主文
原判決中、被告人らに関する部分を破棄する。
本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
理由
一、序論
本件弁護人および被告人本人等の上告趣意は多種、多岐に亘つており、中には重複したものや繰返しとみられるものもあるのであるが、つぶさにこれを検討すれば、その多くが憲法違反を、若干が判例違反を、その余が訴訟法を含む各種の法令違反、事実誤認、再審事由および量刑不当を主張しているものということができる。そして、所論違憲、違法の主張(例えば、弁護人田中吉備彦の上告趣意第一点、「原裁判所の構成の憲法三七条一項違反論」、弁護人青柳盛雄の上告趣意第二点、第三点、「共犯者の証人尋問の憲法三一条、三八条違反論」、弁護人池田輝孝の上告趣意第二点、「刑訴三二一条一項一号二号各後段の憲法三七条二項違反論」、弁護人上村進ほか一三〇名の上告趣意第九点、弁護人上田誠吉の上告趣意第二部、「共謀共同正犯理論の憲法二一条、三一条違反論」、その他、本件自白、自認の任意性を否定した弁護人上村進ほか一三〇名の上告趣意第一点ないし第八点、共犯容疑者の自白と憲法三八条三項との関係を論じた弁護人青柳盛雄の上告趣意第一点、弁護人の交通権と憲法三四条、三七条三項との関係を論じた弁護人佐藤義弥の上告趣意第四点、公判廷の証言無視は憲法三七条一項、八二条違反であると主張する弁護人岡林辰雄の上告趣意第四点、第五点、訴因と認定に関する問題を論じた弁護人大塚一男の上告趣意第三点、A1自白における伝聞部分の採証を非難した弁護人大蔵敏彦の上告趣意第一点、など。)のうちの、あるものに関しては、既に、これと関連した幾つかの判例をみており(例えば、憲法三七条一項にいう公平な裁判所の裁判の意義についての昭和二二年(れ)第一七一号、同二三年五月五日大法廷判決、集二巻五号四四七頁、憲法七六条三項にいう裁判官が良心に従うという意味についての昭和二八年(あ)第一七一三号、同三二年三月一三日大法廷判決、集一一巻三号九九七頁、憲法三八条二項、三項の趣旨および共謀共同正犯理論と憲法三一条との関係等についての昭和二九年(あ)第一〇五六号、同三三年五月二八日大法廷判決、集一二巻八号一七一八頁、など)、その余の憲法違反や判例違反の主張には、その実質において事実誤認をいうに帰するものが多く、結局、論旨の大部分は、あるいは直接原判決の事実誤認を主張するものか、さもなくば間接的にこれをいうものであるとみることができる。
事実誤認の主張は、もとより刑訴四〇五条の上告理由にあたらないものではあるが、被告人らが第一審以来極力主張し続けているのは要するに無実という点であつて、第一、二審判決、殊に原判決が特に心血を注いで来たのも、実に、この事実認定の問題であつたということができる。当審においても、事実誤認の有無は、正に、本件審判の核心をなすべきものである。
よつて、職権をもつて、原判決の事実の認定に誤がないかどうかを、以下に検討する。(記載を簡潔にするため、原判決の例にならつて、略語を使用する。例えば、国鉄とは日本国有鉄道、A2とはA2株式会社、労組とは労働組合、国鉄側とはA3労組福島支部、同福島分会または福島地区労働会議の関係被告人、A2側とはA2松川工場労組または同鶴見工場労組ないしA2労組連合会の関係被告人、農協とは農業協同組合、A4自白とは被告人A4の検察官および裁判官に対する自白、A5自認とは被告人A5の裁判官および検察官に対する不利益な事実の承認を含む供述、1017笛吹調書とは検察官笛吹亨三に対する昭和二四年一〇月一七日附供述調書、1026唐松調書とは裁判官唐松寛の同月二六日附証人尋問調書、1028第一回辻調書とは検察官辻辰三郎に対する同月二八日附第一回供述調書、107勾留尋問唐松調書とは裁判官唐松寛の同月七日附勾留尋問調書を指すが如きである。)
二、本論
(一)、問題点。
原判決第一〇章破棄自判の認定によれば、昭和二四年八月一七日午前三時九分頃東北本線金谷川駅松川駅間、東京基点二六一粁二五九米四〇糎(勾配一〇〇〇分の一〇・三、カーブ半径五〇〇米)の地点で、折柄、同所へ進行して来た青森発奥羽線廻り上野行上り一四輌編成四一二旅客列車(機関士、同助手および車掌乗務、一般旅客約六三〇名乗車)が、突如、脱線、顛覆、破壊し、それによつて乗務の機関士、機関助手等三名が死亡するという事故が発生したが、右は判示第一に示されている被告人A9以下一七名(国鉄側七名、すなわち昭和二四年八月当時A3労組福島支部闘争委員兼同支部福島分会執行委員長被告人A9、同福島支部委員被告人A10、同支部福島分会有給書記被告人A11、同支部執行委員被告人A12、同分会執行委員A13、同支部事務所出入り元国鉄福島保線区永井川線路班線路工手被告人A4、福島地区労働会議雑務手伝被告人A5、A2側一〇名、すなわち同月当時A2松川労組組合長被告人A14、A2労連松川派遣A2鶴見労組執行委員被告人A15、同松川労組副組合長被告人A1、同労組青年部副部長被告人A17、同労組青年部常任委員兼青年部宣伝部長被告人A18、同労組青年部宣伝部員被告人A19、同青年部員被告人A20、同青年部員被告人A21、同青年部文化部員被告人A22、同労組書記被告人A23)のうち、被告人A18、同A23(A2側)を除く、その余の一五名が、判示第二、(一)および同(二)のような動機ないし経緯から、判示第三の各謀議、すなわち、同(一)、昭和二四年八月一五日午前一一時頃からのA3労組福島支部事務所における被告人A9、同A10、同A11、同A12に被告人A4を加えた国鉄側被告人五名間の列車顛覆に関する謀議、同(二)、被告人A4退出後、同日正午頃からの同事務所における被告人A9、同A10、同A11、同A12に、A2側を代表して出席した被告人A15を加えた国鉄側被告人四名とA2側被告人一名間の右同様の協議、被告人A15の同人が松川に帰つた後のA2側被告人A14、同A1に対する右報告と同人らの賛同による国鉄側被告人右四名とA2側被告人右三名間の前同様の謀議、同(三)、同月一六日午後九時頃のA2松川工場構内八坂寮組合室における、同日までに国鉄側被告人の少くとも一部の者と謀議を遂げ、A2側への連絡事項を協議していた国鉄側被告人A5とA2側被告人A14、同A1、同A17、同A20間の被告人A5の連絡に基く国鉄側被告人一名とA2側被告人四名間の前同様の謀議、同(四)、同日午後九時三〇分頃からの同組合室におけるA2側被告人A14、同A1、同A15、同A17、同A20、同A19、同A22、同A21のA2側被告人八名間の前同様の謀議、および同(五)、同夜までの福島市内における国鉄側被告人の何人かからの国鉄側被告人A13に対する連絡とこれに対する同人の承諾による国鉄側被告人間の前同様の謀議、を経て順次共謀し、以上の謀議に基き、同第四、(一)のように、同日午後一〇時三〇分頃から被告人A21、同A22、同A20においてA2松川労組事務所より松川線路班倉庫ヘバール、スパナ各一挺(証第一号の六、五)の持出に赴き、これを持参し、同(二)ないし(四)のように、同日午後一二時頃b農協事務所裏に集合、出発した被告人A12、同A13、同A4が、同月一七日午前一時三〇分頃右バールとスパナを携え松川労組事務所を出発した被告人A15、同A19と松川駅上り信号機の少し手前で出会し、合流して、前記地点に到り、右五名共同して同日午前二時四分頃から二〇数分間に亘り、同所で前示バール、スパナを使用して鉄道線路外軌継目板二箇所および内軌継目のボールト、ナツト一個を取り外し、犬釘、チヨツク等相当数を抜き取つたことによるものであり、同第五のように、被告人A18、同A23は、被告人A14の依頼により、被告人A19が右犯行に赴いた際、同月一六日夜前示事務所に宿泊し、翌一七日午前二時過ぎ頃まで眠らないでいて、被告人A19のために虚偽のアリバイを作る任務に当つた、というのである。
右によれば、原判決は本件を謀議、実行行為(バール、スパナの持出し、線路の破壊作業)およびアリバイ工作の三部門から成る計画的な犯行であると認定していることが明らかであるが、謀議は本件の発端をなすものであり、しかも原判決が特にこれを重要視していることは、本件実行行為はもとよりアリバイ工作といえども、すべて、右各謀議に基いて敢行されたものとしていることおよび本件ではただ謀議のみに関与し、自らは何ら実行行為に出でなかつた被告人A9、同A10、同A11、同A5、同A14、同A1、同A17の七名に対しても、これを共同正犯として、重い責任を負わしめていること、その他判文全体からこれを窺うことができる。
原判決の前示認定によると、本件謀議は国鉄側のみの謀議、国鉄側とA2側との連絡謀議、A2側のみの謀議の三組から成るものとされているのであるが、就中、連絡謀議は国鉄側のみの謀議とA2側のみの謀議とを結びつける枢軸であり、しかも原判示によれば、右国鉄側のみの謀議、A2側のみの謀議すら、互に相手方の参加と協力とを予定または前提とするが如き内容のものであつたとされているのであるから、この連絡謀議の存否は自然その余の謀議、ひいては本件事案の全般的な構造にまで影響を及ぼす程重要なものとみざるを得ない。
原判決の認定した本件連絡謀議は二つである。その一は原判示第三、(二)の前示被告人A15による連絡謀議であり、その二は原判示第三、(三)の前示被告人A5による連絡謀議である。以下この二つの連絡謀議につき、順次、原判決の認定の当否を検討する。(論旨中、特に原判示第三、(二)の謀議を問題としたものとしては、弁護人上村進ほか一三〇名の上告趣意第三四点、第三五点、第三八点、弁護人岡崎一夫の上告趣意第一点四、五、弁護人大塚一男の上告趣意第五点、弁護人柴田睦夫の上告趣意第三点、弁護人佐藤義彌の上告趣意第三点、第五点、弁護人松本善明の上告趣意第三点、弁護人袴田重司の上告趣意第二点その三、弁護人大蔵敏彦の上告趣意第二点、第三点、弁護人田中堯平の上告趣意五、被告人A9の上告趣意第一章九ないし一一、第八章二(12)、第一〇章四、被告人A10の上告趣意第三章第二節四(2)、被告人A11の上告趣意一〇、一二(9)、(10)、被告人A15の上告趣意第三、被告人A14の上告趣意第一章第三節、第六節、第七節、被告人A1の上告趣意第四章、被告人A23の上告趣意原判決第七章第七節についての二、等があり、特に原判示第三、(三)の謀議を問題としたものとしては、弁護人上村進ほか一三〇名の上告趣意第二〇点の二後半、第三六点後半、第四〇点、第四一点、弁護人岡林辰雄の上告趣意第二点、弁護人大塚一男の上告趣意第六点、弁護人佐藤義彌の上告趣意第一点、弁護人関原勇の上告趣意第二点三1、弁護人能勢克男ほか一一名の上告趣意第一点第二(二)、弁護人高橋正義ほか一名の上告趣意第五点、弁護人岡崎一夫の上告趣意第一点六、弁護人松本善明の上告趣意第三点第二四(三)、弁護人牧野芳夫の上告趣意第一点、弁護人田中堯平の上告趣意四、弁護人渡辺喜八の上告趣意、弁護人上田誠吉の上告趣意第一部第六章第二節、弁護人庄司進一郎の上告趣意(二)、被告人A14の上告趣意第二章第一節、被告人A1の上告趣意第四章第四点、第五章第一点、被告人A17の上告趣意第三章、第五章の一部、被告人A22の上告趣意第八章第三項、被告人A18の上告趣意第一〇第一章第三点の一部、被告人A5の上告趣意第二章第一節後半、被告人A11の上告趣意第二部一二(11)、被告人A13の上告趣意第一章第一節一、二(9)、等がある。)
(二)、原判示第三、(二)の謀議について。
原判示第三、(二)によれば、A2側の被告人A15は、昭和二四年八月一五日正午頃、A2側を代表して、A3労組福島支部事務所に赴き、被告人A4退出後もそこにいた被告人A9、同A10、同A11、同A12と、列車顛覆の実行の日時、場所、国鉄側A2側の双方から出すべき人数、役割、国鉄側から参加すべき三名の氏名、爾後の連絡等につき協議し、これを諒承して松川に帰り、その結果を被告人A14、同A1に報告し、その賛同を得て、右被告人七名間に列車顛覆に関する謀議が成立した、というのである。
(長文のため、ここでは本文の冒頭のみを掲載しています。全文はこのページの表示後に読み込まれます。原本は原本PDFをご覧ください。)
出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/57786/detail2/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。
出典:国立国会図書館「次世代デジタルライブラリー」(https://lab.ndl.go.jp/dl/)のOCRテキストデータ(原資料:国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1349080)。TaiLexi AIが編集・加工(OCRの誤りを含む場合があります)。原データ(OCRテキスト)はパブリック・ドメイン・マーク(PDM)付きで、自由に二次利用できます。個人の氏名・住所等はTaiLexi AIがアルファベット等に置き換えています。