主文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中200日を本刑に算入する。
理由
弁護人渡邉靖子の上告趣意は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,危険運転致死罪の成否につき,職権により判断する。原判決及びその是認する第1審判決の認定によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
被告人は,普通乗用自動車を運転し,パトカーで警ら中の警察官に赤色信号無視を現認され,追跡されて停止を求められたが,そのまま逃走し,信号機により交通整理の行われている交差点を直進するに当たり,対面信号機が赤色信号を表示していたにもかかわらず,その表示を認識しないまま,同交差点手前で車が止まっているのを見て,赤色信号だろうと思ったものの,パトカーの追跡を振り切るため,同信号機の表示を意に介することなく,時速約70kmで同交差点内に進入し,折から同交差点内を横断中の歩行者をはねて死亡させた。
所論は,平成19年法律第54号による改正前の刑法208条の2第2項後段にいう赤色信号を「殊更に無視し」とは,赤色信号についての確定的な認識がある場合に限られる旨主張する。
しかしながら,赤色信号を「殊更に無視し」とは,およそ赤色信号に従う意思のないものをいい,赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても,信号の規制自体に従うつもりがないため,その表示を意に介することなく,たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も,これに含まれると解すべきである。これと同旨の見解の下,被告人の上記行為について,赤色信号を殊更に無視したものに当たるとして,危険運転致死罪の成立を認めた原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 甲斐中辰夫裁判官 泉徳治裁判官 涌井紀夫裁判官 宮川光治)
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/36923/detail2/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。