令和6年5月23日判決言渡し同日原本領収裁判所書記官
令和5年(ワ)第28199号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日令和6年3月28日
判決
主文
1 被告は、原告Aに対し、3176万2645円及びこれに対する令和△年△月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Bに対し、3176万2645円及びこれに対する令和△年△月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告Cに対し、110万円及びこれに対する令和△年△月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告Dに対し、220万円及びこれに対する令和△年△月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを10分し、その7を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
7 この判決は、第1項から第4項までに限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告Aに対し、7182万2761円及びこれに対する令和△年△月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Bに対し、7732万2761円及びこれに対する令和△年△月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告Cに対し、1650万円及びこれに対する令和△年△月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告Dに対し、4400万円及びこれに対する令和△年△月△日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、被告所属の公務員(警察官)が運転するパトカーが横断歩道を横断中のE(以下「被害者」という。)に衝突した(以下「本件事故」という。)後、被害者が死亡した交通事故について、被害者の両親でありその相続人である原告A及び同B並びに被害者の兄である原告C及び双子の妹である原告Dが被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、前記第1のとおり損害賠償金の支払を求める事案である。
1 争いがない事実等
⑴令和△年△月△日午前10時32分頃、東京都千代田区a 町b 丁目c 番地付近の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)において、警視庁の警察官が職務として運転する緊急走行中の普通乗用自動車(パトカー)が、対面信号機が赤色灯火であったにもかかわらず新宿方面から半蔵門方面に向かって時速約40ないし50kmで直進したところ、本件交差点出口の横断歩道を対面歩行者用信号機の青色灯火に従って横断中の被害者(平成△年△月生の男児)に衝突した(本件事故)。⑵被害者は、本件事故によって頭蓋底骨折、急性硬膜下血種及びびまん性脳損傷の傷害を負い、入院治療を受けたが、令和△年△月△日、死亡した。⑶原告A及び原告Bは被害者の両親であり(相続分各2分の1)、原告Cは被害者の兄、原告Dは被害者の双子の妹であり、原告らと被害者とは、本件事故発生当時、東京都内で同居して生活していた。
⑷被告は、本件事故について、原告らに対し、国家賠償法1 条1 項に基づく損害賠償義務を負う。
2 争点及びこれに対する当事者の主張
本件の争点は原告らの損害額であり、当事者の主張は、原告らの主張を以下のとおり補足するほかは、別紙損害額一覧表のとおりである。
⑴被害者の逸失利益
原告A及び同Bの教育水準等からすれば、被害者の将来における基礎賃金は平均賃金の水準を大きく上回るものと推定されるから、同人の逸失利益を算定するに当たっては、その基礎収入を令和元年男性学歴計全年齢平均賃金の1.5倍である841万4550円とすべきである。そして、収入が増加しても生活費そのものが増加するわけではないから、生活費控除率は40%とすべきである。また、被害者は、満18歳から67歳までの49年間にわたり就労が可能であった。したがって、逸失利益は、別紙損害額一覧表「原告ら主張額・理由等」欄記載のとおりとなる。
⑵被害者の傷害慰謝料及び死亡慰謝料
本件事故は、交通法規を遵守すべき警察官が、パトカーを運転し、その必要性に多大な疑問のある緊急走行中に対面信号機が赤色灯火であったにもかかわらず徐行もせずに時速40ないし50kmに加速して本件交差点に進入し、対面歩行者用信号機の青色灯火に従って横断歩道を横断中の何ら落ち度のない被害者にパトカーを衝突させたというものである。そして、幼少の被害者は、本件事故により重傷を負い、原告ら家族の懸命の付添看護にもかかわらず苦痛を受けながら27日間にわたって闘病して死亡するに至り未来を絶たれた。これらの諸事情によれば、被害者の傷害慰謝料は200万円、死亡慰謝料は5000万円が相当である。
⑶原告らの各固有慰謝料
前記⑵の諸事情に加えて、①原告らにおいては、被害者の死亡により家族関係が大きく変化し、原告B及び同Dが沖縄県に移住して原告A及び同Cと別居するに至り生活状況が一変してしまったこと、②原告A及び同Bにおいては、望んでもうけた双子の兄である被害者を失い喪失感が大きい上、いずれも本件事故当時の仕事を辞めざるを得なかったこと、③原告C及び同Dにおいては、兄妹関係が変化し、特に被害者の双子の妹である原告Dにおいては、もとより喪失感が大きい上、本件事故現場に居合わせたことによる精神的衝撃も大きく、また、兄妹関係の変化による原告Cのいじめによって円形脱毛症にり患するなどしたことなどの諸事情に照らせば、原告らの各固有慰謝料は、別紙損害額一覧表「原告ら主張額」
記載の額とするのが相当であ
る。
第3 当裁判所の判断
当裁判所が認定した原告らの各損害額は、別紙損害額一覧表「裁判所の認定額」
記載のとおりである。以下、その理由を補足する。
1 被害者の逸失利益について
⑴基礎収入
証拠(甲9~13)及び弁論の全趣旨によれば、原告Aが大学卒業後に大学院で修士の学位を取得し、税理士法人や大手企業での就労を経て本件事故当時はコンサルティング業務に従事し、男性学歴計全年齢平均賃金を大きく上回る収入を得ていたこと、原告Bも大学を卒業後に外資系生命保険会社に就職し、外国人役員の秘書として稼働して女性学歴計全年齢平均賃金を大きく上回る収入を得ていたことが認められる。また、証拠(甲6、7)によれば、本件事故は、原告Aが被害者及び原告Dを定期的に通う体操教室に送迎している際に発生したものであることが認められることなどからすれば、原告A及び同Bが被害者を含む子らの課外教育にも熱心であったことがうかがわれる。これらの諸事情に照らせば、将来、被害者が高等教育を受けた後に平均賃金を上回る収入を得る可能性があること自体を否定することはできない。
もっとも、被害者は、死亡当時未だ5歳になったばかりの幼児であり、上記諸事情を踏まえても、現時点において、被害者の学歴のほか、就労開始時期及び就労可能期間を含めその具体的な就労状況等を高度の蓋然性をもって推認することはおよそ不可能であるといわざるを得ない。
以上に加え、本件においては、被害者の就労可能期間の始期が高等学校卒業時点である18歳であり終期が67歳までであることに争いがないことを踏まえれば、現時点において推認可能な被害者の基礎収入は、令和元年男性学歴計全年齢平均賃金である年額560万9700円と認めるのが相当である。
⑵生活費控除率
被害者が5歳で死亡したことに照らせば、その生活費控除率は50%とするのが相当である。
⑶結論
以上によれば、被害者の逸失利益は、次の計算式のとおり2702万5290円となる。
(計算式)5,609,700 円×(1-50%)×9.6352(死亡当時5 歳の被害者の就労可能年数49 年(18 歳から67 歳まで)に対応するライプニッツ係数)=27,025,290 円
2 被害者の傷害慰謝料及び死亡慰謝料について
前記第2の1の争いがない事実等のほか、証拠(甲6)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被害者は、本件交差点に設置された横断歩道上を対面歩行者用信号の青色灯火に従って横断していたところ、緊急走行中とはいえ対面信号機が赤色灯火であったにもかかわらず十分に減速せず時速40ないし50kmの速度で本件交差点を直進したパトカーに衝突されたものであって何ら落ち度がない一方、パトカーを運転する警察官の前方不注視等の過失は相応に大きいものといわなければならない。そして、本件事故により、未だ5歳の幼児である被害者が重篤な傷害を負って同居する原告ら家族の懸命の付添看護にもかかわらず苦痛を受けながら27日間闘病して死亡するに至りその未来を絶たれたものであることを考慮すると、被害者の傷害慰謝料を70万円、死亡慰謝料を2400万円と認めるのが相当である。
3 原告らの各固有慰謝料について
前記2の認定判断に加え、証拠(甲4、6~8、13)及び弁論の全趣旨によれば、前記第2の2⑶①ないし③の諸事情が認められるところ、これらの諸事情に照らせば、両親である原告A及び同Bには各300万円、兄である原告Cには100万円、双子の妹として被害者と成長を共にしてきた原告Dには200万円の各固有慰謝料を認めるのが相当である。
4 原告らの各弁護士費用について
本件事案の内容等に鑑みれば、原告らの各弁護士費用は、別紙損害額一覧表「裁判所の認定額」
記載の額が相当である。
第4 結論
以上の次第で、原告らの各請求は、原告Aについて3176万2645円、原告Bについて3176万2645円、原告Cについて110万円、原告Dについて220万円及びこれらに対する本件事故の日である令和△年△月△日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとする。なお、被告が求める仮執行免脱宣言は、相当でないから付さない。
よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第27部
裁判長裁判官 菊池憲久
裁判官 千葉健一
裁判官 倉鋪卓徳
別紙は掲載省略
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/95751/detail4/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。