国家公務員等退職手当暫定措置法の一部を改正する法律案
参議院 内閣委員会
昭和34年法律第164号
審議経過
右の数字は会議の発言数提案理由
山中貞則 政府委員(大蔵政務次官) 昭和34年2月27日次に、国家公務員等退職手当暫定措置法の一部を改正する法律案につきまして、提案の理由及びその概要を御説明申し上げます。
政府は、今回、いわゆる非現業の恩給公務員に対しましても、現在の恩給制度にかえ、共済組合の長期給付制度を適用することとし、別途所要の法律案を提出して御審議をお願いすることといたしているのでありますが、これに伴い、非現業の恩給公務員に対する退職手当の額をいわゆる五現業職員等に対する退職手当の額と同一の水準に改訂することとし、ここにこの法律案を提出した次第であります。
次に、この法律案の概要を御説明申し上げます。
まず、この法律案は、現在五現業職員等に対してのみ特例として適用されております退職手当に関する措置を、すべての国家公務員及び三公社職員に対して適用しようとするものであります。すなわち、退職事由の分類及びこれに応ずる支給額の算定基準を五現業職員等と同様に改訂することとしております。これにより、平均的に見て、退職手当額は約二五%の引き上げとなるのであります。ただし、三公社職員につきましては、公共企業体職員等共済組合法の規定による長期給付と国家公務員共済組合法の規定による長期給付との間に、その算定方法の差異があることを考慮しまして、退職手当の支給額につき所要の調整を加えることといたしております。
なお、以上の改正に伴い、現行法の暫定措置法たる建前を改め、法律の題名を国家公務員等退職手当法に改めることその他所要の改正を行うことといたしております。
最後に、この法律案による改訂後の退職手当は、一般公務員については共済組合による長期給付の適用開始期日である本年十月一日以後の退職者に対して支給することとし、公共企業体職員については、五現業職員等との権衡を考慮して、本年一月一日以降の退職者に対して支給することとしております。
次に、国税徴収法案について申し上げます。
現行国税徴収法は、明治三十年に制定されて以来すでに六十余年を経ておりますが、その間若干の部分的な改正があったとはいえ、その全般にわたる根本的な改正は行われることなく、今日に至ったものであります。しかし、わが国の経済事情も国税徴収法制定当時に比べて著しい変革を遂げており、法律制度自体も大きく変っております。さらに、戦後税制改正に伴い租税体系そのものに大きな変化が現われており、また戦前に比べて滞納が増加しているなど、国税徴収法が現在の実情に沿わない面が次第に顕著となり、その全面的な改正が従前から強く要望されていたわけであります。
政府におきましては、昭和三十年以来三カ年にわたり、公法、私法の学者、弁護士、金融機関、経済団体等各界の学識経験者及び関係官庁の職員をもって構成する租税徴収制度調査会において国税徴収法の根本的な検討を求め、この問題に取り組んで参ったのであります。同調査会は、八十回にも及ぶ審議の結果、昨年十二月八日、大蔵大臣あてに答申を行いましたので、政府は、これに基いて現行国税徴収法を全面的に改正することとし、ここに関係二法案を提出した次第であります。
改正案におけるおもな問題としては、三つをあげることができます。すなわち、租税徴収の確保、私法秩序の尊重及び徴税制度の合理化がこれであります。
まず、租税徴収の確保の問題でありますが、租税が国の財政の需要をまかなう上で最大の基盤をなすものであり、その徴収を確保する必要があることは、あらためて申し上げるまでもないことであります。さらに、各税法に基いて賦課された租税を確実に徴収することは、租税負担の公平の実現のためにも欠くべからざるものであります。このような事情に顧み、各国とも、原則として、一般の私債権に対する租税の優先権を認め、かつ、徴税機関による自力執行、すなわち、滞納処分を認めているわけでありまして、この改正案におきましても、この租税の優先権と自力執行権は従前通り維持することにいたしております。しかしながら、租税の徴収を確保する必要があると同時に、私法秩序が不必要に乱されぬようできるだけ配慮すべきことはいうまでもありません。この観点から現行の国税徴収法を顧みますと、そこに少なからぬ問題点が見出されるわけであります。
まず第一は、質権または抵当権と租税との関係であります。現行制度においては、抵当権または質権によって担保される債権は、その設定時期が租税の納期限よりも一年以上前であることを公正証書によって証明しない限り、租税の方が優先することとなっております。改正案におきまして、これを基本的に改正して、租税の存在が客観的に明らかとなる時期、すなわち、原則として法定納期限後に設定された抵当権等によって担保される債権に対してだけ租税を優先して徴収することとしているわけであります。言いかえますと、私法秩序の基礎をなす公示の原則と、租税について先に申し上げました特殊な性質とを考慮して、この法定納期限という時期を、私法秩序の尊重と、租税徴収の確保との両面の要請の調整をはかるべき時点と考えたわけであります。この改正により、抵当権者等が予測できない租税の発生により不測の損害をこうむることを防ぎ、取引の安全をはかり、また企業の資金の融通を容易にさせ得るものと考えております。また、質権、抵当権の証明の方法につきましても、現行の公正証書による証明を必要とする制度を改め、登記、登録のある抵当権等は証明を必要とせず、その他のものについても内容証明郵便による証明を認める等私債権保護の措置を講じ、さらに株式その他有価証券に対する質権については、有価証券の特殊性に顧み、特定の書類による証明を要せず、その事実の証明で足りるように措置しております。
第二は、先取特権または留置権と租税との関係であります。これらにつきましては、従来租税の徴収に際して何らの保護が加えられていなかったのでありますが、私法秩序尊重の見地から、抵当権等との権衡も考慮して、それぞれの地位に応じた適当な保護を加えることといたしております。
第三は、滞納処分手続における第三者の権利の保護であります。抵当権その他第三者の権利のある財産の差し押えは、原則として、他に差し押えることができる財産のない場合に限って行うという制度上の制約を設けるとともに、やむを得ず第三者が占有する滞納者の動産を差し押えるときも、従来のように直ちに差し押えることなく、その第三者に引き渡し命令を発した後行うこととし、さらに、現行制度のように、ほとんど無制限に第三者が占有する財産を捜索できるという制度を改め、滞納者の親族等が占有する場合等特定の場合を除き、その第三者の承諾がなければ捜索を行うことができないこととする等、滞納処分に当って努めて第二者の権利を害しないような措置をはかることにいたしております。
次に徴税制度の合理化をはかるための制度の改正について申し上げます。
まず第一に、納税者の実情に応じた徴収を行うため、私債権の強制執行では見られない徴収の猶予の制度、すなわち、徴収猶予、滞納処分の執行猶予の制度を拡充することにいたしております。すなわち、災害や疾病等の理由で税金を納めることが困難な場合に認められる徴収猶予の制度は、従来一年間に限って行われていたのでありますが、事情によっては二年まで延長できることとしております。また、滞納処分の執行猶予の制度につきましてはこれを換価処分の猶予と名称を改めるとともに、大幅に要件を緩和し、従来事実上の猶予ないし納付誓約として行政的に処理されておりましたものについても、原則として、すべてこの換価処分の猶予を適用することとし、納税者の権利の保護をはかったわけであります。なお、滞納処分を執行することにより納税者の生活を著しく窮迫した状態に陥らせるおそれがある場合にとられる滞納処分の執行停止の制度は、現行通り存続させることとしております。
第二に、差し押え禁止財産につきましては、一般的に制度の合理化、近代化をはかることといたしております。特に給料の差し押えに関しましては、従来、金額の多少を問わず、一律に七五%が差し押え禁止とされておりましたものを改めて、給料の額に応じた差し押え禁止の額を定めることとし、いわゆる最低生活費的な金額は、全額差し押え禁止とすることにより、高額所得者には厳に、低額所得者には緩になるようにしているわけであります。さらに、原材料、仕掛品につきましては、他に納税者が差し押えできる財産を提供する限り、差し押えができないこととし、企業活動の遂行にできる限り支障を与えないよう配意いたしております。
徴税制度の合理化の第三は、譲渡担保または仮登記によって担保される債権と租税との調整であります。すなわち、前に述べましたように、抵当権等によって担保される債権に対し租税の優先徴収権を制限する反面におきまして、経済的実質においてそれらと同一の性質を有する譲渡担保によって担保される債権につきましても、これらの担保が租税の法定納期限後に行われた場合に限り、譲渡担保設定者の租税をその譲渡担保の目的となった財産から優先して徴収できる措置を講ずることとしております。担保の目的でされている仮登記についても同様であります。
第四に、担保権付財産の譲渡と租税との調整といたしまして、抵当権等が設定された財産が譲渡されたときは、抵当権者等は、譲受人の租税の存在を予測できなかったわけでありますから、その譲受人の租税は、常に抵当権等に劣後することとする反面、財産の譲渡による租税の回避を防止し、かつ、その公平をはかるため、租税に劣後していた抵当権等が財産の譲渡という偶発的なことにより利益を受ける部分については、抵当権者等から譲渡人の租税を徴収することができる措置を講ずることとしております。
第五に、法人の形態を利用して租税の徴収を免れる場合等第三者の地位を利用する租税徴収の回避に対処するため、従前から同族会社、財産譲受人等に対して行われていた第二次納税義務制度を整備合理化するとともに、実質課税が行われた場合等にもこの制度を拡充することといたしております。
第六に、査察が行われた場合において、従来租税が確定する前に財産が散逸して徴収不足を生ずる事態が従来から生じておりましたので、これを防ぐために、租税についても、民事訴訟法の仮差し押えに準じた保全差し押えの制度を設け、租税の徴収を確保できるよう措置しております。
徴税制度の合理化の最後の問題といたしましては、徴収法全般にわたる規定の整備をはかったことであります。現行国税徴収法は、わずか六十条足らずでその規定が簡に過ぎるため、民事訴訟法を類推した国税庁の通達によって、かなりの部分の事務が処理されてきたわけであります。しかし、先ほど申し上げましたように、徴税機関に強い自力執行権が与えられていることに顧み、この改正案におきましては、その細目に至るまで法律に規定することとして、徴税職員の権限を明確化するとともに、滞納者及び利害関係人の権利の保護をはかったわけであります。特に、民事訴訟法に準じて、売却決定手続を設けるとともに、差し押え処分または公売処分に関する異議の申し立てば、期間を制限することとして公売手続の安定をはかり、また公売処分が取り消された場合の措置も明確にいたしまして、公売財産の買受人の保護をはかることとしております。
以上、要するに、今回の改正の根本的な考え方は、租税の優先権や滞納処分手続につきまして、私法秩序の尊重という観点から改正すべきものはこれを改め、他方譲渡担保や第二次納税義務の拡充等租税徴収の確保のための措置を講じ、租税徴収制度全般をバランスのとれた一つの体系として改正しようとするものであります。
なお、この法律案による改正規定は、公布の日から起算して九カ月をこえない範囲内で政令で定める日から施行することとしておりますが、徴収の猶予、換価の猶予等納税者の利益となる部分につきましては、他の規定と切り離して、五月一日から執行できるよう経過的措置を講じております。
第31回国会衆議院大蔵委員会議録第14号1頁(昭和34年2月27日)〔山中貞則政府委員発言・発言番号2〕 会議録 国会会議録検索システム
出典:国立国会図書館「日本法令索引」(https://hourei.ndl.go.jp/#/detail?billId=103101152)を加工して作成(加工:TaiLexi AI) 発言の出典:「国会会議録検索システム」(国立国会図書館)を加工して作成。引用部分は会議録の原文です(見出しは質問の一文、強調は一致した語)。国会答弁・附帯決議は法的拘束力を持つものではありません。