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最高裁第一小法廷判決棄却民集37巻7号918頁

最一小判 昭和58年9月8日

昭和56年(オ)第1196号 保険金支払等

裁判所
最高裁判所第一小法廷
裁判年月日
昭和58年9月8日 (1983-09-08)
事件番号
昭和56年(オ)第1196号
事件名
保険金支払等
裁判の種類・結果
判決 棄却
判例集等
民集37巻7号918頁
原審
福岡高等裁判所 昭和56年(ネ)第154号 昭和56年9月9日
分野
民事
意見
裁判官全員一致個別意見なし

判示事項

生命保険契約において被保険者の「妻何某」とのみ表示してした保険金受取人の指定の趣旨

裁判要旨

生命保険契約において被保険者の「妻何某」とのみ表示してした保険金受取人の指定は、当該氏名をもつて特定された者を保険金受取人とする趣旨であり、それに付加されている「妻」という表示は、それだけでは、その者が被保険者の妻である限りにおいてこれを保険金受取人として指定する意思を表示した趣旨であると解することはできない。

参照法条

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人仁科恒彦の上告理由書及び上告理由補充書記載の上告理由並びに上告代理人木村一八郎の上告理由について

生命保険契約において保険金受取人の指定につき単に被保険者の「妻何某」と表示されているにとどまる場合には、右指定は、当該氏名をもつて特定された者を保険金受取人として指定した趣旨であり、それに付加されている「妻」という表示は、それだけでは、右の特定のほかに、その者が被保険者の妻である限りにおいてこれを保険金受取人として指定する意思を表示したもの等の特段の趣旨を有するものではないと解するのが相当である。けだし、保険金受取人の指定は保険契約者が保険者を相手方としてする意思表示であるから、これによつて保険契約者が何びとを保険金受取人として指定したかは、保険契約者の保険者に対する表示を合理的かつ客観的に解釈して定めるべきものであつて、この見地に立つてみるときは、保険契約者が契約の締結に際して右のような表示をもつて保険金受取人を指定したときは、客観的にみて、右「妻」という表示は、前記のように、単に氏名による保険金受取人の指定におけるその受取人の特定を補助する意味を有するにずぎないと理解するのが合理的であり、それを超えて、保険契約者が、将来における被保険者と保険金受取人との離婚の可能性に備えて、あらかじめ妻の身分を有する限りにおいてその者を保険金受取人として指定する趣旨を表示したものと解しうるためには、単に氏名のほかにその者が被保険者の妻であることを表示しただけでは足りず、他に右の趣旨を窺知させるに足りる特段の表示がされなければならないと考えるのが相当だからである。それゆえ、保険契約者が、保険契約において保険金受取人を被保険者の「妻何某」と表示して指定したのち、「何某」において被保険者の妻たる地位を失つたために、主観的には当然に保険金受取人の地位を失つたものと考えていても、右の地位を失わせる意思を保険契約に定めるところに従い保険金受取人の変更手続によつて保険者に対して表示しない限り、右「何某」は被保険者との離婚によつて保険金受取人の地位を失うものではないといわざるをえない。そして、以上の理は、会社、事務所、官公庁、組合等の団体を対象とし、被保険者が死亡し又は所定の廃疾状態になつた場合に死亡保険金又は廉疾保険金を支払う趣旨の団体定期保険契約についても妥当するものというべきである。

これを本件についてみるのに、原審が適法に確定したところによれば、(1) 上告人A1、同A2の父であるD(以下「D」という。)の所属する大分県医師会は、昭和四八年七月一日、被上告人B2生命保険相互会社との間で、被保険者をD、保険金受取人を「妻、E」、保険金額を四〇〇万円とする団体定期保険契約を、また、昭和五一年一〇月一日、被上告人B3生命保険相互会社との間で、被保険者をD、保険金受取人を「妻、E」、保険金額を五〇〇万円とする団体定期保険契約をそれぞれ締結し(以下これらを「本件各契約」という。)、本件各契約はその後Dが死亡するまで毎年更新された、(2) 被上告人B1は、本件各契約締結当時Dの妻であつたが、訴外Fとの不貞行為が原因で昭和五三年五月二三日Dと離婚することを余儀なくされ、同年一一月二四日右訴外人と婚姻した、(3) 本件各契約が依拠する被上告人B2生命保険相互会社、同B3生命保険相互会社の各団体定期保険普通保険約款三四条には、保険契約者は、被保険者の同意を得て死亡保険金受取人を指定し又は変更することができ、併せて右指定又は変更はその旨を保険者に書面で通知してからでなければ保険者に対抗することができない旨が定められているが、本件各契約において右約款所定の保険金受取人の変更手続がとられないまま、Dは昭和五五年一月二〇日に死亡した、というのである。右事実関係のもとにおいては、本件各契約の保険金受取人は保険金受取人として表示された「E」すなわち被上告人B1であり、同人は自己の不貞行為が原因でDと離婚することを余儀なくされてその妻である地位を失い、Fと婚姻したからといつて、本件各契約の保険金受取人の地位を喪失したものとはいえないというべきであつて、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張はその前提を欠く。論旨は、これと異なる見解に基づいて原判決を非難するか、又は原判決の結論に影響しない部分についてその違法をいうものにすぎず、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条一、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 団藤重光

裁判官 藤崎萬里

裁判官 中村治朗

裁判官 谷口正孝

裁判官 和田誠一

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/52154/detail2/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。