主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人土家健太郎の上告理由について。
本件船舶が総屯数二〇屯未満の不登記船舶である旨の原審の認定は挙示の証拠によつて肯認し得るところである。しかして、論旨はまず原判決が被上告人Bの右船舶の所有権取得を認めたのは、民法一九二条にいう無過失の解釈を誤つたものであると主張するので、この点を判断する。
思うに、右法条にいう「過失なきとき」とは、物の譲渡人である占有者が権利者たる外観を有しているため、その譲受人が譲渡人にこの外観に対応する権利があるものと誤信し、かつこのように信ずるについて過失のないことを意味するものであるが、およそ占有者が占有物の上に行使する権利はこれを適法に有するものと推定される以上(民法一八八条)、譲受人たる占有取得者が右のように信ずるについては過失のないものと推定され、占有取得者自身において過失のないことを立証することを要しないものと解すべきである。しかして、このように解することは、動産流通の保護に適合する所以であり、これに反する見解に立つ判例(大審院明治四年(オ)第三三一号、同年九月一日判決、民録一四輯八七六頁)は改むべきものである。
今叙上の見解に立つて本件を見るに、原審の認定したところによれば、訴外Dが右船舶を競落したものの右競売手続には瑕疵があつたため、該船舶の所有権を取得しなかつたところ、執行吏によつて船舶の競売手続がなされるような場合、船舶の所有権が競落人に移転するものと信ずるのは通常であるから、右Dから右船舶を買い受けた被上告人Bにおいて、Dが船舶の所有権を取得せずして無権利者であつたことを知らなかつたことにつき過失ありとは認められないのであつて、原判示の無過失であつた云々の措辞は必ずしも妥当ではないが、原判決は前記当裁判所の見解に照らし、結局正当である。しかして、その余の点についても、原判決には何等所論の違法はなく、論旨はすべて採用に値しない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 岩田誠
裁判官 入江俊郎
裁判官 長部謹吾
裁判官 松田二郎
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/57765/detail2/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。
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