控訴人との面談に同席したい旨申し出た。E課長はこれを了承した。(原審証人E,同F,同D,同A)

E課長は,被控訴人の弁護士との打合せはすぐに済むものと思っていたところ,しばらくしても連絡がないので,午後6時ころと午後6時30分ころに,被控訴人の携帯電話に電話した。そのとき被控訴人はオンブズXとの間で記者会見についての打合せ中であった。(甲61,原審証人E,原審における被控訴人本人)

被控訴人は,午後7時40分ころまで,オンブズXと翌20日の記者会見についての打合せを行い,その終了後,U弁護士に電話でこれから県警本部に行く旨告げたところ,同弁護士から行かない方がいいのではないかなどと忠告された。しかし,午後9時ころに県警本部に戻り,地域課において,E課長,D課長,F調査官と面談した。(原審における被控訴人本人)

E課長は,被控訴人とは昭和42年に警察大学校で被控訴人が他の入校生と争いごとを起こした際にたしなめたことをきっかけに知り合い,その後も関わり合いを持ち,被控訴人について,上司の立場で話をしても絶対聞くことはなく,自分の利になることにはスムーズに動くが,それ以外のことは聞かない性格であり,目立ちたがり屋で,話には誇張癖があり,感情を激しく言動に表すタイプであるなどの認識の下に付き合いを続け,長年の間にそれなりの信頼関係を構築してきたとの思いがあり,被控訴人の方でも,E課長が後記長男の事件後死亡した妻の葬儀に警察幹部として勤務中ただ一人参加してくれたことなどに恩義を感じ,それなりに頼りにするなどしてきた関係にあった(甲128,乙14,原審証人E,原審における被控訴人本人)。

F調査官も,被控訴人の同期として長年の付き合いがあったが,被控訴人について,感情を激しく言動に表すタイプと感じており,以前上司と衝突し激昂した被控訴人から,強く異動を依頼されるなどした経験があった(乙4,原審証人F,乙4)。

D課長は,被控訴人の同期生としての付き合いがあり,被控訴人の妻の葬儀に参列したこともあり,被控訴人については,自分の感情を表に激しく出し,直情径行型の一面を有すると感じており,昔被控訴人が高知県警の同期生との間にトラブルを起こし,その件についてD課長が同期生から不満を聞かされて辛い思いをした経験があった(乙9,原審証人D)。

イ 面談の内容

被控訴人は,E課長から記者会見をするかしないかについて質問されたのに対しては,具体的には決めていない旨,するなら連絡する旨の対応に終始し,また,記者会見ではどのような発言をするのかの質問に対しては,「資料は持っているが,明日は出さない。裁判にでもなれば出す。」などと言うのみで,説明しようとしなかった(乙14,原審証人E,同F,原審における被控訴人本人)。

そこで,E課長は,被控訴人がこれまで交番や駐在所等の地域警察部門でしか仕事をしたことがなく,昨今問題になっている捜査費を扱う部署に勤務したことはないことに加えて,被控訴人には誇張癖や目立ちたがりの癖があるとの認識もあって,被控訴人が憶測や他人から聞いた話等を記者会見で話すものと推測し,現職警察官である被控訴人がそのようなことをすれば県警がいらぬ誤解を受け,現場が無用の苦労をさせられるとの思いもあり,「君が記者会見すれば,県警は1年間は立ち直れない。」などと話した(乙14,原審証人E,原審における被控訴人本人)。

そのうち,被控訴人がF調査官に対して「お前はどう思うんぞ。」などと意見を求めたことから,Fは,被控訴人が記者会見をして辞めるのではないかと思っていたので,「警察に一緒に奉職した以上,一緒に卒業したい。わしも10年間地域の現場で頑張ってきた。いろいろ努力もした。その結果,警視試験にも通った。現場は苦労しながらも一生懸命頑張っている。今お前が動けば,現場は更に苦労する。」などと返答した(原審証人F,同D,原審における被控訴人本人)。

一方,D課長は,被控訴人が,記者会見で他人から聞いた話だとか根拠のない憶測とかを話すのではないかと懸念していたことから,大洲署の捜査費等不正支出問題が明るみに出て以来,現場では本来必要な捜査費についても遠慮して,自腹を切るような状況もあるなどの実情を話し,被控訴人が記者会見で他人から聞いた話や憶測を話すと,現場はますます混乱するから,その辺りをわかってもらえないかなどという話をするなどした(原審証人D)。

以上のようなE課長らの発言に対し,被控訴人は,「今,きちんとしないと,県警は一生立ち直れない。」などと反論し,また,この際県警は膿を出し切らなければ,現場の捜査員は報われないし,過去にいい目をしている幹部はきちんと清算してもらいたいなどと訴えるなどしていたが,やがて,長男の刑事事件に関する県警の対応に対する不満についても話を始めた(乙4,9,14,原審証人E,同F,同D)。

被控訴人の長男の刑事事件及びその関連事情の概要は下記ア)ないしウ)のとおりである(甲128,原審における被控訴人本人)。

ア) 事件の概要は,松山市の消防職員だった被控訴人の長男が,平成7年11月,上司である消防署長の首を電気コードで絞め付けた上,頸部を包丁で2回突き刺し,同人を失血死させたというもので,刑事裁判では殺害の計画性などが争われたが,平成12年1月18日,最高裁判所の上告棄却決定により1審判決の懲役12年の刑が確定した。U弁護士は,控訴審から弁護人となり被控訴人と知り合うことになった。

イ) 被控訴人は上記事件に強い衝撃を受け,自殺も考えたが,二男や三男ら家族に止められた。警察官を辞職することも考えたが,当時の上司から辞める必要はない旨助言されたこともあって辞職しなかった。被控訴人は,事件当時,上司の心配を慮って自らけん銃保管措置を申し出ている。被控訴人の妻は,長男の出所を待つ中で病気になり死亡した。E課長は,県警本部の幹部の中で唯一人被控訴人の妻の葬儀に参列した。ウ) 被控訴人は,上記事件の捜査の過程で,殺害の計画性に関連する証拠の捜査が不十分だったと思っていたことから担当捜査員に対して強い不満を抱いていた。

E課長らは,被控訴人が感情的に激しやすいとの認識から,極力落ち着いた雰囲気の中で被控訴人に話をさせるよう配慮していたが,長男の刑事事件の話が出たころから,被控訴人は,まくし立てるように話し始め,E課長に対しては妻の葬儀に参列してくれたことに恩義を感じているとか,今回妻の墓参りを済ませ二男や三男らとも別れを告げてきたので思い残すことは何もないとか,長男の刑事事件を担当した捜査官については具体的に3名の実名を挙げた上で,この3名に対して強い不満を持っており,許すことはできないとか,興奮し思い詰めた様子で涙声になるなどして話し続けた。E課長ら3人は,被控訴人の様子が平常心を失っているように見えて,不安を感じた(甲61,乙4,9,14,原審証人E,同F,同D,原審における被控訴人本人)。

面談は,午後11時前ころまで続いた。この間,数回にわたり被控訴人の携帯電話が鳴るなどし,被控訴人は通話のため席を外すなどした。結局,被控訴人は,今晩一晩考えると言って,記者会見を行うか否かについて確定的な返答をすることなく,記者会見で話す内容も明らかにすることなく,地域課を後にした。面談の終了前,E課長は,被控訴人に対し,記者会見をやるのであれば,A本部長に報告する必要があるから,決まれば事前に連絡して欲しい旨頼んだ(甲61,原審証人E,原審における被控訴人本人)。

ウ 面談後

その夜,被控訴人は自宅には帰らず,ホテルに宿泊した(甲128)。E課長は,午後11時ころ,A本部長に対して電話をし,面談の状況について被控訴人がする記者会見の内容は具体的にはよく分からないが,会計,経理に対するもののようである旨,被控訴人が記者会見することについてはまだ迷っている旨,精神的に非常に不安定になっている旨を報告するとともに,明日被控訴人が記者会見するのであれば連絡してもらうことになっている旨伝えた。また,B部長にも同様の報告を行った(甲61,原審証人E,同A)。

) 平成17年1月20日の本件記者会見までの状況

F調査官は,早朝起床し,前夜の面談時の被控訴人の精神的に不安定な興奮状態を思い,心配になり,午前6時ころ,E課長に対し,被控訴人宅に様子を見に行く旨の電話をした。F調査官は一人で行くつもりではあったが,E課長も同行することになった(原審証人E,同F)。

E課長とF調査官は,早朝被控訴人宅に向かい,被控訴人宅に電話し,電話に出た被控訴人の親族(亡妻の実妹)から被控訴人は不在である旨告げられたが,まもなく被控訴人宅を訪れて上記被控訴人の親族に被控訴人の所在を尋ねた。その後,E課長らは,被控訴人の所在を突き止めるべく被控訴人が立ち寄りそうな所へ連絡をとるなどした。なお,F調査官は,被控訴人宅から引き上げる途中,被控訴人の精神状態からして万が一のことを考えて,被控訴人の拳銃は保管した方がいいのではないかと意見具申した。(甲114,乙4,14,原審証人E,同F)

E課長は,被控訴人から記者会見をするのであれば連絡してもらうことになっていたとの認識もあって,この点からも被控訴人と連絡を取る必要があったことから,被控訴人の携帯電話に架電するなどしていたが,午後零時前には「1回連絡をください。なお,意志固まっていると思いますが,再度,あのー,私からお願いとして,最後のお願いとして,行くのは約束しているから駄目だと思いますが,えー,会見を・・・。」という伝言を残し,その後午後零時40分ころまでの間に,2度にわたって被控訴人の携帯電話に,記者会見を行うか否かを連絡するように依頼する旨の伝言を残した(甲39,原審証人E)。

A本部長は,日刊紙朝刊に,県警の捜査費等不正支出問題で現職警察官が長年にわたり県内の各警察署で捜査費を不正支出していたと証言した旨の記事が掲載されていたことや,被控訴人が上記捜査費等不正支出問題に関して記者会見を行う可能性があるとの報告を受けていたことから,午前11時15分ころ,M知事と面会し,上記記者会見が行われる可能性があること,その内容を見て調査した上県民に対する説明責任を果たしたいといった趣旨の説明をした(乙8の1・2,原審証人A)。

被控訴人は,午後1時前ころ,E課長に電話を架け,「今から記者会見やります。申し訳ありません。」などと告げた。E課長は,「あんまりむちゃするなよ。」などと言って電話を切った(甲61,原審証人E,原審における被控訴人本人)。

) 平成17年1月20日の本件記者会見及び本件けん銃保管

被控訴人は,前提事実3)のとおり,午後1時30分から,本件記者会見を行った。

E課長は,F調査官の進言もあり,被控訴人の昨夜の言動や精神的に不安定な様子に加えて,平成17年1月20日の被控訴人の本件記者会見の内容やその際に涙を流し「辞めるときは死ぬとき。」などの発言を行った事実等を伝え聞き,前提事実4)のとおり,けん銃の管理責任者として本件けん銃保管を行い,同日午後5時過ぎ,被控訴人に対し,被控訴人のけん銃を保管する旨電話で伝えた(原審証人E,原審における被控訴人本人)。被控訴人は,けん銃保管をされると仕事に差し支える旨答えたが,E課長は,本件記者会見の中で被控訴人が行った「辞めるときは死ぬとき。」という発言は自殺をほのめかすもので,これを防止する必要がある旨本件けん銃保管の理由を説明した。被控訴人は,前記発言は自殺をする趣旨ではない旨反論したが,E課長は「既に預かっている」としてこれを聞き入れなかった(原審証人E,原審における被控訴人本人)。

) 平成17年1月21日

被控訴人は年次休暇をとった。E課長は,B部長に対し,本件けん銃保管について報告した。(乙14)

) 平成17年1月22日及び同月23日の聞き取り調査

被控訴人は,本件記者会見後,平成17年1月22日午前9時ころから午後2時ころまでと同月23日午前9時30分ころから午後1時ころまでの2回,県警の会計調査班から聞き取り調査を受けた。その間,被控訴人の鉄道警察隊での通常の現場勤務は他の隊員が代行していた。上記聞き取り終了後の被控訴人の勤務については,E課長は,被控訴人に対し,通常の現場勤務ではなく事務所における事務処理を命じた。(乙14,原審における被控訴人本人)

上記聞き取り調査の結果を踏まえて,平成17年1月23日午後2時から,A本部長,警務部長,K室長,会計課長,会計課の事務局の者が出席する「検討会」が実施された。E課長も出席を希望したが,会計課長から,被控訴人の聞き取り調査を踏まえての今後の方針を検討するだけの検討会であるなどと言われて,出席を断られた。(原審証人A,同E)

) 平成17年1月24日のB部長による内示

E課長は,左頸部リンパ節腫大による発熱及び嗄声により通院し,年次休暇を取得した(乙14,19)。

B部長は,午前9時20分ころ,被控訴人に対し,生活安全部長室において,E課長が病気で休暇を取得したためE課長の権限を代わりに行使して,被控訴人を地域課鉄道警察隊から地域課通信指令室へ異動させる旨告げた。被控訴人は,B部長に対し,「報復人事ですか。」などと配置換えの理由を質問した。B部長は,被控訴人に対し,被控訴人の職務経歴を考えた上での課内配置換えであることを説明し,午前中は地域課鉄道警察隊で勤務し,午後からは地域課通信指令室へ移ることを告げたが,納得のいかない被控訴人からなおも説明を求められたところ,部外から電話が入ったため,被控訴人に対し地域課で待機するよう指示した。その後,B部長は,警務部長室に行った。B部長は,昼ころ,被控訴人に対し,生活安全部長室において,Q次長立ち会いの下,再度通信指令室への課内配置換え通知を行い,正式な発令日等については,E課長が出勤後に指示する旨を伝え,書類整理など課内配置換えの準備を始めるよう指示した。(甲104の1・2,原審証人B,原審における被控訴人本人)

これを受けて,被控訴人は,午後,異動の内示を受けたこと及びそれが報復人事である旨の記者会見を行った(甲64)。

なお,県警本部における係長以下の警察官に係る人事異動については,愛媛県警察の職員の任用に関する訓令4条2項に所属長が職員の職務を指定する旨の規定等があることを根拠に本部長の権限が所属長に分配されているとして所属内の配置先の発令は例外なく所属長が行っている旨の実態ないし慣行があり,E課長もかつて心臓に問題があり夜間勤務をさせることが困難な通信指令室員と地域課鉄道警察隊員とを相互に定期異動以外の所属長発令で所属内異動をさせたことがある(甲61,86)。

) 平成17年1月26日の一部改正の訓令

E課長は,平成17年1月25日も左頸部リンパ節の腫れが引かないため引き続き年次休暇を取って通院したが,同月26日には出勤し,警務課に対し,通信指令室企画係の新設を要望し,その結果,その旨の「愛媛県警察本部各課,警察学校及び警察署の係設置に関する訓令及び通信指令室組織及び運営規定の一部を改正する訓令」(平成17年本部訓令第1号)が,D警務課長の専決処分で定められ,同月27日施行された(甲61,乙14,原審証人E,同D)。

) 平成17年1月27日の本件配置換え

E課長は,平成17年本部訓令第1号の制定により被控訴人の異動に必要な訓令の改正がなされた後,その施行に合わせて被控訴人を通信指令室企画係に配置換えする辞令の決裁を行い,前提事実5)のとおり,本件配置換えを行った(原審証人E)。

その際,E課長は,被控訴人に対し,被控訴人の今までの言動等を勘案し,本人及び第三者に対する危害予防のためけん銃保管を行っているので,地域課鉄道警察隊での制服勤務はできないこと,被控訴人は県内の地理に精通しており,豊富な実務経験から,通信指令室業務は十分にこなし得ること,通信指令室においては,警察署の統合に伴う無線機の再配分を行わなければならないが,3交替制勤務員のみが勤務する現在の体制では困難であるため,被控訴人には日勤勤務で無線機の再配分,緊急配備計画の再構築等を担当させる予定であることなど,配置換えの理由を告げた(甲61,86,乙14)。) 被控訴人の通信司令室企画係での勤務

被控訴人は,現実には,平成20年2月1日から,通信司令室企画係での勤務を開始した。

通信企画室には,被控訴人の執務机が急遽運び込まれた(甲34,120)。被控訴人が担当すべき事務は下記ア,イのとおりである。

ア 平成17年4月1日現在(甲116)

ア) 非常(異常)通報装置の運用管理(正)

イ) 携帯無線機の管理・運用(正)

ウ) 統計事務(副)

通信指令業務の統計に関すること,緊急配備の統計に関することエ) 備品・消耗品の管理及び無線機乾電池の配分に関すること(正)

イ 平成18年4月1日現在(甲117)

ア) 非常(異常)通報装置の運用管理(正)

イ) 携帯無線機の管理・運用(正)

ウ) 指令室の庶務・企画・調整に関すること(副)

エ) 統計事務(副)

オ) 備品・消耗品の管理に関すること

被控訴人のみが所属する企画係の長であり被控訴人の上司となる企画課長補佐は通信司令官が併任している(甲51,52,87,乙14)。被控訴人は,平成17年6月24日,非常(異常)通報装置の運用管理の業務担当連絡会議について,自らが正責任者であると考え,出席しようとしたが,拒否された(原審における被控訴人本人)。

) 勤勉手当の減額

前提事実6)のとおり,被控訴人に対する,平成17年6月と12月の勤勉手当の評語はC下であった。被控訴人はそれまではCの評価を得ていた。(甲40,ないし46,64,128,原審における被控訴人本人)被控訴人は,平成17年12月,勤勉手当の評語「C下」の評価に納得できないとして,所属長等に対し説明を求めたが,説明がなかったため,同月9日A本部長宛にその説明を求める趣旨の質問状を提出したが,何ら回答はなかった(甲47,61,原審における被控訴人本人)。

) 人事委員会裁決

前提事実7)のとおり,被控訴人が,愛媛県人事委員会に対し,平成17年2月23日,本件けん銃保管及び本件配置換えについて不服申立てをしたところ,上記人事委員会は,平成18年6月6日に本件配置換えを取り消す旨の裁決をした(甲86)。

県警本部長及び県警本部生活安全部地域課長は,上記人事委員会に対し,平成18年12月7日付けで上記裁決は事実認定に当たって判断の遺漏が認められることを主張して再審の請求を申し立てたが,上記人事委員会は,再審の事由に該当しないなどとして却下した(甲125)。

上記人事委員会裁決を受けて,被控訴人は,平成18年6月7日に,地域課鉄道警察隊に復帰した(原審における被控訴人本人)。

争点1(記者会見妨害行為の存否及び違法か否か)について

被控訴人は,前記第2の41)【被控訴人の主張】のとおり,A本部長ら県警幹部らがE課長らに指示して,平成17年1月13日及び同月19日に控訴人と面談させ,説得させ,同月20日早朝に被控訴人宅を訪問させるなどして,記者会見を妨害し,中止させようとした違法行為がある旨主張する。) 平成17年1月13日の面談

まず,平成17年1月13日の面談の経緯状況は,前記12)認定のとおりであり,E課長は,K室長から,被控訴人が捜査費等不正支出問題に絡んで記者会見をするのではないかとの風評が入っているから,確認してほしい旨の依頼に基づき,被控訴人を夕食に誘い,記者会見を行うのかその真否を聞き,被控訴人が,まだ迷っている旨返答するとともに,E課長に対し,記者会見を行ったら異動になるかなどと聞き,E課長が,在職期間からみて異動の対象だが残留を希望するということで要望しておく旨答えたものであるが,当日の状況については,原審における被控訴人本人中に,記者会見を止めてくれというニュアンスはなかったように記憶している旨の供述部分があるところ,記者会見をするのかどうかを確認すること自体をもって直ちに違法とする根拠も見当たらないほか,被控訴人が,E課長に対して記者会見を行ったら異動になるかなどと聞いたのに対し,E課長が,在職期間からみて異動の対象だが残留を希望するということで要望しておく旨答えた点については,それ自体異動に関する仮定の質問に対して自分の見解を述べた域を出ないというべく,これをもって直ちに違法ともいえない。他に面談の方法や成り行きを検討しても格別違法事由を認めることはできない。

) 平成17年1月19日の面談

次に,平成17年1月19日の面談についてであるが,被控訴人は,前記主張において,同日の面談の際,E課長ら県警幹部等から「明日の記者会見はやめてくれ。その代わり,警部補昇任も考えている。残り4年間,楽なセクションで送ったらどうか。」,「(春の定期異動の)ヒアリングでもお前を鉄道警察隊に残すことにしたんだから,記者会見をやめてくれ。」と言った旨主張し,原審における被控訴人本人及び甲128(被控訴人の陳述書)等にはこれに沿う部分があるが,原審証人E,同F,同Dの反対趣旨の証言に照らし,直ちに採用し難い。

かえって,平成17年1月19日の面談の状況は前記14)認定のとおりである。すなわち,被控訴人自身が同月7日の同窓会で記者会見の話を披瀝し,その風評が県警に達したことが契機となり,E課長が同月13日にその真否の確認のため被控訴人と面談し,被控訴人がするかしないか迷っている旨の返答をしたままになっていた(この間,記者会見の風評に関して県警の側から被控訴人に対する働き掛けが行われた形跡は証拠上全く見当たらない。)ところ,被控訴人が同月19日夕刻になってE課長を訪問し,記者会見をするかどうかについてはまだ決めていないが,今からその話のため弁護士事務所へ行く旨,終わったら連絡する旨告げたことが同日の面談の発端となった。同じころ,被控訴人は同期のF調査官に対し,自ら声をかけ,電話するなどして記者会見に関して決めかねている旨を告げ,F調査官もこの件を知ることとなり,さらに,同じころ,E課長がA本部長にこの件の報告のため本部長室を訪れた際,同室にいた被控訴人の同期のD課長もこの件を知ることとなった経緯がある。被控訴人と面談したE課長,F調査官及びD課長は,いずれも被控訴人が捜査費を扱う部署に着いた経歴がなく,記者会見で捜査費等不正支出問題について的確な話ができるのか疑問を持っており,できれば他人から聞いた話や憶測程度で記者会見はしてほしくないとの考えを持つ一方で,被控訴人の性格や過去の経歴等を知悉しており,上司からの押し付けなどには決して屈しないし,感情的に激しやすい面もあることを承知の上で,できるだけ穏やかな雰囲気の中で被控訴人が話せるよう配慮し,被控訴人から記者会見を本当にするのかどうか,記者会見ではどのような話をするのか聞き出そうとしたものであるが,結局,被控訴人はこれらについて返答をすることはなかったものである(原審における被控訴人本人中にも,上記面談の際に記者会見をするかしないかということまでは話をしていないということかとの質問に対しては,「まあ,私ぐらいの感覚であれば,あっ,こいつするなというのはわかりますが,彼ら3人には,するともしないとも言わなかったですから,ひょっとしたらするのかな,ひょっとしたらやめるのかなということぐらいしか思わなかったと思います。」との供述部分がある。)。以上のように,平成17年1月19日まで県警側に動きのないこと,同日の被控訴人のE課長訪問を契機とした面談の実現,被控訴人の同期のF調査官及びD課長が面談に参加することになった経緯,E課長らが被控訴人の過去の経歴に照らして抱いていた捜査費等不正支出問題に対する的確な証言をなし得るかどうかについての疑問,被控訴人の性格等に対する認識,E課長らの質問にもかかわらず面談の最後まで被控訴人が記者会見するかどうか明らかにしなかった事情等に照らすと,県警側が事前に被控訴人の記者会見を阻止するための利益誘導等の準備をしていた形跡はうかがわれない上に,面談の際の会話の焦点も,記者会見をするのかどうか,するのであればどのような内容なのか,それは捜査費等不正支出問題に対して的確な証言たり得るのかどうかに向き,これらの点について被控訴人に説明を求めることになるのが自然であり,これらの点が明らかにならないのに,被控訴人のいうような利益誘導が話題の中心になるとも考え難い。もっとも,双方のやり取りの成り行き上,被控訴人が記者会見を行った場合を仮定した話題が出ることはあり得るであろうし,現に前記14)イ認定のとおり,E課長が,被控訴人が現職で告発会見をやれば,県警は1年間は立ち直れないなどと話し,被控訴人から意見を求められて,F調査官が,被控訴人が記者会見をして辞めるのではないかと思っていたので,「警察に一緒に奉職した以上,一緒に卒業したい。わしも10年間地域の現場で頑張ってきた。いろいろ努力もした。その結果,警視試験にも通った。現場は苦労しながらも一生懸命頑張っている。今お前が動けば,現場は更に苦労する。」などと言い,D課長が,被控訴人が記者会見で他人から聞いた話や憶測を話すと,現場はますます混乱するから,その辺りをわかってもらえないかなどという話をしているが,これらの発言は,被控訴人が捜査費を扱う部署にいた経験がないことから記者会見で憶測等を話すのではないかという懸念を前提としたものであり,捜査費等不正支出問題に対する被控訴人とは異なる認識を前提にした意見の表明ないし被控訴人に対する要望あるいは再考を促すといった趣旨のものと解されるから,これらをもって利益誘導とはいえないし,このような発言をしたこと自体をもって直ちに違法ともなし難い。なお,上記E課長らの懸念に対し,これを解消ないし減弱するに足りるような説明ないし反論が被控訴人からなされた形跡は見当たらない。

以上の次第で,平成17年1月19日の面談において,被控訴人が主張するような利益誘導が行われたとは認められず,それに類する違法事由があったことを認めるに足りる的確な証拠もない。

ところで,面談時,E課長ら3人ができれば被控訴人に記者会見をしてほしくないとの思いでいたことは前記14)認定のとおりであるが,このような思いを有していたのは,被控訴人が捜査費を扱う部署に着いた経歴がなく,記者会見で捜査費等不正支出問題について的確な話ができるのか疑問を持っていたためであることも同認定のとおりであり,この点は被控訴人の認識と相違があったにしろ,上記3人がそのような思いを有していたからといって,直ちに面談をすること自体が違法になるものとはいえない。面談そのものも,被控訴人から当日弁護士と会う旨告げに来た被控訴人に対し,E課長が了解を取った上で実施され,時間が遅くなったのも,被控訴人の弁護士との打合せが終わるのを待ってなされた経緯によるものであり,被控訴人は弁護士から行かない方がいいのではないかとの忠告を受けたが,自ら県警本部を訪れ,面談に応じたものであり,F調査官及びD課長が参加することについても,格別異議を述べたこともなく,面談の時間も2時間弱程度であり,その間,面談の中止や自らの退席を求めることもなく,数度の携帯電話による退席をした以外は退席することもなく,E課長らからの記者会見をするのかどうか,その内容はどのようなものかとの質問に対しては結局答えないで,県警の捜査費等不正支出問題に対する姿勢を強く批判する一方で,長男の刑事事件の話題を持ち出すなどして自らの思いを述べ,最後に記者会見をするかどうか決めたら連絡してほしい旨の依頼に対しても格別拒絶することなく県警を後にしたものであり,その間,被控訴人がE課長らの言動に対して不快感を示したり,面談自体を拒否しあるいは退席を求めたりなどした形跡はなく,話し合い自体が紛糾した形跡もない。このように,面談の端緒,時間,進行状-

-

況等を検討しても,県警側が無理強いし,被控訴人の意向を無視し,威圧を加え,その感情を害するなどした事情は全く見当たらないところであり,特段違法事由があったとは認められない。

3)

平成17年1月20日の被控訴人宅への訪問等

さらに,平成17年1月20日早朝にE課長らが被控訴人宅を訪れたことなどについても,被控訴人は,記者会見を妨害し,中止させようとするための違法行為である旨主張するが,同日の記者会見までのE課長らの行動は,前記15)認定のとおりであり,被控訴人の同期であるF調査官が,前夜の面談時の精神的に不安定に見えた状況から,被控訴人のことが心配になり,早朝,E課長に対し,被控訴人宅に様子を見に行く旨の電話をし,E課長もこれに同行することになり,2人で被控訴人宅を訪れたものの,被控訴人の不在を知り,心配して立ち寄りそうなところ等に連絡するなどして所在確認に努めたものであり,他方,E課長は,被控訴人が記者会見をすると決めれば連絡してもらうことになっていたことから,連絡してほしい旨被控訴人の携帯電話に伝言を残すなどしたものであって,これらの行動には,被控訴人の外泊という予想外の事態や記者会見をするしないに係る連絡がないことによる困惑狼狽の様子はうかがえても,記者会見阻止のための違法行為であることをうかがわせるような形跡は見当たらない。他に,同日のE課長らの被控訴人宅の訪問等の行為が記者会見を妨害し,中止させようとするのための違法行為であることを首肯させるような事実を認めるに足りる証拠はない。4)

補足

被控訴人は,A本部長ら県警幹部らがE課長らに指示して被控訴人の記者会見を妨害し,中止させようとした違法行為があるとも主張するが,前記14)認定のとおり,E課長がA本部長やK室長に面談の状況や結果等を報告していたことはあっても,A本部長ら県警幹部らがE課長らに指示して被控訴人の記者会見を妨害し,中止させようとしたことを認めるに足りる証拠はない。

原審における被控訴人本人中には,平成17年1月19日の面談の前に,E課長からかかってきた電話で「A本部長から被控訴人を本部に引き戻すように言われたので,すぐ帰ってくるように」などと言われた旨の供述部分があるが,原審証人Eはそのような会話をしたことを否定しており,上記供述部分は直ちには採用し難い。また,甲37(弁護士Uの陳述書)中にも同様の趣旨の記載があるが,上記記載は被控訴人による上記電話内容に係る伝聞を前提とするものであり,原審証人Eの反対趣旨の証言に照らしても,これをもって直ちに本部長の指示があったと認めることもできない。さらに,原審における被控訴人本人中には,被控訴人が記者会見をするといえば県警が被控訴人をでっち上げで逮捕するだろうと思っていた旨の供述部分があるが,県警側が被控訴人を逮捕する準備をしていた形跡も,そのようなことが可能であることをうかがわせるような事情も,証拠上見当たらないところであり,県警が被控訴人をでっち上げで逮捕しようとしていたとは認められない。なお,E課長は,人事委員会の口頭審理において「(D課長から)同期生の立場で「Eさん実力で止めましょうや」という発言はあったと認識しておりますが,それについては,「そういったことできるわけがなかろが」ということで否定しております。」と述べた事実がある(甲61)が,D課長はそのような発言をしたこと否定している(原審証人D)上に,E課長自身も上記陳述の直後に「拉致とかね,逮捕とかいう(被控訴人が)いろいろ公表していること,そういったことは私は一切否定します。」と述べていることに加えて,仮に上記Dの発言があったとしても,言下に上司であるE課長が退けたというのであり,その発言の前後の経緯も,その意味するところの具体的な内容も不明である上に,前記14),5)認定の面談時及びその後のE課長らの言動等に特段不自然な点は見当たらないところであるから,E課長の上記陳述の存在をもって,直ちに上記判断が左右されるものでもない。

また,被控訴人は,E課長らによる面談行為及び説得行為は,憲法21条1項の保障する表現の自由を侵害する行為であるとともに刑事訴訟法239条2項の公務員の告発義務の履行行為である本件記者会見を妨害するものであり,公益通報者保護法の趣旨に照らし,違法である旨主張する。地方公務員法30条は「すべて職員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,且つ,職務の遂行に当つては,全力を挙げてこれに専念しなければならない。」と定め,同法32条は「職員は,その職務を遂行するに当つて,法令,条例,地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い,且つ,上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と定め,同法33条は「職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。」と定め,同法34条1項は「職員は,職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も,また,同様とする。」と規定し,同条2項は「法令による証人,鑑定人等となり,職務上の秘密に属する事項を発表する場合においては,任命権者(中略)の許可を受けなければならない。」と定め,これら規定の趣旨を受けて,愛媛県警察職員服務規程(昭和52年7月本部訓令11号)8条は「職員は,職務に支障を及ぼすような宗教的又は政治的論議をしてはならない。」と定め,同規程9条は「職員は,国民の信頼及び協力が警察の任務を遂行する上で不可欠であることを自覚し,その職の信用を傷つけ,又は警察の不名誉となるような行為をしてはならない。」と定め,同規程11条1項は「職員は,職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。」と定め,同条2項は「法令による証人,鑑定人等となり職務上の秘密に属する事項を発表する場合は,所属長を経て警察本部長の許可を受けなければならない。」と定め,同規程20条は「職員は,職務上必要と認められる情報を入手したときは,速やかに報告しなければならない。」と定め,同規程22条は「職員は,外出するときは行き先を明らかにしておかなければならない。」と規定し,同規程5条は「監督者は,部下の職務及び身上に関し,適切な指導監督を行い,過誤のあるときは,分に応じてその責を負わなければならない。」と規定する。以上の諸規定によれば,E課長が,被控訴人の監督者たる上司の立場から,部下である被控訴人の職務ないし身上に関する指導監督権の行使として,本件記者会見に関する風評を入手した際に,その真偽を確認し,会見の内容について問いを発すること自体は,適法な行為というべきであり,そうしたからといって直ちに表現の自由の侵害や公務員の告発義務行為の妨害あるいは公益通報者保護法の趣旨違反ということにはならない。もっとも,一般に記者会見が内部告発を内容とするような特段の事情のある場合には,ことの性質上,上司が部下に対する指導監督権の行使にも慎重な配慮を要するものと解され,部下が面会そのものや真偽の確認すら拒んでいるにもかかわらず,面会等を迫るなどすることは,指導監督権の行使の方法において違法の疑いが生じ得るものといえる。しかし,本件においては,被控訴人は,E課長からの平成17年1月13日の面談の申入れに応じ,記者会見をするかしないかについては決めていない旨返答し,その後そのままになっていたのを,同月19日になって自らE課長のところに赴き,記者会見の打合せのために弁護士に会う旨告げて,弁護士と会った後の面談に応じたものであり,面談の状況もこれまで認定説示してきたとおりであり,E課長らが面談を無理強いしたり,被控訴人の意向を無視したり,威圧を加えたり,その感情を害するなどした事情はなく,被控訴人は面談の中止や自らの退席を求めることもなく,E課長らの記者会見をするかしないか及び記者会見の内容はどうのようなものかに関する質問に対しても返答しないまま終わり,翌日そのまま本件記者会見を実施しているのであり,前記14)認定の面談時の双方の会話の内容に照らしても,格別憲法21条1項や刑事訴訟法239条2項あるいは公益通報者保護法の趣旨に反する事由が存したとは認め難い。上記主張は採用できない。

争点2(本件けん銃保管が違法か否か)について

) けん銃規範は,警察官は,制服(活動服を含む。)を着用して勤務するときは原則としてけん銃を携帯するものとすることや携帯方法について定めるとともに(第3章),所轄庁の長が指定した管理責任者が,けん銃の取扱い保管者を指定すること(18条1項),離職したり休職を命じられるなどの一定の事由がある警察官からけん銃等の返納を受けること(20条),けん銃の亡失,損傷等について報告を受け所轄庁の長に報告すること(23条),試射弾丸等を登録すること(24条),随時けん銃の検査を行い保管状況を監督すること(29条)などけん銃の管理及び監督の責任を負うことを定めている(17条)。

そして,けん銃の保管について,警察官は,貸与されたけん銃等の保管の責めに任じると定めている(19条1項本文)が,一方で,警察官は,けん銃を携帯しないときは,管理責任者が,部署に所属する警察官の中から指定したけん銃等の取扱い責任者に保管を依頼することができ(同条1項ただし書,18条1項),また,管理責任者は,警察官が長期欠勤又は心身の故障のため,けん銃等を保管することが適当でないと認められるとき,警察官が停職を命じられたとき,修理,精密手入れ等のため,けん銃を集めるとき,亡失その他の事故の防止のため,管理責任者が特に必要があると認めたときは,指定した取扱い責任者にけん銃の保管を命じることができ,その場合は,取扱い責任者が保管の責任を負うことを定めている(18条2項,3項,19条2項)。

上記のように,けん銃規範が,管理責任者にけん銃の管理及び監督について広範な権限と責任を与えているのは,そもそも,けん銃が,人を殺傷する能力を有する強力な武器であって,日本においては,その所持は一般に禁止されており(銃砲刀剣類所持等取締法3条),警察官は,その職務を遂行するために,特に法令によってその所持が認められているものだからである(同法3条1項1号,警察法67条)。

以上の諸規定に照らせば,各警察官にけん銃を所持する権利があるなどとは到底認められず,けん銃の管理及び保管に関する管理責任者には,けん銃の保管に関しては,けん銃の武器としての特殊性,危険性に応じて,広範な裁量権が与えられていると解すべきであり,けん銃規範18条2項4号の「亡失その他事故の防止のため,特に必要がある」か否かを判断するに当たっても,この点を前提とすべきである。

) 前記14)ないし6)認定のとおり,E課長は,F調査官の進言もあり,平成17年1月19日の夜の面談の際の被控訴人の妻の墓参りを済ませ二男や三男らとも別れを告げてきたので思い残すことは何もないとか,長男の刑事事件を担当した捜査官には強い不満を持っており許すことはできないとかを興奮し思い詰めた様子で涙声になるなどして話をしていた状況に加えて,同月20日の被控訴人の本件記者会見の内容やその際に涙を流し「辞めるときは死ぬとき。」などの発言を行った事実等を伝え聞いて,本件けん銃保管を行ったものであるところ,これらの事情からすれば,当時の被控訴人については精神的にいささか不安定と判断されてもやむを得ない言動があったものと認められ,けん銃規範18条2項4号の「亡失その他の事故のため,特に必要がある」場合に該当する事由があったものというべきであるから,けん銃の管理責任者であるE課長の本件けん銃保管の判断は相当であり,その裁量権の範囲を逸脱ないし濫用したものとはいえない。このことは,本件けん銃保管が本件記者会見の実施後まもなく行われ,本件けん銃保管に続いて,後記4説示のとおり違法と評価すべき本件配置換えがなされたからといって,左右されるものではない。

) 被控訴人は,本件けん銃保管が本件記者会見を行った被控訴人に対する陰険な報復,見せしめのために行われた違法行為である旨主張するが,本件けん銃保管に当たってけん銃規範18条2項4号の「亡失その他事故の防止のため,特に必要がある」との判断に裁量権の逸脱あるいは濫用があるとは認められないことは前記2)説示のとおりであり,上記主張は採用できない。被控訴人は,けん銃規範17条を根拠にして,本部長もけん銃保管の権限を有しており,本件けん銃保管は,本部長の指示のもとなされたと主張するが,けん銃規範の規定は前記1)説示のとおりであり,前提事実4)及び前記16)認定のとおり,E課長がけん銃管理者として本件けん銃保管を行ったものであることは明らかであるから,上記主張は採用できない。

また,被控訴人は,本件事実経過にかんがみれば,現職警察官による裏金の告発記者会見という特異事案については,監督上の処分をしたときには,警察庁に事前及び事後に報告しなければならないのであるから,本件けん銃保管も本部長の指示のもとになされたと主張するが,上記報告とけん銃保管が連動しなければならない理由があるとは認め難い上に,本件けん銃保管が本部長の指示のもとになされたこと自体を認めるに足りる証拠はないのであるから,上記主張は採用の限りではない。

争点3(本件配置換えが違法か否か)について

) 任命権限に関する法令等の定め

地方公務員法は,道府県警察本部長が,道府県警察における職員の任命,休職,免職及び懲戒等を行う権限を有すること(6条1項),職員の職に欠員を生じた場合において任命権者は,採用,昇任,転任,降任のいずれかの方法により,職員を任命することができることを定める(17条1項)。任命権限の委任に関しては,道府県警察本部長は,任命権限の一部をその補助機関たる上級の地方公務員に委任することができる(6条2項)との定めがあるほか規定はない。

愛媛県警察職員の人事記録等に関する訓令(昭和49年本部訓令第5号。以下「人事記録訓令」という。)は,人事異動の種別及び内容として,「転任」を「愛媛県の職員としての身分を中断することなく,任命権者を異にする他の機関から異動してきた職員を任命すること」と,「配置換え」を「同一任命権者のもとにおいて,職員に勤務場所又は職務の担当の変更を命ずること」と定める。また,県警本部長が行う人事異動の発令通知は,当該職員の属する所属長に対し,電話又は人事異動通知書等をもって通達するとともに,当該職員に対しては,辞令書を交付して行うものとするとし,所属長の行う人事異動の発令通知は,簡易な事項の発令を除き,当該職員に辞令書を交付して行うものとすると定めている(甲105)。

) 本件配置換えの権限

ア 所属長による発令

地方公務員法においては,職員の任命は,現に職員でない者を職員の職に任命する「採用」,法令,条例,規則その他の規程により公の名称が与えられている職員の職でその現に有するものより上位のものに任命する「昇任」,昇任の逆である「降任」,「昇任」「降任」以外の方法で他の職員の職に任命する「転任」の4種類に限定されている。国家公務員の職員の任免(人事院規則8-12)においては,転任に類似する任用方法として,「配置換え」の制度が設けられ,転任とは,職員を任命権を異にする他の官職に任命することであり,配置換えとは,職員を任命権者を同じくする他の官職に任命することと考えられているが(「解釈通覧・地方公務員法」総合労働研究所編),地方公務員においては,「配置換え」の制度はなく,昇任,降任又は転任のいずれかに含まれることになる。

そして,警察職員の任命権限あるいは任用権限の委任に関しては,道府県警察本部長は,任命権限の一部をその補助機関たる上級の地方公務員に委任することができる(地方公務員法6条2項)との定めがあるほか規定はない。

控訴人は,前記1)認定のとおり,愛媛県警察職員の人事記録訓令において,人事異動の種別及び内容として,「転任」を「愛媛県の職員としての身分を中断することなく,任命権者を異にする他の機関から異動してきた職員を任命すること」と,「配置換え」を「同一任命権者のもとにおいて,職員に勤務場所又は職務の担当の変更を命ずること」と定めるところ,愛媛県警察の職員の任用に関する訓令(甲109)には,所属長が職員の職務を指定する旨の規定があるので,所属長が職務担当の変更としての「配置換え」を命ずることができるから,所属長であるE課長が,適法に本件配置換えを行った旨主張するところ,前記県警察本部長の任命権限の一部の委任に関する地方公務員法6条2項に照らし,上記の愛媛県警察職員の人事記録訓令や愛媛県警察の職員の任用に関する訓令は,その内容自体からして,転任である「配置換え」についての県警本部長の任命権限の一部を委任したものと解する余地があり,現に,前記19)認定のとおり,県警本部では係長以下の警察官に係る人事異動については所属内の配置は所属長が発令する実態ないし慣行があり,E課長も所属内異動の発令をしたことがあることからすると,本部長が有する任命権のうち所属内の異動に関しては上記各訓令をもって包括的に所属長に委任されているものと認めるのが相当である。

以上によれば,前提事実1)ウのとおり,鉄道警察隊も通信司令室も,同じ地域課に設置されており,本件配置換えは,基本的には同じ地域課内での内部異動であるから,地域課長であるE課長は,従前からの慣行に従い,上記委任に基づき,自らの権限でこれを実施したものと認められる。本件配置換えを本部長が行い,又は指示したことを認めるに足りる証拠はない。

イ 補足

被控訴人は,被控訴人に対する事情聴取の後の平成17年1月23日にA本部長を交えた検討会が実施され,具体的な異動ポストが定まっていない翌24日に,E課長ではなくB部長が異動の内示をし,内示から2日後の同月26日に通信司令室企画係が設置された等の事実を総合すれば,本件配置換えは,A本部長が行ったものと推認される旨主張する。前記18)認定のとおり,本件記者会見後,被控訴人に対する聞き取り調査が実施され,それを踏まえての検討会が,A本部長らが参加して平成17年1月23日に実施されているが,その検討会の趣旨は,その参加メンバーに照らしても,被控訴人の本件記者会見に基づいて,会計上の今後の調査方針を検討するものと解するのが相当であり,被控訴人の処遇等を協議するものとは認め難く,他に上記検討会において被控訴人の処遇等を検討したことを認めるに足りる証拠はない。その他,A本部長が本件配置換えを行ったことをうかがわせるような事情も見当たらない。上記主張は採用できない。

また,被控訴人は,本件記者会見が警察庁へ報告すべき特異事案であり,このような場合に監督上の処分を行った場合には,警察庁に報告することになっているのであるから,本件配置換えは,本部長の指示のもとに行われたとも主張するが,上記報告と配置換えが連動しなければならない理由があるとは認め難い上に,本件配置換えが本部長の指示のもとになされたこと自体を認めるに足りる証拠はないのであるから,上記主張は採用の限りではない。

なお,原審における被控訴人本人中には,本件配置換えを行ったのはA本部長であるとして,E課長から,被控訴人を転勤させろと言われて困っている,異動についてはE課長が盾になる,さらには,辞表を出し,被控訴人の内示の撤回を申し入れたができなかった,被控訴人がさらに24日に記者会見をしたことが原因であると言った旨の供述部分があり,その裏付けとして,平成17年1月23日にE課長と昼食をともにした際にいわゆる隠し撮りをした録音テープを提出し,その録音の中には,被控訴人からの異動に関する話題に対し,E課長が「異動のことは,それはちゃんと,それはちゃんとわしが盾になるけん。」,「現段階では残留ということでヒアリング出しとるけん。」などと答えた部分が残されている(甲57の1・2)。この会話について,原審証人E及び甲63(E課長の陳述書)中には,記憶がないが,話をしたとすれば,被控訴人の意思に反して本件配置換えをしなければならないという気持ちがあったので,被控訴人に配慮し,迎合的に話しただけだと思う旨の供述ないし陳述部分がある(甲63,原審証人E)ところ,上記録音に係る全体の会話の調子が相互に極めて迎合的な雰囲気の中でなされていることや,本件配置換えの実施を控えたE課長と被控訴人との旧来の関係等からして,上記弁解は必ずしも不自然ではない。その上に,上記録音に係る会話部分の前後の脈絡も必ずしも明確ではないほか,本件配置換えに対するA本部長の指示等をうかがわせるような形跡は他には全く見当たらない状況下においては,上記録音による会話部分の存在をもって,直ちに本件配置換えがA本部長によってなされたことの証左とすることもできない。また,被控訴人の上記供述部分中,E課長が内示の撤回を申し入れたなどとする部分については,E課長は人事委員会の証言で否定しており(甲61),上記供述部分を裏付けるに足りる証拠はない。

他に,本件配置換えが本部長によって行われ,あるいはその指示のもと行われたことを認めるに足りる証拠はない。

) 本件配置換えの違法について

ア 違法事由

配置換えは,基本的には,組織構造,それぞれの職の職務内容,職員の個々の状態,能力,適性及び勤務実績等を総合的に勘案して高度に合目的,技術的見地からなされる裁量行為であるというべきであるが,特段の理由がない限りは定期異動など特定の時期に行われているのが通常であり,職員も合理的な理由や必要性がなければ勤務場所を変更されたり,職務の担当の変更を命じられることがないということについて合理的な期待を有するというべきであるから,特定の職員に対する嫌がらせや報復のためになされる場合はもちろんのこと,その必要性に関する判断に社会通念上著しく妥当性を欠くところがあるような場合は,違法となるというべきである。本件配置換えは,前記16)ないし11)認定のとおり,現職の警察官である被控訴人により愛媛県内の警察内部で裏金作りが行われていたことを内容とする本件記者会見が実施されたわずか4日後の平成17年1月24日に内示され,被控訴人の反発にもかかわらず,その2日後の同月26日にそのための新たな配置先の部署の新設のための訓令の一部改正が行われ,その翌日である同月27日に辞令の交付が行われたものであるが,新設された企画係の担当事務は前記112)認定のとおりであるところ,その事務内容自体からしてこれを新設する緊急の必要性があるとは認め難いほか,被控訴人のこれまでの経歴や担当職務ともほとんど無縁であり,被控訴人がこの部署に適任とは考え難い上に,被控訴人の年齢や経歴等からしても,敢えてこの時期にこのような新たな職務を意に反してまで経験させる意味があるのか疑問であって,他にこのような配置換えをこの時期に行うことの必要性や合理性の存在を首肯させるような事情は証拠上見当たらない。以上によれば,本件配置換えは,職務上ないし人事上の必要性や合理性とは全く無関係に,本件記者会見に端を発して実施されたものというほかなく,配置換えの権限者であるE課長が敢えて本件配置換えに及んだ意図は,本件記者会見に至る経緯や本件記者会見の内容等に照らすと,捜査費等不正支出問題に対する県警側の組織的対応とは別の行動をとった被控訴人に対する嫌がらせないし見せしめのためと推認されるところであり,明らかに社会通念上著しく妥当性を欠くものというべきである。

したがって,本件配置換えは違法である。

イ 補足

控訴人は,本件配置換えの理由として,本件けん銃保管を行ったため不可避な措置として地域課鉄道警察隊から異動させる必要があった旨主張する。しかしながら,地域課鉄道警察隊の勤務にけん銃携帯が不可欠であることを首肯させるような規程や慣例ないし事由を認めるに足りる証拠はないほか,本件けん銃保管が本件記者会見に係る被控訴人の言動に起因するものであることに加えて,被控訴人の過去の勤務実績等に照らしても,けん銃保管の必要性が長期にわたり継続するような事情があるとはいえないし,鉄道警察隊において,様子を見るための短期間けん銃を携帯しない勤務形態を不可能とするような事情は見当たらない上に,実際に平成16年6月から8月にかけて健康上の問題でけん銃を所持せずに鉄道警察隊に勤務した者がいたこと(原審における被控訴人本人),鉄道警察隊に勤務していても会計調査班による聞き取り調査は十分可能であること(前記18)認定の聞き取り調査は,土曜日と日曜日に実施されている。),本件記者会見により被控訴人の顔が周知された事情があったにしろ,いわゆるほとぼりが冷めるまでは鉄道警察隊で事務処理をさせるなどして対処することも可能であることなどの諸点を併せ考えると,被控訴人について,本件けん銃保管を行ったため不可避な措置として地域課鉄道警察隊から異動させる必要があったとはいえない。上記主張は採用できない。

また,控訴人は,本件配置換えは,県警本部の通信司令室体制の強化の必要が平成16年12月ころから検討され,平成17年4月には通信司令室に企画係を新設することが内定していたのを,同年1月に前倒しして実施し,その上で,地域課の勤務が長く適任者である被控訴人を異動させただけである旨主張し,原審証人E,同D,乙9,14中にはこれに沿う部分があるところ,上記内定の点については,原審証人E中に,平成16年12月に企画係新設の内定通知を受けた旨,そのペーパーがある旨の供述部分があり,同D中に,同月段階で同年4月には企画係を新設することが内定し,本部長名の正式な文書がある旨の供述部分があるが,上記文書の存在を裏付けるに足りる的確な証拠はなく,疑問の余地がある上に,仮に上記内定があったとしても,前記アに説示するところによれば,内定の前倒しを必要とする事情も,被控訴人を適任とするに足りる事情もあったとはいえないのであるから,上記主張は採用の限りではない。

5 争点4(勤勉手当減額が違法か否か)について

被控訴人の本件記者会見までの勤勉手当の評語はC(勤務成績が良好である。)であったのに,本件記者会見後の平成17年6月,12月の勤勉手当の評語はC下(欠勤時間がある。勤務成績がややよくない。(注意処分を受けた場合に相当))となり,その勤勉手当が減額となったことは,前提事実6)及び前記113)認定のとおりである。

勤勉手当は,職員の給与に関する条例(昭和26年11月16日付け条例第57号)及び期末手当及び勤勉手当の支給について(昭和54年10月25日付け例規警第25号)に基づき,一定期間の基準日に在職する職員に対し,6月1日及び12月1日の基準日以前6箇月間における勤務成績に応じて支給するものである。この勤務成績の評定は,評定期間中に職員に割り当てられた職務を遂行する上でどの程度の成績をあげたかなどに基づいて判定するものであって,割り当てられた職務,職務経験,職員の能力,勤務実績などを総合的に考慮してなされる専門的な判断であるから,評定権者の広範な裁量権が認められるべきである。もっとも,当該裁量権も全くの自由裁量ではなく,例えば,違法あるいは著しく不合理な上司の職務命令を起因とする勤務実績の低下や積極性の欠如を理由に勤務成績の評定を下げることなど,評定が社会通念に照らして著しく不合理であるような場合は,勤務成績の評定及びこれに伴う勤勉手当の減額は違法となり得るというべきである。控訴人は,評定期間中における被控訴人の勤務状況は,仕事ぶり,勤務実績,積極性において劣っていたことから,所属長は,その勤務成績が良好ではなかったと適正に判断したものであり,勤勉手当の評価は,被控訴人の記者会見とは全く関係がない旨主張する。乙12(Rの陳述書)には,被控訴人に担当させた業務として①APRの整備,②無線機の再配分,③緊急配備の見直し,④無線機及び無線機用乾電池の管理運用,⑤非常(異常)通報装置の管理運用,⑥110番通報受理業務があるが,④及び⑥の業務を除くいずれの業務についても被控訴人が十分にしないので他の室員が残業するなどしてそれを補完していた旨の記載があり,原審証人R中にもこれに沿う部分がある。しかし,①の業務の責任者はRで,他の業務の責任者はV調査官であり,被控訴人の業務懈怠について上司に対し,Rが報告をしたことはなく,V調査官が報告したかどうかは⑤の業務に関して1回報告したこと以外に知らないし,聞いていない旨,また,被控訴人の業務懈怠による支障についても報告したことはない旨,被控訴人に対して注意や処分がなされたことはない旨の供述部分もある上に,被控訴人の本来の業務及び懈怠部分の各具体的内容やその量等を裏付ける証拠は何ら提出されておらず,被控訴人の業務懈怠及びその範囲等を客観的に認定するに足りる的確な証拠は提出されていない。乙42(Wの陳述書)中にも,被控訴人に勤務懈怠があり,その点について勤務評定の際には報告が挙げられている旨の記載部分があるが,乙12と同様具体的な裏付けを欠いている。

上記のとおり,被控訴人の勤務成績評価の評語C下は「欠勤時間がある。勤務成績がややよくない。(注意処分を受けた場合に相当)」に相当するものとされているが,本件配置換えの後,被控訴人に欠勤時間があることを認めるに足りる証拠はなく,注意処分を受けた形跡もない上に,勤務成績がややよくない旨の指摘は,上記乙12,42や原審証人R中に見受けられるものの,その具体的な裏付けがなく,通常業務懈怠の場合にあって然るべき上司に対する報告は1回のみで他にあった形跡はなく,被控訴人に対する注意や処分もなされた形跡はない。

以上のような諸事情に加えて,前記4説示のとおり本件配置換え自体が違法-

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であり,被控訴人の意に反している上に,新部署が被控訴人のこれまでの経歴や担当職務ともほとんど無縁であり,被控訴人が適任とは考え難いことに加えて,被控訴人が平成17年2月10日には本件配置換え等を違法として本件訴訟を提起し,前提事実7)のとおり,同月23日には本件配置換えを不当として人事委員会に不服申立てをしていた経緯のほか,前記113)のとおり,被控訴人が県警側に対して勤務成績の評定に関する評価の説明を求めても何ら回答がなかったことなどをも併せて考慮すると,被控訴人の成績の評定をCからC下に下げることは,社会通念上著しく不合理というべきである。

したがって,上記勤勉手当の減額は違法というべきである。

なお,本件勤勉手当の減額について本部長が指示をした事実を認めるに足りる証拠はない。

争点5(損害額)について

本件配置換えの内容,これに至る経緯,特に職務上ないし人事上の必要性や合理性とは全く無関係に,本件記者会見に端を発して実施され,それが捜査費等不正支出問題に対する県警側の組織的対応とは別の行動をとった被控訴人に対する上司による嫌がらせないし見せしめと推認される事情のほか,その後の勤勉手当の減額,被控訴人の現職警察官としての立場,経歴等を併せ考慮すると,被控訴人の精神的苦痛は大きいものというべきであり,その慰謝料は100万円を下回らないものと認めるのが相当である。このことは,本件記者会見に対する事前の妨害行為が認められず,本件けん銃保管が違法ではなく,本件配置換え及び勤勉手当の減額について県警本部長が指示をしたとは認められないことによって左右されるものではない。

結論

以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項により,その職員による違法な本件配置換え及び勤勉手当の減額による被控訴人の精神的苦痛に対する慰謝料100万円の支払義務を負うものというべきであり,被控-

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訴人の請求を認容した原判決は結論において相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

高松高等裁判所第4部

裁判長裁判官

矢延正平

裁判官

釜元修

裁判官

齋藤聡

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(別紙)

組織図(省略)

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/36912/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。