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地裁判決

東京地判 平成22年11月18日

平成19年(ワ)第507号 特許権侵害差止等請求事件

裁判所
東京地方裁判所
裁判年月日
平成22年11月18日 (2010-11-18)
事件番号
平成19年(ワ)第507号
事件名
特許権侵害差止等請求事件
裁判の種類・結果
判決
判例集等
—
分野
民事・知的財産・特許権・民事訴訟
この事件の審級
  1. 第一審東京地判平成22・11・18
  2. 控訴審知財高判平成23・12・22

平成22年11月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官

平成19年(ワ)第507号特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日平成22年7月23日

判決

山口県周南市<以下略>

原告東ソー株式会社

訴訟代理人弁護士鎌田隆

同柴由美子

東京都葛飾区<以下略>

被告ミヨシ油脂株式会社

訴訟代理人弁護士大野聖二

同坂巻智香

訴訟復代理人弁護士井上義隆

補佐人弁理士田中玲子

同伊藤奈月

主文

1 被告は,別紙物件目録記載の製品を生産し,使用し,譲渡し,輸出若しくは輸入し,又は同製品の譲渡の申出をしてはならない。

2 被告は,前項記載の製品を廃棄せよ。

3 被告は,原告に対し,11億9185万2910円及び内金7568万6368円に対する平成16年4月1日から,内金1億0800万4433円に対する平成17年4月1日から,内金1億5163万0709円に対する平成18年4月1日から,内金1億9315万5765円に対する平成19年4月1日から,内金2億4242万5658円に対する平成20年4月1日から,内金2億6323万0058円に対する平成21年4月1日から,内金1億5771万9919円に対する平成21年10月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用は,これを5分し,その2を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。

6 この判決の第1項ないし第3項は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

1 主文第1項及び第2項と同旨

2 被告は,原告に対し,27億2925万6208円(別紙請求債権目録の「Ⅰ請求金額の合計額」記載の金員)及び別紙請求債権目録の「Ⅱ請求金額の各年度別内訳一覧表」の1ないし8の「D」(年度別合計)欄記載の各内金に対する「E」(遅延損害金起算日)欄記載の各日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 事案の要旨

本件は,発明の名称を「飛灰中の重金属の固定化方法及び重金属固定化処理剤」とする特許第3391173号の特許(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である原告が,被告が別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造及び販売する行為が原告の本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の生産,使用,譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為による損害賠償として27億2925万6208円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)

(1) 当事者

ア 原告は,石油化学製品等の各種化学製品の製造及び販売を業とする株式会社である。

イ 被告は,マーガリン等の油脂製品を主とする化学製品の製造及び販売を業とする株式会社である。

(2) 原告の特許権

ア 原告は,平成7年12月1日,本件特許に係る特許出願(優先権主張日平成6年12月2日・優先権主張国日本,特願平7-313845号。以下「本件出願」という。)をし,平成15年1月24日,本件特許権の設定登録(請求項の数10)を受けた。

イ 本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。甲2)の特許請求の範囲の請求項6,7及び9の記載は,次のとおりである(以下,請求項6に係る発明を「本件発明1」,請求項7に係る発明を「本件発明2」,請求項9に係る発明を「本件発明3」といい,これらを総称して「本件各発明」という。)。

「【請求項6】ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩からなる飛灰中の重金属固定化処理剤。」

「【請求項7】ピペラジン-N-カルボジチオ酸塩もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩が,アルカリ金属,アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩であることを特徴とする請求項6に記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。」

「【請求項9】ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩がピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムであることを特徴とする請求項7に記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。」

ウ 本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。

(ア) 本件発明1(請求項6)

「Aピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩からなる

B飛灰中の重金属固定化処理剤。」

(イ) 本件発明2(請求項7)

「Cピペラジン-N-カルボジチオ酸塩もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩が,アルカリ金属,アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩であることを特徴とする

D請求項6に記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。」

(ウ) 本件発明3(請求項9)

「Eピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸塩がピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムであることを特徴とするF請求項7に記載の飛灰中の重金属固定化処理剤。」

(3) 被告の行為

ア 被告は,平成15年1月24日以降,業として被告製品(別紙物件目録記載の製品)の製造及び販売をしている。

イ 別紙参考製品名目録1ないし3記載の「製品名」の各製品は,被告が製造及び販売する製品である。これらのうち,同目録1及び2(1)記載の各製品については,被告製品に該当することに争いがないが,同目録2(2)記載の製品(製品名●(省略)●。以下「●(省略)●」という。)及び同目録3記載の各製品(製品名「●(省略)●」,「●(省略)●」,「●(省略)●」及び「●(省略)●」。以下,これらを「●(省略)●等」と総称する。)については,争いがある。

3争点

本件の争点は,被告製品が本件各発明の構成要件をいずれも充足し,その技術的範囲に属するか(争点1),本件各発明に被告主張の無効理由があり,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項により制限されるか(争点2),被告製品の範囲(争点3),被告が賠償すべき原告の損害額(争点4)である。

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(技術的範囲の属否)について

(1) 原告の主張

ア 本件発明1の技術的範囲

(ア) 本件発明1の特許請求の範囲(請求項6)の記載は,「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩からなる飛灰中の重金属固定化処理剤」というものである。

そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,「ジチオカルバミン酸は,原料とするアミンによっては,pH調整剤との混練又は熱により分解するために,混練処理手順及び方法に十二分に配慮する必要があった」(段落【0003】)という技術的課題を認識し,「安定性の高いキレート剤」を用いることにより飛灰中の重金属を簡便に固定化できる技術を提供するという目的(段落【0004】)の下に研究開発を積み重ねた結果,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」が,「重金属に対するキレート能力が高く,高アルカリ性飛灰においても少量の添加量で重金属を固定化でき」ることに加えて,「かつ熱的に安定である」ことを見出して,本件各発明を完成するに至ったこと(段落【0005】)が記載されている。

その安定性(熱的な安定性及びpH調整剤との混練に対する安定性)の高さを硫化水素(HS)ガス発生の有無という指標を用いて具体的2に示したのが,本件明細書の段落【0021】及び【0022】記載の「安定性試験」及びその結果(表1)である。表1が示すとおり,本件各発明の実施例の化合物№1(ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸ナトリウム)(段落【0016】,【0017】)及び化合物№2(ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム)(段落【0018】)では,65℃に加温した場合も,pH調整剤として塩化第二鉄(FeCl,38%水溶液)を20重量%添加した場合も,硫化水素3ガス(HS)の発生は検知されなかった。これは,本件各発明を特定2するための必須の構成要件である「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」(以下「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」という場合がある。)それ自体の安定性(熱的な安定性及びpH調整剤との混練に対する安定性)の高さによって奏される特有の効果である。

(イ) 本件発明1の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の上記記載によれば,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を必須の主要有効成分とすることによって,かかる主要有効成分が奏する技術的利益を実質的に享受している「飛灰中の重金属固定化処理剤」であれば,たとえ当該主要有効成分以外の成分を含んでいるとしても,本件発明1の技術的範囲に属すると解すべきである。

換言すれば,本件発明1には,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を必須の主要有効成分とするということ以外に,その構成を成分的に更に限定する要件は存しない。

イ 被告製品の構成要件充足性

(ア) 本件発明1について

被告製品は,ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸の塩である「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」及びピペラジン-N-カルボジチオ酸の塩である「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウム」を有効成分として含有するものであり,かつ,その用途は,「飛灰中の重金属固定化処理剤」であるから,本件発明1の構成要件A及びBを充足する。

(イ) 本件発明2について

被告製品が有効成分として含有する「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」及び「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウム」がいずれもアルカリ金属である「カリウム」の塩であることからすると,被告製品は,本件発明2の構成要件C及びDを充足する。

(ウ) 本件発明3について

前記(ア)のとおり,被告製品が「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」を有効成分として含有することからすると,被告製品は,本件発明3の構成要件E及びFを充足する。

(エ) 小括

以上のとおり,被告製品は,本件各発明の構成要件AないしFをすべて充足するから,本件各発明の技術的範囲に属する。

したがって,被告による被告製品の製造及び販売は,本件各発明に係る本件特許権の侵害に当たる。

ウ 被告の主張に対する反論

(ア) 特許請求の範囲の限定解釈の主張に対し

a 被告は,後記(2)アのとおり,①本件発明1の技術的範囲について,副生成物として,硫化水素の発生源となるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」のみから構成され,安定性試験(65℃の加温及び塩化第二鉄の水溶液の添加によるもの)において硫化水素を発生しない飛灰中の重金属固定化処理剤に限定して解釈すべきである,②被告製品は,その製造工程においてチオ炭酸塩等の副生成物を対象とした除外工程がなく,副生成物であるチオ炭酸塩等を含まない,純然たる「ピペラジン-N-カルボジチオ酸もしくはピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸のいずれか一方もしくはこれらの混合物又はこれらの塩」のみから構成されているものではなく,また,安定性試験において硫化水素を発生するものであるから,本件発明1の技術的範囲に属さない旨主張する。

しかし,前記アのとおり,本件発明1には,「ピペラジンカルボジチオ酸又はその塩」を必須の主要有効成分とするということ以外に,その構成を成分的に更に限定する要件は存しないのであるから,被告の上記主張は,独自の解釈として失当である。

そして,被告製品(別紙物件目録記載の製品)は,「ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム」及び「ピペラジン-N-カルボジチオ酸カリウム」を主要有効成分とするものであって,しかも,原告が実施した安定性試験の実験結果(甲5,10,18の1)によれば,現に市場に流通している被告製品(別紙参考製品名目録1記載の「NEWエポルバ810」及び「NEWエポルバ810S」)からは実質的に硫化水素ガス(HS)の発生が検出されていない。2また,仮に厳密に言えばごく低濃度の硫化水素ガスが被告製品から検出される場合があることに目を向けるとしても,それは,被告製品の上記主要有効成分そのものから発生しているのではなく,被告が飽くまで実体(具体的な化学組成)及び割合(具体的な重量比)に関する積極的な立証を回避し続けている異成分の誘導体から発生している疑いが濃厚である。

(長文のため、ここでは本文の冒頭のみを掲載しています。全文はこのページの表示後に読み込まれます。原本は原本PDFをご覧ください。)

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/80970/detail7/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。