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最高裁第一小法廷判決棄却刑集17巻6号661頁収録判例内の被引用 1

最一小判 昭和38年9月12日

昭和36年(あ)第2378号 汽車顛覆致死等被告事件(松川事件)

裁判所
最高裁判所第一小法廷
裁判年月日
昭和38年9月12日 (1963-09-12)
事件番号
昭和36年(あ)第2378号
事件名
汽車顛覆致死等被告事件(松川事件)
裁判の種類・結果
判決 棄却
判例集等
刑集17巻6号661頁
集刑148号93頁
原審
仙台高等裁判所  昭和36年8月8日
分野
刑事
意見
補足意見斎藤朔郎少数意見下飯坂潤夫

判示事項

一刑訴法第四〇五条にいう「判例と相反する判断をした」というためにはその判断が原判決に示されていることを要するか

二自白がその信用性に疑いがあつて有罪の証拠とすることは許されないとされた事例

裁判要旨

一刑訴法第四〇五条にいう「判例と相反する判断をした」というためには、その判例と相反する法律判断が原判決に示されているのでなければならない。

二本件のように被告人と実行行為とを結びつける証拠が、自白のほかになく、その自白が明らかに事実に反しまたは不合理不自然な幾多のものを含み(判文参照)、その信用性に疑いのあるときは、これをもつて有罪の証拠とすることは許されない。

(二について補足意見、少数意見がある。)

参照法条

主文

本件上告を棄却する。

理由

目次

第一 はじめに

第二 判例違反

第三 法令違反

第四 実行行為についての事実誤認

その一A1自白について

その二A2自白について

第五 自在スパナ・バールの盗み出し、連絡謀議その他について事実誤認その一自在スパナ・バールの盗み出し関係について

その二一五日および一六日の連絡謀議関係について

その三その他の謀議およびアリバイ関係などについて

第六 おわりに

第一 はじめに

以下記載を簡潔にするため、原判決の例にならつて略語を使用する。例えば、B1とはB1

B2とはB2株式会社

B1側とはB1労働組合福島支部、同福島分会または福島地区労働会議の関係被告人

B2側とはB2松川工場労働組合または同鶴見工場労働組合ないしB2労働組合連合会の関係被告人

B1労事務所とはB1労働組合福島支部、同分会事務所

A1自白とは被告人A1の捜査官および裁判官に対する自白

919B191調書とは昭和二四年九月一九日付B191司法警察員に対する供述調書

101山本調書とは昭和二四年一〇月一日付山本検察官に対する供述調書102唐松調書とは昭和二四年一〇月二日付唐松裁判官の証人尋問調書をそれぞれ指し、日時につき月日だけを示すものは、すべて昭和二四年のそれ、日だけを示すものは、すべて同年八月のそれを指すが如きである。

本件については、先きに、当裁判所大法廷判決(昭和二九年(あ)一六七一号同三四年八月一〇日言渡、刑集一三巻九号一四一九頁)が、原二審判決を破棄して本件を原審に差し戻した。その理由の結論とするところは、原二審判決の認定によれは、本件は謀議、実行行為(バール・スパナの持ち出し、線路の破壊作業)およびアリバイ工作の三部門からなる計劃的な犯行であり、その謀議はB1側のみの謀議、B1側とB2側との連絡謀議、B2側のみの謀議の三組からなるものとされ、そのうちでも一五日および一六日の二つの連絡謀議はB1側のみの謀議とB2側のみの謀議とを結びつける枢軸であり、しかもB1側のみの謀議、B2側のみの謀議すら、互に相手方の参加と協力とを予定または前提とするが如き内容のものとされているのであるから、右二つの連絡謀議の存否は自然その余の謀議ひいては実行行為、アリバイ工作、結局本件事案の全般的な構造にまで影響をおよぼすほど重要なものとみざるをえないものであるところ、右二つの連絡謀議はいずれもその存在に疑いがあるので、それは本件事実全体の認定にまで影響をおよぼすものと考えざるをえなくなり、原二審判決が認定した被告人らに関する部分は、結局すべて判決に影響があつてこれを破棄しなければ著しく正義に反する重大な事実誤認を疑うに足りる顕著な事由があるものといわなければならないというにあつた。

差戻を受けた原審は、原判決(三三頁)の説明しているような審理経過をへて「上告審判決が原二審判決の二つの連絡謀議をはじめ、その他の謀議、実行行為、アリバイ工作などの本件事実全体の認定にかけた重大な事実誤認の疑いを解消することは遂にできなかつた。既にその意味で上告審判決の趣旨に従い一審判決の破棄は免れない。同時に新証拠の出現により、謀議についてはもとより、実行行為について、従来の認定に対し、さらにあらたに合理的な疑いを容れる余地が多分に出てきて、全般的に被告人らが本件犯行をあえてしたことを確信するに足る心証の形成からは、ほど遠い結果となつた」とし、結局「本件公訴事実の存在を認めるに足る証明は遂に得られなかつたことに帰着した次第である」として被告人ら全員に対し無罪の言渡をしたのである。

すなわち、原判決はその説示が多岐にわたりぼう大なものであるが、要するに無罪判決であつて、なんら被告人らの犯罪事実を積極的に認定したものではなく、原審が上告審判決のかけた重大な事実誤認の疑いを解明するため、二つの連絡謀議はもとよりその他の謀議、実行行為、アリバイ工作に至るまで一審判決の認定した事実全般にわたり、新証拠により、またはこれと旧証拠とを綜合して検討を加えた結果、一審判決のした事実認定に対し合理的な疑いをいれざるをえないこととなつて、結局無罪の心証が形成されて行つたその心証の経過を逐一説明したものである。原判決が第一序論、第二本論、第三結論という構成をとり、その本論において、本件の根幹をなすA1自白、A2自白、線路破壊作業実行行為者のアリバイ関係、連絡謀議その他の謀議など、主要な問題点ごとにくわしく述べた部分は、すべて無罪の理由の説明である。この点は検察官の上告趣意について当裁判所が判断を加えるに当り、先ず指摘しておかなければならない点である。また原判決は検察官も主張するように(当審検察官弁論要旨一二頁五行目以下)、一審判決の認定した事実全体にわたり再度の審理をし、あらたな証拠を加えて判断しているのであつて、この判決に対し検察官から全面的に不服の申立がなされているのてある。よつて、当裁判所においては、原判決の判断の全体、とくに実行行為の点について極めて慎重に審査をとげたものである。

さて、検察官の上告趣意は、序論、第一点判例違反、第二点法令違反、第三点事実誤認および結論という構成になつているところ、序論においては、先ず本件差戻までの審理経過および差戻後の二審すなわち原審の審理経過が述べられ、次いで原判決の概評および最高裁判所の差戻判決についての検察官側の解釈が示され、その間、判例違反、法令違反または事実誤認にも言及しているけれども、それらについてはいずれも上告趣意第一点ないし第三点において、改めてくわしい主張がなされているのである。それ故、当裁判所としては、上告理由そのものの主張とは認められない序論自体についての判断を加える必要はなく、上告趣意第一点ないし第三点につき判断を示せば足るものと考える。そして、その判断は、上告趣意の結論の部分に対しても答えたことになるものである。

第二 判例違反

上告趣意第一点その一ないしその五について。

所論は、いずれも判例違反を主張する。

しかし、所論その一において挙示する最高裁判所判例は、いずれも刑訴三二八条に基づいて提出された証拠を犯罪事実認定の資料に供することは違法である旨を判示するものであり、所論その二ないしその五において挙示する最高裁判所判例または高等裁判所判例は、要するに、虚無の証拠によつて事実の認定をすることは違法である旨を判示するもの、聴取書中の不可分の供述の一部を分離してその供述全体の趣旨と異る意味において事実認定の資料とすることは、結局、虚無の証拠によつて事実認定をすることに帰着し違法である旨を判示するもの、虚無の証拠を他の証拠と不可分的に綜合して事実認定をした場合その違法は判決に影響をおよぼさないとはいえない旨を判示するもの、検証の際における立会人の指示供述とみられない供述を事実認定の資料に供するのは違法である旨を判示するもの、被告人以外の者が単にその心覚えのため取引を書き留めた手帳は、これを刑訴三二三条三号の書面として証拠能力を認めることはできず、同三二一条一項三号の書面として証拠能力を決すべきである旨を判示するものなどであり、いずれも有罪判決に関するものばかりであるところ、原判決は前記の如く、本件公訴事実の存在を認めるに足る証明は遂に得られなかつたとした無罪判決てあつて、なんら犯罪事実または有罪に関する事実を積極的に認定したものではないのであるから、挙示の判例はすべて本件に適切でなく、所論はその前提を欠くものといわざるをえない。のみならず、刑訴四〇五条にいう「判例と相反する判断をした」というためには、その判例と相反する法律判断が原判決に示されているのでなければならないのであるが、原判決は有罪の認定をしているのでないから、黙示的にも挙示の判例と相反する法律判断を示したものとは認められず、したがつて、原判決には刑訴四〇五条二号または三号に規定する事由があるとはいえないのである(昭和二五年(あ)一四七七号同二六年三月二九日第一小法廷決定、刑集五巻四号七二二頁、昭和二六年(れ)一二〇六号同二七年五月一三日第三小法廷判決、刑集六巻五号七四四頁、昭和二八年(あ)一九三号同三〇年二月一八日第二小法廷判決、刑集九巻二号三三二頁各参照)。故に、所論その一ないしその五の判例違反の主張は、すべてこれを採用することはできない。

結局、所論その一ないしその五の実質は、原判決が前記の如く、無罪の理由すなわち無罪の結論に到達するまでの心証形成の過程を主要な問題ごとにくわしく分説した説明に対して、その訴訟法違反ないし事実誤認を主張するものであつて、適法な上告理由に当らならないのである。(なお所論その一に挙示の高等裁判所判例は、いずれも同所論に挙示の最高裁判所判例と同趣旨のものであるところ、既に最高裁判所の判例が示されている以上、それらは刑訴四〇五条三号の判例に当らない。ただ、そのうち福岡高等裁判所判例のみは、刑訴三二八条に基づいて供述の証明力を争うためにのみ証拠とされたものをもつて犯罪事実の存否認定の資料に供しえない旨を判示するところがあり、犯罪事実の存在の認定ばかりでなく、その不存在の認定にも言及しているけれども、その判文全体をみれば、右の如き証拠をもつて犯罪事実の存在の認定資料とした一審判決は違法である旨を判示したものであつて、爾余の挙示の高等裁判所判例と趣旨を回じくするものである)。

第三 法令違反

上告趣意第二点その一について。

所論は要するに、原判決は、上告趣意第一点掲記の各事例において、一面判例に違反していると同時に、他面証拠能力のない資料により、または証拠に基づかないで事実を認定し、その結果、事実を誤認したものであるというにあつて、判例違反の主張については前提を欠くものであることは上告趣意第一点に対して説示したとおりてあり、その余は単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、適法な上告理由に当らない。

同点その二について。

所論は要するに、原判決は審理不尽の違法があるとして一ないし一六の事例(但し右一六の事例については、昭和三八年二月一一日付上告趣意書訂正申立書により一部訂正がなされている)を挙げ、右はいずれも公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ刑罰法令の適正迅速な適用実現をはかるために事案の真相を明らかにすることを期する刑訴一条に違反するというにあつて、単なる法令違反ないし事実誤認の主張に帰し、適法な上告理由に当らない。(本判決理由第四以下で判示する如く、本件公訴事実が証明十分でないとする原審の判断に重大な誤誤があるとは認められないのであつて、したがつて、所論が審理不尽として主張する各事項は、すべて判決に影響をおよぼさないことが明らかである。)

第四 実行行為についての事実誤認

上告趣意第三点は、実行行為、自在スパナ・バールの盗み出し、連絡謀議その他についての原判決の事実誤認を力説するものであり、これに付加して判例違反を主張する点があるけれども、これについては第二判例違反の項で説明したところに尽きる。その余の論旨は、事実誤認または単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。かつ、記録および証拠を検討するに、原判決が一審判決を破棄して被告人らに無罪を言い渡すべき理由として説明するところには、必ずしも首肯てきない点があるけれども、この項および次の第五に説明する理由により、本件公訴事実の存在を認めるに足る証明はえられなかつたとの原判決の判断は、これを支持すべきものと認める。

この項では、一応、謀議と実行行為とを切り離して、列車脱線顛覆の実行行為そのものについて、これを認めるに足る証拠があるかどうかを検討する。本件において、公訴事実の如き人為的な列車の脱線顛覆という事故のあつたことは証拠上明白なところである。しかし、そのぼう大な証拠の量にもかかわらず、被告人らと実行行為とを結びつけるものとしては、A1およびA2の各自白をほかにしては何一つないことは注目すべきことである。A1自白の最も有力な補強証拠と主張されてきた肥料汲みの農夫B3および一一二列車機関士B5の証言といえども、同人らの見た人物がA1であつたことを、その証言自体によつて確認するに足るものではないのである。したがつて、A3、A18、A1、A19およびA2の五名が、果して本件列車顛覆の実行行為をした犯人てあるかどうかは、一にA1自白とA2自白の信用性如何にかかつているといつても過言ではなかろう。よつて、まず本件捜査の基本となつたと認むべきA1自白の信用性を検討し、次でA2自白のそれにふれることとする。

(長文のため、ここでは本文の冒頭のみを掲載しています。全文はこのページの表示後に読み込まれます。原本は原本PDFをご覧ください。)

出典:裁判所ウェブサイト「裁判例検索」(https://www.courts.go.jp/hanrei/57787/detail2/index.html)。本文は同サイト掲載の判決書PDFからTaiLexi AIがテキスト化・整形したもの(正確な文言は原本PDFを参照)。判示事項・裁判要旨・参照法条は裁判所の公表どおり。
出典:国立国会図書館「次世代デジタルライブラリー」(https://lab.ndl.go.jp/dl/)のOCRテキストデータ(原資料:国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1363879)。TaiLexi AIが編集・加工(OCRの誤りを含む場合があります)。原データ(OCRテキスト)はパブリック・ドメイン・マーク(PDM)付きで、自由に二次利用できます。個人の氏名・住所等はTaiLexi AIがアルファベット等に置き換えています。